No.907577

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百五十八話 呆気ない決着

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2017-05-28 07:26:57 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:29697   閲覧ユーザー数:27383

 

 「ところで緋鞠は何処行ったの?」

 

 そういや優人の近くにいたのに今はいないな。多分中将に攻撃されて吹っ飛んだんだと思うけど。

 さっきの音も野井原が攻撃を受けた音だろう。

 映像は野井原を探し――――運動場の端っこで倒れている姿を発見した。

 中将の攻撃にしては然程飛んでいない。おそらく手加減したんだろう。

 

 『グッ……ナ、ナニモノダ!?』

 

 野井原がゆっくりと立ち上がり、中将を睨み付け、殺気を叩き付けるが当の本人はどこ吹く風。軽く受け流していた。

 

 『むぅ…見た所、向こうの男性は命に関わる程酷い怪我は無いが、この少年と向こうの少女は少しマズいな』

 

 野井原の質問にも答えず、周囲の状況を冷静に把握する中将。

 

 『ナニモノダトキイテイル!!』

 

 『とりあえず……』

 

 中将がパチンと指を鳴らすと、くえすと優人、それに土御門と夜光院の鬼斬り役も瞬時に中将の元に召喚された。

 そして夜光院を除く傷付いた3人の鬼斬り役に治療魔法を施す。

 

 『私は治療魔法があまり得意じゃないからね。完治するまで時間が掛かる事は容赦してくれないかな?』

 

 『……貴方は一体何者だい?』

 

 無傷の夜光院が警戒心を抱きながら中将に尋ね、中将は答える。

 

 『私の名は鳴海理。頼りになる後輩から頼まれて、助っ人に来たのさ』

 

 『後輩?』

 

 『長谷川勇紀。そう言えば君達にも分かるだろう?』

 

 『長谷川少年の?』

 

 ここで俺の名前が出た。

 

 『うん。『俺の友達の手に負えないかもしれない敵を討ってほしい』と言われてね』

 

 そう……野井原に優人の声が届かず、くえす達ですら敵わないぐらいの危険な妖へと堕ちているなら俺が、そして異空間に囚われている現状の様に俺が野井原を討てないかもしれない状況に陥るかもしれない可能性を考慮して鳴海中将に援軍としてお願いした。

 『何らかの仕事が入るかもしれないから絶対とは言えないが…』と前置きされた上で鳴海中将は助力を約束してくれた。

 あまりにも遅いからもう来れないかもと半ば諦めていたが、絶妙のタイミングで駆け付けてくれた。

 

 「てか緋鞠は何で動かないのかしら?優人やくえすと戦ってる時はガンガン攻めてたのに」

 

 「そりゃー、鳴海中将が野井原に視線を合わせず他の人と会話していても、野井原からすれば攻め込む隙が一切無いからだろうな」

 

 正直、高速で移動して中将に近付いても簡単に返り討ちに遭うだろう。

 今の野井原からしてもそれぐらい中将との差はある。

 かといって遠距離から攻撃を仕掛けても結果は同じだろう。『千の雷』を始めとする強力な魔法に対抗出来る術が野井原にあるとは思えん。

 近・中・遠のどこから攻めても野井原の勝率は0%。

 ……これが無理ゲーという言葉の見事なまでの実例ですね。

 

 「野井原よ、安らかに眠ってくれ」

 

 「緋鞠死ぬの!?」

 

 俺が静かに目を瞑り、黙祷を捧げる中、九崎の声が返ってきた。

 だって、この空間内に閉じ込められている以上向こうに援軍としていけないし、もう優人の声が届かないんじゃ滅する以外に解決出来ないし。

 

 「……………………」

 

 崇徳上皇は画面を眺めながら、手を翳す。

 

 ヒュンッ!!

