No.873467

『舞い踊る季節の中で』 第171話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 陳宮キックが今日も夏の空の元に響き渡る中、一刀は彼女達と解り合える日を迎える事が出来るのか?


続きを表示

2016-10-08 16:40:54 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2455   閲覧ユーザー数:2067

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第171話 ~ 夏の夕陽に漂いしは、心優しき娘達の魂の心音 ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊、セリフ間違い、設定の違い、誤字脱字があると思いますが温かい目で読んで下さると助かります。

 この話の一刀はチート性能です。オリキャラがあります。どうぞよろしくお願いします。

 

 

【北郷一刀】

  姓:北郷

  名:一刀

  字:なし

 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

 

 武器:鉄扇("虚空"、"無風"と文字が描かれている) & 普通の扇

   :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(現在予備の糸を僅かに残して破損)

 

 習 :家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、

   :意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

 得 :気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

   :食医、初級医術

 技 :神の手のマッサージ(若い女性は危険)

   :メイクアップアーティスト並みの化粧技術

 術 :(今後順次公開)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀視点:

 

 

「あっちは、果樹園にする予定と。

 ん〜…、悪くはないんだけど、本当になにも育たなかったの?」

 

 油断するととんでもない冗談に巻き込まれるものの、基本的には理路整然とした七乃の説明に、眉をしかめる。

 別に七乃が嘘をついていると言うわけでも、質の悪い何時もの冗談では無い。

 むろん七乃の出した案が悪いと言うわけでもない。

 山側で斜面と言うわけでもなく、特に水捌けが悪いほど低い土地と言うわけでもなく、見た目は緩やかな傾斜はあるもの真っ平らに近い荒れ地を、畑ではなく果樹園にするという事に違和感を感じただけのこと。

 別に現代ならそう言う事もあるけど、この時代の平地にはなるべく田畑を置き。山側には段々畑や千枚田と言われる土地の使い方をする場合もあるけど、基本的には土砂崩れを防ぐためもあって根をしっかり張るものを植える。

 そう言うわけで、いくら作物が育たないからと言って、畑にする事を諦めて果樹園に切り替えるというのはもったいないと思うのは至極普通の感想だと思う。

 

「栽培歴は?」

「豆は半分程の収穫がやっと。小麦と大麦は背が低く、穂が着いても実の入りも少ないそうで。

 青菜系は育ちにくいし、米も出穂すらせずに終わってしまった事もあるそうで、果実系も幾つかの種類で良かっただけで、全然実を付けない物もあったそうです」

「なに、それ?」

「ええ、本当に困ったもので、流石の私も、こんな困った土地は聞いたこともありませんよ。しかも小川が近くを流れているので水不足という心配もないというおまけ付きです。

 と、言うわけで、何とかなる方法があるなら、ちゃちゃっと出してくださいね」

 

 見渡す限りの広大な畑。

 表向きは天の世界の知識を用いた新たな農業方法の開発と試験と言う名目で、美羽と七乃が出入りしている孫家所有する荘園の一つ。

 二人に任せっぱなしになっていたと言うか、桃香達のドタバタに巻き込まれ、帰ってきたと思ったら恋達と大立ち回りのあげくに重体。振り返ってみれば、いろいろあって少しも見に来れなかった二人の努力の結晶の一端を見て廻るのと、相談に乗れることは乗ってあげようと、朝からこの荘園に来たわけだけど。

 ……いきなり、そんな無理難題を言われてもな。

 いくら天の世界の知識があると言っても、所詮はテレビを見たり、祖母ちゃんが生きていた頃、家庭菜園を手伝っていたくらいで、本当に困っている畑を何とか出来る程の知識と経験は俺にはない。

 でも、畑を見れば手入れがされているのは、地面を見れば何となく分かる。

 育ちが悪くとも何とかしようと、何度も何度も耕し、水捌けにも気を配って畑を作った形跡が見受けられるからだ。

 確かに七乃の言うとおり果実なら一部は育つと言うのなら、確かにその選択も在るだろうけど。それでお腹が膨れるかとか言われたら厳しいだろうな。この時代の果実はあくまで副業の一つで、片手間でやるものであって大々的にやるものじゃない。大量に生産をしても、それを捌くための物流手段も保存手段も限られてくるからだ。おそらくは実った果実の大半がドライフルーツという乾物の一種として出荷しようという計画なのだと思う。

 

「草は生えてるから、砂漠みたいな不毛の大地というわけじゃないよな」

「ええ、これでもかと言う程生えてくるそうですよ」

 

 そんな意味不明な土地を、どうにかしろとか言われても分かるかーーーー!

 と思わず頭を抱えて叫びたくなる。そもそも俺は専門家じゃないんだ。俺が教えて欲しいくらいだ。……って、ちょっとまてよ。

 

「雑草は良く生えるとか言ってたよな?

 なら、生えている雑草に近い品種の物なら育つんじゃないのか?

 それに、周りの荒れ地や山々に自生している野菜とかなら」

 

 野菜と言うのは元々人間が勝手に決めつけている物で、本来は自然に生えている物を人間が自分達が好む物を長い年月を変えて栽培に適した形にしていったもの。

 そして野菜というのは畑に必ず出来ている物ではないし、畑でなければ育たないという物ではない。本来は自然に自生していた物だし、鳥や獣が畑の野菜を食べ、その糞に混じった種が自然と芽を出し実を付けることも多々ある。 これだけ自然豊かな土地だ。探せば幾つか出てくるに違いない。

 さっそく、連れてきている兵士さん達にもお願いして周りを探索して貰う。

 種類さえ特定できれば、種は何とかなる。此処の荘園の人達では無理でも、今の俺の立場を利用すれば手に入れれないことはない。

 そして俺の立場を利用した職権乱用ぶりに、不満の声を漏らすのは…

 

「まったく、兵をこのような事に使われては、(それがし)の立場としては文句の一つでも言いたくなるもの」

「あはははっ、すまない。 でも此処なら襲撃の可能性なんて無いに等しいだろ」

「可能性の有無を問題しているのではないと、某は言っているのです」

「でも、君が側にいるから大丈夫。違う?」

「相変わらず口だけは達者ですな」

 

 俺の言葉に高順(こうじゅん)は呆れながらも、周りにいっそう気を配っているのが、美羽と同じぐらいの小柄な背丈の高順が放つ気配からも分かる。

 言葉ではどうこう言いながらも、仕事に対しては実直なこの娘は、こう見えても一廉の将。

 しかも天下の飛将軍、呂奉先が鍛え率いる武威五将軍の一人。

 その実力は思春もそれなりに認めており、そこらの野党の十人や二十人なら、彼女一人で余裕で叩き伏せれる程。

 はっきり言って、今日連れてきている兵士さん達全員より、彼女一人の方が強かったりするわけで、当然ながら単純な強さだけで言うなら、俺なんかは足下にも及ばない相手。

 

「恋が君を信用して俺達の護衛を任せたのだから、俺も安心していられるって言うのは本当の事さ」

「……ふん。当然のことだ。某は恋殿の期待を裏切ったりはしない」

 

 頼もしいかぎり言葉を素直に有り難く受け取っておく。

 うん、それにしても彼女も随分と変わったと感じる。俺に対してそれなりに刺々しかったり手厳しかったりするのは相変わらずだけど、こうして周りを警戒する気配に触れるだけでも、以前の彼女とは違うのが分かる。 …いや、正確には変わったのではなく、本来の彼女に戻りつつあるんだと思う。

 長い間、連戦に次ぐ連戦や緊張の連続が続けば、いくら超人的な肉体を持つこの世界の将だって、本来の自分を見失いかける。特に彼女のようなまだ精神的に成熟していない年端もいかない子ならそれは尚更のこと。

 そう言う意味では、雪蓮は良い意味でも悪い意味でも、配下の将兵達の緊張を解していたと言える。 笑顔もそうだけど。俺の場合、呆れさせたり、苦笑を浮かべさせたりする事の方が多かったけど。緊張を解すという意味では十二分にその役割を彼女は果たしていた。 かなり傍迷惑で、そう言う意図の自覚のない行為では在ると強く付け加えさせて貰うけどね。

 とにかく、短い間とは言え荘園での穏やかな生活が彼女の心を休ませ。そして成長させたのだろう。

 

 

 

 結局、あの後、幾つか見つけた野草や自生していた、蕪菁(かぶ)などをはじめとする幾つかの野菜から試してみるという話で、済んで良かった。

 より生産性が高く、安定した食糧の確保の方が優先されている以上、少しでも使える畑は有効活用すべきだからね。

 

「まったく、お人好しにも呆れるですね。

 そんな事など村人にやらせれば良いだけのこと。兵達の仕事ではないですぞ」

「あははは、みんなには悪かったと思っているよ。でも、みんなでやれば早く終えれるだろ?」

 

 高順以上に口喧しく言うのは、高順と同じくどう見ても小さな子供にしか見えない陳宮なわけで。

 彼女は高順と同じく呂布の臣下の一人で、自称呂布の懐刀にして個人軍師。

 因みに、恋や何人かの武威五将軍は此処にはいない。 色々と訳あって、手薄となっている建業の街の守備に就いてもらっている。…と言うか、高順達も本来はその任に就いていたのを、俺が無理を言って借りてきたという方が正解かな。

 本当は恋がついて来たがっていたけど、流石に現在主力である恋を建業の守りの任から外すわけには行かないので、お留守番を無理矢理お願いした。その代わりに恋が自分の代わりにと俺に付けたのが……彼女なわけで。

 実際、高順を始めとする武威五将軍を呂布の代わりに実質的に指揮する程の才気に溢れた人物で、即断即応するセンスと戦術に特化した軍を指揮するという一点においては、冥琳も一目置く程。

 

「そう言う問題ではないのですぞ!

