No.836974

孫権伝―24

ユウヤさん

気が付くと12,000字を超えていた。ま、そんな事は置いておくとして、遂に、やっと、汜水関終了です。ヒロインが増えてるように見えますが、気にしない。気にしないったら気にしない。

では本編どうぞ

あ、ぷちひめは今回は無しです。あとで単体で出します。

2016-03-12 22:44:52 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5622   閲覧ユーザー数:3846

 

 

 孫権伝第24話

 

 『孫権軍VS連合三軍』

 

 

 

 

 汜水関防衛線もそろそろいい感じに下味がしみ込んできたかなぁ?なんて思ったりし始めた頃、その情報は俺にかなりの疑念を抱かせることになっていた。

 

 一刀「兵糧が少なすぎる?」

 

 曹操軍と袁紹軍の兵糧庫のありかが判明し、それを潰しに行った蓮華と秋蘭から報告を聞いて、首をかしげてしまう俺。蓮華の話だと明らかに5万を数カ月養えれば良い方的な量しかなかったと言っていた。

 

 一刀「・・・これはやられたかなぁ?」

 

 そしてその推測が正しかった。数刻して明命が急いで合流して来たのだ。

 

 一刀「で?掴んだと思ったら、掴まされてたって奴?」

 

 明命「はい、申し訳ありません一刀様。それどころか蓮華様がこちらに居る事を知られてしまいました。曹操軍からの抗議文ですぐに私に疑いの目が掛かり、挙げ句に雪蓮様に追いかけまわされて、此処まで逃げて来ました。」

 

 蓮華「ああ、それはお疲れ様としか言えないわね。姉さまの勘は明命の隠れた場所までおおよその位置が特定できるなんてイカサマ級の物だから・・・」

 

 明命「あうぅ・・・あれはもう獣の領域以前の問題だと思います。」

 

 一刀「ま、仕方ないか・・・それよりも兵糧の数が少ないのが問題だ。雛里はどう見る?」

 

 雛里「あわわ、理由として考えられるのは元々それしか持って来ていなかった事。ですがこれはあり得ないでしょう。数万を養える量を複数個所に置く事。これは兵糧を小分けにする事で、兵糧攻めに対して被害を抑える役割としては有効です。ですがこれも可能性は低い、もしくは理由の一つと考えられます。」

 

 一刀「で?一番の理由は?」

 

 雛里「わざと情報を各勢力に分散させて、内通者をあぶり出す算段だと考えられます。そこが一番の理由です。」

 

 一刀「内通者が居ればその情報がどの勢力から出たか分かる。居なくても兵糧の大量消費や、よからぬ事を考えていた輩の情報を抽出できる、か。」

 

 雛里「はい。ただ、それにしても数の少なさは目にあまります。」

 

 一刀「曹操はまだ、全部の兵を信用してないからそうしたんじゃないかな?兵士が確実に半分以上減ると見越しての数だとしたら・・・どうだ?」

 

 雛里「かなり乱暴なやり方だと思いますが、無い。とは言い切れませんね。」

 

 俺と雛里の考察に後押しが成されるように新たな情報が舞い込んできた。曹操の軍勢の規模が大きく減っているとの情報だった。

 

 一刀「兵糧の一部がやられたと言う事が兵の離反を許したか。彼女らしくないが・・・それでも気概が有る奴無い奴を振り分けるにはちょうどいい部隊だったと言う訳か。」

 

 雛里「こうなると後は一気に攻め込む事になると思いますが、どうしますか?ご主人様。」

 

 一刀「まだ、霞と華雄、賈詡の撤退が完了していない。虎牢関で呂布と合流後、馬騰軍に兵を預け、少数精鋭で柴桑に移動の手はずだから、移動開始までは時間を稼いでおきたい。まだしばらく籠城だな。」

 

 雛里「では、斥候と見張りを強化し、敵の動きに注視、順次迎撃に当たりましゅ。あぅ、最後に噛んじゃった・・・」

 

 最後の最後で台詞を噛んだ雛里の頭を撫でながらそれぞれの配置を決め、俺達は時間稼ぎを継続させた。

 

 

 

 

 明命が合流して数日が経ち、汜水関での時間稼ぎは十二分と判断して、華雄、霞、詠の三人とその部隊を撤収させている最中に伝令が火急の用件を伝えて来た。曰く、曹操軍の規模が一気に20万まで縮小しているとのことだ。さらに孫堅軍の3万、劉備軍の1万がこっちに向けて進軍中だとのことだ。

