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外史を駆ける鬼・春恋*乙女編 第01話

一刀と愛紗の学園生活も書いてみたいなと思って書いた作品です。

学園ラブコメ的な物はよくわからない。ガチな修羅場的な物も書いてみたいがよく分からない。
まぁなんとかなるかなと思いやっていますが、とりあえずやっていきます。

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2016-02-16 17:18:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1200   閲覧ユーザー数:1115

外史を駆ける鬼・春恋*乙女編 第01話「始まりの並木道」

「そんな。旦那様、お待ち下さい。ここを離れれば、私は一体何処へ行けというのですか?私の家族はどうすればいいのですか?」

「そんなことは知らん。今日中に荷物をまとめてこの屋敷から出て行くがいい」

男の訴えを露にもかけず、主人はその場を去っていく。

その晩、男は屋敷を出て行く準備を自室で整えていると、一人の来客者が現れる。

「………これはこれは、坊ちゃま」

先程まで沈んだ気持ちになっていた男の機を紛らわせてくれたのか、男は顔が引きつりながらも若干の笑顔を見せる。

目の前の屋形の主の子息はいつも自身の気を気遣ってくれていたので、そういう意味では今日で屋敷を出て行く身として粗相の無いように努めるが、次のその子息の台詞は、今後の男の運命を大きく変えることとなる。

「重田さん………私の下で働きませんか?」

 

 

・風紀委員

我が学園において、風紀委員とは学園の鑑であり、全ての生徒に対する見本であり、また見本の番人者である。学園の鑑となるべく風紀委員の長たる風紀委員長の義務は、当学園の学習事項を収め得る以上の成績・品行・正義感を持たなければならない。なおその選抜は生徒、教師、学園事務の代表者より厳格に判断され決められた職である。

 

一刀は改めて自分の生徒手帳の学生役員の欄を確認する。

丁度ページの真ん中には、入学時以来全く開いたことあるかないか分からないような白い手帳の丁度真ん中のページを開いている。

学生役員の欄の最初には生徒会長の条件から始まり、やがて生徒会会計部門で終わると、その次には風紀委員が始まる。

生徒会の書記や会計の条件に関してはページの半分を締めるのに対し、会長は丸々2ページを要する。

それだけフランチェスカ学園の生徒会長の選抜が厳格であることを証明しているのだが、風紀委員長の条件だけは4ページに続いた。

学園の教師の話によると、この風紀委員長は毎回決まるわけでは無かった。

厳格すぎる条件が課せられる為に、数年に一度の割合で一人決まるかどうかであったらしい。

しかしフランチェスカ学園は、元は超が着くほどのお嬢様学校。

わざわざ風紀委員を制定しなくとも、生徒は皆礼儀を弁えた者達ばかりで、教師に反発する者などもいるはずもない。

それを考えたときに果たしてこの制度が必要であるかと考えられ、風紀委員制度はお蔵入りとなったのだが、学園の男子共学化に伴い、フランチェスカ学園は再びこの制度を復活させることを決定したのだ。

「………なかなかメンドクサイ制度を作っていたんだな。フランチェスカって……」

まわりに聞こえない小声で一刀はため息混じりに呟く。

右肩の『庶務』の腕章を見ながら。

一刀が学園に戻ってきて冬が過ぎ去り入学の春がやってきた。

昌人と会談の後、一刀は学園への後処理に奔走するものと思っていた。

何しろ、一刀はこの世界で5日も行方不明となっていたのだから、周りになんと言おうか言い訳も考えていたのだが、その苦労は徒労に終わることになった。

理由は未だに不明であるが、昌人が手回しをしてくれていたらしく、一刀は元の鞘に収まったのだ。

だがしかし、昌人は突然一刀を生徒会庶務に任命し、一刀の生活は一転する。

『庶務』、通常生徒会の役職では会長やら会計などといった役職が存在し、その響きにて、だいたいの仕事内容は把握出来ると思うが、庶務とは他の人がやらないことを行なう役職。所謂雑用である。その仕事内容は仕事で使う資料のコピーや学校内の清掃などといった形である。何故昌人がその役職に一刀を任命したのか、一刀自身も疑問であったが、しかしそういった仕事は三国志の世界にて最初は多くこなしてきているので特に疑問も持たずに引き受けたという。

