No.888025

魔法の世界 第4話

MANAMさん

魔法の世界に飛ばされた女子高生 美南那美が秘密を解き明かす。

2017-01-09 12:30:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:202   閲覧ユーザー数:202

 昼休み明けの授業は『魔術理論』だった。その内容は『効果的な魔法陣の配置と、空間利用法』。空間利用法?これだ!何だか今の私にすっごく必要な授業のような気がする。もしかしたら〈元の世界〉に戻るためのヒントが見つかるかもしれない。

 よくわからない用語が出てきたりもしたが、何とか理解しようと頑張り、そしてホントによくわかった。

 この授業で〈元の世界〉に戻る参考になるようなことは一つも無かったってことが。

 無駄な努力をした時ほど、空しいものはない。今私の心には寒風が吹きすさんでいるよ。心が寒い…

「空間利用法って言うから、ちょっとは期待したんだけど…結界とか魔法陣を使った落とし穴の作り方とか教わってもねえ…」

 

 それにしても、お昼を過ぎて急に暑くなってきた。心に吹く寒風で体も涼しくならないものかな。

 頬杖をつき、もう片方の手で下敷きを団扇代わりに扇ぎ、窓の外を見てそんなことをブツブツと言っていると梢ちゃんがやってきた。

「どしたの那美?」

「んー?ちょっとねー…暑いし心の寒風で涼しくならないかと…じゃなくて、落とし穴の作り方とかじゃなく、空間移動する方法を教えてほしかったな?って…」

「そんなの高校で習うわけ無いじゃん」梢ちゃんはあっさり言いのけ、「大体、空間移動ってのはすっごく難しいんだから。世界でも数えるほどしか空間移動できる人は居ないんだよ?」

 

 え?そうなの?私の考えでは、〈元の世界〉に戻るためには空間を移動しなきゃいけないってことになってるんだけど…計画が狂っちゃうな…

「なんだお前。空間移動に興味があんのか?」

 口を挟んできたのはあの馬鹿だ。なんでここであんたがしゃしゃり出てくるかな?

「おいおい睨むなよ!折角情報をやろうってのに」

「くだらない情報だったら、女子スク水を着て校庭一周ね」

「なんだよ!その人生が社会的に終わりそうな罰ゲームは!まあいい。これは絶対の自信があるから」

「聞かせてもらおうじゃないの」

「どっかの会社が空間移動を出来る装置を開発して、もうすぐ実用化に向けた実験が始まるらしいぞ?それが出来れば、誰でも空間移動が出来るそうだ。空間移動は人類の夢だからな。早く実用化してくれればいいんだけどな」

 得意気に、そして少しわくわくしたような感じで情報を提供してくれた。

 

 はたしてこの馬鹿がこんなに輝いて見えたことがいまだかつてあっただろうか。いや絶対にない。今日出会ったばっかりだから。そんなことはともかく、何とも有益な情報を持て来てくれたものだ。これで〈元の世界〉に一歩近づいたんじゃなかろうか。

 私はこの有益な馬鹿の両肩をガッシリと掴んで一言。

「五十路君!あんたもたまには役に立つ!」

 

 

 放課後。

 

 私は梢ちゃんに一緒に帰ろうと言われたが断って、ある場所に向かった。

 それは、『科学部』の部室。

 『消しゴム野球部』は『消える野球部』に、『萌えサッカー部』は『燃えサッカー部』に、そして『囲碁卓球部』は、『囲碁卓球部』のままだった。

 果たして『科学部』は『科学部』のままなのか。それとも別のクラブに変わっているのか。

 

「出来れば科学部は科学部のまま残っててほしいけど…」

 

 結論から言うと、そのどちらでもなかった。

 部室はもぬけの殻で、『生徒達の唯一の良心』と呼ばれた『科学部』は、存在しなかった。数々のへんてこクラブは残ってるくせに、『科学部』が無いとはこれいかに。

 

