No.870541

九番目の熾天使・外伝 ~ポケモン短編~

竜神丸さん

七夜の願い星 その9

2016-09-22 18:50:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3891   閲覧ユーザー数:1052

翌日、時間帯は朝の6時…

 

 

 

 

 

「……」

 

海岸に停車しているトラック。その中でokakaは昨夜に回収したゴーグルからデータを抜き取ろうとハッキングを仕掛けていた。しかし…

 

「あらら、見事に掴まされたようですね……偽のデータ(・・・・・)を」

 

「…えぇい、クソッタレ!!」

 

okakaはゴーグルを思いっきり床に叩きつけ、イライラした様子で頭を抱える。竜神丸の言葉通り、まんまと役に立たない偽のデータを掴まされてしまったからだ。同じ相手に二度も出し抜かれた事で、流石のokakaもボルカノに対する殺意はどんどん大きくなっている。

 

「あぁもう、あんなのに何度も出し抜かれるとか、この上ない屈辱だ…!!」

 

「アサシンの面目が丸潰れですしねぇ。私は見ていて面白いですが」

 

「笑い事じゃねぇんだよコラ」

 

「私にとっては笑い事ですので」

 

「言い切りやがったなコンチクショウ!? …しかも、よりによってあの密猟団のリーダーまで脱獄しやがったとはなぁ」

 

「まぁ、裏でボルカノと繋がってたんでしょうねぇ。あのジラーチの古文書も、恐らくボルカノから渡された物で間違いないかと……そして極めつけはこれです」

 

「ん?」

 

「ポケモン刑務所から送られて来た、刑務所内部の監視カメラ映像です」

 

竜神丸は自身のタブレットに映像を映し出し、それをokakaに見せつける。その刑務所内部に取り付けられていた監視カメラの映像を見て、okakaは思わず「うげっ」と嫌そうな表情を浮かび上げる。

 

「…おいおい、ミカルゲまで従えてやがったのか。あの野郎」

 

「シンオウ地方……『御霊の塔』に封印されていた個体で間違いありません。本気でジラーチを捕まえに来てると見て良いでしょう」

 

「あ、あんの野郎……ミカルゲまで復活させやがって、俺の仕事が増えちまうじゃねぇか……あぁ、俺の胃までキリキリ傷んできやがった…!!」

 

「胃薬でも買って来ましょうか?」

 

「いや、結構。ぼったくる気満々だろ」

 

「チッ」

 

「露骨に舌打ちしてんじゃねぇよ!?」

 

イライラしてるokakaをからかっては楽しんでいる竜神丸。彼の場合は本当に悪意しか無いのだから、okakaからすれば本当にタチが悪い性格である。いつまでも竜神丸のペースには乗せまいと、okakaは多少強引ながらも話題を変える事にした。

 

「…んで、他の皆はどうした? まだ昨日から続けてんのか?」

 

「あ、話題変えましたね」

 

「やかましい」

 

「…その質問に答えるとすれば、イエスですね。昨日の夜中からぶっ続けで、ダークポケモン逹に何度も呼びかけ続けているそうです。こなたさんについては…」

 

「あぁうん、こなたは答えなくても良い。既に分かり切ってる」

 

「う~ん、う~ん…」

 

そのこなたはと言うと、okakaと竜神丸の傍で寝込んだまま、苦しげにうなされているところだった。それを見た二人はそれぞれ溜め息と嘲笑を零す。

 

「流石に、竜神丸のデスカーンに入れて連れ戻すってのはやり過ぎだったか…」

 

「デスカーンにも追いかけ回されたようですしねぇ……しかも、あるポケモンのオマケ付きで」

 

「あぁ、コイツがな…」

 

『ケケ?』

 

okakaの頭の上に、まるで扇風機のような姿をした小さなオレンジ色のポケモンが乗りかかって来た。全身から電流が僅かにビリビリ放出しているこのポケモン―――ロトム・スピンフォルムは、二人の会話を聞いて不思議そうに首を傾げている。

 

「『森の洋館』からロトムに関する研究資料を回収して来い……とは命じたが、まさかロトム本体を連れ帰って来るとは想定してなかったぜ」

 

「本人、泣きじゃくりながら懇願して来ましたからね。私は見ていて笑えましたが」

 