 こんな事を恋殿に知られたなら」

「たぶん、みんな頑張った。とか言うと思う」

「お前が言うななのですっ! しかも、その通りだろうと思えるのが一段と腹が立つのです!」

 

げしっ!

 

「うぉっ!」

 

 背中に襲いかかる衝撃と重さに、思わず前に蹌踉けそうになる。

 蓮華の執務室での時のような蹴りではなく、彼女の見た目通りの軽い威力しかもたない飛び蹴り。

 何度も俺に防がれた彼女が、俺と俺の周りを観察して見つけた答えがこれ。

 主に祭さんや思春、ついでに冥琳達がしているように、俺に少しでも非があり。尚且つ洒落で済む威力なら俺が躱さないと見抜いてからというもの、何かにつけてはこうして攻撃される日々だったりするわけだけど。

 俺としては、妹がこれくらいよりもう少し小さい頃の頃が、こんな感じだったから、懐かしいというか思わず温かい目で見てしまうわけで。

 

「なにを気持ち悪い目で音々を見ているですか!」

 

ごすっ!

 

 今度は正面から腹に一撃。流石に腹は痛いので、とっさに彼女の足を掴むという形で両手で受け止める。

 気持ち悪いという言葉には全力で反論したいが、とりあえず今は……目を逸らす。

 言うまでもなく彼女は、小さな子供と思える程にかなり小柄なわけで、俺の腹を蹴りつけようとすれば、当然ながら思いっきり足を上げることになる。

 陳宮からしたらショートパンツを履いているため、気にせずに俺に暴行と言う名の悪行を働けるつもりなんだろうけど。 ……その、何というか、やっぱりこれだけ足をまっすぐに上に蹴りを出されれば、その隙間からはっきりと下着が見えるわけでして……。うん、今日は薄い若草色か。

 そして、自分でも分かっていることだけど、急にこう言う不審な挙動を取れば、相手に気取られるのは当然なわけで。

 

「こ、こ、こ、このエロの御遣いがっ!」

げすっ!

「おごがっ!」

 

 顔を真っ赤にした陳宮が、俺に掴まれていた足を軸に、こんどは逆の足が俺の顎を襲う。

 高順達のような将と違って、見た目通りのごく普通の筋力しか持たないはず(・・)の陳宮だけど。今の攻撃は全身のバネを使った見事な一撃だったことを、俺は意識を半ば朦朧とさせながら地面に倒れながら、やっぱりこの世界の将は、武将文官など関係なしに常識が通用しない事を文字通り痛感する。

 

 

 

……がくりっ

 

 

 

 

「ああ、酷い目にあった」

「自行自得だと思いますが」

 

 困ったように苦笑を浮かべながらも、容赦の無い辛らつな言葉を放ってくれるのは、本日、来ているメンバーの中で唯一の良心とも言うべき存在である愛さんこと張楊(ちょうよう)。彼女も武威五将軍の一人であり、侯成(こうせい)宋憲(そうけん)以外の武威五将軍の中で母親的存在。

 いや、たしかに愛さんの言うとおりなんだけどね。それにしたって陳宮の放つ蹴りは時折恐ろしい程の切れを放つよな。なにせ攻撃の初期動作どころか、体内の"氣"や筋肉の動きを無視していきなり放たれるんだぞ。いくらこの世界の将が人間離れした超人だと言っても、彼女のあの蹴りは有り得なさすぎだろ。飛将軍と呼ばれる恋ですら、そんな真似は出来ないし、俺も今までに見たことも聞いたこともない。

 

「いや、俺だって別に悪気があった訳じゃ。…その不可抗力というか」

「そう言うことではなくて、(あるじ)は過剰に反応しすぎだと言っているんです。

 あの娘だって、幼い容姿をしているとはいえ年頃の娘なんです。あんなに反応されれば気にして当然なんです。

 ごく普通に、そのまま流してくだされば、あの娘を必要以上に怒らせる事も……多分無いと」

「其処ははっきり否定してくれると嬉しい気がするんだけど、…いえ、良いです。彼女に嫌われていることは俺が一番理解しているから。

 それに流石に俺が面の皮が厚くても、女の娘の恥ずかしい姿を、知らない振りしてニヤニヤ見るのは気が引けると言うか、卑怯だと思うしね」

 

 無論、これが見せてくれているというのなら俺も男だし話は別だけどね。

 あいにくと、その辺りの事は小さい頃から、妹や家に出入りしていたお姉さん達にしっかりと躾けられたので、今更変えろと言っても早々に変えれるものではない。はっきり言って殆ど条件反射だからね。

 だと言うのに、愛さんは、はぁ〜と深く溜め息を吐いたあげくに、困った子供をどう言い聞かせれば良いかのように少し思案した後。

 

「とにかく、今の所、(あるじ)がそう言うつもりではないと言う事は、十分に信頼していますから」

 

 信頼という有り難い言葉ではあるものの、何処か釘を刺されたように聞こえるのは俺の気のせいでしょうか?

 と言うか、その【今の所】とか【つもり】とか言うのは、いったいどういう意味なんでしょうか?

 うんやめよう。考えると自分が惨めになるきがする。ここは深く考えるのは止めて、素直に愛さんの言葉を受け取ることにしよう。

 そこへ……。

 

がんっ!がんっ!がんっ!

 

 重く甲高い音が、辺り一面へと響き渡る。

 別に野党や敵の襲撃を知らせる合図ではない。

 無論火事や危険生物が山から下りてきたという知らせでもない。

 

「さぁ、音々が昼餉の準備が出来たと言っていますから行きましょう。

 あまり遅いと、また言葉だけではなく、身体全体を使って怒ってきますよ」

「うへっ、それは勘弁してくれ。

 って言うか、俺は一応弁当持ってきてるけど」

「え? そうなんですか?」

「まぁ、いただけるなら。両方食べるくらい平気だけどさ」

 

 と言うわけで、陳宮が主となって作り上げた料理の内、汁物だけを有り難くいただく。

 

「うん、美味しい」

 

 流石は愛さんが何時かの宴の準備の時に言っていただけはある。

 陳宮が作った皆の昼餉は、急いで作っていたように見えた割には、十分に味が染み込むように気を配って調理されてある。これなら野外ではなく、きちんとした調理設備のそろった調理場なら、そこいらの調理人より腕は立つのは確かだな。

 しかも、この味付けからすると、宮廷料理とか予約のいる料亭とかよりも、もっと大衆的な味付けの方が得意なんだと分かる。

 こう言うのは、どちらかというと俺の好みの味付けだよな。何と言うか、飲み込んでからこう心の奥でどこか安心する感じがする。

 普段の言動だけでなく、この料理だけ見ても、間違いなく陳宮は将来良いお嫁さんになるんだろうなと納得できる。

 彼女は気が強かったりはするものの、基本的には面倒見が良いし、口喧しいのも一応は筋は通ってはいるし。そう言う意味でも、彼女が一番家庭的だという愛さんの言葉は大げさでも誇張でもないんだろうな。

 

(あるじ)よ。そんな冷めきった御飯などをわざわざ食べなくとも」

「だって、残したらもったいないじゃん」

 

 愛さんが、困ったように苦言してきたのは、俺の手の中にある御握りのこと。

 蜀で食べた蕎麦の時でもそうだったけど。基本的にこの世界では、ある一定以上の身分の家では、冷めた米と言うのは、下位の使用人や召使いが食す物だったり、調理場や調理器具も無い貧困層の人達が、分けて貰って食べる物と言う意味合いが強かったりする。

 将である以上、愛さんも戦場で空腹とか糧食が乏しい経験をしており、冷めた米を食べること事態を軽蔑しているわけではなく。

 単に愛さんや周りの兵士さん達が炊きたての米を食べているのに、自分達の(あるじ)である恋の、更に(あるじ)である俺が冷めた米を食べていることが体裁が悪いし、周りに対して示しがつかないと言っているだけのこと。

 うん、それは分かるんだけど。これだけは俺としても譲れない。

 なぜなら今の季節は夏。きっと、今、食べなければ御握りは傷むに違いないからだ。

 それが分かっていて、このまま御握りを食べないなんて選択肢は俺にはない。

 だいたい日本人の(さが)かも知れないけど、お米を粗末に扱うことは出来ないし、祖母ちゃんや祖父っちゃんからも、そう躾けられてきた。

 

「ぬほほほほっ、(ぬし)様は其処の侏儒が炊いた飯よりも、(ぬし)様の作った冷めた米の方が美味いと言っているだけのことじゃ」

「な、なんですとっ! と言うかお前に侏儒呼ばわりされる謂われなど無いのですっ!」

 

 ……なんで、其処でそう言うことを言うのかな。いや、美羽としては自慢したいだけだって言うのは分かっているんだけどね。だから、その証拠に……。

 

(ぬし)様の炊いた米はとても美味しいのじゃぞ。

 しかも(ぬし)様の作るお弁当は、ちゃんと冷めた後のことも考えて作ってあるのじゃ。

 ほれ、心優しい(わらわ)は、妾のを少し恵んでやるから、確かめてみるが良いぞ」

 

 と、自分の分の御握りを陳宮と高順にそれぞれ一つ差し出している辺り、素直じゃないというか。多分、他に表現の仕方を知らないだけなんだろうな。

 

「うぉ! 本当だ。美味いっ! って言うか、中におかずが入っているぞ」

「ぬぐぐっ、………た、確かにこれは」

「そうじゃろそうじゃろ。(ぬし)様の炊く米は、ものすごく手間が掛かっておるのじゃぞ」

 

 別に手間と言う程手間は掛かってないんだけどね。

 でも、此方の世界のお米の炊き方に比べたら、確かに幾つか手間は増えてるけど、日本人ならまずやっていること。 大きく違うと言えば、研ぎ方と吸水と蒸らしかな。後は此方では柔らかめに米を炊くことが多いと言う事ぐらいだ。他にも地域によっては米を茹でるという方法をとっている所もあるけど、それはそれ。

 三人の様子に触発されてか、愛さんも気になるのか、その視線が俺の手にある御握りに集中する。

 それにしてもこういう可愛い系の人が、唇に指を当てる仕草って反則だよな。多分、これが最後の一個だとしても俺は差し出すに違いない。

 と、言うわけで、

 

「食べてみる?

