No.865566

飛将†夢想.19

北平城に迫る軍勢。
城主の公孫賛が援軍に走る。

2016-08-26 17:44:42 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1550   閲覧ユーザー数:1448

 

 

 

「ほ、報告!!北平城に烏丸、公孫度が軍勢を率いて侵攻してきました!!」

 

 

南皮城を攻めていた公孫賛の下に入った報告。公孫賛はこの報に呂布軍に攻略を任せ撤退を開始する。

 

 

 

 

幽州・北平城

 

 

「…来たか。皆、正念場だぞ!!援軍は必ず来る!!味方が来るまで耐えるのだ!!」

 

 

「「「おおぉぉぉっ!!」」」

 

 

城に迫る烏丸と公孫度に聞こえる様に号令を言い放つ関羽。

彼女の号令は北平城の兵士たちの士気を上げ、

兵士たちは関羽に続いて城一帯に響く雄叫びを烏丸と公孫度に向かって吼えた。

 

 

「あ、あれが関雲長か…」

 

 

劣勢の筈である敵からの威圧に、

城壁に立つ関羽の姿に公孫度は冷や汗をかく。

 

 

「んーゴホンッ…敵も必死だ。気を引き締めて…ッ!?」

 

 

相手の士気の高さを感じたのか、部隊に命令を発しようとする公孫度。

だが、その途中で言葉が止まる。

彼の目に映るは黒い影。

 

 

「……数で押せ……気を引き締める暇があったら……さっさと攻めろ」

 

 

黒装束を身に纏う烏丸の大将…搨頓。

彼はボソボソと聞こえないぐらいの大きさで号令を発するが、

それが聞こえているのか烏丸の軍勢は無言で城に向かっていく。

 

搨頓も自分の部隊に続いて馬の腹を蹴り行動を開始する。

その際に搨頓は公孫度をちらりと横目で見ていく。

それはまるで“早く貴様も来い”とでも言っているような目で。

 

 

「…わ、我らも行くぞッ。遅れをとるなッ!!」

 

 

それを見て、先程言おうとしていた言葉と違うことを言う公孫度は、

慌てて城を攻めるのであった。

 

 

 

 

「…ッ、梯子を城壁に取り付けさせるな!!張飛隊は準備する兵士を狙え!!私の部隊はその援護を、騎射する兵を射て!!」

 

 

梯子を準備し始める烏丸の兵士を見た関羽は直ぐに指示を飛ばす。

自身も弓を手に取り、梯子を運ぶ烏丸の兵へ矢を放つが、

盾を持った兵たちが現れると次第にその進行を防ぐことが出来なくなる。

 

張飛も城壁より石を投げて抗戦するが、いよいよ敵の勢いを押さえ切れないと感じると、

関羽の叱咤を無視してでも戦場に飛び込もうと蛇矛を持った。

 

と突然、北平城一帯に銅鑼の音が響き渡る。

その音は両軍の動きを止め、それぞれの視線を一点に集中させた。

向かう視線は南の方角に。

 

 

「愛紗ちゃぁぁん、鈴々ちゃぁぁん!!!」

 

 

「はぁはぁ…ま、間に合ったか…?」

 

 

馬上より義妹たちを心配して叫ぶ劉備と汗を拭いながら少し安堵する公孫賛。

南皮城攻略に出撃していた部隊が戻ってきたのだ。

南皮城で張郊の部隊と交戦して被害があるとはいえ、彼女たちの姿は北平城の士気を上げるものとして十分であった。

 

雄叫びを上げる北平城の兵士。

敬愛する義姉の無事な姿に、笑顔で跳んで喜ぶ張飛。

ボロボロと号泣する関羽。

 

 

「お姉ちゃんなのだ!!お姉ちゃーん♪」

 

 

「桃香、さま…桃香さま、良く御無事で…」

 

 

関羽は暫く小さく嗚咽を繰り返していたがと、突然パッと涙を拭って青龍堰月刀を掲げて北平城の兵士たちに号令を発した。

状況を判断して直ぐ新たな命令を出すところは流石だと思う張飛だったが、

先程まで泣いていた義姉の姿を見ていたと思うと苦笑いも出てしまう。

 

だが関羽はそんなこと気にせず、

兵士たちに命令を下す。

関羽の表情は先程の焦った表情と違って活き活きとしていた。

 

 

 

「……盟約上の我らの役目は果たした」

 

 

