No.839782

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百五十話 謝りたい

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2016-03-29 19:03:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:9715   閲覧ユーザー数:9022

 バレンタインデー、ホワイトデーという世間が浮かれるイベント及び俺達1年生は参加しなかったが風芽丘の卒業式も終え、俺達在校生は数日後に待ち受ける3学期の終業式を残すのみだった。

 もうすぐ春休みという事で浮かれながら帰宅するクラスメイト達。

 俺も帰る準備をしていた時、俺の席の近くにまでやってきた謙介が突然訪ねてきたのだ。

 

 「なあ勇紀。小学校の同級生だった『平野君』って覚えてるかい?」

 

 「ん?ああ、覚えてるぞ。ケーキの、だろ?」

 

 俺が聞き返すと謙介は静かに首を縦に振った。

 

 「俺も覚えてるぜ!俺達同じクラスだったもんな!」

 

 「アイツん家のケーキ、美味かったよな!!」

 

 『HA☆HA☆HA!!』と笑いながら会話に加わってきたのは泰三と宮本。

 

 「別に平野君の家はケーキ屋って訳じゃねえよ」

 

 それ以前にお前等、俺達とは小学校違うじゃねえか。

 

 「俺も知らないな」

 

 「直博が知らないのも無理は無いよ。僕と勇紀は4年生もクラス一緒だったけど直博は違っただろ?」

 

 謙介の言う通り、直博は4年生の頃クラスが違ってたからここにいる面子で平野君の事を知ってるのは俺と謙介だけだ。

 

 「……それで、ソイツとケーキに一体何の関係があるのよ?」

 

 …飛鈴ちゃんや、アンタ何時の間に隣に?

 

 「何々?何の話ししてるのかしらん?」

 

 「ケーキがどうこうって聞こえたけど?」

 

 キリエやテレサ、他にも馴染みの面々が集まってくる。

 というか平野君の話題を突然出してきた謙介の意図が読めない。

 

 「僕と勇紀が小学校4年生の時、平野君っていうクラスメイトがいたんだよ」

 

 「本名は『平野コータ』君。ぽっちゃり体型の男子で大人しい奴だった」

 

 彼の家は両親が共働きにも関わらず他の一般家庭に比べて裕福とは言えなかったが、そんな逆境すら気にせず他人を顔芸でよく笑わせる様な奴だった。

 

 「ホント、授業中に顔芸された時はよく吹き出して僕は先生に怒られたものさ」

 

 あったあった。謙介だけじゃなく席が平野君の隣になった奴が顔芸の被害者なんだよな。しかも授業中コッソリ顔芸を披露されて吹き出した時、先生に注意されるのはコチラ側で平野君本人はマジメな顔して授業受けてる態度取るから怒られるのは俺達だけと言う理不尽さ。

 それでも何だか憎めない……そういうクラスメイトだったんだ。

 

 「でもそんな彼はある日、クラスの皆でお金を出し合って買ったケーキを勝手に食べちゃったんだよ」

 

 それ以降彼はクラスの皆から嫌われ、誰も彼に喋りかけたりしなくなったんだ。

 完全にガン無視……仲間外れにされクラスで孤立した。

 

 「俺はそれ程仲良くは無かったけど、あの時は流石に気の毒だったよな」

 

 時折話し掛けてはみたものの以前の様に会話は続かず、短く返事をして会話を終えさせられるんだ。

 

 「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」

 

 他の皆は黙って俺の言葉に耳を傾けていた。

 

 「…ていうか何で平野君の事を言い出したんだ?」

 

 俺は謙介にその意図を問いかけ…

 

 「実はさ…………あのケーキ食べたの、僕だったんだよね(・・・・・・・・)

 

 返ってきたのはとんでもない言葉だった。

 俺はしばらく思考が停止し

 

 「……………………は?」

 

 ようやく絞り出せたのはそんな短い言葉だった。

 ……聞き違いだよな?

 

 「俺は今『ケーキを食べたのは僕』って聞こえたんだが……」

 

 「聞き違いじゃないね。確かに言ったよ。ケーキを食べたのは僕だって」

 

 ケーキを食べたのは僕……ケーキを食べたのは僕……

 その一言がしばらくリフレインされ

 

 「はああぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

 教室中に響くほどの大声を上げてしまった。

 

 「「「「「「「「「「み、耳がああぁぁぁ……」」」」」」」」」」

 

 話を聞きに近寄ってきてた面々は被害を受けていた。

 他に教室に残っていたクラスメイトも『何事か?』と視線を向けて来るが

 

 「おま!!それマジで言ってんのか!?」

 

 そんな視線を気にはせず、俺は謙介の胸倉を掴んで確認していた。

 胸倉を掴まれてる謙介は無言のまま。

 

 「何とか言えって!!なぁ!!」

 

 俺の口調がやや強くなって問い詰めると

 

 「……う……うぅぅ……」

 

 謙介から嗚咽が漏れる。

 次の瞬間

 

 「謝りたいよぉ~。平野君に謝りたいよぉ~~」

 

 謙介の両目からはとめどなく涙が溢れ出してきた。

 

 「俺だって謝りたいわ!!お前が真実を暴露(ゲロ)っちまうまで平野君が犯人だと信じて疑わなかったんだぞ!!」

 

 今の今まで彼が犯人だと思ってた事は全くの筋違いだったって事じゃねーか!