 

 一刀「・・・こいつはさらに一杯喰わされたか?」

 

 蓮華「どう言う事?」

 

 一刀「調べてみない事にはなんとも言えない。兵が居たのは確かなのに、ここにきて一気に兵が減ったのは理由がある。」

 

 雛里「ま、まさか妖術!?」

 

 一刀「じゃないな。彼女はそう言った事をしない。したがらない。とは言え・・・これは・・・」

 

 さすがに兵が減っている理由は皆目見当もつかない。そんなときにさらに伝令が一人駆けこんでくる。彼女が伝えて来たのは汜水関から離れていく、多くの農民風の人間達だと言う。

 

 一刀「な・・・まさか。」

 

 秋蘭「一刀?」

 

 雛里「ご主人様、これって・・・まさか。」

 

 一刀「ああ、やられたらしい。本当の兵は20万そこそこ、それ以外は・・・雇われ農民だったってわけだ。」

 

 秋蘭「な!?華琳様はそんな事を許されたと言うのか!?曹洪が居る以上そんな散財を許す筈が無い!!」

 

 一刀「その人がどう言う人か分からないけど・・・やると決めのなら彼女ならやるだろう?秋蘭。」

 

 秋蘭「・・・そうだな。それが効果的だと判断したのなら・・・あり得る。」

 

 そう、簡単な仕組みだ。兵糧は20万超の分を用意し、残り80万は周辺の農村や街で金で雇ったなんちゃって兵士、隊列をしっかり組んでるだけでいい、生きた案山子という事だ。

 

 一刀「こっちの撤退が知られて攻勢に出たんだ。急ぎ部隊を再編。全軍に通達だ!全部の旗を上げろ!!」

 

 各副長「「「「「御意!」」」」」

 

 一刀「蓮華、悪いが孫堅さん達を思春と抑えてくれ。それと・・・二人は“武器の使用を許可する”」

 

 蓮華「・・・いいのね?」

 

 思春「手加減は出来んぞ?」

 

 一刀「状況が状況だ。手加減したらこっちがやられる。悪いが・・・殺す気でやってくれ。“俺の為に”。」

 

 蓮華「ああ、良いだろう。一刀の為に。」

 

 思春「そんな事今さらだ。一刀の為なら蓮華様以外の孫家など根絶やしにしてくれる。」

 

 一刀「頼む。秋蘭は俺と曹操軍を迎え撃つ、流琉は秋蘭の補佐だ。明命は守将として汜水関で防衛指揮、雛里と風は補佐を頼む。馬は関で十分に休ませておくように。敵を引かせたら順次撤退を開始する。虎牢関で奴等のやる気を削いで始めて俺達の勝利だ。いいか?全将心してかかれ。」

 

 全員「「「「「応!」」」」」

 

 こうして汜水関防衛及び撤退戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 連合軍は汜水関まで残り1キロちょっとという所まで迫ってきていた。それでもこちらの準備は思いのほか早く整った。汜水関城壁には『孫』の牙門旗が靡き、その傍らに十文字と甘の旗、十文字の旗の傍に夏候、鳳、程、甘の旗の傍に周の旗が靡く。総兵力5万の軍勢は眼前に迫る25万近くの軍団とこれから籠城戦では無く、野戦をしかけようとしていた。

 

 一刀「止まったな。特に曹操軍の動揺が激しい。」

 

 秋蘭「当然だろう。私が生きていて、敵になっていると言う事は相手としては許しがたいことだろうからな。」

 

 目の前に広がる軍を改めて見渡してみる。劉、曹、孫。これだけ見れば絶望的な構成だ。その傍には夏候、曹が三つ、許、楽、李、于、荀、関、張、諸葛、孫、周、太子、黄の旗。うん。勝てるのこれ?

 

 秋蘭「一刀、気持ちは分かるが勝てなければお前の望みは叶わないぞ?」

 

 一刀「分かってるやい!ちょっと現実逃避したかっただけだい!」

 

 そんな駄々をこねてみるが、それを白けて見る皆の視線に俺の心が居た堪れない。俺の心よ頑張るのだ。ここが踏ん張りどころだ。

 

 一刀「さてと・・・それぞれ頑張って抑えろよ!特に曹操軍に注意だ!劉備軍?何それ美味しいの?孫堅軍は蓮華に丸投げだ!」

 

 秋蘭「言い方が問題あるが、それで行こうか・・・」

 

 一刀「全軍・・・生き延びるぞ!!」

 