 大丈夫、足りなくなったら、そっちの御飯を食べるからさ。

 それにそうなったらそうなったで、愛さんの言うことも聞くことになるしね」

「そう言う言い方、狡いと思います」

「あはは、そうかも」

 

 でも、ちょっと拗ねたように言うのも狡いと思うのは俺だけか?

 愛さんのそんな可愛い表情と素直に竹皮にの中にある御握りに手を伸ばしてくれる姿に、俺は素直に微笑む。

 

「あっ、本当に美味しい」

「うん、この世界の炊き方だと、どうしても糠臭さとかが残るし、冷めると余計にその臭さが際立ってしまうんだ。 それに本当に美味しく炊いたお米って言うのは、炊きたてよりも、むしろ冷めた方が米の本当の味が分かると言う人もいるぐらいさ。

 まぁ、それは人それぞれだろうけど、大切なのは米の炊き方一つをとっても多くの先人達の工夫や知恵が親から子へ、そしてまたその子へと伝承され続けてきたと言う事。そしてそのおかげでこうしていられると言う事。

 もっとも、そう思えるようになったのは、この世界に来てからなんだけどね」

 

 俺にとって当たり前の話を、愛さんは優しい瞳と笑みで大人しく聞いてくれる。

 この国の未来でも、持て余している領地の話どころか、愛さん達の将来の話ですらない。本当にたわいのない話を。その姿に明命がもう少し大人になるとこんな雰囲気になるのかもと、我ながら目の前に美人を置いておいてそんな失礼な感想を浮かべてしまう。

 

「ちなみに、今日は御主人様が炊いたわけではないんですけどね」

「ぬぉっ!なんじゃとっ、……つまりこれは」

「ええ、むろん私ですよ」

「ぬがーーーーっ! これは、その……」

 

 七乃の一言に、有頂天になっているところから一気に地面に叩き落とされた上、陳宮達にどう誤魔化そうとしどろもどろになる美羽を、心から楽しげな瞳で見守っていた七乃は頃合いだと言わんばかりに。

 

「この七乃、お嬢様のためなら、いくらでも成長して見せます。

 私の力はお嬢様の力。どうぞ誇ってください」

「そうじゃ。その通りじゃ! ぬほほほっ、臣下である七乃の業績は(わらわ)の業績なのじゃ。

 ぬほほほほっ! 飯を炊く事一つとっても、(わらわ)は侏儒には負けぬのじゃぞ」

「うるせぇ!てめえが炊けるようになってから言えってのっ!」

「やり方さえ判れば音々だってこれくらい出来るのですっ!」

「ぬぉっ! 敵わぬからと言って、力で来るなんて狡いのじゃ! 七乃、(わらわ)を助けるのじゃ!」

「え〜〜、嫌ですよ」

「のぉぉぉ〜〜〜っ! 今いくらでも成長してみせると言ったばかりではない。その力で何とか」

「無理です。

 だいたい陳宮さんだけならともかく、武官である高順さん相手に私が何とかなるわけ無いじゃないですかぁ。そう言うわけで、自分で何とかしてくださいね♬」

「ぬなぁ〜〜っ!」

 

 ………相変わらず美羽を可愛がっているのか、からかっているだけなのか計りかねる七乃の態度に溜め息を吐きながらも、陳宮と高順も本気で美羽を懲らしめようとしているのではなく、頬を引っ張り合うと言う、どちらかというとじゃれ合っている姿に、自然と笑みを浮かぶのを止められない。

 この姦しくも微笑ましい光景だけを見ても、彼女達が来てくれて良かったと思える。

 家族を失い、二人だけの世界にいた美羽と七乃が、少しずつだけど外の世界へと歩んでいるのを感じる事が出来るのだから。

 

 

 

 

 

 

 慌ただしくも楽しかったと言える昼食が終われば、当然ながらお仕事が待っているわけだったりするわけで。

 天の知識を用いた荘園全体の運営や、用水、道路や崖の整備計画などの確認と同時に、俺自身は、この世界の今のやり方の勉強を兼ねて問答を交えながら見て廻ったりしてるんだけど、これが意外に面白い。

 この世界の技術レベルを考えたらよく考えられていることばかり。と言うか、現代では道具が発達しすぎたため、失われた技術や知恵があったりするんだなこれが。現代のやり方に比べたら原始的だと斬り捨てたら終わりだけど、今この世界の技術と現代の技術を繋ぐもの。…いいや、目指すべき姿を捉えながら新たな技術の模索。

 無論、中には呪いじみたたものも多かったりしはするんだけど。それはそれ、其処に至る歴史や文化があったりするから、一概に否定はできない。少なくともそう至る経緯の説明や、当たり前すぎて説明できないことも、そう至った理由を想像すると楽しかったりする。

 

「へぇ〜、結構、分蘖(ぶんけつ)したね。穂も良い具合に出ているようだし」

「本当に不思議ですよね。使った種籾は随分少ないはずなのに、例年以上の育ちようだそうですよ」

「その辺りは、土壌に含まれる単位面積あたりの栄養素の吸収率の問題とかだろうね」

 

 七乃の質問に、出穂した稲の重みに頭を垂れ下げ始めた田んぼの光景を眺めながら、答えてやる。

 専門家では無いので詳しいことは分からないけど、理屈としてはそんな所のはず。

 実際、この世界に普及している直播きと、今回の田植え方法では収穫量としては、さほど変わらないらしいと言う程度の知識を知っているだけ。

 ただ、現代社会で教育を学んだ者ならば、手で直接植えることで、根を深く張りやすくしてやる事で倒れにくくなったり。その強く張った根から栄養を土地と水から吸い上げやくなることぐらいは、少し考えれば分かること。

 何より、一株一株を一定間隔を開ける事で風通しを良くする事で、病気になりにくくしたり、病気を広がることを防ぎやすくなることが大きい。

 飢饉が続いているこの世界において、最低限の食糧を確保する技術、それが一番求められている物なのだと思う。

 

「主様、あっちの方も見てたもう」

「はいはい、今、行くよ」

 

 美羽が陳宮を巻き込みながら、俺を誘いにくる。

 俺という存在に迷惑そうな陳宮とは対象に、嬉しそうな美羽の笑顔に此方も自然と笑みが浮かぶ。

 七乃と二人っきりだった美羽の世界が、広がっていることが嬉しく感じる。

 もっとも、七乃は七乃で、その光景に少し複雑そうな笑みを浮かべてはいるけど、その瞳に浮かぶのは、

 

がっ

 

 ……はい、足を引っ掛けられました。

 邪推するなって事なんだろうけど、こんな小高い農道で足を引っ掛けるだなんて危ないだろうが。

 そう目で訴える俺に七乃は……

 

べー

 

 俺に向けて小さく舌を出す姿に、今度は苦笑が浮かぶ。浮かぶけど。

 うん、可愛いから許す。 って、違う!

 いや違わないけど、どうでも良くなったのは本当かな。

 

「主様、早くなのじゃ〜」

 

 其処へ再び、美羽が俺を誘う声が聞こえてくる。

 しょうがない。今だけは、こっちの小さな姫様の付き合う事を優先するかな。

 

「そんな急ぐと危ないぞ」

 

 誰かさんに足を引っ掛けられたこともあり、ついついそんな言葉が出る。

 そっちに行くまで少し待ってくれとね。

 

「これくらい大丈夫なのじゃ、うきゃっ」

 

 まったくっ、言わんこっちゃない。

 足下の草にでも足を取られたのか、蹌踉け出す美羽はとっさに、握っていた陳宮の手をいっそう強く握りしめたは良いけど、陳宮とて美羽と同様に小柄な体型、とっさの加重に耐えられなかったのか、一緒になって蹌踉けだし。

 

「ね、音々を巻き込むなです」

「そんなこと(わらわ)のせいでは無いのじゃ」

 

 少しの間、耐えてはいたものの。

 踏ん張ろうとワタワタ動かしていたしていた美羽の足下が坂に掛かるやいなや。

 

すべっ

「ぬわっ」

「手を離すですぞ」

 

 一気に転げはじめる。

 幸い坂道と言っても緩やかだから問題ない…・ってやばいっ!

 俺は緩やかな坂の先にある物に気がつき、駆け出す。

 

ぼとんっ!

ぼちゃん!

 

 かといって間に合うわけもなく。

 鈍く響き渡る落下音。

 

「七乃! 愛!」

 俺はとっさに上着を脱ぎ、七乃に投げ渡しながら覚悟を決める。

 二人が俺の掛け声の意味を理解すると信じて。

 

「うぅ」

「な、なんじゃこれは」

 

 生温い泥のような感触に手を腕ごと突っ込むなり二人を引き上げる。

 幸いなことに小柄な二人、これくらいの体重ぐらいなら、俺でもなんとか抱えて走れるか。

 

「臭いのじゃ、なんなのじゃこの泥は」

「さ、最悪なのですぞ。と言うか気安く音々に触るななのですっ!」

 

 こんな時にまで吐かれる陳宮の悪態に、流石の俺も黙れと言いたくはなるが、今は我慢だ。

 そんなことをして一気に酸素を使い果たして呼吸していたら、覚悟が萎えちまう。

 だいたい我慢はお互い様だ。

 二人が滑り落ちた先、それは人の排泄物を肥料に変えるための装置と言えば聞こえは良いが、早い話が肥だめ。しかもまだ発酵が済んでいないため、匂いがきついわ、感触が気持ち悪いわと最悪。

 とにかく、早くこの匂いと感触から離れたいこともあって、俺は二人を抱えたまま近くの川まで駆ける。

 幸い田んぼに水を引くため川までは50メートルほど。

 整地されていないとは言え、今の俺でもなんとかなる距離。

 

ばしゃっ!

