No.863385

笑顔の種を届けるあなたへ

過去にpixivで上げたさくあかSSの再投稿です。あとがきは当時書いてて残してる(はず)だけどあとがきはなしですすみません。

このSSに言えることはそうですね…元気をなくした時にでも見て下さいませ。

2016-08-13 19:30:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:817   閲覧ユーザー数:815

 

 夢を見ました。

 

「あれ、ここは?」

 

 目を開けて、体を起こすと、どうやら草原のような場所にいるようでした。

 

 そして辺りを見渡し、ふと目を止めると、そこには満開の大きな桜が一本立っていました。

 

「あっ、櫻子ちゃんだぁ。何やってるんだろう?」

 

 その桜の木の下で、たくさんの友達に囲まれている大室櫻子ちゃんの姿がありました。

 

 そこにはちなつちゃんと向日葵ちゃんたちクラスの一年生や二年生の杉浦先輩と池田先輩、京子ちゃんと結衣ちゃんの姿もありました。

 

 それはお花見のようで、櫻子ちゃんが中心になって盛り上がっていて、そんな大勢に囲まれて櫻子ちゃんはとても幸せそうな笑顔を浮かべていました。

 

「えへへ、櫻子ちゃん楽しそう……でもあれ、あかりは?」

 

 大勢の中に、あかりの姿だけは、ありませんでした。

 

 

「あかりの夢だからかな?」 

 

 

 きっとそうだと思って、あかりも櫻子ちゃんたちの所へ行こうとしました。

 しかし、あかりだけ桜の木の下に行こうとしても、なかなか行くことが出来ません。

 

「あれ? おかしいな」

 

 なかなか前に進めません。むしろ遠くなってるような……

 

「あかりも、皆のところに」

 

 段々と、景色が遠くなります。

 

 

「み、みんな待ってぇ!」

 

 

 涙を浮かべながら、手を伸ばします。

 

 

 ジリリリリリリリリリリ

 

 

 しかし、辺りが真っ暗になったその瞬間に夢が終わり、目が覚めてしまいました。

 

 時計の音は無情にも部屋中にけたたましく鳴り響き、気付いたあかりはすぐに時計を止めます。

 

 時計を止めると、まるでさっきまでの夢が何事もなかったかのように、部屋もシーンと静まり返ります。

 

 

 

「夢……だよね?」 

 

 周りを見渡すと草原のような所ではなくて、いつも通りのあかりの部屋がそこにはありました。

 

「あ、あれ……?」

 

 そして気付いたらあかりは少し泣いていました。

 

 「涙、拭かなきゃ」

 

 パジャマの裾で、流れた涙を拭き取りながら考えます。

 あの夢は、一体なんだったのだろう?

 

「櫻子ちゃんがみんなの注目を浴びてて目立ってて、あかりには……誰も気付かない夢?」

 

 櫻子ちゃんは明るくて、クラスの人気者だからなぁ。

 

「あかりも、櫻子ちゃんみたいになれたらいいのに」

 

 そんな櫻子ちゃんにあかりも憧れます。

 

「でも、あかりには無理だよね……」

 

 夢の中のあかりの姿を思い出して泣きそうになったけど、無理矢理にでも涙を引っ込めます。

 

「……学校の、準備しなきゃ」

 

 でも、今日は京子ちゃんたちと一緒に行きたくない。 こんな姿を見られたら、心配されちゃう。

 

 「あっ、そっかぁ。今日日直だったっけ?」

 

 たまたま日直であることに気付き、あかりは早速京子ちゃんたちにメールして『今日は日直なので早く学校に行くね』と送ります。

 

 京子ちゃんたちも特に怪しむ様子もなく了解のメールがすぐに来ました。

 

「これでよし、だね。学校の準備しなきゃ」

 

 あかりは学校へ行く準備をして、朝食を食べたらすぐに外へ出ました。

 

 

「わぁ、今日はいい天気だねぇ……」

 

 

 でも、天気は雲一つない快晴で気分も晴れそうだったけど、あかりの心の中は少し寂しい気持ちのまま……だったり。

 

 

 

【笑顔の種を届けるあなたへ】

          明咲桜照(あさきさくてる)

 

ガララ……

 

 

「おはよぉ……ってやっぱり誰もいないよね」

 

 学校に着いて、先生から日誌を受け取って教室へ向かっても、当然誰もいませんでした。

 

「荷物を置いたら、先生からプリントを受け取りに行かなきゃだね」

 

 先生にプリントがあるからもう一人の日直の子と二人であとで来て欲しいと言われたので少し待つことにしました。

 

 ふと、前の黒板に書いている今日の日直の欄を見て、あかりは「あれ?」と少し驚きます。

 

 そういえば、『あ』と『お』は近いうえにたまたま出席順が次だったから、今日の日直はあかりと……

 

ガララララ!