 

 俺はすかさず宝具を射出し、崇徳上皇の行動を邪魔する。

 当てない様に計算して放ったので簡単に避けられるが、奴の行動を阻む事は出来た。

 行動を邪魔された崇徳上皇が俺を睨む。

 

 「何をしてくれてんだ?」

 

 「何か余計な事しそうだったから邪魔しただけですけど?」

 

 俺は悪びれる事無く言う。

 多分崇徳上皇は鳴海中将に何かしようとしてたに違いない。例えば転移系の妖術か何かでこの空間に呼び寄せるとかこことは更に別の空間に閉じ込めるとか。

 

 「………………ふんっ!!」

 

 「ぬ!?」

 

 崇徳上皇が妖気で創り出した槍を投擲してくる。

 俺はソレを迎撃しようと天火布武(テンマオウ)の炎を展開する。

 

 「神火 不知火!!」

 

 目には目を。歯には歯を。

 向こうが槍で来るならコチラも槍を。

 片手に収束させた炎をすかさず槍の形状にして投げる。

 妖気の槍と炎の槍が俺と崇徳上皇の直線上の中心――――よりやや俺側の方で正面からぶつかり合う。

 拮抗している妖気と炎の槍はしばしの間を置いて同時に弾け散る。

 続いて宝具を宝物庫から射出しようとするが

 

 「させるか」

 

 今度は細い針の様な形状の妖気を無数形成し、俺の頭上から雨の様に降らせてくる。

 

 「チイッ!!」

 

 俺は舌打ちしながらイージスで妖気の攻撃をガードする。

 

 「やっぱりな。お前のその武器の射出攻撃は僅かに時間が掛かる。なら射出される前にコチラから仕掛けてやれば攻撃を止めざるを得なくなる訳だ」

 

 「……………………」

 

 流石に何度も見せれば王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の弱点にも気付かれるか。

 狂戦士化した某ギリシャの大英雄みたいな宝具の力も含めた超防御力なら攻撃を受け続けながら宝物庫を展開し、武器を射出出来ると思うんだが…。

 

 「…宝物庫からの射出攻撃は余程の隙が無い限り、もう通じないか……」

 

 俺は宝具の射出を諦め、従来の魔法と天火布武(テンマオウ)を主体にした攻撃方法へと思考を切り替える。

 けど崇徳上皇は威力は低いものの圧倒的な『数』の妖気を飛ばしてくるため、中々攻撃に移れない。

 多少のダメージは覚悟の上で防御を解き、攻めるか?

 

 「攻め込む余裕は与えさせないぞ」

 

 「ぬ?………ぐうっ!」

 

 妖気の威力の重みが増しやがった!

 本気出してない事は理解してたけど、予想以上の威力アップ。

 ホント強敵だな。日本三大妖の一角だけの事はある。

 

 『ガアアァァァッッ!!!!』

 

 画面の向こうでは痺れを切らしたのかはたまた中将が隙を見せたのか……。

 野井原が中将に襲い掛かるが

 

 『大したスピードだね……だが』

 

 ドゴンッ!!

 

 『グブッ!!!』

 

 突然野井原が吹き飛ばされ、またゴロゴロと転がって距離を離される。

 

 『その程度のスピード、私なら余裕で捉えられる』

 

 鳴海中将は転がる野井原を見て言い放つ。

 

 「うええ!?緋鞠が突然吹っ飛んだんだけど何で!?」

 

 九崎が大きく目を見開いていた。

 画面の向こうに映っている鳴海中将が何もしていないのに野井原が勝手に吹っ飛んだと思っているのだろう。

 だが俺は鳴海中将の姿勢――――ポケットに手を入れて立っている姿を見て中将がどんな攻撃をしたのかが理解出来ている。

 おそらく野井原への最初の一撃も同じ攻撃法だったんだろう。

 

 「豪殺居合い拳じゃないだけマシだし、野井原相手に手加減してるって事だよなぁ」

 

 鳴海中将が行った攻撃法――――それは『魔法先生ネギま!』のタカミチが得意とする居合い拳である。

 野井原を吹っ飛ばしたのはただの(・・・)居合い拳。

 もし感卦法を纏った豪殺居合い拳なら校舎や塀を軽々と突き破ってもっと遠くまで吹き飛ばされてるだろうし。

 

 『それにしても長谷川君は一体何処へ行ったのやら……この辺にはいないみたいだし』

 

 キョロキョロと辺りを見回し、サーチャーで学園の外を見てるっぽい中将。

 すんません鳴海中将。俺今異空間に閉じ込められてるんです。

 

 「緋鞠は大丈夫なの!?何か凄い攻撃食らったっぽいから死んでたりしないわよね!?」

 

