No.870000

夢の中での追いかけっこ

やる予定だったけど結局やらないことにしたさくあか合同誌第2弾用に作ったもう一つのさくあかSSです。

そして今さらですが櫻子ちゃんお誕生日おめでとう!!

あとGLFで同人誌を買ったあとにでもどうぞーw

2016-09-19 12:00:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:935   閲覧ユーザー数:935

 

「ふぅ、今日も楽しい一日だったよぉ」

 

 入学してだいぶ月日が経ったけど、ホントに学校が楽しいです。

 今日もあかりの一日は充実した一日になりました。

 入学したての頃は京子ちゃんや結衣ちゃんがいても別の学年だったから、少し不安もあったけどちなつちゃんや向日葵ちゃん、そして櫻子ちゃんともすぐに仲良くなれたから、すぐにその不安はなくなりました。

 

 その中でも、櫻子ちゃんはあかりのことをよく気にかけてくれました。

 櫻子ちゃんはあかりによくいたずらしたりするけど、櫻子ちゃんなりにあかりのことを気にかけてくれていることをよく知っています。

 入学してから一番最初に話しかけてくれて、一番最初に仲良くなりました。

 櫻子ちゃんは皆を、あかりを引っ張ってくれるムードメーカー、それは今でも変わりません。

 これからもずっと一緒にいれたらいいなぁって……思います。

 

「ふわぁぁ……」

 あれ? そろそろ眠くなってきちゃった。

 

「時計は……もう9時だぁ」

 明日のためにも、今日も早く寝なきゃ。  

 そう考えて、今日もいつも通り9時にベットに横になって、すぐに睡魔におそわれて、すぐ眠りにつきました。

 

 今日も、楽しい夢……見れるかな?

 

――――――

――――

――

 

「…………………」

「………うーん、ここは?」

 

 目を覚ますと、寝ている頭を上げると、そこは見たこともないような場所で眠っていたようでした。

 

「ここは、どこだろう?」

 あたり一面を見回すと、あかりの周りにはは木がいっぱい立っていました。

 

「どこかの森なのかなぁ?」

 状況が分からないけど、あかりはベットで眠ってしまって……これは夢?

 でも、夢にしてはなんだか鮮明で、まるで夢じゃないみたい。

 

「あれ?この服って……」

 服も見てみるとパジャマじゃなくて、いつかの日に櫻子ちゃんに資料室で着て欲しいって言われて着ていたアリスの衣装をいつの間にか着ていました。

 

「どこかの世界にでも迷い込んだみたい」

 そういえば童謡でも、不思議な国に迷い込んだ物語があったのを思い出します。

 

「えへへ。あかり、物語の主人公みたいだよぉ」

 そう考えると、この格好も悪くないなって思えるようになりました。

 

「でも、どうやったら夢から覚めるのかな?」

 やっぱり、起きなきゃダメだよね? でも、今意識ははっきりしてるし、起きてるよね?

 ええっと、ええっと……どういうことなんだろう?

 

「うーん、難しいよぉ」

「あかりちゃん」

 ふと後ろの木の陰から声が聞こえました。

 

「えっと、ウサギさん?」

 振り返ると、少し離れた木の陰から大きなウサギの耳だけを出しているのを見つけます。

 

「だ、誰?」

「私だよ、私」

 木の陰から姿を現したのはウサギの耳をつけていて制服姿の櫻子ちゃんでした。

 

「櫻子ちゃん? どうしてここにいるの? それにその耳って……」

「あかりちゃん、落ち着いて聞いてね。あかりちゃんは確かに現実世界では眠っていて今、夢の中にいます」

「あっ、やっぱり夢の中なんだぁ。変に鮮明だったから少し不安だったよぉ」

 あかりは少しホッとします。これなら起きたら元の世界に帰れるよね。

 

「でもね、元の世界に帰るために、あかりちゃんにはやってもらわなきゃいけないことがあるんだ」

「やってもらわなきゃ、いけないこと?」

 櫻子ちゃんは右手の人差し指を立てて「その条件は一つだけ」と答えます。

 

「それは、今から逃げる私を追いかけて捕まえることだよ」

「えっ?あかりが、櫻子ちゃんを?」

「うん。それが条件で、絶対なんだ。そうじゃないとあかりちゃんは元の世界に帰れなくなる」

「ええっ!? それは困るよぉ」

 びっくりしてあかりのお団子も一瞬ポーンと飛んでしまいました。

 

