No.856376

IS ゲッターを継ぐ者

第二十二話その一です。ここからは前回と違う展開になります。

2016-07-02 09:08:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:600   閲覧ユーザー数:600

 時は少し遡る。光牙が学園から出かける前夜。

 

 

『そうか。では滝沢君は倉持に行くことになったのか』

 

「はい」

 

 

 ルームメイトが自室にいない一人の時間。自分のノートパソコンを通じて会話するアヤ。

 

 相手は灰色のオールバックに黄色のメッシュが入った男性『チャールズ・ケントン』。アヤの父親でキサラギ研究所で働いている。

 

 

「明日の朝に出発する模様です。それに合わせ、私も追跡します」

 

『……アヤ。そのな』

 

「既に休学届けは提出しています。問題はありません」

 

『そうじゃない。滝沢君や体のこととか……』

 

「何を今更。もう決めていることです」

 

 

 迷いなく、アヤは言い切った。

 

 

「私はやるべきことをやるだけです。薬だってちゃんと飲んでますし、心配いりません」

 

『……それならばいいんだが』

 

 

 それから二、三会話してから通信を切った。

 

 全く心配性だ、とアヤはため息をつく。

 

 自分がここに来るまでのこと。この場所にいるのを思えば、迷いなんかない。

 

 ただやり通す。それだけをアヤは思う。自分や、そして何よりチャールズの為に。

 

 相手が誰でも。

 

 例え……滝沢光牙でも。

 

 

「……うっ」

 

 

 ズキン、と体に痛みが走った。洗面所に駆け込むと咳き込み、口から血を吐き出してしまうアヤ。

 

 

「ぐ……げほっ!」

 

 

 吐くだけ吐いて水で濯ぐと、ピルケースを取り出し錠剤を何個か飲み込む。

 

 徐々にではあるが、痛みがひいていった。

 

 

「こんな痛み、なんともない……」

 

 

 アヤは鏡に移る自分へ言い聞かせるように言って、口の端についた血を拭う。

 

 そして次の日、休学と言う名目で休んだアヤは学園を出て、同じく学園を出た光牙を追った。

 

 

 

 

「おぉぉ〜……」

 

 

 モノレールでIS中心街に出て、そこから電車、バスと乗り換えていく光牙。

 

 初めて見るこの世界の都会。歩いたらそこらにあるコンビニや超巨大デパートに視線を奪われ、電車やバスから見える光景も光牙にとっては珍しいものばかりで、ずーっと窓の外を見てたりする。

 

 

(こ、子供ですか?)

 

 

 その通りである。

 

 

『○○山道〜、○○山道です〜』

 

 

 山の中でバスから降りると光牙は地図を見ながら山道を進んでいく。

 

 

「こっちがこうで……あっちか」

 

 

 確認しながら進む。

 

 やがて開けた場所に出て、研究所らしき建物がそびえ立っていた。

 

 

「倉持技研……ここだな」

 

 

 看板と建物の外見を端末の写真と確認すると入り口を探す光牙。

 

 

「……もう少し、近くに」

 

 

 後方十メートルの茂みにいるアヤは、情報を集めようと前進する。

 

 気づかれないよう、慎重に、慎重に。

 

 

 ――パキッ……。

 

 

「っ!」

 

 

 けどその最中、不意に背後からの物音プラス気配にアヤはバッ!と振り返る。

 

 左手でズボンに隠した得物に手を伸ばしつつ、注意深く視線を巡らせる。

 

 茂みや木の影に怪しいものはない。

 

 

「気のせい、でしょうか」

 

 

 そう言い一瞬、気を緩めた時。

 

 

「――ところがぎっちょん♪」

 

「え、がっ――」

 

 

 ゲシッ。

 

 うなじに衝撃を感じた、と思った時にはアヤの意識は暗闇に沈んでいった。

 

 

「ごめんねー。じゃ、あとはよろぴく」

 

 

 最後に少しだけ見えた。

 

 ISスーツ姿で何故かずぶぬれ、モリと魚を持って笑う……ヘンタイが。

 

 

 

 

「いやはや滝沢君。よく来てくれたね。所員を代表して歓迎するよ」

 

「はぁ」

 

「僕は倉持技研、第一研究所所長の倉持ケンツだ。よろしく!」

 

「はぁ」

 

「数あるIS企業から我が倉持を選んでくれるとは、本当に感謝するよ!」

 

「はぁ」

 

「しかも世界初の男性操縦者の君にだ! 僕は、これ程まで人生に喜びを感じた事がないっ! 今一度言わせてくれ。ありがとう! そして、ありがとう!!」

 

「……はぁ」

 

 

 二回言ってんじゃねーか。さっきから「はぁ」しか言ってないと光牙。

 

