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外史を駆ける鬼・春恋*乙女編 第05話

最近忙しくて三国√シリーズを書けていません。
変わりに今回は作り置きしていた一刀・愛紗学生編を出してみました。

時間が出来次第書いていきますので、お待ち下さい。

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2016-06-12 22:56:39 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1146   閲覧ユーザー数:1069

外史を駆ける鬼・春恋*乙女編 第05話「女の友情」

「……ふぅ、まさかこの様な時間になるとは。早く寮に戻らなければ」

学園敷地内である校舎から女子寮に続く道を、愛紗は歩いていた。空は既に紅色の夕日が出ており、部活に所属している生徒達が帰りだす時間帯であった。何故愛紗がこの様な時間帯まで学校の校舎に残っていたかというと、彼女は図書館にてずっと勉学に励んでいたのだ。次の定期試験にて彼女は学年5位以内に入り、生徒会に入る目標を持っている。三国時代の時に関羽として動いていた時の彼女は、並の将と比べれば特に武勇が抜きん出ている猛将として知られていた。だが仲間の諸葛亮や黄中の影に隠れていたが、知もそれなりに持ち合わせていた。事実、一刀の不在時、または非番の時は彼女が領主の仕事を兼任していたりしたものだ。もし三国時代に彼女が領主となっていれば、知勇兼備、文武両道の将となっていたことだろう。そういったことなども相まって、愛紗の人間としての記憶力や学習能力も優れており、彼女は日本の教育課程の小学生から高校1年までの10年分を僅か一年以内に完遂した。

 それほど優秀な人物が、何故図書館に篭って勉学に励んでいたかというと、いくら一年以内で超お嬢様学校であるフランチェスカの教育平均以上まで学力を持っていったとしても、その学力の基礎や応用は10年日本の教育課程を修めた者達に及ぶものでは無く、未だに細かなミスや基本が欠落していくことなども少なくは無い。そういった意味では、恋人の一刀や友人の結衣佳、義兄の昌人などの力を借りて勉強を見てもらうのだが、現在彼女の頼れる者達は皆各々の仕事に取り掛かっている為に当てには出来ない。そこで彼女が行なっていたのは、中学生用の参考書を説くことであった。その解いた問題を校舎に残っている教師人に答え合わせしてもらうというやり方で、始めこそ、学年20位である彼女が中学生用参考書片手に教師に質問しにいった時に、質問された教師達は鳩が豆鉄砲を食らったかの様に呆気に囚われていたが、事情が分かれば実に丁寧に教えてくれた。そして彼女は友人達がいない時はこうやって図書館に篭もり、教師に個人課題を貰い、それを元に参考書をこなして、分からないことがあれば、課題が終わり次第教師を尋ね彼らの教鞭を受ける。これらのサイクルを繰り返しながら、自分の気付く頃に下校時間がやってき、そして寮に戻るということを繰り返していた。

 彼女は現在風紀館までの道程を歩いていた。恐らく戻っているであろう一刀の顔を見に行く為だ。

「あ、愛さ~ん」

自身を呼ぶ声に愛紗が振り返ると、手を振りながら自身に駆け寄ってくる結衣佳を発見した。

「結衣佳も今帰りなのか?」

「うん。部活でお菓子を作ったから、あきちゃんに持って行こうと思って」

そう言いながら可愛らしくリボンで結ばれた袋を、結衣佳は取り出した。

「それはいいな。結衣佳の作るものならば、早坂殿も喜んで食べるだろう」

「……そうかな?えへへ~」

愛紗に賞賛の言葉を貰い、結衣佳の顔は綻んだ。

「………あれ?愛さんそれ……」

「む?……あぁこれか、いや、最近目を酷使することが増えたから、勉学に励む時は手放せなくなってしまってな――」

結衣佳が指摘したのは、愛紗が顔にかけている物に原因があった。最近の愛紗は寝る間も惜しんで勉学に励んでいたために、少し視力が落ちてしまった。それが原因で勉強する時は眼鏡をする様になったのだ。彼女は鞄から眼鏡ケースを取り出して、弦が白くて細い丸い形をした眼鏡をしまった。