「まぁコイツに免じて、これ以上の御咎めは無しにしてやったよ。フォルムチェンジした状態でゲット出来たのが一番大きいな」

 

『ケケケケケッ』

 

頭の上で面白おかしく笑っているロトムを、okakaは呆れた様子でモンスターボールに戻す。ロトムに関連する話が終わった以上、彼等は次の話題に入る。

 

「にしても、昨日から睡眠も取らずにやってるとはなぁ。アイツ等の体力には感心する」

 

「朝食も取らずに、よくやりますよねぇ彼等も。たかがダークポケモン如き、何故そこまでして助けようとするのか……私にはとてもじゃないですが理解が追いつきません」

 

「おいやめろ、お前なんぞに理解が出来たら天変地異が巻き起こ―――」

 

 

 

 

-ドガァァァァァァァンッ!!-

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

「…最も、かなり苦労されているようですけどねぇ」

 

トラックの外から聞こえてきた爆発音。何事かと思い、トラックの外へと飛び出したokakaと竜神丸の二人を待ち受けていたのは……真正面から飛んで来る、二発の『シャドーボール』だった。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? ヌケニィィィィィィィィィンッ!!」

 

「ヘルガー、出なさい」

 

「ヌッケェェェェェェェェェェッ!!!」

 

「ヘル…ガァッ!!」

 

すかさずモンスターボールから繰り出されたのは、セミの抜け殻を模したポケモン―――ヌケニンと、ドーベルマンを模した黒いポケモン―――ヘルガー。ヘルガーは口から放出した『かえんほうしゃ』で『シャドーボール』を焼いて消滅させ、ヌケニンはと言うと………『シャドーボール』を真正面から受け止めた事から直撃し、ものの見事に撃沈させられてしまっていた。

 

「…『ふしぎなまもり』で守られているにも関わらず、自分から効果抜群の技を受けに行くヌケニンなんて初めて見ましたよ」

 

「それがうちのヌケニンだ」

 

ヌケニンとは、『ふしぎなまもり』という特性を持った特殊なポケモンだ。『ふしぎなまもり』の効果で、効果抜群となるタイプ以外の技を受けても一切ダメージを受けない為、それだけ聞けばとんでもなくチートなポケモンのようにも思えるだろう……が、実際は違う。抜け殻ポケモンとしての宿命なのかどうかは不明だが、ヌケニンは持ち合わせている元々の体力が致命的に低いのが欠点。それ故、効果抜群の技を一発でも受けてしまえば、それだけで簡単に瀕死になってしまうのだ。

 

「ヌ、ヌッケェ…!」

 

「いや、そんな『やりましたぜ旦那』って反応をされても困ります」

 

「そこは慣れろ……で、『シャドーボール』が飛んで来るって事は…」

 

okakaと竜神丸が見据える方角……その先では、無差別に『シャドーボール』を連発しているタブンネと、そのタブンネを止めようとしている美空やディアーリーズ、咲良逹の姿があった。

 

「タブッタブネェ!!」

 

「ッ……お願い、話を…聞いて…!!」

 

「駄目です、全然聞いてくれそうにありません…!!」

 

「タブちゃん、らんぼうはメッだよー!」

 

「チルッチルゥ~!」

 

「全く、何で俺達まで手伝わなくちゃいけねぇんだ…っとぉ!?」

 

「仕方ありませんよキリヤさん。美空さんから頼まれた以上、断る訳にはいき……まぁっ!? おい、さっきから何度も何度も危ねぇじゃねぇかボケゴラァッ!!!」

 

「…シノブ、素が出てる」

 

しかしタブンネを止めるのに相当苦労しているようで、美空やディアーリーズは飛んで来る『シャドーボール』をひたすら回避し、咲良はチルタリスに守られながらもタブンネに呼びかけ、ロキは疲れた様子ながらも攻撃をかわし続け、危うく『シャドーボール』が当たりそうになってブチ切れる刃をカガリが諌める。そんな慌ただしい様子の彼等を支配人、朱雀、げんぶの三人が少し離れた位置から眺めていた。

 

「レイ、様子はどうだ?」

 

「ん? あぁ、カズキか……あの様子だと、まだ時間がかかりそうだ。コハクとコウヤは何とかリライブまで到達出来たんだけどなぁ…」

 

「へぇ、上手くいったのか! どうやったんだ?」

 