 「落ち着け九崎。野井原なら大丈夫な筈だ」

 

 俺達魔導師は基本デバイスを所持してるんだから非殺傷設定も当然掛かってるさ。

 ……鳴海中将の攻撃力が非殺傷設定の上限を超えていない限りはな。

 

 「(………大丈夫――――だよな?)」

 

 何だか不安になってきたぞ。

 

 『彼も何らかの異変に巻き込まれているのかな?なら早く探し出さないといけないから一気にいかせてもらうよ』

 

 そして鳴海中将は右手に『魔力』、左手に『気』を発現して合成させ全身に纏う。

 

 「感卦法使っちゃった!!?」

 

 アカン……鳴海中将は言葉通りに一気に終わらせる気だ。

 豪殺居合い拳って見た目も威力に恥じないぐらいのものだから初見の優人は技を見た後で俺の知り合いとか関係無く鳴海中将に怒って攻撃しかねんぞ。

 が、感卦法を纏った鳴海中将に待ったをかけた人物がいる。

 それは他でも無い優人本人である。

 

 『…………少年、一体何のつもりだ?』

 

 あろうことか優人は両手を大きく広げて『ここは通さない』とでも言わんかの様に鳴海中将の前に立ちはだかる。

 

 『治療魔法を掛け始めてまだ間もない。そんな風に無理をすれば怪我の治りが遅くなるよ』

 

 『……アンタは……緋鞠に何をするつもりなんだ?』

 

 鳴海中将を睨みながら優人が問う。

 フラフラしてる様は誰が見ても無理をしているのだと丸分かりだ。

 

 『何をと言われても、倒すという言葉しか出てこないよ』

 

 『っ!!そんな事は絶対にさせない!!』

 

 『させないとか言われてもね……』

 

 優人の言葉を聞き、困った表情を浮かべる中将。

 アイツ、まだ野井原の事を……。

 

 『少年、先程の彼女の目と雰囲気を見ただけで理解したが……彼女はもう堕ちていた(・・・・・)。ここで手を打っておかないと何の関係も無い一般人まで巻き込まれる可能性があるんだよ?』

 

 『分かってる!!けど緋鞠は殺させない!!絶対に助けるって決めたんだ!!アイツは……俺達の知ってるアイツの心はまだ残ってるから!!』

 

 『ふむ……………………』

 

 ハッキリと言い切った優人。鳴海中将はそんな優人の目をジッと見る。

 

 『天河少年。先程から君はそう言うが、結局君は猫神君を討たせないためにそう言ってるだけであって周りの事は二の次なんじゃないのかい?』

 

 そこへ夜光院の鋭い指摘が飛んでくる。

 

 『そんな事は無い!!』

 

 『けど未だ猫神君を救う方法は思い付かないのだろう?このままの状態が続くしかないのならコチラだけが無駄に力を消耗させ、疲弊していく。そうなればいずれ猫神君にボク達がやられるのは明らかだ。そしてこの学園を始めに一般人への被害が広がるのは言うまでもない』

 

 夜光院の言ってる事は正しいと言えるだろう。野井原を救いたいという優人の気持ちは分からんでもないがその方法が思い付かない、見付からない以上は野井原を討伐するのが民間人への被害を抑える唯一の方法である。

 いつぞやの公安の人が言ってたな。『人と妖が共存する以上はその狭間に立ち統べる者――即ち人間の法で裁けない妖を裁く者が必要だ』と。

 あん時は優人が政府の監視下に置かれる可能性があったので横から口を出して止めたんだが、現状はその決断を迫るかの様に用意された場面みたいだ。

 

 「優人が裁きを下す最初の相手が野井原になるかもしれんとは……」

 

 運命とは残酷なものだ。

 

 『現状を長引かせる事が許されない以上決断するべきだろう、天河少年』

 

 『っ!!!それでも俺は………』

 

 …やっぱ野井原が相手である以上、優人にその決断は出来ないか。

 俺が向こうに行けない以上鳴海中将に野井原を介錯して貰うしか……

 

 『少年よ。何故そこまでして彼女を救おうとする?初対面の君に言うのも何だがこの場に現れて間もない私ですら彼女の危険性は即座に見抜けた程だ。ここで後顧の憂いを断っておくのが最上の結論だと思うのだが』