公孫賛たちの姿を確認した搨頓は目的を果たしたかのような感じで呟く。

一方、その隣ではあたふたと慌てる公孫度の姿が。

 

公孫度が焦るのも当然だった。

彼が袁紹軍の要請を受けた際に、『敵は主の居ない、北平城の少ない兵士のみ』としか話を聞いていなかったのだ。

そして、自分の領地と隣接する勢力の主…幽州牧・公孫賛と対峙した、

この時点で小勢力の公孫度の命運は決まったも当然であった。

 

 

「き、聞いていないぞ…このままでは…」

 

 

「……何をぐだぐだと。袁の軍師にああでも言われなければ、臆病者の貴様はこの要請を受けなかったであろう?騙されたんだよ、貴様は……腹をくくれ。もう貴様は此処で奴らを滅ぼさなければならなくなったのだ」

 

 

「貴様はこのことを知っていたのか!?」

 

 

「……クカカカカッ。異民族には真実を教え、漢民族には偽りの情報を流し……漢民族は醜いな。心も、何もかも」

 

 

搨頓は焦る公孫度を見て笑いながら話す。

公孫度は騙した沮授に対してか、はたまた己を笑う搨頓に対してか、

ワナワナと握り拳を作って身体を怒りに震わせた。

 

それを見た搨頓は突然笑うのを止める。

 

 

「……そうだ。その怒りだ。抗え、決まりつつある自身の命運に。抗え、決まりつつあるこの歴史に」

 

 

公孫度は搨頓のその言葉に何かが吹っ切れたのか、

雄叫びを上げて部隊を率い公孫賛隊に突撃する。

突撃してくる公孫度に公孫賛はすぐに迎撃態勢を取った。

 

その光景を見る搨頓は計画通りに進んだ事にニヤリと笑う。

 

 

「……争い続けろ。平穏などいらぬ。この世界を混沌の世界へ。管理者の敵に混沌の楔を」

 

 

公孫賛隊の出現に、

士気が落ちつつある兵士を無理矢理率いて突撃をしてくる公孫度。

 

それに対し劉備は慌てて身構え、公孫賛は冷静に指示を発する。

指示を受けた白馬義従は直ぐに隊列を整え、いつでも突撃出来る態勢をとり、

後は公孫賛の号令を待つだけだった。

 

そして、白馬義従の先頭にいた公孫賛が剣を抜刀し、

それを高々と空へ突き上げる。

 

 

「白馬義従よッ、私につ」

 

 

「この趙子龍に続けッ!!突撃ぃッッ!!」

 

 

突然、公孫賛の横を紅い旋風が突き抜ける。

それに思わず言葉を止める公孫賛。

 

 

「「「うおおおおおおおッッ!!!!」」

 

 

白馬義従は先頭を駆ける紅い騎馬に続くべく、それぞれ雄叫びを上げ突撃を開始。

劉備も『ま、待ってよぉ~…』と遅れて白馬義従に続いて馬を走らせる。

 

その場に残ったのは、

砂埃に撒かれ呆然とする公孫賛ただ一人だけだった。

 

 

白馬義従の遥か先頭を駆ける赤兎。

それに乗るのは趙雲。

彼女は赤兎の速さ、手綱を操ろうとせずとも握っているだけで勝手に敵に向かっていく好戦的な赤兎の性格、それを自由に操る呂布は何なのだ、と驚きばかりが頭の中にあった。

 

だが…

 

 

「…先ずは目の前の敵だけを、だな」

 

 

趙雲は頭を切り替え、

振り落とされないように手綱を強く握る。

 

勿論、切り替えの中には南皮での戦闘中断のこともあった。

次こそは思うがままに暴れん、と彼女はニヤリと笑うのだった。

 

そして、趙雲の乗る赤兎が公孫度の部隊と接触する。

 

 

「ンべらッ!!!?」

 

 

趙雲の構える槍が公孫度の騎馬兵の口を貫き、そのまま頭をもぎ取った。

 

飛び散る赤い鮮血。

 

それを浴びるように白馬義従が公孫度隊に突撃していく。

 

完全に交戦状態になった両部隊は、

互いに吹き飛び、互いに崩れ落ちながら死闘を繰り広げる。

 

 

「あ、赤い怪馬…りょ、呂布だ…“泗水関の鬼神”だぁぁっ!!!?」

 

 

そんな中、公孫度隊を引き裂くように一人駆ける趙雲。

 

その奮闘ぶりと今乗っている赤兎の姿に、

趙雲を呂布と勘違いした公孫度隊の兵士は士気を低下させる。

 

