No.909661

「真・恋姫無双  君の隣に」 第69話

小次郎さん

左慈たちの立て籠もる砦に一刀が向かう。
交わる事は決して無い二人の決着はもうすぐ。

2017-06-11 01:07:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5974   閲覧ユーザー数:4721

あれが左慈達の立て籠もってる砦か。

報告で聞いてた通り小規模なもので、労せず陥とせる代物だ。

親衛隊と共に援軍としてきた俺を、包囲している軍の将である翠と蒲公英が出迎えてくれた。

「蒲公英、返事はどうだった?」

「駄目、やっぱり戦うしかなさそうだよ」

降服勧告は拒否か、思ってたとおりだ。

「国に殉じるか、気持ちは分からないでもないけどな」

翠は武人として彼等の徹底抗戦をそう受け取ったみたいだ。

本当のところは俺にも分からないけど、左慈の心は徹頭徹尾、俺を殺す事だと于吉が言っていた。

どうしてなのか問い質したいけど、降服しないのはそういう事なんだろう。

国としての勝敗は既に決してる、本当は俺が来るまでもなかった戦だ。

だけど彼等の真実を知っている身として、俺自身の手で決着を付けたかったんだ。

「明日には決着を付ける。翠、蒲公英、此処が終わったら占領地の治安活動に従事してくれ。幽州の平定は来年の春まで中断する」

「分かった。一刀はどうするんだ?」

「聞くまでも無いでしょ、お姉様。一つしかないよ」

うん、蒲公英の言うとおり。

絶対に行かなきゃいけない所があるから。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第69話

 

 

・・最悪よ。

どこまで、どこまで翻弄してくれれば気が済むのよ。

華琳様を始め私達が必死に走り回って国を立て直そうとしている時に、悪夢以外の何ものでもない急報が届いたわ。

華軍の再襲来。

総勢、凡そ八十万。

まさかの仲国平定を中断して魏国への侵攻。

兵数から考えて最大規模の動員、仲の占領地に残している兵はおそらく最小限に違いないわ。

先日まで戦っていた仲の兵士までも戦列に加えられてる。

あの慎重なアイツが治安の安定を優先せず、ましてや不安要素のある軍で攻めてくるなんて。

「桂花、詳細を」

「はい、華琳様。以前と同じで三方向よりの進軍ですが、この陳留には向かってこず各軍近隣の城へと軍を進めています」

報告によれば進軍先は、豫州の許、兗州の濮陽、徐州の下邳。

「どういう事だ!どうしてそんな回りくどい事をしているんだ、北郷の奴は」

馬鹿の春蘭にしては尤もな意見ね。

でも私にも解らないのよ、どうして此処陳留に攻めてこないの?

その疑問に答えてくださったのは他でもない華琳様だった。

「・・相手は一刀だという事よ、春蘭」

「華琳様?申し訳ありません、私には全く解りません」

堂々と言える春蘭のあれは、ある意味才能ね。

呆れはするけど、今は助かるわ。

「陳留に攻めてくれば此方は総結集した兵で全力で防戦するわ。その事を良しとしない一刀は、直接戦わずして陳留の兵を削りにきたのよ。傷付く者を減らす為に」

「!!」

そういう事だったのね!

現在、華軍襲来に集めた兵は陳留に全て集結させてある。

その為に各地の城には守備兵が多くても一万といない。

そんな城に数十万単位の敵が攻めこんでくれば、万に一も勝ち目なんか無いから籠城しか選択肢がないわ。

でも籠城は援軍があってこそ成立するもの、それなのに要請される陳留には出せる兵が無いに等しい。

そして援軍が来ない事実は各城の心を華への降服に大きく傾かせる。

戦おうとする方が正気を疑われる状況を作って、投降するように仕向けるのが華の狙い。

一度でも無血開城が成されて事実が広がれば、迷っている他の城も背を押されて次々と連鎖する事になる。

それは集めた兵達の故郷が占領され続ける事に他ならない。

集めている兵達が其の事を知ったら、戦う理由を失い軍から離脱してしまう。

止めようがない、止めたらむしろ叛意を持たせてしまう。

最後に残るのは、忠厚き者と陳留出身の者くらい。

ただでさえ集まってる兵は十万そこそこで、戦うにはまったく足りないのに。

「仰られる事は解りました。ですが、そのような悠長な策を採るほどの余裕が華国にあるのですか?これまでもあれ程の大軍を動員し、更に上回る兵を動かすなど、兵糧が幾らあっても足りません!」

