No.837325

モテ子とモジョ子

初音軍さん

久しぶりの単発作品。少しでも楽しんでもらえれば幸いです。ちなみに百合です。

持手凛々(もちて・りり(モテ子)
長髪で金髪。ギャル風の一年の女子高生。ややだらしないように見えるが赤点補習とか
かっこわるいことはしたくないので意外と成績は普通。賑やかなのが好き。

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2016-03-14 18:01:06 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:442   閲覧ユーザー数:442

モテ子とモジョ子

 

 あるところに男女共に人気のあるギャルのような存在のモテ子と

クラスの陰に身を潜めて存在すら気付かせない暗い雰囲気のモジョ子がいました。

 

 そんな存在すらも希薄だった彼女にモテ子は気付いていました。

あまりに人に囲まれて疲れていたモテ子が逃げ出して人気の少ない場所に行った

あの日から。

 

 

**

 

「ねぇ、私と付き合ってくんない?」

「はい…?」

 

 人気のない場所で二人が出会ってからしばらくしてモテ子が初めて口にした言葉が

それだった。いきなりのことで何を言っているのかわからないって顔をしている

モジョ子はちょっと裏返るような声で返すと。

 

「え、だから。言葉通りの意味なんだけど」

「えぇ…接点もない私と貴女が?」

 

「そうそう」

「えと…買い物とかそういうのに付き合うのも…苦手なんだけど…」

 

「え、違う違う。恋人って方の意味だってば。常識に考えてそっちの方っしょ」

「は?」

 

 常識とは一体何なのか一瞬わからなくなったモジョ子。

困惑しつつも浮かんだことは。そう、それは何かの罰ゲームなんじゃないかとそう思った。

女同士で付き合うのをそれをモジョ子がちょっとでもいい反応を見せようとしたら

全員で陰湿にからかってくるようなイメージを彼女は持っていたのだ。

 

「ね、陰湿なのはよくないって…いくら私をいじめがいありそうだからって…」

「は? 何言ってんの?」

 

「だ、だって私に近づいてくる意味だってよくわかんないし…!」

 

 怖がって拒絶するように必死になってつい声が大きめに出てしまうモジョ子の口を

そっと抑えて顔を近づいてきた。

 

「しっ、静かにして。…違うってそうならこんなコソコソ来るわけないでしょ」

 

 そのまま小声で話し続けるモテ子。校舎の裏側に木々が密集している場所で

昼間でも薄暗い中で吐息が聞こえてくるほどの近距離でモジョ子の心臓がドクドクと

高鳴った。

 

「・・・」

「どうしたの?」

 

「何で私なの・・・?」

「ん、だってさ。だいぶ前だけど、私ここに駆け込んだ時あったじゃん」

 

「うん…」

 

 それはモジョ子もはっきりと覚えていた。いつものように木陰で涼んで気持ちよく

ウトウトとしていたら慌しく駆け込んできた女子が一人。それが学校の人気者である

モテ子で、その存在を知らない者などいないくらいの知名度だ。

 

 だからこそモジョ子の中で数少ない憩いの場に入ってこられるのは面白くなかった。

だから何も言わず、モジョ子はモジョ子のペースで過ごしていただけ。

ただそれだけの時間だった。少なくともモジョ子はそう認識していた。

 

 だが、モテ子は違っていた。

どこにいってもちやほやされていて静かに過ごせる場所がなかった。

普段はみんなと賑やかにするのは楽しいけど、一年中同じ気持ちなことなど

あるわけがない。たまには変化が必要な時もあった。

 

 それがモジョ子と一緒にいる時間だった。

みんなと一緒にいるような高揚感はないけれど、それとは別にそこには清涼感がある。

心地良い風、音。そして傍にいてくれている存在。

モテ子は少し照れながらも全てをモジョ子に話していた。

 

「だから、なんていうの。私がいても素でいてくれるアンタのことが気になったの」

「それでいきなり付き合って…なの?」

 

「だってぇ、それ以外出てくる言葉なんてなかったしぃ」

「はぁ…。わかったよ」

 

「じゃあ!」

 

 髪を弄りながら聞いているモテ子はモジョ子のわかったという言葉を勘違いして

大喜びしているモテ子に釘を刺すように言った。

 

「友達からね」

「え~…」

 

「当たり前でしょ。色々と段を飛ばしすぎ」

「お堅いな~…。わかったよ…。じゃあいつも私と一緒にいる友達とは違って

「裏友達」からってことでぇ…おねがいします~!」

 

「裏って…まぁ、いいけど」

 

 何とかしてそこまで話を持っていけたのはモテ子の魅力があってからなのか。

そこからはモテ子のペースで少しずつ二人でいる時間が増えていき、

いつしか二人の間には「友達」以上の関係を持つようになった。

 

 

**

 

 それから一年。二人は校舎裏に来て見上げてからモテ子が呟いた。

 

「ちょう懐かしい。ここで私たち友達になったよねぇ」

「たった一年だけどね」

 

「モジョ子は変わらないままだなぁ」

「モテ子もね」

 

 笑いながら二人の間で決めたあだ名で呼び合っていた。友達になって一月くらい

してから呼び名がないと不便ということになってお互いの特徴的な部分から

つけられたがモジョ子はやや不満そうだった。

 

 ひどい名前には違いないが元は実際の名前と現在の境遇からつけられたのだから

しっくりくる。しっくりしすぎて逆に嫌なのだろう。

 

「知らなかったなぁ、ここ桜の木だったんだ」

「まぁ、モテ子が来たのは時期がずれてたからね」

 

 モジョ子が微笑みながら言うと嬉しそうに微笑みながらモテ子はモジョ子の

髪を弄りながら前から思っていたことを呟くように言った。

 