白馬義従としては、これは流れを掴める良い好機となった。

 

だが、趙雲からしては全然面白くない。

これでは自分の名は挙がらない。

挙がるのは呂布の名前。

 

 

「我が名は趙雲ッ、趙子龍だ!!我が姿とあの男を見間違えた兵よ、前へ出ろッ!!この趙子龍の強さを身に教えてやるッ。呂奉先と比べものにならない、とな!!!!」

 

 

怒る趙雲は叫びながら次々と敵兵を突き殺していく。

 

その強さ、当に一騎当千。

 

こうなっては、公孫度の兵士たちにとって赤兎に乗っているのが呂布なのか趙雲なのかはどうでもよかった。

 

徐々に後退し始める公孫度隊。

遅れて指揮を執る公孫賛率いる白馬義従はこの隙に攻勢に転じる。

 

 

「桃香は騎馬二千を引き連れて、北平城へ向かってくれッ。関羽たちが心配だろ?合流し協力して城に張り付く敵を叩いてきてくれ!!」

 

 

「わかった!!皆、ついて来てーッ!!愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、城の人たちを助けに行くよ!!」

 

 

公孫賛は隣にいた劉備に騎馬二千を預けると、

危機に瀕する北平城の救援に向かわせる。

 

北平城に向かう劉備の背を確認すると公孫賛は次の指示を発した。

 

 

「我らはこの部隊を早急に殲滅し、そのまま返す刃で城を攻める敵の背後を突くぞ!!白馬義従の力、今こそ見せる時だ!!」

 

 

公孫賛は敵兵を斬り捨てながら叫ぶ。

反応した白馬義従の雄叫びを聞きながら、彼女は狼狽する公孫度の姿を見るのであった。

 

 

公孫賛の指示を聞いた劉備はただ、前傾になって馬の腹を蹴っていた。

命より大切な義妹たちの身を思って。

 

先の南皮城攻城戦では公孫賛隊の中に居たとはいえ、何も戦果を挙げる事が出来なかった。

正直、武に自信はない。

寧ろ、人と争う事が生理的に受け付けられない、彼女の身体はそうできていた。

 

そんな彼女が血相を変えて馬を走らせる。

向かう先は激戦地となっている北平城城壁付近。

必ずどちらかの軍から死者が出るであろう地に、彼女は恐れもせず馬を走らせていた。

 

付き従う白馬義従の兵士たちは、普段とは全く違う劉備の姿に驚きを隠せなかった。

そんな彼らに劉備が突然声を発す。

 

 

「もうすぐ着くよ!!皆、私に力を貸して!!」

 

 

劉備の号令は白馬義従の兵士たちは雄叫びを上げて加速した。

 

城を狙っていた烏丸兵を騎馬ごと吹き飛ばす白馬義従の突撃。

宙を舞う烏丸兵を背景に、劉備は有らん限りの声で叫んだ。

 

 

「助けに来たよ!!愛紗ちゃん、鈴々ちゃん!!」

 

 

劉備の声は、苦悶の表情で防戦する関羽と張飛の表情を明るくさせるには十分であった。

勿論、北平城の守備兵も劉備たちの到着に歓喜する。

 

だが、劉備率いる二千の白馬義従では攻城する一万強の烏丸には太刀打ち出来ない。

 

しかし、関羽が劉備の到着に揺らぐ情勢を逃す筈がなく、

 

 

「鈴々ッ!!」

 

 

「応ッ。愛紗、お姉ちゃんのことは鈴々に任せるのだ!!」

 

 

劉備から敵に視線を戻した関羽が既に階段を下り始めていた張飛の真名を呼ぶと、

張飛は蛇矛をグッと掲げてみせ関羽の真意を読みとったことを告げた。

 

それを見た関羽は頷き、

直ぐ様城門を囲む烏丸の兵に矢を放つよう命令を発する。

 

守備兵から放たれた弓矢が刺さり倒れる烏丸の兵。

勿論、それを避ける者もいたが注意が逸れただけでも十分。

間髪入れず、張飛が数百の兵を引き連れて北平城から出撃した。

 

 

「お姉ちゃんッ、早くこっちに来るのだ!!」

 

 

張飛は城門から烏丸の騎兵に飛び掛かると、

その頭を勢いよく捻りながら劉備の名をを呼ぶ。

 

城門から出撃した張飛隊を確認した劉備の表情に笑みが涙がこぼれると、

そのまま馬を走らせた。

 

