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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ十七

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2016-02-07 03:42:56 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:2293   閲覧ユーザー数:2028

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ十七

 

 

 春日山城から脱出したスバル隊と人質となっていた五人、そして一二三と湖衣の総勢二十人はひたすら西へ向かって駒を進め、脱出の二日後には越後から越中へと入っていた。

 

「空さま、お疲れとは思いますがご辛抱下さい。」

「大丈夫だよ、貞子。今は一刻も早く美空お姉さまと合流して春日山を取り戻さないと!」

 

 生みの母が春日山城乗っ取りに加担したと知った時から空は、母長尾政景は死んだ者と涙を流して心を定めた。

 長尾の後継ぎ候補として。

 貞子と沙綾は子供達に春日山城で女達がどの様な目に逢っているかを、言葉を濁して詳しく説明していなかったが空は雰囲気から鬼に堕ちたのだろうと判ってしまったのだ。

 しかし、どれだけ強い意志で覚悟を決め越後を取り戻さんと願っても体力が急激に上がる筈も無く、一行の速度が空に合わせ春日山から能生に向かった時の半分以下になっている事が、空の心を申し訳なさと焦りで苛むのだった。

 

「空ちゃん、この辺りは鬼が居ないから気を楽にして♪」

 

 沙綾を前に乗せた昴が貞子と馬に乗る空に微笑み掛ける。

 空の心情を察して、この速度は鬼の領地となった加賀を全力で駆け抜ける為に必要な事なのだと言い聞かせているのだ。

 昴の笑顔に空も笑顔で返す。

 愛想笑いでは無い、信頼を寄せる心からの笑顔だ。

 初日は多少警戒していた空だが、谷浜で鬼の大群を屠った強さと、能生から今朝までに見せた料理の腕にすっかり心酔していた。

 

「はい♪昴さま♪あっ!」

「空さまっ!」

 

 空が馬の動きに合わせられずバランスを崩したのを貞子が咄嗟に支える。

 やはりこれまでの疲れが貯まっている上に朝から三時間も馬に乗り続けているので疲れがでたのだろう。

 沙綾がその様子に休憩を決めた。

 

「昴。行軍を止めて小休止じゃ。」

「そうね。全軍停止!小休止よ♪」

 

 和奏達が馬を止めて集まって来る。

 馬から降りた空はそれを見て申し訳ない気持ちになり俯いた。

 

「そんな顔すんなって♪ボクらも一息つきたかったんだからさ♪」

「…和奏さん………」

 

 空が顔を上げると和奏だけでは無く、スバル隊の面々が空を見ていた。

 夢や雀は心配そうに。

 

「空さま、大丈夫ですか?」

「どこか痛くないですか?空さま。」

 

 雛や犬子は励ます様に。

 

「昨日も一日走り詰めだったからしょうがないよ〜♪」

「疲れたら遠慮しちゃダメだよ♪この先加賀に入ればまた鬼が出てくると思うから今は体力温存だよ♪」

 

 五人の気遣いに空は自然と笑顔が溢れた。

 

「はい♪」

 

 家の柵みや政治的な駆け引きなど関係無い、愛菜と名月とは違う相手。

 それが“友達”なのだと今の空にはまだ判っていなかったが、この関係が心地良いと感じている。

 貞子も空の様子に歳相応の友達が出来る事を喜んでいた。

 

(私には秋子が居たからな…………今では腐れ縁と言うか、肩が凝ったとか男が出来ないとか愚痴り合って酒を酌み交わす仲だが………)

 

「まてまてまてぇええい!空さまに直接話し掛けようなど無礼千万!話をしたくばこの空さまいちの家臣、樋口愛菜兼続を通してからですぞ!どーん!」

 

 貞子は友の養子がまたやっていると溜息が出た。

 

(秋子もよくこんなの引き取ったな……………まあ、バカな子ほどカワイイと言うのが愛菜と過ごしてよく判ったけど♪)

 

 そんな大人の感想を余所に雛が愛菜の相手をしていた。

 

「愛菜ちんは越後きっての義侠人なんだよねぇ?」

「そのとおり!この樋口愛菜兼続こそは、越後きっての義侠人!どや!」

「だったら美空さまに頼まれて空ちゃんを助け出した雛達に義侠心ってのを見せてもいいんじゃないのかな?」

「むむむ!これは痛いところを…………では、百歩譲って空さまのご尊顔を拝し奉る事は許してやらないでもないんだからね!」

「なんかしゃべり方がいきなり変わったんだけど………」

「ふっふっふっ。これは美空さまの作法を真似てみたのです。どや♪」

「美空さまってそういう人だったんだ〜………祉狼くん相手には全然そんな事言ってなかったから判らなかったよ〜♪」

 

