No.846615

義輝記 星霜の章 その四十

いたさん

義輝記の続編です。 説明文を若干変更しました。

2016-05-08 11:08:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1215   閲覧ユーザー数:1137

【 雪蓮の葛藤 の件 】

 

〖 司州 河南尹 鶏洛山付近 孫策陣営 にて〗

 

 

雪蓮は、前面に一人だけ飛び出し、剣を振り上げ斬撃を放つ。

 

ーー

 

雪蓮「このぉっ! いい加減に──死になさい!!」

 

─────ザシュ!!

 

白装束「────!!」ガクッ

 

白装束「………………!?」バタッ

 

白装束「~~~~!」ドサリ

 

 

雪蓮「……………ふん!」

 

ーー

 

その剣技は、舞を舞うかの如く優雅であるが、一撃必殺の威力を刃に宿す。

 

表情が窺えない白装束の兵士は、雪蓮を囲み無数に蠢くのだが、その卓越した剣技の前に為す術もなく何人かが倒れた。 人後に落ちない腕前を持つ、雪蓮だからこその活躍。 

 

しかし、その素晴らしき剣技が──逆に災いを為した。

 

ーー

 

白装束「────」……ジリ

 

白装束「────」ジリジリ

 

雪蓮「………………くっ!」

 

ーー

 

敵が弱いと感じ、思わず深入りしたのが不味かった。 

 

包囲網は先程よりも何重にも厚く囲まれている。 いつの間にか、味方より遠く離れた場所へと誘い込まれ、脱出不可能な構えを敷かれているのだ。

 

白装束の動きからして、罠に嵌める為に動いた訳では無い。 もし、悪意ある罠なら雪蓮の勘が働き、直ぐにでも見破れるのだが……今回、偶々白装束側に有利な態勢が取れたようである。 

 

だが、雪蓮にとっては──非常に不味い状態!

 

白装束は包囲網の圧力を高め、雪蓮を討ち取ろうと包囲を縮めた。 

 

ーー

 

冥琳「孫呉の兵士達よ、我らの王を討たすな! 隊列を整え一斉に押し返せぇ! 我らの熱き戦い振りを思い知らせるのだ!!」

 

「「「 うおぉおおおお───っ!! 」」」

 

白装束「─────!?!?」

 

ーー

 

有能な軍師であり、断金の交わりを結ぶ友である冥琳は、状況を冷静に把握して雪蓮救出を思案、効果的な兵の運用を行い反撃を命じる。 槍を持つ兵達を横に並べ、一斉に前方の敵に向かい突撃を繰り出したのだ。

 

その攻撃により敵が怯み、隙が生じる。 包囲網の一角が崩れると、その様子を見計らい、雪蓮が素早く自軍へと戻った。 

 

悔しげな様子を見せる雪蓮に、冥琳が苛立った様子で駆け寄った。

 

ーー

 

冥琳「雪蓮、隊を乱すな! 一人だけの蛮勇で、この戦いでの勝利は掴めんのだぞ!? 皆の力を集結しなければ──」

 

雪蓮「───そんな事、十分わかってる!!」

 

冥琳「……………………雪蓮」

 

雪蓮「だけど、だけどねぇ! それ以上の働きを……颯馬が示してくれたのよ! 大陸の人間でも無いのに──あんなに自分を傷付けて、命まで懸けてくれたなのに……私は……彼の為に何が出来たというの!?」

 

ーー

 

天城颯馬──かの軍師の采配と知謀は、友の命を病から救い出し、赤壁で国を護り、未曾有の危機を阻止するべく、文字通り命を賭して立ちはだかった。

 

彼を慕う仲間達も、当然の如く従い力を貸してくれている。

 

それなのに、自分は何をした? 何を行った?

 

───天城颯馬の指示に従い、ただ動いただけなのか? 