 倉持技研に入り受付で手続きして、用意された部屋で待つこと十分。現れたのは垂れ目で目の下にクマ、ボサボサの黒髪にヨレヨレの白衣という『いかにも科学者』を絵に描いたような男性、倉持ケンツ。

 

 名刺からの感謝感激のマシンガントークが炸裂し謎の二回お礼。なんか変わってるぁ……と光牙は思わずにいられない。

 

 部屋の棚に某ありがとう、そしてありがとうのヒーローのフィギュアがあったのも偶然ではあるまい。

 

 

「滝沢光牙です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「うん。じゃあまずは、我が技研を簡単に案内しよう」

 

 

 研究所でも中にはそれなりの機械設備がある。安全の為に、光牙は用意された作業服に着替え、倉持技研と銘打たれた帽子を被って、研究所に入るのを許可した証の腕章をつける。靴も鉄が仕込まれた安全靴に履き替え、案内が始まる。

 

 

「ウチの技研は大きく三つに分かれている。機体そのものを担当する第一研究所。ソフトウェア開発やコアを研究する第二研究所。武装・装備の第三研究所。まずは第一から回っていこうか」

 

 

 頭にはヘルメット、目には安全眼鏡を装着し、完全装備完了。同じように着替えたケンツと共に第一研究所へと足を踏み入れる。

 

 

「おぉー……」

 

 

 白基調の清楚な外見とは打って代わり。中には巨大な工場という感じの光景が広がっていた。

 

 資材をラインの機械が加工し、ベルトコンベアや電動のカートで運ばれ、一回り大きなラインで組み立てられていく。作業員は機械の前に立ちロボットアームを操作したり、部品を運んだりしていて、最新さと古さが融合した感じ。

 

 

「三号機の清掃急げー! 次の立ち上げに入るぞ!」

 

「そっちのパーツを寄越してくれ。第一ラインで組み立てる」

 

「リーダー! 部品の数が合いません!」

 

「ちゃんと在庫と品番確認したか? それでもなきゃ部品庫に行ってこーい!」

 

「……すごい」

 

 

 圧倒され、視線を釘付けにされる光牙。ものが作られていく様子に軽い感動を感じていたのだ。

 

 

「凄い、だろう?」

 

「はい……」

 

「ものを作る、ということはいいことだ。人が使うものや、世の中の為になるものを自分で作れるからね。今はISがメインだけど、それだって使い様で世の中に役立つものだ」

 

 

 自慢気に語るケンツ。光牙は頷いて、ラインの様子をじっと眺め目に焼き付けていた。

 

 

「おっと、僕の話は関係ないか。次に行こうか」

 

「あっ、はい」

 

 

 見入ってしまっていた光牙は慌てて返事をして、倉持の後をついていく。

 

 

「ここが第二研究所。ソフトウェアはこの下のルームで作っていて、コアは別の場所で研究中だよ」

 

 

 続いて案内されたのは、ガラス窓の斜め下に見える部屋。ケーブルが繋がれたIS、周りには多数のコンピューターが並び職員が忙しなくタブレットやデジタルキーボードを操作している。

 

 流石にコアの研究施設は極秘という事で、立ち入りは出来なかったが。

 

 

「所長、お疲れ様です」

 

「ありがと。えっと、篝火君は?」

 

「……すみません。いつも通りです……」

 

「……またか。仕方ないな彼女も」

 

 

 所長の一人からそう聞くと、倉持は盛大にため息をつく。

 

 

「第二の所長は変わっていてね。目を離せば何処かにふらっといなくなっちゃうんだ。ゴメンね」

 

 

 とりあえずその所長は放っておき、第二研究所を出て第三研究所へ移動。

 

 武装や装備を開発するそこは第一と似た感じで、他に開発した武装や装備のテストをする演習場もある。

 

 

「出力70パーセント! プラズマソード!」

 

「ん?」

 

「なんの! プラズマブレイク!」

 

「え?」

 

「あ、あれは僕の娘達。テストパイロットとして協力して貰ってる」

 

 

 いきなりの熱血絶叫の方に光牙は気を取られたのだが、その娘二人がケンツに気づくと丁度テストも終わったらしく駆け寄ってくる。

 

 

「お父さん!」

 

「こっちに来るのは珍しいわね」

 

「僕は所長だよ。常に研究所のことは把握してなきゃ」

 

 

 軽く話すと、ケンツは光牙に向き直る。

 

 

「紹介しよう。娘のアミとリエだ。こちらは男性操縦者の滝沢光牙君」

 

「倉持アミです。よろしくお願いしますね!」

 

「倉持リエ。よろしくお願いするわよん♪」

 

「滝沢光牙です。よろしくお願いします」

 

