No.84565

おにむす!⑰

オリジナルの続き物
この時期に臓器移植ネタはやばいよなぁ

2009-07-15 21:19:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:911   閲覧ユーザー数:886

矢崎が意識を取り戻してから、秋穂は一向に姿を現さなかった。

自身の不覚を矢崎は悔やみ、秋穂に一言謝罪をしたかった。

(でも、あいつが平穏な生活を送るには俺みたいな奴は必要ないのかもな・・・)

怪我のせいか普段の矢崎からは考えられない思考が頭に浮かんだ。

「っくそ…、らしくない」

矢崎は頭を振ると窓の外に目をやる。

特になんて事のない風景が矢崎の心を落ち着かせた。

「俺も感傷的になったもんだ・・・」

 

程なくして、矢崎は退院した。

矢崎は秋穂の家を訪ねたが、家の中はもぬけのからだった。

「愛想つかされたかね…」

唯一の理解者が遠くに行ってしまった気がして、矢崎は少し沈んでいた。

「あの、矢崎雪春さんですか?」

不意に名前を呼ばれ、矢崎は咄嗟に振り向いた。

そこには初老の女性が立っていた。

「…俺になにか?」

少々訝しげに矢崎が尋ねる。

すると女性は一通の封筒を取り出した。

「私、ここの大家です。これを、小向さんから預かっています」

矢崎はそれを受けとり、女性に聞いた。

「あいつは、今どこに?」

愛想をつかされたとしても、一言しっかり別れを告げたい、そんな思いが矢崎をうごかしていた。

「ご存知ないのですか?」

「はい」

女性は顔をしかめると、重々しく口を開いた。

「小向さんは・・・、亡くなりました」

矢崎は後頭部を何かで殴られたような衝撃を感じた。

「どういうことですか!?」

「少し前に、すぐそこの通りで刺されているのが発見されたんです」

「な…」

矢崎の目の前が暗転した。

女性はまだ何事かしゃべっていたが、矢崎の耳には届いてなかった。

 

矢崎は秋穂と最後に会った喫茶店に来ていた。

湯気を立てるコーヒーを前に封筒の口を開いた。

中からは2人の写った写真と手紙が出てきた。

 

 

 

雪春、突然のことで多分驚かしちゃったかな?

これを読んでるころには私は多分いないだろうからさ。

私ね、あのストーカーに刺されてから考えたんだ。

今度は私が雪春を救ってあげようって、相談したかったけど雪春ずっと寝てたから。

怪我自体は大したことなかったんだ、本当だよ?

自分では気づいてないかも知れないけど、雪春の心臓が悪くなってるんだって。

だから、私の健康な心臓を雪春にあげることにしました。

もう気づいてるかな?

お医者さんには口止めしたんだけど、何も言わずにお別れは寂しいから。

私の貯金とか保険全部使っちゃった。

お葬式とかは無理かなぁ、でも雪春が私を忘れてくれなければそれでいいや(笑)

 

私ね、雪春と一緒で本当に楽しかったよ?

でも、あんな事があったら一緒にはいられないよ、お互いに引け目を感じちゃうし、雪春の心が囚われちゃうから。

だから私は1人で逝きます。

雪春は自分の道を進んでください。

あっ、でも人殺しはダメだよ?そんなことしたら心臓を止めちゃうんだから。

 

最後に

本当にありがとう

私は雪春を愛しています

 

 

 

最後の数行が滲んでいた、恐らく涙だろう。

滲んだ文字の上に更に涙が零れ落ち、もう読めなくなっていた。

矢崎は自身の胸に手を当て、顔を伏せた。

(俺と関わっちまったから…、お前を殺したのは俺だよ…)

写真に写った笑顔の2人を見つめ、矢崎は声を出さずに涙を流し続けた。

ちょうどそこで世界がブラックアウトしていった。

 

そして、再び目を開けると自分の娘が手を握り横で寝息を立てていた。

「…昔の夢を見るなんてな」


 
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