ちなみにこの庶務の役職に任命できる人物は、学園の風紀を守る風紀委員長のみであり、その枠が空いている時は学生の長たる生徒会長である。

「……生徒会の雑用と聞いた瞬間の愛紗の憤慨ぶりは今でも覚えているな」

愛紗は自らの主を雑用に使われることを快く思わなく、昌人に抗議したが、しかしその後に聞いた権限を聞いた途端、一刀は愛紗に待ったをかけたのであった。

「だって、あんな条件を聞いたら、そりゃ多少の雑用ぐらい……」

その条件とは、生活場所を男子学生寮のプレハブ小屋では無く、風紀館の一室に移せることだ。

風紀館の部屋の一室の壁は厚くプライバシーは守られ、空気清浄機やテレビやパソコンなども付いており、施設の度合いは女子寮以上らしい。

だが、寮の様に食堂も無ければ、洗濯などは出していれば職員がやってくれるなどもない完全なる自主性である。

それでも最新の生活機器の数々は揃っているので、そういうところのメリットはある。仮に食事を用意するのがめんどくさい時だけは、その時だけ男子寮に向かえばいいだけのことだ。

他に変わったことは、学校生活の終わりには、昌人の英才教育が待っているのである。

生徒会の仕事と部活を終えて帰って来た後、食事と風呂を終えた瞬間に夜間授業が始まる。そして朝になれば5時に叩き起こされ、目覚まし早朝ランニングをさせられた後に、朝の間に昨日に出された授業の予習をさせられる。その繰り返しのような日々である。

だが一刀にとってこれは決して苦ではなかった。外史で行なっていた国の政務は、国民の生活に関わることである為にそれだけ神経を要するが、しかし昌人が行なっていることは”一刀に対する授業”であり、ひいてはそれは”自分のため”になることであるために、それほど神経は使わないので楽である。

その様な考えが出来るとは以前の一刀を考えると、彼も想像していなかったであろうが、だが昌人の授業がすんなりと耳に入ってくることが何よりの証拠であった。

その他にも変わったことは多くあるが、何より変わったのは―――

「北郷様、ごきげんよう」

朝の桜並木の道中にて、一刀はとある待ち人を待っており、これからその待ち人が来るかも知れないときに、彼の姿に気付いた女子達から節々に黄色いエールが送られる。

そう、一刀は異様にモテ始めたのだ。

外史にて多くの女性の心射止めた種馬は健在であるが、理由の発信源はそういった所では無く”生徒会役員になった”という事実がそうさせたらしい。

以前の女気の全く感じさせない学生生活と比べれば、その変わり様は目を見張るものがあり、とある一刀の悪友二人は一刀のことを羨ましげを通り越して憎しみの目で見出した程だ。

すると突然、一刀の背中に激しい悪寒を感じた。一刀に群がっていた女子達も何処となくひいている様でもある。彼が後ろを振り向くと黒いオーラを纏い一刀を見つめる愛紗の姿を発見した。

一刀は蛇に睨まれた蛙の如く固まり、彼は愛紗に引き摺られて”逝った”。

 

「……全く。また一刀様は鼻の下を伸ばしてデレデレと――」

「いや、別にデレデレなんてしてないんだけど?」

「ほほぅ、それならば学び仲間である女子(おなご)の声に全く反応しなかったと?」

「………」

「何故目を逸らすのですか!?目を!!」

愛紗は現在一刀と共にフランチェスカの生徒、重田(めご)として学園生活を送っている。

彼女の戸籍云々は昌人が用意し、愛紗を昌人の義妹として引き取り、戸籍上は昌人と愛は兄妹となった。

法治国家日本において、彼が如何にして戸籍を用意したか一刀は尋ねると、その質問はすんなりと断られた。

少し強めに問い詰めた際にも、彼が小さく笑った後に、「本当に言ってもいいのか?」と逆に聞かれ返され、結局この件に関してはお蔵入りとなった。

一刀の本能が聞くべきではないと判断したからであったからだ。

「それより愛紗、学園生活はもう慣れた?」

彼は愛紗の気を紛らわすべく、別の話題を振る。

「あ、はい。おかげさまで、すっかり馴染めました。これも一刀様と昌人殿の支えあっての結果です」

愛紗も現在、愛として学園生活を満喫していた。

もちろん最初は苦労の連続である。

慣れない文化・価値観・学業、様々なことの壁に当たったが、しかしこの苦悩を元いた自分の世界に一刀も来たときに感じた苦労と思えば、さほど苦しいばかりでは無かった。

勿論最初こそ学業についていけなかったものの、放課後一刀と共に昌人の授業を受けたおかげで、みるみる力を付けていき、さらに言えば彼女が滞在している女子寮の仲間達、特に同じ学年の芹沢結衣佳と織戸莉流の力添えがあり、今では学年20位までの実力を身に付けた。現在は一刀と同じ生徒会に入る為に、成績優良枠を狙ってもっか勤勉中である。

