No.852630

飛将†夢想.12

李確に反旗を翻す呂布。
暴虐の主を制す。

再版してます。。。
作者同一です(´`)

2016-06-11 02:50:47 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1271   閲覧ユーザー数:1197

洛陽宮殿・地下

 

慌てふためく多くの声に、

牢屋に入れられていた賈駆が目を覚ます。

彼らの慌て様から異変は明らかだった。

 

 

「な、何ッ!?何があったの!!?」

 

 

賈駆は看守に事情を聞こうと鉄格子を掴んで尋ねる。

だが、看守はそこには居らず、

その状況に賈駆は最悪の事態を想定。

 

 

「ゆ…ぇ、月ぇーー ッ!!!」

 

 

賈駆は鉄格子をガンガンと押したり引っ張ったりと脱出を試みる。

急いで親友の下へ。

賈駆の思いはそれだけだった。

 

 

 

 

場所は戻って、

洛陽城下では…

 

松明の灯に照らされながら、

ガシャンガシャンと鎧の音を鳴らせ洛陽宮殿に向かう呂布。

作戦など無かった。

ただ真っ直ぐに向かった。

そこに鍬や鉈を持った城下の民たちが飛将守護騎の後を付いて来る。

その数は万にも匹敵し、反乱軍の士気は益々高揚した。

呂布の決起は暴政に苦しむ民たちをも立ち上がらせたのだ。

 

 

「すっごい数やなぁ…」

 

 

後ろ見ながら走る霞はその光景に思わず身震いする。

呂布は前を見ながら背中でその圧を感じ、

フッと笑いながら走り続けた。

 

と、突然呂布に向かって剣が振り下ろされる。

李確の兵士だろう、死角から呂布に襲い掛かったのだ。

だが、呂布は急停止して剣を避けると、

剣を振り切って隙が出来た兵士に向かって死の一撃を見舞う。

 

歯を粉々に飛び散らせながら吹き飛ぶ兵士。

それを呂布は男の顔を破壊した拳を突き出したまま見る。

そして、その光景にガクガク震えるもう一人の兵士に視線を移した。

 

 

「ヒッ…」

 

 

兵士はその言葉を最後に数十年の生を終わらせてしまう。

男が最後に見たのは無表情に剣を振るう鬼神の姿だった。

 

 

「…気付かれますよねぇ」

 

 

呂布に襲い掛かった兵士を見た陽炎が大剣を構えながら悪態をつき、

ニヤリと笑う。

それを合図に飛将守護騎が一斉に動き始める。

 

 

「民たちが存分に闘える、鬱憤を晴らせる場所を提供してやりぃ!!」

 

 

「行くぞッ、今こそ悪逆非道を繰り返す李確を討ち滅ぼさんッ!!」

 

 

続々と現れ襲い掛かり始める李確の兵士を叩き斬り、叫ぶ霞と早苗。

洛陽城下は戦場となり、

双方ともに血を流し始め、

悲鳴と怒声が城下に響き渡る。

 

呂布は李確の兵士を斬り分けながら宮殿へ向かう。

その後ろから呂布を追う霞と陽炎。

二人は敵を斬り進む呂布の背中を見ながら話す。

 

 

「…霞」

 

 

「ん、どないしたん、陽炎?」

 

 

側面から襲い掛かる兵士を凪払いながら陽炎に答える霞。

陽炎は後ろから付いて来る守護騎たちを見ながら返事を返す。

 

 

「…李確の遠征軍が戻ってくるのは時間の問題。私とねねが守護騎の半分を率いて城壁の制圧をしてくる。霞たちは呂布殿の助けを」

 

 

「意外やな、愛する呂布ちんから自ら離れるなんて」

 

 

霞がそう答えると、

陽炎は自身に襲い掛かってきた兵士を大剣で真っ二つに斬って微笑する。

 

 

「…空気ぐらい読めるさ。上党組で決着を着けてこい」

 

 

陽炎はそう言うと走るのを止め、

その場で振り返り、守護騎を振り切って呂布を追い掛けてきた李確の兵士たちと対峙する。

それに対して、

霞は一瞬立ち止まろうとしてしまうが、直ぐに考え直して走り続けた。

 

 

「任せたで!!陽炎ッ!!」

 

 

霞は前を向いたまま信頼出来る仲間に伝え、

陽炎はその言葉に、ニッと笑って大剣を構える。

と、対峙する兵士たちの背後から二つの影が此方に向かって来た。

 

 