ばしゃんっ!

 

 服が濡れるのも構わず川に入り、水が膝下の所まで来たところで、二人をそのまま川の中に落とす。

 流石にいくら軽いと言っても二人を両脇に抱えたまま此処まで走ったため、静かに下ろす余裕がないというのもあるが、

 

「いきなり何を、むごっ」

「うきゅっ」

 

 頭を水面に上げた二人を再び水の中に押し戻す。

 無論溺れさすためではないので、すぐに二人の頭を持ち上げ、息を吸ったのを確認するなり再び水の中に沈める、そんなことを数回したのち、

 

「口の中を良く濯いで洗うんだ」

「主様、酷いのじゃ」

「おまえは、音々達を溺れさせる・」

「いいからしろっ! これは命令だっ!」

「ひぐっ」

「ぐぐっ」

 

 混乱する二人に、俺は思わず怒鳴ってしまう。

 確かにいきなり水の中に放り込まれ、何度も頭を水の中に突っ込まれれば、虐待以外の何物でもないかも知れないけど、この際方法論を言い合っても仕方がない。

 あとでいくらでも謝ってやるから、今だけは言うことを聞いて欲しい。

 

「ううぅ、口の中が気持ち悪いのじゃ」

「ぺっぺっ」

 

 なんとか、言う事を聞いてくれる二人を、そのまま後ろ向きにするなり。

 

「ぬなっ!」

「な、な、な、なっ!」

 

 二人の文句など聞かずに、一気に服を引っぺがす。

 むろん、まだまだ服に沢山こびり付いている汚物を取るためもあるんだけど、

 

「二人は其処で身体をよく洗うんだ。これも命令だ」

 

 今は文句を聞く気は無い。

 陳宮あたりは後が怖いけど、発酵が済みきっていない肥溜めには、強い雑菌が多くいるから、此処は非常事態と言う事で勘弁して欲しい。

 だいたい、服をひっぺがしたと言っても上着だけ、下着までは引っぺがしたわけではない。

 俺が、岸側を向いているのを確認したのか、バシャバシャと水音が聞こ出したことに安堵の息をつく。

 落ち着いて周りを見れば岸側や、周囲の要所要所には女性の兵士さん達が二人の裸体を衆人環視に晒さないため、見張りに立っている所を見ると、七乃と愛さんは二人は俺の意図を理解してくれたみたいだ。

 ……もっとも、岸ではその二人が、いかにも怒っていますと言った感じで仁王立ちしていたりするんだけどね。

 

 

 

 

 

 

がたごと

ぎしぎし

がたごと

 

 不規則ながらも規則的になる馬車の車輪の音と、木が軋む音が響き渡る室内。此処は深海か、木星かと勘違いするほど重い空気が漂っている。

 原因は、毎度ながら俺なんだけど、非常事態で仕方なかったこととは言え、俺が動かなくても済んだ話だと言われれば、その通りなわけで。そうなると、俺がやったことを考えると。

 

壱、二人を肥溜めから引き上げるさい、許可なく抱き上げたこと。

 まぁ、これくらいなら、さして問題はないと思う。

 

弐、頭を押さえつけて何度も水の中に突っ込む。

 水の中に本気で沈めるというわけではなく、これ以上、汚物が口に入らないように、じゃぼじゃぼと顔や頭部付近の汚物を取り払うための緊急処置と言う事で勘弁して欲しい。

 

参、服を引っぺがす

 ……うん、どう考えてもこれだよな。

 後姿とは言え、一応、下着姿を見ちゃってるし。脱がす際に、色々触れちゃっているのは事実なわけだからね。誤解無いように言うけど、あの時はやましい気持ちなんて欠片もなかったぞ。だいたい俺だって、鼻が曲がりそうなくらい臭い思いをしてたから、それどころじゃなかったというのが本当の所だ。

 何度思い返したって、あの時にやましい思いなど湧いていないと断言できる。

 そう、何度思い出したって、………うん、美羽は翡翠より肌が白くて、吸い付くような感じだったな。陳宮も日に焼けてはいるものの、その肌は極め細かく…、

 

どすっ!

「つあっーー!あぁぁーーー…・」

 

 突然、襲いかかった脛の痛みに、思わず苦悶の声が飛び出でしまう。

 いえ、いいんです。誰の仕業なのか確認しなくても、きっと、出来心で脳裏に浮かんだ光景のようが顔に出ていただけだろうからさ。

 うん、今のは確実に俺が悪い。

 現実逃避とは言え、逃避の方向性が流石に不味すぎた。反省。

 蹴られた脛を手で軽く擦りながら、あらためて現状把握。

 

 美羽は、濡れた服の代わりに俺の上着を着ているわけど。

 ……うん、なんというか、ぶかぶかの服に隠すようにしている俯いている顔は、全体をうっすらと赤らめて、目元に涙を浮かべてたりする。だけど何故か此方が気になるのか、ちょくちょくと俺の方に視線をやっては、再び俯くといった落ち着かない行動を繰り返している姿が、正直、本気で可愛いと思ったりもするんだけど。

 きっと、怒りたいんだけど、美羽の立場上、感情剝き出しで怒れなくて、でも文句を言いたいのを我慢できなくてと、葛藤しているんだろうな。

 陳宮はと言うと………・、見るまでもなく、ずーと此方を睨み付けている。

 俺が貸したYシャツに包まれながら、まるで親の敵を睨み付けるかのような形相とはこういうのを言うんだろうな。そして、この重い空気を作り出している張本人だったりするわけだけど。 いったい、どうしたらいいんだろうか?

 ……と言っても、この状況で俺にやれることなんて一つしかないんだけどね。

 大きく深呼吸をして、思いっきり罵倒されたり、殴られたり蹴られたりする覚悟を決める。

 幸いなことに、翡翠や穏や亞莎達のように武官も勤めれる文官達と違って、陳宮の膂力自体は見た目どおりの年齢の子ほどしかないから、例の反則級の攻撃さえ気をつければ死にはしない……と思う。

 

「ごめ・」

「謝るななのですっ!」

 

 せっかく覚悟を決めた所で出鼻を挫かれる。

 俺の言葉を一喝して感情が抑えられなくなってきたのか、先程までの沈黙とは反対に、今度は彼女の唸り声が車内に静かに響き渡って行く。

 え、えーと、つまりそれは謝罪すら許さないと?

 其処までお怒りで、俺を許す気はさらさらないと言う事ですか?

 いや、それは困る。理由はどうあれ、せっかく縁があって共にする事になったわけだし、俺のデリカシーの無さが原因で、再び恋をはじめ五千の将兵とその家族を再び路頭に迷わすわけにはいかない。

 此処はなんとしても、許してもらわないと。

 

「せめて話しを・」

「さっき言ったことが聞こえなかったと言うつもりですか!」

「うっ」

 

 ……音々の気迫に取り付く暇がなく。

 と言うか、うっすらと浮かべている涙に、どうしたものかと本気で頭を抱える。

 よく時間をおいてとか在るけど、こう言う場合、時間をおくほど気まずくなるなっていくのが相応なんだよな。

 せめて許されなくとも謝罪だけでもきちんとしておきたい。

 でないと本気で不味いことになりかねない。

 助けを求めようにも、七乃は高順の操る馬の背に乗せてもらって、湯浴みなどの準備のために先に屋敷に帰ってもらっているし、愛さんは、何故か御者を買って出てくれているため、薄壁一枚とはいえ馬車の外。

 きっと微妙な問題だから、関係者以外を場から外させたのだと思うけど。

 逆に言うならば、屋敷に着くまでに自分でなんとかしろとも取れるわけで、そう考えると救援の望みは絶望的。

 なら考えるしかない。

 こう言う時、先人たちはどうしてた?

 親父は?

 じっちゃんは?

 叔父や兄弟子たちは?

 ………ごめん、平身低頭の平謝り状態の姿しか記憶にないや

 実際、当時は子供だった俺にそんな実情をありありと見せるわけもないし、状況が違うと言えばそれまでの話だけど。

 ええーい、本当にどうすればいいんだよーーーーーっ!

 思わず頭を両手で抱えて空を仰ぎ見たくなる。

 もっとも、今見上げても見えるのは青い空ではなく、革張りの天井でしかない。

 念のためというか、ついさっき天を仰ぎ見た時に、それは確認済みだし、今も指の隙間から見える光景も先程と変わらない赤茶色の天井。

 ……そう言えば、これで何度目の天井の光景だろうな。

 少なくとも、こうして馬車に乗ってから、両手両足の指分は見ているがするな。

 そろそろ天井の方も俺の見上げた顔に飽きて、色を変えたりしないだろうか?

 まぁそんな事は起こりえるわけないんだけど、そんな事しか思い浮かばないほど、思いつく手がないのが現状。

 こう、この停滞した困った状況をバシッと変える手は無いだろう

 

げしっ!