 

「おっはよーあかりちゃん!遅れてごめん!!」

 

「あっ、櫻子ちゃん……」

 

「? どうしたのあかりちゃん?」

 

 あかりと同じく今日の日直当番の大室櫻子ちゃんは少しキョトンとしてました。

 

 今朝の、楽しそうにしてる櫻子ちゃんと櫻子ちゃんたちの側に近づけなくて、ひとりぼっちになっていたあかりの夢のことを思い出しそうで、あかりは少し胸がギュっと締め付けられそうになります。

 

「え、えっとぉ……なんでもないよ? おはよぉ櫻子ちゃん」

 

 少し、声が枯れそうになりましたが、なんとか声を出して挨拶しました。

 

「? だったらいいけど……何かあったら言ってね?」

 

「えへへ、ありがとう」

 

 

 櫻子ちゃんは、普段は向日葵ちゃんとケンカしたり、あかりに忘れた宿題を見せて欲しいってお願いすることもあるけど、でも、相手のことをよく見てこういう気遣いもできる女の子だってあかりは知ってます。

 

 こういうところが、櫻子ちゃんの周りに人がいっぱいできる理由なのかな?

 

 でも、今はその優しさが、辛い。

 

 あかりにはそういうこと、簡単には出来ないから。

 

 櫻子ちゃんの明るさや性格が、羨ましい。

 

 

「あ、そういえば一緒の日直だね!よろしくね!!」

 

「うん。あと、先生が朝のプリントがあるから職員室まで取りに来てって言ってたんだ。一緒にいい?」

 

「オッケーオッケー!一緒に行こー!」

 

 櫻子ちゃんが荷物を置くと、櫻子ちゃんとあかりは職員室へ一緒に向かいます。

 

 

 

「あっ!」

 

 

 二人で廊下を歩いてる途中で櫻子ちゃんが急に何かを思い出したような声を出したので、あかりは驚きます。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

「今日の一時間目の理科の宿題忘れちゃった。また西垣先生に怒られちゃう……」

 

「あー……」

 

「どうしよう……」

 

 

 櫻子ちゃんが「向日葵に言って見せてくれるかなぁ?」と言いながらうーん……と困っている様子でした。

 

 そんな櫻子ちゃんを見てるとなんだかほっとけなくて、あかりは櫻子ちゃんに「あ、そうだ」と言って提案します。

 

 

「じゃああかりが宿題教えてあげよっか?」

 

「あかりちゃんいいの!?」

 

「うんっ、櫻子ちゃん困ってるから」

 

「やったー!あかりちゃんありがとー!」

 

 

 櫻子ちゃんが両手を上げながら喜びを表すと急に抱きついてきました。

 

「あかりちゃん優しいー!」と言いながら素直に喜んでる櫻子ちゃんを見てるとあかりも嬉しくなります。

 

 

「えへへ、困ってるならお互い様だよぉ」

 

「困ってる? やっぱり、あかりちゃんは何か困ってるの?」

 

「えっ!?」

 

 

 困ってるというよりは、どうなんだろう? あかりにもよく分かりませんでした。

 

 ただ夢を見て、櫻子ちゃん以外の誰にも気付いてもらえなかった夢で……ただそれだけで……

 

 

「…………」

 

「あかりちゃん?」

 

 

 櫻子ちゃんが俯いてるあかりの顔を心配そうに覗いて尋ねます。

 

 

「えへへ、特に困ってなんかないよぉ?」

 

「……そうなの?」

 

「うん。とりあえず職員室でプリント受け取ったら宿題見てあげるね」

 

「……うん」

 

 

 

 その後は櫻子ちゃんと今日の授業や給食のことについて話しながら廊下を歩いてるうちに職員室に着き「失礼します」とドアを開けて入ると担任の先生と一緒に話していた西垣先生が「おっ、待ってたぞ」と言って、あかりたちをいつもの笑顔で迎えます。

