咲いて　散る　花

　花はいつも、咲いて、散る。

　花が咲いて、花が散り、ひとつの季節が舞っていく。

　季節とともに、花が咲き、季節を終えて、花は散る。

　めぐる季節に、咲く花と、消え去る季節に、散る花と。

　咲いた花は、色として、散った花は、影として。

　幾度咲いて散ろうとも、それでもそこに、花はある。

　おそい雪が枝に咲き、おそい春がやってきた。

　桜のつぼみに積もった雪が、とけてつぼみが、花開く。

　校庭の、桜の花も咲いていた。

　入学式が終わっても、桜はまだ、咲いていた。

　枝いっぱいにピンクの花が、木をおおって咲いている。

　桜の花が色を染め、ピンクをまとい咲いている。

　舞いちる花びら、空(くう)を舞い、景色をピンクに染めていた。

　石井卓雄は机に座り、窓から桜を見つめてた。

　校舎の窓から、見える桜花(さくらばな)。

　舞いちる花が、風にのり、卓雄の元にたどり着く。

　卓雄はそっと手を伸ばし、机にとどいた花びらを、手に取りそれを、ながめ

てた。

　ハートをのばした、ピンク色。

　卓雄は、静かに、それを見た。

「一つのメルヘン」

　前の席から、届く声。

　休み時間の教室で、かすかに響く、つぶやき声。

　背中をみせて座ってる、吉野紀子がつぶやいた。

　背中を見せて机を見つめ、そっと静かに、ささやいた。

「なッ、なに」

　卓雄は、あせって、前を見た。

　紀子の背中に、呼びかけた。

　桜に見とれた、そのこころ、見られたような、気がしてた。

　紀子が、ゆっくり、振りかえる。

「ごめんね。教科書にのってたから」

　紀子の手がもっている、教科書のページが開いてた。

　そのページに載っていた、ひとつの詩の題名は、一つのメルヘン。

「中原中也。そんなのやるんだ」

　卓雄は、じっと、それを見た。

　まだ見てなかった教科書に、中原中也の詩が、載っていた。

「石井くん。中原中也、知ってるの」

　紀子が少し、微笑んだ。

「う…うん。読んだことあるから」

　卓雄は思わずそう言って、恥ずかしいとおもってた。

　詩を読む男は、おかしいと。

　そんな気持ちが、うずまいた。

　それでも紀子は、笑ってた。

「なんか、いいよね。中原中也」

　卓雄は言葉を、聞いていた。

　笑顔の言葉を、聞いていた。

　はじめて聞いた、同意の言葉。

　はじめて話した、紀子の言葉。

　舞いちる花が風にのり、ふたりの元にとどいてた。

　季節は過ぎても、花は咲き、卓雄と紀子は、花を見る。

　ともに季節を過ごしながら、咲いていく花、ともに見る。

　高校２年の夏休み、夏の陽射しにひまわりが、大輪の花を咲かせて

た。

　卓雄は紀子と、歩いてた。

　ひまわりのようなお日様が、暑い陽射しをてらしてる。

　ひまわり畑の黄色い花が、ふたりを仲良く見つめてる。

「２回目の。卓くんとの、ひまわり」

　たかく伸びたひまわりを、紀子が見あげてささやいた。

　あどけなくて、小柄な紀子。

　春に花咲く、桜のよう。

　風にゆれる花のように、ながい髪がゆれていた。

　背が高くて、やせた卓雄。

　すらりと高い、ひまわりのよう。

　短くはねたその髪が、花びらのようにゆれていた。

　卓雄と紀子のゆれる髪、ふたりのこころも、ゆれていた。

　あれから過ぎた、めぐる季節。

　ふたりはいっしょに、過ごしてた。

　桜が散って葉が芽吹き、初夏の匂いのその後に、梅雨の雨がやってきた。

　あじさいが、雨の雫をながしても、うつくしく色は、変えていく。

　梅雨の終わりの激しい雨が、ふたりの、夏の扉を開く。

　夏のひまわり、ふたりで眺め、できた種を拾い逢う。

