No.887440

紫閃の軌跡

kelvinさん

第93話 三つ子の魂百まで

2017-01-06 00:12:35 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2058   閲覧ユーザー数:1886

~リベール王国 レグラム自治州レグラム市~

 

トリスタから列車を乗り継ぐこと約四時間半。リィンらA班のメンバーは無事今回の実習地であるレグラムに到着した。この時期は霧が出やすい気候というのもあってか、幾分か涼しい空気があたりを包み込んでいた。ほどなくしてアルゼイド家の執事を務めているクラウスがA班の面々を迎えに姿を見せた。

 

「相変わらずの隠形だな、爺」

「いえ、この歳になるとお嬢様らの成長を見届けるのが唯一の楽しみですので。とはいえ、そちらの方々は気付いておられたようですが、黙っていただいたようで感謝いたします」

「ふえ~、ボクも全然気づかなかったのに」

「それを見抜くアンタも本当にすごいと感心するよ」

「まー、ルドガーに関しては仕方ないが」

 

ルドガー、アスベル、そしてセリカはクラウスが近づいてくることに気付いていたが、あえて黙っていた。それすらも見抜いてきたクラウスの洞察眼には流石のルドガーも敬意を表してしまうほどに。ともあれ、ラウラとクラウスの案内でレグラム市内を歩くことになったのだが……この当主の娘であるからかラウラに近寄ってくる女子が多い。が、それ以上に

 

『あ、リィンお兄様! お久しぶりです!!』

『お兄様、ちょうど出来立てのパイがありますのでぜひ食べにいらしてください!!』

『お兄様、お久しぶりです。ううっ、感動のあまり泣いちゃいそうです』

 

このリィンの人気っぷりである。彼の手合わせがどこから漏れたのかは不明だが、本人の人柄の良さも相まってこの有様なのだ。これには正式な婚約者であるラウラも内心複雑な気持ちだ。

 

『公爵閣下ぐらい強くないと男として認められない』とでもいうかのように、大抵の男性に対して敵愾心を向けることが多い女子なのだが、A班のメンバーにはリィンと同様に認められた人物がいる。それは他でもない

 

『あ、アスベルさん。この後お暇があれば立ち寄ってください。試食をお願いしたいんです』

『まぁ、それぐらいならお安い御用だよ……リィン、お前がそんな表情向ける資格ないからな?』

 

アスベル曰くハッキリ言って恋愛感情はないに等しい。あくまでも『ラウラお姉さまやリィンお兄様に褒めてもらえるような努力』を後押ししているだけに過ぎない。下手に踏み込めばフラグ乱立待ったなしなのは転生前にいやというほど味わっているので。まぁ、セリカの例もあるので気が付いていないフラグがあるのかもしれないが、今更掘り起こす気にもならないというか何もできないのであるが。

 

その時にミリアムが見つけたのは鉄騎隊の彫像。“槍の聖女”リアンヌ・サンドロット……彼女についてはかなり不明瞭な部分が多いのも事実だ。彼女の率いていた鉄騎隊の一人を妻に迎えたヴァンダール家の人間ですらも、その全貌を知らないと以前セリカから聞いている。“原作”からしてもその辺の結論を出すにはまだ早い……それはひとまず置いておき、歩を進めることとした。

 

そんなやり取りを終えた一行が向かうのはレグラム領事館―――ようはアルゼイド侯爵邸ということとなる。その途中にある建物―――アルゼイド流の練武場の中から響いてくる剣戟と掛け声にリィンらの視線もそちらに向けられる。ラウラにしてみればなじみの深い場所、と説明をする。

 

「爺だけでなく、母上や兄上にもよく叩きのめされていた」

「ほっほっ、ご謙遜を。最近では坊ちゃまに勝ち越されるようになってしまいましてな。この老いぼれが剣を置く日も近そうなものです」

「ラウラさんのお兄さんって、スコール教官ですよね?」

「うむ。学院ではあまり剣をふるうことはないが、強さで言えばアスベルやルドガー、それとセリカに匹敵しうるだろう」

「ラウラの言葉に間違いはないと思う。純粋な実力ならトップクラスの腕前だからな」

 