 

 

「西垣先生、おはようございます」

 

「おはよーございます!って待ってたって何をですか?」

 

「ああ、一時間目がちょうど理科の授業だからな。ついでにプリントとこれも持っていくのを頼もうと思っていたところだったんだよ」

 

 そう言って西垣先生は、プリントの他に理科の資料と機材に指を指して答えます。

 

「ええっ!?こんなにあるんですか!?」

 

「少し多いが、力持ちの大室なら大丈夫だろ?それに赤座もいるしな」

 

「そうかもしれませんけど……」

 

「……」

 

 やっぱり櫻子ちゃんはすごいな……皆から頼りにされて、力持ちで。あかりにはないものが沢山あって、憧れちゃう。

 

「まあ、ちょっと重いけどあかりちゃんとなら大丈夫だよね。あかりちゃん、早く一緒に持って行こう?」

 

「うん」

 

 少し持っていくものが多いので、職員室にあったダンボール箱を借りて、一つにまとめてから二人で一緒に持っていくことにしました。

 

「二人とはいるからとはいえ、ケガのないようにな」

 

「はーい、それじゃあ失礼しました」

 

「西垣先生また授業で、よろしくお願いします」

 

「ああ、またな」

 

 挨拶した後、職員室をあとにして、また廊下を櫻子ちゃんと二人で一緒にゆっくりと荷物を持っていきます。

 

「あかりちゃん大丈夫?重くない?」

 

「うん、あかりは平気だよぉ。櫻子ちゃんも大丈夫?」

 

「うんっ!あかりちゃんのおかげで、重たくないよ!」

 

「そっかぁ……ありがとう」

 

 でもあかりは櫻子ちゃんみたいに力持ちじゃないから、そんなに力を入れて持っていないのに……櫻子ちゃんに迷惑をかけているみたいで、辛くなりました。

 

 あかりが重く感じないのは櫻子ちゃんがあかりの負担を軽くしてるからで……こんな時に限って、あかりは何も出来ない。

 

「……」

 

「あかりちゃん、やっぱり重い?」

 

「えっ!?そんなことないよ」

 

「うーん……」

 

「あはは……」

 

 櫻子ちゃんが怪しそうにあかりを見るけど、結局何も聞かず「まあ、今はとりあえずこれを運ぼっか」と言いました。

 

 あかりも「うん」と答えてから再び廊下を二人で歩きます。

 

 櫻子ちゃんは心配してくれてるけど、あかりは今日もいつも通りでいなきゃ。

 朝に見た夢は夢なんだし、現実にあんなことが起こっている訳じゃない。気にしないようにしなきゃ。

 

 

 

「ふーっ。やっと運び終えたねー」

 

「うん。櫻子ちゃんありがとう」

 

「いやいや。あかりちゃんがいたからだよ」

 

「そんなこと……」

 

『ない』と言おうとしたら櫻子ちゃんが「あっ!そういえば宿題があったんだったー!」と悔しそうに叫びました。

 

 あかりもその声に少し驚いてしまいます。

 

「あっ、ごめん。大きな声出しちゃって」

 

「ううん。じゃあ一緒にやろっか」

 

「やったー!ありがとうあかりちゃん!」

 

 早速櫻子ちゃんが理科の宿題を自分の机の上に出して、あかりが櫻子ちゃんの隣に座って一緒に見ます。

 

「うーんと、これとか考えても分からなくってさー」

 

「あっ、これはねこうして、こうやって考えてみたら出来るよ」

 

「なるほど!分かりやすいね、さすがあかりちゃん!」

 

「そ、そう?」

 

 櫻子ちゃんはこう言っても、少し教え方に自信ないなぁ。

 

 この前、櫻子ちゃんの家で課題を教えていた時も「分からない」って言われたし。

 

「あかりちゃんは教えるの上手だなぁ。家庭教師みたい!」

 

「そ、そんなことないよぉ」

 

 あかりはそんなに教えるのは得意じゃない。この前は分からないって言われたから、櫻子ちゃんの教え方を向日葵ちゃんから教わっただけで……あかりはそれを覚えただけで、何もしていません。 

 

「あ、それじゃあこれは?」

 

「えっ?これはえっとね……」

 