 空は話の流れから、祉狼が美空の良人となった相手の名前だと察し、咄嗟に一歩踏み出して雛に寄った。

 

「その『しろう』さまとはどんな人ですか!?」

「え?祉狼くん?………そうだね〜………一言で言うと『熱い男』かな♪」

「熱いんですか?」

「空さま…………愛菜を無視してお話しになるとはなんとご無体な………」

 

 空は涙ぐんで抗議をする愛菜の手を取る。

 

「愛菜、美空お姉さまの良人になられた方だよ!わたしの新しい父上になる方だからどんな方か知りたいの!」

 

 殆ど聞いた事が無い空の強い口調に、愛菜も空がどれだけ真剣なのかを理解した。

 

「空さまのその健気なお心、この樋口愛菜兼続、感動で涙がとまりませぬぅぅぅぅ!」

 

 本当に涙を滝の様に流して感動する愛菜の後ろでは、雛が和奏達を集めてヒソヒソと相談していた。

 

「(いい?ここはみんなで祉狼くんを褒めちぎって空ちゃん達に好印象を与えておくんだよっ!)」

「(昴よりも祉狼の事が好きになるくらいだろ。)」

 

 雛と和奏の言葉に犬子、夢、雀が無言で頷く。

 その表情は真剣だ。

 

「(でも昴さまに邪魔されないかな?)」

「(ボクが小夜叉を焚き付けておいたから大丈夫なはずだ。)」

 

 五人が振り向けば丁度小夜叉が昴に声を掛ける所だった。

 

「おい、昴!馬に乗りっぱなしで物足りねぇ。ちょっと死合おうぜ。」

「はいはい♪得物は何がいい?」

「この間のでけぇ戟だ!ぜってえぶちのめしてやるっ!」

 

 これなら大丈夫と安心して空と愛菜に振り返ると、そこには名月と沙綾、貞子、一二三、湖衣も集まっていた。

 

「祉狼さまのお話を聞かせていただけるのでしょう♪美空お姉さまの心を射止めたのはどの様な殿方か気になりますわ♪」

 

 目をキラキラ輝かせる名月は恋に憧れる少女その物。

 しかし、沙綾を始めとした大人達の目は情報収集を目的としているので奥から鋭い光を放っていた。

 

「して、噂の薬師如来殿が熱い方という事じゃが、先に外見等が知りたいの。」

 

 沙綾の声音は穏やかなのに、有無を言わせぬプレッシャーを感じて和奏は冷や汗を流しながら祉狼の姿を思い出して答える。

 

「え、ええと………背丈は昴と同じくらいで、髪は短くて、白い上着と黒い袴で……」

「お顔はどうじゃ?」

「顔かぁ……まあ、かっこいい方だとは思うけど……」

 

 和奏は言葉を濁して夢に助けを求めた。

 

「優しさと厳しさを兼ね備えた凛々しい方なのです♪夢にとって厳しい父上であり、優しい兄上でもあるのですよ♪」

「歳は確か昴と同じじゃったな。その歳でその様に男らしいとは意外じゃのぉ………」

「母上と姉上は祉狼さまを可愛いと評するのですよ。夢にはよく分からないのです。」

「ほほう………織田上総介殿はどう思われておる?」

「殿ですか?………………」

 

 今度は夢が躊躇した。

 久遠の個人的な情報を話すのは拙いのではと考え、雛に助けを求めた。

 雛は頷いて夢と代わる。

 

「久遠さまは祉狼くんの事が可愛くて可愛くて可愛くてしょうがないって感じですよ〜♪」

「お、おい!雛っ!」

 

 和奏が慌てて遮ろうとするが、雛は余裕の表情で和奏を征した。

 

「でもそれって久遠さまだけじゃなくって〜、公方さまもそうですし〜、祉狼くんより年上の人はみんなそんな感じですよ〜♪筆頭は久遠さまの奥さまの斎藤帰蝶さまと森家の番頭の各務さんかなぁ。そうそう♪雛達が一乗谷を出る時は柘榴って人が嫁になるなるってスゴい乗り気でしたよ〜♪」