「コハクの場合、今みたいに飛び交ってた『シャドーボール』がライボルトに当たりそうになってな。コハクがその流れ弾から庇った事で、心を開いてダークオーラが消えたんだ。心を閉ざしたと言っても、少なからず愛情に飢えていたのかも知れないな」

 

「まぁそれまでの間、『かみなり』が何度も命中して大変でしたけどね……でもまぁ、ダークポケモンの呪縛から解放出来たんです、安いリスクですよ」

 

「で、コウヤの場合、一夜かけてボスゴドラと殴り合いをしてる内に、気付いたらダークオーラが綺麗サッパリ消えてなくなってたんだと」

 

「こういうのってやっぱ、拳での語り合いが一番だろ?」

 

「お前凄ぇな、色んな意味で」

 

「『かたやぶり』な人ですねぇ、ある意味で」

 

「で、ライボルトとボスゴドラのリライブは無事に完了したんだ。ただ、リライブしたばかりで体力も大きく消費しているから、今はユイがケアに回ってる……そして」

 

「テッカァ!!」

 

「コウ……ガァッ!!」

 

 

 

 

-ボゴォォォォォォォォォォンッ!!-

 

 

 

 

「…タブンネだけは、まだまだ時間がかかりそうって訳か」

 

「まぁ、そういう事だな…」

 

再び飛んで来た『シャドーボール』の流れ弾を、ヌケニンと同じセミ型のポケモン―――テッカニン、そしてゲッコウガの二体がそれぞれ攻撃技で防ぐ。ちなみにゲッコウガはもちろんの事、このテッカニンもokakaの手持ちポケモンの1体だ。

 

「どうしてなんでしょうか…? 他の2体は無事に心を開いてくれたのに…」

 

「元々、タブンネは人やポケモンを癒したりと、心優しいポケモンだ。そんなタブンネを心無き兵器として機能させる為に、他のダークポケモンに比べて改造の度合いが根深いのかも知れない」

 

「よりによって、そんな面倒なのを進んで引き受けるとは……彼女も物好きですねぇ。私ならさっさとリーグ協会に送りつけてるところです」

 

「ッ…そんな言い方は無いでしょう、彼女は本気でタブンネを救おうとしてるんですよ!!」

 

「よせ、コハク。コイツには何を言っても無駄だ」

 

「ですが…!」

 

「ほらほら、そうこう言ってる内に……また来ますよ」

 

「え…どわぁっ!?」

 

「ぬぉっと…!!」

 

一同に向かって、再び『シャドーボール』の流れ弾が飛んで来た。okakaはゲッコウガとテッカニンの2体に防いで貰い、支配人達は素早く身体を反らして回避し、竜神丸はヘルガーの『かえんほうしゃ』で『シャドーボール』を相殺させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼等がそんな話をしている一方で、ディアーリーズ達はタブンネを止めようと必死だった。

 

「く、まずは暴走を止めなきゃ……ピカチュウ、『くさむすび』で縛りつけて!!」

 

「ピカッチュ!!」

 

ディアーリーズのピカチュウは両目を光らせ、『くさむすび』を発動。地面から伸びた植物がタブンネの全身に巻きつき、その動きを止めようとするが…

 

「ッ……タブネェ!!」

 

「うぇえ!? 無理やり引き千切ったぁっ!?」

 

「チィ……手伝えカポエラー、後ろから取り押さえろ!!」

 

「カポッ!!」

 

「ハッサム、お前も出て来い!!」

 

「ハッサ…!!」

 

このままでは埒が明かないと判断した刃はモンスターボールを投げ、1本角に尻尾を生やした格闘タイプの人型ポケモン―――カポエラーを繰り出す。ロキもそれに続いてハッサムを繰り出し、2体でタブンネを後ろから取り押さえようと飛びかかる。

 

「カポッカポ!!」

 

「ハッサァ!!」

 

「タッブゥ……ネェエ…ッ!!」

 

カポエラーとハッサムに後ろから飛びかかられ、地面に押さえつけられるタブンネ。流石に2体のポケモンに取り押さえられれば、タブンネの動きも止まるかと思われたが…

 

「タッブゥゥゥゥゥネェェェェェェェェェェェ…!!」

 

「カ、カポォ…!?」

 

「ハ、ハッサ…!?」

 

「も、持ち上げようとしてる…!?」

 

「んな、そんなアホなぁ…!?」

 