「こんなに綺麗な髪してんのに、ぼっさぼさにして目隠して勿体ないなぁ」

「何言ってるのよ、急に」

 

「んー? ふつーにモジョ子が可愛いから言ってんの~」

「…可愛い子に言われても嫌味にしか聞こえませんが?」

 

「そういうの捻くれてるっていうの」

「ちょっ・・・!」

 

 そう言って急にモジョ子の前髪を横に分けて顔を覗き込むモテ子。

ちょっと気恥ずかしくなってお互いの顔が少し赤くなる。

 

「ほら、かわいい顔してる。これで喪女って言われるのは勿体無いよ」

「モテ子も同意してたじゃん!」

 

「一度化粧して整えるだけでもだいぶ違うんだけど。今度ウチに来ない?」

「ま、まぁ・・・いいけど・・・」

 

「でも帰る時は元に戻すからね」

「どうして?」

 

「私のモジョ子が他の男や女にモテるようになると困るから」

「よく恥ずかしげもなく言えるよね、そういうの」

 

「だって言わないと相手に伝わらないじゃん。いいか悪いかは別として」

「はいはい、わかりましたよ」

 

 普通の子なら女としての嫉妬としてしか取れない言葉だけどモテ子はモジョ子に

対しては嫌がることをしないよう心がけ、周りに気付かれないように会いに来てくれる。

もし誰かに勘付かれてモジョ子との関係が明るみになればモジョ子の側にいられなく

なることはわかっていたから。

 

 だから、モテ子のモテると困る発言は普通にモジョ子との時間が取れなくなるのを

畏れているのだろう。それが本能で感じていて嫌がっていたのだ。

 

「モジョ子は私のだから!」

 

 そう言って嫌な気分だったのをモジョ子に抱きついて誤魔化そうとする

モテ子なのだった。

 

 

**

 

 モテ子の家にお呼ばれしたモジョ子は中に入るとさっそくとばかりにモテ子に

髪や顔を弄くられしばらく時間が経過して、終わった後モテ子は部屋にある

鏡を持ってきてモジョ子に見せた。

 

「どうよ~」

「化粧すると随分変わるもんだね」

 

 化粧したりお洒落したりするのは縁遠いと思っていただけに化粧して髪を弄って

もらったモジョ子は驚きながら鏡を見ていた。

 

「元がいいからね。光らすのは簡単だったよ」

「そういうのはいいから」

 

「本当だってのに、信じないんだから~」

 

 モジョ子の言葉にブーと少し口を膨らませながら不満そうに言いながらも

自分でやった力作に満足して、疲れたのかベッドの上に倒れるようにして

見上げていた。

 

「こういう時間も地味だけど幸せかなぁ」

「そう、それなら良かったわ」

 

「相変わらず私に対してはちょっとキツめなとこもそのままだし」

「嫌?」

 

「ううん、それがいい」

 

 モテ子は急に上半身を起こして笑いながらそう言った。そして手を伸ばしてきたのを

見てモジョ子がその手を取るとすごい力で引っ張られてバランス感覚を失ったモジョ子は

モテ子のいるベッドに引き寄せられるように乗っかった。

 

「いきなり何するの!?」

 

 びっくりしたとモテ子に抗議しようとした瞬間、モジョ子の唇に温かくて柔らかくて

湿っぽいものが触れていた。それはモテ子の艶のある唇だった。

 

 チュッ クチュッ…チュッ…

 

 モテ子は足りないものを補うために必死になって貪るようにモジョ子にキスをした。

モジョ子もモテ子の匂いにうっとりしながら抵抗せずにその気持ちいい時間を過ごす。

だけど、まだ新たな告白もないままこういうの続けていいのか、モジョ子の中で

モヤモヤが残っていた。

 

「ふぅ…」

「どうしたの、もしかして気持ちよくなかった!?」

 

 モジョ子の溜息にモテ子は心配そうに声をかけてきた。

 

「ううん、そうじゃなくて。こういう関係になってから告白ないなぁと思ってさ。

もうこういうの友達のすることじゃないよね」

「そうだね」

 

「そうだねって…」

「あっ、もしかしてまだ恋人同士じゃないって思ってた!?

私はてっきりもうわかっててやっているのかと思ってたよ」

 

 あははっ、と髪を軽く掻いて笑いながらも少し戸惑っていた表情をしていた。

そんなモテ子より更に不安そうにしているモジョ子を見てモテ子は出会った時みたいに

顔を覗き込むようにしてモジョ子に聞いた。

 

「ねぇ、モジョ子。私と付き合ってくんない?」

「くくっ、一言一句同じなんだね」

 

 しかも動きまで全く一緒。そんなモテ子を見て笑いながらも目からは涙が

溢れ出ていた。それはこれまでモジョ子が感じたことがないくらいの嬉し涙だった。

モジョ子の涙に驚いてそのままの体勢で慌てるモテ子。

 

「え、ダメ!?」

「ううん。すごく嬉しい」

 

 その後、少しだけ間を空けてからモジョ子はモテ子の耳元に答えを囁いた。

 

「いいよ」

 

 その返事に大喜びしたモテ子。それから二人は再び気持ちが高揚してベッドの上で

イチャイチャするのであった。時間が許すまでの間、ずっと、ずっと…。

 

 モテ子の人生の中で彼女と出会って一緒に過ごす時間が一番の癒しになっていた。

モジョ子も彼女と一緒にいることが一番刺激的で見ていた世界の色が増えていった。

お互いに足りないものを自然と補っていく全く違うタイプの人間同士でも

理想的なカップルとなったのだった。

 

お終い。

 


 
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