元『執行者』という経歴もさることながら、それに胡坐をかくことをせず淡々と鍛錬を積み重ねる。それがスコール教官の強みということもよく理解している。ただ、ラウラの会話の中でミリアムが一番驚いていた部分があった。それは

 

「ん? ラウラのお母さんって元皇族の人だよね? そんなに強いの?」

「ああ。 兄上が戻る前は爺と同じぐらいよく稽古をつけてもらっていた。 未だにかすり傷すらつけられないほどの強さを持っている」

「普通はあり得ない話なんだが…皇族が自ら武器を持つというのは」

「母上はドライケルス帝のあり方を手本にしているというところもあるし、それに母上の父親―――私にとって祖父であるウォルフガング帝の教育方針の賜物、と本人は話していたが。まぁ、それは後にしておいて………改めて、ようこそアルゼイド侯爵邸へ」

 

ラウラの母親のこと。それはひとまず置いといて、ラウラとクラウスが先導する形でアルゼイド侯爵邸の中へ入ると、彼らの姿を見つけたようにまるで少女のような声がかけられる。

 

「あら、予定通りですね。ラウラ、お帰りなさい」

「母上!? というか、そのエプロン姿は…」

「せっかくのお客様に、将来の息子までいるとなれば私自身が腕を振るわない理由がありませんもの。仕上げはヨーゼフさんにお任せしてますが」

「え? ええ? この人がラウラのお母さんなの?」

「え、えと、アルフィン皇女殿下、ではないんですよね?」

「………」

「ユーシスさんが絶句するって……あ、お久しぶりですアリシアさん」

「ノルドの時の反応以上というべきだな」

 

ミリアム、エマ、ユーシス、そしてガイウスの四人は初対面とはいえこれには流石に驚きを隠せないであろう。先ほどラウラの会話に出てきていた事実もあるのだが、それ以上に元とはいえ皇族自ら料理の腕を振るうということ自体天地がひっくり返りそうな衝撃なのだろう。

 

「初めまして。アリシア・A・アルゼイドと申します。皆さんのことはラウラからのお手紙でいろいろ聞いております。ああ、あと私はもう皇族ではございませんので、気軽にさん付けでお願いしますね。そして、お久しぶりですねアスベルさん」

「お久しぶりです、アリシアさん」

 

ともあれ、時刻的にはお昼の時間ということで本人曰く簡素的ではあるが近くの湖で釣れる魚を使ったスープパスタをいただくこととなった。そのお味は言わずもがな大好評であった。そのまま食後のティータイムということとなり、それと合わせて今回の実習についての説明を受けることとなった。

 

「さて、今回の実習についてですが、今までの流れからすればこの館の主である夫か私が課題を渡すことになるとは思いますが……今回はその道のプロフェッショナルの方にお願いしてあります」

「プロフェッショナル、ですか?」

「はい。広場に遊撃士協会レグラム支部があります。今回の実習課題についてはそちらの方にお願いをしております」

 

今までの実習課題のジャンル的には妥当な流れ、ともいえるだろう。その話題が出るとリィンらの視線は当然一点に集まる。その対象は言わずもがなアスベルであった。

 

「なんでこっちを見る。今回の実習課題の内容を聞かれても俺は知らないぞ」

「いや、遊撃士協会と聞くとどうしてもな……」

「S級正遊撃士なら、それぐらいはコネあるんじゃないの?」

「意味が解らん。というかミリアム、しれっとその事実を公衆の面前で言うな。次余計なこと言ったら本気でひっぱたくよ?」

「アスベル、その笑顔は逆に怖いからやめろ」

 

ともあれ実習課題を受け取るために一行は広場にある遊撃士協会レグラム支部へ向かうこととなった。帝国において最近ではあまり見なくなってしまった遊撃士の存在。その一方で元帝国領(現リベール領)であるレグラムには昔ながらの支部の建物が健在している。ここ最近で言えばバリアハート支部が一年前に廃止。ミリアムが『遊撃士の特性は権力者からすれば厄介』とでも言いたげな発言にはさしものアスベルも目を細めたが咎めるようなことはしなかった。その論理で“鉄血宰相”は遊撃士の大幅な活動制限を実施したのは紛れもない事実なのだから。

 

「―――ったく、聞いてりゃ言いたい放題だな」

 