 

「うぇぇん、鈴々ちゃん生きてたんだねぇ、良かったよぉぉ」

 

 

「勝手に…うにゃっ!?…殺さないでッ、ほしいのだ!! 」

 

 

ぼろぼろと情けない表情で義妹の無事を喜ぶ劉備に、

烏丸の兵士たちの攻撃を避けながら、烏丸兵を蛇矛で刺し貫き、返り血を浴びながら義姉に呆れる張飛。

 

張飛隊と合流した劉備隊。

城内外の北平城の将兵は瞬く間に士気が上がった。

 

北平城の関羽もそれに安堵する。

 

 

「…クカカカカ…ここで三天の一角を仕留められるとは…混沌はまだまだ続く、まだまだ…クカカカカ…」

 

 

だが、烏丸兵に紛れていた搨頓から放たれた矢によって、状況は一変した。

 

 

「っ、ひゃっ!!!?」

 

 

劉備の乗る騎馬の胸から体を貫通し、

そのまま北平城に突き刺さる弓矢。

絶命した騎馬はそのまま前膝から崩れ落ちる。

 

体勢を崩し、地面に転げ落ちる劉備。

搨頓の矢は既に劉備の頭部を狙って放たれていた。

 

 

劉備目掛けて飛ぶ矢は、ギャリギャリと音をたて、獲物を貫く。

 

張飛は肩から生える矢に苦痛で顔を歪め、

咄嗟に張飛から押され無事だった劉備は、悲壮な表情で義妹を見た。

 

 

「り、鈴々ちゃんッ!!」

 

 

「…く、くく、クカカカカッ!!三天の一角は討ち漏らしたが、代わりに猛虎を射止めたわ。功名、功名」

 

 

笑いながら矢をつがえる搨頓は、顎で部隊に指示を出し、城門にいる動揺を隠せない北平の兵と白馬義従をゆっくりと包囲していく。

 

張飛に駆け寄り涙を流す劉備に、搨頓は容赦無く弓を構える。

 

その時だった。

 

ドンッ!!

 

衝撃音が戦場に響き渡る。

 

 

「お、おぉ…軍神関羽、か。クカカカカ…」

 

 

搨頓は笑いながら、その場から後方へ跳び、劉備たちから距離を離す。

 

欠損した右腕から噴水のような出血をしながら。

 

劉備と張飛の前に立つ関羽は、憤怒の表情で、搨頓の右腕を叩き斬った堰月刀を搨頓に突き付ける。

 

 

「…貴様、我が姉妹に手を出した事を死して報え」

 

 

「クカカカカ…右腕だけでは足りぬか?」

 

 

笑みを浮かべる搨頓は、血を流しながら再び烏丸軍に左手で指示を出した。劉備たちを囲んでいた烏丸兵が搨頓の指示に、一斉に飛び掛かる。

 

しかし、関羽はそれを一閃。

 

真正面を見たまま烏丸兵を切り伏せるその姿は、他の烏丸兵を畏怖させるのに十分だった。

 

だが、その一瞬に搨頓が北平城門から撤退する。

 

 

「…軍神関羽、天晴れ。だが、混沌はまだ終わってはいない。これはそれを再開させる楔だ」

 

 

部下の騎馬に乗り後退する搨頓は、笑いながら弓を構えた。

 

 

(右腕が…ッ)

 

 

搨頓を見る関羽の表情が一瞬戸惑う。

が、此方に飛んでくる矢を払うと、何故斬り落としたはずの搨頓の右腕があるのかを疑問視する余裕はなくなる。

 

矢を放った搨頓の後ろから、衝車が現れたのだ。率いる部隊には公孫の旗が靡いていた。

 

その横に息を荒らす公孫度が立つ。

公孫度は搨頓を睨み付ける。

 

 

「蛮族めッ、衝車を直ぐに持ってこいとは何だ!こっちは公孫賛に攻められているんだぞッ」

 

 

「…貴様が生き延びるには城を落とすだけぞ?それを助長する者に蛮族などとは、漢民族は真醜い」

 

 

搨頓は荒れる公孫度の罵声に溜息をつき、

その横を淡々と通り過ぎる。

 

これに公孫度は怒りを北平城に向かってぶつけた。

 

公孫賛隊に割いた部隊を差し引いても、6千以上の公孫度隊、搨頓の指示に1万近い烏丸の兵が北平城に迫る。

 

 
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