 

天城颯馬の復活は、多くの将兵に希望をもたらした。 

 

だが、同時に颯馬の傍に有りたいと願う者にとっては………安心すると共に不安であり我慢できない葛藤に悩まされる。 

 

天城颯馬の傍らに並ぶ資格が───自分に有るのかどうかと。

 

ーー

 

冥琳「………お前の言いたい事も分からない訳ではない。 だが、よく考えてみろ。 あの颯馬が、自分の命を蔑ろにしてまで尽くして………喜ぶ男だと思うか? 光秀殿や仲間達を……あんなに大切に男がだぞ?」

 

雪蓮「だから、私は───」

 

冥琳「将には己のする役目がある。 颯馬が大陸に訪れ、身命を賭して戦うのも……彼奴に成すだけの力があるからだ」

 

雪蓮「………………そうよね……」 

 

冥琳「だが、私達の傍には、孫家を信じ忠義を尽くそうとしてくれる者達が居るのだぞ? 颯馬ではなく、お前の為に戦うと決意した将兵が居る。 その者を率いて目の前の敵を確実に倒す。 それが役目だと私は思うのだ!」

 

ーー

 

冥琳は、手持ちの兵で槍衾を構えさせ、眼前の敵を食い止めるように指示。 防御に専念させれば、此方に攻め寄せて来るのは難しい筈だ。 そのような余裕が持てるのは、左右の前方で暴れる姫武将の御蔭。

 

雪蓮は、前方の戦い振りを見て───嘆息を漏らす。

 

ーー

 

雪蓮「…………うん、ごめん……冥琳」

 

冥琳「………わかってくれればいい。 今も本多殿や山中殿が奮戦してくれている御蔭で、何とか戦線を維持できている。 ここで、雪蓮に倒れられては、颯馬の努力が無駄になる。 戦況が完全に覆った時まで辛抱だ!」

 

ーー

 

そう言って雪蓮達は、前方の様子を眺めた。

 

ここよりも遥かに多い白装束が雲霞の如く押し寄せる。 百も千にも見える敵兵が雪蓮達の陣営を呑み込もうと迫り来る。 他の陣営と比べ将の数が圧倒的に少ない為、この場所より包囲網を破るつもりで押し寄せたのだ。

 

だが、そこには颯馬より頼まれ援軍に馳せ参じた、鹿介と忠勝が阻む。

 

ーー

 

鹿介「………某が居る限り、此処は通れぬと知るがいい!」

 

忠勝「───いざ! 掛かって参れぇ!!」

 

白装束「「「────!」」」

 

ーー

 

白装束は一斉に飛び掛かり、邪魔な将を排除しようと試みる。 されど、二人とも日ノ本での千軍万馬の猛者。 直ぐ様、排除されて動けなくなる。

 

ーー

 

鹿介「えいっ! たあっ!!」

 

忠勝「でりゃあああっ!!」

 

ーー

 

ある者は袈裟斬りに断ち切られて地面に倒れ、またある者は付近に居た仲間と共に複数纏めて弾き飛ばされた。 二つの大小連なる暴風が、近寄る敵を鎧袖一触で葬り去って行く。 

 

ーー

 

鹿介「正しく七難八苦、某が望んだ事が叶ったか! されど、天よ! 三日月よ! どうか御照覧あれ! この山中鹿介、この難事を乗り越えて、更に勇躍する姿を見届けよ! 某は天城殿達と共に──必ず生き延びてみせる!!」

 

忠勝「あーっはっはっは! 久しく蜻蛉切りを振るう場所が無くて、困っていたのでござる! さぁあ、命が要らない者は掛かって来るが良かろう! 古今独歩の勇士と云われし忠勝の槍、存分に馳走してやるでござるよ!!」

 

ーー

 

この二人の奮戦により孫策軍は士気を高く上げる。 天の武人である二人の活躍は、間違いなく貢献しているのだが、雪蓮は頬を膨らませた後、冥琳に軽く文句を吐く。 

 

ーー

 

雪蓮「もう──だいたいねぇ! 最前線で活躍する二人が凄いから………少し焦っちゃたの! 私だって武に関してだけは自信あったのにぃ!!」

 

冥琳「それは、私だって同じだ。 颯馬といい、松永といい……あの神謀鬼策の数々には、嫉妬を通り越して憧れしか抱けない。 全く、大した軍師だよ」

 

雪蓮「──ぶう! 少しは良いとこ見せて、颯馬の気を引こうと思っていたのにぃ! 出番、完全に取られちゃた!!」

 

冥琳「(…………何時もの様子に戻ったな、雪蓮………)」

 

ーー

 

しかし、雪蓮の顔は迷いを吹っ切れた笑顔になっている。 

 

冥琳は雪蓮の心が安定したのを見定めると、もう一度辺りを見渡して戦況を確認した。 兵の士気、損傷の大小、疲労の具合を見て、陣営を少し進める事を決断し、実質的な王である蓮華に伝令を送る。