「くぅぉっ……!」

 

 突如として襲いかかった痛みに、思わず苦悶の声を上げる。

 いくら小さな娘程度の筋力しかないと言っても、脛は痛いわけで。

 俺が求めているのはバシッと状況を解決する手段であって、げしっと言う音がするほどの痛みを伴う暴力的な手段を求めているわけではないわけで。

 いや、これ、本気で痛いって。

 骨折とか出血するとかは無いけど、確実に痣になるほど痛いよっ。

 だが、これで少しでも彼女の怒りが治まるのなら、これくらいは仕方ない。

 

「おまえは、そんなに音々が信じられないのですか?」

「へっ?」

 

 天井を仰ぎ見るかのように、上向きのまま痛みに涙目になっているのを手で隠している俺の耳に、彼女の意外な言葉が飛び込んでくる。

 

「肥溜めになんの躊躇いもなく手を突っ込み。

 ましてや、汚物まみれの音々達を川まで抱え込みながら駆けぬけ、

 怒鳴るほどに必死になって汚物を処理する人間を。

 その際に手が触れただの、素肌を晒しただの。

 必要な時に必要な処理をしただけの人間に対して、

 自分が受けた恩も忘れ、羞恥心のみで怒り、罵倒する恥知らずな人間だと思っているのですか?」

 

 ……えーと、つまり

 

「怒っていないと?」

 

げしっ!

「くぉっ!」

 

 再び、さっきとは逆の足に走る痛みに、思わず声が出る。

 …いや、だって、今の話だと怒っていないと取れるでしょ?

 それに、セクハラ問題が怒り所じゃないとすると、いったい何が原因なんですか?

 

「音々が腹正しいのは、お前のそう言うところが腹ただしいいと言っているのです!

 お前は、例え一時的で、恋殿以外誰も認めていないのが事実で、勘違いするのも甚だしいと言いたいですが。

 本当にどうしようもなく不本意であろうとも、恋殿や我等の(あるじ)である事には違いないのですぞ!」

「えーと、其処まで強調しなくても・」

 

どしっ!

 

「…っ!」

 

 馬車を揺らすほどの振動と共に走る足に痛みに、苦悶の声も必死に殺して口を閉じる。

 だって、今の彼女相手にこれ以上逆らって声を上げようものなら、逆の足にも足を落とされかねないもん。

 それにしても、小指を狙って足を落としてくる辺り、怒り狂っているように見えて結構冷静なのかも知れないな。

 

「それが、いちいち音々達の顔色を伺うようにして、みっともなくて見れたものでは無かったのです!

 もっとも、見れたものでは無いのは元々ですが、例えで在ろうと仮初めであろうと、音々達の(あるじ)を名乗るのならば、もっと毅然とできないのですかっ。

 だいたい、先程の件だってそうですぞ。

 音々は巻き込まれただけとは言え、防げなかった音々に非が無いわけではないのです。

 お前は本来ならば、その事について叱責するなり罰すべき立場。だと言うのに音々を女あつ、…それはともかくっ、あれでは周りに示しがつかないですし、この程度の事でやるべき仕事を残して帰路に付くなど、音々達全体の仕事ぶりの評価にも悪影響を及ぼすのです。

 お前は一々くだらぬ事を・」

 

 ああ、そう言うことね。

 この地の氏族達にとって彼女達は新参者でしかない。ならば信頼をおけるか疑わしいと見られているのは当然だし。当然、仕事に対しての評価は厳しく見られるのも仕方ない事。そして最初の方の仕事の評価というのは後々にまで響いてくる。

 軍師たる彼女にしてみれば、家族や仲間とも言える皆を守る責任がある以上、必要以上ピリピリするのは当然の事だろうな。

 確かに、それは俺の配慮が足りなかったのは確かかもしれない。

 ……でも、

 

「くだらない事じゃない」

「お前は、まだそんな事を」

「少なくとも、飛将軍・呂奉先が信頼を置き、全権を任せ。

 また彼女の率い一騎当千の兵士達と、その家族を守るべき責任を持つ陳宮、君の体調を憂慮すべき事を、俺は取るに足らない事だとは思わない」

「なっ、なっ…」

「たしかに仕事に対しては遅れが出たかもしれないけど、返せない遅れではないし、もともと半日や其処等で終わらせる仕事でもない。長期的な視野で見るべき仕事の内の一日を少しだけ早く切り上げただけのこと。

 それに突発的な事故や問題なんて、何時だって起こりえる事だし、今回だって君達は迅速かつ適切に対応していたと俺は評価しているし、たぶん七乃だって同じ評価をしているだろうね。

 だいたい、この国じゃ誰とは言わないけど、どこかの元王様のおかげもあってか、あの程度の事なんて日常茶飯事だし、誰も気にしたりしないさ」

 

ぐいっ!

 

「そう言う甘い考え方がいつか痛い目をみるのですっ!

 だいたい音々が言いたいのは、そう言う事ではなくっ」

 

 今度は胸ぐらを掴んで抗議に出る彼女の剣幕に、つい目を見開き彼女の姿を凝視してしまう。

 説得失敗? と思わないでもないが、彼女が怒っている原因が大きく違っているとは思えない。

 このまま勉強と思って大人しくお説教を聞くのも仕方ないと思うし、それで彼女の気が少しでも晴れるならとも思う。

 ……でも、その前に、これだけはせめて伝えたい。

 

「馬車の中でと言うか、その姿で前屈みに人の胸ぐら掴むのは止めた方が良いよ」

「今度は話を反らすつもりですか」

「いや、そうじゃなくて………、その……、胸元、……見えてるって言うか、その」

「へ?」

 

 俺の言葉に、彼女はゆっくりの首を下に向け自分の姿を見下ろす。

 本来の彼女の服ではなく、ぶかぶかの俺のYシャツが重力に負けて地面へと向けて垂れ下がり。

 サイズが合わないため緩やかと言うか、大きく開いた胸元からは、その陽に焼けた白い肌と共に見える緩やかな双丘と淡い桃色の……うん、はっきり言ってその向こうまで覗き見える。あいにく室内のため薄暗くてハッキリとは見えないけどね。

 そのなんだ。川でもそう言うのを覗える場面はあったかもしれないけど、あの時はそれどころじゃなかったし、こうして落ち着いてあらためて見てしまうのでは違うわけで。

 

「し、し、しっ……」

「し?」

「死にさらすですっ!!」

 

ひゅっ!

どがっ!

 

「うわっ!」

 

 今のはやばかった。

 念のためと警戒していたから避けれたものの、今のは当たり所が悪かったら鼻血ではすまないだろうな。なにせ、俺の顔面の代わりに受けた革製の背もたれ埋まった彼女の拳部分から、白い煙がもうもうと上がっていたりする。

 武人である高順なら分かるが、見た目通りの力しか持たない彼女のどこからあんな力が出るんだ?と思いつつ、これでは大人しく説教を聞くどころではない。

 

ばんっ!

 

 再び拳を振るうために、腕を戻した隙を狙って、俺は走っている最中の馬車の扉を蹴り開けるなり、馬車の外へと踊り出る。

 むろん、馬車の外壁を掴んでですよ。映画じゃあるまいし、走行中の馬車から飛び降りるなんて危険な真似は出来ないし。そんな事をしたら、下手したら後続の兵士さん達の馬に踏み潰されかねない。

 片手で、馬車の壁面にぶら下がりながら、足で再び扉を無理矢理閉めるなり、扉の取っ手部分を鋼線で馬車の壁面とで固定する。

 

「くっ! 開けるのです!

 逃げるですか、この卑怯者!」

 

 扉を何度も蹴る音と共に何か罵声が聞こえてくるけど、この際それは聞こえなかった事にしておく。

 とにかく、このまま馬車の外壁にぶら下がっているわけにもいかないので。

 

「よっと」

 

 何とか馬車の振動を耐えながら、その振動を活かすタイミングで持ち手を変えたところに、前の御者席から手が差し伸ばされ、柔らかなその手の感触とは裏腹に、一気に力強く御者席へと引き上げられる。

 

「ふぅ、た、助かった。ありがとう」

「はぁ………、まったく何をやってるんですか」

 

 俺の心からの感謝の言葉に、文字通り救い手の(ぬし)たる愛さんの重い溜め息と呆れ声で返されてしまう。 うん、そう返される事ぐらいは分かっていたけどね。

 

「あははははっ、逆に怒らせちゃったみたい。失敗したなぁ」

「………(あるじ)にしては上出来だったと諦める事にします」

 

 俺のために御者席のスペースを少し空けてくれる愛さんの言葉に、俺は首かしげながら、彼女の優しい気遣いに感謝する。

 

「手厳しいな。

 ちなみにどの辺りが上出来だったと?」

「そういう所ではないのは確かですね」

 

 がっくりっ。

 

 駄目元で聞いてはみたけど、女の人って、こういう事に関しては本当に、みんな教えてくれないよな。 及川やクラスの男辺りだったら、からかいながらでも教えてくれるのにね。

 

「それと(あるじ)

 

ぎにゅ〜っ!