「だから、全力で私のことを追いかけて来てね! それじゃあ、よーいドン!!」

 そうスタートを宣言すると櫻子ちゃんは一目散にあかりから逃げていきました。

 

「えっ?えっ?もう始まってるの?」

 対するあかりは状況がまだはっきりと飲み込めていませんでした。

 

「あかりちゃーん!早く追いかけないと、私が逃げちゃうよー!!」

 遠くまで逃げた櫻子ちゃんがあかりに手を振って呼びかけます。

 

「とにかく、櫻子ちゃんを追いかけないとダメ、なんだよね?よーし!」

 あかりも早速櫻子ちゃんの元まで走ります。

 

 あかりが追いかけて、櫻子ちゃんが逃げる側。

 

 二人だけの、追いかけっこの、始まり。

 

【夢の中での追いかけっこ】

         明咲桜照(あさきさくてる)

 

「はぁ、はぁ……だいぶ走ったけど、櫻子ちゃん、早いよぉ」

 スカートの裾が長いし、慣れない服装だったのでなかなか上手く走れずに何度もコケそうになりました。

 

 そのためになかなか追いつきそうにありません。

 それに、あかりは体力に少し自信がないのもあってすぐに疲れてしまいます。

 

「あかりちゃーん!もう疲れたのー?」

 一方の櫻子ちゃんは体力があり余ってるみたいで両手をぶんぶんと全力で振っていました。

 あれだけ走ったのに疲れないなんて……まるで本物のウサギみたい。

 

「ちょっと、はぁ、はぁ、休憩してもいい?」

「いいよー!時間はいっぱいあるからー!!」

 

 櫻子ちゃんの厚意に甘えて、あかりは木陰で少し休むことにしました。

 ここでゆっくりしてる間に櫻子ちゃんがさらに遠くへ逃げるんじゃないのかと思いましたが、櫻子ちゃんも少し離れた位置で木陰に座って休んでるようでした。

 

「夢の中なのに疲れるなんて……ホント不思議だなぁ」

(まあ、普通はおかしいことだもんね)

「うん。って櫻子ちゃん!?どこから声が!?」

(ははは、あかりちゃんおもしろーい!!)

 

 櫻子ちゃんが近くにいるのかと思ってあたりを見回してみたけど、櫻子ちゃんは自分のいた位置から動いている様子もなく、木陰に座っていました。

 

「もぉー、笑わないでよぉ!いきなりでびっくりしたんだからね」

(ごめんごめん。大声出すのも疲れたからさ、今あかりちゃんの頭の中に話しているの。テレパシーみたいな感じで)

「さ、櫻子ちゃんすごいね」

(まあ、夢の中だしね。あかりちゃんもやろうと思えばできるよ)

「そ、そうなの?でもちょっと楽しそう。どうやるの?」

(そうだねー、普通に頭の中で思ったことを伝える感じをイメージ?すればできるかなぁ?)

「さ、櫻子ちゃん、なんで疑問形なの?」

 よく分かっていないようなニュアンスの答えが帰ってきて、あかりは少しガクッとします。

 

(あははは。まあまあ、試しにやってみてよ。簡単だからさ)

「うーん……」

 あかりは櫻子ちゃんに頭の中で考えた言葉をイメージしてみます。

 

(……こんな感じ?)

(そうそう、あかりちゃんうまいうまい!!)

(えへへ……なんだか超能力者になったみたい)

 あかりはちょっぴり特別な力を持ったみたいで嬉しくなります。

 

(あ、そういえば櫻子ちゃんはあかりの声、小さくても聞こえるよね。どうしてなの?)

 さっきもそうだけどあかりは離れている櫻子ちゃんに疲れて息が切れていたためあまり大きな声で話せていないのです。 やっぱり夢の中だから?

 

(えへへ、この長いウサミミのおかげ……かな?)

(あ、なるほど。結構聞き取れそうだもんねぇ)

(…………)

(櫻子ちゃん?)

 

 急に、櫻子ちゃんが黙ってしまいました。

 どうしたのだろう? って考えているとしばらくしてから櫻子ちゃんが優しい声で話しました。

 

(………でもさ、こんな長い耳がなくても、あかりちゃんの声なら、どこにいたって届いてるよ)

(え?)