 えっと……これは確か……あれ? いつもやってるはずなのに、頭から答えが出てこない。

 

「……あかりちゃん?」

 

「あっ、ごめんね。すぐに答えるから……」

 

 どうしよう……どうしよう。早く答えなきゃ。でも、分かんない。

 

「……あかりちゃん?」

 

「えっと、ちょっと待ってね……」

 

 ちゃんと教えなきゃ。櫻子ちゃんもあかりなんかを頼りにしてくれてるのに。

 

 でもどうしたらいいか分からない。

 

「あかりちゃん?どこか痛いの?」

 

「? ど、どこも痛くないよぉ?」

 

「だって……あかりちゃん泣いてるから」

 

「えっ?」

 

 あれ?いつの間に……どうして?

 

「ご、ごめんねぇ。すぐ泣き止むから」

 

 どうして泣いてるのだろう?

 

 あんな夢を見たから?

 

 問題があかりにも分からなかったから?

 

 こんなダメなあかりにも、櫻子ちゃんがいつものように笑顔を見せてくれるから?

 

 そんな櫻子ちゃんが眩しかったから?

 

 分からないけど……でもこれ以上こんな姿を見せたら、櫻子ちゃんに嫌われちゃう。

 

 櫻子ちゃんはあかりのことを憧れてるって言ってたのに、櫻子ちゃんはあかりに笑ってて欲しいって言ってたのに。

 

 あかりは、櫻子ちゃんに嫌われたくないのに。

 

「あ、あかりちょっと、屋上で外の空気吸って、落ち着いてくるから、すぐ戻ってくるから……」

 

「えっ?ちょっとあかりちゃん!?」

 

 

 

 

 櫻子ちゃんが呼び止めているのを振り切って、あかりは廊下を出て、階段を上がったところにすぐにある屋上まで駆け込みます。

 

「はあ、はあ……どうして、こんなに……グスッ、涙が出るのぉ?」

 

 櫻子ちゃんの前で泣いて、困らせて……櫻子ちゃん、あかりのことかっこいいって、憧れてるって言ってたのに、笑ってて欲しいって言ってたのに、それをムダにしちゃって。

 

 

 どんくさい。

 

 

 情けない。

 

 

 泣き虫。

 

 

 なんで櫻子ちゃんみたいに上手くいかないんだろう?

 

 櫻子ちゃんはいつも元気で、笑顔で、皆に慕われてるのに……

 

 

「あかりも、櫻子ちゃんみたいに、なりたいのに……! うえええええん……!」

 

 

 こんなあかりなんて、櫻子ちゃんの友達でいる資格なんて……

 

 

バンッ!!

 

 

「あかりちゃん!!」

 

 色んな嫌な気持ちが頭をかけ巡っているうちに、櫻子ちゃんが屋上の扉を勢いよく開けて、あかりの前までやってきました。

 

「どうしたの?なんか嫌なことがあった?ひょっとして、私の勉強教えるのが嫌だった? そうだったらごめんね、ごめん……私、あかりちゃんの気持ちに気付けなくて」

 

 櫻子ちゃんは申し訳なさそうに、深く頭を下げていました。

 

 悪いのは櫻子ちゃんじゃないのに……そう思うとまた涙がこみ上げてきます。

 

「ち、違うの。そうじゃないの。これはあかりが悪くて……ごめんね、グスッ、すぐ、泣くの、やめる、からぁ……」

 

 涙が出てくるたびにしゃっくりも出てきて、落ち着かない。

 

「だいじょうぶだからぁ……」

 

 泣きながら、安心してもらうために笑顔を作ろうとするけど、上手く出来ない。

 

 ちゃんと、笑わなきゃ、いけないのに。

 

「あかりちゃん……」

 

「ごめんね……ごめん」

 

「……」

 

 スタスタ……

 

 そんなあかりにかける言葉が見つからなかったのか、櫻子ちゃんはあかりの前を横切って、あかりの後ろのほうへ歩いていきます。

 

 そっか、櫻子ちゃんはこんなあかりを見るのが嫌なんだ。

 

 さすがにこんなかっこ悪いあかりを見たら……あきれちゃうよね。

 

 

 

 うん、そうだ 

 「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

「!?」

 

 後ろを振り返ると、櫻子ちゃんが屋上にある柵の前まで来て、なぜか空に向かって大きな声を出して叫んでました。

 

