No.916512

SAO~帰還者の回想録~ 第13想 盾と短剣が交差する時

本郷 刃さん

公輝と雫は見守る者である
二人が歩んできた道筋にもそれは顕れている

2017-07-31 15:02:55 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5773   閲覧ユーザー数:5161

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO~帰還者の回想録~ 第13想 盾と短剣が交差する時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公輝Side

 

よくもまぁ、和人はここまで傷だらけになったもんだと思う。

 

和人はいつも通りの無茶をして、いつも通りやるべきことはやり遂げて、だけどいつもと違って死にかけてしまった。

出来ればそこもいつも通りなんだかんだ無事に済ませて欲しかったが、それが仕方の無いことくらいは俺でも分かる。

PoHの野郎との、SAO時代からの因縁に決着(ケリ)をつけた。

俺から見ても和人はメチャクチャ強いが、PoHの奴だって本職の戦争屋だ。

菊岡さんから聞いたその時の状況とか考えて、この結果がどうしようもない現実で、

それでも生きていてくれたから儲けもんだと思えばいい方だろう。

 

『オーシャン・タートル』に来て、和人が寝かせられてるっていう『ソウル・トランスレーター(STL)』の部屋の前で僅かに見えた体。

このSTLを使って『アンダー・ワールド(UW)』で必死に戦って、

その上このウミガメで実戦にも参加しちまったのかと、少しだけ和人を遠く感じてしまったもんだ。

 

色々と考えてしまうのは和人が重傷を負って、死にかけたからこそだと思う。

俺以外のみんなも同じようなもので、それは見ていたら分かった。

ただ、俺よりも先にここに来た志郎と景一、烈弥と刻はそれぞれ恋人と話しをしてスッキリしたってことらしい。

俺も雫と話しをしたらスッキリするのか、とはいえ溜めこんだものを吐き出して共有するからかもしれないな。

 

 

 

しかし、だ……どう話しを切り出したもんだろう…。

 

「公輝、どうかしましたか? 何か考え込んでいるようですが、悩み事ですか?」

 

俺の様子に気付いた雫の方から声を掛けてきた。うん、考え過ぎは良くないな。

 

「悩み事じゃないが、ちょっとな。ほら、志郎達が里香ちゃん達と話してスッキリしたって言ってただろ?」

「そうでしたね。みんな良い表情をしてましたし、私も安心しました」

「だな」

 

俺は分不相応(ぶんふそうおう)かもしれないが、俺と雫は兄貴分と姉貴分としてみんなを見てきた。

そんなアイツらの憑き物が落ちたような良い表情をしていたら俺も雫も嬉しいってもんだ。

 

「志郎と烈弥は自分達の生まれとか境遇の話、景一と刻は詩乃ちゃんと直葉ちゃんと一緒に過ごしてきた時とかを含めた話。

 まぁ、どっちも自分達を見つめ直す為にってことだ」

「つまり、公輝も私と一緒に話しをして、今一度私達も自分を見つめ直してみようということですね」

「おう。まぁ、雫さえ良かったらだけどな」

「勿論構いませんよ。それに私も、色々とありましたから落ち着いてみたいと思っていましたから」

 

確かに俺達だけじゃなく、女の子達だってそう簡単に受け止めきれるものじゃなかったはずだからな。

ゆっくりと整理したいのは俺達と同じだろ。

 

「じゃあ飲み物でも貰ってきて、話すとするか。昔話、でいいのか?」

「ええ、そうしましょうよ」

 

俺と雫はここのスタッフにお茶を貰ってから、

俺達は昔話とも言える自分達の幼い頃から出会うまで、それに出会って以降の話もすることにした。

何度も二人で話したことがあり、家族から聞いた俺達のこと、これは飽きることのない俺達の昔話だ。

 

公輝Side Out

 

 

 

 

No Side

 

未縞公輝、彼はある時(・・・)までは本当に至って普通の少年であった。

 