「えぇ、しまっちゃうの。可愛かったのにぃ」

「か……可愛い?」

「うん。とっても可愛いよ。眼鏡をかけてる愛さんも。普段もイメチェンでダテメガネにすれば北郷君の評価もグッと上がると思うよ」

【イメチェンとは、確かイメージチェンジのことで、”伊達”眼鏡とは何のことだ?伊達の意味は「豪華」、「華美」、「魅力的」、「見栄」、「粋」っと意味は色々あるが……豪華に魅力的に見せる眼鏡を買うということか?……ふぁっしょんとは金がかかる物なのだな。予備の眼鏡を買わなければならないとは……】

現在進行形で、現代用語を勉強中の愛紗は、その後日、新しい予備の眼鏡を買うために、昌人に小遣いの前借りを頼みに行った際に、彼に大爆笑されたのは後の記憶に残る羽目になったのであった。

「……はい。愛さんの分」

「これは?」

「私が今日夜に食べようと思っていたクッキーだよ」

「い、いや、別に私に気を使わなくとも」

「いいんだよぉ。私最近ダイエット始めようと思っていた所だし、それに頑張っている愛さんへのご褒美だよぉ」

「だ、だがしかし……」

「それにね、頭の回転を良くするには、糖分を少し取ったほうがいいんだよ」

そう答える彼女の笑顔に根負けに、愛紗は菓子の入った袋を受け取る。

「……すまない。今度何か礼をする」

「ホントウ?わかった、何か考えておくね」

そうして二人は男子寮、風紀館の方向を目指していると、木刀を振るう影と音が聞こえてきた。

「あ。あきちゃ~ん」

その姿を愛紗よりも先に確認できた結衣佳は、一目散に彼の元に駆け寄っていった。

「……あぁ、結衣佳。一体どうした?」

「部活でお菓子を作ったから、あきちゃんにおすそ分けに来たんだよぉ」

章仁は素振りを中断し、タオルで汗を拭う。

「章仁殿、精が出るな」

「………あれ、重田さん?どうしてここに?」

「愛さん、今から北郷君に会いに風紀館に行くんだよぉ。本当に熱々カップルだね」

「ゆ、結衣佳、止めないか」

彼女の言葉に愛紗はワタワタと狼狽するが、章仁は腕を組んで考え込んだ。

「あれ、おかしいな。一刀ならまだ道場にいる筈ですよ」

その言葉を聞くと、狼狽していた愛紗の目が突然鬼のように光り、俊敏に章仁の両腕を掴んで持ち上げた。

「早坂殿!!それは真であろうな!?」

毛は逆立ち、鬼の様な目をしていた愛紗に、章仁の首は人形の様に縦に動く。

「は、はい!!皆が練習を終えた後も、一刀は一人残って逆立ちを続けてイタデアリマス!!」

彼女の気に章仁は完全に飲み込まれて、普段使うはずも無い口調になる。猛将関羽の握力で本来痛むはずの両腕も、愛紗の怒りによる恐怖で、章仁の感覚は麻痺していた。彼女が章仁を離すと、彼女は彼に背中を向けて突然ブツブツと何かを唱え出した。

「あ、あの……重田さん?」

章仁は恐る恐る彼女に声をかけると、また彼女は振り返りまた章仁に尋ねた。

「早坂殿!!ご主人様はまだ道場にいらっしゃるのか!?」

「は、はい!!そうであります!!一刀君はおそらk、いえ、まだ道場にいるものと思われます!!」

鬼教官に敬礼するように、章仁は愛紗に敬礼しながら答え、彼女はフシューフシューと息を荒げる。

「全く、あれほどオーバーワークを控える様申しているのにぃ」

愛紗はそう言うと、自分が昔一刀に使っていた呼称を叫びながら道場に走っていった。

「恋する女の子は無敵だねぇ」

「えぇ!?結衣佳、気にするところもっとあるだろう!!?」

「……?例えば?」

「いや、あの状況だったら、一刀の身がいくつあっても足りないぞ!!」

「それだけ、北郷君のことを心配してるってことなんだよ……」

「……そんなものなのか?」

「例えば、あきちゃんが今脇の痛みを堪えて素振りをしていることとかもね」

「!?……気付いてたのか?」

「たまたまだよぉ。さっき愛さんが、『右腕が振り降ろし切れていない』って言ってたからもしかしてと思ってね」

「……全く、参ったな」

「ほら、シップ貼ってあげるから、来て」

「お、おい。引っ張るなよ」

章仁は左腕を結衣佳に引っ張られながら部屋に戻り、シップを貼られて素直に今日の練習を終えたのである。

一方一刀と愛紗はというと、一刀はオーバーワークを愛紗に見つかり、そしてその後ちょっとしたゴタゴタが起こって、彼女は一刀を道場の天井まで蹴飛ばしたのであった。

 