　暑さが過ぎると、紅葉が、紅い色を連れてきた。

　冬が訪れ、立木の枝に雪の華が舞いおりる。

　ふたりで寒さを乗り越えて、またあたらしい花が咲く。

「こころは今も…。花と咲く…」

「なぁ～に、ポエム」

　紀子が微笑み、見つめてる。

「おかしいかなぁ」

　卓雄も紀子を、見つめてる。

「おかしいよ。でも、なんか…うん」

　ふたりは互いを見つめあう。

「卓くん。どうして、詩が好きなの」

「えっ…。うつくしいから…かな」

「…そっか…」

「紀子はなんでだよ」

「…秘密…」

　ひまわりたちが、ゆれている。

　黄色くまるい大きな花を、右に左にゆらしながら、ふたりをやさしく見つめ

てる。

　ひまわりゆらす優しい風が、ふたりの髪もゆらしてる。

　優しい風にゆらされながら、ふたりはじっと見つめあう。

　季節が過ぎて花も過ぎ、それでも、卓雄と紀子は花を見る。

　花が散ってしまっても、それでも花が咲くたびに、またふたりでそれを見

た。

　高校３年の秋の日に、３度目の紅葉が、花咲かす。

　卓雄は紀子と、歩いてる。

　いつもいっしょに、帰ってる。

　並木道は紅葉が、色をならべて、つづいてる。

　寒さを告げだす秋の風、紅い色が舞っている。

　風に舞いちる赤い葉が、ふたりを包んで舞っている。

　ふたりはならんで、それを見る。

　色に染まった、並木道。

　紅く色づくその先に、ずっと先までつづいてる。

　それを見ながら、つぶやいた。

　卓雄が静かに、つぶやいた。

「ずっと、いっしょに。歩いて…いきたい」

　驚き振りむく、紀子の目。

　はじめは驚き、開いてた。

　見つめる先に、あるものは。

　じっと見つめる、卓雄の目。

　紀子はそれを見つめつつ、頬を赤らめ微笑んだ。

　見開かれていた、その瞳。

　今は笑って細くなり、うっすら涙をためていた。

「卓くん、私ね」

「なに」

「詩が、すきなの」

「ぼくもだよ」

「わたしには。本当に、詩は大切なの」

「うん」

「約束して。何があっても、いつもいっしょに、詩を唄うって」

「約束する。紀子といっしょに、詩を唄うよ」

「卓くん」

　ふたりを包む、紅い色。

　紅いもみじが風に舞い、ふたりを包んで舞っている。

　ふたりはともに、包まれる。

　赤い色に、包まれる。

　紅葉にそまる、並木道。

　それは先まで、つづいてる。

　ずっと先まで、つづいてる。

　ふたりはそれを、歩いてく。

　赤い色に包まれて、ならんだふたりは歩いてく。

　新たな年も、花は咲く。

　新たな場所の桜の木、春には桜が咲いていた。

　卓雄と紀子は大学で、同じ桜を見あげてた。

　いっしょに通う大学で、そこで新たな花を見る。

「卓くん。家から通うの」

「遠いからなぁ。ほんとは、大学の近くに住みたいんだけど」

「わたしね。バイトするんだ」

「どこで」

「お花屋さん。お花たくさん咲いてるでしょう。お金貯めて、ひとり暮らしす

るの」

「紀子はしっかりしてるなぁ」

「そんなことないよ。…ねぇ、卓くん…。いっしょに…」

「えっ」

　紀子は静かに、桜見る。

「わたしね。小さい頃は絵本が好きだったの」

　桜の花が咲いていた。

「たくさんもってたのよ。わたしの宝ものだった」

　木を埋めるように、咲いていた。

「でも。全部捨てられちゃった」

　桜の花が、舞っていた。

「わたしがお手伝いしないのがいけないって。お母さんに」

　空を埋めるように、舞っていた。

「お手伝いしないと、いろんなもの捨てられるの。捨てるわよって、あの目

で」

　桜の花が、風に散る。

