鏡とは、全ての真実を映し出す。
それは姿形だけでなく、その者の心すらも…
「―――これがそのロストロギアか?」
「あぁ、間違いない」
某次元世界、遥か上空。
何故か人間が歩ける白い雲。その上を歩き続けていく事で、二百式とawsは空の王国―――ヘヴンティアまで到着していた。しかし王国と言っても、あくまでこのエリアでのみ生息できる原生生物が多く存在しているだけで、王国という呼称はあくまで比喩的な物に過ぎない。しかし二百式とawsにとって、それは特に重要ではない。彼等の目的はあくまで、このヘヴンティアに何故か出現したロストロギア―――巨大な鏡の形状をしたそれなのだから。
「おかしな話だな。人間がとても住めないようなこの環境下に、何故こんなデカい鏡があるんだか」
「こんな鏡が出現した原因は私にも分からない……ただ、この鏡が出現した影響で、このエリアの原生生物達が凶暴化している可能性もあるのは確かだ。酸素が薄い空の上で過ごしている以上、ここの原生生物達は戦闘を好まない大人しい種しかいない筈なのにだ」
「…確かに、ここへ来るまでに妙に襲撃が多かったな。おかげで酸素スプレーが欠かせないくらいだ」
二百式とawsが振り返った後方には、彼等によって斬り伏せられたと思われる原生生物達があちこちに転がっている光景が出来上がっていた。中にはドラゴンのような姿の原生生物も倒れているが、こんな凶暴そうな外見の生物すらもこのエリアでは戦闘をあまり行おうとしないのだから、現在このエリアで起きている現象があまりに異常である事が分かる。
「しかし、それとこの鏡が関係してるとは考えにくいな」
「それは私も同じだ。しかし他に怪しい物が無い以上、もうこの鏡を疑うしかあるまい」
二百式とawsは改めて目の前の鏡を見据える。金色の縁に翼のような装飾が付いた巨大な鏡は、注意深く見たところで特に怪しい点は見当たらない。
「まぁ良い、さっさと封印して回収するぞ。こんな酸素の薄い所に何時までもいるつもりは無い」
「それは同意だな。イーラ、早速封印を―――」
-ピシピシピシ…-
「「ッ!?」」
その時だった。彼等が封印しようとしていた巨大な鏡が、突如として罅割れ始めたのだ。罅割れは上から下まで到達していき、その罅割れから謎の黒い瘴気のような何かが噴き出していく。
「何だ…!?」
「ッ…!!」
二人がすかさず戦闘態勢に入る中、噴き出した黒い瘴気は複数に分かれて二百式とawsの周囲に広まり、人型のような何かを形成していく。それは小さな呻き声を上げながら、まるでゾンビのようにヨロヨロと鈍い動きで二人に迫ろうとする。
『『『ウ、ゥ、ゥ、ゥ…』』』
「何だコイツ等、モンスターか…!?」
「何でも良い、一匹残らず駆逐するだけだ!!」
二百式が黒刀“竜王”を抜刀したのが戦闘開始の合図となった。二百式とawsは同時に駆け出し、迫り来ようとしている黒い人型を片っ端から斬り裂き始める。黒い人型はどの個体も斬撃をかわせず、次々と上半身と下半身を斬られて真っ二つにされていく。
「何だ、呆気ないな」
「雑魚共が、出て来なけりゃ良いものを…!!」
二百式の義手である右腕からワイヤーが伸び、黒い人型を1体捕縛。そのまま振り回す事で黒い人型の群衆を纏めて薙ぎ払い、吹き飛んだ黒い人型の内、何体かが再び瘴気となって崩れ落ち、一ヵ所に集まり始める。
「? 何だ……ッ!?」
「これは…!!」
『グ、グ、グ、グ、グ…!』
黒い瘴気が巨大な球状の物体を形成。その中央部分に巨大な目玉が出現し、赤い瞳を怪しげにギラリと光らせながら二百式とawsを捉えたまま、目玉から紫色の電撃を放ち始めた。
「うぉ!?」
「チィ、猪口才なマネを…!!」
その時…
「やあぁっ!!」
「「!?」」
罅割れていた鏡が光り出し、その光の中から何者かが飛び出して来た。その人物は右手に握った長剣で巨大な黒い球体を縦に斬り裂き、真っ二つにされた黒い球体は瞬く間に分散して消滅していく。
「!? 二百式、あれは…!!」
「…ッ!?」
黒い球体の消滅と共に、雲の上に華麗に着地したその人物。そして振り向いて来たその人物の素顔を……二百式は誰よりもよく知っていた。
「アリス、なのか…?」
「―――アハ♪」
露出の多い黒のドレスに身を包み、長い金髪を団子状に結んだ女性―――アリス・トーレアリアは、二百式の姿を見て妖艶な笑みを浮かべる。そのまま彼女は黒いハイヒールを履いた足で雲を蹴り、高く跳躍して再び巨大な鏡の中へと戻って行く。
「おい、待てアリス!!」
「ちょ、二百式!?」
アリスの後を追うべく、二百式も同じように巨大な鏡に向かって突撃。それを慌てて追いかけるawsだったが、巨大な鏡は二百式だけを中に突入させ、awsだけは鏡に弾かれて突入する事は出来なかった。
「痛った!? くそ、何故私だけ…!?」
そんなawsの愚痴を他所に、巨大な鏡は罅割れが少しずつ消えていき、最初の綺麗な状態に戻る。すると周囲に散らばっていた黒い人型の大群も瘴気となって消滅し、何も無かったかのような状況になった。先程までと違うのは、同行していた仲間が1人この場にいないという事だけだ。
「…二百式、お前は一体何処へ向かってしまったんだ…?」
「―――ん…」
その消えた仲間―――二百式は閉ざされていた目を開き、自身がいる場所を確認しようとしていた。
「!? ここは…」
そこは先程までいたヘヴンティアではなく、彼がよく知る海鳴市だった。しかし、それは海鳴市のようで海鳴市ではなかった。何故なら…
(…反転してる)
そう、何もかもが反転しているのだ。喫茶店“翠屋”の看板は文字が逆になっており、建物の並びも彼が知る海鳴市とは全く正反対。海鳴市で過ごしていた彼だからこそ、違和感にはすぐに気付けたのだ。
「なるほど……鏡の世界、という訳か」
彼が訪れた鏡の世界。
そこは不気味なほど、誰もいない静かな世界だった…
To be continued…
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短編?? 鏡の世界へ