 

 鳴海中将は優人に問う。

 

 『アイツの意識の深奥に入る前、言ったんです。『俺は絶対に離さない』って。『お前という存在が俺の中で切り離せない程大きくなってた』って。だから俺は絶対に助けるんです、緋鞠を!助ける方法を見付けてもう一度アイツを含む皆との生活を取り戻すんです!!』

 

 「優人……」

 

 「「……………………」」

 

 九崎だけではなく俺と崇徳上皇もお互いに攻防は止めないまま、視線だけを画面の優人に向けていた。

 

 『…………成る程、彼女への強い想いが君の大半を占めているという訳か。それ故に彼女に良心が残っていると確信出来る……と』

 

 ふむふむと優人の言葉を聞いて頷く中将。

 

 『………天河少年。なら早く猫神君をどうにか出来る方法を思いついてくれ』

 

 『う……わ、分かってるよ』

 

 優人も夜光院に言われ返事するも、その表情を見るに浮かばねえんだろうなぁ。

 

 「そう簡単に思い付いたら苦労しないよなぁ」

 

 「いやはや全く」

 

 崇徳上皇の漏れた言葉に同意する。

 ……かつて久遠の祟りを祓った経験のある那美さんがこの場にいたらどうにか出来たかもしれないんだが。

 数日前から久遠引き連れて退魔の仕事に出掛けちゃったからなぁ。何とも間の悪い事だ。

 

 『……少年よ。一か八かになるがどうにか出来るかもしれないよ』

 

 「「「…………うん?」」」

 

 俺と九崎、崇徳上皇の声が重なった。

 …気のせいだろうか?今、鳴海中将は『この状況を打破出来る』と言った様な気がしたんだが……。

 

 『『………へ?』』

 

 画面の向こうの優人と夜光院の目も点になっている。

 けどそんな2人を差し置いて鳴海中将は言葉を続ける。

 

 『もっとも君が言う様に『彼女の自我が残っている事』が前提条件だけどね。自我が残っていなければ彼女は死ぬ事になるだろうが……どうするかね?』

 

 …さっきの台詞は聞き違いじゃなかったみたいだ。鳴海中将には野井原を救う方法が本当に有るらしい。

 けど野井原の自我の有無次第で結果が変わるという事。リターンよりもリスクの方が大きく、分が悪そうだ。

 

 『………本当に、本当に自我が残っていたら緋鞠を助けられるんですか?』

 

 『残っていたらね』

 

 『……………………』

 

 画面に映る優人の悩む姿を見て、俺も鳴海中将がどんな方法で野井原を助けるのか考えてみる。

 鳴海中将が転生時に叶えて貰った願いで戦闘系なのは『ネギま』系の技や魔法を使える様にという事だった筈。

 

 「うーん……」

 

 原作の内容を思い出せるだけ思い出してみるが、俺は唸る事しか出来ない。

 そもそもあの作品、悪霊って出てたっけ?

 クラスメイトの幽霊ならいたけど。

 

 『……お願いします。緋鞠を助けて下さい』

 

 ぬ?

 俺がネギまの原作を思い出していると、優人が鳴海中将に頭を下げて野井原の救出を頼んだ。

 その言葉を聞き取った鳴海中将は了承の意を示す様に、静かに首を縦に振った。

 

 『ガ……グウゥ……』

 

 同時に野井原が呻きながら起き上がった。

 

 『コロス……キサマダケハカナラズコロス……』

 

 画面越しの野井原の言葉から感じる鳴海中将に対する明確な殺意。

 鳴海中将特に気にするでもなく

 

 『むんっ!』

 

 鞘に収まった状態の一本の日本刀を取り出した。

 アレも中将のデバイスの形態の1つだ。普段はネギの持つ杖の形態か武器を持たず素手のままというスタイルだから日本刀の形状にするのは珍しい。

 日本刀を用いた鳴海中将の戦闘スタイル……ネギまとくれば当然

 

 「神鳴流だよなぁ…………あれ?」

 

 自分で呟いた神鳴流という単語で何かが引っ掛かった。

 何だ?何か忘れてる様な…………。

 

 『シィィィィィネェェェェェェェッッッッ!!!!!!』

 

 ドンッ!!

