No.835464

ロイヤルガーデン if ~非・御子神ハルルコ√~ 『ホワイエ』

DTKさん

DTKです。
普段は恋姫夢想と戦国恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI(仮)という外史を主に紡いでいます。

今回は、恋姫を製作しているBaseSonと同じネクストンブランド、あざらしそふとの作品『ロイヤルガーデン』の二次創作を投稿します。

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2016-03-04 23:35:33 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2543   閲覧ユーザー数:2240

 

 

 

私は部屋のベッドに寝転がりながら、携帯端末を弄っている。

起動しているアプリは、いま流行のソシャゲ。

絶賛ガチャを回転中。

お目当ては、チート並に強いと噂の英雄王。

これの出る確率が、今日限定で3倍増になっているのだ。

23時50分。

ベッドサイドを見やると、時計が静かに時刻を伝えていた。

 

「……本当に3倍なのかしら?」

 

さっきから回しているけど、まったく出ない。

課金額など気にせず、10連ガチャのボタンをトントンと押す。

今も一回。

演出をスキップして結果を見たけど、また空振り。

ここまで来ると、お目当てのキャラが入っているのかすら怪しい。

前にそんなことがあったゲームがあるけど、自分がやってるゲームで起こるのは勘弁してもらいたい。

……また空振り。

でも、私は欲しいものは何としても手に入れる性質。

そしてまた10連ボタンに指を伸ばす…

 

「…………」

 

ふと、ある人の顔が頭を過ぎる。

 

月宮神狗郎

 

何度唱えたか分からない、私の魔法の言葉。

転校の多かった私にとって、ブラウン管越しの彼は初めての友達で、初めての…恋の相手。

そんな彼がテレビから姿を消したのは、突然だった。

当時は訳も分からず、人知れず涙した。

 

サイドボードに目を向ける。

そこには、古びた便箋が一つ。

それは、彼に出せなかったファン(ラブ)レター。

 

「はぁ……」

 

ごろりと寝返りを打つ。

そんな彼が今度は突然、私の目の前に現れた。

何故か『異国の王子』として。

 

私は初めて運命に感謝をした。

陳腐な表現だけど、それまでの人生が灰色だったと感じるくらい、世界が明るくなった。

私の舞台(人生)に、序盤で降りたヒーローが舞い戻ってきた。

絶対、彼を私のものにしてみせる。

ライバルは沢山いたけど、選ばれるのは私…

そう、思っていたのだけれど……

 

結果は、ゲームのように思い通りには行かなかった。

彼の舞台では、私は脇役の一人。

ヒロイン(恋人)には、なれなかった…

 

私が、世界で一番、神狗郎を想っているはずなのに…

 

「どうして…なんだろう?」

 

ピッという、無機質な電子音が一つ鳴った。

時刻は0時を迎えていた。

私は、端末を放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

私はなんとなく授業に出る気になれず、かと言って部屋にいるのも嫌だった。

なので、始業を待って学園を抜け出し、お爺さまの別荘に避難することにした。

少し歩くけど仕方がない。

向こうでシャワーでも浴びて、もう一眠りと洒落込もう。

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「なんじゃハル。こんな時間に」

 

別荘には予想外の、この部屋の持ち主がいた。

 

「…お爺さまこそ、珍しいわね」

 

普段はかけないメガネをかけ、テレビの前のソファーに陣取るお爺さま。

デスクには書類が乱雑に散らばっている。

 

「うむ。最近、ちと遊びすぎて書類が溜まってしまっての。今日は腰をすえて片付けてしまおうと、こう思ったのじゃ」

 

実務は私の両親などに任せてはいるけど、お爺さまは御子神グループの会長。

どうしても目を通さなければならないものもあるのだろう。

 

「それで、ハルはどうしたんじゃ?」

 

書類に目を落としながら、何とはなしに聞いてくる。

 

「えぇ。少し気が乗らなかったから、授業をサボってきたの。シャワー、借りるわね」

 

正直に言うと、おう、と生返事が返ってきた。

まぁ、許可がなくても使うんだけど。

バスルームに足を向ける。

 

「そうじゃ、ハルよ」

「なに?」

「神狗郎くんは元気かね」

 

――――ドクンッ

 

心臓が、大きく脈を打った。

一瞬で背中いっぱいに脂汗が出る。

胸が、苦しい…

全身を巡る血液が真っ黒に染まったみたいだ。

 

「……元気よ。毎日女を侍らせる程度にはね」

 

私は逃げ込むようにバスルームへと駆け込んだ。

嫌な汗はシャワーで流せたけど、胸のモヤモヤまでは流せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

お爺さまの仕事を邪魔をするのも気が引けるし、何より、また何か言われるのが怖くて早々に別荘を後にした。

ぶらぶらと時間を潰しながら、結局、まだ陽の高いうちに学園へと戻ってきてしまった。

わざわざ暑いとき外に出て、暑いうちに帰ってくる…

 

「何やってるんだろう、私」

 

思わず一人ごちる。

 

「本当、何をしてらっしゃるのでしょうね?」

「っ!?」

 

独り言に介入され、思わず身構える。

いつの間にか目の前には、学園の門を背にして、一人の女が立っていた。

 

「灯花…」

 

全てを見透かしたような目でこちらを見ている、クラスメイトの秋月灯花だった。

 

「授業に出ず、また部屋でお籠もりかと思っていたら…まったく、悪い子ですね。ハルルコさん?」

「…あなたこそ、人のこと言えるのかしら?まだ授業中じゃない。不良学生さん?」

「あなたと一緒にしないで下さいますか?私はこれから…」

 

そう言うと灯花は左手をそっと胸に当てる。

言われてみれば、彼女は制服ではなく和服を着ていた。

灯花は華道の家元をしている。

授業を早退して弟子の指導に行くこともままあった。

恐らく、今日もそうなのだろう。

私は早速攻め手を失った。

 

「ふふっ…」

 

顔に出ていたのか、灯花は満足そうに笑う。

 

「最近は真面目に授業に出ていらしたのに、今日はまたどういう風の吹き回しですか?」

「…別に。最近の私の方がおかしかったんじゃない?元に戻っ…」

「そうですよね。神狗郎さんが他の女性と仲良くしている姿は、見たくありませんよね」

「――っ!」

 

心の奥底に隠してある傷口に、刃が突き立てられる。

それを再び隠すように灯花を睨みつけるけど…

 

「…………」

 

人を小馬鹿にしたような微笑はまったく崩れない。

かくなる上は…

 

「あらあら。図星を突かれてだんまりですか?」

 

口を一文字に結び、灯花を『いないもの』として歩き出す。

何も見えないし、何も聞こえない。

これが、唯一の防衛策。

 

「そうですよね。本当に神狗郎さんのことが好きなのであれば、今の状況は耐えられませんもの」

 

横を通り過ぎる私にだけ聞こえるように囁いてくる。

 

――――聞こえない、聞こえない――――

 

「そのお気持ち、私も良く分かります――」

 

――――聞こえない、聞こ

 

「――――え」

 

耳と心の間のシャッターを潜り抜けてきた言葉に、思わず身体が反応して振り返る。

だけど、灯花は既に歩き出しており、その背中は小さくなっていた。

 

「何を…言っていたの?」

 

心を閉じていたから、聞こえなかった。

でも、確かに『何か』言っていた。

思い出そうとしても、言の葉を象れない。

私はモヤモヤとした気持ち悪さを抱えたまま、部屋に帰るしかなかった。

 

 

 

 

 


 
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