No.914119

「真・恋姫無双  君の隣に」 第75話

小次郎さん

成都を制圧。
一刀は、あの場所へ向かう。

2017-07-15 04:33:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7131   閲覧ユーザー数:5133

宴を抜けて目的地まで足を進める。

一度しか行った事がない場所だけど、忘れていない、忘れる訳が無い!

迷い無く森を抜けて、・・見えてきた。

・・そうだ、此処だ。

華琳に別れを告げた、今の俺の根源となった場所は。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第75話

 

 

呆気ないものだ。

素通りするかの如く城や関が陥ちて、予想を遥かに超える華の進軍の速さに恐れをなしたか、ここ成都は攻撃するまでもなく降服した。

その速さの理由は、成都への途上にある城や関の責任者に益州出身の者達が外されていた事にある。

亡命者達が任に就いていた者からゴリ押しで地位を奪っていたのだ。

そのような者達が気合を入れて如何に命じようと兵が奮起する事はない。

逆に兵に首を落とされ、投降の手土産とされた。

それは成都城内でも同じだった。

・・信が無き者に兵は従わない。

その事を益州に逃げた者達は最後まで理解できなかったのだろう。

これで完全に漢帝国は滅んだのだ。

直ぐさま統治を開始する一刀に呼ばれ指示を受ける。

「秋蘭、雷同と呉蘭を連れて城下の混乱を収めて来てくれ。あと劉璋と王累も解放してくれていい」

劉璋は平民となる事で助命、臣下の王累は最後まで劉璋に尽くすそうだ。

「他の者達はどうするのだ?」

「無条件で投降した者は統治を手伝ってもらうよ。正式に迎え入れるのは働きを見た後で。・・以外の者は、一先ず牢へ」

劉璋臣下の者達は一部を除いて素直に従っている。

牢は最後の温情か、変わらぬのなら・・。

「分かった。任せてくれ」

「頼んだよ。それと、ささやかだけど戦勝の宴を開くから、夕方には戻ってきてくれ」

 

 

宴が終わり兵士さん達が片付けを始めました。

風達は各所の顔見せで殆んど参加して無い様なものでしたから、目立たない城壁に移動してお祝いを再開します。

「凪ちゃん、お疲れ様ですー」

「風殿こそ、お疲れ様でした」

遂にお兄さんの手によって大陸が統一されました。

「本当に、統一されたんですね」

「正直に言いますと、風が生きている間に成されるとは思っていなかったんですけどねー」

軽く見積もっても二十年は短縮されたと思います。

「化け物だぜ、あのニーチャン」

「宝譿、失礼な事を言ってはいけませんよ。閨ではその通りですがねー」

「ふ、風殿」

何となく、寿春に戻りましたら大変な事が待っているような気がするのですよ。

益州攻略が順調過ぎた為に、そう思ってしまうのでしょうか?

「何や何や、大将の事かいな」

「そういえば居ないの~」

お兄さんの話題に釣られて皆さんが集まってきました。

「稟、華琳様は何処にいらっしゃるのよ?」

「いえ、私も知りません」

「流琉、兄ちゃんを追いかけて行ったって言わないほうが良いかな?」

「うん、止めておこう。季衣」

暫く盛り上がりましたが、季衣ちゃんの言葉が風達から言葉を奪いました。

「・・何で、僕達は兄ちゃんの事を思いだせないんだろ?」

・・誰も、答えられません。

此処にいる風を含めた皆さんは全てお兄さんとの夢を見ている者です。

偶然ではなくて、お兄さんが意図して人選したのは間違いないでしょう。

おそらくその理由は、以前に時間をくれと言ってましたお兄さんしか覚えていない過去との決別。

お兄さんにとって様々な意味で決着をつける遠征だったのでしょう。

・・結局、風達はお兄さんの事を思い出せないまま。

どれだけ互いに夢の中身が共通してても、どうしても現実に感じられないのです。

心の悲しみは確かにあります、それでも、駄目なんです。

「凪ちゃん、風は自分の無力さが情け無いのですよ」

「風殿・・」

・・何も出来ずに、お兄さんを一人にしてしまう。

天はお兄さんに天下を取る代償を求めたのでしょうか。

月は全てを見通しているのでしょうか。

果ての無い夜空は、何も答えてくれません。

 

 

何処に行く気かしら?

宴から一人抜け出して森に向かう一刀を、気付かれない様に追い掛ける。

危機管理に関してはトコトン話そうと思うけど、少し悪戯心が出た私だった。

・・でも、直ぐに後悔したわ。

森の中を進むにつれて、嫌な気持ちが膨らんでいく。

駄目、一刀、この先に行っては駄目!

私も行きたくない!絶対に嫌!

心が悲鳴を上げ続ける。

でも声が出ない、出せない。

動けなくなりそうな足を必死に動かして、でも一歩一歩が重くて、既に一刀は視界から消えている。

木にもたれ掛かる様に支えにして、よろけながら進む。

小川に出て、立ち止まっている一刀を見つける。

此処は、この場所は、夢で見たあの場所と同じ。

別れを告げられた場所。

身体の震えが止まらない、一刻も早く離れる為に一刀を呼ぼうとして、私は見た。

淡い光に包まれている、一刀の姿を。

 

 

あの時に華琳と交わした言葉が鮮明に蘇える。

違うか、忘れた事は無いが正確だ。

役目を終えた俺は元の世界に帰った。

おそらくは、あの後に泣いていたであろう女の子を置いて。

ああ、本当にあの時の自分をブン殴ってやりたい。

大局がどうだ、歴史がどうだじゃなくて、受け入れて抗わなかった自分が許せない。

・・ガキだったなあ。

格好つけて消えて、後は丸投げかよ。

けじめを付けなきゃ駄目だったろ。

種馬の方が親として生き続けてる分、偉いよ。

・。

・・。

・・・今度は、けじめを付ける。

何時までも、何処までも、一緒にいる。

義務でも、責任でもなくて、俺がそうしたいから。

・・だから、過去の幻想は、もう見ない。

でなきゃ、皆に申し訳ない。

今の皆にも、・・過去の皆にも。

目を瞑って、皆の顔を思い浮かべる。

そして、別れを告げる。

「・・・・・ありがとう。・・・・・さよう・なら」

ゆっくりと目を開ける。

その目に、光が入った。

夜空を切り裂くような光。

「流れ星?」

そして、俺の身体が光に包まれる。


 
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