 

戦機は熟したと──判断したからだった。

 

 

◆◇◆

 

 

【 出会いし者 の件 】

 

〖 河南尹 鶏洛山付近 にて〗

 

義清「邪魔だぁ! 其処を退けぇぇぇ!!」

 

白装束「───ガッ!?」

 

義清「あ、兄者は!? 天城颯馬の兄者は何処(いずこ)!!」

 

ーー

 

長槍を振り翳(かざ)し、白装束と対峙しては通り抜ける赤き甲冑の少女──『村上義清』

 

日ノ本が戦乱に明け暮れていた頃、彼女は甲斐国主『武田信玄』により故国を追われるも、越後国主『上杉謙信』の庇護下に入る。 

 

ーー

 

義清「ええい! 謙信殿より直接兄者の護衛を頼まれたのに、なんたる体たらく! 兄者を早う見付けなければぁ! 兄者! 義清が参ったのじゃ! いらっしゃれば返事をされよ!! 兄者ぁぁぁっ!!!」

 

ーー

 

武田家を駆逐し、故国への帰参の夢見ながら働いていたが、庇護下の謙信と仇である信玄の戦力は互角。 五度の直接対決でも勝敗が決まらない。 

 

この様子を見た義清は、自分の代で故国へ戻るのを諦め、最悪……越後で骨を埋める覚悟を定めた。 哀しいが……これも世の常だと感じながら。

 

だが、その願いは───唐突に叶えられる。

 

義清が信玄より故国を追われ僅か数ヵ月、西国を併呑し天下一統を目指す足利軍が、東国を狙い侵攻して来たのだ。 

 

足利家に仕える軍師の戦略で、先に上杉家、武田家に書状を送りを話し合いを提案。 上杉家は応じて義輝に出会い傘下に加えた。

 

しかし、武田家は話し合いに応じず、足利家は武力での屈服を企てる。 具体的には北陸、東海より武田家を圧迫。 武田に力を貸そうとする関東勢には、謀略を起こして混乱させ、武田家の孤立化を進める。 

 

そして、武田家が風前之灯となった時に……足利当主と軍師が躑躅が崎館に乗り込み、直談判で諭して下した結果である。

 

ーー

 

義清「退けぇ! 私の行く手を遮るな!」

 

白装束「───§*&※÷!!」

 

ーー

 

こうして、彼女の仕える上杉家も、宿敵が居る武田家も、戦に敗れて足利家の傘下に加わる事になり、義清も故国に戻る事が出来たのだ。 だが、その後の彼女の行動は予想外であった。

 

故国で次代の当主を決めると、足利軍の軍師に近侍。 さして間もない内に『兄者』と呼ぶほどの慕いぶりとなり、軍師を始め足利家の者は驚愕した。

 

ーー

 

義清「返事を! 返事をして下されぇ! 兄者ぁぁぁ!!」

 

長慶「───これは義清殿! このような場所で遭遇するとは!」

 

義清「長慶殿! 謙信殿より兄者の護衛を頼まれ向かうところじゃ! 何処に居るのか御存知なかろうか!?」

 

長慶「………本来なら戦場ゆえ、迂闊に所在を教える事など出来ない話だ。 義清殿を語る──敵の刺客の可能性もあるのだから……」

 

義清「……………た、確かに。 しかし、証明できる物など………この身一つだけ! これでは───」

 

長慶「ふっ、からかい過ぎたか。 義清殿、申し訳ない! 我が弟を心配される『妹殿』達て(たって)の希望だ。 だいたいの場所しか判らないが、教えて進ぜよう!」

 

義清「───えっ?」

 

長慶「颯馬の姉を称する私が、妹の判断を見誤ると思われると存じるのか? それに、弟ばかりを可愛がるのも華が無い。 新たにできた妹達を導くのも姉の役目。 義清殿、この先で姿を見掛けた──早く向かってくれ!!」

 

義清「あ、ありがとうなのじゃ! ちょ……長慶……『姉者』!」

 

長慶「………………ああ! 頼むぞ、『義清』!!」

 

ーー

 

始め、彼女は『天城颯馬』という人物に興味があった。

 

武田信玄による狡知に掛かり、故郷を逃れる事になったが、その信玄の知略さえも、足利家の軍師『天城颯馬』の前には歯が立たず、軍神と尊敬していた謙信でさえも簡単に丸め込まれたのだから。 