「どう?学校の方はなんとかやれそう?」

「はい。今朝掲示板にて確認したのですが、結衣佳や莉流が同じクラスでしたので、なんとかやれそうです。しかしやはり………一刀様と同じクラスになりたかったです――」

愛紗は胸に手を当てて、少し拗ねた表情をする。それを見た一刀はその仕草に愛しさを感じ、抱きしめたい衝動を必死に抑えた。

なぜならばここは学園の敷地であり、この様な場所にてその様なことを行なえば、頭の固い教師に不純異性交遊などと言われ、目玉を食らう可能性もある。

「まぁ、クラス配分は学園の都合によることだし、無いもの強請(ねだ)りはよくないよ」

そういうと今度は、愛紗は体勢そのままにして、少し目を細めて一刀のことを見た。

「………いえ、私の心配より、一刀様のことが心配で……」

「俺が?なんで?」

「なんでって………チ○コ太守」

最後の愛紗の小声の一言で、一刀は噴出した。

「いや、まて愛紗よ。現代日本は一夫多妻を認めていない。愛紗以外の女の子に見劣りするわけないじゃないか」

「まぁ、ご主人様が浮気すること無いのは知っていますから。気にしなくてもいいですよ」

「流石愛紗。俺のことをよく判っているし、俺はこんなパートナーを持てて幸せだ」っと言おうとしたその時、愛紗はまた笑顔で言う。「浮気なんてすれば、生殖器を破壊すればいいだけですから」っとはっきり言われ、彼は固まった。

 

「そういえば、一刀様、今日の入学式にて早坂殿の妹君が入学するのでしたね?」

「そうだね。……羽未ちゃんか。そういえば、最後に会ったのは確かあきちゃんの所に遊びに来た時だったけか」

『あきちゃん』とは一刀の悪友の一人で、同じ学び舎の友でもある早坂章仁である。彼の妹に会ったのは一刀が入学した時に遡る。共学化した学園最初の男子生徒であるために、殆ど男子が居ない中で気があった友である章仁。その友の部屋にて、もう一人の悪友、及川を交えて談笑している時に突然現れた悪友の妹が羽未だ。兄を驚かせる為に黙ってきた為に、驚かされる対象の兄が一番驚いていたのが今でも思い出す。

愛紗とそんな話をしながら玄関を出た二人が歩くは、桜の並木道。学園内のフランチェスカホールへ続く道は、多くの新入生の姿が見える。

「あ、見て下さい。北郷様ですわよ」

「ほんとですわ。去年の玉虎旗全国高等学校剣道大会での快進撃は凄かったですわ」

道を歩く一刀達を尻目に、新入生は節々に話し出す。剣道の全国大会に玉竜旗というものがある。西帝日新聞社と九州剣道連盟が主催する、毎年7月下旬に福岡にて開催される大会で、彼女達が話していた『玉虎期』とは、数年前に読安新聞社と全国剣道連盟が『冬の全国大会』との趣旨で始めたものである。

一刀は一月に開催されるその大会にて、初出場ながら見事優勝を果たしたのだ。

「一刀様、やはり凄い人気者ですね」

「いや、別にたまたま運が良かっただけであって……」

「謙遜なさることはありません。これも一刀様の実力が伴ってこその結果です」

一刀曰く、外史にて多くの殺刀(たち)を見てきた影響で、剣道では別に死ぬことはないとの理由でそのまま戦っていれば優勝してしまったとのこと。

「………私も出たかったのですが……」

「いや、愛紗が出たら、皆相手にならないだろう……」

昌人は愛紗の剣の実力を測ると、一年時での大会出場は自粛させたのだ。

愛紗の武は、自らの身を守る為の純粋な殺人術。礼儀作法と精神を鍛える為の剣道とは明らかにその格が違い、出場すれば、現代の高校生で”関羽”の武に適う者がいるとも限らず、ぶっちぎりで優勝は間違いないが、だが逆に怪しまれてしまいかねない為に、今は地ならしを行なうべきと判断されたのだ。