 「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」

 

 そんなやる気が有るのか無いのか分からない大号令でも全員がそう言う物だと理解してるが故に大きな鬨を上げてそれぞれがそれぞれの戦場へと赴いて行った。

 

 

 

 

 混乱が収まった曹操軍はそのまま秋蘭を引き連れる俺の元に迫ってきていた。先陣は三羽烏。特に楽進の部隊の先行が目立つ。

 

 一刀「・・・全軍全力防御。相手が怯んだら躊躇うな。ヤレ。」

 

 「「「「「御意!」」」」」

 

 直後、けたたましい剣戟の音と同時に曹操軍の先陣の兵達があまりの堅さに二の足を踏んだ。直後北郷隊の面々はそのまま槍を突きだして、敵を貫いて行く。同時に駆けだしてその勢いのまま敵兵を轢き殺して行った。勿論それであぶれる敵兵も出てくるが、前後に分断されれば混乱するのは必定。それを後続の兵が完膚なきまでに殺し、踏みつぶす。

 

 一刀「ためらうな!あいつ等はお前らを殺そうと向かってくる獣だ!」

 

 俺はそう叫びながら敵兵を2人同時に突き殺し、薙ぎ払いで捨てる。その余波で体勢を崩した兵を払った槍を引き戻す勢いのまま側面で横殴りに頭を叩くと鈍い音を立ててその頭はひしゃげて地面へと叩きつけられた。一度攻勢に出た北郷隊は止まると言う事を知らない。問答無用に堅い盾を壁にして槍を突きだし、敵を轢き殺し、後続が残りを蹂躙する。人の形をした城壁が止まらず迫る様は迎え撃つ方からすれば二の足を踏むのに十分な圧力を醸し出す。それがエンドレスになれば良いのだが、それを止める輩が居た。

 

 楽進「猛虎蹴撃!!」

 

 そんな叫び声が響いたと思ったら北郷隊の盾の前で轟音が爆ぜた。まあ、そんなことで吹き飛ぶ若輩は北郷隊には居ないのだが、それでも理不尽な前進は止まざるを得なかった。

 

 楽進「そこまでだ!黒騎兵北郷!私と戦え!!」

 

 彼女はそう言って俺を名指ししてきた。正直出たくないが、俺は俺の野望の為に何を犠牲にしてでもやらなければならない。だから俺は黒耀の横腹を足で叩き、前へ出ろと促した。

 

 一刀「よもや馬上で戦うのが卑怯と言うまいな?」

 

 楽進「今さらだな。夏候淵様を妖術で操った卑怯者が!!」

 

 一刀「・・・こい。」

 

 俺は感情を押し殺し、促した。向かって来いと。

 

 そこからは氣弾と槍撃の応酬だった。勿論正式に名乗った一騎打ちではないので他の敵兵も隙あらば攻撃を仕掛けて来た。それでも黒耀はよく動き、敵を足蹴にしたり、踏みつぶしたりと活躍してくれた。しかしそれも終わりを告げようとしていた。

 

 李典「隙ありやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 黒耀の動きを見ながら隙を窺っていた李典が螺旋槍をぶん回しながら突っ込んできたのだ。

 

 さらに反対からは于禁も双剣を振り抜いて来ていた。一瞬の隙を突いた良い連携故に黒耀も成すすべなしと嘶いて前足を天高く上げ、俺を後ろに投げ飛ばすようにする。俺自身もそれが仕方ない事と考え、後ろへと飛び出した。直後に黒耀を貫き、切り裂いた二人は楽進の両脇に立って、臨戦態勢を整えた。同時に、俺の武具はこれまでの連戦に耐えかね、砕けて地面へとバラけてしまったのだ。

 

 楽進「馬も武具も無くなった貴様に勝ち目はない。大人しく投降しろ、さもなくば・・・」

 

 投降を促す彼女の言葉を俺は遮るように言い放つ。正直、黒耀をぶっ殺されてカチンときてるのに、その言葉はどうよ?あいつをただの馬扱いか?おうおう・・・上等だ。

 

 一刀「だまれ、三人がかりでなければ俺と相対出来ん奴等がほざくな。さっさと掛かって来い小娘共。」

 

 挑発し、煽り、敵の行動を制限する。無論、小娘は本心だ。今の俺からすれば記憶もなく、いまだかつての警邏隊の時のような連携も取れない三人など恐れるに値しない。

 

 楽進「ならば覚悟しろ!!」

 