「お手伝いは、だんだん増えて。今はね。家のこと全部してる」

　花びら散らして、舞っていく。

「お母さんは。テレビ見てるの。わたしは、言われたこと全部して、言うこと

聞かないと。あの目をするの。あの日絵本を捨てた。あの目をするの」

　花を散らして花びらが、かすみのように、舞っていく。

「もう、シ…。詩はいいなぁ。わたしね。いろんな人の詩が好き。詩集もたく

さんもってるのよ。捨てられた絵本のみたい。本当にきれい」

　桜かすみのその中で、紀子はかすんで、微笑んだ。

「今のわたしの宝もの。卓くんといっしょに読みたい。いっしょに住みたい」

「紀子…。オレもバイトするよ。お金貯めていっしょに住もう」

　卓雄は紀子の、手をにぎる。

　強くつよく、その手をにぎる。

　風に花が散らないように、花がいつも笑えるように。

　ピンクにかすむ、春の空。

　卓雄と紀子のそのそばで、桜が満開に咲いていた。

　ひまわりの咲く夏の空、たかい入道雲が浮かんでた。

　あれから季節も花も過ぎ、夏のひまわりが咲いていた。

　卓雄と紀子は、夏空を、ひまわりのように見あげてた。

　ふたりはいっしょに暮らしそうと、探しだしたアパートに、ひまわりの花が

咲いていた。

　卓雄と紀子は、見あげてた。

　アパートに咲くひまわりを、夏空の中で見あげてた。

「卓くん。家の人には話したの」

　紀子が、ひまわりを、見あげてた。

　じっと、目をそらさずに、咲くひまわりを、見あげてた。

「あぁ、友達と住むとしか言ってないけど」

　卓雄もひまわりを、見あげてた。

「紀子は？」

　卓雄が紀子を、そっと見る。

「わたしは…、今日。はなす…」

「そう…か」

　見あげるひまわりの、裏の空。

　ひまわりの後ろにひろがる空に、入道雲がそびえてた。

　つよくなった、風にのり、雨のにおいが迫り来る。

　雨を連れて入道雲が、色を黒く変えていく。

　入道雲が連れてきた、遠くで雷鳴が響いてた。

　紀子の家のひまわりは、花も咲かずに枯れていた。

　葉っぱの色を茶色に変えて、花も咲かずに枯れていた。

　枯れたひまわり横目で見つつ、紀子は家に入ってく。

　暗くしずんだ家の中、テレビの笑い声が響いてた。

　紀子は笑い声の響く場所、ダイニングキッチンに歩いてく。

　くらい廊下、響く声、廊下を歩く紀子の足音。

　テレビの声の響く、ダイニングキッチン。

　ダイニングのソファーに座り、紀子の母が見つめてた。

　紀子が部屋に入ってきても、テレビだけを見つめてた。

　紀子はキッチンに目をやった。

　シンクにならんだ、汚れた茶碗。

　花もなく、おかれた花瓶。

　響くテレビの笑い声。

　紀子にむかない、母の顔。

　響くテレビの笑い声。

　紀子は、母に、呼びかけた。

「お母さん。あの…」

　響くテレビの笑い声。

　帰ってこない、母の返事。

「お母さん、聞いて…。わたし」

「………」

「わたし。わたし！アパートで暮らす！引っ越すの」

「アパート？引っ越す？なに言ってるの。そんなのできるわけないでしょ。お

金どうするの。ごはんたべられるの。あんたは何も出来ないんだから」

　テレビを見たままの、横顔で、紀子の母が、言い放つ。

「アパート、見つけたの。わたしは、もう。ひとりで」

「ひとりでなんて無理。あんたに炊事やらせてあげてるのに。いつまでもうま

くならないじゃない。掃除も洗濯も、全部あんたのためよ。やらせてあげてる

の」

「お母さん」

「なによ。お礼ぐらい言いなさい」

「お母さん…。ありがと…。でも。でもわたし、もう出来るから…」

「なにが出来るのよ」

「ひとりで、ちゃんと」

　紀子の母が、立ち上がる。

