No.90789

ふぁーねるさんちのまほうつかい【02.ファーネルさんとお弟子さん】

K2-farnelさん

ふぁーねるさんには でしがいます
あおいかみで ぶあいそで しっかりもので
だけど ときどきおっちょこちょいで すなおなこ
そのおんなのこが

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2009-08-21 03:08:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:475   閲覧ユーザー数:456

黙っていても聴こえてくる声があります

それはきっと――その人が本当に 本当に伝えたい心の声なのです

 

ファーネルさんはチーフ・ウィザード――一人前の魔法使いです

魔法ギルドでは チーフになった魔法使いは弟子を取る事になっています

新人魔法使いは師匠にくっついて 上へ上へ目指して修行していくのです

 

もちろんファーネルさんにもお師匠さんがいます

そのお師匠さんこそ 今ファーネルさんが住んでいるこの家の持ち主だった人なのです

ファーネルさんがチーフになった時に お師匠さんはお祝いとしてこの家をくれました

それ以来 ふらふらと世界中を冒険しては時々ひょっこり帰ってくる という生活をしています

 

「師匠 紅茶が入りました」

この子が ファーネルさんのお弟子さん

おっきなリボンが似合う 少し無愛想だけど素直でかわいい女の子です

 

「シィちゃんも少し休みなよ お掃除手伝わせちゃってごめんね」

「いえ それじゃ 自分の分も持ってきます」

そう言うと台所へ紅茶を取りに戻ります

 

彼女の名前はシルヴィアーナ・リサルト ファーネルさんは彼女の事を「シィちゃん」と呼びます

それはもしかしたら長い名前だから という理由もあるかもだけど

こう呼んだ方が きっともっと仲良くなれるとファーネルさんはわかっていたのです

 

「そのリボンももう古くなっちゃったね」

紅茶を口に運びながら ファーネルさんはシィちゃんに言います

 

「もう何年も着けてくれてるもんね 新しいのあげようか」

「いえ」

即答です シィちゃんの返事にファーネルさんも少し驚きました

 

シィちゃんが付けているリボンはファーネルさんからもらったものでした

ファーネルさんの所へ初めて来たお弟子さんがシィちゃんです

その頃のシィちゃんは もしかすると今よりももっと無口で 無愛想だったかもしれません

 

シィちゃんはギルドでも珍しいほど若い魔法使い それなりに目立ち 褒められ 自信を持っていました

それでも シィちゃんはやっぱりまだまだ未熟な新米です

ファーネルさんから言われた課題も ギルドから来る仕事も なかなか思うようにこなせません

その日も受けた仕事をダメにしてしまいました ファーネルさんと一緒にギルドや依頼主に謝りに行き‥‥その帰り道

 

知らない内にシィちゃんの目から涙がこぼれていました

人前で泣くのは シィちゃんにとって本当に久しぶりのことです

きっと自分のせいで他の――たくさん たくさんの人にも迷惑をかけてしまって それで堪えられなくなったのです

 

そんな泣きじゃくるシィちゃんに ファーネルさんは屈んで目線を合わせます

シィちゃんの目をじーっと見て ファーネルさんはこう言いました

「ごめんね シィちゃんが大変なのわかってあげられなくて ごめんね」

 

本当は謝らなければいけないのは自分だと シィちゃんにはわかっていたのです

なのに 何も悪くない 迷惑をかけたファーネルさんに謝られて‥‥もうシィちゃんはわからなくなって 泣きました

泣いて 泣いて 泣きじゃくりました

 

シィちゃんが泣き止むまで ファーネルさんはじーっとシィちゃんを見ていてくれました

そして やっと泣き止んだシィちゃんに笑いかけ――

 

そっと シィちゃんの頭にリボンを巻いたのです

 

「これは魔法のリボンです シィちゃんの悲しみ 辛み 全て何もかもリボンが吸い取ってくれます

‥‥だから シィちゃんが泣くのはこれで最後です きっとこれからはずっと ずっと笑っていけますよ」

 

それがファーネルさんの真っ赤なウソだという事は小さいシィちゃんにもわかりました

それでもファーネルさんは 

「あ 信じてないですねー 大丈夫 "おししょーさん"に任せなさいッ!」

シィちゃんを安心させる為に笑うのでした あふれる笑顔で 笑うのでした

 

それからずっと シィちゃんの頭にはファーネルさんからもらったリボンが付いています

それからずっと シィちゃんは泣くこともなくファーネルさん達と楽しい毎日を過ごしています

ファーネルさんの真っ赤なウソは もしかするとホントだったかもなのです

 

――だからシィちゃんは ファーネルさんにこう言うのでした

「このリボンで‥‥このリボンが いいんです」

「そっか」

そうして ふたりは笑うのでした

 

 

 


 
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