「あの柘榴がっ!?」

 

 柘榴の話に貞子が目を丸くして驚く。

 驚いているのは貞子だけでは無く、空と名月も口を開けて呆然としていた。

 三人は柘榴が男性に愛を語っている姿をどうしても思い浮かべる事が出来ない。

 

「何を驚く。柘榴は根が結構乙女じゃぞ。まあ、普段は猪丸出しの戦馬鹿じゃが。貞子も柘榴に先を越されそうじゃな。」

 

 沙綾はそう言うが三人の頭の中には『っす~♪』と楽しそうに槍を振り回している姿しか浮かばず、沙綾が柘榴のどんな姿を見たのかとても気になった。

 

「柘榴の事は会った時の愉しみとして、祉狼さまの為人はどうじゃ?噂では瑠璃光を以て衆生の一切を救う薬師如来の化身と言われておるがお主達はどう見ておる。」

「ボクはそんなに祉狼と一緒にいた事ないけど、あながち間違ってないんじゃないかな?」

「雀はお腹が痛くなったときに治してもらったよー♪なんか針がピカーって光ってあっという間に痛いの飛んでったの♪」

 

「父上は薬師如来の化身などでは無いのです!ゴットヴェイドーの教えを常に体現しようと努力なさっている立派な人間なのです!」

 

 五個荘や京で祉狼の治療を見てきた夢は祉狼の努力を『薬師如来の化身だから』という言葉で片付けられるのは我慢出来なかった。

 

「父上は仰ってました!自分はまだまだ未熟だと。ひとりでも多くの人の命を救いたいと願い悩んでおられるのです。父上は鬼にされた人達を、本当はひとり残らず元に戻したいと思っているのです!ですがそれが出来ないのもご理解されているのです!夢には父上と同じことが出来ないですから、鬼の被害を少しでも減らす為に鬼を殺すのです!母上も姉上も殿も結菜さまも公方様も、他の方々も皆同じ気持ちで父上の力になろうとしているのです!」

 

 激昂する夢に皆が圧倒されていたが、沙綾は慈愛に満ちた微笑みで夢の頭を撫でた。

 

「夢、お主の気持ちもよう判った♪これからは儂も『薬師如来の化身』とは思わぬ様にしよう。」

「………はいなのです♪」

 

 沙綾の手に母半羽と同じ温もりを感じて、夢は昂ぶった気持ちが落ち着いていく。

 

「考えてみれば祉狼さまや昴の居た時代は大陸に仏教が伝わり始めたばかりの頃じゃ。きっと今の天主教の様な感じなのじゃろうな。祉狼さまも五斗米道の方なら薬師如来と呼ばれてもピンと来んじゃろうしな♪」

 

 沙綾の言葉に夢の顔色が変わる。

 

「違うのです!五斗米道では無くゴットヴェイドーなのですっ!」

 

「………………は?」

 

 沙綾の目が点になった。

 空、名月、愛菜、貞子、そして無言で聞いていた一二三と湖衣も同じだ。

 和奏、雛、犬子、雀は溜息を吐いて『またか』と心の中で呟いた。

 

「…………ご、ごとべ………」

「ゴットヴェイドーーーー!なのですっ!」

 

 拳を天に突き上げる夢を和奏達が仕方なく取り押さえる。

 

「な、何をするのですっ!」

「いいから、もう夢は黙ってろ!」

 

 困惑する沙綾達に雛が苦笑して説明する。

 

「祉狼くんって発音にスゴくこだわるんですよ~。夢ちゃんのはその影響が強くって………でもこの発音は頑張って出来るようになって下さいね~♪でないと祉狼くんに会った時に同じことを繰り返す事になるので~♪」

「………………左様か…………では後で鍛錬しよう……………」

 

「「「「ゴットヴェイドーーーーーーー♪」」」」

「……………(こく)!」

 

 突然の掛け声にギョッとして沙綾達が振り返ると、鞠、綾那、桃子、小百合、烏が腕を突き上げてやって来た。

 ちなみに熊は小夜叉と昴の死合いを見学している。

 

「お馬さんのお世話が終わったの♪」

「ゴットヴェイドー隊のお話してたですか?」

 

 ニコニコと話に加わる鞠と綾那に犬子が答える。

 