両親も祖父母も健在で一人っ子という面を見れば刻と変わりないが、彼と違いクォーターやハーフというわけではない。

生まれも育ちも一般家庭のそれであり、勉強は可も無く不可もなく、運動は同年代の中では少しだけ良い方。

当時の性格は年相応のもので同じく当時の志郎や刻らと変わらず、明るい性格だった。

ただ一人っ子であってもクラスやグループの兄貴分的な位置におり、同じ子供達からも頼られる存在なのは今も変わらない。

 

 

朝霧雫、彼女は生まれながらの上位者であり、ある意味特別ともされる少女である。

 

雫もまた両親に祖父母が健在で一人っ子である。

とはいえ、彼女の祖父である朝霧海童は立ち上げた会社を一代で日本最大規模の財閥、

『朝霧財閥』へと仕立て上げた【稀代の傑物】とも称される人物であり、様々な企業や政界にもパイプがありある程度は顔が利くほどだ。

また、海童の息子であり雫の父でも現社長の朝霧陽太もその手腕は父親譲りであり、尊敬する父を見て育った者だ。

 

そんな雫だが別に箱入り娘でもなければ、甘やかされて育てられたわけでもない。

普段は優しく、けれど時と場合や躾によっては厳しく、それでも愛情を込められて育てられたが、

ほぼ不自由なく育ったという意味ではやはり普通とは一線を越える育ちと家庭だ。

勉学は嫌いにならないように上手く教えられてきたために成績は良く、

趣味の読書による神話や伝説への興味から歴史文学を好み、総じて文系が得意である。

また、健康維持の為の適度な運動を家族と共に行い、厳しいものだが護身術も学んでいたので身体能力は同年代では高め。

その雫の性格は穏やかで優しく、誰にでも分け隔てなく接することのできるものであり、

一方でお姉さん思考があり同年代であっても頼られる存在であったことは彼女も変わりなかった。

 

 

そんな普通の少年と特別な少女が今では恋人兼許婚(婚約者)となっている二人。

それはこれまでも語ってきた中に経緯などがあるが、まずは二人が過去に最初は何を望んでいたのかを明かそう。

 

 

何度も言う事ではないかもしれないが未縞公輝という少年は本当に普通の少年であった。

小学校の時には見かけたアニメや読んだ漫画の登場人物のような“特別”になってみたい、

多くの子供が思い描いただろうことを彼もまた思っていた。

 

「カッコイイなぁ、俺もこんな風になってみたいなぁ!」

 

普通の何処にでもいるような少年だからこそ、簡単に思ったことだった。

 

 

一方の朝霧雫という少女は前述の通りに特別な少女である。

だが、特別であるが故に彼女は“普通”というものを知り、それになってみたいとも思っていた。

幼くとも雫は自身が恵まれていることを知っており、それは両親や祖父母から確りと教えられてきたからだ。

同時に彼女には重圧(プレッシャー)もあった。

朝霧財閥の令嬢ということはそれだけで大きな意味があり、

現在と将来に大きな期待をされることが雫自身にも重く圧し掛かっていた。

 

「私も、少しでいいからみんなみたいにしてみたいなぁ…」

 

だからこそ少しでも、せめて親友の井藤奏くらいの生活を送ってみたいと雫は思ったが、

やはり朝霧財閥の令嬢というべきかそれは無理なことであること、

そして自分の立場と責任を少しでも理解していたため、家族や周りにそのことを話すことはなかった。

 

まぁ、家族と奏には気付かれていたのだが…。

 

 

 

 

そんな二人にもそれぞれ時期は異なるが転機が訪れることになった。

 

 