「呂布殿があんなにも前に…陽炎、此処は任せたぞ!!」

 

 

「陽炎お姉様、お先にぃー♪」

 

 

早苗は振り返る兵士の膝を踏み台にして跳び越え、

五月雨は兵士の股の間を滑り、

これを通過する。

横を通り過ぎる二人に陽炎は汗を垂らして苦笑してしまう。

 

 

「……ま、これで予定通りということ、か。頑張ってこい」

 

 

陽炎はそう呟くと、

大剣を兵士たちに向かって振り下ろした。

 

 

そして、

 

 

「ハァ、ハァ、着いた…な」

 

 

息を荒げて言う霞、大変平然と両手に武器を持つ呂布の目に宮殿が映る。

そこに二人の到着を待っていたかの様に戦斧を肩に担いだ華雄が隊を率いて現れ、

段差から呂布たちを見下ろす。

 

 

「…呂布ッ!!呂奉先ッ!!!」

 

 

暫くの沈黙の後、

戦斧を頭上で回して構える華雄が呂布に向かって叫ぶ。

呂布は無言のまま華雄を見た。

華雄は言葉を続ける。

 

 

「問うッ!!この謀叛で貴様は何を得るつもりだ!!」

 

 

「…乱世の鎮静」

 

 

呂布は華雄の問いに間髪入れず答えたのだが、

華雄は朱椰の墓石の前で語った呂布を見ていた為、

この答えに驚きを隠せなかった。

 

 

「…乱世の、鎮静………復讐ではないのか?お前は丁原の無念を晴らそうとしたのではないのか?」

 

 

華雄の言葉に呂布はフッと笑う。

勿論、李確を恨んでいる。

朱椰の仇を取りたい。

だが、

 

 

「…そのような事を朱椰は望んでいない。望んだのは仲間の笑顔と天下の安寧。ならば、その意志を受け継いだ俺も乱世の鎮静に力を注ぐだけだ」

 

 

呂布は私心を捨て、

そして昔の自分ならば絶対にすることはなかったであろう、

天下万民の為に戦う事を誓う。

この呂布の言葉には霞も頷き、華雄を見て堰月刀を払い構える。

 

 

「そういう事やッ、だから通らせてもらうで、華雄!!ウチと呂布ちんは朱椰の為にもこんなとこで止まってられへん!!」

 

 

「董卓様はこの先に居られる。乱世鎮静にはあの様なお優しい方が必要だ、御助けしてあげてくれ」

 

 

「………へ?」

 

 

戦斧を下げ宮殿への道を空ける華雄に、

交戦覚悟だった霞は思わず声を出して唖然としてしまう。

華雄はそれに気にせず呂布を見つめて言葉を続けた。

 

 

「…漢の人望の失墜によって引き起こされたこの乱世。私も李確同様、力での支配をすべきであると思っていた。だが、董卓様は丁原との約束の為、民たちの笑顔を求めている、と言われた…丁原という者は英雄たちの志を創るのだな」

 

 

華雄は夜空を仰ぎ見ながら言う。

まるで、朱椰と李確の会合がもう少し早ければ、と悔やむように。

呂布は華雄の言葉に頷きながら歩き始め、

華雄の隣まで行くとその足を止める。

 

 

「…そうも褒められたら、奴も満足だろう………董卓は必ず助ける。待っていろ」

 

 

「………頼む」

 

 

目をつぶって頼む華雄に呂布は頷くと、

そのまま宮殿内へ向かい霞もその後を追った。

暫くして、数十人の守護騎を引き連れて早苗と五月雨が宮殿前に現れる。

最初は部隊を率いていた華雄に敵意剥き出しで構える二人だったが、

華雄から話を聞いて急いで宮殿内に駆け込む。

それを見送ると華雄も城下で戦う守護騎たちの援軍へ向かうのであった。

 

 

その頃、

 

 

「月ッ!!!」

 

 

「ふえっ!!?」

 

 

牢屋からの脱出を成功した賈駆が董卓の部屋を勢いよく扉を開け、その名を叫んでいた。

その声に寝台で睡眠をとっていた董卓は跳ね起き、慌てて彼女を見る。

何故、牢に入れられた親友が此処にいるのか、と。

 

 

「…え、詠ちゃん!?どうして此処に?」

 

 

「あんな檻、僕の蹴りで簡単に折り曲げてやったわよ…って、それよりッ、早く此処から逃げるわよ、月ッ!!」

 

 

「え…えぇっー!!?」

 

 