 そう言って迫る三人に俺は時間を掛けて相手をする。俺が求めるのは彼女達三人じゃない。その後ろに居る、もう一つの夏候の旗の彼女だ。そしてそれは徐々に近づいて来ていた。

 

 一刀「そろそろ・・・か。」

 

 数十分受け流しながら于禁、李典と投げ飛ばして意識を刈り取って残るは楽進の身となる。

 

 楽進「く・・・つ、強い・・・」

 

 一刀「・・・さあ、選手交代だ、楽進。後ろの夏候惇に変わるんだ。」

 

 俺はそのまま後ろの夏候惇に視線を向けた。周囲の戦闘は大分納まってきていた。北郷隊が曹操軍を撃退し、方円陣で堅牢な人の城壁を完全に立て直していたからだ。一部の兵は関に向かっているが、秋蘭の訓練を受けている守兵は生半可な攻撃は片手間で片付けられる力量になっているのだ。護りの孫権軍とはよく言った物だ。

 

 楽進「しゅ、春蘭様。」

 

 夏候惇「よくやったぞ凪。今は下がるんだ。」

 

 楽進「く・・・申し訳ありません。」

 

 夏候惇「・・・北郷・・・だな?」

 

 一刀「ああ、孫権軍騎兵隊隊長兼警邏隊総隊長。黒騎兵、北郷だ。まあ、今はその由来となった愛馬も武具も無くなってしまったけどね。」

 

 夏候惇「曹孟徳様が家臣、夏候惇元譲だ。・・・妹は元気に、やっているようだな。」

 

 様子がおかしい。いつもの彼女らしくない。なんかこう・・・もやもやする。彼女らしくない。大事なことなので二回言いました。

 

 一刀「君は冷静だね?君の妹は君の敬愛する主を裏切ったんだよ?俺は彼女を裏切らせたんだ。怒ってないのかい?」

 

 夏候惇「怒りはあるさ。だが・・・そんな馬鹿をやる私はもうすでに居ない。ずっと・・・ずっと思っていた。私に考える頭が有れば・・・お前が居なくなる事は無かったのではないかとな。“一刀”。」

 

 一刀「!?・・・いつ?」

 

 春蘭「旗を見たときに・・・な。」

 

 一刀「だとしてもらしくないんじゃないかな?」

 

 春蘭「ふ、そこは秋蘭から聞いてないのか。」

 

 俺はそのまま秋蘭に視線を向けると、秋蘭はちょっとばかりイヤラシイ笑みを浮かべていた。黙って居やがったな?後でお仕置きしてやる。

 

 一刀「じゃあ、見逃して・・・」

 

 春蘭「やる訳が無かろう。貴様を倒し、秋蘭を華琳様の元に連れていく、その上で沙汰を貰う。お前の処遇含めてな。」

 

 一刀「そいつは・・・頂けないなぁ。秋蘭!!」

 

 俺はそのまま秋蘭に“ある物”を投げてもらった。例のアタッシュケースだ。それを受け取り、中から大剣を取り出し、秋蘭にまた投げ返した。

 

 一刀「さてと・・・この身はやれないが、君が勝ったらこの大剣をやるよ。」

 

 春蘭「七星餓狼か?」

 

 一刀「否。北星牙極(ほくせいがきょく)。俺が君達の為に作っている武具の一つ。」

 

 春蘭「・・・お前は何処に向かっているのだ?」

 

 一刀「・・・言うなよ。ちょっと自分でも悲しくなってくるぐらい色々出来すぎて困っているんだ。」

 

 張り詰めた空気がこの瞬間だけ和んだ気がするのは気のせいだと思う。いや、思いたい。

 

 一刀「ついでだし、虎牢関に一番乗りした“魏”の将が居たら報酬を与えようか?神王(こうおう)巌窟槍(がんくつそう)双天(そうてん)絶紅鎌(ぜつこうれん)などなど・・・」

 

 春蘭「いや待て待て待て!北郷?おかしくないか??お前は将なのだろう??鍛冶師なのか!?」

 

 一刀「・・・本当俺何処行こうとしてるんだろうな?」

 

 さすがの俺も口に出したら、なにやらおかしい事に薄々気が付き始めましたよ?