「まぁ、今年から剣道部にも合流出来るんだからいいじゃないか。不動(ふゆるぎ)先輩が早く手合わせしたいと意気込んでいたよ」

一刀のいう不動とは、本名、不動(ふゆるぎ)如耶(きさや)。大財閥・不動グループの御令嬢で、背が高くスタイル抜群で成績トップの上、学生会長も務めており、全校生徒の憧れの的。学園内では、行く先々で「如耶姉さま」と呼ばれ、注目を浴びており、まるで漫画の中の無敵お嬢様がそのまま飛び出してきた様な人物だ。

不動と愛紗が知り合うきっかけとなったのは、一刀が玉虎旗出場のある日、彼は最後の調整を行なう為に愛紗と無人の道場にて立ち合った時のことである。その立ち合いの姿を不動に発見され、その時に不動は熱心に愛紗との立ち合いを懇願したが、昌人に(剣術の)素人との立ち合いは禁止されており、また昌人も席を外していた為に、その立ち合いを拒否したのだ。

それを聞いた不動は昌人に直談判し、彼は愛紗が二年になるまで待つ様に言ったのだ。

彼女自身納得出来ないところもあったのだが、愛紗の保護者代わりである昌人にそう言われれば引き下がるしかなかった。

「そうですね。……不動殿はなかなかの素質の持ち主。生まれる時代が同じであれば、いい好手敵となりえたでしょうね」

「………楽しむのはいいけれども、手加減はしてくれよ」

やがて二人はフランチェスカホールへと辿り着き、一刀は生徒会役員として裏へと向かう為二人は別れた。

愛紗は一般学生と同じようにホールの座席にて始まりを待っていると……

「めっごさーーーん」

突然鳩尾目掛けて何かドリルが飛んできて、愛紗は自らのお腹の空気を一気に吐き出す羽目になる。

「……り、莉流殿……」

「いやですわ愛さん。私達の仲じゃないですか。『殿』なんて付けずに気軽に『リルリル』って呼んでくれればいいのに」

彼女に飛びついてきた女性とは、織戸莉流。

緑の髪色をしており、髪型は両側に縦ロールで、その縦ロールは赤いリボンでとめていた。小柄な体型で得意はスポーツ。水泳部に所属し、主力メンバーの一人でもあり、公式戦でも優秀な順位になることが多そうだ。

少々レズッ気があるらしく、ことあるごとに愛紗と友人以上の関係を求めて絡んでき、愛紗も少し参っているのだが、彼女の根は悪くないことは知っていた。

「ダメだよ莉流さん。愛さんには北郷君っていう大切な人がいるんだから」

後から少し間の抜けた声で莉流を静止する女生徒は、芹沢結衣佳。

去年結衣佳と同じクラスであった一刀曰く、ののほんとした天然ボケ系で一般人と少々ズレたセンスの持ち主であるらしく、時々恐ろしいことをさらりと言う人物らしい。特技は料理であるため、部活は料理部に所属している。

成績は良く、世話焼きな性格である為、愛紗もよく勉強を見てもらっていた。

「莉流よ。何度も言っている様に、私には一刀様がいるとい言っておろうが」

そう言いながら愛紗は莉流を引き離す。

「嫌ですわ。愛さんのその美しい髪は誰にも渡したくありませんわ」

実はこの三人とのやり取りは、今に始まったことではない。

初めて三人が巡り合ったのは一年の時に、授業終わり時に愛紗が一刀を迎えに来たことがきっかけであった。

一刀と話していた結衣佳の行動を愛紗が勘違いして一刀を吹っ飛ばしたことがことの始まりであり、後に愛紗は(結衣佳に)謝罪し、以降二人は女子寮にて話し合う関係になり、また元々結衣佳と交流の深かった莉流も後から付いてくる様に輪に入り込み、以降は三人で昼食をとることもしばしば多くなった。最初こそ結衣佳に一刀の話題を出されると慌てふためいた愛紗であるが、今ではすっかり慣れてしまい、結衣佳の問いと莉流の絡みにも慣れていった。