 それを見たあかりはビックリして、キョトンとしてしまいます。

 

「さ、櫻子ちゃん……?」

 

「あはは。あかりちゃん、びっくりした?」

 

 櫻子ちゃんがあかりの方へ振り向いて、いたずらっぽくいつもの笑顔を浮かべてそう言います。

 

「う、うん」

 

「私もね、辛い時とか泣いてる時にさ、こうやって何かあったらよく部屋の窓を開けて叫んだりしてたんだ。あまりうるさいとうちのねーちゃんに『近所迷惑だからやめろ』ってよく怒られたけどね」

 

「……」

 

「あかりちゃんがどうして辛くなって泣いてるのか分からないけどさ、まずは辛い、苦しいって気持ちを声に出して叫んでみたらどうかな? そうすれば少しは心が楽になると思うんだ」

 

「で、でも……」

 

「まあまああかりちゃん、モノは試しってことで、ね?」 

 

 櫻子ちゃんがあかりの前に手を差し出して、さらに言葉を続けます。

 

「それに辛いのに無理して笑おうとして、何も言わないで自分の殻の中に閉じこもってちゃダメだよ。 私はそんなあかりちゃんなんて見たくない」

 

「櫻子ちゃん……」

 

「ほら、涙を拭いて」

 

 そう言って、櫻子ちゃんは自分のハンカチをあかりに渡します。

 

「えへへ、ありがとう。なんかいつもと逆になっちゃったね」

 

「いいよそんなこと。今は気にしないで」

 

「でも、少し叫ぶのってこわい、かも」

 

「だいじょーぶ、私もいるからさ。ね?怖がらないで。辛い気持ちを一緒に空へ向かって、叫ぼ?」

 

「う、うん……」

 

 櫻子ちゃんがあかりの手を引いてあかりを導くように「わーーーー!!」って先に叫びます。

 

 それに続いてあかりも声を出します。

 

「わ、わー……」

 

「あかりちゃん、声が小さいよ!もーいっかい!!」

 

「わーー……」

 

 あかりの声が小さいからか「こうだよ」って言って櫻子ちゃんが再び叫びます。

 

 

 

「わーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

「わ、わーーー……!」

 

 

 

 櫻子ちゃんのを見てると、少し声に勇気が出てきます。

 

 

 

 やっぱり、櫻子ちゃんはすごい。

 

 

 

「そうそうその調子!」

 

 

 

「わーーー!!」

 

 

 

 あかりなんかよりも、全然かっこいい。

 

 

 

「わーーーー!!!」

 

 

 

「わーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

「「わーーーーーーーーー!!!!!」」

 

 

 

 

 

「あはははは!あかりちゃんも大きい声出るじゃん!!」

 

 

「えへへ……うんっ!」

 

 

 でもそれは、櫻子ちゃんのおかげなんだよ?

 

 

 櫻子ちゃんがいたから、あかりも少しずつ元気になれたんだよ?

 

 

 

 いつもありがとね。

 

 

 

 

 

 

 それからその後も二人でいっぱい叫びました。

 

 

 櫻子ちゃんが叫ぶと

 

 

 あかりが叫んで

 

 

 あかりが叫ぼうとしたら

 

 

 櫻子ちゃんがあかりに合わせて叫んで

 

 

 声が重なって

 

 

 同時に叫んでるみたいになって

 

 

 そして叫んでる時は無我夢中になってて

 

 

 本当に楽しい気分になっていました。

 

 

 

 

 

 

 そしてひとしきり声が枯れるまで叫んだあと、あかりと櫻子ちゃんは疲れたので、屋上の扉の前に座って休憩します。

 

「はあ、はあ……あかりちゃん大丈夫?疲れてない?」

 

「はあ……はあ……だ、大丈夫。ありがとう櫻子ちゃん」

 

「少しは、気が楽に、なった?」

 

 櫻子ちゃんも叫び疲れたのか、まだ呼吸が整っていない様子でした。

 

 あかりも疲れていて呼吸が整ってませんでしたが、しっかり「うん、大丈夫だよぉ」とだけ答えます。

 

 そしてしばらく休憩して、あかりも櫻子ちゃんも、呼吸が整ったあと、櫻子ちゃんが先に言葉を紡ぎます。

 

