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真・恋姫無双 新約・外史演義 第06話「燃える時代へ」

koiwaitomatoさん

【麗羽・詠・初登場回】
黄巾の乱編開始!

2016-11-06 00:54:19 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2209   閲覧ユーザー数:2043

 

 大陸全土を治める漢王朝。

 漢の頂点である帝を有し、この国の中央集権を担うは首都洛陽。

 ここは大陸全土の政を取り仕切る洛陽の宮廷内の一室である。

 薄暗い室内を僅かに照らす蝋燭の灯りに五つの黒い影が映し出される。

 その中で両足もしっかりと映し出される影は四体分だけ。

 両手両足を縛り上げられたまま床に転がされた薄汚い格好の男と、それを忌々しそうに見下す少女。

 「信じられないわ。まさか内側に……この国がここまで腐敗していたなんて」

 少女が苛立たしげに声をあげる。

 「太尉殿。この事は…………」

 「――っ! 隠蔽するしかないじゃない。こんな事が外に漏れたら漢王朝の権威は失墜……いいえ、国が終わりかねないわ」

 

 真・恋姫無双 新約・外史演義 第06話「燃える時代へ」

  

 話しは少し前に遡る。

 

 宮廷内の一室で少女が机の上に広げられた木管に一心不乱に文字を書き込んでいる。その姿はサービス残業に追われるサラリーマンを思わせるようだ。

 空は完全に暗闇に包まれており時間にしたら深夜零時をとっくに超えている。この状況ならば誰だって早く帰って休みたいものだろう。だが、机の上に積み上がった大量の木簡が“おやおや~、賈詡くんは終わっていないのにもう帰るの?”と嫌味ったらしく主張をする。

 いや、彼女は課長や係長に嫌味を言われるほどの下っ端ではない。

 漢王朝太尉、賈詡文和。

 深夜残業に勤しむ、この賈詡こそが軍における最上級の肩書を持つ。とは言え、階級にあぐらを掻くことなく勤勉に仕事こなす姿勢。他の役人たちも見習ってもらいたいものだ。

 実際、宮廷内でこんな時間まで働いている役人は彼女を含めて二人だけだった。

 

 「終わった……次は……東方の税収と治安についての報告書ね」

 ぶつぶつと独り言を漏らしながらも仕事を処理していく賈詡。

 「失礼します! 大尉どのに重大な報告が」

 ――っ! こんな時間に一体何よ。

 次の木簡に目を通そうとした時、一人の兵士が執務室に慌てた様子で飛び込んできた。

 「先ほど、宮廷内に侵入した賊と思わしき男を一名確保しました!」

 「そう……では、すぐに牢に繋ぎなさい。それと、その程度の事は僕に直接伝えなくてもいいわよ。今後は気をつける様に」

 宮廷に忍び込むとはなかなか度胸がある賊もいるものだ。だが、前例が無かったわけでも無いし、太尉に直接持ってくるほどの話でもない。

 「……いえ。それがその賊の男ですが、 封諝 ( ほうしょ) 殿の知り合いであると騒いでおるのです。正直どうしたら良いものかと―― 」

 ――なっ!

 「封諝って…………それは間違いないの?」

 「は! 間違いなくその名を口に―― 」

 兵士の口から出た人物の名前に思わず耳を疑い聞き返した。

 とんでもない大物……なるほど、警備兵が僕の所に確認を取りに来るわけだ。

 どちらにせよ、直接確認して真偽を確かめないと。

 「今すぐ、この部屋に連れてきなさい! なるべく人目に付かないように!」

 

 執務室まで連行されてきた男は屈強な兵士たちに押さえつけられながらも激しく抵抗をした。男が犯した罪は宮廷への不法侵入。前例に照らし合わせれば死罪は免れない。

 だが、男は抵抗しながらひたすら叫ぶ。

 俺は封諝殿の知り合いだぞ!と、こんな事をして後でどうなるか分かっているのか!と、封諝の後ろ盾がある事を主張してこちらを恫喝を続ける。

 「はあ……しかたがないわね。コイツが素直に話せるように可愛がってあげなさい」

 「え! よろしいのですか……」

 「責任は全部僕が持つから。口が利ける程度にやっちゃって」

 こういうのは趣味では無いし僕の仕事でも無い。でも、封諝の名を……十常侍の名を口にした以上は徹底的に調べる必要がある。

 そして、屈強な兵たちの肉体言語を使った説得により、男は素直に取り調べに応じることになる。

 ――だが、その供述はとんでもない内容だった。

 所属、封諝との関係、宮廷に侵入した目的……あまりにも予想外の話に賈詡はもちろんのこと、取り囲む兵たちも動揺を隠せないでいた。

 

 話は冒頭に戻る。

 

 「内通者を出来る限り吐かせなさい!……事が済んだら速やかに処理しなさい。いいわね……」

 兵たちにそう告げて執務室を飛び出す賈詡。

 漢の中枢に近い権力者が賊と繋がっている――?