 

 「って、いきなり叫ぶんじゃないわよ!!」

 

 飛鈴ちゃんの有無を言わせないパンチが飛んでくるが

 

 「何の!即席宝具『我を守護せし楯は謙介なり(ロー・アイアス)』!!」

 

 俺の眼前に胸倉を掴んでいた謙介を配置する。

 

 「ぐべらっ!!」

 

 これにより俺へのダメージは皆無。完璧な防御方法だと自画自賛出来るぜ。

 

 「ちょっと勇紀!僕を盾にするなんて酷くないかい!?」

 

 「や、『盾』じゃなくて『楯』だから」

 

 「どっちでも良いよ!!」

 

 「それに酷くは無いぞ。今のはお前がケーキを食った事に対する罰みたいなものだし」

 

 「それなら仕方ないか。僕が悪いんだし」

 

 「「「「「「「「「「あっさり納得した!?」」」」」」」」」」

 

 外野が声を揃えていた。

 

 「そんな事より俺はそのケーキ事件が気になってしょうがねえぜ」

 

 「謙介、この際だ。その一件について語ってくれや」

 

 泰三と宮本は事の発端が気になる様だ。

 

 「そうだね。語ろうじゃないか。平野君がクラスの嫌われ者になったその経緯を…」

 

 その経緯を作ったの、お前だけどな………。

 

 

 

 ~~回想シーン~~

 

 「杉村君杉村君」

 

 「???」

 

 授業中。

 僕は隣の席に座っているクラスメイトに呼ばれたので黒板に向いていた顔を隣に向けると

 

 「ぬふ~っ♪」

 

 隣のクラスメイト……平野コータ君はとんでもない顔芸で僕を待ち構えていた。

 

 「ぶふっ……あっはっはっはっは!!」

 

 そんな顔芸を見せられて僕は我慢出来る筈も無く、授業中であるにも関わらず大声を上げて笑っちゃったんだ。

 

 「ほぅ……授業中に笑い出すとは、そんなにこの授業は面白いのかな?ん~?」

 

 「はっはっは……はっ!?しまった!!」

 

 当然僕は先生に怒られ、隣の平野君は顔芸を止めて知らん顔だ。

 ぐぬぬ、と恨みがましい目で平野君を睨むものの、授業が終わるまで平野君が僕の方を向く事は無かった。

 授業が終わり休憩時間になって僕は隣の平野君に文句を言おうと思った。

 

 「ちょっと平野君!!」

 

 「ぬふ~っ♪」

 

 「ぶふぅっ!!」

 

 ひ、卑怯だぞ平野君。顔芸で待ち構えているなんて。

 僕はまたもや笑い出す羽目になってしまった。

 

 「頼むから授業中に顔芸は止めてくれたまえよ」

 

 「ゴメンよ杉村君、へへへ」

 

 一通り笑った後、注意するが彼自身は止める事は無いだろう。

 僕もそれは分かっているんだが一応言っておかないと気が済まない。

 

 「おい平野~。何か面白い顔芸やってくれよ~」

 

 僕が文句を言おうとしたら他のクラスメイトが彼の顔芸を所望し

 

 「良いよ~。……ぬふ~っ♪」

 

 「「「「「ぶふぅっ!!あっはっはっはっは!!」」」」」

 

 僕を含めてクラスメイト数人は大声を上げて笑う。

 だから反則……君の顔芸は反則だよ、ぷぷぷぷぷ………。

 それが彼、平野コータという人物だった………。

 

 

 

 そんな顔芸でクラスの人気者である平野君だがある日、彼がクラスの皆から嫌われる事件が発生する。

 そう……ケーキ事件である。

 その日、授業で僕達のクラスは校内の好きな場所から見える風景をスケッチブックに描くという内容だった。

 

 「長谷川ー、お前何描くか決めたかー?」

 

 「正門から見える校舎でも描こうかと思ってるけど」

 

 「俺は飼育小屋描くぜー」

 

 「俺は屋上から見える風景描く予定だ」

 

 「俺は空を描くぜ。見上げた先も立派な風景だしな」

 

 ……他のクラスメイト達は和気藹々と何を描くのか話している。

 

 「(メンドくさいなぁ。さっさと書いて教室戻ろ)」

 

 僕は校門の向こうに見える電柱を描いてさっさと教室に戻った。授業が始まってすぐに先生が

 

 『描き終えた人は一足先に教室に戻っても良いですよ』

 

 と言っていたからだ。

 スケッチブックに縦線2本引くだけだったので10秒にも満たない内に終わった。

 そして教室に戻ってくると

 

 「???」

 

 1人のクラスメイトの机の上には白い箱が置かれていた。

 普段なら特に気にする事なんて無いのだが

 

 「良い匂いがするなぁ」

 

 箱のフタが僅かに開いており、そこからは甘い匂いが漂ってきていた。

 

 「……………………」

 

 僕はキョロキョロと周囲を見渡し、人気も感じないのを確認してから机の上の箱に近寄り、ゆっくりとフタを開けた。

 中に入っていたのは

 

 「おぉ…ショートケーキ」

 

 クリームとイチゴがいかにも『美味しいよ』と言わんばかりの出来栄えのショートケーキが収められていた。

 一旦はこのフタを閉じ、自分の席に戻って

 

 「え~んえ~んえ~んえ~ん」

 

 何故ケーキがあるのかが分からない僕は混乱に極みに陥って泣いた。

 数分程泣いて落ち着いたが、未だ僕以外には誰も戻ってくる気配が無く、席に座って時間を潰していた。

 