「それで、なんでそんなに泣いちゃったの?」

 

「えっ、えっとぉ……」

 

 今は涙は引いたけど、さっきまで櫻子ちゃんの前で泣いてしまっていたのを思い出して、あかりは少し恥ずかしくなります。

 

うぅ……なんだか情けないよぉ。

 

「大丈夫だよ恥ずかしくならなくて。誰にも言わないし、それにあかりちゃんのお悩みを解決してあげたいんだ。私じゃダメかな?」

 

 櫻子ちゃんがいつ見せる明るい笑顔を浮かべて、あかりにそう尋ねます。

 

 

「えっと、笑わないで聞いてくれる?」

 

「もちろん。絶対に笑わない」

 

「うん。……じゃあ、言うね」

 

 

 

「実はあかりもね、櫻子ちゃんに憧れていたんだぁ」

 

 

「えっ、私に?」

 

 

「うん。それに今日ね、眠っている時に夢も見たの」

 

 

 

 いつものように昨日は夜の9時にベットに入って、すぐに眠っちゃったの。

 

 

 

 いつもだったら、夢を見てもうろ覚えで、どんな夢を見たのかもよく分かってなかったのに……どうしてかその日の夢は鮮明だった。

 

 

 

 その夢の内容は、あかりはとある草原で寝ていて、起きて周りを見ると一本の桜の木の下で色んな友達がいっぱいいて、笑顔で櫻子ちゃんの周りを囲んでいる夢。

 

 

 

 でも、櫻子ちゃんの周りを見渡してもあかりの姿はなかった。

 

 

 

 それはきっとあかりの夢だからだって、そう思ってあかりも眺めてるだけじゃなくて、櫻子ちゃんたちの近くへ行こうとしたの。

 

 

 

 でも進んでも進んでもなかなか櫻子ちゃんたちの近くに行けなくて、むしろその距離は遠くなってて……

 

 

 

「みんな待って」って叫んでも、誰にも気付いてもらえなくて……

 

 

 

 そして急に辺りが真っ暗になって……気付いたら夢が終わって、目が覚めたの。

 

 

 

 夢自体はよくありそうな夢で、聞いても大したことはないって思うかもしれないけど、あかりにとっては少し辛かったんだぁ。

 

 

 

「そうだったんだ……」

 

 

「それでね、櫻子ちゃんの周りにはいっぱい友達が出来て、相手のことをしっかり見ていて気遣いも出来て、力持ちで運動も得意で、頼もしいなっていつも思ってたんだぁ」

 

 

「!……」

 

 

「でもあかりは櫻子ちゃんみたいになろうと努力してもなかなか上手くいかなくて、今日だって櫻子ちゃんに助けてもらってばっかりで、あかり全然何やっても上手くいかなくて……」

 

 

「あかりも、夢の中の櫻子ちゃんみたいに、周りの人たちを笑顔にしてあげることが出来たらいいのに……」

 

 

 そう考えるとまた目に涙が浮かんで泣きそうになりましたが、櫻子ちゃんはそんなあかりを見て「そんなことない!」って言って優しく包み込むように手を握ってくれました。

 

 

「櫻子ちゃん?」

 

 

「えっと、まずはその、あかりちゃんが私のことをいつもそんな風に見てくれていたんだなぁって思うと、聞いててすごく嬉しかったよ。ありがとう」

 

 

「でも、あかりちゃんにも私にはない良いところがいっぱいあるよ?」

 

 

 櫻子ちゃんの言葉にあかりが「そんなことないよ」って言うと櫻子ちゃんは「あるのっ!」って少し強く答えて、さらに言葉を続けます。

 

 

「あかりちゃんの良いところはね、どんな時でもいつも困っている人たちを助けて、いつも笑顔でいてくれる所だよ?」

 

 

「そんなのあかりじゃなくても誰だって……」

 

 

「そんなこと言っちゃダメ! 」

 

 

 櫻子ちゃんはあかりの言葉を遮って、そう力強く答えました。

 

 

 櫻子ちゃんはいつもあかりに明るい笑顔を見せるから、そんな真剣な櫻子ちゃんを見て、あかりは少し驚きます。

 

 

「実際に、私があかりちゃんにいつも助けられてるよ? あかりちゃんがいつも笑顔でいてくれるから私も笑顔でいられるんだよ?」

 