 いや! 役人と不正が切っても切れないものだという事は誰でも知っている事だし、それは歴史が証明している事でもある。だけど――

 「あいつら、この国を壊す気なの……」

 滅びの予兆とはこの事なのか? 

 漢より以前の時代……かつてはこの大陸に栄えた王朝たちがある。ただ、そのいずれのもが国の腐敗と民の反乱から滅びの道を辿った。

 役人たちの腐敗と民による反乱……まるで示し合わせたかのような滅びへの終結図。

 「あらあら、これはこれは太尉殿ではありませんの。また、ずいぶんと慌てた様子でいかがなさいまして?」

 この件をどうするべきか。今後の対応を考えながら廊下を歩いていた賈詡の耳に不意に聞こえてきた声。

 「また、ずいぶんとお疲れのようではありませんの。何か心配事でも?」

 声の主が金髪縦ロールを揺らしながらこちらに近づいてくる。夜も薄暗い廊下でも光を放つ豪勢な金色の鎧は彼女の財力と地位の高さを表していた。

 「――ちっ! 袁紹、あなたとは違ってこっちは暇じゃないのよ。宮廷での様が済んだのなら早く冀州 (おうち) に帰りなさいよ」

 袁紹本初。声をかけてきた少女は漢でも屈指の名門貴族さま。だけど、今は貴族さまなんぞにかまっている暇は無い。

 「な! あ、あなた、このわたしになんという口の聞き方ですの! 四代に渡り三公を輩出した名門猿家の、この、このわたくしに対して!」

 「ああもう! 今はあなたにかまっているほど暇じゃ無いの。そっちと違って現役の三公は忙しいのよ!」

 そんなに三公がうらやましいなら今すぐにでも譲ってあげたいくらいだ。地位欲が強い人間だという噂は耳にしていた。けど、ここでのんきにお家の自慢を聞いている余裕は無いの。早いところ手を打たねば。

 賈詡はヒステリックに叫ぶ袁紹を無視してこの場から離れる。後ろから大声で喚く声が聞こえてくるがかまっていられない。

 「僕が何とかしないと。月に知られる前に僕が……」

 この時はまだ知らなかった。

 袁紹本初という女が大の宦官嫌いだという事を。

 袁紹本初という女のプライドの高さを読み違えていたという事を。

 この事件が、後の大きな騒乱に……大陸全土に広がる大きな争いに繋がることをこの時点では誰も知らない。

 「まったく! あの田舎者風情が…………あら、何でしょう? お部屋から何か物音が―― 」

 

 

 

 「え、洛陽に行け?」

 「ええ、すぐに準備なさい」

 お日様が地平線から顔をのぞかせたぐらいの時間に俺は曹操さんに呼び出された。場所は昨晩の受験会場となった所で、実は曹操さんの執務室だそうだ。

 昨日の今日で睡眠不足……四時間ぐらいは眠れただろうか。

 「ずいぶんと急な話だな。そもそも洛陽ってどこにあるんだ」

 「そこに地図があるでしょ」

 朝の挨拶もそこそこに洛陽に向うように言い渡される。どうも、これが俺に与えられた初仕事らしいのだが……。

 「えーと、洛陽だから。ここか……まあまあ近いんだな」

 「あら。あなた、字が読めたの?」

 「俺のいた国でも漢字は使われていたからな。漢字で書いてある地名とかならなんとなくは読めるよ」

 それに、三国志を読んでいる人なら洛陽は基本知識だしね。まあ、それはともかくとして――

 「で、洛陽に行けって何をしに行くんだ?」

 「今朝方、早馬でこんな物が届いたのよ」

 そう言って、懐から一通の書簡を取り出してこちらに渡してくる。読めという意味らしい。さて、内容は……うげ!?