最初は蹴り上げる動作をして自慢気に話す賈駆だったが、

直ぐに本来の目的を思い出し走り寄って董卓の手を引く。

董卓は訳の分からぬまま、

賈駆に手を引かれるまま、

部屋を後にするのだった。

 

部屋を出た董卓と賈駆は外に出る為に通路を走る。

二人は暫く直進すると息を切らしながら通路を曲がるのだが、直ぐに足を止めてしまう。

 

 

「ッ、月、こっちよ」

 

 

徘徊する兵士の姿を確認した賈駆は、

瞬時に踵を返して来た道を戻り逆方向に向かって走った。

今度は兵士の姿を確認せず、賈駆は安堵して走る。

だが、

 

 

「…う、嘘でしょ…?」

 

 

その安堵も直ぐに焦りに変わる。

彼女のたちの前に紅い炎が広がっていた。

 

 

 

同時刻…

 

洛陽宮殿に潜入した呂布と霞は、

襲いかかってくる李確の兵士を斬り進みながら奥へ奥へと向かっていた。

呂布が兵士を方天画戟で突き殺したところで、霞が呂布に向かって口を開く。

 

 

「…呂布ちん、さっきから李確んとこの兵士ばかりにしか会わへん。ここは来た道引き返して別の道に行かんか?」

 

 

辺りを見渡しながら言う霞。

呂布はその言葉に戟に突き刺さった兵士を振り飛ばし、前を見たまま答える。

 

 

「…いや、この道で良い。良かったのだ。そうだろう、李確」

 

 

その呂布の言葉に、霞は呂布の視線の先に目を凝らす。

そこには大松の火を宮殿の壁に点けながら此方に向かって歩く李確の姿があった。

 

 

「…後少しで董卓様の天下は確実のものになっていた。それを貴様如きの暴挙に阻まれるとは………やはり、丁原と共に殺しておくべきであった」

 

 

「李確ッ!!!」

 

 

得物を構え怒りに吼える霞。

そんな霞を見て不敵に笑みを浮かべた李確は、

壁に点けていた大松を後ろに放り投げる。

火は瞬く間に通路を燃やす。

 

 

「…漢の都燃える、か」

 

 

歴史通りに燃え始める洛陽宮殿を見つめ、

とくに驚かず淡々と言う呂布。

李確は呂布を見つめながら話す。

 

 

「献帝という珠玉は長安にいる我が精兵たちに囲まれ健在、故に洛陽は不要。貴様らにやるぐらいならば、燃やすまでだ」

 

 

「…そうだな」

 

 

「………董卓様は何処だ?」

 

 

冷静な呂布の返答に李確は無駄な言葉を言わず、

董卓の居場所を尋ねた。

呂布はそこから、董卓は李確から逃げる事が出来たのだと察する。

恐らく賈駆とやらの仕業だろう、

と呂布は表情に出さず安堵した。

 

 

 

「…知らんな」

 

 

「へっ、どうせ董卓に愛想つかれて逃げられたんやろ。アンタの野望も此処までのようやなッ!!」

 

 

問いに答える呂布に続いて霞が李確を罵ると、

李確はフッと微笑する。

その笑みは余裕の笑みではなく、

諦めに近い、

そして安堵した笑みのようでもあった。

暫くして李確は懐から小刀を出す。

 

 

「…そうであるのならば悔いは無いさ。彼女が居らずとも、私がこの時代を変えてみせる。暴力での支配をしてみせるッ!!」

 

 

「……このッ、どアホッ!!ウチが性根から叩き直してやるわ!!」

 

 

李確はゆらりと一歩足を踏み入れると、

そこから走って二人に襲い掛かってきた。

それに対して霞が呂布の前に立ち迎え撃つ。

鋭く光る李確の小刀は光の線を残しながら霞に振り下ろされた。

 

 

 

 

宮殿内に入り呂布たちを追っていた早苗と五月雨は、

後からついて来た守護騎数名と合流。

そして、再び捜索を再開するのだが…

 

 

「んー………広過ぎる」

 

 

「…ぐだぐだ言ってないで探すんだ」

 

 

「お姉様。私たちのような山賊あがりのような者が、こんな夢のような大宮殿の中をすいすいと踏破出来ると思います?倍、いえ三倍は広いんですよ、上党城の中より!!」

 

 

二人は余りにも広い宮殿内に唖然としてしまう。

五月雨はそんな宮殿内を見渡しながら指差し、叫ぶ始末。

一度訪れた事のある早苗もこの現状には悩むばかり。

 

 

「と、とりあえず、走って探し回るんだ。呂布殿に何かあったら、この反乱が無駄になるッ」

 

 

『奉先様に限ってそんな事起きませんよ』という五月雨の言葉が耳に入ったが、

早苗はそれには反応せず駆け出した。

 

 

(広いからといって、ゆっくり捜す暇は無い。急がねば……ッ?)