 でも予想はしてたけどね。『魔法』と『科学』は相反するもので、『魔法世界』では『科学』というものは、迷信のようなもの…というのを、子供の頃何かの本で呼んだ覚えがあったから。

 

「でもせめて、何かのクラブと入れ替わっててほしかったな…」

 

 私は、『科学部』の看板があったであろうその場所を溜息をついてしばらく間見上げ、そして帰路についた。

 帰り道、あいつが言っていた空間移動装置のことを考えていた。

 空間移動装置で、〈元の世界〉に戻れるという確証は無いけど、自力で空間移動できないとわかった今、それが最後の頼みの綱だった。だけど、問題はまずどうやってその装置を使わせて貰うかだ。一介の高校生である私にその会社とのコネがあるはずも無いし、いきなり行ってちょっと使わせてね、と言うわけにもいかないだろうし。やっぱりここは、こっそり忍び込んでちょっぴり拝借するのが手っ取り早いか…

 

「ん?忍び込む…?どこへ…?」

 

 そうだ、私はまだ肝心なことを知らない。

 

「そもそも、その装置を作ったのは、なんて会社?」

 

 基本的なことでもっとも大事なことを失念していた。頼むにしても忍び込むにしても、その装置を開発したって言う会社がどこにあるかわからなくちゃ話にもならない。

 よし、ケータイで調べてみるか。…って、『魔法世界』にもケータイってあるの?何て思ったけど、鞄の中にちゃんと入っていた。

「ああ、そう言えば朝自分で入れたっけ」

 言いながら早速ケータイをネットへ繋ぐと、見慣れない画面が表示された。『マグネットへようこそ』。マグネット?聞いたこと無いな。磁石のこと?

 

 『マグネット』とは、『魔法世界』のネットワークサービス『マジカル・グローバル・ネットワーク』の略称で、通話もこのマグネットを介して行われる。

 『魔法世界』のケータイは『電話』では無く『念話』、つまりテレパシーで、いつでもどこでも、誰とでも、自分の魔法とは関係なしに念話出来るようにと開発されたのが携帯で、その念話を傍受されないように暗号化するために構築されたのが『マグネット』である。

 

 『マグネットの歴史』と書かれたリンクをクリックして得られた情報をまとめると、そういうことになる。今の私には何の関係もないけども。

 そんなことよりも今は空間移動装置を開発した会社を調べなきゃ。その会社が近くにあったらいいんだけど、遠かったらどうしよう…お小遣いは殆ど使っちゃったし…バイト探さなきゃいけないかな?

 

「『空間移動』に『会社』…と」

 検索フォームに入力し、0.5秒程して検索結果が表示された。

「うわ!すごい!『リゼイン社』って名前がズラッと出てる!きっとこれに間違いないね!…でもリゼイン社…?どこかで聞いたような気が…」

 思い出そうとしたが、「ま、いいか」とすぐに諦め、リゼイン社のホームページにアクセスしてみる。すると画面から映像が飛び出し、メニューが立体表示された。

「なにこれ?すごい!私のケータイってこんな機能付いてたっけ?」

 ケータイをいろんな方向へ傾け、立体映像を見てみる。横から見ると薄っぺらく、後ろから見ると文字が見えない。なるほど、ボタンの裏側ってことか。なかなか芸が細かい。しかし、見たことの無い技術を見ると、妙な感動を覚えるものだ。

 

「と、こんなことしてる場合じゃない。えっと…空間移動に関することは…これか」

 メニューの中に『空間移動装置』というボタンがあり、立体表示されているそのボタンに指を触れると映像が切り替わり、その開発された空間移動装置が表示された。もちろん立体。

 それは円筒形で、何の飾り気も無いシンプルな物だった。下の方に表示されてる説明には、直径一メートル、高さ四メートルと書いてあり、装置正面に付いた扉から中に入り使う物のようだ。腕とかにはめて使うものだと思ってたんだけど…これじゃあ忍び込んでこっそり拝借することは難しそうだ。

 

