No.861948

AEGIS 第九話「meet again~皮肉という名の再会~」(3)

華狼の決戦兵器、そしてフェンリル、ついに来襲

2016-08-05 22:09:05 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:538   閲覧ユーザー数:538

AD三二七五年六月二七日午前一時〇七分

 

 何か、嫌な予感がした。

 レムは、出撃しようとした矢先に見た戦闘機に、そんな感想を抱いた。

 あの光を見たとき、人工衛星ではないとはすぐに分かった。第一静止衛星を自分の基地の上につり下げておきながら、自分の基地所属の機体を攻撃されるはずがないからだ。

 あの雲を割って突入してきた戦闘機が、ただの戦闘機とは思えない。そもそもただの戦闘機ならばいくらなんでもミサイルも使わず一撃でM.W.S.を破壊できる武装の所持など不可能だ。

 しかも今現在、あのような太い光を走らせることの出来る武装などただ一つ。

 オーラ兵器のみだ。ともなると相手はエイジスである。

 だが、どうもラインが有機的すぎる。華狼ならば全体的に『ごつい』作りにするはずだ。

 なんだろう、あの機体は……?

 レムはそう思い、すぐさまハッチから出た後、ブースターを展開し、すかさずそれを追う。

 BA-09S-RCホーリーマザー、レムの愛機にして空戦能力並びに機動性を極限まで特化させたエイジス。

 この機体ならばまだ相手と戦える。

 しかし、その思いは簡単に打ち砕かれた。雲を割ってホーリーマザーが上空に出たとき、その戦闘機はその機動性でもって完全に制空権を獲得したも同然の状態だったのだ。

 今現在相手がいるのは十時方向。

 それが空中での姿勢制御をほんの少しやっている間に既に相手は六時方向、即ち、自分の後ろにいた。

「は、早い!」

 ただでさえ通常の機体より機動力のあるホーリーマザーですら追いつけない。やはり人型兵器では速度に限界がある。

 戦闘機はすぐさまホーリーマザーに向け、尾翼下部に付けられた二連装オーラシューターを放つ。

 レムはスラスターを吹かしその攻撃を避けて相手のロックオンを外すとブレードライフルを二挺構え、旋回する敵機に気弾をマシンガンの如く射出する。

 微かな弧を描きつつ空中を高速で旋回する敵機に向けて放たれる蒼き弾丸、相手はそれをたやすく避けると、そのままホーリーマザーの頭上へと向かう。

 その時鳴り響くロック警告。

 早い!

 あれからさして時間も経っていないのにもう既にロック警告音が鳴り響いている。

 FCSの調整が異常なのか、それともパイロットの腕か、どちらにせよ神業の次元である事に変わりはない。

 しかし、相手が相手だ。接近戦に叩き込む。機動性で勝負を付けたら間違いなくこっちがやられるからだ。

 レムはそう思い、上から降ってきたオーラシューターを、ブースターをふかして回避し、旋回している相手と上手い具合に交戦できるタイミングを計り突撃する。

 そして、そのタイミングは結構すぐやってきた。

 相手との距離、三〇メートル、詰めれば行ける距離だ。

 ならば行くのみ!

 フットペダルを思いっきり踏み込んで相手との距離を詰める。

 これならば行けるはずだ!

 そして、斬りかかった瞬間だった。

 その戦闘機に足が生え、急に姿勢を変更して剣を避け、一気に急上昇したのだ。

「な、何?!」

 直後、突然敵機が変形し始めた。

 突然サブウィングが外れ、脚部と腕が展開した。

 そしてノーズはコクピットブロックを覆うシールドとなり、それと同時に先程外れた二枚のサブウィングは幅の広い片刃剣へと変形を遂げ手にセットされた。

 全ての展開が完了した後、収まっていた頭部が出現する。

 その頭部には誰もが驚きを感じざるを得なかった。

 それもそうだろう。どの軍勢でも採用されていない、デュアルアイなのだから。

 デュアルアイを持っている機種などただ一つ、XAナンバーを持つ、プロトタイプエイジスのみ。

 その地点でようやくホーリーマザーに記録されていたライブラリが機体をはじき出す。

『XA-091東雲(しののめ)』。

 最後期に製造されたプロトタイプエイジスにして、超高々度高機動戦闘能力重視機。それがこの機体の正体だ。

 この機体は全プロトタイプの中でも唯一の可変フレーム搭載が特徴だった。その火変形体を風雅と呼んでいた。

 人型のみで活動をしていた場合、空気抵抗によって機動力が低下してしまう。それを解消するために可変フレームを搭載し、戦闘機形態へ変形することで高機動能力を実現させたのである。

