No.852191

飛将†夢想.7

黄巾の乱終結。
だが、乱は再び始まる。

再版してます。。。
作者同一です(´`)

2016-06-08 20:52:04 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1121   閲覧ユーザー数:1054

 

『洛陽』

 

洛陽とは、

中国河南省の都市で、西周時代に都として建設され、漢、北魏、晋、隋、後粱、後唐などの王朝首都でもある。

 

 

黄巾の乱平定から数ヶ月後…

 

各都市の治安が戻った頃に、

漢王朝が黄巾賊討伐の際に武功を上げた諸侯たちを各都市の太守に命じ、

乱の再発を防止しようとした。

 

“戦果を上げた諸侯ならば、都市で起きる内乱を未然に防ぐであろう”

 

だが、漢王朝のその甘い考えが後々更なる乱世を巻き起こす要因になるということを、

その事を知っている呂布は勿論、

曹操など真なる英雄たちは予想出来ていた。

 

案の定、

再び世が乱れを見せる。

 

黄巾賊討伐軍の総大将でもあった大将軍・何進が、

その権力を恐れた宦官によって殺害されたのだ。

 

更にそれを好機と見たのか、

主の居なくなった洛陽に西涼の董卓が軍勢を率いてなだれ込み、これを制圧。

幼い帝は董卓によって擁立されるのだった。

 

その後、

董卓配下である李確を先頭に洛陽で略奪、強姦、漢の臣を独断で粛清する等の暴虐が始まる。

 

この情報を知った呂布は、

世界観や張燕・何儀が仲間になるなど多少の違いがあるにしろ、

世の流れが死ぬ前の世界と同じであることに少なからず不安を抱き始めるのであった。

 

 

 

黄巾の乱平定後、

上党城の治安の良さは以前よりも上がり、

人口は更に増え、商業や交易が栄えていた。

 

そんなある日のこと…

 

 

「…皆、ちょっと良い?」

 

 

いつもの定例会を終わらした後に、

朱椰は少し言葉を溜め、

珍しく皆を呼び止める。

 

突然の事に皆は曖昧な返事をしながら、

軍議室中央へ戻ってきた。

 

 

「ん、朱椰、どないしたん?」

 

 

朱椰の表情を確認しながら尋ねる張遼。

 

 

「何か方針の変更でも…?」

 

 

同じく、張燕も真面目に朱椰に質問する。

 

 

「いや、そうじゃなくて、ね…」

 

 

張遼と張燕の言葉、

呂布と何儀の視線に朱椰は一呼吸入れると、

ゆっくりと本題を話始めた。

 

 

「…洛陽に入った董卓の噂、聞いた事あるわよね。皆はどう聞いた?」

 

 

周囲を見渡しながら言う朱椰。

その言葉に先ず反応したのは張遼であった。

張遼は人差し指を立てて、記憶を探りながら答える。

 

 

「そうやな…民から税を倍に徴収、悪逆非道の限りを尽くす暴君、とかやな。ウチはそんな感じに聞いたで」

 

 

「私もそんな感じぃ」

 

 

「私もそう聞きました」

 

 

張遼の言葉に、何儀と張燕も頷く。

だが、朱椰は張遼の言葉と何儀たちの反応に哀しい表情を浮かべ首を横に振った。

 

 

「違うの。董卓は……月はそんな子じゃないのよ」

 

 

「「「…え?」」」

 

 

朱椰の突然の嘆きに、

張遼たちは疑問顔になってしまう。

呂布を除いて。

 

 

「…知り合いらしいな。それも、話を聞く限り、董卓も女ときた」

 

 

呂布はハァと溜息をつくと、

そのまま壁に寄り掛かり腕を組んで朱椰を見つめる。

朱椰は言葉を続けた。

 

 

「…月は親友なの。だから、絶対そんなことをする子じゃないわ」

 

 

「じゃあ、あの噂は…?」

 

 

頬に人差し指を当てて首を傾げる何儀。

その何儀の疑問に朱椰が答える。

 

 

「…殆ど真実でしょうね。ただ、指示を出したのは月じゃない他の誰かで…」

 

 

 

 

「じゃあ、上手い具合に誰かに操られてるんていうんか、董卓は!?」

 

 

朱椰の話を聞いて感情的になる張遼は拳を握り締めガンッ、と壁を叩く。

 

そんな張遼を見つめ、

一呼吸入れた朱椰は決意したかの様に皆に言葉告げた。

 

 