「…まあしかたないか…とりあえずこの会社の場所を調べて…」

 一つ前の画面に戻り、『会社概要』というボタンを押すと、会社の住所と最寄り駅の情報が表示された。それによるとリゼイン社は私の家から電車で二駅ほどの所で、バイトをしなきゃ行けない程遠く無い。とりあえずバイト探しは延期してもよさそうだ。

「よし、じゃあ次の休みの日にでも行ってみよう。それまでなるべくボロを出さないように気を付けないとね」

 

 ケータイをしまい、顔を上げると前方の塀に描いてある落書きが目に入った。まったく人の家の塀に落書きだなんて、私の家の近所にもそんな悪ガキが居たんだね。見つけたら懇々と説教してあげなきゃ。こう見えても私、高校に入ってから近所の子供達に一目置かれる存在になってるんだから。私の言うことなら多分素直に聞くでしょう。

 

 それにしても、よっぽど調子に乗ったのかあっちこっちに描いてある。…でもこの落書きどっかで見たことあるような…

「ああそうだ!これって魔法陣だ。なんでこんなに描いてあるのかな?魔除け?」

 ん…?おかしいな…朝私は、辺りを警戒しながら学校へ向かった。それはもう通報されてもおかしくない、挙動不審な怪しい人物のごとく、見回していた。そして気付いたことは、

 

 

 『あの鳥以外に非常識なものはなかった』ということ。

 

 

 つまり、学校へ行くときにはこんな魔法陣は描かれていなかったのだ。魔除けの魔法陣なら消す必要は無い。朝だけ消すというのも合理的ではない。

 

 嫌な感じがする。

 

 私は辺りを見回した。誰も居ない。風もない。音もしない。あるのはただ静寂だけ。

「あ…れ…?これって…すっごくヤバイんじゃ…」

 顔が強張り、血の気が引いていく。なんだか気温も下がったように感じる。

 次第に辺りが薄暗くなっていき、空も、町並みも、すべてが闇に染まった。

 街灯がつき、私をスポットライトのように照らした…

 

 

 その刹那――――――――――

 

 

 ドオン!という轟音が後ろから響き渡った。振り返ると民家の中から全長四メートルはあろうかという巨大な烏賊の化け物が現れ私の方を見ていたが、どう見ても友達になれそうに無い。

 

「うわあああああっ!」

 

 そういうわけで、握手など求めず、全力でその場から逃げ出した。烏賊は私を追ってくる。何で追いかけてくるの?私を食べたっておいしくないよ!

「なんなの!なんなの?っ?何で私があんな化け物に狙われなきゃいけないの?」

 烏賊は私を捕まえようと触手を伸ばしてきた。私は何とかそれを避けると烏賊の触手はそのまま民家の壁に突っ込み、そして破壊してしまった。

「あんなのに捕まったら絶対死ぬ!」

 辺りの物を薙ぎ倒しながら烏賊が迫ってくる。

 しかし、キツイ。最初から飛ばすとバテるのも早い。このままでは確実に捕まってしまう。そうだ、そう言えばこの先はT字路だ。それを利用すれば!

 

 私は力を振り絞りT字路までダッシュ。ギリギリまで走って行って、素早く右へ曲がると、追いかけてきた烏賊は曲がりきれず、勢い余ってそのまま民家に激突した。民家は崩壊し粉塵が巻き上がる。賠償金は烏賊に請求して下さいよ。私は一切関知しておりませんので!

「けほっけほっ…よ…よし…今の内に…」

 近くの民家の庭に駆け込み、烏賊に見つからないよう塀の側で身を屈めた。

 

「はあ…はあ…とりあえず…体力を回復させて…化け物がどこかに行くまで…ここで…」

 息を切らしながら、塀に入った亀裂の間から烏賊の様子を窺う。奴は気を失っているのか突っ込んだ体勢のまま動かない。よし、その間にこの状況のことを整理しよう。

「これって…結界…?そうだ…今日の授業で言ってた…空間の一部をコピーして人を閉じ込める結界だ…魔法陣も全く同じだし…何で気付かなかったの…」

 そして、一体誰が何のために私をこんな所に閉じ込めたのか。私は魔法も使えない人畜無害女子高生だよ?家だってそんなに蓄えがあるわけじゃない普通の一般家庭なんだから誘拐するメリットだって無いし、ましてや命を狙われる覚えなんて全く全然欠片も無い。