 

 地を蹴る音が鳴った時、既に野井原の姿は消え

 

 「………上か」

 

 鳴海中将の真上を陣取っていた。

 優人や夜光院は野井原の動きを捉えきれていない様で、キョロキョロと首を左右に振って野井原の姿を探していたが

 

 『…………ふっ』

 

 上を見上げた鳴海中将は不敵に笑う。

 腰を落とし居合いの構えを取るのと同時に鳴海中将の周囲に3つの魔力弾が浮き上がる。

 

 『魔法の射手(サギタ・マギカ)光の三矢(セリエス・ルーキス)!』

 

 即座に直射型の射撃魔法を野井原に向けて放つ。

 真上から少しずつ落下してきている野井原の体勢を崩すための攻撃。ダメージの有無なんて二の次だろう。

 でなきゃもっと多くの魔法の射手(サギタ・マギカ)で攻める筈。

 まあ、そんな事したら非殺傷オーバーキル確定でしょうがね。

 上から迫る野井原は避けようとする素振りを一切見せない。

 魔法の射手(サギタ・マギカ)が野井原に直撃するかと思いきや

 

 バシュンッ!!

 

 『む?』

 

 魔法の射手(サギタ・マギカ)3発全てが弾かれ、野井原に当たる事は無かった。

 まるで見えない壁にぶつかったかの様な

 

 「野井原の纏っている濃密で邪悪な妖力があの男の攻撃を弾いたんだろうな」

 

 崇徳上皇の言葉で理解した。

 今野井原は全身を妖力で覆っている。生半可な攻撃じゃ通らない強固な鎧を装備している様なものか。

 

 『ガアアアァァァァァァッッッッ!!!』

 

 徐々に鳴海中将との距離が縮まっていく野井原は、今度は妖力を腕に集中させ、鳴海中将に対して振り下ろす。

 ただでさえ、妖力で強化されたのに加え、落下による加速のスピードも追加されるこの一撃は食らえば相当なダメージになり得るぞ。

 

 『……………………』

 

 鳴海中将は刀で野井原の一撃を受け止めた。

 攻撃を加えた野井原はそのまま飛び退いて距離を取る――――が

 

 『この一撃で――――一気に終わらせる!』

 

 鳴海中将は次の一撃を放つ体勢になっていた。

 ……この一撃で分かる様な気がする。

 鳴海中将がどうやって野井原を救うのか。

 神鳴流を使うであろうという確信と何か忘れている俺の記憶の中の疑問もこれで解決する筈。

 

 『神鳴流奥義――――――――』

 

 『っ!!』

 

 鳴海中将の気迫に気圧されたのか野井原が一瞬身体を硬直させる。

 その一瞬を見逃さず鳴海中将は刀を振るう。

 

 『斬魔剣――――弐の太刀ぃっ!!』

 

 鳴海中将が振るった刀から飛び出た斬撃が野井原へと向かう。

 

 『ソノヨウナコウゲキナド――――ナッ!アシガ!?』

 

 何時の間にか野井原の足は拘束されていた。

 アレは修学旅行編でネギがフェイトを拘束した『戒めの風矢(アエール・カプトウーラエ)』じゃんか。

 魔法の射手(サギタ・マギカ)――――射撃魔法(シューター)としてじゃなく拘束魔法(バインド)として遠距離から発生させるとか意表を突いた使い方だ。

 俺が感嘆する中、動く事が出来ない野井原に対し、鳴海中将が放った斬撃は容赦なく襲い掛かった。

 

 『アアアァァァァァッッッッッ!!!!』

 

 斬撃が野井原の身体をすり抜けた直後、野井原から絶叫が上がる。

 

 「ひひひ、緋鞠が斬られた!!?」

 

 「落ち着け九崎。今の攻撃は非殺傷設定だから野井原自体に傷は無い」

 

 ちゃんと非殺傷設定の許容値内に収まった威力だ。もし許容値を超えていたら今頃斬撃がすり抜けた場所から血がブシャアッって噴出してるだろうし。

 しかし斬魔剣弐の太刀かぁ。

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 「『ラブひな』版か!!」

 