 

「いひゃい、いひゃい、いひゃいっ!」

 

 いきなり思いっきり抓られる頬の痛みに、俺は恥も外聞もなく悲鳴を上げる。

 柔らか女性の細指と侮るなかれ、この世界の女性が多く持つ"氣"の影響か。とくに武将と呼ばれる女性となると、その膂力は其処等の男性の兵士など足下にも及ばない膂力の持ち主だったりするわけで、本来は文官で膂力は無いと言われている翡翠や穏ですら、青竹を握り潰す事など朝飯前。……ああ、翡翠は朝が弱いから朝飯前は無理かも。

 なんにしろ、さすがに肉が千切れる事はないと思うけど、涙目になるどころの騒ぎの痛みではない訳で。

 

「正直なのは美徳ですが、すけべ心は、もう少し時と場合と相手を考えてください」

「ふぁっ、ふぁかった。ふぁかったから、ふぁんべんひてくははい!」

 

 最後に一捻りとばかりに抓られた後、やっと痛みから解放されるものの、正直顔の半分がズキズキと痛む。

 

「まったく、えっちなんですから」

 

 いえ、言っている事はもっともだと思うんですが、こればかりは本能というか、自分でも制御できない部分というか、つい視線が行ってしまうわけでして…。

 まぁ、それは男側の言い訳であって、女性からしたら不愉快な思いをする事には違い無いというのも分かっているんだけどね。そう分かっているからこそ、悪いと思うわけで、慌てて視線をそらしたり、素直に謝るわけでもあるんですよ。

 

「一応は私の方から、あの娘に話をしておきますが、(あるじ)もあの娘の言った事をきちんと考えておいてください」

「はい、もちろん」

 

 愛さんの有り難い言葉に、思わず平伏する。

 俺のやや巫山戯た態度に、愛さんは再び呆れ顔を見せるが、俺としては感謝しているのは本当だし、それを巫山戯てると取られようが示したいと思ってる。

 ……だってね。愛さんのその言葉が聞こえてかどうかは知らないけど、馬車の中から俺の背中辺りの部分に与えられている振動が治まったんだもん。 少なくとも、振動の原因の誰かさんは矛先を少しだけ収める気にはなってくれたんだと思う。

 そんな、まるで出来の悪い弟を叱るような表情で俺を見ていた愛さんは、いきなり佇まいを直しすなり、いきなり俺なんかに頭を下げてくる。

 

「今回の一件、(あるじ)にお詫びさせていただきます」

「いや、お詫びも何も、俺が勝手にやった事だし、汚物に汚れたのだって、」

「いえ、そうではありません。

 私がまず(あるじ)に謝罪したきことは、そもそも(あるじ)が汚物に塗れる事自体を、あえて防がなかった件です」

 

 ……なるほどね。

 愛さんが言いたい事は分かった。

 確かに、俺なんかより身体能力も反射速度も優れた人間が、周りに幾らでもいるのに、俺が一番に美羽や陳宮のもとに辿り着いたのは、俺が愛さん達に指示を与えたとか以上に、愛さんが周りに動かないようにこっそり指示を出していたからなんだろう。

 彼女は試したんだ。

 俺がどう判断し、どう動くのかを。

 仮初めとはいえ、(あるじ)である俺に対してね。

 だから、こうして謝罪の言葉を告げてくるんだ。

 思春や蓮華とかだったら静かに怒りを露わにするだろう。仮初めであろうとも主従関係にある道理に反した事に対して。

 雪蓮辺りは、場合によっては厳罰を処するだろう。絶対である王を蔑む事を許す事は、より多くの血を流す事になりえないからと。

 ……でも、

 

「さっきも言ったけど、俺は俺で勝手に動いた結果だし、汚物に汚れた事自体は臭いとは思っても、気にしていないのは本当だ。

 愛さん達からしたら、俺がああいう時にどう動く人間かを見極める必要があったからだろ?

 なら、構わないさ。俺は二人をいち早く助けたかった、それだけの事さ」

 

 そのことによって、美羽や陳宮が大怪我をしたり命を落としたりとか言うのならともかく、そんな事態になり得ないと判断した結果なら、気にするほどの事じゃない。

 どうせ冥琳辺りに、俺は何をやらかすか分からないから注意しろとでも吹き込まれていたんだろうな。そして非常に不本意ながら、その吹聴に強く反論出来ない実績が俺には有ったりするわけで。むしろ、試した事に対して罪悪感を持っている愛さんの方が被害者とも言える。

 そもそも、俺には怒る理由など、最初から何処にも無いのが本音。

 

(あるじ)が、そう言ってくださるのならば、此方としては助かります」

「まぁ、言いたい事があるとしたら、愛さん一人で罪をかぶるつもりだった事かな。

 俺が起因する事なら、その責任は全て俺にある。

 仮初めであろうとも、主従関係にあるのならば、君達の罪は俺の罪だ。

 そう言う勝手こそは許さないから、今後そのつもりでいてくれ」

 

 格好つけているつもりもないし。

 気負っているわけでもない。

 無理矢理だろうが何だろうが、彼女達の(あるじ)となり。

 多くの人達の生活に責任を持つ立場に立つ以上、全ての罪は俺に帰属する。

 それだけは譲れない思いであり、俺なりの誓いでもあるんだ。

 

「分かりました。(あるじ)のその想いと覚悟、しかと心に刻んでおきます」

「うん、でも俺ってほら、知っての通り、いい加減で考えなしの性格だから、フォローと言うか、間違っていたら今みたいに叱ってくれると助かるかな」

「ふふっ、そうみたいですね」

 

 そう、小さく笑ってくれる。

 たぶん、心から素直な笑みを。

 だから、伝わったと思う。

 我ながら不器用だと思える、拙い俺の想いが。

 雪蓮や蓮華にはほぼ遠いと思うけど、俺なりの上に立つ者としての想いが。

 

「それにしても、随分と音々の事を買っているんですね」

「そうか? でも買っていると言うより、信頼しているだけだよ」

「何をです?」

「そうだね。いろいろあるけど、まずは君達が信頼している事をかな。

 そしてその君達の信頼に応えようと一生懸命な事とか、その責任感とかもそうだけど、

 なにより軍師として、君達の仲間として、あの真っ直ぐな想いは信頼するに価するよ。

 …まぁ、あの直接的な表現方法には少し困る事もあるけど、仰々しかったり愛想笑いで固められるより、よっぽど好感が持てる。それにしたって、昔の俺の妹みたいでさ。なんというか懐かしいとも思っているしね」

 

 今の陳宮に対する素直な思いを口にする。

 軍師としての能力は今更疑うまでもないし。(まつりごと)に関しては、あの性格だから、きっと持ち前の負けん気で七乃から必死に吸収するだろう。

 最後の方は、おまけみたいなものだけど。恋とは別の意味で妹を幻視する相手とも言えるのは本当の事。

 

「あの娘は、今まで随分と冷遇されたり見下されてきましたから、警戒心もあるのでしょう。

 (あるじ)のような扱いに、どう接して良いのか戸惑っている部分もあるのだと思います」

「ふーん、それはまた、随分と見る目のない奴等ばかりだったんだね。

 ……あれ? 月というか、董卓と賈駆もそうだったの?」

「彼女達はそう言うわけではなかったのですが、あの娘が戸惑っている間に、その……」

「俺達が攻めて、台無しにしたと言う訳か」

 

 ……耳が痛いな。

 だけど、それもまた俺達が仕掛けたあの戦争の側面であるのも事実だ。

 もしも、俺達連合軍が洛陽へと攻めるのが一年、いいや半年遅かったのなら、今という状況はありえなかったかもしれない。あの二人ならば、きっと恋や陳宮と本当の意味で恋達の(あるじ)になれたはずだからね。

 だから自然と脳裏に、緑の髪の少女の顔が浮かぶ。

 もう一人の銀髪の少女を守ろうと必死になって、その小柄な身体を張っている彼女の姿が……。

 そしてそれは同時に、あの晩の出来事さえ浮かび上がらせる。

 

『此れは盟約。

 今のはその証であり契約の儀。

 此れでボクの全てはアンタの物。

 この躰も、心も、魂も、血の一滴さえ、アンタの好きにする事が出来るわ』

 

 そんな彼女が、かつて叶えたかった望みの欠片が此処にあるのかもしれない。

 だけど彼女は最後の望みを俺なんかに託して、残りの全ての人生を捨てた。

 そしてそれは、俺が蒔いた種の結果と言える。

 ……なら、余計にその責任は取らないといけないよな。

 

 

 

「幸せにしてみせるよ。必ずね」

 

 

 

 と言っても責任なんて取れるものじゃない。

 人の命も、 その周りの家族の人生も、無茶苦茶にした責任なんてものは、決して取れるものじゃないし、そのためにできる事なんてものはないのかもしれない。

 ただ、忘れてはいけないだけ。

 そうした不幸になった人達がいることを。

 多くの屍と、多くの涙のもとに、今があるのだという事を。

 だから俺にできることは、……いいや、俺達にできる事は、生き残った者達と力を合わせて、今よりも少しでも幸せだと言える世の中を築いてゆき、それを守ってゆき、伝えてゆくこと。

 だから俺はその想いの一端を口にする。

 自分に言い聞かせるように……。

 なにより、彼女達が少しでも安心できるように……。

 まっすぐと、心の赴くままに……。

 

「……(あるじ)

 

 だと言うのに、隣の愛さんは、なぜかその細い指で蟀谷(こめかみ)を押さえながら、これまた何故か顔を紅潮させながら、なんとも複雑な表情で疲れた声で俺に問いかけてくる。

 

「一応、確認しておきますが、それはどういった意味で言っておられるのですか?」

 

 え? どうって、そりゃあ言葉通りのつもりだけど。

 愛さんの質問の意味に戸惑いながら、先ほどの心の中での想いを、詠達の事は

除いた想いを簡単に言葉にする。

 愛さんは俺の言葉を聞き終えるなり深い溜息を吐き。

 

びしっ!

 

「い゛っ!」

 

 何故か、強烈なデコピンが俺を襲う。

 多寡が女性のデコピンだと侮るなかれ、この世界の将のデコピンは、たとえ軽くであろうとも本気で首が後ろに吹き飛びかねない衝撃がある。おそらく霞や恋あたりが放つデコピンなら、それだけで一般兵を体を立て回転させながら吹き飛ばせるんだろうな。

 愛さんのこれは、そこまでの威力がないというのもあるけど、それでもそれ相応の痛みに苦悶の声を上げる俺に。

 

「い、以前にも言いましたが、(あるじ)はもう少し自分の言動に気を付けるべきです。

 まったく、これでは変な誤解をする者が出てきてしまうじゃないですか」

 

 た、確かに前にも言われたけどさ。

 俺、そんなに変なことを言ったつもりは欠片も無いんだけどな。

 でも、愛さんの様子からして誤解とかではなく、たぶん本当に俺の気が付かないところで変なことを言ったんだと思うけど……。

 

「ちなみに誤解って、どういう誤解をす、

 いえ、いいです自分で考えます」

 

 はい、顔を真っ赤にして睨まれました。

 ……そんなに怒られることなんかな?