何と、タブンネは力ずくで地面から起き上がり、2体を持ち上げ始めたのだ。これにはカポエラーとハッサム、そしてディアーリーズ達も驚きを隠せない。そしてタブンネは見事地面から立ち上がり…

 

「タァァァァブネェェェェェェェェェェェェェェッ!!!」

 

「カ、カポォォォォォォォォッ!?」

 

「ハッサァァァァァァァァァッ!?」

 

「え、ちょ…うわわわわわ!?」

 

「キャア!?」

 

カポエラーとハッサムを同時に投げ飛ばしてみせた。ディアーリーズと美空は何とか横に倒れる事で回避に成功したものの…

 

「「ちょ、待っ…ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」」

 

「キリヤさーん!? シノブさーん!?」

 

それぞれのトレーナーであるロキと刃は巻き添えを喰らい、纏めて吹っ飛ばされてしまった。

 

「二人とも、ふっとんじゃったー!」

 

『吹っ飛んじゃったー!』

 

「…アメイジング」

 

「言ってる場合ですか!? ルカリオ、お願い!!」

 

「タブッネェェェェェェッ!!」

 

「ワオォンッ!?」

 

「ルカリオォォォォォォォォォォォッ!?」

 

今度はディアーリーズのルカリオが『グロウパンチ』の一撃で吹っ飛ばされてしまい、タブンネの暴走は未だ止まらない。再び『シャドーボール』を連発し始め、その流れ弾があちこちに飛んで行ってしまう。

 

「ヤバ……シャマシュ、弾いて!!」

 

「エルッ!!」

 

「ちょお!? うちのトラックに向けて弾くなよ!?」

 

「あぁ!? す、すみませんレイさん!!」

 

(中にいるこなたは無事だろうか…)

 

朱雀のエルレイドが飛んで来る流れ弾を弾き、それがトラックに着弾したりなど皆が騒ぐ中、またしても流れ弾が飛び交い、今度は竜神丸に向かって飛んで来た。

 

「ッ…アルファさん、危ない!!」

 

「余計なお世話です……ガラガラ、『ボーンラッシュ』」

 

「ガァァァァァァァ…ラァッ!!」

 

竜神丸が指を鳴らして合図を出すと共に、頭部に骨を被った茶色のポケモン―――ガラガラが、竜神丸の頭上から落ちて来る形で出現。その手に持っていた太い骨で『ボーンラッシュ』を繰り出し、『シャドーボール』の流れ弾を一撃で粉砕し、掻き消してみせた。

 

「忌々しいですね……ヘルガー、『かえんほうしゃ』」

 

「ヘェェェェェェェェル……ガァッ!!!」

 

「タブネェエッ!?」

 

「!? タブンネ…!!」

 

いい加減、何度も流れ弾を飛ばして来るタブンネを鬱陶しく思った竜神丸はヘルガーに命令を下し、ヘルガーは口元から放った『かえんほうしゃ』でタブンネを攻撃。流れ弾の『シャドーボール』を難なく掻き消したその一撃はタブンネに命中し、全身が火達磨になった状態で砂浜の岩に叩きつけられ、岩が粉々に粉砕される。

 

「タ、タブ……ネェ…」

 

「ヘルルルルル…!!」

 

『かえんほうしゃ』の一撃で体力をほとんど削り取られたのだろうか。全身が黒く焼き焦げたタブンネは既にフラフラで、立つのがやっとな状態である。そんなタブンネに対し、ヘルガーは剥き出しな敵意を隠そうともしないまま低い唸り声を上げる。

 

「楯突いて来るのであれば、容赦はしませんよ……『あくのはどう』」

 

「ヘルッガァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

タブンネにトドメを刺すべく、ヘルガーは邪悪な波動に満ちた黒い光線『あくのはどう』を発射。その邪悪で無慈悲な一撃は、瀕死寸前のタブンネに容赦なく命中―――

 

 

 

 

 

 

「…駄目ぇっ!!!」

 

 

 

 

 

 

―――する事なく、別の岩を粉砕する事になった。

 

「「!?」」

 

『あくのはどう』が命中する直前、飛び出した美空がタブンネを押し飛ばす形で庇ったのだ。そんな彼女の行動を見て、竜神丸とヘルガーは思わず目を見開く。

 

「な、美空さん!? 大丈夫ですか!!」

 