(あかりちゃんのこと、いつも見てたからさ)

(いつも一生懸命で、誰にでも優しいあかりちゃんのこと、なんだか見ててほっとけなかったもん)

(でも、いたずらばかりしちゃってごめんね? これでも考えながら接しているつもりだったんだ)

(ううん、あかりちゃんと分かってるから)

(……ありがとね)

 

 櫻子ちゃんのあかりを想う優しい言葉に、なんだか胸がいっぱいになります。

 

(だから、早くつかまえにおいで。私は逃げながらだけど、待ってるからさ)

(櫻子ちゃん……)

 櫻子ちゃんの励ましに、あかりは泣いてしまいそうになりました。

 

 そういえば、櫻子ちゃんはあかりのことをよく気にかけて、出会った頃からいっぱい接してくれたことを思い出します。

 あかりにいたずらしたり、甘えたり、一緒に遊ぼうって誘われたら遊んだり、色々あったけど……あかりからは櫻子ちゃんにいっぱいもらってばかりで、何もしなかった気がする。

 

「今度は、あかりが何かしてあげなくちゃだねっ!!」

 そう言って立ち上がって、あかりは櫻子ちゃんを追いかけます。

 

「櫻子ちゃーん!まてー!!」

「わあっ!にげろー!!」 

 

 あかりが走ると、また櫻子ちゃんが逃げ出しました。

 無限大に広がっている森の中を木を、草をかき分けながらあかりは櫻子ちゃんを追いかけます。

 でも、櫻子ちゃんを追いかけているうちに、さっきとは違ってなんだか体も軽くなって、楽しくなってきました。

 櫻子ちゃんもさらに楽しくなってきたみたいで、櫻子ちゃんの顔にも満面の笑顔がこぼれます。

 

 いつも櫻子ちゃんに追いかけられて、櫻子ちゃんにその手を引っ張られているあかりが、今度はその櫻子ちゃんを追いかけている。

 櫻子ちゃんに引っ張ってもらった手を、今度はあかりが引っ張ろうとしている。櫻子ちゃんの手をつかまえようとしている

 いつもとは逆の立場のあかり達。

 なんだか、この時間がとても貴重で、特別なように思えてきて、それでいて楽しいのだけど……櫻子ちゃんをつかまえたらこの夢はもう終わりなんだって思うと、少し悲しい気持ちにもなってきました。

 

 それでも、この楽しい夢の世界も好きだけど、現実世界の櫻子ちゃんにも会いたいから、いっぱい思い出を作りたいから、いっぱい遊びたいから……夢から覚めないといけません。

 だから―――

 

「櫻子ちゃあああああああああん!!!」

「うおおおおっとぉ!!!」

 

 櫻子ちゃんはあかりが自分に飛び込んできたのを見て、急に向きを変えてあかりのことを優しく抱き止めてくれました。

 

「とっとっと……いたぁ!!」

「きゃあっ!!」

 

 そして上手くあかりをキャッチしてくれましたが、その衝撃であかりと一緒に櫻子ちゃんも倒れてしまいました。

 

「櫻子ちゃん、大丈夫!?」

「えへへ、平気平気……それよりもつかまっちゃった」

「ううん、これは櫻子ちゃんがあかりをキャッチしてくれただけだよぉ」

「あかりちゃんがケガしちゃうって思ったらつい……でもおめでとう。これでおしまいだね」

「……」

 

 櫻子ちゃんは笑顔で追いかけっこは終わりだと伝えるので、あかりは今にも泣きそうになりました。

 夢の中での櫻子ちゃんとの時間も、楽しかったから……ホントは離れたくない。

 

「櫻子ちゃんは、これでいいの? あかりと離れ離れになって、寂しくない?」

「……あかりちゃんは、優しいね。でも、私は夢の中の住人だからさ、ここにいなきゃならない」

「櫻子ちゃん……」

「でも、寂しいのはウソじゃないよ。これからもこの夢の世界であかりちゃんとずっと遊んでいたい」

「……」

「だけど、あかりちゃんのいる現実の世界にはいっぱいあかりちゃんの帰りを待っている人だっているんだから。もちろん、現実世界の私も」

「だから、その人たちのためにも、あかりちゃんは元の世界に帰らないといけないんだよ」

「私のことは、気にしなくていいから……だから、泣かないでよ。あかりちゃん」

 

 気が付くと、あかりの目から涙が出てきました。

 一人ここに取り残されてしまう櫻子ちゃんのことを考えると、いっぱい、いっぱい涙が溢れてしまって……止まらなくなります。

 

「だって、だってぇ……」

「それに現実に戻ったら、夢から覚めたらあかりちゃんに私からお願いがあるんだ」

「えっ?」

「それはねー、現実の私に怒りたい時は怒っていいし、私の前で泣きたい時には泣いて欲しい。あと、私にいっぱい甘えて欲しい……かな?」

 