稟の言う通りよ、どう計算しても兵站は既に限界だった筈。

私の知る限り占領地での徴収もしていない。

だからこそ早くても戦は来年と踏んでたのに。

一体どこから捻出したっていうのよ?

 

 

なんと、とんでもない事になっておるの。

異様に明るい七乃に連れて来られて言われたとおり蔵を覗いてみたのじゃが。

「空っぽじゃな」

以前は山の様に蓄えられておった財が、今は物の見事に無くなっておる。

「はい~、その通りですよ、美羽様~。此処だけでなく他の蔵も綺麗サッパリ空っぽで~す」

踊りながら説明する七乃を捕まえて身体を揺さぶる。

「七乃、しっかりしてたも。正気に戻るのじゃ!」

妾は医師を呼ぶべきか真剣に悩む。

国の財を管理しておる七乃がこうなった事の起こりは、仲や魏との戦が始まる前の事。

一刀が軍師や後方待機の者達に頼んでいた事が原因なのじゃ。

もしも対仲戦略が想定どおりに進んだ場合、弱体化している魏をそのまま一気に併合したいと一刀が言ったのじゃ。

仲全領土を平定し、統治を安定させる迄にはどうしても数年の時がかかる。

でもその数年を魏に与えたら、負けるとは思わないが相応の抵抗を受ける。

だから魏が態勢を整え直せないうちに、圧倒的戦力差で戦意を根こそぎ奪って降服させたいと。

「いけると判断したからこそ七乃達も動いたんじゃろ?ありったけの財を使うて他国の交州や漢中からも食糧を買い集めて」

「ええ。益州の劉璋のところにも宝物を売りまくって金銭に替えました。真実が露見しないように商人を通してですけど」

「成程の。あの長蛇となっておる兵糧部隊はその成果なのじゃな」

今も寿春から出発し続けておる荷駄は道を覆い隠すほどじゃ。

「何とか二か月分は確保出来ました。これで終戦までは保つでしょう」

いつもの七乃に戻ったのでホッとするのじゃ。

「御苦労だったの、七乃。一刀もきっと喜んでおるぞ」

「うう、ありがとうございます、美羽様」

そうか、泣きたいほど大変だったのじゃな。

今日は沢山労ってあげねばの。

「・・ですけどね、美羽様。本当の苦労はこれからなんですよ。ウフフフ・・・・・・・」

な、なんじゃ、七乃の顔が真っ青になっておる!

大仕事を成し遂げたばかりじゃのに、更に何があるというのじゃ。

「な、七乃?」

「美羽様、この戦が終わったらどうなると思います?」

戦が終わったら?

「それは勿論凄い事じゃ、華国に敵対する二つの強国が滅べば天下は成ったも同然ではないか」

「仰るとおりです。もう戦を仕掛けて来る国なんて無いようなものですよ」

「素晴らしい事なのじゃ、戦で家族を失う子が無くなるのじゃろう?それなのに、一体どうしてそんな青い顔をしておる?」

妾の知らない何かがあるのか?

「・・だって美羽様、本来は仲国だけの予定でしたのに魏国まで追加されたんですよ。一気に倍になった領土の統治なんて、考えるだけで眩暈がしてきますよ」

あっ!