 

ーー

ーー

 

謙信『ふっ、丸め込まれた……と言うのは酷いな。 主筋である足利義輝公が、日ノ本を戦の無い国にと望まれる。 ならば《不肖、この上杉謙信! 義輝公の露払いをさせていただく所存!》……と誓うのは、当然だろう?』

 

信玄『あの様に力の差を見せたと思えば、将軍家直々に私への直談判。 それも……降服するように義輝公から頭を下げられたら……これ以上の抗いなど武田家の名に傷が付きます。 『窮鳥入懐の計』……しかも御家の当主を使うなど、なんと性悪な軍師か! 当時、そう思いましたが……』

 

謙信『結局、血は流されずに傘下と加えられたのだ………大人しく兜を脱ぐしかないぞ、信玄? まあ、私は進んで傘下に加わったのだ。 誰かと違って潔い良かったからな。 だからと言ってはなんだが……私の評価は颯馬の中で、かなり高いと見ているのだ!』

 

信玄『《情けは味方、仇は敵なり》……颯馬の働きで助かった武田家ですから、最後まで味方として犬馬の労を担うのは当然の事。 それに、改心して真面目な態度を取る方が、殿方の心へ強烈に響く物なのですよ?』

 

謙信『いぃ~や! 神仏に祈りを捧げ身も心も真っ白な女子こそ、颯馬は好みなのだ! ひねくれた姉より、私や素直な妹御の方を好いてくれる筈!!』

 

信玄『………どこぞのドヤ顔軍神より、私達の方が好まれているのが……未だに分からないようですね? 引き籠もりの世間知らずは、これだから困るのです!!』

 

『『 ───ふん!! 』』

 

ーー

ーー

 

───失礼しました。

 

何やら別の姫武将が割り込んで来たようで、『とある姫武将の妹』さんに来て頂き、引き取って貰いました。 御説教は確実なんですが、二人ともキチンと予防線を張っていたようですので、軽く一刻ぐらいで解放されるでしょう。

 

それでは………続きを。

 

ーー

 

義清「───今、謙信殿と信玄殿が………口論していた気配が? いやいや! そんな事より兄者の身を捜し出せねば! 兄者ぁ───っ!!!」

 

ーー

 

今の様子は、御覧のように兄として、愛しき殿方として慕っている。

 

最初は──颯馬と触れ合い、互いに教え、戦場で実力を認め合った仲だからこそ、義兄妹の契りを申込み許可され、兄者と呼べる事に満足していた。 

 

だが、颯馬と接する度に心が求める。 颯馬を兄では無く、愛しき異性として絆を結びたいと。 いつも颯馬の側で、楽しそうに頬笑む『明智光秀』の様になりたい───と。

 

その絆の強さは、光秀と比べても遜色は無かったのだが、颯馬としては義清を──『義妹』と見ているの違いだけ。 光秀の様に『妻』としては見てくれていない。 『大事な愛しき異性』として見てくれないのだ。

 

『何時か、自分も兄者の、天城颯馬の妻に──』

 

そう願いつつ、一生懸命自分の役割りも果たそうとする努力家。

 

これが、村上義清と名乗る少女………である。

 

ーー

 

義清「………いったい兄者は何処に──あ、あれは!?」

 

??「…………ぐぅぅ………よ、義清……殿か?」

 

義清「さ、左近殿! どうなされたのじゃ!?」

 

ーー

 

味方の陣を進んで行く途中、一人の姫武将が棒立ちで佇んでいる。 こんな戦場で、不自然な体勢。 義清は、注意深く構えながら相手の正面に廻り、顔を確認して見れば──元筒井家重臣『嶋 左近』──仲間だったのである。

 

 

◆◇◆

 

【 目指す場所 の件 】

 

〖 河南尹 鶏洛山付近 にて〗

 

 

左近「………やっと………身体が自由に動かせる! 恩に着るよ、義清殿!」

 

義清「左近殿の様な武人が………妖術に掛かるとは! いや、それより兄者を見て居ないか? 此方に居ると──長慶殿より話を聞いたのじゃ!」

 

ーー

 

左近は、左慈の妖術により金縛りにされていたのだが、義清が動かすと直ぐに動ける状態になった。 左慈だから術の掛かりが甘かったのか? ただ力が足りなくて術が完成していなかったのか? それは……判らない。