「…だから、それを確かめる為に、これから洛陽に行こうと思うの」

 

 

「洛陽に…!?洛陽は今、董卓配下の者たちが…」

 

 

朱椰の言葉に、

張燕は洛陽の噂を思い出し慌ててそれを止めようとするのだが、

 

 

「…俺も同行しよう。一人では行かせん」

 

 

呂布の言葉に“反対しないのか”と唖然とした表情になってしまう。

そして、直ぐに我に戻ると頭をガシガシとかいて自身も同行を申し出た。

 

 

「んぅぅ……っ、ならば、私もお供致します!!今回は留守番役、引き受けませんよ?」

 

 

「…よっしゃ、なら、今回はウチが留守番したる。付き合い五月雨」

 

 

必死に朱椰に言う張燕を見ると張遼はフゥと息を吐き、

留守番をすると皆に伝え五月雨の肩に腕を回す。

 

張遼のまさかの言葉に、

呂布と同行しようと考えていた何儀は思わず張遼を二度見。

間髪入れず、

 

 

「え、今“ウチが留守番したる“って…」

 

 

と直ぐに張遼に聞き直すのだが、

 

 

「付き合ぃ五月雨」

 

悪そうな笑みを浮かべ言う張遼に、

何儀はそれ以上何も言わず、

諦めたかの様にうなだれた。

そんな何儀に朱椰は、

 

 

「大丈夫、奉先たちと直ぐ帰ってくるから」

 

 

苦笑しながら頭を撫でるのであった。

 

 

 

洛陽に向かうことになった朱椰、呂布、張燕は直ぐに出発の準備を済ませると、

張遼たちに見送られながら上党城近郊にある平陽港へ向かう。

 

平陽港から黄河を渡って洛陽の港、

孟津港へ向かおうとしたのだ。

 

朱椰たちは、夕暮れには平陽港に到着し、

船に乗って孟津港に向かって出航した。

 

その日の夜… 

 

 

「………」

 

 

眠らず甲板で夜風に当たる呂布。

呂布は目をつぶって風の音を聞く。

 

と、風の音を聞く呂布の耳に、

朱椰の声が入る。

 

 

「…眠れないの?」

 

 

背後から呂布に歩み寄る朱椰。

呂布はゆっくりと振り返った。

 

 

「…いや、夜風を愉しんでいただけだ。お前の方こそ、寝れないんじゃないか?」

 

 

「フフッ、どうかしら?」

 

 

微笑しながら言う呂布に、

朱椰はおどけながら答えてみせる。

 

だが、呂布が真剣な表情になってしまうと、

そんな朱椰も観念したのか苦笑しながら本心を伝えた。

 

 

「嘘よ。本当は月…董卓や、その友人の賈駆の事が心配で眠れない…」

 

 

「………」

 

 

呂布は一歩、朱椰に歩み寄り安心させるかの様にその頭を撫でる。

 

朱椰も呂布のその行為に安心したのか、

暫くしてから朱椰は笑みを浮かべて頭を撫でる呂布の手を取り口を開いた。

 

 

「ん、ありがとう、奉先…ねぇ、ちょっと語りたくなったんだけど、董卓たちとの昔話。聞いてくれる?」

 

 

「…いや、いい」

 

 

「そう…って、えぇぇぇぇぇっ!?そこは普通聞くべきでしょ!?」

 

 

呂布のまさかの発言に、

愕然としながら呂布の着物の襟を掴んで押し引きを繰り返す朱椰。

 

 

「…冗談だ、冗談。聞かせてくれ、お前の昔話を」

 

 

呂布は襟を掴まれガクガクと揺さ振られながら苦笑して朱椰に言うと、

朱椰は漸く呂布の着物の襟から手を離す。

 

揺さ振る動作に鼓動が速まった朱椰は、

フゥ…と呼吸を落ち着かせると、

暫くして話を始めた。

 

 

「全く、最初からそう言ってよね……あれは漢に仕官して一年目のことだったわ…」

 

 

 

 

「…て……ん…」

 

 

洛陽の巨大庭園から聞こえる微かな声。

 

それは次第に大きくなり、

最終的には洛陽宮殿全体を揺るがす怒声になる。

 

 

「起きろ、丁原ッ!!!」

 

 

「っ、へっ!?は、何っ!?」

 

 

木に寄り掛かって睡眠をとっていた朱椰は、

自身の名を呼ばれ…正確には宮殿全体を響かせた怒声に驚き、

その場で跳びはね起き、

慌てて辺りを見渡した。

 