「祉狼さまの事を教えてあげてたんだよ♪」

「祉狼お兄ちゃんの事?……………とっても優しいの♪」

「それにとっても強いのです♪綾那はまだ手合わせしてもらってないですが、見ただけでわかるですよ♪」

 

 桃子と小百合は雛の顔を見てどういう目的なのかを察し、空、名月、愛菜が好印象を持ちそうな祉狼の長所を考えた。

 

「そうですね………桃子達って祉狼さまの妹君と同い年らしいのでとても気にかけて下さいます♪」

「とっても頼れるお兄ちゃんって感じです♪」

 

「……………………………」

「京で獅子屋のおかしをたくさん食べさせてくれた神様みたいな人だってお姉ちゃんが言ってるよ♪」

「(こくこくこく)!」

 

 雀が通訳した烏の情報に空、名月、愛菜が反応した。

 

「獅子屋って…」

「獅子屋って京で話題になっているって美空お姉さまがお土産に持ってきて下さったあの獅子屋ですのっ!?」

「あの羊羹は絶品でしたな♪この樋口愛菜兼続、一口食べてどどどどどーーーーん!となりましたぞ…………」

 

 羊羹の味を思い出した愛菜は涎を垂らして夢の世界へ旅立った。

 そんな子供達とは違う事を一二三、湖衣はこの話から読み取る。

 

「(一二三ちゃん、かなりの銭を蓄えているみたいですね………)」

「(治療費は受け取っていないと歩き巫女の情報に有ったから、知行なのか……………もしかしたらもうひとりの天人殿の力なのか………これも会って確かめてみないと………)」

 

 沙綾も当然気付いたが、今は祉狼の人間像を固める事に専念した。

 

「祉狼さまは甘い物がお好きなのかの?」

「好きですよ♪歌夜の作ったおはぎをおいしいって言って食べてたのです♪」

「歌夜殿とは?」

「綾那と同じ三河武士なのです♪歌夜は祉狼さまの事が大好きなのですよ♪」

「ほほう♪その歌夜殿は祉狼さまの事をどう言っておる?」

「?…………だから大好きなのですよ?」

「いや…………褒め言葉を言っておらなんだか?」

「そういうことですか♪歌夜は綾那と一緒に田楽狭間で昴さまと祉狼さまと聖刀さまが降臨される所を見たですよ♪あの時から綾那は昴さまを、歌夜は祉狼さまを好きになったです♪もうピカーーって後光が射してスゴかったですよ♪」

「ふむふむ♪」

 

 沙綾は辛抱強く相槌を打って話を進めた。

 

「そんな祉狼さまのお嫁さんにになれて嬉しいって言ってたです♪」

「…………………それだけか?」

「?……………ああ♪そういえば祉狼さまは大きかったって言ってたですよ。きっと人間としての器の話だと思うのです。歌夜はきっとなにか失敗して、祉狼さまが笑って許してくれたんだと思うのです♪歌夜は普段しっかりしてるのに肝心な所でヘマをするなんて困ったもんです♪」

「成程成程♪きっと緊張しておったのであろう♪で、歌夜殿の背丈はどれくらいじゃ?」

「湖衣と同じくらいです♪」

「そうかそうか♪」

 

 沙綾は歌夜が何を指して『大きかった』と言ったのか察していた。

 

(これは拙い!空さま達が嫁になるとしても数年は待たねばならんかも知れんぞ!それまで昴が大人しくしているとは思えん!いや、先に輿入れだけ済ませておけば昴とて手は出せまい!)

 

「所で祉狼さまの嫁で一番背の低いのは誰かの?」

「背が低いのですか?…………鞠さまわかるです?」

「う~ん………雫かお市ちゃんじゃないかな?詩乃と双葉ちゃんより低かったと思うの。」

「双葉さまとは………もしかして公方様の御妹君のですかな?」

「そうなの♪」

「ではお市さまとは浅井家に嫁がれた上総介殿の妹君?」

「そうなの♪」

「雫殿と詩乃殿とは?」

「雫は播州の小寺官兵衛で、詩乃は美濃の竹中半兵衛なの♪」

 

(最近噂に聞く知恵者二人か。是非とも味方に付けて空さま達を護る布陣を構築せねば…………美空さまが妙な騒ぎを起こされてなければ良いが………)

 

 沙綾が頭の中で美空の行動を心配した時、後ろから小夜叉、熊、昴がやって来た。

 