 

普通ならば、術の効果が効いているのに関わらず、相手を揺り動かしただけで術が解けるという事は、普通に考えてもあり得ないからだ。

 

ーー

 

左近「──義清殿、直ぐに向かうぞ! 理由は道中で話す! 早く行かないと颯馬の命が!!」

 

義清「な、なんじゃと!? 左近殿、案内を頼む!!」

 

左近「──ああ、こっちだ!」

 

ーー

 

左近は、義清を連れて颯馬の下へ向かった。 そして、理由も──義清に全てを語る。 

 

順慶を独断で連れて来た事。 

 

途中で左慈達に遭遇、順慶に力を戻され颯馬の奪回に向かった事。 

 

その際に術に掛けられ身動き出来なかった事。

 

ーー

 

義清「……………………」

 

左近「……謝っても、謝りきれない行動だと思う。 だが、私は………順慶殿の狂わんばかりの想いを………見過ごす事が出来なかったんだよ……」

 

義清「………うぅむ……何とも………」

 

左近「………皆にも事情を話、罰も受ける覚悟さ。 命を失う事になっても『左近殿!』──!?」

 

義清「………私としては………『羨ましい』……の一言しか言えぬ。 順慶殿の兄者を想う一途さ、その想いを出来る限り叶えようとする元臣下の左近殿。 私としては、無い物ばかり見せ付けられ………本当に羨ましいばかりじゃ!」

 

左近「…………ど、どう意味だ?」

 

ーー

 

思わず義清の顔を見れば、いつもの凛とした様子が見えず、顔が朱色に染まっている。 自分の独白により、批難されると身構えていた物が………まさか旧主に憧憬を抱いていたとは………夢にも思わず、走っていた動きが止まった。

 

義清は、固まる左近を慌てて走らせ、簡単に説明した。

 

自分が故国を追われる時は、そこまで心配してくれる臣下が居なかった事。

 

それに……『兄』と慕う人物を……好きになってしまい、今更ながら受け入れてくれるのか心配している事を。 

 

ーー

 

左近「………………………義清は、その素直さを持ったままで良い! 決して……順慶殿を手本なんかに………するなよ!?」ギロッ!

 

義清「…………わ、分かったのじゃ!」

 

ーー

 

義清にとって、積極的に好意を兄にぶつける順慶は、前から嫉妬の対象ではなく、敬う人物として認識していたようだと知り、唖然として直ぐに言葉が出ない。 語る義清は、順慶の一部を美化して捉えている為だからだ。

 

本来の順慶の性癖は──かなり重い。

 

例えば、颯馬の予定を予め調べあげ、部屋を留守にしている時は無法侵入。 部屋に入れば、その空気を胸一杯吸い込み、部屋に散らばる髪の毛の採集を丁寧に実行。 更に、屑入れの中からも探して拾うらしい。

 

順慶曰く──『宝物』だという。 

 

流石の左近も話を聞いた時は、背筋が寒かったが………こんな事は、驚くに値しないらしい。 一番の極めつけは──どうも同類に近い人物が足利家に居るらしく、稀に鉢合せする時があると言っていたが。

 

誰だかは聞いて居ないが……『親子で足利家に仕えているのよ?』と正体をばらすのは、それだけ自分の取分が減る事に、鬱憤を溜めていると見ている。

 

颯馬を想う輩は、皆……正攻法で立ち向かう訳では無い。 権謀術数を仕掛ける者も少ないという事だ。

 

だから、純真な義清を、順慶のような道に入らないように脅しをかけたのだが、些か退かれた様子に苦笑して、ちょっと戯れ言を呟く。

 

ーー

 

左近「…………端から見ると羨望(せんぼう)の的だが……それなりに苦労しているようだな。 ……………そうか」

 

義清「じゃが、兄者に危害を加える気があるのなら別じゃ! 早う行き、兄者を救おうぞ! 左近殿!!」

 

左近「───よしっ! 今度は不覚は取らないぜ! 本気で行かせて貰う!」

 

ーー

 

義清より促された左近は、己の使命を全うする為に気合いを入れる。 そして、二人は速度を上げて、颯馬達が居る場所を目指し猛進した。 

 

───その行き先には、明らかに異様な雰囲気を醸し出す場所があったのだ。

 

 

 


 
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