だが、周りには一人しかおらず、

朱椰はその人物をゆっくりと見上げると苦笑した。

 

 

「…あらぁ、廬植先生。おはようございます」

 

 

「私はお前を生徒に持った覚えは無い!!後もう昼だ、こんにちは、だ!!」

 

 

廬植と呼ばれた緑の髪を肩まで伸ばした女性は、

立派な自身の胸の前で腕を組み、

今だ寝ぼけ眼の朱椰を睨みつける。

 

 

「…丁原。貴様、今日が何の日か、覚えていないだろう?」

 

 

「………廬植先生の結婚記念日?おめでとうございます、祝賀会は何時からで」

 

 

「違うわ、阿呆っ!!それに私は独身だ、気にしている事を言ってんじゃねぇっ、この野郎!!」

 

 

廬植は朱椰の言葉の途中でその頭上に鉄拳を落とし、

悶絶させた。

 

 

「今日、新規の将は野外訓練をすると言っただろうが!!」

 

 

廬植は頭を押さえながら、

悶絶する朱椰を見下ろし言い放つ。

すると朱椰は涙目で廬植を見上げ、

 

 

「…うぅ、確かに私は今だ新参者ですが…」

 

 

と、廬植に“訓練の必要は無い”と言わんばかりに訴える。

 

 

「…確かに普段は怠け者で、おちゃらけた馬鹿者で、時々腹も立つが、そこを除けば優秀な将であるお前に必要無いことかもしれん」

 

 

「…廬植先生、そんなに言わなくても」

 

 

朱椰の訴えに、

廬植は眉を下げながら自身の意見を述べる。

そして、その言葉に朱椰が肩をガックシ落とすも、

廬植はそれを無視し話を続けた。

 

 

「だからこそ、お前には参加して欲しい。私はお前の事を期待している、故に他の者にお前を目標として奮励努力させたいのだ」

 

 

「廬植先生…」

 

 

廬植の真剣な表情に思わずキュッと拳を握り、

真面目に話を聞いてしまう朱椰。

 

だが、

それも本の一瞬。

 

 

「私の思いが分かったのなら………さっさと集合場所に行かんか、この馬鹿者ッ!!皆が訓練の開始をどれだけ待ってると思っているんだ!!」

 

 

廬植は真剣な表情を一変。

鬼の様な形相で朱椰の襟首を持つ。

 

 

「…っ、い、行く行く、行きますって。じゃないと逝ってしまいます…」

 

 

襟首を掴まれ持ち上げられた朱椰は唸る様に答え、

青ざめながら廬植の腕をパンパンと叩くのだった。

 

 

それから直ぐに廬植と朱椰は、

洛陽の城門前で集合する官軍正規兵と新参の将たちと合流する。

 

 

「すまん、皆待たせたな」

 

 

遅れてやって来た廬植は将兵たちの前に立ち、

右手を軽く挙げる。

 

すると朱椰を除く将兵たちがバッと拝跪し、

それをゆっくりと見る朱椰も暫くしてノソノソと廬植に向かって拝跪した。

 

廬植は朱椰が拝跪するのを確認すると、

フッと微笑し言葉を続ける。

 

 

「では、早速だが訓練を開始する。誰でも良い、直ぐに二人組みになり既に隊列を作っている兵100人を率いて虎牢関へ向かえ。以上」

 

 

「「「はっ!!!」」」

 

 

廬植の言葉に一斉に返事を返す将たち。

直ぐに将たちは各々二人組みになると、

走って各隊に向かう。

 

 

「皆、やる気満々ねぇ…」

 

 

そんな中、

ポツリとその場に残る朱椰。

 

 

「……おい、丁原」

 

 

廬植はそんな朱椰を見て溜息をつく。

そして、朱椰に褐を入れるべく歩み寄ろうとするのだが、

そこで朱椰とは別の人物が目に映る。

 

その人物は見るからにひ弱な少女で、

配備される軽装の鎧を着ていることから新米の将であることは分かるのだが、

彼女は周囲を走り回る将兵たちを見ながら慌てふためいていた。

廬植はそんな少女の顔を見ると、

 

 

「…お前は、確か天水の董卓だったな」

 

 

記憶を探る様に自身の顳に指を突きながら言う。

 

董卓と呼ばれた少女は廬植に名を呼ばれると、

ハッとなってその顔を見た。

 

 

「…ろ、廬植将軍!?」

 

 

「何だ?」

 