 

 

呂布を捜す為に宮殿内を駆ける早苗だったが、

途中で鼻につく匂いに立ち止まってしまう。

後ろから追いかけてきた五月雨も立ち止まるとその匂いに異変を感じる。

 

 

「………この匂いって、木が燃えてる匂い、ですよね…?」

 

 

「誰か、誰か来て!!!」

 

 

五月雨の言葉の後に響き渡る少女の声。

早苗と五月雨はバッと声のした所を見ると急いでそこに向かう。

早苗たちが着いた先には、

着物で大きく燃え盛る炎を消すべく何度も叩く賈駆とその背後で震える董卓の姿があった。

 

 

 

 

「…がッ!?」

 

 

燃える宮殿内で李確は霞によって打ち飛ばされ、

壁に衝突し呻き声をあげた。

それを見下ろす霞は息を荒げて舌打ちする。

 

 

「…チッ、文官やと思って嘗めとったわ」

 

 

そう言いながら腕に負った切り傷を見る霞。

そんな霞の横を通り過ぎ、

呂布が李確に歩み寄る。

 

 

「…李確」

 

 

「……ふ、フフフ、無様な格好だ。全く」

 

 

服を切り裂かれ、

至るところから血を流し片膝をつく李確は、

自身のこの状態に苦笑する。

そして暫くの沈黙の後、李確は言葉を続けた。

 

 

「殺せ。私が丁原を殺したように、殺せ」

 

 

力も入らないのか、

フラフラと両手を広げて呂布に死を乞う李確。

だが、呂布は武器を振るわず口を開く。

 

 

「…あの行為は、お前の持つ志の為にやった事であろう?全て董卓の天下の為に」

 

 

「…フッ、天下をも掌握出来ぬ漢を暴力によって屈服させる、それが私の考え出した答え。彼女は何ら関係ない」

 

 

李確がそう言い終えた瞬間、

炎によって脆くなった天井の木材が落ちてくる。

 

 

 

「崩れ始めよったか。呂布ちん、早よう逃げんと巻き込まれるで…」

 

 

落下する炎の天井に、

霞は空中を舞う火の粉を振り払いながら後退し、

呂布を見て逃げることを促した。

李確はそんな霞を見ながら高笑いをする。

 

 

「ふ、ははははっ!!!はは、は………既に宮殿に火を放てと部下に命じている。死にたくなければ、早く此処から出ることだな」

 

 

李確は暫く笑った後に呼吸を整える為に一呼吸つくと、

上を向いて目を瞑り口を開く。

それに対して呂布は李確を見たまま霞に命令を下した。

 

 

「…霞、先に行け」

 

 

「はぁ!?呂布ちんは!?」

 

 

「…早く行け」

 

 

呂布の言葉に納得出来ない霞は荒げた声で立ち止まるが、

呂布は“言うことが聞けないのか?”と言わんばかりに霞を睨み付け宮殿脱出をさせようとする。

だが、殺気だけで怯むような霞ではなく、

暫く沈黙を続け脱出を拒むと漸く渋々それ承諾したのか霞は呂布に背を向けた。

 

 

「………分かった。けど、絶対戻るんよ、破ったら許さへんで!!」

 

 

呂布と顔を合わさず叫ぶと霞は燃え始める宮殿内を駆け、

呂布も霞の背中を見送らず、彼女の言葉に答えるように頷く。

 

呂布と李確。

相容れぬ二人は、燃える宮殿内で無言で互いを見る。

そんな中、先に口を開いたのは呂布であった。

呂布は李確に手をさしのべる。

 

 

「…共に来ないか?」

 

 

「………はっ、何を言うかと思えば」

 

 

この状況にも関わらず手を差し伸べる呂布の行動に李確は苦笑するが、

呂布は気にせず言葉を続けた。

 

 

「…このまま何もせず世の流れに身を任せれば、俺は曹操によって全てを滅ぼされる。お前も此処から逃げ切ることが出来たとしても、いずれ奴に消される」

 

 

「何を馬鹿な…」

 

 

「…切れ者のお前なら、もう解っているだろう?」

 

 