 だが、どうしても生じてしまう莫大なコスト、それに個別に戦闘機とM.W.S.があった方が遙かに戦局を有利に進められるため結局可変機構搭載機の開発は中止された。

 だが、そんな千年も前の機体だが装甲やマインドジェネレーター変換率はプロトタイプであるため折り紙付きだ。

 しかし、それにしても形状が違う。頭部こそ同一だが、胴体部はよく見ると、華狼の意匠が詰まっている。

 まさか、この機体は今回が初の実戦となる東雲の改良機か。

 変形完了と同時に東雲のツインアイが凛と輝く。その緑の瞳が、味方には希望を、敵には絶望を与えるのだ。

 さすがにこの状況を楽観的に見ていられるほどレムの思考はお気楽には出来ていない。

「う、嘘ぉ、変形?! そ、そんなびっくりどっきりメカがホントに世の中にあるなんて……!」

 まったくだ、言い得て妙としか言えん。変形する機体など常識はずれもいいところだ。

 だが、現にそれは存在する。そしてその機体は接近戦を仕掛けてきたホーリーマザーを嘲笑うかのように先程展開した片刃剣に蒼きオーラをみなぎらせ高速で斬りかかる。

 東雲の持つ近接武装『気刀(きがたな)「曲舞(くせまい)」』だ。

 何千枚にも分けられたレヴィナス製の刀身を変形させることでサブウィングにも刀にも、最大限広げれば扇子状にも展開できる機能を持ち合わせる武装である。

 これを持っていると言うことは、間違いなくこの機体は東雲の改良機ということだ。

 厄介な物を作ったとしか、レムには思えなかった。

「くっ!」

 レムは思わず自分が一度舌打ちしたことに気付く。

 彼女は敵機の動きにすぐさま反応し、ブレードライフルの刀身に蒼いオーラをみなぎらせ、向かい来る敵機の一撃を耐える。

 その後一度耐えたら再度距離を置く。

 その時彼女は肩に張られたエンブレムを見た。

『ハゲワシ』のエンブレムだ。

 それで相手の存在をようやく思い出す。ヴォルフ・D・リュウザキ、この機体を駆り、いくつもの戦場を駆けめぐった『ハゲワシ』だ。

 昼時に出会ったあの男が、まさかヴォルフだとは夢にもレムは思わなかった。

 確かに敵イーグであることだけは分かっていたのだが、その男がよりにもよって目の前にいる『ハゲワシ』だとは……。

 しかし、ここで通信を開くわけにも行かない。

 出来ることなら戦いなどしたくはない。しかし、ここは戦場、甘えなど通じないのだ。

 レムは唇をギュッと噛んで悔しさをにじませた。

 ヴォルフというのが相手であることもそうだが、相手のとの実力の圧倒的な差にも悔しかった。

 今は耐えることが出来た。

 しかし、次はない。パワーが違いすぎる。先程一回対峙しただけで微かにだが腕部のアクチュエーターにレッドランプが点灯した。

 あくまでもこの機体は機動性に秀でた機体だ。そのため防御力は問題外、攻撃力も中の上といったランクである。普通のエイジスと戦うならまだしも、全ての面で自分の機体より上をいくプロトタイプ(それも運用思想が比較的似通った機体)と戦うなど問題外なのだ。

 今までは多少なりとも何とかなった。だが、本気で今戦っている相手は次元が違う。空中で戦い慣れている。

 遠距離に逃げれば恐らく飛行形態に変形して避け続ける。近距離になったらなったで今度はあの扇を支えきる自信がない。

 自分の気力は保つ、だが、ブレードライフルが保つまい。

 非常にまずい事態になった。

 しかも事ここに来て再度警報が鳴り響く。

 敵機、増援出現。

 しかもこの識別信号、華狼ではない。フェンリルだ。

 このままでは漁夫の利を狙うフェンリルにもやられる。

 一度後退するべきか、レムは悩んだ。

 しかし、ここで食い止めなければ逆に被害が大きくなるだけだろうと、レムは後退することをやめた。

 叢雲からは撤退を指示する通信が来ているが、それも遮断した。正直声が五月蠅くて戦に集中できない。

 こいつは、止めなければまずい。だが、どうやって目の前の相手を止めればいい。

 何でもいい、一瞬でいいから相手を止められる武装、それも、出来ることなら相手の死角となる部分から狙える武器はないのだろうか。

 レムは頭の中で必至に考える。

 その時、何故かは分からないが、彼女は笑っていた。

 それが何故だかは分からなかった。

 