「くっそ!こん次はぜってーぶちのめしてやるっ!」

「昴さまの動きどえらい早うて目ぇ回るわ………姐さんはついてけるだけでもえらいやん。」

「ふふ♪それよりもお腹が空いたでしょ♪おやつをみんなで食べましょう♪」

 

 昴が来た事で沙綾達の会話は中断された。

 

「昴さま♪今日のおやつはなんですかあっ♪」

 

 大食娘の犬子が真っ先に昴へ駆け寄り、和奏達もその後に続いて昴と空達との間に自然と壁を作る。

 沙綾は連携が今は上手く行っている事に安心した。

 

「今日のおやつは亞莎さま直伝のゴマ団子よ♪」

 

 昴は肩から下げた麻袋からゴマ団子を包んだ竹皮を取り出し渡していく。

 

「早起きをしているのは気付いておったが、そんな物を作っておったのか。」

「みんなの喜ぶ顔を見られると思えばどうって事ないですよ♪」

「お前ならそう言うと思ったわ♪」

 

 沙綾も竹皮の包を受け取って、昴が空達に近付かない様に警戒出来る位置に移動した。

 しかし、沙綾はこの時昴が誰からゴマ団子の作り方を教わったのか、亞莎とは何者なのかを訊くのを忘れた。

 呂蒙子明の真名である事を知っていれば沙綾はもっと昴の行動を警戒したに違いない。

 果たしてこの事が後々どの様な影響をあたえるのか。

 

 

 

 

 スバル隊一行がおやつのゴマ団子を食べている頃、連合軍では沙綾の心配が現実となっていた。

 

「詩乃!雫!もっと兵を広く展開させなさいよっ!祉狼の護衛は私が居るから心配いらないわよっ!」

「ゴットヴェイドー隊は祉狼さまの隊なのですよ!祉狼さまの護衛は我らの仕事ですっ!」

 

 戦場は既に金沢まで移動していた。

 眼前には加賀一向衆の拠点、尾山御坊が堅牢な姿を見せている。

 但し現在はザビエルに乗っ取られ加賀一向衆も全て鬼にされており、加賀最大の鬼の巣と成り果てていた。 

 その最前線で美空と詩乃が言い争い、雫は兵に動揺を与えまいと必死に二人を仲裁している。

 

「お、落ち着いて下さい、二人共っ!」

「私は落ち着いてるわよっ!これだけの鬼を相手にしたら怪我人続出でしょうから、祉狼には鬼を人に戻すよりも怪我人の治療に専念させないと駄目でしょうっ!」

 

 祉狼が兵も鬼となった人も助けたいと思っている事は美空にだって判っている。

 しかし、現実として鬼をひとり救うのに兵がひとり死んだのでは意味が無いのだ。

 鬼の爪には毒が有り、その毒を受けた場合の応急措置は全ての兵に徹底していたが、最終的な治療は祉狼が行うのが殆どだった。

 

「怪我を負った者を迅速に祉狼の所に連れて来るのがゴットヴェイドー隊の本来の役目でしょう!それが固まっていてどうするの!それに鉄砲隊をもっと前に出しなさい!先ずは遠距離攻撃で鬼の数を少しでも減らせば兵を守る事になるでしょ!」

「ゴ、ゴットヴェイドー隊の事は確かに美空さまの仰られる通りです………直ちに取り掛かりましょう。ですが鉄砲隊に関しては玉薬の補給が間に合っていないのでこれ以上は無理なんですっ!」

 

 元々は敦賀で鬼を殲滅して終わりという予定だったのだ。それでも目算の倍は全ての物資を用意していた。

 しかし、一乗谷救出戦から越前加賀の鬼掃討戦と連戦になり、小谷に集めた玉薬も既に投入済みである。

 今は堺と美濃の半羽からの補給待ちなのだが、如何せん戦線の移動速度が予想以上に早い為に補給予定地を遥かに越えてしまい、荷駄が追い付いていないのが現状だ。

 

「補給が間に合わないって、軍師として一番やっては駄目な失策じゃないっ!」

「足りないのは玉薬だけです!他は武器も兵糧も薬も潤沢です!」

 

「御大将~、三昧耶曼荼羅で尾山をぶっ潰せばいいんじゃないっすか~?」

 

 詩乃と美空の間に柘榴が呆れた声で割って入った。

 