 

 赤髪に三つ編の元気そうなアミに、桃色のロングヘアーでちょっとギャルっぽいリエ。

 

 やはり男性操縦者というのが珍しいのか、光牙に興味深々という感じだ。

 

 

「あら〜意外と可愛い顔してるわね。小さいし」

 

「小さいって……」

 

「コラ、リエ! 失礼ですよ」

 

「でもちょっと惜しいかなぁ。その声ならあと二作品後なら……」

 

「は、はい?」

 

 

 なんかよく分からないネタが持ち込まれたが、とにかくアミ、リエの二人との挨拶は済んだ。

 

 

「ではまた後で」

 

「後で機体見せてね〜。A・K・M」

 

「それなんてCKY?」

 

 

 積極的だが一昔前に流行った略し方のリエには思わずそう返してしまった光牙だが。

 

 

 

 

「大体回ったし、そろそろ戻ろうか」

 

 

 アミ、リエと別れケンツが言い戻ろうとする。

 

 だが通路を進んでいた時だ。ある部分にだけ別の通路があり突き当たりにドア。

 

 気になった光牙がドアを見ていると……。

 

 

 ドワォッ! ボゴォォォン!

 

 

「みぎゃーーー!!」

 

「滝沢君!?」

 

 

 いきなりドアが爆発し、爆風が充満して巻かれてしまう。

 

 

「げほっ! げほっ!」

 

 

 咳き込む光牙。爆風の中より、カラン、カラン……と木の音が聞こえ、近づいてくる影が一つ。

 

 

「ヌハハハァ〜」

 

「ドワォッ!? あ、貴方はっ!?」

 

「引山(ひきやま)博士! また何をやってるんですか!」

 

「引山博士!?」

 

 

 小柄の白髪じいさん。ただし何故か頭にボルトが刺さっててアサルトライフルを持ってだが……。

 

 姿もそうだが、名前も似てるもんだから光牙の人物メモリーにはある人間が思い浮かんでしょうがない。

 

 

(し、敷島博士じゃねーの?)

 

 

 ゲッター世界が誇るマッドサイエンティスト、敷島。この世界にゲッターの因子でも流れ込んでんじゃねーかって思いたくなるが……うん、まあ間違ってない。見た目は真対ネオの敷島博士だし。

 

 そんな敷島……じゃなくて引山博士が光牙に気づく。

 

 

「おっ、もしや君が滝沢光牙君か!」

 

「そ、そうですが」

 

「おほ〜。生を見るのは初めてじゃわい」

 

 

 そりゃ初対面だから当たり前だ。光牙のつま先から頭のてっぺん、隅々まで引山は凝視していき、光牙は思わず後ずさる。

 

 

「あら〜いい男じゃないのよさ。どれ、体は……」

 

 

 さわさわさわぁ……。

 

 

「ヒェァァァ!? なっ、なにをするだぁーっ!」

 

「ちょ、引山博士!? 止めてください!」

 

「いいじゃないのよ〜。……モノも立派で」

 

「アーーーーッ!!!!」

 

 

 ……ヤられてはないのでご心配なく。

 

 

「何処がァ!? て言うか離れて下さいよー!」

 

 

 んがぁ!? と引山を押し退ける光牙だが、引山は直ぐに立て直し手にしていたアサルトライフルを構える。

 

 

「ならばこのワシが開発したアサルトライフルを見よ! 耐久性にも優れIS用弾丸を100発装填出来るぞー!」

 

 

 ズガガガガガッ!!

 

 

「わーーーーッ!?」

 

「は、博士! 止め……!」

 

 

 ガラ……ゴヅン!

 

 

「「あ」」

 

「だぁ〜っ……」

 

 

 いきなり上にアサルトライフルを乱射する引山。その為、上から瓦礫が降ってきて引山に直撃し倒れてしまう。

 

 駆け寄る光牙とケンツ、しかし引山はむくっ、と何もなかったように起き上がる。

 

 

「うぉっ!?」

 

「あ〜こりゃ引き金の反応がいかんのう。コントローラを調節するか、それともロボドーンやグスタフの手を規格品にして、指と連動したダイレクトにするかぁ! なはははは〜!!」

 

 

 ドガガガガガッ!!

 

 

「あーもー博士ったら! 滝沢君、一回離れるよ!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 流石に巻き添えを食らったらたまらないので急いで離れる光牙にケンツ。

 

 

「い、今のは引山博士。まあちょっとイッちゃってるが……武器や装備開発の腕は確かだから」

「……いや大丈夫です。知り合いにいたのでああいう人」

 

 

 一応フォローで説明するケンツに光牙は苦笑いで返す。

 

 頭に浮かぶのは敷島博士とか早乙女博士とか。あとヤジュン博士とか戦凌博士とか……etc。

 

 

「あの程度は軽いもんです……」

 

「……どんな人達だったんだ一体」

 

 

 

 

 ……ちなみに某学園と場所にて。

 

 

 ――キュリィィィン!