 「……………………」

 

 しかし気になってしまう。箱の中のショートケーキという存在に。

 

 「……………………」

 

 何だか箱が僕にプレッシャーを与えてくる様な感覚。

 

 「……………………」

 

 無視無視、と思っていても気が付けばショートケーキの事を考えてしまうのだ。

 

 「……………………呼んだ?」

 

 遂には振り返って尋ねてしまう始末。

 

 「……って、ケーキが呼ぶわけ無いよねー」

 

 『だっはっは!』と笑い声を上げた後、更に数分後

 

 「……………………」

 

 僕は再びケーキの許にやってきた。

 

 「うう……ううぅぅぅ……」

 

 そして唸っていた。

 食いたい、目の前のケーキを食いたいという気持ちで僕の心中は埋め尽くされていた。

 そして箱ごと自分の席に持っていって………。

 

 

 

 ざわ…ざわ…

 

 「???」

 

 トイレで用を足した僕が教室に戻ってくると教室の中がざわついていた。

 

 「どうしたんだい?」

 

 「ケーキが誰かに食べられてるんだよ」

 

 すぐ近くにいた勇紀に僕は騒がしい理由を尋ねていた。

 

 「ひどーい!!折角皆でお金を出し合って買ったケーキなのに!!」

 

 「これじゃあSHRの時に誕生日のお祝い出来ないじゃん!!」

 

 机の上には箱のフタが開けられ、中を覗けば全体の3分の2近くが食い荒らされていたケーキの姿があった。

 そう言えば思い出した。ウチのクラスでは誕生日を迎えた子をSHRで祝うという決まり事を作り、今日がこのクラスで最初に誕生日を迎えた子を祝う予定だったんだ。

 その子の名は『工藤さん』って言って僕達男子みたいに元気で明るい女子だった。

 

 「平野!!お前が食ったんだろー!!」

 

 そこへクラスメイトの1人が問い詰めた。

 

 「ええ!?ち、違うよ、僕じゃないよ!!」

 

 「嘘吐くなよ!!じゃあ何でお前の席(・・・・)にケーキがあるんだよ!!」

 

 「し、知らないよー…」

 

 「お前、皆が絵を描いてる隙に教室に来てケーキ食ったんだろ!!!」

 

 「た、食べてないよぅ…」

 

 確かにケーキの箱は平野君の机の上に置かれていた。

 どうやら僕は自分の席ではなく、間違えて平野君の席に座って食べたみたいだった。

 そんな事実を知る由の無いクラスの皆は平野君を徹底的に批難した。

 それから時間は多少流れ、放課後…

 

 「き、きりーつ…」

 

 チャイムが鳴ったので今日の日直である勇紀が号令をかけるが先生は手を出してそれを制した。

 

 「本日の授業はもう終わりですが、このまま皆さんを帰す訳にはいきません。理由は分かりますね?」

 

 「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」

 

 誰もが口を閉ざしたまま視線を向けるのは教卓の上に置かれている、食い荒らされたケーキ。

 

 「このケーキを勝手に食べた子がちゃんと名乗り出てくるまで教室から出る事は許されないと思いなさい」

 

 言うまでもなく先生は怒っている。

 

 「(僕はケーキなんて食べていない。スポンジとクリームとイチゴは食べたけどケーキは食べていない食べていない食べていない…)」

 

 僕は必死に心の中で繰り返していた。『ケーキなんて食べていない』と。

 

 「はーい。私平野君が食べたと思いまーす」

 

 すると1人のクラスメイトが挙手して平野君を指した。

 

 「俺もそー思いまーす」

 

 「俺も俺もー!アイツん家ビンボーだしなー!!」

 

 クラスメイト達が次々と平野君を犯人だと言う。

 

 「び、貧乏は関係無いでしょ!!そんな事言うと先生怒りますよ!!!」

 

 「もう怒ってるじゃーん」

 

 その言葉で『あっはっは』とクラスに笑いが漏れる。

 しかしこのままじゃいつまで経っても帰らしてくれない。

 そんな時だった。

 

 「……僕が食べました」

 

 隣の席の平野君が立ち上がって『自分が犯人だ』と皆の前で言ったのだ。

 クラスが静寂に包まれる。

 何故平野君が犯人だと言ったのか。それは時計の針が15時30分を過ぎたのに気付いて納得した。

 平野君には幼稚園に通う妹がいるのだが両親が共働きである以上、毎日朝は幼稚園まで送り、学校が終わると妹を迎えに行って一緒に帰るのは彼の日課となっていた。

 僕も何度か放課後に付き合った事があるから、その辺りの事情は知っている。

 これ以上、学校に残らされると妹を迎えに行けなくなるからだ。

 だからこそ平野君はやってもいない罪を被り、先生に怒られた事でケーキ事件を終わらせたのだった………。

 

 

 

 それからというもの、彼はクラスメイトのほとんどからは嫌われ、距離を置かれる事になった。

 僕は普段と変わらない態度で沢山話し掛けたが、もう彼は顔芸をやる事も無く以前の明るさを表に出す事は無くなっていた。

 そんなケーキ事件が起きてから1ヶ月近く経ったある日…

 

 「えー前々から伝えていた通り、工藤さんと平野君が家庭の事情で引っ越すことになりました。皆さん、2人に別れの挨拶を済ませて下さい」

 