 

「い、いえ、何も…」

 

 

廬植の顔を見て焦る董卓に、

廬植はフッと笑うと腕を胸の前で組んだ。

 

 

「董卓、早く二人組にならんか」

 

 

「は、はいッ……」

 

 

口許に軽い笑みが零れる廬植だったが、

それでも十分な威圧があった為、

董卓はビシッと姿勢を正して返事をする。

だが…

 

 

「………ぁ」

 

 

董卓が辺りを見渡した時には既に新米の将たちは既に虎牢関へ出発しており、

そこには砂塵舞う中、

最後の兵士100人しか残っていなかった。

 

 

「…うぅ、詠ちゃん…」

 

 

出遅れた。

それも教官の前で。

将としての地位を落とされてしまう。

 

様々な事が頭に思い浮かんでしまい、

思わず涙を流し友人の名を呟いてしまう董卓。

 

と、そんな董卓の肩に軽い衝撃が伝わる。

董卓はゆっくり背後を確認すると、

 

 

「じゃあ、廬植先生行ってきます」

 

 

そこには、

廬植の顔を見て手を挙げる朱椰の姿があった。

 

朱椰はそれから呆然としている董卓の手を掴むと、

そのまま最後の兵士100名と合流。

董卓を準備されていた馬に乗せると自身も馬に乗り、

 

 

「じゃあ、丁原・董卓隊、出るわよ!!」

 

 

流れる様に洛陽を出発する。

廬植はそれを見送りながら苦笑すると、

踵を返して洛陽宮殿に戻った。

 

洛陽を出ると、

朱椰は直ぐに隣で今だ呆然としている董卓に話し掛ける。

 

 

「私は丁原、字は建陽よ。宜しく」

 

 

「っ、わ、私は董卓と言いますっ………先程は、あ、ありがとうございました」

 

 

朱椰の言葉にハッと我に戻ると慌てて自分の名を教える董卓。

最後には落ち着きを取り戻し、

自ら二人組を作ってくれた事を感謝した。

 

 

 

「ん?いや、そこまで感謝される様なことしてないし。私も相手いなかったからさ…」

 

 

朱椰は董卓の言葉に対し、

気にしなくて良いよ、と手を振ってみせる。

だが、最後に言った台詞は全くの嘘で、

やる気が無かったから、

という事は伏せていた。

 

 

「まぁ、何より私、可愛い子に興味あるから、ね…」

 

 

朱椰は続けてウフフと董卓に笑みを浮かべてみせる。

 

董卓は朱椰の笑顔に思わず顔を真っ赤にしてしまう。

そんな董卓に朱椰は、

 

 

「冗談よ、冗談」

 

 

と直ぐに苦笑して、

董卓の頭を撫でるのだった。

 

それから暫く話をしながら進軍を続けていると、

董卓がそわそわしながら尋ねてくる。

 

 

「あの…丁原さん?」

 

 

「んーどうしたの?」

 

 

「こんなに遅く進んでも大丈夫なんでしょうか?もう、他の皆さんは虎牢関に着いているのでは…」

 

 

董卓は片手をキュッと胸の前で握ると心配した表情で朱椰を見た。

 

だが、朱椰は董卓の言葉に全く焦らず、

欠伸をする始末。

 

 

「ふぁ……っん、気にしなくて良いんじゃない?早く来いとは言われてないんだし」

 

 

欠伸で涙目になるも、

ヘラッと董卓に笑いかける朱椰。

 

 

「…は、はぁ、そうですか…」

 

 

勿論、董卓は朱椰の言葉に素直に納得するわけなく、

汗をかきながら自信無く首を傾げる。

 

それでも朱椰は“大丈夫、大丈夫”と兵士の行進速度を速めず、

ゆっくり虎牢関へ向かうのであった。

 

そして、

朱椰と董卓は時間を掛けて、

漸く虎牢関に到着する。

 

虎牢関には既に朱椰と董卓を除く新米の将たちが到着しており、

二人を軽蔑した目で見ていた。

 

蔑む視線に思わず顔を伏せて進む董卓。

朱椰はというと、

 

 

「…皇甫嵩将軍。丁原、董卓両名、及び兵士100名只今到着致しました」

 

 

視線など全く気にせず、

虎牢関で待っていた黒の長髪を腰まで伸ばす女性、教官・皇甫嵩の前までさっさと行くと馬から降りて到着を告げる。

 

そんな朱椰に、

先に着いていた将たちは、

 

 