 

 ガラガラと音がした。烏賊の目が覚めたようだ。でもここは烏賊の位置から死角になっていて気付かれてはいない。烏賊はキョロキョロと辺りを見回し私を探している。

「ああー…私はいませんよー探しても無駄ですよー…だから早くどっか行ってよー」

 私は天に祈った。神様ー仏様ーお天道様ー…どうか助けてくださいー…すると烏賊はこちらとは反対の方向を向いて移動……せず、触手を振るいながら反転してきた。

 

「いやあああ!」

 

 祈りは届かなかった。神様と仏様はともかく、ここにはお天道様がいなかったんだ。

 触手は頭の上すれすれの所を通り抜け、塀や建物を吹き飛ばしていく。壊された塀の破片が当たって、腕や足から所々血が出ている。

 塀が壊されたことで烏賊に見つかってしまい、強制マラソンが再開。

「あああ?っ!出口はどこ?!どうやったら出られるの??何で授業では脱出方法を教えてくれなかったの?っ!」

 脱出方法を教えてくれなかった魔術理論の先生、恨むよ!

 

 私は逃げるが、烏賊はどんどんと追い詰めてくる。大して休むことも出来なかったのでもうふらふらだ。これは覚悟を決めて、烏賊の友達になるか、ご飯になるしかないか。

 と、進行方向に誰かが立っている。女の子みたいだけど…まさかこの烏賊を操ってる敵?

 

「は…挟み撃ち…?」

 

 人間どうしようもなくなって諦めると全身の力が抜けるみたいで、私はヘタヘタとその場に倒れ込む。後ろからは烏賊が迫ってくる。前方の女の子は手に氷の矢を作り出し投げる体勢に入っている。もうだめだ…

 女の子は氷の矢をもの凄いスピードで投げ放った。その矢は私の方に飛んできて、そして頭の上を通り越して追いかけてきた烏賊の頭に突き刺さった。烏賊は触手を振り上げた状態で私の手前で止まり、地響きを轟かせながら後ろに倒れた。

 

「あ…れ…?助かった…の?」

 体を起こし、その場に座って、倒れた烏賊を見て呆然としていると、

 

 

「ミナミナミ」

 

 

 女の子が不意に私の名前を呼んだ。いきなり名前を呼ばれるとビクッとするね。

 振り向いてその子を見てみると、私よりも頭ひとつ分くらい背が低く、綺麗な黒髪が背中の真ん中辺りまで伸びている、中学生にも見える女の子だった。でも私と同じ制服を着ているので、同じ学校の生徒みたいだけど、こんな子いたかな?見覚えないけど…まさか年上?

「あなた誰…?なんで私のことを知ってるの?」

 不審な目で見ながら尋ねると彼女は、

「私は、四季彩花(しきさいか)。靴下を左右違うものを履いているからといって、怪しいものではない」

 

「は?」

 

 突拍子も無いことを言われると、どのように反応をしたらいいのかわからないので困る。見てみると確かに四季彩花と名乗った彼女の靴下は、右が普通の長さ、左が膝上まである長さだった。何でそんな格好してるの?気にならないかと言われれば、気にはなる。

「これには深い理由がある」何も聞かないのに答えだした。「朝出かける前にタンスを見てみると、なぜか長さの違う物しか入っていなかった。私はなぜこんな事態になっているのかを考え、そして気付い…」

 

「いや、聞いてないし!」

 