「面白い……!」

 コクピットの中でヴォルフは目の前の空戦型エイジスにそう唸らずにはいられなかった。

 そして、この機体、まさかここまで変わるとは思いもしなかった。

東雲改という名と、七五式特殊気孔兵九一型という型式を追加で与えられた。確かに装甲素材はKLにほとんど変わり強度は落ちたが、メンテナンス性や最高速度の向上、そしてオプションの搭載まで行えるようになった。

そんな機体の初陣にもってこいの相手が目の前にいる。

 思いっきり自己流で行けそうな雰囲気だ。己が流儀を貫き通す。

 全身全霊を持ってその羽を打ち砕かせて貰おうか。

 目の前のエイジスにヴォルフは心の中で唸り、再びフットペダルを踏んだ。

 

 戦場の動きは、どちらかと言えば華狼に有利になっていると、村正は基地に接近しながら痛感していた。

 というより、ベクトーア側の陣頭指揮を執っているフレーズヴェルグの動きが、何か妙に鈍く感じる。

 自分の愛機である『XA-012紫電』を先頭に、紫電まで含めて全部で十二機。うち三機はエイジスだ。

 紫電以外の二機は、両方ともシャドウナイツ特有の漆黒のカラーリングに染められている。両方とも、自分の横に付いていた。

 左翼には『FA-069-αリュシフェル』というソフィアの愛機が付き、右翼にはロックの『FA-070セイレーン』が付いている

 しかし両者は本当に同じ会社で開発されたのか疑わしくなってくるくらい違っている。

 リュシフェルはソフィアのスタイルに合わせ大型のシールドナックルを装備しているが、見た目はカスタムタイプのスコーピオンにしか見えない。

 なんでも、エイジスはM.W.S.よりも活動時間が短いため、それを解消するためにスコーピオンのカスタムタイプのボディにマインドジェネレーターを積んだらしい。

 結果非常に中途半端な代物が出来上がったらしいが、何故かソフィアはそれを延々と使っていた。

 セイレーンの方は、正直フェンリルの機体とは思えないほど有機的なデザインであった。機械的というより生物学的デザインである。

 頭部がフェンリル独特の複合型センサータイプでなければ、この会社の代物とは思えない。

 しかも気になるのがこの機体がどういった代物なのかすらロックから聞かされていないと言うところだ。

 連計が取りづらくなるから言ってくれと言ったのだが、機動力と電子戦に特化した機体だとしか言わなかった。

 よほどの機密を抱えているのだろうと、村正は諦めた。

「諦め、か」

 コクピットの中で、一つ小さく呟く。

 考えてもみれば、今この戦場にいるあの片割れは、諦めを知らなかった。

 まさかあいつがルーン・ブレイドに入るとは夢にも思わなかった。何がそうさせたのかは、村正にはよく分からない。

 しかも、あんな炎のような目立つマシンに乗っている奴はそうそういない。目をこらすとすぐに見つかった。

 しかも戦い方が派手だ。目立つなと言う方が無理だ。

 だが、相手にとって不足はない。

 村正はフットペダルをより強く踏み込んだ。

 火という物は水を掛けなければ消えない。ならば水でも掛けてやろうか。

 村正は何故か微妙に楽しそうにそう思う。

 だが、逆に水をふっかけられたのは村正達だった。

 横にいたセイレーンが何の許可も無しにウィングからある小型ポットを一発基地に向けて放ったのだ。

 そのポットは徐々に速度をゆるめていき、ある程度の場所に達した地点で停滞して展開した。

 その直後、突然敵機の動きが乱れ始めた。ベクトーアも華狼も関わらず、だ。

「何?!」

 これには思わず村正も驚く。何が起こったのか、それを考えたとき一つの結論にたどり着く。

「ECMか……!」

 電子戦にも長けている。最初にロックが言ったことだ。

 ECMポットから放たれる特定周波へ向けたレーダー妨害と通信妨害。これをやるだけで指揮系統は大いに混乱する。

 これで確かに戦闘は楽になった。

 だが、どうもいけ好かない。

 村正としては『対等の立場での勝負』を望んでいるのだ。