雫と奏が小学四年生になった年のことだった。

奏と彼女の従兄である霞音(かのん)が通り魔に襲われ、奏は重傷を負い、霞音は亡くなってしまった。

幸いにも彼女は無事だったが背中には一生癒えぬ大きな傷跡が残り、慕っていた従兄を亡くしたことで心にも大きな傷を負った。

奏は雫や家族に支えられたことで立ち直ることは出来たが、その心には暗い感情が生まれた………それについては奏自身の話となる…。

 

ともかく、この出来事は雫の心に確かな変化を齎した。

 

「(奏が怪我をした事件はテレビでもお祖父様達の話でも通り魔だったけど、その犯人はまだ捕まってない…。

 それに、もしかしたら私にもこんなことが起きるかもしれないわ。

 SPの人達に迷惑を掛けないようにもっと護身術を頑張らないと…。

 私になにかあったら、みんなにも迷惑を掛けちゃうもの…)」

 

それは自身の立場などへの明確な再認識だった。

朝霧財閥の令嬢という立場はそれだけで周囲へ大なり小なり影響を及ぼすこともあり、

実際に奏の家もまたそれなりの立場を持つ家で彼女の重傷と従兄の霞音の死は混乱や怒りという形で周囲に影響を与えたのだ。

そのことを見て聞いて体感したことが雫の変化の一つとなった。

 

以降、雫は最低限身を守れるように護身術を集中して学ぶのは勿論、

勉学や運動に周囲との付き合い方や社交などにも力を入れて学んでいくこととなった。

雫は普通を夢見ることをやめ、自身のあるべき姿と特別であることに誇りを持つことになったのだ。

 

 

一方の公輝は小学六年生になった年のこと。

彼は年の違う幼馴染とも言える間柄であった和人達の様子が、

ここ数年に亘って変化していくことに気付き、和人に聞いてみたことでその答えを知った。

古流武術『神霆流(しんていりゅう)』の存在と和人達がその門下生であるということ。

 

様々な事に興味を持ち、習い事に関しては体験という形などで経験してきた公輝だが、

これまでに“特別”に惹かれていた彼の心に響くものはなかった。

そんな中でこれまでにも手を出したことのある武道ではなく、“武術”という言葉に公輝は心惹かれるものがあった。

湧いてきた興味から練習風景だけでも見せてもらえないかと和人に訊ね、

師匠である八雲の許可を得られたことで公輝は神霆流を見ることになった。

 

そして、神霆流の見学当日。

 

「凄ぇ…」

 

小学生の感性ならではの驚いたという意味を含めた一言だった。

公輝が驚いた点はなにかということになると一つ目は運動量、

公輝はこれまで運動系や武道系のクラブや道場などを見てきたがそれら以上の運動量であること。

あくまでも無理のないくらいのもので体に負担が掛かり過ぎないように、

成長を阻害させないように個々に最適のメニューが組まれていることを八雲が説明した。

 

驚いた内容の二つ目は修行・鍛錬にある。

当初、公輝は武道に近いものだと思っていたが、それが間違っていたことを見ただけでも実感できた。

見慣れた剣道や無手の武道よりも実戦的な動きをしていた、

それを見て八雲から“武術”というものの説明を聞き、武道と武術の違いを確りと覚えた。

 

そして何よりも驚いたこと、三つ目の内容は和人達の練度である。

彼らの運動能力というか戦闘能力というか、とにかくそれらの練度が同年代のそれを遥かに凌駕していることだ。

神霆流組の最年少で現状最後に加入した烈弥と刻でさえ、少なくとも並みであるのなら中学生では勝てない実力にある。

 

「驚きましたか?」

「は、はい、ビックリしました……和人達、こんなに強いんですね…」

「まともに戦えない人は彼らにはまず勝てません。

 中でも和人と志郎に限れば並みの大人では二人には敵いませんし、景一も時期が来れば二人に並ぶでしょう」

「うぇ、そんなにっ!?」

 

同年代なら勝てないだろうと思っていただけに、人によっては大人でも勝てないかもしれないという言葉に公輝はさらに驚愕する。

けれど、同時にそのことを知って表情が寂しげなものになり、その様子に八雲が気付いた。

 

