No.870503

夢見童

雛太さん

pixivでも投稿したものです。実は自分の中で1番気に入ってるものでもあります。

2016-09-22 12:36:30 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:384   閲覧ユーザー数:379

 
 

夢見童

 

夢ってなんだろう?

船の帆を張りながらふと考えた。

このあんまりにも広い世界で、ボクは所詮ただの子供だった。

 

見たいこと、好きなことに執着ばかりして、見たくないもの、嫌いなものには蓋をした。

叶わないような夢ばかりを追いかけて、現実からは目を背けてた。

 

間違いだとは思ってないよ。

いいじゃないか、夢だけ見てたって。

 

いつ死ぬかわからない。

明日というものがちゃんと12時を過ぎたら来てくれるのか。

そんな不安定なご時世だ。将来だとかは考えてる場合じゃあないんだよ。

 

この船のように、帆を張ればすぐ進めるような、簡単なものでもない。

なのにどうしてか進んでいく。

そんなもんだって、しっかり理解できるほど、素直でもないんだ。

 

子供は子供のまま、気がついたら体だけ大人になっていく。

ふと気づいた時、本当に大人になる。

それが、守るものが出来た時だとか、本当の死に目に遭った後とか、

色んなパターンがあって、微塵の参考にもならない。

だから考えるんだ、大人とは何だ。成長とは何だ。

 

どこかで聞いたことのある話。

子供はやっぱり親の背中を見て育つ。

夢を叶えたつもりの親、夢を諦めた親は子供にこう言うんだ。

『現実を見なさい』と。

夢を追う親はこう言うんだ。

『夢を叶えてきなさい』と。

もちろん誰かの自論だ。信用するに値はしない。

 

几帳面に帆を張ってみる。

出発を先延ばしするだけの行為。

やはり、自分の意志で前に進むのは怖い。

誰にも応援されることのない夢を描いて、独りになったつもりになって、落ちぶれて。

何がしたいんだか、どこかで分からなくなり始める。

それでも諦めたり、忘れたり出来ない支えが、

邪魔な何かしらのせいで隠れては、まるで月のように見えた時は光り輝く。

 

かつて憧れたヒーロー。

幼馴染とは言うものの、夢を自分の足で追う彼は、

自分嫌いなボクにとって、本当にヒーローに見えた。

彼なら、ボクの背を押してくれるだろうか?

 

「ボクは、自分以外の誰かの背中を押すための手なんか持っていないよ。」

 

そう言ってたっけ。

 

「そんなに叶えたい夢なのサ?足がないから諦める気かい?

 違うだろ?

 

 追う者は、足が無かろうが、手がなかろうが、別の手段を探す。

 羽をつけたっていい。地面を這うのだって手段だ。

 意地と執念があれば、叶わない夢なんてないよね。」

 

だとか、そんなことも言われたね。

 

「誰も飛べとは言ってない。進めと言っているんだ。」

 

 

誰かは、この言葉だけで進めるんだろう。

でも、ボクはどうしてか進めない。

怖いんだ、世間の目が。

夢のためなら無様な姿を晒す覚悟はある。

そう思ってみても、安定を望むどこかにいる自分が邪魔をする。

あと一歩、あと一言。

助けてくれないかい?ヒーロー。

 

帆を張った船を見つめる。

準備は完璧だ。

でも、まだ恐怖は消えてくれない。

 

 

「どうしたんだい?」

 

どこからともなく聞こえてきた、懐かしい声。

背後からだ。

 

「おっと、振り向くな。ボクの正体は教えたくないからサ。」

「見なくたッテわかるヨ。何しに来たノ?」

「さあね。とにかく、キミのあと一歩を見に来ただけサ。」

「ナニ?バカにでもするつもりカイ?」

「そんなことはないよ。果てがどうあれ、夢を見るのはいいことだからね。」

「夢があっても進めなきゃ何にもなんないヨォ。期待するだけ無駄ダヨ。」

 

卑屈になっているボクを見ながら彼は黙った。

結局何にもなんないんだね。期待して損した。

 

帆をたたもう。

これで何度目か。

彼が来たのは初めてだが、何年も同じような行為を続けている。

いつも、あとはエンジンを掛けるだけなのに。

 

諦めて、帆に触れようとしたその時だった。

彼が語りかけてきた。

 

「キミは、自分のことを小さいと思うかい?」

「ソリャアネ、ボクなんて何にもできないような小さな存在だヨ。」

「それに比べて世界は広い!!どうしてだかわかるかい?」

「分かるわけ無いジャン。」

「そっか、じゃあ、特別に教えてやるサ。

 

 これから大きくなるキミを包み込むためサ。

 窮屈な場所じゃ膨らむものも膨らまない。

 ましてや、その形に合わせて歪になる。

 そうならないために世界は広いの。

 いくらでも大きくなれるようにボクらはちっぽけに生まれるんだよ。」

 

「そう考えたら、楽じゃないかな?」

そんな彼の言葉を最後にボクは船に乗り込んだ。

エンジンを掛け、目的地を探す。

動き出した船は、ボクが折れるまで止まりはしない。

 

大きな一歩は片道切符。もう後戻りはしない。

 

「あーあ、行っちゃった。」

 

見送りを終えた屍は還る場所を探す。

かつてこの世に存在していた夢。屍はその残骸。

夢の残骸にできることは何か。

語りかけることだけだ。

 

腐ったその身は新たな夢の肥やしとなって受け継がれていくのか。

それとも、形を失えば、それは夢ではなくなるのか。

 

きっかけと呼べばいいのだろう。

 

夢を追う者の背を、必ず夢を探すものは見るのだ。

 

 

かつて、夢だったそれは、名もない土地で誰にも知られず消えた。

 
 

 
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