 戦は、やりがいがあるからこそ戦である。戦争において『勝ち方』は二の次、あくまで『勝ち負け』が重要だというのはよく分かっている。

 だが、それでも村正は『勝ち方』に拘る。

 こうなった原因は主に彼の養父であり先代のシャドウナイツ隊長『インドラ・オークランド』の影響が大きい。

『雷神』の異名を誇った男、その戦いぶりたるや正々堂々とした物であったが、負けを知らなかった。

 それこそ、死ぬまで。

 その父の影響から村正は極度に戦い方に拘るようになった。

 対等の立場でのやりがいのある物。それ以下の状況でやれば、それはただの殺し合いに過ぎない。それに、命が計れない。

 だからこう言う手口は好きになれないのだ。

 しかし、任務は遂行しなければならない。

 村正は横に同行しているセイレーンをモニター越しに一度睨め付けた後、フットペダルを踏み込んで機体を加速させた。

 

「くそったれ!」

 レーダーはエラーを起こし、通信網は使えない。はっきりしているのは目視のみ。

 なんとも腹が立つやり方をしてくると、ゼロは頭に来ていた。

 もはや頼るべきは目視界戦闘。

 ただ幸いにもパッシブソナーは生きている。

 レーダーに比べれば遙かに索敵範囲は狭いが、ないより遙かにマシだ。幸いにして敵も乱れている。あのまま攻め寄せられたら、逆に自分達も数に圧倒された可能性もあったから、それは助かった。

 しかし、フェンリルが寄越した部隊を率いていたのはあの村正だ。神出鬼没を好むとは言え、こういったECMを使ってまで戦をするような人間かと言われると、何故か疑問が残った。

 子供の頃の記憶しかないが、あの男は異様に対等であることに拘った。だとすれば、こんな自分に対等で無くなる方法を採るだろうかと、魂が言っている。

 直後、何かがいる気配がした。

 気配は近い。何処だ。

 瞳を閉じる。そうすると不思議と集中できた。

 いる。よく知っている気配が、確かにある。場所はここからそんなに遠くはない。

「隊長さんよ、奴がいる」

 外部マイクを入れて通信をした。それ以外に伝える手段はない。

『気配がある。それはあたしも感じてるわ。行くんだったら行ってきなさい。でも、早くに帰っていらっしゃい。あたしらも何処まで支えきれるかわかんないから』

 ルナの口調は、不思議と柔らかかった。

「サンキュ」

 ゼロはそう言うと、紅神を反転させ、そこに向かう。

 コンテナなどのある集積場だ。そこに、確かに紫電がいた。

 そして、あろうことか紫電はふっとまるで粉雪のように消え去り、紫電が先程まであった場所には男が一人出現する。

 黒のロングコートに身を包んだ男、自分の片割れ。

 村正・オークランドが、そこにはいた。

 ゼロもまた機体の結合を解除し、大地へと降り立っていた。こうすることが、自分の望みでもあった気がしてきたからだ。

 風が一瞬吹く。それで両者のジャケットとコートがなびく。

 その後彼らはゆっくりと自分の武装を取り出し構えた。

 月光が彼らの持つ刃を照らす。

 彼らは互いに殺気だった紅の瞳を向けあう。

「あんた、最高に面白ぇ……」

 ゼロは不敵に笑う。

「俺としてもあの手はいけ好かん。それに何より、お前との決着が付いていない。俺はそのために今ここにいる」

 村正はフィストブレードの剣先をゼロへと一度向ける。

 ゼロもまた、両刃刀の剣先を村正へと向ける。

「昨日のタマネギ、まだ恨んでやがんのか?」

 ゼロの言葉に村正は一瞬呆れたが、結局ふっと笑うだけで済ます。

「そんな安っちぃ理由じゃないさ」

 そう言って村正はフィストブレードのセーフティを解除して三枚刃に展開する。

 そして、遠くの方で爆発が起きる。

 その瞬間、二人は大地を蹴り、またも月光の元、互いの尊厳を掛けた戦いを始めた。

 そうやって戦うことでしか、彼らには自分を証明できなかった。


 
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