 教卓の前に立つ男子と女子。平野君と工藤さんが今日限りで皆とお別れだという事で皆が口々に別れを惜しむ……のだが、平野君の方に声を掛けるのはほとんどなく、皆工藤さんに挨拶を済ませていく。

 

 「工藤さん、元気でね」

 

 「うん、ありがとう」

 

 「新しい家の住所教えてね。絶対遊びに行くから!」

 

 「後で新しい住所メールで送るから。いつでも待ってるよ」

 

 「工藤、こんな時に言うのもアレだが俺、お前の事が好きだったんだ!//」

 

 「あー…ゴメンね。ボク、君の事友達としてしか思ってないから」

 

 …中には告白している男子達もいたけど、皆悉く撃沈。

 

 「平野君、身体には気を付けて頑張れよ」

 

 「ありがとう長谷川君」

 

 勇紀は平野君に別れの挨拶を済ませていた。今のところ平野君に挨拶してるのは勇紀だけ。

 これはいけない。平野君の親友でもある僕が彼に挨拶をしない訳にはいかないじゃないか!

 僕も平野君の前に立ち挨拶をする。

 

 「平野君、達者でね」

 

 「……………………」

 

 あれ?

 僕の声に平野君は反応せず、ジッと僕を見るだけだった。

 どうしたんだろうか?

 

 「平野君?」

 

 「とうとう……」

 

 「???」

 

 「とうとう最後まで言ってくれなかったね(・・・・・・・・・・・・・・)、杉村君」

 

 ピシッ!!

 

 空気が凍り、罅が入った様な音がした気がした。

 平野君が言った言葉に対し僕は

 

 「…………何が?」

 

 目を逸らし、そう言い返すのがやっとだった………。

 

 

 

 ~~回想シーン終了~~

 

 「……以上がケーキ事件の真相とその後の一幕って訳さ」

 

 「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」

 

 俺達は謙介が語る内容を静聴していた。

 で、

 

 「最低ね」

 

 「よくそんなので親友だなんて名乗れるよね」

 

 「平野君という方が可哀相です」

 

 飛鈴ちゃん、すずか、アミタを始めとして皆の謙介を見る目はどこまでも冷たいものだった。

 てか『最後まで言ってくれなかった』とか言われてる辺り、明らかにバレてるじゃん。謙介がケーキ食ったって事。

 

 「ケーキは美味かったか?」

 

 「凄く美味しかったよ」

 

 泰三はケーキの味について尋ね、ムカつく程の笑顔で謙介は答えていた。

 

 「謙介ぇ、実は俺がその平野君だったんだーーー!!!だから俺に謝れイヤオオオオおべらあっ!!!!?」

 

 「吼えるなら誰もいない場所で吼えなさいよ!!」

 

 宮本が馬鹿な事を言い、吠え始めた所でアリサの右ストレートが炸裂する。

 うむ、見惚れる程に綺麗な一撃だった。

 口から泡を吹いて倒れる宮本を無視して俺が謙介に問う。

 

 「…で?謝ると言っても肝心の平野君が何処に引っ越したのか知ってんのかお前」

 

 「知らない!」

 

 「胸張って言うな!!」

 

 「だから平野君を探してほしいんだ」

 

 「完璧に他力本願だなオイ!!!」

 

 謝る気あるならまず自分で探せや………。

 

 

 

 2日後…

 

 「平野君が見付かったって!!?」

 

 謙介の言葉に俺は頷く。

 結局、目の前の馬鹿の頼みを聞いた俺はバスカーピル武偵事務所に依頼し、平野君の居場所を特定して貰う様に依頼した。

 キンジさん達側からすれば、もう完全に高額報酬のお得意様となってしまっている俺である。

 仕事が無けりゃ儲けもないので、即依頼を受諾してくれ、昨日の夜に対象の人物を見付けたという報告があったのだ。

 仕事の腕は確かなものである。流石と言わざるを得ない。まさかこんなにも早く居場所を突き止めてくれるとは。

 

 「平野君は海鳴市の隣の市にある△▽高校に通ってるらしい」

 

 後は現地に赴けば良いのである。

 

 「△▽高校……そこ、サッカー部の練習試合で何度か行った事あるぞ」

 

 「マジかい!?」

 

 直博の発言に食い付いた謙介。

 

 「ああ、最寄りの駅から商店街を抜けて徒歩で10分ぐらいの場所にあるぞ」

 

 「分かった!ありがとう直博!!さあいくよ勇紀!いざ平野君の元へ!!」

 

 「その前にお前は俺に対して言うべき事があると申告するのですよ」

 

 学校の場所を教えてくれた直博には礼を言ったくせに、平野君の居所を教えた俺には一言も礼を言ってないんだぞ。それ、人としてどうよ?