 大声で思わず叫んでしまう俺。

 九崎と崇徳上皇の視線がコチラに向くのを感じる。いきなり叫んだので何事かとでも思っているんだろう。

 そうだ、そうだよ。やっと思い出せたよ。神鳴流で忘れていた事を。

 元々神鳴流の奥義『斬魔剣弐の太刀』は『ラブひな』で登場した技であり、その本質は『人体に一切の傷を負わせず、内に潜む魔を断つ剣技』というものであった。

 ところが『ネギま』では何故か『魔法障壁をすり抜けて術者を直接斬る斬撃を放つ』ものへとなっていたのだ。

 いや、ひょっとしたら『ネギま』の方でも魔を断つ事は可能かもしれないが、それだと何故傷を負わせる事が出来るのかという疑問が出る。

 もしかして人体を斬る、斬らないを任意に出来るんじゃないだろうな?

 

 『ひ、緋鞠ぃぃぃぃぃっっっっ!!!!!』

 

 斬撃をまともに食らい、仰向けに倒れた野井原を見て優人が大きく目を見開き

 

 『落ち着け少年。少なくとも今の一撃で彼女の命を奪ってはいない』

 

 取り乱しそうになった所で鳴海中将が声を掛けた。

 

 『先程彼女が上げた声は、彼女の内に巣くう闇があげた断末魔の叫びだよ』

 

 鳴海中将はそう言いながら浮遊魔法で野井原の身体を浮かせ、優人の前まで引き寄せるとゆっくり地面に下ろす。

 すぐに優人は野井原の左胸に自分の顔を横に向けて耳を押し当てる。野井原の心臓が動いているのかどうか鼓動を確認してるのだろう。

 

 「……………………」

 

 ……優人にやましい心は無いんだ。

 だから九崎よ。瞳から光を消して拳を強く握りしめるのは止めようか。

 

 『……生きてる。緋鞠はちゃんと生きてる。良かった……本当に良かった』

 

 野井原の胸の上から耳を離し、安堵と共に微笑む優人。

 よく見ると目尻に若干涙が溜まっていた。

 俺としてもこの結果になってくれて本当に良かった。

 鳴海中将が失敗するとは思えなかったが、万が一という結果も有り得たのは否定出来ないんだし。

 何はともあれ、一件落着と見るべきか。

 

 「やれやれ……こんな展開なんて予想外にも程があるぞ」

 

 崇徳上皇が画面を見て溜め息を吐く。

 

 「堕ちた野井原を前にして天河がどんな答えを見せてくれるのかを渡しは知りたかったのに……長谷川。お前の知り合いとやらが何もかもブチ壊してくれたよ」

 

 「俺としては優人が解決しようが鳴海中将が解決しようが結果は同じだったから問題無いね」

 

 野井原も実際に妖力で学園中の生徒や教師に害を出してはいるものの、死者を出してはいなかった。

 そして野井原の内に潜む闇を滅せられた以上『今後人を襲う可能性は無くなった』という証明にも役立つだろう。

 最終的な判決は鬼斬り役の纏め役である土御門愛路が下すだろうがほぼ大丈夫だと思う。

 後は……

 

 「お前を倒せば万事解決!!」

 

 俺は崇徳上皇を指差して言い放つ。

 アイツを倒せばこの空間からも脱出出来るだろう。

 ここは一気に高威力の攻撃で決着をつける。

 故に現在の俺が放てる最高クラスの攻撃――――

 

 「(乖離剣(エア)もしくはエクスカリバーの出番だな)」

 

 転生してから今まで一度も使った事の無い乖離剣(エア)。昔一度だけ冗談半分で真名解放の真似事をしたら本当に真名解放出来た、エアに比べて一歩劣るが究極の斬撃を放つエクスカリバー。

 これ等の宝具なら――

 

 「悪いがもう私はお前と闘い(やり)合う気は一切無いぞ。望んだ形ではないとは言え、現実空間(むこう)側の決着がついた以上お前を異空間(ココ)に閉じ込めておく意味が無くなったからな」

 

 ――当たれば倒せるだろうと思っていた矢先に崇徳上皇が戦意を消して言ってきた。

 と同時に空間全体が波打つ様にグニャグニャと歪み始める。

 

 「な、何!?何が起きるの!?」

 

 九崎も周囲を見渡しながら困惑している様子。

 

 「チッ…!」

 

 俺は小さく舌打ちして九崎の側へ移動する。九崎に被害を受けさせないために。

 崇徳上皇め、一体何をするつもりだ?