そう言って遊撃士協会の建物から顔を出したのは金髪の青年。五月のバリアハート実習の時に面識があった一部のメンバーは言葉を交わさなかったにせよすぐに思い出したようだ。

 

「久しぶりですね。というか、今は一人だけです?」

「いや、“あの三人”が時折ヘルプに来てくれてるからな。っと、そういや自己紹介がまだだったな。遊撃士協会所属、トヴァル・ランドナーだ。よろしくな、サラやラグナの教え子たち」

 

その青年―――トヴァルの案内でレグラム支部に入ると、受付にいる青年が笑顔を浮かべて声をかけてきた。

 

「トヴァル、その子たちが?」

「ああ。サラやラグナの教え子たちだ。とはいえ、一人例外がいるんだが…」

「勝手に例外扱いしないでください。お久しぶりです、シドさん」

「久しぶりだね、アスベル君。ふふ、君がそういう立場にいるってことは大変な立場ということだね。ここの支部の受付をしているシドだよ。短い付き合いになるけど、どうかよろしくね」

「よろしくお願いします、シドさん」

 

そして受付の青年もといシドの説明ののち、ひとまず実習課題のはいった封筒を代表であるリィンに手渡した。その過程で帝国の遊撃士の活動事情や鉄道憲兵隊がらみの話題と相成った。

 

『クレアのこと? すっごく頼りになるよねー。忙しそうにしてるから、恋人はいないみたいだけど。あ、でも最近身だしなみを磨いてるんだよね』

『本人の許可なくプライベートの話しちゃアウトだろ、それ』

 

大幅な活動縮小を強いられた遊撃士の代わりに鉄道憲兵隊がその仕事を担っている……ただ、元々治安維持を目的としている組織に遊撃士のような多種多様な依頼をこなせるのかということに対しては、アスベルの答えは『NO』と言わざるを得ない。

 

『権力になびかない』遊撃士の特性ゆえに一般市民らは信頼して依頼できる強みがある。鉄道憲兵隊はそのバックに“革新派”つまりは“鉄血宰相”の影響力がある。仮に貴族が鉄道憲兵隊に何かの困りごとを解決するために依頼したとなれば、他の貴族からすれば『革新派になびいた裏切り者』と受け取る人が出てくる可能性が高い。オズボーン宰相はその辺りの内部分裂も狙ったうえでの施策だとは思うが。それが帝国内部だけで済むのならばこちらとしても火の粉は被りたくないが、現状は帝国外にもその影響が波及している非情な状況だ。

 

「おっと、そういえばアスベルさんにはちょっと別件を頼みたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「…悪いけど、そっちは頼む」

「おう、任された」

 

そしていざ実習に移ろうとした時にシドに呼び止められたアスベル。ここで自分が抜けてもルドガーとセリカの二人がいる以上余程のハプニングが起きない限り問題はない……そう結論をだし、リィンらを実習に向かわせたのを見届けると、アスベルはシドのほうに向きなおる。そして彼は先ほどの笑顔ではなく真剣な表情を浮かべた。

 

「リベール王国からアスベルさんに依頼、とのことです。報酬については後日となりますが、明々後日の西ゼムリア通商会議の護衛をお願いするとのことです」

 

シドから手渡された封筒から書類を取り出し、一通り目を通したアスベルはなんとその場で書類を握りつぶして『燃やした』。これにはシドのみならずトヴァルも驚きを隠せない様子を浮かべた。

 

「すみません。こればかりは残すのが拙いものなので。で、他にも仕事が?」

「最近、国境付近に魔獣出現の報告が多くて、討伐任務がかなりあるのです」

「……まー、あいつらにだけ苦労を押し付けるのはよくないので、それぐらいでしたらやりますよ」

 

 

あけましておめでとうございます。今年も不定期ではありますが更新はしていきますのでよろしくお願いします。

 

気が付いたら今秋にⅢですか……PS4というのが手を出しづらい……舞台を見る限りクロスベルも出るようですので、そこらへんも期待ですね。聞くに空・零・碧の面々も出てくるようですので。

Ⅲのリィンの服装がパッと見アスベルのイメージ服装とかぶったのは私だけでいいです。

ちなみに、更新速度の関係で未確定ですが、閃Ⅱ編あたりで閃Ⅲが出ていたらその辺りの新キャラがしれっと混じってるかもしれません(ぇ


 
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