 

 春蘭「ふぅ・・・それを含めて捕らえる事にしよう。そうすれば自然と剣は私の物だ。」

 

 一刀「む、なら捕まらないように立ち回るとしますか。」

 

 そのまま俺は正眼の構えを取る。剣先を春蘭に向け大きく息を吸う。

 

 一刀「・・・いくぞ?」

 

 そのまま俺は春蘭に向かって走り出す。歩法を習得してても彼女達のように一気に間合いを詰める事は出来ないが、一般の兵よりは速度も出ていると思う。春蘭はそれに何なく反応し、同じように間合いを詰めて来た。彼女も正眼の構えで突っ込んできたのだ。

 

 一刀「――っ!?はぁぁぁ!!」

 

 春蘭「せぇい!!」

 

 ズガァァァン!!

 

 剣と剣がぶつかるような音では無い音が辺り一面に響いていた。つぅか手が痛い。腕がミシッていいましたが!?く、力押しで勝てるとか思ってはいないけどさぁ!それでも男としての意地ってもんが有るじゃん!鍔迫り合いってのはそう言うものだろう?諸君!

 

 一刀、春蘭「「―――っ!チェストーーーーーーーーー!!!!」」

 

 2人同時に叫んでいた。本来振り下ろしの時に言われる掛け声だが、これは気合を入れるのにも俺は用いている。つまりは・・・だ。二人ともそんな事をするもんだからこうなるわな・・・空と地面がグルグルと目まぐるしく移り変わる。

 

 一刀「が!ぎ!ぐ!!」

 

 たぶん4回ぐらい地面を跳ねたかな。そこから俺は“自分の部隊が有る方向に転がって行って停止した”。そのまま俺はゆっくりと立ち上がると声高らかに力を振り絞って叫んだ。

 

 一刀「見事だ“春蘭”!その大剣は約束通りくれてやる!だが、この身を捕らえるにはいささか足りないな!貴様の七星餓狼は使い物にはならんだろう!悪いが此処は引かせてもらうぞ!思う存分妹とその妹が率いる部隊に足止めされるがいい!!」

 

 そのまま俺は目配せで秋蘭に意思を伝えると、頷き返して応えてくれる。そのまま俺はゆっくりと傍に居た兵士にもたれかかった。

 

 一刀「・・・すまん・・・動けないから撤退急いで・・・」

 

 「は、はい!!おい、隊長を担いで撤退だ!!誰ひとり通すなよ!!」

 

 「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

 一刀「これで・・・あとは・・・」

 

 そこで俺の意識はゆっくりと深い闇に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 Side change 蓮華

 

 

 一刀のやる気の無い号令が発せられてからしばらくして、私達は母様の部隊とぶつかった。正直勝てると思わない。でも、今までの鍛錬の成果を試さなければ、やってみなければ分からないのだから。それに一刀は武器の使用を許可してくれた。それなら私にも出来る事はある。

 

 蓮華「思春、悪いのだけれど姉さまと祭を抑えてくれてもらっていい?」

 

 思春「雪蓮様と祭様ですか?そうすると梨晏もおまけで付いてきますね・・・まあ、大丈夫でしょう。私には“これ”が有りますから。複数相手では負けられません。」

 

 そう言って思春は腰に掛けた二つの剣の柄の片方にこつんと拳を当ててその存在を示した。

 

 蓮華「そうね。私のこの“刀”に賭けて負けるわけにはいかないわね。」

 

 そう、私と思春が一刀から送られた剣は私が“日本刀『天断蒼駆(てんだんそうく)』”で、思春が“干將(かんしょう)莫邪(ばくや)”だ。一刀曰く、私の日本刀は『蒼き天を駆け断ち切る』意味が込められてるらしい。私は空は走れないんだけれど?・・・そう言う意味じゃないことぐらい分かっているわよ。思春の武器は春秋時代の“あの”干將・莫邪では無いそうだ。形こそ似てるが、少し形状が違う。一刀曰く、『音叉剣』だそうだ。音叉とは何かは聞いてないが、一刀は何処か遠い目をしていた。ぼそりと『何で作っちゃったんだろう。どうして使いこなせちゃうんだろう』と言っていたが、気にしない。気にしたら一刀が傷付きそうだ。

 

 思春「来たようですね。往って参ります。」

 

 蓮華「ああ、武運を。」

 

 思春「はっ!」

 

 そのまま思春は乱戦のただ中に駆けて行った。さて、私もこの刀のように、駆けていかねばな。

 

 蓮華「往くぞ、“蒼駆(そうく)”。」

 

 私は自身の愛刀の愛称を呼びながら駆けだした。少し、刀が震えて応えてくれた気がした。

 