「………泗水関の戦い、か。貴様は何を知っている?貴様は何故未来を予知出来る?」

 

 

泗水関の戦いの際に呂布は華雄の死を予測し、それを回避したことを李確は思い出す。

それだけでは普通信じられないものだが、

呂布から放たれる不思議な気に李確はその言葉を信じつつあった。

そんな李確に呂布は伝える。

 

 

「…俺の言う未来を信じる信じないは、お前に任せる。だが、俺は朱椰の想いの為にも、霞や早苗、五月雨、陽炎、音々音たちを護る義務がある。運命に逆らわねばならない」

 

 

呂布はそこまで言って握り拳を作ると、

 

 

「…その為にも、お前の力が欲しいのだ」

 

 

もう一度李確を仲間に誘った。

 

だが、彼女から返ってきたのは呂布の望む答えではなく、

李確は目を瞑って微笑するのだった。

 

 

「………もう、疲れたよ」

 

 

その言葉が言い終わると同時に燃える天井が再び落下し、

それを見た呂布は咄嗟に李確を救おうと走ろうとする。

だが、それを見た李確が手に持った小刀を投げつけ、それを阻止。

燃え盛る炎によって呂布の目の前に赤い壁が現れた。

 

 

「…腐敗した王朝に呑まれぬように抗い続けたが……完成された未来が存在しているのであれば私は、もう、抗わぬよ」

 

 

完全に炎に囲まれた李確の諦め、

今までの行為に対しての後悔の念を聞き、

呂布は掴んでいた李確の投げた小刀を強く握り締める。

 

 

 

「奴ならば…董卓ならばッ、お前の業と犯した罪なぞ、必ず全て受け入れ、許すッ。主君を大事に思う、お前が一番それを分かっているだろうッ!?」

 

 

小刀を握り締める拳から血を流しながらも、

燃え盛る炎の壁に向かって李確に延命を訴える呂布。

だが、反対側に座る李確はその言葉にも首を横に振る。

 

 

「…一番理解しているからこそ、だ。さぁ、もう何を言っても無駄だぞ、さっさと行け。巻き込まれたいのか?」

 

 

李確のその言葉に、

最早意味無しと呂布は震える拳の力を解く。

そして、

 

 

「…お前の董卓への想い、お前が望んだ“誰も絶望せぬ天下”実現の志、全て俺が受け継ぐ。安心して逝け」

 

 

と李確に向かって答えると、

そのまま二歩ゆっくりと後退し、スッと背中を向けて走りだした。

李確は呂布の背中を炎越しに見つめ、

穏やかな表情を浮かべる。

 

 

「任せたぞ…」

 

 

呂布に聞こえるはずもない返事を返すと、

李確は目を瞑る。

そして、

走馬灯の様に頭の中を駆け巡る昔の思い出を観た。

 

天水の城内を笑顔で歩く董卓と賈駆、李確の三人。

 

 

(……あぁ、私は何処で間違ったのだろう。董卓様はあの様に事をせずとも、私の望んだ…)

 

 

脳裏に映ったその光景に李確は涙を一滴頬に流すと、

音を立てて崩れ出す宮殿に消えるのだった。

 

 

 

 

「洛陽が…燃える…」

 

 

周辺の敵兵を倒しきった華雄が燃える洛陽宮殿を眺めながら呟く。

 

時同じく、洛陽宮殿から出て直ぐの広場では、

早苗が守護騎の一人を呼んで救助した董卓と賈駆に水を渡させ、

五月雨が傷を負った霞の治療をしていた。

 

 

「これで…良しっと」

 

 

霞の腕に布を巻き終え、軽く叩いて笑う五月雨。

それに霞は苦笑しながら立ち上がる。

 

 

「痛たたた……ハハッ、ありがとさん、五月雨」

 

 

「お気になさらずに、霞姉様♪」

 

 

五月雨も笑いながら返事を返すと立ち上がった。

と同時に早苗の声が響く。

 

 

「呂布殿ッ!?」

 

 

早苗の前をゆっくりと歩く呂布。

その姿は煤で汚れており、右手からは血が流れていた。

衛生的にもいけないと,それに気付いた早苗が手を取る。

 

 

「さぁ、直ぐに手当てを…」

 

 

だが、手をゆっくり離し呂布は治療を拒むと、

右手を勢いよく握り締めてみせ拳をつくった。

その拍子に流れていた血が飛び散り、自身の頬に付く。

 

 

「…これは志を受け継いだ“証”だ。何もしなくていい」

 

 