「……遅れて来ておいて、よくもまぁ堂々と」

 

 

「…アイツと、あのひ弱そうな女、もう駄目だな」

 

 

クククッ、と笑いながら軽蔑される。

この状況に董卓は涙を浮かべ、

身体をガクガクと震わせてしまう。

 

と、黙っていた皇甫嵩が口を開く。

それは朱椰と董卓に到着が遅れた理由を尋ねるものであった。

 

 

「丁建陽、董仲穎、到着が遅れた理由を述べよ。内容によっては、お前たちを直ぐに解雇する」

 

 

「そ、そんなっ…」

 

 

皇甫嵩の言葉に驚愕する董卓。

董卓は直ぐに朱椰の顔を確認する。

 

朱椰は真剣な顔で皇甫嵩の話を聞くと、

直ぐに口を開いた。

 

 

「我等は兵士100名の体力、疲労を考えて行動しました。兵の装備は見る限り、我等の装備よりも重装備。そして、移動は徒歩。無理な強行でもすれば兵士たちは動くこともままなりません」

 

 

朱椰はそこまで言うと、

バッと他の将が引き連れた兵士たちを見る。

 

他の将が引き連れた兵士たちは、

皆無理な強行で疲労困憊になり、

今だに息を荒げ座り込んでいた。

 

 

「…“早急に進軍せよ”という命令が無いのに、我先に到着せんと勝手に強行策を実行し、兵士の力を半減させる。あれでは戦闘で死体を増やすばかり…」

 

 

朱椰はそう言って皇甫嵩の顔を見返し、尋ねる。

 

 

「確かに私たちはあそこの者たちより遅れてはきましたが、日の傾きを見るなり普通の隊の進軍速度であったと思いますが…?」

 

 

「うむ、そうだな」

 

 

「では、自ずと我等とあの者たち、どちらが愚者か判るはず…あれでしたら、今から率いていた兵士100名同士で模擬戦でもしましょうか?」

 

 

そこまで言うと、

朱椰はいつもの雰囲気に戻りニッと笑ってみせた。

 

朱椰の言葉を聞いた皇甫嵩は、

 

 

「………ふむ、流石は丁建陽だな」

 

 

と胸の前で腕を組み、微笑する。

 

これには先に来ていた他の将は唖然とし、

直ぐに冷汗を一気にかいた。

 

それもそのはず。

今の皇甫嵩の発言で、

立場が無くなったのは自分たちになったのだから。

 

 

「…おい、お前たち」

 

 

皇甫嵩の言葉にビクッと驚く新米の将たち。

皇甫嵩はさっきの微笑から一変、

 

 

「お前たちの無理な強行で率いてきた兵士全員の装備を一人で直ぐに磨き拭き上げろ。終わるまで洛陽に帰る事を許さん」

 

 

冷たい表情で新米の将たちに一喝、罰を与える。

これに新米の将たちは勿論何も言わず、

ただただ黙っていた。

 

皇甫嵩は顔を朱椰たちの方へ戻すと、

穏やかな表情に戻し二人に労いの言葉を掛ける。

 

 

「二人とも御苦労。私たちはお前たちの様な将たちを待っていたんだ。今後もその才を遺憾無く発揮し、漢を導いてくれ」

 

 

 

皇甫嵩はそう言うとスッと朱椰に手を差し延べる。

 

朱椰はニッと笑って皇甫嵩の手を握り、

そして董卓の顔を見て口を開いた。

 

 

「こんな可愛い子が漢の将なら、導く前に勝手に男たちが漢の為に粉骨砕身で働きますよ」

 

 

「…っ!?」

 

 

朱椰の言葉に、

顔を赤くする董卓。

 

一方、皇甫嵩は朱椰の言葉に一瞬ポカンとなってしまうが、

直ぐに呆れた様に目をつぶってフッと苦笑すると、

 

 

「…丁建陽、それは私や朱公偉、廬子幹は可愛いくない…もう歳だ、と遠回しに言っているのか?」

 

 

と、目を開いて意地悪そうに朱椰に言う。

皇甫嵩の言葉に朱椰はハハハと頭をかきながら笑うのだった。

 

その光景を目に光を宿しながら、

尊敬の意を込めながら見つめる董卓。

 

その日の訓練はこれで終了し、

朱椰と董卓は兵士たちの鎧を拭く新米の将たちを横目に見ながら、洛陽に帰還する。

その帰路、互いに心を開いた朱椰と董卓は話を途切れさせる事なく続け、

それ以降二人は互い真名で呼び合う仲になっていた。

 