「出来たらさっさとやってるわよ!」

「出来ない理由が有るっす?」

「そ、それは……………」

 

 美空が言い淀む理由を雫は推測した。

 

「同じ仏門として石山本願寺の顕如殿に遠慮されているのですか?」

「違うわよ!私は曹洞宗だし!一向一揆にどれだけ悩まされたと思ってるのよ!元々一揆と決着付ける為に越中と加賀に侵攻したのよ!現に土山御坊は一乗谷へ向かう途中に三昧耶曼荼羅で叩き潰してやったわよ♪」

「あれは派手だったすね~。」

「鬼にされた門徒を成仏させてやったんだから顕如のクソ尼には感謝されたって良いくらいよね♪」

「では、今はどうしてされないのです?」

「だからそれは……………」

 

 美空は少し離れた場所で松葉と秋子に守られている祉狼に一瞬目を向けると、顔を赤くして俯いてしまった。

 

「た、体調が優れないのよ…………」

「体調が?それなら祉狼さまに診ていただければ……」

「そんな恥ずかしい事言えるわけ無いでしょっ!!」

 

 美空の様子に柘榴がふと思い至った。

 

「あ、そう言えばそんな時期っすね。それは仕方ないっす………」

「恥ずかしい……………あっ!そ、それは致し方有りませんねぇ…………」

 

 雫は美空に月の物が来ていると察し、曖昧な笑顔を浮かべてその場を取り繕う。

 美空が癇癪を起こして『お寺に帰る』と言い出すのは月経で気が滅入っている時と相場が決まっているので、柘榴達家臣は自然と美空の月経周期を覚えてしまっているのだ。

 

「御家流にこの様な弱点が有ろうとは…………」

 

 詩乃も同じ女として美空の気持ちが判ったので冷静になれた。

 

「さて、そうなりますと尾山御坊を正攻法の城攻めで落とさなければなりませんね………」

 

「どうやらワシの出番の様じゃな♪」

 

 そこに現れたのは桐琴だ。

 

「桐琴どの、貴女だけに見せ場を譲りません。私も聖刀さまに褒めていただきたいのですから♪」

 

 自信に満ちた葵も現れ、その後ろに微笑む悠季も佇んでいる。

 

「我も忘れては困るの♪熊さまを一刻も早くお迎えする為にも三好衆は逸っておるぞ♪」

 

 白百合も優雅な足取りでやって来た。

 

「ワシのクソガキがおるのだ。心配などいるか♪」

「綾那もおりますれば、空さま、名月さま、他三名も無事に救い出しておりますよ、美空さま♪」

「綾那は槍働きしか能のない娘ですから、足を引っ張っていなければ良いのですがな♪」

 

 悠季の毒舌は以前に比べるとかなり柔らかくなっていた。

 それも全て聖刀の力に寄る物だ。

 そして、その聖刀も詩乃達の前にやって来た。

 

「詩乃ちゃん、ここは僕が森衆、松平衆、三好衆を率いてあの城を落として来るよ♪貂蝉と卑弥呼は祉狼の護衛に残していくからよろしくね♪」

「聖刀さまも出られるのですかっ!?」

「昴に無理をさせてしまっているからね♪一刻も早く迎えてあげたいのさ♪」

 

 笑う聖刀の後ろから狸狐が顔を見せる。

 

「詩乃、こちらの戦況は小波を通して逐一伝えるから采配は頼むぞ。」

「狸狐………判りました。では聖刀さま!尾山攻め、お願い致します!」

 

 詩乃の真剣な表情に聖刀はいつもの笑顔で応えた。

 

「さあ♪ひと暴れしようかっ♪」

「「おうっ♪」」「「「はいっ!」」」

 

 鬼が大手門を開いて溢れ出して来たが、人修羅揃いの森衆、死を恐れぬ松平衆、白百合の松永衆を中心にした河内武士の三好衆が先を争って攻め掛かり、その様相は正にヤクザの出入りの様になった。

 桐琴が喜々として大手門に突入する後ろを雹子が兵を纏めて声を上げる。

 

「クソ野郎ども!三河者や河内者に遅れを取ったら承知しませんよっ!!鬼共は全て我ら森一家がぶっ殺してやりなさいっ!!」

『『『ひゃっはぁああああああああああああああああああああああっ♪』』』

 

 戦場には不似合いな振袖姿の雹子は愛刀の太平広を担いで近寄る鬼を片っ端から叩き伏せていく。

 松平衆では歌夜がゴットヴェイドー隊から一時帰参して陣頭指揮を取っていた。

 

(雹子さんには負けられません。手柄を立てて祉狼さまに褒めて頂くのは私です!)