 夜、女子寮にて、他の部屋の電気は既に暗転している中、愛紗の部屋の明かりだけが点いていた。

季節は春となり暖かくなり始めていたが、しかしながら夜となるとまだ冬の寒さが残っているのか、愛紗も部屋着の上よりパーカーを着て防寒していた。

現在彼女は眼鏡をかけて参考書を使って勉学に励んでいた。夜も午後過ぎて午前になってから1時間が経過していた。静寂の部屋の中、ただ紙の上で流れるペンの音と、時計の音、時に紙が捲れる音が静かにするだけであり、そんな静寂に規則正しい扉の叩かれる音が響く。

愛紗は右手に持つペンの動きを止めて、扉に向かった。鍵を解除し、ドアノブを捻って開けると、そこには両手にマグカップを持った部屋着の結衣佳が立っていた。

「お疲れさま。ホットミルクを持ってきたよぉ」

彼女のいつもののほほんとした表情を見て、勉学に勤しみ、気を張っていた愛紗は一気に脱力してしまい、彼女を部屋に招き入れた。

「相変わらず愛さんの部屋は片付いているね」

両手でマグカップを持ち、ホットミルクを飲む結衣佳はそういった。愛紗の部屋は基本女の子の持つようなぬいぐるみや雑誌といった類は無かった。見渡す限り娯楽と呼ばれる物は特に無く、本棚には文学小説が多数置いてあり、その文学小説の中に何故か横○光輝の三国志だけは全巻揃っていた。

「あ、可愛い」

結衣佳が目に付いたのは、枕サイズのリラッ○マのぬいぐるみであり、ベッドの枕元に置かれていた。

「それは以前一刀様と出かけた時に、UFOキャッチャという機器で取って下さった物だ」

結衣佳は自分に膝にぬいぐるみを置き、その頭を撫でていると、愛紗の机の上にある写真立てに目をやった。そこには剣道着姿に首にメダルをかけ、左手に優勝トロフィーを持ち、右手で愛紗を抱き寄せて笑っている。愛紗も恥ずかしげに頬を赤く染めながらも、カメラに向かって微笑んでいた。

「相変わらずラブラブだねぇ」

丁度愛紗がミルクを飲んでいる時に言われた為に、愛紗は軽く飲んでいたミルクを吐いて咽てしまった。

「い、いきなりなんだのだ!」

いつもの空気を読まない結衣佳の言葉に、愛紗はまたも狼狽した。

「ええぇ、だって本当のことを言っただけだもん。北郷君も愛さんも良い顔で笑っているし、お互いに愛し、愛されてるな。って」

「……あぅ――」

愛紗は恥ずかしさで頬を染めて少し俯く。

「それにしても……」

結衣佳は改めて部屋を見てみると、本棚の参考書は前に訪れた時より増えていることに気付いた。

「愛さん、どうしてそこまで頑張れるの?」

彼女は純粋に気になっていたのだ。初めて出会った頃、彼女は中国人だということで日本語は話すことが出来ても読めなかった。また現代学生教養に関しては、中学生程のレベルしかなく、とてもフランチェスカ学園で通用するレベルでも無かった。

結衣佳は彼女と話していくうちに、始めは硬くギコチナイ感じを残しつつも、徐々に関係が緩和されて、共に食事をする様になり、更には彼女に勉強を教えるようにもなっていた。結衣佳は何より、彼女の知識を吸収する早さに驚いた。結衣佳が教えたことを、スポンジが水を吸うようにどんどん吸収し、中学レベルの教養しかなかった彼女は、まだ問題を解く時の荒さは残るものの、現在では自分より成績が良くなっているのだ。自惚れではないが、結衣佳自身も小まめに勉学に励み、このお嬢様学園で良的な成績を残す程であるので、一般学生よりは頭が良いと思っている。

しかしながら、目の前にいる彼女の様に、絶え間なく自分を追い込んで自身を高めようとする程の精神力は、自分にはないと断定している。そういう意味では、結衣佳は重田愛のことを嫉妬こそせずとも、尊敬の念を持っている。それでも彼女は何故これほどまでに頑張るのか不思議でならなかった。