　そのまま部屋をでていった。

　響く階段を上がる音。

　紀子が、ひとりのダイニング、テレビの笑い声が響いてる。

　しばらくしてもどった母は、紀子の詩集をもっていた。

「今まで育ててやって、この子は。いつもわがまま言って。こんなの読んでい

るから、おかしな事というのよ。こんな訳のわからない物がダメなのよ」

　紀子の母が叫びだす。

　紀子の詩集を破いてく。

「こんなものがあるから」

　紀子の母の叫び声。

　テレビから響く笑い声。

　紀子の母の、冷たい目。

　テレビから響く笑い声。

　破られ飛び散る詩集のかけら、ゴミ箱に、つぎつぎと捨てられる。

　破れる詩(うた)の叫び声。

　響くテレビの笑い声。

　ちぎれて散りゆく清き詩(うた)。

　ゴミと散りゆく、詩(うた)のかけら。

　こころを夢を、うたった詩(うた)は、つぎつぎに破られて。

　うつくしき花を、うたった詩(うた)は、つぎつぎに破られて。

　かけらを散らして、散っていく。

　紀子の母の、冷たい目。

　響くテレビの笑い声。

　動けぬ紀子のこころを散らす、紀子の母の冷たい目。

　動けぬ紀子に突き刺さり、動けぬ紀子の口塞ぐ。

「はやく洗い物して。ごはんは。洗濯物も取り入れてよ」

　動けぬ紀子の、こころを散らす、紀子の母の、冷たい目。

　鋭く刺さる、母の言葉。

　こころもすべても散らされた、紀子はその場にうずくまる。

　背中を向けてうずくまる。

　すがるように、胸を抱く。

　スマホに触れる、紀子の手。

　ポケットからとりだした、スマホを胸に抱きしめる。

「なにしているの。早くしてよ」

　背中に刺さる、その言葉。

　紀子の胸を締め付ける。

　こころに刺さる、その言葉。

　紀子の呼吸がはやくなる。

　紀子の鼓動がはやくなる。

　求めるように吸う息は、こころの求める願うもの。

　ここには咲かない、そのものを、紀子は必死に求めてる。

　必死に息を吸い続け、必死にそれを願ってる。

　吸えない息を吸い続け、どんどん鼓動がはやくなる。

　しびれる体。かすむ世界。

　押しつけてくる、冷たい目。

　息をしても、吸えはせず、それを願っても、それはない。

　花の咲かないこの家で、紀子は、しびれてかすんでく。

　紀子はスマホを握りしめ、必死にメールを打ちこんだ。

　必死に打った、願いの言葉。

　必死に願う、その言葉。

　途切れていく意識の中で、紀子の手が、メールを送る。

「タスケテ」とだけ書かれたメールが、願いの中、飛んでいく。

　病室の窓から見える花。

　だれが植えたか大きな花が、ひまわりの花が咲いていた。

　卓雄が立ってる、紀子の病室。

　紀子はベットで眠ってる。

　卓雄はそれを、見つめてる。

　メールを受けとり、卓雄はすぐに、紀子の家に駆けつけた。

　救急車が走りだす時、卓雄は、紀子の家にたどり着く。

　紀子の母親は、玄関で、救急車を見送った。

　あわて来た卓雄を見ても、なにも言わずにたっていた。

「何があったんです」と聞く卓雄、素っ気ない紀子の母親。

「前から通っていたから、大丈夫よ。いつもこうなるのよ。おかしくなって。

病院でどうにかしてくれるから。心配なら病院に行けば」

　病院の、行き先だけを告げると、家に入っていった。

　紀子の家の玄関で、ひまわりが、茶色になって枯れていた。

　枯れたまま、立っていた。

　卓雄は、病室で、見つめてる。

　眠った紀子を見つめてる。

　卓雄が病室についたとき、医師が鎮静剤を打っていた。

　入る卓雄を、とめる看護師。

　紀子のことを、聞く卓雄

　鎮静剤で眠らされ、静かに紀子は眠ってる。