 うーん、本当、女の子って分からないよな……。

 

「でも(あるじ)のそのお気持ちは、きっとみんなに伝わりますよ」

「だといいんだけどね。ほら、俺って、実力と言動が一致しないって良く怒られるからさ」

「……本当に、その通りですね」

 

 分かっていたけど、俺の言葉に愛さんは心底あきれ果てる。

 でも、同時に笑ってくれている。とても優しい笑みを。

 うん、少しだけ希望が湧くかな。

 彼女の言葉にね。

 

 

 

 

 

更紗(高順)視点:

 

 

 おっと。

 段差を踏み超えようとした時に、吹いた突風に一瞬身体を取られそうになる。

 普段ならそんな事は絶対に有り得ないが、肩に担いだ如意棍の両端にぶら下げた四つの樽が風を大きく受けたのでは、流石に(それがし)も風に身体に取られそうになっても仕方なきこと。

 もっとも、あくまで取られそうになったと言うだけの事で、実際には欠片も蹌踉けてはいないし、樽の中になみなみに注がれたお湯を一滴たりとも溢してはいない。

 無意識下に平衡を保っていたものに、少しだけ意識を割いたと言うだけのこと。

 

「はっくしょん」

 

 細い石畳が敷かれる道の向こう。

 手入れの行き届いた緑が茂る庭の遙か奥の方から、そんな声が風と共に流れてきた事に、思わず溜め息を吐く。

 ……まったく。本当に、あの馬鹿女(七乃)の言ったとおりみたいだな。

 そう心の中で悪態を吐きながら、今までとてゆっくり歩いていたわけでは無いが、今まで以上に足を速める。

 広大な屋敷の裏側、…のまた離れにある建物の影に隠れるように、と言うか、多分ある部屋の反対側の建物に意識して此処にしたんだろうな。

 まぁ、これも、あの女の予想どおりなんだけどな。

 そしてその光景を目にするなり、(それがし)は身体の底から力が抜けるのを感じる。

 

「確か、(それがし)達が仕えているのは、天上人とか言う事になっていたと思ったんだが、なんでそんな御偉い様が、こんな屋敷の隅で行水なんてやってるのか理解に苦しむのだが」

 

 むろん、呆れ果ててだ。

 視線の先。……其処には底の浅い大(たらい)の中で、下着一枚になって井戸水で身体を洗っている男の姿をみれば、(それがし)でなくとも、脱力するにちがいない。

 恋殿がお決めになったとは言え、これ(・・)に仕えているのかとな。

 ……まぁ、それだけじゃないってのは、もう知っているけどな。

 

「よっ、高順。わざわざこんな屋敷の裏側までどうしたんだ?

 もしかして覗きに来たとか?」

「誰がだっ!!

 だいたい、男の下着一丁なんて格好、兵達で見慣れているっ!」

「冗談。冗談だから、足下の石を此方に蹴飛ばそうとするのは止めてくれ」

 

 両手を挙げて降参を示す姿に、さっきとは別の意味で溜め息が吐る。

 うん、決めた。判ってはいたが、この男相手に遠慮なんてものは無用だ。

 少なくとも公の場以外では、遠慮なんてしてやるものか。

 

「あの馬鹿女の指示で、お湯を持ってきてやっただけだ」

「それは助かる。流石に夏とはいえ、井戸水だけでは少しヤバイかなぁと思っていたところだったんだ」

 

 そりゃそうだろ。川に飛び込み、その後は二人に自分の上着を渡したおかげで、上半身は裸で下半身は濡れた服のまま馬車の御者席で風に当たりっぱなしで帰ってたんじゃあな。

 目の前の男は恋殿と互角に戦える能力とは裏腹に、その肉体は(それがし)達と違うどころか、下級兵かそれ以下程度の身体能力でしかなく。

 音々が集めた話によれば、此奴は【天の御遣い】の名に相応しいかどうかはともかく。天の世界では、かなりの坊ちゃん暮らしだったようで、病弱な身体の持ち主らしい。

 今までも戦の度にその姿をしばらく公の場から消していたことが度々ある事から。おそらくこの間の恋殿と戦いの後の時のように寝込んでいたのだろうと。

 

「ああ、暖ったまる〜」

 

 緩みきった顔でお湯で行水する姿に、三度溜め息が吐そうになると同時に、(それがし)の頬も緩みかけている事に気がつき、その事に苦笑が浮かぶ。

 

「まったく、こんなところで凍えながら行水しているくらいなら、風呂に入ればいいだろうが」

「いや、流石に二人と一緒に入るのは不味いだろ? まぁ俺としてはそれはそれで嬉しいけど」

「当たり前だ! 先に入ればいいだけだろうがと言っているだけだっての」

 

 それが冗談で(それがし)をからかっているだけだと判ってはいても、つい乗せられてしまう。

 こうしてこんなところで行水しているのも、川に長く浸かっていた上、陽と風の当たらない馬車に中にいた音々達に気遣ってと言うのは分からないでもないが、他にもいくらでも湯に浸かれるところぐらい在るだろうに。……もっとも汚れが汚れだけに某達が作らされた共同浴場は流石に不味いし。

 

『御主人様の事ですから、霞さんのところ風呂は男の人に心に傷を持っている春霞ちゃんの事を気にするでしょうし。使用人達が使っている建物の物は従来の物ですからお湯を沸かすのに半日は掛かるうえ、使用人達が不必要に恐縮するでしょうからね。 本当にあの人は変なところで、どうしようもないくらい御馬鹿さんで困った人です』

 

 そう馬鹿女に馬鹿扱いされる目の前の男に、同じ感想を(それがし)も抱く。

 この男は本当は賢いくせに、その本質はかなりの馬鹿だ。

 まだ身体がふらつくくせに、それが(それがし)に必要な事だと(それがし)と戦ったり。

 今日だって、なにも考えずに音々や袁術を助けるために肥溜めに、躊躇なく腕を突っ込んだり、汚物だらけの二人を抱きかかえて必死に川まで駆けたりする。

 その上、仕方ない事なのに音々達の汚物だらけの服を無理矢理脱がした事とかに本気で罪悪感を覚えたりする。

 ……本当に馬鹿だ。

 そして、それは(それがし)も同じ事。

 あの時、音々達が丘を滑り落ちそうになった時、愛殿は(それがし)や周りの兵隊が動く事を、僅かな視線でもって止めた。

 配下の兵達ならともかく、(それがし)ならば、多少乱暴な手にはなるが、それでも確実に音々達が肥溜めに落ちる事をギリギリで防げたにも拘わらず。

 きっと愛殿は見極めたかったと言うよりも、某達に見せたかったのだろう。

 我等が恋殿が、己が(あるじ)と決めた人物が、どういう人間なのかを……。

 某達の(あるじ)となる者が、ああいう時にどんな行動をする人間なのかを……。

 結果は知ってのとおり……。

 

「馬鹿だな」

「あははは、よく言われるよ」

 

 (それがし)の言葉に目の前の男は笑顔で返してくる。

 別に今のはこの男に言ったわけではない。只の独り言だ。

 やがて髪を洗い終えたため、お湯を頭から被ろうとするのを、(それがし)は桶を片手に持って手伝ってやる。

 

「お、サンキュー」

「訳の分からぬ事を」

 

 聞き覚えのない言葉を口にされる。おそらく天の国かそこらの言葉のだろう。

 そんな事を思いながら、上から注がれるお湯に両手で髪から泡を洗いながら、気持ちよさそうに息を吐き出すこの男をつい観察してしまう。

 多少癖はあるが、艶のある黒髪。

 顔の作りは、俗に言う美男子と言うものにはほど遠いが、……まぁ悪くはない。どちらかと言うと整っていると言えよう。

 なにより前髪がかかる位の位置から覗く黒い瞳は、優しい暖かみがある癖に何処か吸い込まれそうな不思議な感覚がある。

 今は下着姿のおかげか、夕陽に晒されている身体は、(それがし)某達が率いている兵士達には遠く及ばないもの、脆弱と評価されているのとは裏腹にはよく引き締まっている。

 瞬間的に動く事に特化し、必要以上の力を不要とした身体に作り込まれているのが、(それがし)の眼には判る。

 ……確かに、戦向きの身体では無いな。

 

「ふはー、さっぱりした」

 

 それで一応は洗い終えたのか、盥の中ノ湯を捨ててから、そこらに立て掛け。【たおる】とか言う、吸水性の高い天の国の技術で編まれた布で身体を拭き始める。それをじっと眺める(それがし)に気がついたのか。

 

「えーと、まだなにか?