「いつも学校が終わったら、図書館に残って勉強して、寮に帰れば夜遅くまで勉強して……そんなに生徒会に入りたいの……?」

「……そうだな。……正直に言うと、私は生徒会にそれほど固執しているわけでは無いのだよ。ただ……一刀様の隣に立ちたいということかな」

「……それって……『ご主人様』って呼んでいたことと何か関係があるの?」

愛紗は驚愕した。先程は自身を抑えきれずについ昔の一刀への呼称を発言してしまったが、まさかここでそれを聞かれることになるとは思わなかった。

「愛さんと北郷君の関係って、なんか普通の恋人の様に見えないんだよねぇ。お互いに愛し合っている事は分かるんだけど……」

そう笑って答える結衣佳に、愛紗は返した。

「……そうだな。確かに他の者から見ても、私と一刀様の関係は少し特殊に見える。……私は、昔一刀様に命を助けていただいて貰ったのだ」

「命を助けて……貰った……?」

「うむ。私が生まれ育った所は、紛争が絶えない地でな。私は両親の顔を知らない。唯一肉親であった兄も、賊に殺された。……抗わなければ生き残れない。私も生きる為に色々やり、何の目的も無いままに、私は抗った。……そんな時、私は一刀様に出会った。一刀様は私に生きる意味をくれた。こんな汚れた手を持つ私を、あの方は愛してくれた。だから私の身も心も、あの方の物なのだ……」

愛紗は外史での出来事を思い出し、少し涙を流してしまうが、そんな彼女の頬を、そっと結衣佳はハンカチで拭く。

「………ゴメンね。哀しいことを思い出させちゃって……」

結衣佳も彼女の言っていることの殆どは理解できないでいたが、彼女が過去に想像もつかない人生を歩んできた事は理解できた。

テレビや新聞、ネットで世界情勢のニュースを見ていると、日本が如何に平和呆けしているかが理解出来る。紛争、テロ、拉致など、発展国以外の途上国では日常茶飯事なのだ。現在発展を遂げている中国ですら、貧富の差は激しいものがある。彼女はその法も存在しない貧の出身なのだと結衣佳は理解した。

「……スマナイ。久しぶり自分のことを話した」

彼女をここまで支える原動力は一体何なのかと思い質問したが、純粋な北郷一刀への愛を見せ付けられ、結衣佳は彼女に対して改めて感心した。

「それなら愛さん、なおさら愛さんは無理しちゃ駄目だよ」

人差し指を立て腰に手を当てながら、結衣佳は言った。

「愛さんが無理をして体を壊したら、北郷君はどう思う?きっと物凄く悲しむと思うよ……」

「む、むぅ……」

いつもは大人びて見える目の前の彼女に、結衣佳は心の中で少し笑って、彼女に言った。

「このミルクを飲んだら素直に休むこと。飲み切るまでは、私も勉強を手伝ってあげるから」

「し、しかし、そなたも明日は早いのであろう。流石に悪い――」

彼女の口元を指で押さえながら、結衣佳は微笑みながら答えた。

「私は恋する乙女の味方だよ。愛さんの望みを叶えるお手伝いしちゃうから、愛さんも無理せずに何でも私に相談してね」

結衣佳が指を離すと、愛紗は頭を下げて礼を言った。

「……すまない。恩に着る……」

「別にいいんだよぉ、愛さん。だって、私達、友達じゃない」

「………結衣佳……これから私の事は、愛紗と呼んで貰えないだろうか?」

「……いいの?だってそれって、北郷君にしか呼ばせてあげない、愛さんのあだ名みたいなものでしょ?」

「構わない。……いや、むしろ、結衣佳だからこそ呼んで欲しいのだ。……友として……」

そう恥ずかしげに答える愛紗に、結衣佳は頬を緩ませて微笑んだ。

「わかったよ、愛紗ちゃん。絶対に生徒会に入ろうね」

「あぁ。宜しく頼む結衣佳」

こうして愛紗と結衣佳は、マグカップのミルクが無くなるまで勉強を続けた。愛紗はこの時間を出来るだけ引き伸ばす為に、出来るだけミルクをゆっくり飲んでいた為に、飲み終わる頃にすっかりミルクは冷めてしまったが、彼女の心は温かかった。結衣佳も、その日に就寝出来たのは夜中の2時となったが、しかしその日の夜はいつもよりぐっすりと眠ることが出来た。

 


 
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