 訳のわからないことを言う四季彩花さんの発言をバッサリと斬り捨て、私はゆっくり立ち上がり本題へ戻す。

「なんであなたは私のことを知ってるの?私あなたと会ったこともないけど?」

「あなた怪我してる」

 四季さんは私の腕や足の傷見つけ、自分のカバンからキャラクターの絵が描かれたかわいい絆創膏を取り出し、患部に貼ってくれた。

「あ…ありがとう」四季さんって結構いい人だね…「って!そうじゃなくて!私の質問にまだ答えてもらってないんですけど?」

「あなた、魔法を使ってみたいと思ってる?」

「ぐっ…!またスルーですか…まあいいわ…そりゃあ、使えるものなら使ってみたいと思うけど…今の私にはまだ…」

「じゃあ…はい」

 

 そう言ってポケットから取り出し渡されたのは百円で売っていそうなライターだった。そりゃあね、これを使えば誰だって火をつけることは出来ますけどね…

「あの…もしかしなくても私を馬鹿にしてる?こんなの魔法でも何でもないじゃない!」

 ワナワナと震えながら、四季さんにライターを突き返…そうとして、もう一度ライターを見た。何の変哲もないガスのライター。だが、何か違和感を覚えた。

 

「ねえ、四季…さん?このライターどこで買ったの…?」

「この世界にライターというものは存在しない」四季さんは淡々と答える。「なぜならこの世界の人間は皆、小さな火位ならライターを使わずとも作り出せるから」

「ちょっと待って!じゃあ何で存在しないはずのライターがここにあるの?」

「それは私が作った物。この世界ではただ一つだけのレア物。プレミアが付くかも」

 

 正直言って驚きを隠せなかった。作った?どうやって?見たこともない未知の物を…頭の中であれこれ考えて、そして一つの仮説が成り立った。

 

「あなたもしかして…〈元の世界むこう〉の人…?」

「違う。私は『魔法世界こちら』の人間」

 

 仮説はあっさり否定された。

「ここであなたの最初の質問。どうして私はあなたのことを知っているか。確かにあなたは不思議に思うかもしれない。だけど『魔法世界こちらのあなた』と私が知り合いだったとしても何も不思議なことはない」

「言われてみれば、確かに…じゃあ四季さんは、この世界の私と知り合いなんだ?」

「会ったことはない」

「ないんかい!」

 私は転びそうになりながらも、鋭くツッコンだ。

 

「私があなたを知っているのはもっと別の理由。私は〈元の世界〉と一方的なリンクを結んでいて、向こうの世界のことを知ることが出来る。そのライターも向こうの情報を元にこちらにあるもので生成した。この能力は世界でも私だけにしかない秘密の力。誰かに知られるとマズイことになる」

「私に思いっきり秘密を暴露してるけどそれはいいの?」

 

 四季さんは、あ…といった表情を浮かべて、慌ててカバンの中から紐の付いた五円玉を取り出し、背伸びして私の顔の前で揺らし始めた。あの…まさかとは思うけど…

「あなたは今のことを忘れるー忘れるー」

「忘れるか!」

 そんな素人催眠術で今聞いたことを忘れるほど、私のノーミソは劣化してませんよ。だけど四季さんは、今の催眠術で本気で忘れさせることが出来ると思っていたらしく、私が催眠術にかかっていないとわかってシュンとして俯いてしまった。これじゃ私が悪いみたいじゃない。

「はあ…まあ、秘密にしたいなら私も黙っておくけど…その代わり、知ってることがあったら教えて」

「わかった。知っていることなら話す。何でも聞いて」

 四季さんは五円玉を私に手渡しながら答えた。いや、渡されても…

 

「…まあいいか…それより…なんで私は『魔法世界』に飛ばされちゃったの?そのことについて何か知ってる?」

「なぜあなたは『魔法世界に飛ばされた』と断言できる?」

 また訳のわからないことを言い出した。

「いや…だから…ここは『魔法世界』でしょ?それで私は『魔法世界』の住人じゃない。ってことは飛ばされたとしか考えられないじゃない」

「もう一つの可能性、『元の世界そのものが魔法世界になった』というものがある」

「あ…そう言われればそうかも…でもそれって重要なこと?」

「とても重要。あなたの言った可能性と私の言った可能性では、同じ『魔法世界』であっても元の世界に戻るためのプロセスが違ってくる。間違った方の可能性で考えていたら一生戻る方法は見つからない」