 

「櫻子ちゃんが……?」

 

 

「うんっ!」

 

 

 櫻子ちゃんがあかりを真剣に見て、そう強く頷きました。

 

 

「確かに今のあかりちゃんは自分のことが嫌いで皆の役に立ってないって思ってるかもしれない。もしかしたら周りの人に自分のことをどう思われてるのかが怖くて、今は不安になってるかもしれない」

 

 

「でも、どんなに自分のことを嫌いになったとしても、どんなに不安でも、あかりちゃんのことを好きでいてくれる人がいることを忘れないで欲しい」

 

 

「櫻子ちゃん……」

 

 

「それに、無理に私を目標としなくても、あかりちゃんの良い所を、あかりちゃんらしい所をいっぱい色んな人にこれならも見せていけばいいんじゃないかな?」

 

 

「今までだって、そんなあかりちゃんを見ていっぱい助けられた人だっているはずだよ?」

 

 

「助けられた人、たち……?」

 

 

 あかりのことを慕ってくれている人たち。

 

 

 頭の中には京子ちゃんや結衣ちゃん、ちなつちゃんたちごらく部のみんなのこと、杉浦先輩や、池田先輩、向日葵ちゃん、そして櫻子ちゃんたち生徒会のことが思い浮かびました。

 

 

 みんながみんな、あかりのことをどう思っているのか分からないけど、いつも笑顔であかりのことをちゃんと見守ってくれていたのはよく知っています。

 

 

 その人たちのことを考えると、少し胸がギュッとしました。

 

 

 きっとみんなこんなあかりのことを見たくないって考えてるからだって、櫻子ちゃんの言葉で、そう強く感じました。

 

 

 

 

「それとね、私が憧れる、私のヒーローだって思ってる赤座あかりちゃんは辛いのに無理してでもがんばろうとする女の子じゃない」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「無理しないでいつもの自分でいてくれる、誰かを笑顔で見守ってくれる、ありのままのあかりちゃんが私は大好きだよ」

 

 

 

「そう、かな?」

 

 

 

 

 

 

「うん。だからあんまり自分のことを責めちゃダメだよ。自分のことを責める前にさ、その分支えてくれる誰かの為にも一緒に笑おうよ。ね?」

 

 

 

「やっぱり、あかりちゃんが笑っていないと私も元気が出ないし、そんなの嫌だからさっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 櫻子ちゃんがいつもと変わらない、満面の笑顔を浮かべて、あかりに言葉をかけます。

 

 

 

 それは本当に櫻子ちゃんのあたたかい魔法のような言葉で、泣きそうになっていたあかりの顔にまた、笑顔が灯ります。

 

 

 

 

 

「……うんっ!」

 

 

 でも、あかりは櫻子ちゃんの言ってることも正しいけど、少し違うとも思うのです。

 

 

 櫻子ちゃんがあかりを励まして、元気でいてくれるから……あかりも笑顔でいられるのです。

 

 

 そんな櫻子ちゃんにあかりはいつも助けられます。

 

 

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

 

「あ、予鈴だ。いっぱい話し込んじゃったね」

 

 

「あっ!櫻子ちゃんの宿題!」

 

 

「あはは、いいよいいよ。宿題よりも辛くなってる友達のほうが大事だもん。怒られるだけで済むし。軽い軽い!」

 

 

「それって軽いのかなぁ? あかりのせいで櫻子ちゃんが……」

 

 

「もー、そんなの気にしなくていいから。ほら、早く行こう?」

 

 

 櫻子ちゃんがあかりの手を引いて屋上から出て、階段をゆっくり降ります。

 

 

 そういえば何かあるたびによく櫻子ちゃんはあかりの手を引っ張るので、たまにはあかりが櫻子ちゃんの手を引いてあげたいなって思っていたこともあったけど、今はそうではありません。

 

 

「えへへ」

 

 

「どうしたのあかりちゃん?」

 

 

「ううん、なんでもないよぉ」

 

 

 

 

だって、ありのままのあかりが大好きだって言ってくれたから。

 

 

 

いつもよりも眩しく感じる快晴の空と、それに負けないくらいの櫻子ちゃんの明るい笑顔を見ていると、今はこのままでもいいかなって、そう思ったのです。

 

 

 

 

 

【完】

 

 

 
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