　看護師、制する、医師の声。

　医師が静かに語り出す。

「人の頭には虫がいるんだよ。記憶という虫がね。

　普段は眠っている。でも、何かのきっかけで、その虫が暴れ出す。

　ひどい記憶が。はげしい記憶が。死にたいと思うような、はげしい記憶の虫

が暴れ出す。

　意識があれば、ずっと、死にたい記憶を見せられる。

　記憶は薬では消せないからね。今は、眠らせるしかないんだよ。

　それとも、死にたいと想いながら、生きていくすべがあるかね」

　医師と看護師は、出て行った。

　卓雄は、紀子を見つめてる。

　眠った紀子を見つめてる。

　卓雄は静かに呼びかける。

「ぼくは父さんに。泣くといつもと殴られた」

　紀子は静かに眠ってる。

「いつも酒を飲んで父さんが。父さんに強くなれと殴られた」

　紀子は静かに眠ってる。

「子どもだからね。殴られたら泣くよ。そしたら余計に。強くなれって。なん

ども、なんども」

　紀子は静かに眠ってる。

　眠る紀子に呼びかける。

「紀子。あの詩をおぼえてる。はじめて出会った時の、あの詩を。

　一つのメルヘン。

秋の夜(よ)は、はるかの彼方(かなた)に、

小石ばかりの、河原があって、

それに陽は、さらさらと

さらさらと射しているのでありました。

　詩に出会った時、思ったよ。

　強くない、うつくしいものも生きていていいんだと。

　だから、ぼくは、詩が大好きで。だから、ぼくは、詩を選んだ」

　卓雄は、紀子を見つめてる。

「ぼくも。死にたかったんだ」

　紀子は、ベットで眠ってる。

「ぼくの頭にも、虫がいるみたいだね」

　紀子は静かに眠ってる。

「こころは今も…。花と咲く…。

　下手くそだよね。詩じゃないよね。ぼくも、詩が唄いたかったなぁ。

　花が咲かないと、詩(うた)は唄えないよ。君がいないと、詩(うた)は

唄えないよ。

　ぼくも死にたい。虫が暴れてる。でもね。花を見て詩(うた)を唄って。

君と詩(うた)を唄って。

　君と、いっしょに、詩(し)を。ぼくは。君といっしょの死を選ぶよ。

　それでも、花は咲くよ。なんど散っても、花は咲いたよ。

　いっしょに見てきた。

　いっしょに見て、いきたんだ。

　いっしょに、生きたいんだ。

　たとえ、毎日が死にたい毎日であっても、生きる事が死を想うことであって

も、それでもぼくは。

　君と生きる、死をえらぶよ

　ずっと、そばにいて。ぼくは、君と詩(し)を唄うから」

　大きな、大きな、ひまわりの花が咲いていた。　

「だから、目を覚まして。紀子」

　天を見つめ、まっすぐに立ち、大きな大きな、ひまわりの花が咲いていた。

「いっしょに。いっしょに歩いて。ぼくは、生きたい。ぼくは君と…」

「卓くん、ひまわり」

　卓雄と紀子は、歩いてる。

　まっすぐな道を歩いてる。

　蒼く、あおく、どこまでもつづく夏空から、夏の陽射しが射していた。

　道にきざんだ影さえも、景色をきれいに彩って。

　ひかりと影ときれいな景色が、まっすぐな道に続いてた。

　道の途中のひまわりの花。

　一つだけ、葉はもう枯れかけているのに、茎は赤茶けているのに。

　ただ、ひとつだ、大きな、ひまわりの花が、咲いていた。

　卓雄と紀子は、花を見る。

　天をまっすぐ見あげる花を、ふたりはいっしょに見あげてた。

　花は咲いては、散っていく。

　花は散っては、咲いていく。

　ふたりの先に咲く花も、ふたりの影に散る花も。

　それでも、ふたりのうつくしい花、どんなときでも、咲いている。

　ふたりは、それでも歩いてく。

　花を咲かせて…。

　花を散らせて…、いきながら…。