 

 「別に身構えて警戒する必要は無いぞ。お前等をここから外に出してやるだけだ」

 

 空間の歪みが徐々に激しくなっていく。

 

 「じゃあなお前等。寄り道せずに家に帰るんだぞ」

 

 「「この状況で教師っぽい対応!?」」

 

 バイバイと手を振ってる崇徳上皇が腹立たしい。

 ムカつくから一発砲撃魔法でもブチ込みたかったが、それよりも先に俺と九崎は強制的に転移させられ、次の瞬間には皆がいる学園の運動場に居たのだった………。

 

 

 

 「……てな訳で俺と九崎は崇徳上皇の作り出した異空間に閉じ込められてたんです」

 

 「私は戦えないから長谷川君と冴ちゃんのバトルを見てただけなんだけどね」

 

 現実空間に戻って皆と合流した俺と九崎は早速先程までの出来事を説明していた。

 あれから鳴海中将の治療魔法に続いて俺も治療魔法を重ね掛けして怪我人を治したため、この場にいるメンバーは完治している。

 もっとも野井原だけは未だに意識を取り戻していないが。

 

 「しかし鳴海中将が来てくれて本当に助かりました。中将が来れず最悪の状況になりそうだった場合、切り札を切ってでも強引にあの異空間から抜け出さざるを得なかったので」

 

 その場合は乖離剣(エア)の広範囲攻撃に九崎が確実に巻き込まれる形になるし、俺自身の魔力も全て使い切る事になってただろう。

 エクスカリバーの真名解放なら多少魔力は残せるがあの異空間から脱出できる程の威力は出せなかっただろうし乖離剣(エア)と違って結界破壊の付加効果も無いしな。

 

 「もう少し早く来られたら君の友達を怪我させる事も無かったんだがね。その辺は申し訳なく思っているよ」

 

 申し訳無さそうな表情を浮かべた鳴海中将が頭を下げる。

 

 「いえ、お気になさらず。貴方に助けられたおかげで我々は誰一人死なずに済んだのですから」

 

 「そう言って戴けると助かります。改めて自己紹介を。時空管理局本局所属の鳴海理。階級は中将です」

 

 「鬼斬り役序列第壱位、土御門家の当主代行を務めています土御門愛路と言います」

 

 頭を上げた鳴海中将と土御門愛路が握手を交わす。

 

 「それにしても時空管理局…………ですか?組織の名称みたいですがその様な組織は聞いた事が有りませんね」

 

 そりゃこの世界には存在してない組織だからな。

 しかし鳴海中将が管理局の名前を出したという事は隠すつもりは更々ないんですね。

 まあ、俺が頼んだせいとはいえ、今回の件に関わった以上は幾らか管理局に関する情報は開示しないと鳴海中将が行使した魔法についての説明がつかんわな。

 正体不明の力として相手にいらん警戒心と不信感を抱かせるのも後味が悪い。

 俺も管理局所属の魔導師って事をくえす達に言わんといかん。

 ただ鬼斬り役から日本政府に情報が伝わるのは仕方ないが、極力情報は漏れない様に処理してもらわないと。

 けどこれで政府の方が管理局に接触しようとする可能性も出て来た訳で……。

 もしも地球の裏の世界についての情報とかも提供した日にゃあ……

 

 「(下手すりゃ地球も管理外世界から管理世界になるってか)」

 

 ハハッ………笑えねえな。

 こりゃ積極的に接触なんてしない様、土御門から政府へ念を押しておいてもらおう。

 

 「(まあ、それよりも今は……)」

 

 俺が視線を動かした先には未だ意識の戻っていない野井原を背負う優人の姿が。

 野井原を連れ帰って再び意識の奥底に潜り、呼び覚ますつもりらしい。

 危険はもう無いだろうけど土御門家の当主代行である以上、万が一の可能性も考えといけない土御門愛路は各務森姉妹立会いの下での許可を出したという訳だ。

 

 「九崎、ヤバそうだと感じたらすぐに連絡くれ」

 

 「分かったわ」

 