朱椰と董卓の二人は、

仕事が無い時は洛陽の城下街で会い親交を深め、

訓練の際は二人で組み共に切磋琢磨していく。

 

 

それから二年の月日が経ち…

 

 

「丁建陽、董仲穎」

 

 

「ハッ!!」

 

 

「はいっ」

 

 

朱椰と董卓は漢の皇帝・劉宏の前にいた。

 

二人の今までの成果が評価され、

太守就任を命じられたのである。

 

 

「丁建陽、そなたには并州・上党城の太守を命じる。董仲穎、そなたには涼州・天水城の太守を命じる。今後も朕に尽力せよ」

 

 

劉宏は玉座に踏ん反り返りながら座り、

満足そうな顔をして言うと、

朱椰と董卓は拝跪してそれに応えた。

 

そして、

二人はそのまま一礼して玉座の間から立ち去ると、

 

 

「「ふぅ~…」」

 

 

疲労を取る様に同時に息を吐き出す。

 

その行動に二人はハッと気付いて顔を見合わすと、

笑みが零れた。

 

 

「いやぁ~…何か、太守就任のどうこうじゃなくて、皇帝の体型で頭がいっぱいだったわ」

 

 

「しゅ、朱椰ちゃんっ!?駄目だよ、そんな事言っちゃ!!」

 

 

歩き始めながら皇帝・劉宏の容姿を思い出し笑う朱椰に、

董卓はバッと慌てて辺りを見回し朱椰を後ろから追いかける。

 

漢皇帝・劉宏は肥満体型で、

見るからに裕福な生活をしているのだと判断出来た。

朱椰の笑いは、

漢の行く末を見抜いた上での笑いでもあったのだ。

 

 

「…月っ」

 

 

「えっ?」

 

 

突然歩みを止め、

前を向いたまま董卓に呼び掛ける朱椰。

董卓もゆっくりとその歩く速度を落とし、

立ち止まって朱椰に尋ねた。

 

朱椰はバッと振り返ると満面の笑みを作ってみせ、

 

 

「これから暫く会えないと思うけど、お互い赴任先で立派に勤めを果たそう。“漢の為”、“自分の為”じゃない。“民の為”に。約束よ?」

 

 

董卓に手を差し延べる。

これに対して、董卓は意外にも躊躇してしまう。

 

 

「…出来るかな、私に。朱椰ちゃんといつも一緒にやれたから、今まで頑張れた。けど…」

 

 

董卓は悲しげな表情で朱椰を見つめる。

 

だが、朱椰はそんな董卓に歩み寄ると、

その額をツンと軽く突く。

額を突かれ、戸惑いの表情を朱椰に見せる董卓。

 

それを確認した朱椰は大きく溜息をつくと、

董卓の頭を撫でながら口を開いた。

 

 

「私が居なくても、月には頼りになる親友が居るんでしょ?」

 

 

朱椰のその言葉に、

董卓は脳裏に朱椰以上の親友である少女の姿を映し出す。

 

その董卓の表情を見て悟った朱椰はそれ以上何も言わず、

笑みを浮かべた。

 

そして、

 

 

「朱椰ちゃん、私、絶対約束守るよ!!だから、遠くからでも良いから、お、応援…してほしいな」

 

 

董卓は朱椰の手を両手でしっかり握って、約束を誓う。

最後に彼女らしい願いを含めて。

 

董卓の言葉に朱椰は、

 

 

「当たり前じゃない。親友の応援をしないなんて罰当たりよ」

 

 

と言って董卓を強く抱きしめ、

そのまま左右に振るのであった。

 

 

 

 

 

「…それから、上党に赴任して二年ぐらいで黄巾の乱が勃発したのよ」

 

 

甲板から黄河を眺め、

昔話を終わらせる朱椰。

 

呂布は朱椰の話を聞き終えると、

同じく黄河を見つめ、

 

 

「…三、四年ぶりに会う、という事か」

 

 

風を体に受けながら、

朱椰に言う。

 

 

「えぇ、洛陽に居るのが本当に月だったらね…」

 

 

朱椰は呂布の言葉に苦笑する。

そんな朱椰を呂布は優しく抱きしめ、

 

 

「…親友なのだろう?信じろ」

 

 

髪を撫で、

安心させる様に優しく言う。

 

朱椰は何も言わず、

呂布の言葉に笑みを浮かべ頷くのだった。

 


 
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