 「…………う、ゴメン。文章は無理だ」

 本格的な漢文なんて読めませんから。

 「はあ……仕方が無いわね。内容は―― 」

 内容は賊たちの討伐要請らしい。

 ここ最近になって急激に活発化しているそうで、洛陽周辺だけでなく大陸全土でその兆候が見られるとの事。

 まあ、この時期の賊と言えば某宗教団体系列のイエローキャップさん達しか考えられないのかな。

 「なるほど。つまりは賊の活動が広がる可能性があるから、悪い芽を早めに摘み取ってしまおうってワケだ」

 「そういう事みたいね。この丞相の董卓と言う人物……事無かれ主義の宮廷役人と少しは違うみたいね」

 ……董卓か。

 やっぱり、都で暴政を強いているんだろうな~……出来る男なのは間違いないんだろうけどさ。

 「そういうワケで陳留からも治安維持部隊を捻出しなければならないの。春蘭たちにはすでに部隊の編成をさせている所よ」

 「話は理解した。だけど何で俺なんだ? 昨日の試験で夏侯惇に全く歯が立たなかった訳だし……」

 「春蘭の一撃を受けて生きているだけでも大したモノよ。それに与える任務は現地の民からの情報収集。賊の討伐を頼むわけじゃないわ」

 「情報収集って……洛陽に何かキナ臭い話でもあるの?」

 「洛陽もその一つね。他にも荊州と豫州でも賊による被害が増えているそうよ」

 賊の跋扈。そして、この時期に曹操さんが動くとなれば、もう間違いないのだろう。

 「一刀。わたしはね、今回の件は何かの前触れだと考えているの」

 そうだ。ここが歴史の大きな分岐点……。

 「近年になって賊の活動が活発化しているのは周知の事実。だけど丞相自ら各地の諸侯に討伐の檄を飛ばすなんて事は今までは無かったわ」

 「宮廷が重い腰を上げたのには何か意味があると?」

 「周の文王。項羽と劉邦。そして、赤眉の乱…………あなたは知っていて?」

 それは、かつて起こった歴史の分岐点……。

 「漢が滅ぶかは別にして、歴史の転換期に突入しているとは思うの。当然、わたし以外にもそう感じている者はいるでしょうね」

 そこまで言い切ってから、ニヤッと不敵な笑みを浮かべる曹操。

 三国志の序章……そして、曹孟徳の覇道への第一歩目。すなわち『黄巾の乱』が今、始まろうとしていた。

 「……わかった。さっそく仕度を整えるよ」

 「お昼までに正門の前に集合。活動期間は十日ほどを予定している。何か質問とかある?」

 質問かー……あ、そう言えば!

 「調査任務って言ってたけど……まさか一人でやれとか言わないよね」

 「……あのねぇ。従軍経験の無い人間にいきなり一人でやれなんて無茶を押し付けたりはしないわよ。麗羽じゃないんだから」

 ……ほっ。良かった。どうやらそこまでブラックな企業では無いみたいだ。ただ、その麗羽という人はさせるみたいだけど……。

 「あなたには『虎豹騎』の指揮下に入ってもらうわ」

 おお! 虎豹騎……っ、それってまさか!

 「それって、曹純が指揮官の騎馬隊だよね」

 「あら、知っているのね。天の国ではあの娘も有名なのかしら」

 「魏の中でも有名所の武将だよ」

 「そう……まあ、いいわ。とにかく、お昼までに準備を整えて合流してちょうだい。詳しいことは柳琳から聞きなさい」

 どうやら、これで話は終わりのようだ。

 さて。正午までに正門前に集合との事だが、この時代の時間設定は日か水で測るらしい。実にアバウトだ、と言うしかないがこれは仕方ない。こんな事なら腕時計も一緒にこの世界に持ってこれたのなら、と愚痴をこぼしたくなる。

 ただ、今が早朝なのは間違いないので時間に多少の余裕はある。そうと決まれば朝ごはんを食べにいくしかない。

 ――だが、気になる事がある。……いや、ずっと気になっていた事があったんだ、この部屋に最初に入った時から!

 「あの……曹操さんのお肌がだいぶツヤツヤしている気がするんだけど。昨日の今日だからあまり寝ていないはずだよね」

 「あら、気がつくなんて意外と目聡いのね。そうねぇ……ツヤツヤしているのは“気持ち良いコト”をしたからよ」

 「気持ちイイこと……ああ、そうっスか。じゃあ、俺はこれで」

 ……何となく想像が付いた一刀。軽くショックを受けながも平静を装い、執務室から退室するのであった。

 いや、身近な女の子のそういう事情ってさ……何かイヤじゃない? いや、別に曹操さんに気があるからってワケじゃないんだよ。いやいや、強がってなんかいないし!ツンデレてるわけじゃないし!勘違いしないでよね!

 

 

 