呂布はそう言って董卓たちを見た。

心配したような表情で呂布を見つめる董卓に、

呂布は歩み寄り目の前に立つと身長を合わせるように屈んで、懐からある物を差し出す。

 

董卓の手に置かれたのは刃の部分を布で巻かれた小刀で、

布には呂布ものであろう赤い血が幾つも付着していた。

 

 

「…これを持っておけ。そして、手放すな。お前の為に散った魂が此処にある」

 

呂布の熱い想いもあったが、

何より小刀の持ち主が誰であるのかを知っていた董卓は、

その言葉に涙を流しながら何度も頷く。

何度も何度も。

 

 

「………ッ、月泣かすなんて……っく…」

 

 

隣にいた賈駆もその小刀を見て察したのか、

涙する董卓の頭を優しく撫でながら、目に涙を溜めて呟いた。

 

 

涙する二人を見ていた呂布は暫くして立ち上がると、

広場に集まり始めた守護騎と民たちに顔を向ける。

 

守護騎と民たちはボロボロになりながらも、

目を活き活きさせながら呂布の言葉を待っていた。

呂布もその期待に応えるべく声を上げる。

 

 

「…我らの勝利だッ!!勝ち鬨を上げよッ!!!」

 

 

呂布の叫びに守護騎と民たちは一斉に拳、武器を天高く挙げ勝利を叫んだ。

 

 

 

 

洛陽炎上の報は瞬く間に天下に知れ渡る。

これにより、洛陽を首都としていた漢王朝の名声は完全に地に落ち、

その名は飾りのようなものになってしまう。

 

それを皮切りに、漢王朝の臣下であった雄たちがそれぞれの野望を胸に行動を開始した。

平原城の袁紹は業城の太守・韓復を巧みに騙し、その地を手中に収め、

陳留城の曹操は奄州一帯を統一して着々と力をつけていく。

 

そんな中、漢王朝の復興を目指す者たちも勿論いた。

長沙城の孫堅もその一人で、彼女は荒廃した洛陽に一早く入り復興作業に力を入れる。

拠点を持たない劉備も姉貴分である北平城の公孫賛の客将として漢を乱す山賊や烏丸と戦い続けていた。

 

今、まさに群雄割拠の時代が始まったのである。

 

 

 

 

「あ、アあ、アアアアアアアッーーー!!!!?」

 

 

洛陽の西に位置する長安の玉座の間で発狂する白髪の少女。

玉座に座る漢王朝の帝・劉協はそれを見ながらガクガク震える、

白髪の少女の形相に。

 

 

「お、お待ちくだされ、郭巳様ッ!?」

 

 

「今はまだ御辛抱をッ!!」

 

 

郭巳と呼ばれた少女の手には華雄の武器と比にならない程の大きな斧があり、

控えていた部下は慌てて斧を引きずる彼女を止める。

だが、郭巳は歩みを止めず、

 

 

「…お姉ちゃんの仇…お姉ちゃんの仇…お姉ちゃんの仇…お姉ちゃんの仇…お姉ちゃんの」

 

 

ブツブツ呟きながら、自分の倍はある屈強な部下を手も使わず身体だけで押しのけてしまう。

それに対して、押しのけられた部下の一人が急いで口笛を鳴らして合図を出すと、

玉座の間の扉が勢いよい閉められる。

他の兵士が控えていたのか、扉はしっかり閉められ郭巳が扉を押してもビクともしなかった。

 

 

「こ、これで………ッ!?」

 

 

部下が“これで大丈夫”と安堵したのも束の間、

郭巳の行動に驚愕する。

郭巳は開かない扉に頭を付けたままズッズッとその場で歩いていたのだ。

 

 

「…ッく、お姉ちゃんん……ヒッ…く…お姉ちゃん…私のお姉ちゃん…」

 

 

涙を流しながら呟く彼女は最愛の人物、

李確の死に心を痛めていた。

狂おしい程に痛めていた。

そして、心から願う。

 

 

(……呂布……殺してやる……呂布……殺してやる……呂布……許さない……呂布……)

 

 

郭巳はピタッと泣き止むとフラフラと玉座に座る帝の下へ行き、

そのまま帝の上にドカッと腰を下ろし目を閉じて、

あっという間に寝息を立てた。

 

嵐の様な郭巳の行動に上に座られた帝は勿論、

その部下たちは初めての症状ではないといえ呆然としてしまう。

当の本人は既にすやすやと眠りについていたが、

その周りは不穏な空気を今だに漂わせていた。

 


 
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