「大、丈夫……ッ…!?」

 

駆け寄って来たディアーリーズに大丈夫だと口にした直後、美空はズキンと痛む右腕を押さえる。僅かに『あくのはどう』が掠ったのか、彼女の右腕は服の袖が破け、その綺麗な肌から少量の血が垂れていた。

 

「みーちゃん、ケガしたの!?」

 

「私は、大丈夫……それより……この、子を、早く…!!」

 

「ッ……タブンネは僕達で手当てします、美空さんは自分の傷を…」

 

「それは、駄目…!」

 

「どうして…!?」

 

「この子の、方が……私なんか、より、もっと苦しんでる……私が、自分の手で……助けなきゃ…!!」

 

「…美空さん…」

 

ディアーリーズは思わず気圧された。美空が自分に向けて来た目からは、普段の彼女からは感じ取れない強い意志が垣間見えたからだ。そんな目を向けられた以上、ディアーリーズも折れるしかない。

 

「…分かりました。助けましょう、一緒に!!」

 

「…はい…!!」

 

「おケガ、なおさなきゃ!」

 

「チルチル!」

 

美空は右腕の痛みを我慢しつつ、ディアーリーズと共に傷付いたタブンネを抱き上げ、ユイの下へと急ぐ。タブンネの事が心配な咲良とチルタリスもそれに続く中、竜神丸は無言のまま美空達の後ろ姿を眺めていた。

 

「……」

 

「…最初に会った時から、美空ちゃんも随分たくましくなったもんだ。そう思わねぇか?」

 

「…さぁ。少なくとも、私の知った事ではありませんね」

 

okakaの言葉に対し、竜神丸は興味無さげな表情で視線を逸らす。そんな彼の態度に呆れつつ、okakaはタブンネを運んでいったディアーリーズ達の方を見据える。その隣には支配人も並び立つ。

 

「…レイ、見てたか?」

 

「あぁ……あのタブンネ、ダークオーラが少し弱まったのが見えた。もしかしたら…」

 

「…可能性は0%じゃないってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…全く。何をどうしたらこんな事になるのか、教えて欲しいくらい」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「すみませんユイさん。他の2体のケアで忙しい中、お手を煩わせてしまって…」

 

「謝らないで。あなた達に怒った訳じゃない」

 

「…それにしてもユイさん、凄い手際ですね」

 

「ユイだって、これまでに傷付いたポケモンをいっぱい治してきたんだ。任せておけば大丈夫さ」

 

「この手に関しちゃプロって事か」

 

その後、ライボルトとボスゴドラのケアをしていたユイは、ディアーリーズと美空が運んで来た重傷のタブンネを見て呆れたような表情を浮かべつつも治療を開始した。支配人の言葉通り、手当てをするユイの手際はかなりの物であり、火傷に効果のあるチーゴの実、火傷治しといった治療薬などをたくさん使い、タブンネの全身の火傷箇所をどんどん治療していく。そんな彼女の手際の良さに、朱雀やロキも思わず感心させられていた。

 

しかし、ここで一つの問題が生じた。

 

「…困った」

 

「? どうした、ユイ」

 

「タブンネの命に別状は無い……けど、火傷治しも無い。チーゴの実も、今ある量だけじゃ足りそうにない」

 

「!? どういう事ですか、ユイさん!」

 

「チーゴの実を食べても、火傷治しを使っても、火傷による傷口がなかなか消えない。どうしよう…」

 

「…たぶん、ヘルガーの炎が原因だな」

 

「「ヘルガーの炎…?」」

 

「ほのお?」

 

「チル?」

 

支配人の言葉に、ディアーリーズと美空、それに咲良とチルタリスも同時に首を傾げる。

 

「ヘルガーは自分の体内に、特殊な毒素を大量に含んでるんだ。ヘルガーはその毒素を体内で燃やす事で、さっきみたいに強力な炎技を繰り出せる。しかもその炎で火傷を負ってしまうと、その火傷による傷口はいつまでも疼いてしまうんだ」

 

「じゃあ、その所為でタブンネは…」

 

「あぁ。だがバトルをする時のヘルガーなら、ここまで重傷になるほどの毒素を炎に含んだりはしない。チーゴの実は少ない量で済むし、そもそも火傷治しを使えば一発で治る」

 