「どうかしましたか?」

「えっと……俺、アイツらが小学校に入学した時から結構面倒見たりしてたんです、

 学校とか地域の行事で。周りにもよく面倒見が良いって言われてるんです。

 俺も面倒見るの楽しいからそれは良いんですけどね。

 でも、俺が面倒見て、守ってやるつもりだったんですけどいつの間にか俺が守られるような感じになってて、なんて言えばいいのかな…」

「複雑、ですか?」

「あ、はい、それです。

 別に大人になるまでってわけじゃないですけど、中学校を卒業するくらいまでは、俺が守る側だと思ってたんですよ」

 

面倒見の良さもあるが、小さな付き合いとしては和人達が幼稚園の頃から地域の行事などで会ったこともあった為、

彼らを守り助ける思いというのはそれなりに前から持っていた。

それが逆になり公輝は嬉しいと思う反面、寂しいとも思ったために複雑だと感じたのだ。

 

「いまでも、彼らの助けになりたい、守ってあげたいと思いますか?」

「半分ずつって、感じです。

 アイツらが困った時の助けてやりたいと思うけど、アイツらが自分でなんとかしたいとか、

 自分でなんかを守りたいって思うなら、その手助けとかアイツらが誰かを守る時にその守ることを手伝えたらなって。

 いま思えました」

 

和人達の全部を助け、全部を守るのではなく、あくまでも手助けやその一端を担い、手伝いたいという公輝の思い。

過保護にはならずに加減を知っているのもまた面倒見の良さ故かもしれない。

 

だからこそ、八雲は公輝自身が確りと認識している取るべき行動と距離感に感心している。

同時に彼自身がいまでも和人達が強くなろうとも、

その力になりたいと思っていることも小学生ということを考えると凄いことだとも八雲は思う。

 

「(ならば未縞君にも道を示すべきでしょうか。彼自身の性質も資質も十分、いずれは和人達にも及ぶでしょうし。

 とはいえ、決めるは本人次第。

 まぁ、どう答えるかは予想できますが……でも、和人達を見守れる存在という意味では最適かもしれないですね)」

 

公輝自身が持つ資質と彼の性格などを含めた性質、それらを考えても十分な素質はある。

だがそれが彼の未来に影響を与えるかもしれないことも事実、どれほどの影響になるか解らないことはどうしようもないのだが。

それでも、八雲は彼に賭けてもいいのではないかとも思った。

 

「未縞君。資質というものでは、キミもまた和人達に負けずとも劣らないものがあります。

 キミ自身が望んで和人達の力になりたいというのであればそういう道もありますが、どうしたいですか?」

「和人達の力になれるんなら、別に特別じゃなくてもいいです。

 でも、もっとアイツらの力になれるんなら、その力を手に入れて、手助けしてやりたいです!」

 

少しばかりの威圧を込めて言葉を放った八雲に対し、公輝は笑顔のままに自身の本音を言い切った。

それはこれまでの和人達とも違った反応で、それこそが彼の資質の一端であると八雲は感じ取った。

 

「では、いいんですね?」

「はい!」

「分かりました。未縞公輝君、貴方の神霆流入りを歓迎します」

「っ、よろしくお願いします!」

「ご家族には私と一緒に話しましょうか」

「あ、はい」

 

特別だろうとそうでなかろうと関係ない。

自分はただ弟分達の手助けをしたい、彼らの成長を近くで見守りたい、守りたいものを守る手段が増えればいい。

それらの思いが彼を一歩踏み出させた。以降、神霆流の門下生として力を得た彼は弟分達を見守っていく。

 

公輝は普通であることをやめ、特別になる道を行くが、それはただ誰かの為である。

 

 

 

 

普通から特別になった少年と特別で在り続けた少女。二人は高校に入学することになり、そこで出会った。

 