 

 「そんな事は後回しだよ!!ホラいくよ!時間は有限なんだから!!」

 

 俺の手を引き、無理矢理に同行させる謙介。

 

 「面白そうだ。俺も着いて行くぜ」

 

 「俺もだ」

 

 泰三と宮本が着いて来る気満々であり

 

 「俺はいかんぞ。部活あるし」

 

 直博はそう言って鞄を持ち、教室を出て行った。

 

 「待て待て。まだ情報を全部言った訳じゃないんだが」

 

 「そんなのは移動中にも聞けるじゃないか」

 

 聞く耳持ちやしねぇ。

 俺はそんな馬鹿を見て大きく溜め息を吐かざるを得なかったのだった………。

 

 

 

 「……アレが平野君、なのかい?」

 

 「情報が確かなら……彼だな」

 

 「何だ、話と違って逞しそうじゃないか」

 

 「だな…………わっ、また唾を吐いた」

 

 俺、謙介、泰三、宮本は△▽高校…………ではなく、△▽高校近くのコンビニの駐車スペースにいるモヒカン頭の小集団……その中の1人に少し離れた街角から顔だけをひょっこりと覗かせ、様子を窺っていた。

 その中の1人……ヤンキー座りで片手の指にタバコを挟んでいるモヒカンのぽっちゃり男が謙介の謝りたい相手、平野君だと思われる。

 

 「人違い…じゃないかな?」

 

 「や、だから彼で間違い無いって」

 

 「た、確かに彼も太ってはいるが、昔の面影なんて微塵も無いじゃないか…」

 

 ガクガクと震えている謙介。

 明らかにビビってるね。

 ま、謝罪する相手がまさかの不良化。ビビるのも無理は無い。

 

 「何してんだよお前等。早く謝りに行って来いよ」

 

 「俺達はここでしっかりと見届けてやるからな」

 

 そうは言うけどコイツ等、俺と謙介に何かあったら間違い無く見捨てて逃げる気だ。

 

 「何だテメーラ?こそこそとしやがってよぉ」

 

 だが『逃げる』という選択肢も潰える事になる。

 背後から聞こえた第三者の声。

 振り返るとそこには細身のモヒカンがいたのだった。

 

 「「「「……………………」」」」

 

 明らかにあのモヒカン集団の仲間やーん。

 

 「おーい、オメーラ。ここにこそこそと隠れて様子うかがってるネズミ共がいやがんぞ」

 

 大声で駐車スペースにいる仲間を呼ぶモヒカン男。

 俺達は程無くしてモヒカンの小集団に囲まれる。

 

 「俺達に何か用かぁ?」

 

 「その制服、海鳴市の何とかって学校のじゃね?」

 

 「うほ♪マジかよ。ひょっとしてお前等お金持ちだったりする?」

 

 「だったらよぉ。俺達ビンボー人に少し恵んでくんね?」

 

 …ひょっとして聖祥の事か?俺達の高校を勘違いしてる?聖祥は高等部から男女別になるんだが…。

 ニタニタと笑みを浮かべて金を催促してくるモヒカン達に対し

 

 「「「……………………」」」

 

 すっかりビビりまくって声を出せない俺以外の3人。

 コイツ等の内心は某世紀末の世界でもう殺される寸前のモブキャラみたいな絶望感にでも満たされてるんじゃないだろうか?

 

 「(平野君らしき人物を含め12人のモヒカン…)」

 

 俺からすれば正直どうとでも出来る数だった。勿論純粋な身体能力だけで。

 けど謝罪すべき相手に対し、暴力を振るっても良いのだろうか?

 

 「オラ!出すもんさっさと出せよ!!」

 

 モヒカンの1人が鉄パイプを振るい、傍らの電柱にぶつけて恐喝してくる。

 

 「……あー、君平野君で間違い無い?」

 

 俺はそんなモヒカンを無視して平野君らしき人物に声を掛ける。

 

 「あ?誰だテメエ?」

 

 何て言葉遣いの悪い……。

 とりあえず気にしないで話しを進めよう。

 

 「俺の事覚えてないかな?小学校の時に同じクラスだった長谷川だけど」

 

 「長谷川ぁ~?」

 

 「で、ソイツが謙介。苗字は杉村だよ。あとの2人は…まあオマケかな」

 

 謙介達を指差す。

 

 「杉村ぁ?」

 

 平野君は首を傾げる。

 …本当に覚えてないのかなぁ。

 

 「実は今日コイツが平野君に謝罪したいって言ってたから一緒……というか無理矢理に連れてこられたんだけど…」

 

 視線をビビってる3人に向けると

 

 「おいおい君達ぃ~。俺達のマブダチのコータに何か謝らなきゃいけない事してくれちゃったのかぁ?」

 

 「だとしたら俺達はコータの代わりに君達にお説教しなくちゃいけなくなるよぉ」

 

 「そ-そー。俺等友達思いだからな。ギャハハハハ」

 

 「「「ひいっ!!」」」

 

 モヒカンの1人がポケットから取り出したナイフの腹でペチペチと謙介の頬を叩く。

 

 「おーおー思い出した思い出した。確かにいたわ。小学校の時にお前等と同じ苗字の奴が」

 

 平野君は思い出したようで手をポン、と叩き何度か頷いていた。

 

 「で、俺に謝る…ねぇ」

 

 平野君の視線も俺から謙介に向けられる。

 俺も視線で訴える。『早く謝れ』と。

 

 「ガチガチ……」

 

 しかしビビりまくってる謙介は歯を鳴らすだけで、言葉を発せずにいる。

 

 「どうした?俺に謝る事があるんだろ杉村ぁ」

 

 昔の様に君付けではなく呼び捨て。本当に変わってしまったね平野君。

 平野君が問いかけても中々堪えられずにいる謙介を見て業を煮やした平野君は

 

 「オラ!!言いたい事あるなら早く言えや!!!」

 

 胸倉を掴んでキレ気味に言った。

 

 「あああ、あのその!ケーキ事件の時罪を擦り付けてごごごご、ゴメンなさい!」

 

 「あ?」

 

 平野君は疑問符を浮かべる。

 ひょっとして忘れてるのか?あの事件の当事者なのに。

 