 それからすぐに敵集団と接敵した私達はそのまま敵兵を蹂躙し始めた。私の隊は歩兵強化型部隊。基本装備は青銅の鎧と一刀量産の鉄を使った大きめの四角盾に同じ鉄で作った穂先を使った槍だ。柄の材料はアスナロと言う樹木らしい。腐りにくく、頑丈なのが特徴なそうだ。

 

 蓮華「右翼押し込み過ぎだ!適度にあしらう程度にを心掛けろ!」

 

 孫堅「それはこちらを侮ってるのかい?蓮華。」

 

 蓮華「・・・ちっ。」

 

 孫堅「舌打ち!?しばらく見ない間に態度悪くなってないかい?蓮華。」

 

 蓮華「もう少しあしらわれてくれていても良かったんですよ?母様。」

 

 正直すぐに出てくるとは思わな・・・あれ?母様だし突っ込んでくるのはむしろ平常運転なのかしら?でもそれは姉さまな気がしなくも・・・・・・うん。母娘だから仕方ないわね。うん。

 

 孫堅「なんか失礼なことを考えてないかい?」

 

 蓮華「失礼だと思うならこんな無謀な突貫をしないでほしいんですが?」

 

 私の言葉にバツが悪いのか少し視線を外す母様に私はため息が出てしまう。

 

 蓮華「で、私と分かって出て来たんですよね?何ですか?拳骨でも叩き込んで引き摺ってでも連れ戻す気ですか?残念ですけどそれは絶対拒否させてもらいます。」

 

 孫堅「大分変ったね。そこまで我が儘を言えるぐらいに肩の力が抜けていると母親として喜ぶべきか、そのせいで謀反したと王として怒るべきか迷うわね。」

 

 蓮華「出来れば喜んで欲しいけれど・・・それは・・・」

 

 そのまま私は少し腰を落とし、蒼駆の柄に手を添える。

 

 蓮華「私の実力を見てもらってからの方がいいと思います。」

 

 孫堅「っ!?へぇ、出来るようになってると見て良いようだね。なら・・・見せてもらおうかね?」

 

 周囲の兵も一騎打ちの気配を察知し、私達を中心にザッと周囲を囲むように人の円形闘技場の完成させた。勿論戦闘は継続してるけれど、傍に出来るだけ寄らないようにしてくれているのはものすごい助かる。

 

 蓮華「では・・・“魅せて”差し上げます。」

 

 ドッ!という踏み込み音を残し私は母様に肉薄する。

 

 蓮華「疾っ!」

 

 ゴッ!と音と共に蒼駆の柄が南海覇王の鞘に当たる。いや、鞘で防がれた。まさか止められるとは思わなかった。

 

 孫堅「ふん!!」

 

 一瞬の思考停止の隙を突かれ拳を振り抜かれたけれど横に倒れ込むようにそれを私は回避する。さすがに姉さまが本気で逃げるあの拳骨は受けたくない。いや、剣戟も受けたくは無いのだけれど、あれは別の意味で本気で受けたくない。

 

 蓮華「ふぅぅ。」

 

 正直本気で勝てる気がしない。あれを止めるとかどうかしてる。一刀風に言えば母様マジ化け物。と、考えられるだけ私も余裕が有るのかしら?一刀の事を考えると力が湧いて来るのだからこれぐらいの思考脱線は許してほしい所。・・・何考えてるのよ私、自重自重・・・

 

 孫堅「考え事し過ぎだよ!!」

 

 蓮華「御忠告痛み入ります!!」

 

 南海覇王を抜き放った母様の斬撃を私はごく少数の動作で右に躱した。そのまま流れるように鞘ですね討ちをしかける。体が交差して抜ける瞬間に鞘をゴツンと当てるだけの何でもない一撃だ。意識せず、流れるように、動作に組み込みそれを攻撃と転ずる。さすがに防げなかったらしい。少し顔をしかめている。

 

 孫堅「厭らしい攻撃だね・・・」

 

 蓮華「褒め言葉です母様。私の動きに連動した攻撃、それを意識出来てないと言う事は私はそれを意識させないほどに自然な動きだったと言う事です。」

 

 孫堅「ちっ。厄介な戦い方を覚えたようだね。」

 

 その後も私はまともに剣を抜かずに回避と鞘と柄による攻撃で相手の体力を削ぐ作戦を続行。さすがの母様も足、腕などに痣を付けている。まあ、息は上がって無いからまだまだ余裕なんだろうけれど・・・本当に我が母ながら恐ろしいわ。

 