「じゃあ、どうしてこんな事に…?」

 

「簡単な話さ……炎に大量の毒素が含まれるぐらい、あのヘルガーが本気で殺しにかかって来たって事だよ」

 

「「「ッ!?」」」

 

本気で殺しにかかって来た(・・・・・・・・・・・・)

 

その言葉を聞いて、美空とディアーリーズ、朱雀はゾッとした。同じポケモンなのに、どうしてそんな事が平然と出来るのか。殺す事に対して何の戸惑いも無いのか。三人にはそれがとても理解出来なかった。

 

「…まぁ、レイの言ってる事も分からなくないな。俺も一時期、アルファに同行して貰う形でポケモン達を鍛えていた事があったし」

 

「え、そうなんですか?」

 

「あぁ。アイツの手持ち、ヘルガー以外も問題児だらけだったぜ。昨日俺とウルが戦ったプテラとドラピオン、アイツ等も異常だ。プテラは自分より弱いポケモンを平気で見下しやがる。ドラピオンもヘルガーと同じで、主人に仇名す者を徹底的に潰そうとする超過激派。酷い時には、アルファに少しぶつかりそうになっただけの野生のイシツブテを、一匹残らず殲滅した事もあったっけか」

 

「ッ……酷い、どうしてそんな事を…!!」

 

「それだけ、アルファに対する忠誠心が強いって事だわな。にしてもイシツブテの群れを殲滅するのは確かにやり過ぎではあるが」

 

「…とにかく、今はタブンネの治療が先だ。早いところ、チーゴの実や火傷治しを大量に集めなきゃな…」

 

「それなら、良い場所がある…」

 

「! カガリ…」

 

そんな彼等の前で、カガリが一枚の地図を広げてみせる。

 

「今いる海岸、その近くに森がある。ここの森には、チーゴの実だけじゃなくて、他の木の実もたくさん生っていた筈だから」

 

「よし、ナイスな情報をありがとなカガリ……んじゃ、やる事は決まってきたな」

 

「…僕達、森まで集めに行って来ます!」

 

「私も……この子を助けたい…!」

 

「わたしも行くー!」

 

「チルチルッ!」

 

「僕も行かせて下さい。タブンネの事も放っておけませんから」

 

「…たく。ここで名乗り出なかったら俺が悪役になりそうだな」

 

ディアーリーズ、美空、咲良(&チルタリス)、朱雀、ロキ。5人と1体が名乗り出た事で、チーゴの実回収チームが結成されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行って来ます!」

 

「タブンネの事、お願いします…!」

 

「行って来まーす!」

 

「チルル~!」

 

「えぇっと、地図だとここから森の奥深くか…」

 

「むにゃむにゃ……あれ、何でアタシも連れて来られてるの? え、どういう事?」

 

「せっかく目覚めたんだ、こなたも一緒に来い」

 

ディアーリーズ達はチーゴの実をたくさん回収する為、海岸の近くにある森へと向かう事になった。先程挙げたメンバーの中にこなたが含まれているが、誰もその事に突っ込みを入れる事は無かった。それだけ、皆タブンネの事が心配なのだ。

 

「おう、気を付けて行って来なよ」

 

「…あ」

 

「ん、どうした? カガリ」

 

そしてディアーリーズ達が森へ入って行った後、ここでカガリが大事な事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この時期は確か、虫ポケモン達は繁殖時期に入って凶暴性が増してるから危険だって……伝えるの忘れてた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もっと早く言ってくれ、そういう大事な事はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

支配人がそんな盛大な突っ込みを入れる羽目になったのも、決して無理の無い事だろう。

 

「落ち着けレイ。今更言ったところで、アイツ等もう入って行っちゃったぞ」

 

「こうなった以上、無事を祈るしかないだろうよ」

 

(…ふむ、虫ポケモンですか。せっかくだから何体か捕まえておきましょうかねぇ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホウエン地方、とある上空…

 

 

 

 

 

 

「ボマァ~」

 

まったりとした様子で空を飛んでいる、緑色のボディを持った色違いのボーマンダ。そんな色違いのボーマンダの背中には…

 

「ん~…良い気分だなぁ~…zzz」

 

紺色の和服に身を包み、気持ち良さそうに寝転がっているガルムの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語の役者は、少しずつだが揃い始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『七夜の願い星 その10』に続く…

 


 
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