親友である奏とナンパに遭い、困り果てていた雫を見かねた公輝が助け、それ以降も交流を重ねた。

高校生になった二人はそれぞれの性格や性質から周囲に頼られる存在となったのはやはりご愛嬌か。

その公輝と雫も無自覚だがお互いのそういった点に恋愛感情を抜きにしても惹かれていた、

奏だけはなんとなくだがそれを察して時折ニヤニヤしていたのだが…。

 

そして雫と奏が誘拐される事件が起き、公輝と彼の弟分である和人が協力して二人は救出され、

八雲が警察に呼びかけることで事件は解決し、和人も注意をされるだけに済んだ。

公輝と和人はそれにより雫の祖父である海童と繋がりを持つことになり、

この一件で雫は自分が公輝に好意を寄せていることに気付き、告白するに至った。

 

当初、雫は返事をすぐにではなくてもいいという風にまた後日にでも、と言った。

公輝もさすがにすぐに返事できる内容ではなかったために後々でいいだろうと思っていた。

だが、その二人が付き合うことになる出来事がすぐに起きた。

それは公輝が雫に告白されてから三日後のことだった。

 

「あれ、奏。雫は?」

「あの()なら、他のクラスの男子に呼び出されたわよ」

「へ……あぁ、そっか…」

 

放課後、雫と奏のクラスに訪れた公輝は雫の姿が無いことに気付き、奏に尋ねたが返ってきた答えに声の音が少しだけ小さくなった。

なお、事件の後から雫と奏は公輝を名前で呼び、二人に応じるように公輝も二人を名前で呼ぶようになった。

 

「ふふ、公輝。いまの貴方、見るからに面白くないって顔してるわよ」

「うぇっ、マジ? そんな顔してた、俺?」

「ええ。まぁその男子は悪い人じゃないけど、気になるのなら東側の渡り廊下に行けばいいわ」

「なんで、俺に…」

「私、雫の親友よ。私はあの娘の想いを応援してるの、だからよ」

 

最初の公輝をからかうような姿はなく、真剣な表情で言い切った奏に公輝は眼を見張った。

師である八雲の威圧に慣れているから問題無いが、それでも中々の意思のある眼光に公輝は少しだけ身を固めた。

けれど、すぐに肩を竦めてから身を翻して教室から出ようとする。

 

「ありがとな」

「雫をお願いね。お礼はその後で」

「あいよ」

 

声を柔らかくした奏の言葉に背中を押され、人気の少ない廊下を教師に見つからないように公輝は駆けた。

同じ階の渡り廊下、そこに雫と例の男子生徒の姿があった。

 

「朝霧さん、キミのことが好きです。僕と付き合ってもらえませんか」

 

扉に着いた所でその言葉が聞こえ、公輝は体が固まってしまった。

 

雫はどう答えるのか、彼はそれが気になった。

確かに自分は告白されたが答えを待ってもらっている側だ、彼女がどう答えても自分にはそれを覆させる権利はない。

でも、出来れば「はい」と答えないで欲しいと公輝は想い、自分の想いを理解した。

そして自分の中に暗い感情はあることも自覚して、それでも雫の答えを待つ。

 

「ごめんなさい。私は、貴方の気持ちには応えられません」

「(はぁ……俺も、現金な男だよ…)」

 

雫の答えを聞いて、隠れている公輝は望んだ答えに胸を撫で下ろした。

 

「そう、ですか……あの、どうしてか聞いてもいいかな…?」

「好きな人が居るんです。告白もして、いまは答え待ちというところですけど」

「答え待ち、でも?」

「まだ告白したばかりですから。

 それに、その人は私を私として、一度でも私を朝霧の令嬢として接してきたことはありませんでした。

 初めて会った時から、私をただの雫として接してきてくれました。

 私が命の危険に遭った時も、自分の命を顧みずに助けに来てくれました。

 子供みたいかもしれませんが、私にとっては王子様みたいな人です」

 