 孫堅「魅せるとかいいながら小細工ばかり・・・それが蓮華の得た物なのかい?それだったら失望なんだけどね。」

 

 さすがに攻めあぐねているのに苛立ちが有ったのか、私を挑発しだした母様。けれど・・・

 

 蓮華「母様?そんな事言って、私にまともな攻撃を当てられていないですよ?」

 

 孫堅「・・・」

 

 目に見えるように怒ってるのが分かる。母様は王だが、戦闘狂でもある。攻撃が当たらないと言うのは正しく気に入らない筈だ。

 

 蓮華「ま、母様の言う事ももっともですね。では・・・一つお魅せします。」

 

 さすがにこれ以上怒らせるのも悪い方向に往きかねない。ならば一つお披露目するのも悪くない。

 

 蓮華「蒼断天駆・・・駆け抜けるわよ。」

 

 孫堅「??――なっ!?」

 

 スザァァ・・・

 

 蓮華「・・・蒼華流星雨。」

 

 バキィィン。という音が戦場に響き、それと同時に母様の南海覇王は12個の破片に“切り裂かれた”。この技の名前は一刀が付けてくれた物だ。これを横から見た一刀はまるで蒼い華が流れるように横に降ってるようだな。と言って付けてくれた。これでも氣をあまり通してないので威力は低めだ。

 

 孫堅「なるほど・・・魅せてもらったよ蓮華。」

 

 蓮華「思春の方も終わるようですね。」

 

 孫堅「ん?思春と言うと雪蓮と当たってる筈だよね?まさか・・・勝てるとでも?」

 

 蓮華「勝てます。今の思春は、こと集団戦ならば・・・誰も寄せ付けないでしょう。」

 

 孫堅「本当かい?それは見てみたいが・・・仕方ないね。南海覇王が壊されるなんて思ってもみなかった。で、私を捕らえるのかい?」

 

 蓮華「退いてください。母様なんてとんでもない“地雷”臭のする捕虜なんて要りません。」

 

 孫堅「じらいの意味は分からないけれど、良い意味じゃないね?まったく、この娘は口が悪くなって・・・誰の影響だ?」

 

 蓮華「誰のって・・・//////だ、誰でもいいでしょ。」

 

 孫堅「男か。そいつは強いのか?」

 

 蓮華「な・・・なんでわか・・・つ、強くないわ。でも最初の頃の私よりは強かった。氣を使わない状態なら五分五分・・・かしら。」

 

 孫堅「そうか。後で会ってみたいね。」

 

 蓮華「きっと会えます。いつかきっと。でも・・・私は・・・」

 

 一刀は心に決めた人が居る。なら私は・・・思うだけでいい。勿論この気持ちはきっと抑えられなくなる。分かってる事だ。でも、それまで一刀の邪魔はしない。出来ない。愛してるから。大好きだから。彼のあの悲痛の顔を二度と見たくないから。私の心が壊れるその時まで、一刀の心を壊させる訳にはいかないのだ。

 

 蓮華「終わったようですね。母様。」

 

 孫堅「ん?」

 

 少し高い、耳鳴りがするような音が此処まで届いたと思ったら思春が居る方角で空間が歪んだ。味方の被害も結構出てるけど・・・皆耳を塞いで立ち止まってしまっている。あれ、すごく五月蠅いのよね。思春は何で平気なのか、何時か聞いてみましょう。

 

 孫堅「何が・・・起こったんだい?いや、それすらも後で知ればいい事か。しょうがないから退いてあげるよ。」

 

 蓮華「ありがとうございます、母様。それでは私はこれで。」

 

 そのまま私は思春の方に部隊を動かしながら思春と合流・・・したんだけど・・・思春?その小脇に抱えた見覚えのある私の愚姉にそっくりな人はなんなのかしら?

 

 思春「すみません蓮華様。さすがに撤退するには人質が必要な状況になりまして・・・」

 

 蓮華「どうすればそんな状況になるの!?」

 

 思春「一刀を愚弄しだしたので、ぶち切れてやりすぎて退くに引けない状況になってしまいました。後悔はしてません。反省はしています。」

 

 とんでもない事を言っちゃった!?一刀に影響受けすぎよ!私も人の事言えないけれども!!