 櫻子ちゃんの意外なお願いに、あかりの目は丸くなります。

 櫻子ちゃんもそう告げると顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしていました。

 

「その、なんだろう? あかりちゃんって優しいんだけど、自分からはワガママを言わないタイプっていうか……もっと頼りにして欲しいって思ったんだ」

「その、もっと素直になっていいんだよ?」

「私も、あかりちゃんにいつも助けてもらってるからさ」

 

「あかりちゃんのこと、私はもっと知りたいんだ」

「どんなあかりちゃんでも、受け止めてあげたいんだ」

「だから、約束して?」

 

 そう言うと、櫻子ちゃんは右手の小指を差し出して指切りの形をとりました。

 あかりも自分の小指を櫻子ちゃんの小指に絡ませます。

 

「うん……約束、するよ」

「良かった―――」

 

 櫻子ちゃんと指切りをするとあたり一面が急に眩しくなって、あかりは目を閉じました。

 

 そして目を閉じる瞬間最後に映ったのは、櫻子ちゃんの満足そうな笑顔でした。

 

――

――――

――――――

 

「…………?」

 

 気が付くと、体全体が揺れているようでした。

 それになんだか、体全体があたたかいような、優しいぬくもりを感じます。

 

「ここ、は?」

「あ、あかりちゃんおはよー。やっと起きた」

「あれ、櫻子ちゃん? どうしてここに……ってえ?え?」

 

 完全に目が覚めてあたりを確認すると、どうやら外にいるみたいで、空は夕焼けになっている様子でした。

 それに櫻子ちゃんがなぜかあかりをおぶって歩いていて、周りにはあかりと櫻子ちゃんの二人だけでした。

 

「あかり、9時にお部屋で眠っちゃったんじゃ……」

「えー?あかりちゃんはずっと茶道部室で眠っていたよ?」

「そう……なの?」

「そうだよ。私があかりちゃんに一緒に私の家で勉強教えて欲しいって言ったんだけど……でも私だけ課題忘れててさ、あかりちゃんに少し待っててって言って急いでやったんだけど結局こんな時間になっちゃって」

「そうだったんだぁ」

 

 あれ? じゃあ、あかりはずっと部室で眠っていただけで……お部屋にいたのも、夢?

 

「それで終わって急いで部室に向かったらさ、あかりちゃん眠っちゃってたんだ。揺らしても名前を呼んでも起きないからさ、勉強はまた明日にしておぶってあかりちゃんの家まで送ろうと思ったんだ。そして今に至るって感じだね」

「……」

「私から誘ったのに、ごめんね。待たせちゃったね」

「ううん。そんなことないよぉ。ありがとう」

「なら、いいけど……明日はちゃんとできるようにするからね!」

「うん。あ、あとそろそろ……」

「あ、そっか。あかりちゃん起きたし、もう降ろそうか?」

「え、えっとぉ……」

「?」

 

 夢の中の櫻子ちゃんはあかりに『もっと素直になってもいいよ』と言いました。

 もし、それが許されるなら、甘えてもいいのかな?

 でも、夢の中の櫻子ちゃんと現実の、今ここにいる櫻子ちゃんは、櫻子ちゃんだけど違うし……迷惑にならないのかな?

 

「……」

「あかりちゃん?」

 

 でも、あかりは夢の中の櫻子ちゃんと約束しました。

 

 あの櫻子ちゃんとの約束を、破りたくない。

 

 それに、これからも櫻子ちゃんといっぱい仲良くなりたい。

 

 お互いに何かあったら、励まして、喜んで、時には泣いちゃうかもしれないけど……色んなことをいっぱい共有していきたい。

 

 お互いにどんなことも受け止めあって、一緒になって笑い合いたい。

 

 あかりも櫻子ちゃんのこと、もっと知っていきたい。

 

 そう考えてるうちに、櫻子ちゃんの優しいぬくもりを手放すのがなんだかもったいなく感じて、櫻子ちゃんの背中の服の裾を優しく掴みます。

 

「や、やっぱり……」

「ん?」

「もう少し、もう少しだけ……このままでも、いい?」

「……えへへ。うん、もちろん」

 

 あかりが恥ずかしがりながらそう甘えると櫻子ちゃんは優しく答えてくれました。

 

 それに、櫻子ちゃんの見せた笑顔は夕焼けのせいかいつもよりも眩しくて、夢の中の櫻子ちゃんが笑っているような、優しいぬくもりを感じました。

 

【完】 

 

 

 
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