 流石にじっと見られると恥ずかしいんだけど」

「言ったであろう、男の下着姿など兵達の行水で見慣れている。

 いいから、とっとと着替えを済ませろ」

 

 まったく、そう言う事を言うから、逆に気になるだろうが。

 自然と顔が熱くなるのを隠すように下を俯くと、この男は(それがし)が気を使って視線を外してくれたのと勘違いしてか、先程の天の言葉を口にして、そそくさと着替えを始める。

 何時もの天の服の代わりに袖を通しているのは、袖のある上質な絹に、銀糸で目立たぬようにはあるが、美麗な刺繍を全体に施された服。

 丈夫で在りながら、無骨さを欠片も彷彿させない見事な編み込みの帯を締めながら、七乃もこんな上等な服を用意しなくてもいいのにと愚痴を漏らしている姿に、きっとこの男の事だ。綿か蔓草で編んだ服で構わないのにとでも思っているのだろう事は、(それがし)にも容易に想像がつく。

 

「やっぱ、まだ匂いかな?」

「二、三日は仕方ないだろな。

 だが、もっと匂う奴なら、この世にいくらでもいる」

 

 鼻が悪臭に慣れて馬鹿になっているのか、自分で匂いを嗅いでから聞いてくる男に、(それがし)は近くで二、三度匂いを嗅ぎ直してから答えてやる。

 汚物の鼻につく匂いが全くなくなったわけでは無いが、まぁ、これくらいなら、よほど近寄らないかぎり気になるものでもない。

 むしろ、(それがし)や音々や恋殿とは違う匂い。愛殿や真白はもちろん侯成や宋憲とも違う男特有の匂いが(それがし)の鼻から身体の中に入って行くような感覚に目が眩みそうになる。 しかもこれが他の奴と違って不愉快とか感じないから不思議だ。……むしろ、まぁ悪くないと思える辺りが余計に質が悪いと言ったところだ。

 

「気になるなら、匂い袋でも持つか、香油でも塗ればよかろう」

「うーん、嫌いじゃないけど。やっぱ素がいいし」

「……それはお前が嗅ぐ場合だろう」

「あっ、ばれた?」

「すけべが」

 

 冗談じみたやりとりに、今度は逆に(それがし)の匂いが気になる。

 確かに今日はゴタゴタはあったもの、基本的には楽な任務だったとはいえ、汗をかかなかったわけではないし、日課の鍛錬を怠っているわけではないから、今日一日で言えばそれなりに汗をかいている。しかも先程まで湯を沸かすため薪を燃やしていたりもしていたから、髪や身体に匂いが絡みついているはず。

 そう思うと、なんというか急に気恥ずかしくなる。

 うん、今日は絶対に真白達より早く風呂に入ってやる。

 

「で、話ってのは何かな」

 

 そんな気がはなかったが、気がついたらいつの間にか日常に戻っていた(それがし)の思考を、男の言葉が引き戻す。

 そうだな、そのためもあって、(それがし)は此処に来た。

 

「音々の奴から預かり物があってな。って、何で其処で急に逃げだそうとするんだってのっ!」

「いや、だって、預かっているっていうのは」

「違うっ! (それがし)をなんだと思っているっ。

 まったく、音々と何があったか知らぬが、今ので音々の奴が、ぶつぶつとぶうたれていた理由が理解できた」

 

 実際、某達と分かれた後、馬車でここまで帰ってくる間に何があったかは預かり知らぬ事だが、今のこの男の言動だけで音々を怒らせるには十分だと言うは判る。

 ……でも、それはけっして、この男だけが悪いわけでは無い。

 それは(それがし)も、そして音々も分かっている。

 だからこそ、悔しいとも思えるし、無駄に誇りの高い音々に至っては自分に怒れても来るのだろう。

 

「音々から、真名を預かってきた。

 次からは真名で呼べってな」

 

 まったく、こんな大切な事は自分で言えっての。

 もっとも、あの捻くれに捻くれた音々からしたら、これでも十分譲歩したんだろうな。

 おそらく、今日の事を知った恋殿から、遠くないうちに真名を預けるように命じられる前に、自ら真名を預ける事によって、恋殿に煩わしい思いをさせないためと恋殿の関心を引くためにと言う計算もあるんだろうが……。

 

「一応、忠告しておいてやるが、それで呼ばなかったら、きっと音々の奴、余計に怒るぜ。

 自分の真名に何が不満があるのかと、例によって直接表現でもってな」

「……それって、ほぼ強要と言わないか?」

「はは、もっともだが本当の事さ。御館(おやかた)殿」

「わかっていて止める気無しですか。……ん? 御館?」

 

 溜め息を吐きながら苦笑してから、(それがし)の言葉の中から違和感を感じたのだろう。

 (それがし)を不思議そうな表情で見返してくる。

 まったく、意味ぐらい悟ってくれっての。

 音々ほどでは無いが、(それがし)とて、素直と言える性格では無い。

 素直さに関して言えば、真白(眭涸)の奴がいるから、余計にそう思う。

 

「恋殿の(あるじ)に相応しいかどうかはともかく、仲間としては信じられる相手だって分かったんでな。

 (それがし)の真名も御館(おやかた)殿に預けることにした」

 

 仲間のために平気で汚物の中に飛び込むような馬鹿は嫌いでは無い。

 考え無しの馬鹿をする奴は、戦場では長生きできないし、仲間を逆に死なせる事になるが。目の前の男は、それが分からないほど阿呆ではない。 ただ、俺達が考えつかないような突拍子もない行動を起こしえると言うだけ。それはこの間の戦だけでも十分に理解できる。

 なら、守ってやるさ。恋殿の命令がなくとも、こう言う大馬鹿を守ってやること自体は、(それがし)は嫌いでは無いからな。

 良い意味でも悪い意味でも守り甲斐があるというもの。

 きっと音々も同じ想いなんだろう。

 こう言う大馬鹿は放っておけないってな。

 

「更紗だ。次からはそう呼べ」

 

 (それがし)は言い終えるより先に踵を返し、もと来た道へと駆け出す。

 正直、これ以上は御館(おやかた)殿の顔を正面切って見るのは気恥ずかしいからだ。

 御館(おやかた)殿の本質を見抜けていなかった事に対する己の未熟さもそうだが、どうしても、先程の行水していた時の姿が脳裏に浮かび上がってしまう。

 その未熟さに気がつかずに、むこうみずに御館(おやかた)殿と仕合った時の間近で(それがし)の顔を覗き込みながら、不思議な笑みを浮かべた顔が浮かび上がってしまう。

 まったく(それがし)はまだまだ未熟だ。

 今までに経験した事のない知らない感情に戸惑い、こうして無様に逃げるように立ち去るなど、音々の事を言えたものでは無い。

 ……ただ、言える事がある。

 ……分かった事がある。

 

 

 

 恋殿がお兄ぃと慕う者が、あの御館(おやかた)殿で良かったと。

 ああいう男なら、某達も、力の振るい甲斐があるのだと。

 

 

 

 

七乃(長勲)視点:

 

 

 ぽたぽたっ

 

 絞りすぎない程度に固く絞った【たおる】を一刀さんに渡しながら。

 

「夏風邪は御馬鹿さんがひくって迷信があるんですが、どう思います?」

「………否定はしないでおく」

 

 苦笑を浮かべながら、一刀さんは受け取った濡れ【たおる】を両脇下と首の後ろの物と交換し、温くなった物を渡してくる。それを受け取り、汲んできた井戸水に冷やしていると。

 

「こっちはいいから、自分の仕事に戻ってくれていいよ。

 もともとたいした風邪じゃない。少し熱ぼったいだけだからさ」

「それでもいいんですけど、一応、こう言う時に一刀さんに尽くす振りを周りに見せておかないと、後々お嬢様も私も動きにくくなりますから。

 心配しなくても、昼からはお店の方に顔を出してきますから、安心して寝てください」

 

 それに此方の屋敷にいてもやれるべき仕事は沢山在りますし、気分転換がてらに、こうして一刀さんの部屋を覗いて看病の真似事をするくらいの事は、たいした手間ではありません。

 確かに一刀さんの風邪は、たいしたことが無いものでしょうが、風邪が元で命を落とす事も珍しい事でもありません。

 むしろ、そんなたいした事がない事で、お嬢様や私の夢が再び閉ざされる事になる事を思えば、僅かな手間も惜しむわけには行かないからです。

 それでも文句の一つぐらいは言いたくはなるもの。

 

「すけべ心なんて起こすから風邪なんて引くんです。女っ誑しも程々にしとかないと、そのうち本当に痛い目を見ますよ」

「スケベ心は………ともかくとして、女っ誑しに関しては冤罪だよね?」

「自覚がないから性質が悪いですね。

 無自覚なのは今更ですけど、明命さんと翡翠さんにはもう少し気を使ってあげてくださいね」

 

 おそらく無駄になるだろう忠告だけは一応して部屋を退室する。

 その時に喉が渇いたときのために、美音様直伝の暖かい蜂蜜水を一刀さんの寝台の脇に置いておく事は忘れない。 お嬢様がどうしてもと言うのもあるけど、栄養価の高い蜂蜜は身体の回復を助けてくれるはずです。

 お嬢様の命も私の命も、全てこの人が握っている。だからこそ不安定要素は排除しておきたいんですが。

 

「……はぁ〜、どうにも面倒くさい事になりそうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、書いた馬鹿こと、うたまるです。

 第171話 ~ 夏の夕陽に漂いしは、心優しき娘達の魂の心音 ~を此処にお送りしました。

 

 なにか、かなり久しぶりの更新となりました。

 なんというかスランプとか留学とか刀剣乱舞とか、色々理由はありましたが、なんとか続きを書けるような環境になってきました。

 筆が止まっている間に、恋姫夢想の本編は続編が出たり、モバイル業界に進出していたりと話がドンドン進んでいますが、基本この作品では、二作目の真・恋姫夢想の世界観で終わっています。何故かというと知らないからなんですよね。この本編のGAMEを購入していた兄とは別居するようになりましたから、基本的に18禁物とは無縁となっちゃいました。

 と言うわけで、皆様の世界観を壊す事となるかもしれませんが、そのつもりで作品を読んで頂けたらと思います。

 

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


0
このエントリーをはてなブックマークに追加
0
0
17
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択