 九崎を呼び止め、そう伝えてから俺は鳴海中将と共に管理局の情報についてどこまで開示するか念話で相談し始めるのだった………。

 

 

 

 「あ~……疲れたぁぁぁ……」

 

 場所を変え、鳴海中将と共に管理局に関する情報を差し支えない程度説明して色々質疑応答を繰り返し、ようやく解放された頃には日が暮れていた。

 今回の一件はガス管からのガス漏れという事で処理され、風芽丘学園は一時休校。

 意味は無いが風芽丘にいた教師と生徒全員が一応病院に運ばれた。

 で、これに同行していない俺、優人、九崎は比較的症状が軽く、意識もハッキリしてたので一足先に検査を終え自宅へ帰されたという事になっている。

 後は管理局の方にも今回の件の事を報告しなきゃいけない。

 ただ妖云々の事について報告しても信じてくれるかどうか……。

 地上本部の方は大丈夫だろうけど、本局の方は結構魔法主義者が上層部に居座ってるからなぁ。

 ま、そっちは本局の英雄とも言える鳴海中将が直接報告してくれるだろうから信じてくれる人が0人ってこたぁ無いだろ。

 

 「ただいま~」

 

 とりあえず報告書書くのは明日以降で良いだろ。

 今日は疲れたので早めに休む。

 

 「あ、兄さんおかえり~」

 

 玄関で靴を脱いで洗面所に向かおうとした俺を出迎えてくれたのはジークだった。

 パタパタと足音を立てながら近付いてきたジークが俺に向かって何かを差し出してきた。

 

 「これ、郵便ポストに入っとったよー。兄さん宛てで」

 

 「ん、サンキュー」

 

 ジークから受け取ったのは何の変哲も無い大きめの封筒。

 父さんか母さん辺りから手紙でも届いたのか?

 と、思った俺だが差出人の名前は何と吉満だった。

 

 「アイツが俺宛てに出すって何なんだ一体……」

 

 封を切り、中身を確認すると

 

 

 

 『モブ!!以前より腕を上げた俺の料理を振る舞ってやるぜ!!だから絶対に来やがれ!!』

 

 

 

 と短く偉そうな文章が綴られた手紙と冊子っぽい物が同封されていた。

 どうやらこの冊子は吉満が通う学園で催される学園祭のパンフレットみたいだ。

 

 「ふむ……確かに吉満がどれだけ腕を上げたのかには興味あるな」

 

 料理を指導した身として現在の吉満の腕前を確認したいと思わずにはいられない。

 以前聞いた吉満のクラスの出し物はパンフレットで見る限り中華料理を振る舞うみたいだ。

 開催日の確認をするが――――俺の記憶に間違いが無けりゃ特に予定は入って無いな。

 

 「折角だし他に誰か誘っていくか」

 

 パタンとパンフレットを閉じて俺は誰を誘うか考え始める。

 けど吉満に会いたいと思うヤツ……いなさそいうだし。

 何せアイツの人生観変わる前の時の行動が――――ねぇ………。

 

 ~~あとがき~~

 

 この小説を読んで下さっている読者の皆様へ。

 カルピスウォーターです。長期間更新できなくて申し訳ありません。

 自分が働いている会社の指示で去年の9月頭から年末までと、今年の1月中旬から4月末まで他県へ出張していたため、自宅で執筆できない状況に陥っていました。

 出張先でもトラブル対応なんかに追われたりして正直最新話の内容を考えるヒマなんて全然無かったです。

 ようやく出張を終えて自宅へ帰って来た頃にはどんな内容を書こうとしてたのかほとんど忘れてしまいまして、今回投稿した最新話も多分出張前に考えていた内容と全く違ったものだと自分でも思っています。

 かと言って思い出してから書こうものなら何時頃投稿出来るか未定になると確信したので、お粗末な内容になりながらも新しく考え直してみた最新話を投稿しました。

 もし何らかの機会があって以前考えていた最新話の内容が思い出せた場合には今回の話を修正しようと思っていますので、その場合は改めて報告させて頂きます。

 今後も会社の業績や仕事の状況次第で出張に赴き、執筆できない状況に陥る可能性がありますが『執筆意欲が無くなってエタる』なんて事は無いと自分では思っていますので、それだけは信じていただけたらなと思っています。

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
14
9

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択