 曹操さんから偵察部隊への編入指令と男の純情破壊を頂いた一刀は宿舎に戻ってきていた。

 食堂で朝食をすませて部屋戻るところである。正午まで時間を潰すにしても外はまだ肌寒い。室内で時間を潰そうかと思い廊下を歩いているところで……彼女と鉢合わせた。

 「あふぅ…………ふぁれぇ? 北郷さん、こんなに早くに……どこかに出かけるんですか?」

 寝ぼけ眼の鄧艾ちゃんが隣の部屋から出てきた。起きたばかりなのだろう。寝癖のついた髪とあくびでこちらに挨拶をしてくれた。

 「おはよう。さっき曹操さんに仕事を頼まれてね。ちょいと洛陽まで出かけることになった」

 「洛陽ですか。それはまた急な話ですね。曹操さんから頼まれたんですか」

 「そうなんだよね。俺もいきなり仕事をすることになるとは思っていなかったしなー……十日ぐらいだけど」

 そう、しばらくは陳留を離れることになるのだ。少し寂しく……も無かった。正味一日しか滞在してないもんな。

 「十日……あの、今すぐ出かけるんですか?」

 「いや、お昼までに正門前に集合って話だから、部屋でゆっくりするつもりだよ」

 「そうですか。じゃあ、しっかり準備を整えてくださいね」

 「おう」

 旅支度はたしかに大切。長旅をしていたという鄧艾ちゃんの言葉には納得だ。とは言え、持って行く荷物なんて一個も持ち合わせていないのだけど。

 「それと、お顔の腫れも大分引いたみたいですね」

 「鄧艾ちゃんのおかげでね。その節はありがとうな」

 昨夜の治療の話になり、改めて礼を言う。三人組の賊たちにフルボッコにされた代償としてお顔が●ンパンマンになりかけるも、彼女の鍼灸のおかげで元に戻ったわけだ。いやいや、本当にありがたい。

 「いえ、お気になさらずに。それじゃあわたしは部屋に戻って休みます」

 「あれ、まだ寝るの? 少し早いけど起きたほうが健康にいいと思うよ」

 部屋に戻ろうとする鄧艾ちゃんに思わず声を掛けた。たしかに昨日は遅くまで起きていたから睡眠が足りないのはわかるけど二度眠はあまり宜しくないかと。若いんだしね。

 「……はぁ。昨日は恩知らずの誰かさんと追いかけ回して疲れました。おかげさまで睡眠不足なんですよ、北郷さん」

 ―― OH!

 そう、曹操さんたちの試験が終わった後に“色々”と親交を深め合う機会が訪れ、そのまま、陳留の街中で鬼ごっこをしたんだっけ。実に微笑ましい思い出になった、がジト目で批難してくる鄧艾ちゃんがそこに……。

 「じゃ、じゃあ、ゆっくり休んでねー。良いお土産があったら買ってくるからー」

 「――あっ! もう……全く」

 居たたまれなく……もとい、暫しの別れを惜しみながら街へ向って走りだす。

 集合の時間までどうしよっかな~……寒い。

 

 

 

 【人物・用語・解説】

 

 【賈詡文和】

 恋姫無双シリーズのヒロイン。眼鏡がトレードマークの僕っ子軍師で漢の太尉殿。ただ、原作を見ても三公の役割をすべてこなしているように見えるので実は全職を兼任しているのでは?と思う今日この頃。恋姫シリーズでは董卓との百合疑惑が出るくらいLOVEチックな二人ですが史実ではあんまり……。ここ一番での離間の計、時流を的確に読む力、智謀に富んだ軍師であり優秀な人物なのだが、もう一人のカクさんがあまりにも目立つ功績を残しているためか『地味なほうのカクさん』、『郭嘉じゃないほうのカクさん』と残念な評価に。

 

 【袁紹本初】

 恋姫無双シリーズのヒロイン。「おーーーーほっほっほっほ!」お嬢様笑いと金髪縦ロールでおなじみの四代に渡って三公を輩出した名門袁家のお嬢様。袁紹を美少女化したらこうなるだろうみたいなお手本ではあるが…………さすがにこれはやりすぎだろ!真・恋姫無双では不運系のキャラだったが日常が中心のスピンオフ作品では一転して超強運キャラにジョブチェンジ。史実の袁紹も曹操さえいなければ天下を取れたみたいな所もあったので不運系キャラには納得かも。トマト的には友達にしたい恋姫武将NO、1!

 

 【太尉】

 三公の役職の一つ。軍事・軍務を司る。現代の日本で例えるなら防衛大臣。

 

 【丞相】

 三公の上の役職。君主(帝)の代わりに国政の全てを司る。国家元首の全権代理で各大臣のトップと言う意味では日本の総理大臣に似ている役職。もちろん権限には天と地ほどの差はありますが。

 

 【周の文王。項羽と劉邦。そして、赤眉の乱】

 周の文王→殷を滅ぼし周を建国。項羽と劉邦→秦を滅ぼし(前)漢を建国。赤眉の乱→新を滅ぼした。う~ん……20年も持たなかった王朝を国としてカウントするべきなのだろうか?

 

 【虎豹騎】

 史実では曹操の精鋭騎馬隊で曹純が預かり部隊運用することになり、官渡の戦い、鳥桓討伐戦や荊州平定戦などで多大な戦果を挙げる。曹純と張遼の2枚看板か…………人材ユニットのチートだな。次回はこの虎豹騎隊が“虎たち”と遭遇します。

 


 
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