 「そそそ、その事をああああああ、謝りたくてててて……」

 

 「…………あーあーあー!あの時の一件な」

 

 少し時間を置いて平野君は思い出せたようだ。

 

 「そうかそうか。テメーはあの件の事を謝りに来たのか。殊勝じゃねえか」

 

 「???コータぁ、一体何の話しだよ?俺達にも教えてくれや」

 

 「教える程のものでもねーよ。……そーかそーか、あの件をな。別に俺ぁ許してやっても良いぜ」

 

 おお、許すのか平野君。

 そんな恰好(ナリ)してるから謙介をボコるかと思ってたよ俺は。

 

 「ただし慰謝(ワビ)料として50万持ってこい」

 

 …と思ったが平野君は現金を要求してきた。

 

 「へ?」

 

 突然の要求に謙介は間抜けな声を上げるだけだ。

 

 「へ?じゃねーよ。あの件を水に流してやるから50万作って持ってこいっつってんだよ。それで手打ちにしてやらぁ。期限は来週までな」

 

 「い、いやいや。50万なんて大金僕には用意出来ないよ」

 

 まあ、学生の身で50万って大金だよな。

 俺は一応管理局員な訳ですし、貰った給料の一部は日本の通貨に換金し、尚且つ無駄遣いはしないので蓄えはそこそこあるけど。

 キンジさん達への依頼に支払う時ぐらいかな?高額の出費は。

 

 「ああ゛?寝ぼけた事ほざいてんじゃねえぞコラ!!」

 

 「ひいいぃぃぃっっ!!!」

 

 胸倉を掴んでいた手を離し、睨みを利かせながらポケットから取り出したメリケンサックを装着する平野君。

 

 「コータの要求が聞けねえってんならコイツでテメエの頭をカチ割ってやんぞコラ!!」

 

 「「「ひいぃぃっ!!」」」

 

 他のモヒカンもバットやらチェーンやらナイフやらといった武器を持っていた。

 

 「う…うわああぁぁぁっっ!!!」

 

 「ぶげっ!!」

 

 しかし不良達に囲まれ恐怖が頂点に達した謙介はあろうことか学生カバンを平野君の顔面に投げつけた。

 

 「「「「「「「「「「コータ!!?」」」」」」」」」」

 

 「「わああぁぁぁっっ!!!!」」

 

 「「ぐばっ!!」」

 

 謙介の恐怖に触発されたのか、泰三と宮本も謙介と同様の行動をとり、身近にいたモヒカンの顔面にカバンを投げつけ

 

 「「「わああぁぁぁっっっ!!!」」」

 

 先制攻撃(?)された事に動揺した不良達の隙を見て包囲網を抜け、そのまま逃げ出した。

 ……俺を見捨てて。

 

 「や、やってくれやがったなアイツ等~」

 

 カバンをぶつけられた平野君も他2人のモヒカンも怒り心頭である。

 

 「オイコラ!!テメエの仲間がしでかした事のオトシマエはテメエの身体にしっかりと刻み込んでやるからなぁぁぁ!!!」

 

 「ついでにコータ達に振るわれた暴行に対する治療費として100万追加で請求すっからなオラァ!!」

 

 そして怒りの矛先は俺に向けられる。何とも理不尽な事か…。

 さて、どうしたもんか。

 向こうが仕掛けてきた場合反撃して返り討ちにしたら正当防衛は成立するだろうけど面倒な事になりそうだし。

 かと言って素直にボコられてやるつもりもないし…。

 激怒してる12人のモヒカンに囲まれてる中、冷静に思考していたら

 

 「お師さん、お師さんじゃないッスか!!」

 

 「ん?」

 

 誰かに呼ばれたので視線を声のした方向に移すと

 

 「お勤めご苦労様ですお師さん!」

 

 雄真君だった。

 

 「雄真君か。何でここにいんの?」

 

 「野暮用がありまして。お師さんこそこんな所で何を?」

 

 「や、彼等とちょっとね」

 

 そう言って雄真君は俺を取り囲んでいるモヒカン達に視線を移す。

 

 「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」

 

 対する平野君達は何故か固まっており、俺に向けていた怒気も失せていた。

 が、数秒の後

 

 「「「「「「「「「「お、お疲れ様です小日向さん!!!」」」」」」」」」」

 

 姿勢を正し、敬礼で雄真君に挨拶をしていた。

 

 「高校生が小学生に敬礼!?」

 

 まさかの対応で驚いちゃったよ!

 

 「???お前等誰だっけ?」

 

 対して雄真君はタメ口。

 

 「じ、自分達は以前の集いの際に、聖帝軍に入隊した新入りでして」

 

 「……おーおー、そういや以前の集いじゃ新入り達に自己紹介させたっけな」

 

 ふんふん、と頷き納得した様子の雄真君。

 話の内容から察すると彼等、もしかして海鳴聖帝軍なのか?