 

 言葉が出なかった。四季さんの言った可能性のことなど全く一ミリも考えてなかった。もしそっちの可能性だとしたら、どうなるんだろう。頼みの綱である空間移動装置では〈元の世界〉に戻ることは出来ないってことになるんだから…世界が変わった原因を突き止めなきゃいけない…あれ?世界が変わった原因って何だろう?あれ?だったら〈元の世界〉に戻るのムリじゃね?あ、詰んだ…

 

 私の中に絶望感が広がっていく。そんな私に四季さんが一言、

 

「でも、まあ実際はあなたの言った方が正解だけど」

 

 四季さんの言葉でその場にへたり込んだ。安堵と呆れで力が抜けたのだ。

「あの…人をあんまり不安にさせないでくれる…?」

「ごめんなさい。でも今私は反抗期。ちょっぴり楯突いてみたくなる年頃…」

 この子と話してると、ホントに疲れる。話を本題に戻してくれる?

「あなたがなぜ『魔法世界』に飛ばされたか。それはただ巻き込まれただけ」

「巻き込まれた?何に?」

「時空ホール。〈元の世界〉と、『魔法世界』を繋ぐゲートのようなもの。それが昨日この街に単発的に発生した。あなたはそれに巻き込まれた」

「え…何でそんなものに巻き込まれちゃったの?」

 四季さんは、ん?…と考えるような仕草をして、

「日頃の行いが悪いから?」

「…叩くよ?」

 

 ライターを持った左手をグッと握り締め、突き上げた。

「今のは冗談。暴力反対。あなたはただ運が悪かった。そう思っていてくれればいい」

「運が悪かった…確かにそうかもね…じゃあ、どうやったら戻れるかわかる?」

「…………」四季さんは俯いて黙り、「戻るには時空ホールを発生させなければいけない。だけどそれはとても危険なこと。時空ホールが大きくなりすぎると、〈元の世界〉も『魔法世界』も無事では済まない。小規模な時空ホールを作り出し、それをコントロールする技術が必要になってくる」

「リゼイン社が開発したって言う空間移動装置を使うことは出来ないの?」

「わからない。私はその装置を見たことがないから。だけど可能性はある。時空ホールも元々は空間の歪みから発生する。空間移動も空間を歪めて実行するから」

「なるほど…やっぱりリゼイン社には行ってみる価値がありそうだね。ありがとう。参考になったよ。あ、それから、『魔法世界の私』ってどこに行っちゃったの?もしかして私と入れ替わりで〈元の世界〉に行っちゃったとか?」

「それは…あ、もう時間切れ」

 

 時間切れ?延長をお願いしたい。まだ聞きたいことが山ほどあるんだから。だけどそう言えば、さっきからパキパキと何かが割れるような音がしてるね。何か破片みたいなのも降ってるし。何だろうと思って上を見てみると、パキパキと音を立てて次々空間にヒビが入っていき、そして、パリンという音とともに結界は消え去った。結界の欠片が光になってパラパラと降り注ぐ。同時に太陽の光も降り注ぎ、今まで暗かったから少し眩しい。

 辺りを見回してみると、何もかもが元に戻り、烏賊に壊された家も、何事もなかったようにそこに建っている。

 

「じゃあこれで」

「あ!ちょっと待ってよ!」

「大丈夫。また学校で会える」

 そう言い残すと四季さんは帰って行った。

 

 何者なんだろうあの子。何であんなに事情に詳しいの?…まるで全部を知ってるみたい…

「あ…ライターと五円玉…」

 まあいいか、明日学校で返そう。

 

 あれ…そう言えば四季さん…なんで結界の中に居たんだろ…?

 

 振り返るとそこにはもう四季さんの姿はなかった。


 
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