「確かに一刀君は章仁君に比べれば格段にいい男よ。頭もいいし腕も立つ。でもね………女にも負けられない戦いがそこにはあるの!!」

何かを宣言し、莉流はそう言いながら改めて愛紗に抱きつき、愛紗も必死になって彼女を放そうと奮闘するのであった。

 

一方その頃ホールの舞台裏では、学校の代表者や学園融資の者、学生の格代表者などが集まっていた。

「不動主将。おはようございます」

一刀は自らの部の長を見つけると、武道家らしく不動に頭を下げる。

「うむ。おはようでござる。北郷殿」

不動はその長身に似合う長い黒髪を靡かせて、一刀に挨拶を返した。

「あいも変らず清々しいばかりに爽やかでござるな」

「ははは、まさか。俺はただ普通にしているだけですよ」

「何を言うか。北郷殿は少し謙遜が過ぎるところがあるゆえ。もう少し自身を誇ってもいいと思うでござる」

「その通り。一刀君は如耶ちゃんに土を付けた数少ない人物の一人なんだ。十分に自身を誇っていいよ」

いつの間にやら、一刀の後ろより昌人が出てきて、一刀達の話に入ってきた。

「やぁ如耶ちゃん。ごきげんよう」

「重田殿、ごきげんようでござる」

二人はいつものように挨拶を交わす。

余談であるが、学園のマドンナでもある不動に『ちゃん』付けで呼ぶのは、男子では昌人だけである。その為一時期二人は付き合っている噂も流れたらしいが、本人達が「それは無い」とはっきり言ったおかげか、直ぐに噂は沈黙した。

「いやぁ、今年は如耶ちゃんとは同じクラスじゃなかったよ。残念だ」

「……まことに。それがしも重田殿と学べないのは一抹の寂しさを感じるでござる」

一刀が見ているこの光景は、何気ない様でいて実はまわりから見れば凄い会話らしい。その証拠に集められた三人以外のここに集められた他の学生は、少しざわざわしている。

片や不動財閥の令嬢にして、他を寄せ付けない美貌とスタイルを兼ね備えた才色兼備のお嬢様生徒会長。

片やフランチェスカ学園主席にして、数年に一度任命されるかされないかの風紀委員長。だが、昌人の強みはそれだけには留まらなかった。

「昌人君」

三人で会話に戯れている時に、昌人を呼びかける声が聞こえてくる。

「これは宗仁(むなひと)様。いつもお世話になっています」

昌人達に近づいてきた人物は、四菱銀行代表取締り役員の秋田宗仁であり、フランチェスカ学園の融資者の一人である。

昌人が腰を45度に曲げて、手を伸ばして腰に当ててお辞儀を行なう。一介の学生が会社の取り締まり役員に対しここまで畏まることがあるのかと思いきや、実はそうではなかった。

「いやいや、今日は仕事の話に来たんじゃないから、そんなに畏まる必要はないさ。如耶さんもお久しぶりです」

「お久しぶりでござる」

対する不動は、礼に乗っ取ったお辞儀ではあるが、手をお腹に当てて、30度の挨拶程度のお辞儀である。

秋田が不動に挨拶を行なうのは、彼女の父親と仕事上交流があるので挨拶程度に交わしただけである。

「重田君、お店に食べに行ったけど、美味しかったからまた寄らせてもらうよ」

「はい。ありがとうございます」

秋田は言いたいことを言い終えると、そのまま三人を後にした。

そんな秋田を昌人は彼の背中が少し遠め離れるまで、改めてお辞儀を行なう。

実を言うと、昌人はただの学生ではなかった。

関東圏を中心に広げている飲食チェーン店があり、その取締りの会社の名を『ボクノ株式会社』。

この会社は今巷を少し賑わせているらしく、東京都を中心にして新潟や千葉、名古屋にもその系列店舗があり、2年後には関西進出を期待されている。

展開している店は『ボクノフレンチ』や『ボクノイタリアン』。どういった店かというと、値段が高いイメージを持つイタリアンやフレンチを一般消費者に対し、普通のファミレスの様な価格で提供しているのだ。

普段フレンチを食べることの無い地域の人々に対し大ヒット。昌人は学生にしてその飲食店のオーナーなのだ。

「重田殿、会社の景気は順調そうでござるな」

「いやいや、周り……特に働いてくれている社員の支えがあってこそですよ」

昌人はまた謙遜しながら、三人は入学式の開催を談笑しながら待ったのであった。

 


 
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