 

 

「むっ、何やら光牙に危機が!」

 

「嫌な予感……がするな」

 

 

 まあお姉ちゃんはお約束という訳で。

 

 

 

 

「じゃあ本題に入ろうか! 滝沢君、機体を展開してくれ」

 

「……はい」

 

 

 案内が終わると、ここに来た本来の目的――機体の修理に入る。

 

 研究室の一つを借り、ケンツに引山、職員達が揃っていて光牙を含めると三十人近くいる。

 

 ある程度は知っているのか、職員や引山の表情は期待に満ち溢れウズウズしている。

 

 それらの表情に闇がないと信じ、光牙は腹を括って引き止める感情を振り切る。ガントレットを外すと相棒を呼び出した。

 

 

「ベーオ、展開」

 

 

 纏うのではなく、機体だけの展開。ガントレットが光り、形を変え、全身装甲の機体ゲッターロボベーオとなって、その姿を倉持らの前へ現した。

 

 

「……これが、滝沢君の機体」

 

「す、凄い。全身装甲の機体だ!」

 

「しかも鬼みたい。カッコいい!」

 

「凄いですね引山博士!」

 

「……ふつくしい」

 

「全身を覆う装甲、ISとは全く違うフォルム……奇抜だが駆動や格闘を邪魔しないつくりになっているね」

 

 

 ベーオを間近で見た職員は口々に感想を言う。引山は見とれていて、ケンツは目を丸くしながら冷静に分析をしていた。

 

 

「僕とて技術者だ。この機体が普通ではないのは一目で分かったよ」

 

 

 見ただけでベーオの機体特性まで見抜くとは、技術者の慧眼恐るべし。他の職員もまじまじとベーオを見て意見を交換しあったりしている。

 

 

「……あの、それで修理の件なんですが」

 

 

 光牙はケンツへおずおずと切り出した。

 

 真剣な彼ら。対し、光牙が考えていたのはあまりにも都合が良すぎる考えだからだ。

 

 ベーオのデータは一切取らず、修理だけをする。

 

 世界を混乱させたくない。ゲッターを悪用させたくない。

 

 最もらしい理由だが、訳にしか聞こえないではないか。

 

 修理する以上、まず機体を調べなければならない。それでデータを取るな、というのがまず無理な話。

 

 勝手に拒絶し独りよがりに固執していたのが、本当に情けない。真面目なケンツらの姿に、何度申し訳ないと思ったか。

 

 だから恐る恐るになってしまうも聞いた。千冬が先に連絡したので概要は伝わっている。今ここで断られてもおかしくないのだ。

 

 光牙へケンツが振り向く。

 

 彼の口から発せられた返答は――。

 

 

「よーし、じゃあ皆。作業に取りかかってくれ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

「えっ?」

 

 

 張りのある大声が響き渡った。職員達が動き出す。ばらばらに走り散ったかと思えば、コンピューターやロボットアーム、機材を引っ張ってきてベーオへ群がる。

 

 素早く、洗練された動きに光牙はキョトンとしているしかなかった。

 

 

「話は聞いてる。今のご時世、この機体や滝沢君がどれだけ注目されているか。それを避けようとしたっておかしくはない。でも修理する以上は機体に携わる。それは仕方ないのことだ」

 

「うっ……」

 

 

 言い淀む光牙。そこにケンツは「でも」と続ける。

 

 

「どうか信じてくれ。それを使って何かしようなんて考えは、我が倉持にない。技術者としての魂にかけて、一人間として誓う」

 

「倉持、さん……」

 

 

 確証がある訳ではない。

 

 証拠を見せられたのでもない。

 

 でも何故だろう。ケンツの言葉を信じたいと思った。

 

 この人ならば、この人達になら、ベーオを任せられるのではないか。

 

 自分の代わりに。

 

 真剣に考えてくれているこの人達なら……。

 

 

「だーっ!? 博士何やってるんですか!」

 

「そんな危なっかしいもんつけないで下さいって!」

 

「離さんかー! こんなロマンロボを前に何もするなと言うんかー!!」

 

「「「当たり前だぁぁぁ!」」」

 

 

 ……引山がビームサーベル、キャノン砲、腕バルカンとかを持ってきてベーオに付けようとしていて、それを必死に食い止める職員の姿。

 

 

「……やっぱ信用出来ないかも」

 

「た、滝沢くーん!? 心の壁に籠らないでー!」

 


 
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