「領土は倍だとしましても政に関してはそんな比じゃありません。政の根幹が違い過ぎますから正に一からです。仲国だけでも大変なのは目に見えていましたのにっ!」

それで真桜や沙和も荒れておったのか。

「一刀さんは「お金はまた稼げばいいから人を失わないようにしたい」って、それはそうかもしれません。でも人が働く限度を天元突破してるんですよっ、別の意味で人を失ってますっ!」

一刀が政で手を抜いたり先延ばしに等する訳ないしの。

王が働き通しの姿を見せておれば臣下はのんびりなど出来ん。

うむ、目に見えるようじゃ。

「大体あの人は・・・・・・・・・・・・・・」

その後は興奮止まぬ七乃を宥めるのに一日を費やす事になったのじゃ。

 

 

一応見張りとして仕事はやりやすけど、ほんと形だけっすよ、一言大軍で済みやす。

いよいよ年貢の納め時っすかね。

幾ら左慈の旦那でも数が違いすぎるっすよ。

あれ?軍が割れて何か来るっす。

先頭にいる奴、あれって公孫賛将軍じゃないっすか!

それに何すか、後ろに続く荷駄は?

と、とにかく旦那たちに報告っす。

 

麗羽と一緒に捕らえられた私だったが、華王との面談で幾つかの条件を交わして役目を任された。

それは仲の残存勢力に対しての使者の役目だ、降服を促す為の。

私を見るなり察したのか、用件を言う前に左慈が口を開く。

「公孫賛、俺が奴に従うとでも思っていたのか」

「・・いや、私は華王の言葉を伝えに来ただけだよ」

そんなに長い付き合いじゃないけど、左慈の激しい気性は知ってる。

それに華王に対して個人的な感情を持ってるのは、傍から見てもありありとしてたものな。

無理なのは最初から分かっていたよ。

華王にしても降服するとは思ってないから荷駄を届けさせたんだろうし。

「明日に総攻撃を掛ける。降服するならば受け入れ将兵の命は保障する。酒と食を贈るから一晩熟慮されたし、との事だ」

最期の晩となる左慈達への配慮なんだろうな。

「フン、相変わらずな奴だ。于吉、兵を集めろ、今更毒もあるまい」

「分かりました、皆も喜ぶ事でしょう」

もう誰もが悟ってる、明日散るんだと。

私にはその選択が選べない、選ぶ訳にはいかないんだ。

そんな裏切り者の私が降服して欲しいなどと、口が裂けても言っていい言葉じゃない。

「公孫賛さん、貴女には貴女にしか出来ない事がある、それだけの事ですよ」

「・・于吉」

結局何も言えずに、私はそのまま砦を出た。

戻った私に華王が「辛い真似をさせてすまない」と言った。

華王にしても一縷の望みを私に託していたのかもしれない。

私は一人、涙を流す事しか出来なかった。

 

砦を囲う包囲兵が少し退いている。

今晩攻める気は無いとの意思表示か、静かなものだ。

それに比べ砦内は騒がしい事この上ない、はしゃぎ過ぎだ、馬鹿共が。

少しして見張り場にいた俺を于吉が呼びに来た。

「左慈、貴方が来ないでどうするんですか。行きますよ」

「ふざけるな、付き合ってられるか!」

「そう言わずに、兵達は貴方の意地に付き合ってくれてるんですから」

「・・・チッ」

やむなく集まりの場に足を進め、連中が俺に気付く。

「待ってましたぜ、左慈の旦那。ささ、こちらへ」

「于吉の旦那もどうぞっすよ」

「んだんだ」

杯を持たされ、酒を並々と注がれる。

「旦那、明日は華王の度肝を抜いて遣りやしょうぜ!」

「あっしの剣が冴え渡るっすよ!」

「ま、任せてほしいんだな」

どいつもこいつも笑って踊りまくって、悲壮感など全く無しだ。

明日どうなるか、分かってないわけではないだろうに。

俺は注がれた酒を一気に飲み干す。

今迄酒を飲む事は当然あったが、特に思うところは無かった。

空になった杯に新たな酒を于吉が注ぐ。

もう一度飲み干し、俺は空になった杯を見て不思議に感じた事を言葉にしていた。

「・・美味いな」

 


 
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