 

 「申し上げます!北郷様、敵将夏候惇と一騎打ちの後敗北。撤退を開始しました!北郷様は重傷です!」

 

 二人「「な!?」」

 

 正直母様の次に地雷な姉様に構っていられない状況になってしまった。きっと一刀が無理をしたんだ。捕虜になっていないのがせめてもの救いかしら。治ったら説教確定よ。

 

 蓮華「思春。この戦線はもう十分よ。警戒しつつ汜水関に撤退するわ。正門前の劉備軍はぶっちゃけ面倒だから問答無用で蹴散らすから姉様をこっちに預けて道を開けて来て頂戴!」

 

 思春「御意!!」

 

 こうして私達は汜水関に撤退を完了させた。劉備軍?思春が音叉剣でボッコボコにしてやったけど何か?勿論殺してないわ。負傷者の治療で足止めされなさい劉備軍。

 

 

 

 

 Side change 一刀

 

 一刀「・・・ふぅ。」

 

 汜水関の医務室の天井を仰ぎながら俺は深いため息をついていた。それもそのはず。風と雛里に一刻ほど説教を受けて、治療中も明命の心配と悲しみの目で見続けられ、帰って来た蓮華に孫策さんが捕虜としている事を教えられながら、『怪我が治ったら思春と一緒にお説教ね?』と良い笑顔で私刑宣告。さらに柴桑に帰ったらその事を報告し、説教希望者を募るそうだ。泣きそうです。

 

 一刀「・・・ふぅ。」

 

 幸せはため息と共に逃げていく・・・そんな事を考えながらも二度目から三度目とため息を重ねていくと、秋蘭と流琉が報告に来てくれた。

 

 秋蘭「一刀。大丈夫そうだな。」

 

 一刀「これを大丈夫という秋蘭は眼医者に診てもらったら?」

 

 流琉「それだけの事が言えれば大丈夫ですね、兄様。」

 

 流琉が今日は冷たい。確かに無理したけどさぁ。

 

 一刀「・・・反省します。」

 

 流琉「秋蘭様?」

 

 秋蘭「すまん・・・私も悪ノリして一刀を止めなかったのは同罪だな。」

 

 珍しく、というか始めて流琉が秋蘭より上から目線で説教モードだった。

 

 流琉「もう・・・私、兄様が吹き飛ばされた時は死ぬかと思いました。その後は季衣に追いかけまわされるし、気が気じゃありませんでした。」

 

 正直本気で申し訳ないと思っています。秋蘭も同じ気持ちなのか眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 一刀「それで・・・報告はあるの?」

 

 さすがに反省で時間つぶすのは現在の状況ではよろしくないので話を進めることにした。

 

 秋蘭「ああ、連合軍は一時退却。華琳様が無理に突撃しようとしてるみたいだが、荀彧と姉者がうまく止めているようだ。」

 

 一刀「そうか・・・秋蘭、流琉。一ついいか?」

 

 二人「「??」」

 

 一刀「あれは春蘭で・・・よかったんだよね?」

 

 秋蘭「ああ。あれが一刀が居なくなった後の姉者だ。」

 

 流琉「そうですね。そう言えばそうでした。」

 

 本当に・・・マジだったんですね。あんな落ち着いた春蘭見たことなかったよ。それほど影響が有ったんだなと少し胸がズキリと痛んだが、それは仕方ない事だと割り切る事にした。

 

 一刀「じゃ、撤退しようか。向こうが撤退してるって事は反転は難しいって事。罠も十分張り巡らせたし、汜水関を空にしてもしばらく足止めが出来るだろう。全軍に通達よろしくね。」

 

 そして俺達は汜水関を後にした。後の明命の報告によると、一番乗りは劉備軍。一番被害を受けていたくせにちゃっかり一番乗りの勲功を上げてしまったようだ。目敏い奴め。二番手は曹操、三番手は孫堅、その後に各諸侯と続き、最後に袁家が入った。罠は基本痛んだ水やそれをしみ込ませた干し草、食料でおなか壊して貰う作戦が中心だ。足止めと言ってもそんなえげつないものではない。まあ、虎牢関側の門は歯止めをして開かないようにしてるから当分出てこれないだろうけど。ちなみに仕組みは簡単。先端を斜めにカットした2mぐらいの杭を数本門の前に打ち込んで開かないようにしてるだけ門の開き方は外に開くように出来てるのでそれでうまく止められるのだ。

 

 一刀「虎牢関では確か呂布さんが待っててくれるんだよね・・・おなか空かせてると思うから急いで往かなくちゃ。」

 

 そう・・・彼女のお腹を満たせるのは、最近俺の料理か俺が広めた料理に限られて来てるので大変なのだ・・・

 

 どうしてああなった?本当に・・・どうして・・・

 

 

 

 
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