その言葉を聞き、公輝は息を整えると扉を開け、ゆっくりとだが歩みを進めた。

自分の想いも雫の想いにも、向き合ったから。

 

「キミは…」

「え、公輝…」

 

先に気付いたのは男子生徒であり、それにつられて振り返った雫も彼の存在に気付いた。

直後、今まで自分が話していた想いの言葉を思い出し、顔を真っ赤にさせた。

 

「あ、あの、わたし、その「好きだ、雫」ふぇっ//////!?」

 

公輝に話そうとした途中、彼にそう言われてさらに顔を紅く染め上げた雫。

彼は優しい表情のままに彼女に想いを伝える。

 

「悪いな、告白の場だってのに覗き見て、雫の想いも隠れて聞いちまって、そのうえ乱入までして。

 でもさ、俺も雫は譲れない。だから、ここで返事をすることにした。好きだ、雫。

 こんなことしてガキみたいだけど、こればっかりは他の奴には譲れないからさ」

「うっ、ふっ……はい、私も、公輝のことが好きです//////」

 

公輝の真っ直ぐな言葉に雫は嬉し涙を浮かべたまま、彼の胸に飛び込んだ。

彼女を抱き締める公輝も、彼に抱き締められる雫も、どちらも幸せそうな表情を浮かべていた。

 

教室に戻った公輝と雫を奏が迎え、二人の姿を見ただけで嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「見ただけで解っちゃうわよ、二人とも。でも、おめでとう雫。良かったわね」

「はい///! ありがとうございます、奏///!」

「雫のこと頼むわよ。泣かせるなとは言わないけど、悲しませることだけは許さないから」

「分かった。その時は煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「そうさせてもらうわ。でも、それは雫もよ。公輝のこと、悲しませたら怒るわよ」

「はい。そうならないように、二人で頑張ります」

「うん、それでよし」

 

奏は満足そうに笑顔で頷いた。親友の雫も大切だが、彼女を大切に想っている公輝もまた奏にとっては大切な友達なのだから。

 

「よし。それじゃ、公輝にはお礼としてパフェでも奢ってもらおうかしら」

「おう、お礼だからな。雫も好きなの頼めよ」

「分かりました。今日はお言葉に甘えさせてもらいますね」

「んじゃ、行くか」

 

三人は足並みを揃えて学校から帰る、その顔にはただ笑顔が溢れていた。

 

なお、渡り廊下には呆然自失状態の男子生徒が居たとか居なかったとか……哀れ!

 

 

 

公輝と雫が交際を始めて一週間ほどが経った頃、雫と奏は公輝に連れられて和人達と出会った。

全員が中学生とは思えないほどの礼儀正しさで挨拶をし、

加えて自分達よりも年下とは思えないほどの戦闘能力や運動能力、固有技能を発揮している姿に驚かされた。

公輝と同門の古流武術を会得しているということも聞いていたが、それでも驚くなという方が無理だった。

さらに雫の祖父である海童と和人達の師である八雲が顔見知りということはこの後に知らされることになる。

 

驚くこともあったが雫と奏から見ても和人達は良い子だった。

それに和人と烈弥は神話や伝説などを含めて読書をし、

景一は天体観測が趣味でそこから神話・伝説を知っており、そこら辺は雫とも趣味が合ったのだ。

 

奏は名前に故あって音楽が好きであり、志郎も音楽が趣味で刻は工作等が特技で楽器にも興味があるのだ。

そういうこともあり、和人達は気の合う年下の友人という形になった。

 

一方、雫と奏は彼らの内の一部の歪さにも気が付いた。

これは二人がそれなりの家柄にあり、家同士の付き合いやパーティー等で様々な人物を見てきたからこそ分かったことでもある。

公輝もそれに肯定し、和人達自身が雫と奏の人柄を知って彼女達に伝えた自分達の出生や過去。

それを知り、二人は公輝と同じく少年達を見守り、手助けすることを決めた。

特別な力など無くても、話し向き合うことが自分達に出来ることだと彼女達は判断したのである。

 