 

 「で、その新入り達が何故お師さんと?」

 

 「実はかくかくしかじかって訳で…」

 

 俺は雄真君に現状までの経緯を説明する。

 俺の説明を聞いていた雄真君は徐々にその表情を曇らせていき、全て聞き終えた後は

 

 「オイ、テメエ等…」

 

 「「「「「「「「「「ひっ!」」」」」」」」」」

 

 雄真君の発する声色は低いモノになっていた。

 雄真君は……物凄く怒っており、平野君達モヒカンの集団は小さく悲鳴を上げて雄真君に対して戦々恐々としていたのだ。

 傍から見たら小学生にビビりまくる不良達という構図なのだが、今の雄真君の気迫は小学生とは思えない程半端無い者だ。

 ビビるのも無理は無い。むしろ当然とも言える。

 流石サウザーに鍛えられてる海鳴聖帝軍の幹部を務めている1人だけの事はある。

 ちなみに俺が知る限り幹部格の人物は雄真くんとハチ君の2人だけであり、サウザー曰く今後の成長次第ではここにエリオ君も加わる予定らしい。

 

 「テメエ等の取り囲んでいるその御方こそ海鳴聖帝軍の頂点に立たれる偉大なるお師さん、長谷川勇紀様と知っての行為なんだろうな?あ?」

 

 雄真君の言葉を聞いて平野君達の表情が変わる。

 驚愕、それから顔を青褪めてガタガタと震え出していた。

 そして一斉に俺に謝り出す。

 

 「「「「「「「「「「し、失礼致しました!!偉大なるお師さんとは知らず!!!この無礼の極み、平にお許しいただけないでしょうか!!」

 

 「駄目だな。テメエ等は1人残らず俺が裁く。お師さんに手を出そうとした事自体許されざる罪なのだ」

 

 「「「「「「「「「「そ、そんな…」」」」」」」」」」

 

 俺が何か言う前に雄真君が口を開いた。

 判定は『断罪(ギルティ)』らしい。

 

 「行くぞ反逆者(ネズミ)共。それではお師さん、失礼します」

 

 平野君達は逃げる事無く素直に連行されて行った。多分逃げようにも雄真くんからは逃げられないのだろう。

 逃げ切ったとしても後日聖帝軍全員が動きそうだし、サウザーも参戦するだろうし。

 彼等の背中を見送り、しばらくしてから俺は気付いた。

 

 「……俺が命令して雄真君を止めれば良かったんじゃあ……」

 

 そう思うも全ては後の祭りである。

 

 「おお~い、勇紀~!!」

 

 遠くから俺の名を呼ぶ声が。

 

 「無事か~?」

 

 「助けに来たぞ~」

 

 ……そう言ってこちらに来るのは俺を見捨てて逃げ出した3人ではないか。

 

 「…よう、真っ先に逃げ出してくれた親友じゃないですか」

 

 「いやいやいや!!僕は逃げた訳じゃないよ!!味方を引き連れて戻ってきたんだ!!」

 

 味方?

 謙介達の来た方向を見ると向こうからお巡りさんが2人、やってくるではないか。

 

 「ここで不良に絡まれていたと彼等から聞いたのだが、不良は何処かね?」

 

 「…その不良達ならもうここから去って行きましたけど」

 

 正確には連行されて行った。小学生の少年にな。

 

 「勇紀、お前よく無事だったな」

 

 「まあな…」

 

 もし雄真君が来なければ今頃はこの場でバトってただろうけど。

 

 「何か持ち物を取られたりはしてないかね?」

 

 「ああ、大丈夫です」

 

 「怪我とかも無さそうなのは喜ばしい事だ。それで不良達は何処へ行ったか分かるかい?」

 

 「いえ、向こうの方へ行ったという事ぐらいしか」

 

 「そうか……君達に絡んだ不良達の特徴とかは?」

 

 「「「全員のヘアースタイルがモヒカンでした」」」

 

 うん。海鳴聖帝軍の下っ端を示す証明とも言える。

 

 「モヒカンか。分かったありがとう。君達はまた絡まれる可能性もあるのだから早く帰りなさい」

 

 言うだけ言ってお巡りさんたちは俺が指した方向へ走っていく。

 多分絡まれる事はもう無いと思うけど………。

 

 

 

 数日後……。

 

 『本日、海鳴市国守山の遊歩道脇に人間のものと思われる焼死体が複数人分発見されました。警察の調査では焼死体の数は12人分と思われ、現在は遺体の身元を調べている最中であり……』

 

 「物騒な事件ね」

 

 「国守山ってくーちゃんのいる神社とかさざなみ寮のある場所も含まれてたよね」

 

 「兄さんどーしよ?警察が捜査してる間はあそこの山で修行出来ひんよ」

 

 「だよなぁ」

 

 「ミッドに比べたら平和な日本でも安心できねーな」

 

 メガーヌさん、ルーテシア、ジーク、俺、アギトの順に口を開く。

 長谷川家のリビングにて夕食を食べ終えた俺達がテレビのニュース番組を観ていたら、こんな内容の事件が報道されたのだ。

 国守山って丸々槙原家の私有地だから耕介さんとか愛さんは今頃てんやわんやな状態じゃないかなぁ。

 リスティさんとか捜査担当になってそうだ。何せ2人の義娘だもん。

 

 「何らかの事件に巻き込まれたのか集団自殺なのか…」

 

 ジークが言った様にしばらくはあそこで修業出来なさそーじゃん。

 山の中で職質なんてされたら面倒極まりない。

 

 ピンポーン

 

 「んあ?」

 

 誰だよこんな時間に。

 ゴットバルト家か?フローリアン家か?

 そう思いながら玄関の扉を開けると

 

 「ヤッホー」

 

 「ちょっと良い?」

 

 そこに立っていたのは沙砂と明夏羽。妖さんであった。

 

 「何?何か用?」

 

 「しばらく私達を泊めて」

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 は?

 

 「スンマセン。もう一度仰って貰えません?」

 

 「私と沙砂をここに泊めて」

 

 ……聞き違いじゃなかった。

 

 「…………何で?」

 

 こんな突然に人ん家に泊まりに来たのか、その意図が読めん。

 

 「ニュース観てないの?焼死体がどうのってやつ」

 

 「ああ、そのニュースなら今観てたけど」

 

 「アノ事件ノせいデ、山に人ガ沢山やっテきちゃっテ沙砂も明夏羽も住み辛クなっちゃっタノ」

 

 「だから山から下りてきたんだけど、寝泊まりできる場所を探す必要が出てきてね」

 

 「……で、我が家がその対象に選ばれたと?」

 

 『そうよ』と明夏羽は頷いた。

 いやいや明夏羽さんや。それは早計というものでしょう。

 

 「さざなみ寮は?」

 

 あそこなら人外だろうと歓迎だし、俺のスーパー癒し兼君の友達の久遠もいるじゃん。

 

 「それは考えたわ。けど神咲の退魔師はともかく、鬼斬り役とは仲良く出来る自信が無いわね」

 

 ああ……確かに飛白さんと飛鈴ちゃんとは相性悪いかもね。

 那美さんや久遠が割って入るだろうから殺し合いにはならないだろうけど、険悪な雰囲気は消せ無さそうだ。

 

 「じゃあ優人ん家は?」

 

 あそこもさざなみ寮同様に妖と同居してる現状がありますよ?

 

 「さっきの理由と以下同文」

 

 野井原や静水久も優人が抑えてくれると思うけどなぁ。

 

 「で、消去法で残ったのがアンタん家って事。それともここじゃいけない理由あるの?何人か中にいるっぽいけど、その連中が妖嫌いとか」

 

 「そういう奴はいないなぁ」

 

 メガーヌさん、ルーテシア、ジーク、アギトは別に妖嫌いなんて事はない。

 レスティアも大丈夫。問題起こしそうなサウザーはいざとなればモンスターボールに入れたら良い。

 

 「じゃあ良いでしょ?人数の割には大きな家だから空き部屋位あるでしょ?」

 

 「あるけど俺としては我が身の危険を感じざるを得ない」

 

 血吸うために寝てる所を襲撃されそうで。

 ま、自衛出来る自信はあるからそう簡単に吸わせはしないけどな。

 

 「性的な意味でしか襲わないから安心しなさい」

 

 「安心出来ねーよ!?別の意味で我が身の危険だよ!!」

 

 何ちゅー事言い出すんだよコイツ!

 

 「何よ?そういうコト(・・・・・・)に興味ぐらいあるでしょ?何なら寝泊まりさせてくれる代価として私がヌく手伝いしてあげても良いわよ」

 

 あるよ。お年頃ですからそういうのには興味津々ですよ。

 俺は思わず明夏羽の全身に目をやった。

 …………うむ。

 明夏羽は美人だしスタイルも良い。

 そんな彼女が発散のお手伝いをしてくれるとか、魅惑的過ぎて実に抗いがたい提案だ。

 

 「ホラ、どうなの?挟んだり咥えたり、イロイロサービスしてあげるわよ」

 

 は、挟む!?咥える!?

 

 「……ゴクリ」

 

 平然とそんな事を言う明夏羽、恐ろしい妖だぜ。

 

 「それともアンタ、ペッタン専門?それと同性愛者(モーホ)だったりするの?」

 

 「そうナノ?なら沙砂ガお手伝いしなキャいけナイのカナ?」

 

 「俺は体型で好みを選んだりはしねえし、ノーマルだ!!」

 

 明夏羽の提案でイヤラシイ想像をし、理性がちょっぴり揺れたけど、余計な事言ったせいですぐに冷静に戻れた。

 とはいえペースは乱されっ放しだ。

 落ち着け。別に明夏羽と沙砂を寝泊まりさせる事自体はいけないという事は無い。

 

 「……家事の手伝いはして貰う。これは絶対条件」

 

 ルーテシアやジークも洗濯や掃除は時々で良いから手伝わせ、本人達も文句は言わず家事をしている。

 料理は俺かメガーヌさんが受け持ちだ。

 

 「沙砂頑張ルヨ」

 

 「……私、家事出来る自信無いから代わりにバイトで儲けたお金を入れるってのは有り?」

 

 「え?バイトしてんの?」

 

 「明夏羽は隣町のコンビニで働いてルヨ」

 

 マジか…全然知らんかったわ。

 コンビニのために隣町なんて行かないからなぁ。

 

 「私はどうでも良いけど、沙砂が街に出て食べ物を買うのにお金がいるもの」

 

 沙砂のためとかアンタ実は面倒見良いのですか?

 

 「別に良いでしょ。…で、どうなの?」

 

 「それなら家事免除を許しても良いかな」

 

 「そう。じゃあ最初の問題に戻るけど私達はここで寝泊まりしても良いの?」

 

 「……ご近所さんと問題とか起こさないでくれよ」

 

 もしとんでもない事しでかしたりしたら出て行ってもらう…。

 それも条件を加え、明夏羽も沙砂も首を縦に振って了承したのを確認して俺は家に上がらせる。

 こうして長谷川家に妖という住人が増えたのだった………。

 

 ~~あとがき~~

 

 今回登場した平野君の名前や容姿は某作品から借りましたが、『妹がいる』『貧乏』というのは当作品のオリジナル設定です。

 


 
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