結果的にそれは和人達の心に良い影響を与え、後に彼らの恋愛事情にも関わることになるのは別の話…。

 

 

ともあれ、こんな公輝と雫だからこそ、

和人達男性陣だけでなく女性陣も信頼を置き、彼ら彼女らが未来を進む一助となったのかもしれない。

 

No Side Out

 

 

 

 

公輝Side

 

「色々あったな、これまで」

「はい、たくさんのことがありましたね」

 

いつの間にか手を繋いだまま俺達は話していて、それで話し終わってみても離すようなことはしない。

いや、こっちの方が良いし。

 

「いやぁ、それにしても雫が俺のことを王子様だって言ってくれた時は嬉しかったぜ」

「うぅ、それは言わないでください/// で、でも、今でも公輝のこと、私の王子様だと思っているんですよ///?」

「それは光栄なことだな。俺にとって雫がお姫様ってのと同じか」

「もぅ、公輝ってば…///」

 

俺だって同じなんだ。雫がそう思ってくれるのなら、俺にとっても何時までもそうだから。

けどま、いつまでもそのままってわけにもいかないけどな。

 

「俺達にとってはここからが正念場の一つだ、分かるよな?」

「はい。私達の未来とみんなの未来の小さな手助けのためにも、ですね」

 

正直、皆には悪いがここから一番大変になってくるのは俺と雫だ。

朝霧財閥ってのはそういうものだからな。

でも、俺達自身の為にも、そんでもって皆の為にもただで立ち止まるつもりはない。

 

「雫。後でまたちゃんと言うけど、一先ず言わせてくれ……俺と一緒に進んでくれ」

「勿論です。それが私の望みでもありますから」

「ありがとな。ん…」

 

礼を言って、俺に微笑んでくれてる雫の唇にキスをする。

少し驚いた様子を見せたけど、すぐに受け入れて少しばかり舌を絡めていく。

 

「んふぁ、ん……こう、き…//////」

 

少しばかり余韻に浸る雫の表情は切なげで少しだけ物足りなさそうだが、これ以上はだめだな。

また後でということだ。

 

「はは。さて、和人の様子を見て、俺達も動こうぜ」

「はい///!」

 

俺達の左手薬指にある物がキラリと光を放ち、その手を握って俺達は歩む。

 

―――お前も大変だろうけど確りサポートしてやるからな。いまはゆっくりしてまた存分に頼ってこいよ、和人。

 

公輝Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

みなさま、大変長らくお待たせしてしまい申し訳ないです。

なんとか完成して本日七月末日に投稿できました。

 

なんていうか今回は私用に友人との付き合い、さらに軽いスランプに夏バテなどが重なった次第です。

今年は暑く、クーラーを使用していても家の中の熱さが半端じゃないです……辛い…。

まぁそういうわけもありまして、八月の投稿も厳しい感じです。

投稿できても一話分、無理なら九月の投稿になるかもしれないです、ほんとすいません。

 

さて、今回の話は公輝と雫の過去といいますかそんな感じですが、ほとんど補足てきな話でしたね。

この二人に関してはまぁ元々こういう感じにするつもりでした。

シリアス微少の後半イチャラブ的にまとめちゃいましたが、次回が次回ですので。

次は奏がメインで遼太郎(クライン)と話しをする話、形式は志郎と烈弥の時と同タイプにします。

あと次話とその次でようやく神霆流の過去話が終わるのでストーリー自体も進められそうです…。

 

改めまして遅れてしまったこと、次話も遅くて九月投稿になることをお詫びいたします。

しかしエタることは絶対にしないのでご安心をば!

それではまた次回で……サラダバー!

 

 

 

 


 
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