「遠慮は要りませんよっ!!この一戦で三河武士の強さを日の本中に知らしめなさいっ!!」

『『『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』

 

 雹子に負けじと歌夜も愛槍の赤龍独鈷で迫る鬼を屠りながら大手門をくぐる。

 その後ろから槍を担いだ白百合が悠然とした足取りと余裕の笑みを見せて馬廻りと共に尾山御坊へと入っていった。

 

「何とも無粋な戦い振りよ。思わず我の血が滾ってしまうわ♪者共!河内武士が他の上方武士と違う所を見せてやれい!」

『『『おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』

 

 悠然とした足取りにも関わらず鬼が近付けば槍を一閃して瞬く間に塵に返す。

 その姿は見事な舞の様だった。

 

 前線の陣から主攻組の戦い振りを見ていた柘榴はその苛烈さに驚いていた。

 

「なんなんすかあれは!まるでキレた貞子さんの集団っすよ!正直、引くっす………」

「あら、柘榴だって先頭切って戦っている時は似た様な物じゃない♪」

「マジっすか!?…………嫁の貰い手が無くなる前に祉狼くんの嫁になれて助かったっす………」

 

 柘榴が胸を撫で下ろすのを笑った後、美空が再び尾山御坊に目をやると聖刀と狸狐も大手門から城内へと入っていくのが見えた。

 鬼が物陰に潜んでいないか必要以上に警戒する狸狐に対して、聖刀は無警戒に歩きながら話し掛けている。

 

「指揮をしている鬼は篭城戦が苦手なのかな?まさか大手門をいきなり開いてくれるとは思わなかったよ。」

「元が一揆を起こす者だからではないでしょうか?守るよりも攻める方が得意なのでしょう。」

 

 大手門に鬼の姿は何処にも無く、完全に殲滅された後だった。

 

「狸狐は鬼の動きに気が付いたかい?」

「は、はい。鬼が男に対しては爪や武器で襲い掛かり、女に対しては掴み掛かろうとしています。」

「ザビエルが鬼子を増やす為にそういった習性を付加したんだろうね…………」

 

 聖刀の声に珍しく怒りの色が混じっているのを、狸狐は聞き逃さなかった。

 

「聖刀さま、参られますか。」

「ああ。本当に暴れさせてもらうよ。」

「御意!」

 

 狸狐は用意してあった旗を広げ掲げた。

 日の本では見ない、金糸銀糸に彩られ、『魏』の一文字を染め抜いた紫紺の牙門旗。

 

「ザビエルっ!貴様の事だから姿見えずとも聞こえているだろう!貴様の所業は北郷一刀の子にして曹孟徳の子!この北郷聖刀子脩輝琳が決して許さんっ!!必ずや追い詰めてその野望を潰えさせて見せるぞっ!!」

 

 聖刀は母華琳から譲り受けた大鎌、曹魏の力の象徴『絶』を掲げて宣言した。

 

「狸狐、絶対に守ってあげるから、しっかりついて来て♪」

「はい!聖刀さまっ!」

 

 聖刀は城内を駆け抜け、白百合、歌夜、雹子を追い抜き、桐琴の横にまで追いついた。

 その間に目に付いた鬼は全て絶で首を刎ねている。

 

「ようやくお出ましか、聖刀♪」

「お待たせ、桐琴さん♪」

「狸狐もようついて来た♪それが聖刀の旗か、派手じゃのう。だが似合っておるわ♪」

「ありがとう♪」

 

 敵のど真ん中で聖刀と桐琴は笑い合った。

 

「良人と共に戦場に立って暴れるのは、まっこと気分爽快じゃっ♪」

「僕もだよ♪」

 

 聖刀と桐琴は狸狐を守りながら、襲い掛かってくる鬼を次々に切り捨て、周囲には塵となった鬼が霧の様に立ち込め、風に舞った塵が城外からは煙に見える程だった。

 

 

 

 

「煙?」

「火を放ったの!?」

 

 祉狼の傍に居た松葉と秋子にもそう見えた。

 

「いや、あれは煙じゃなく、鬼の死体が塵になって舞い上がっているんだ。」

 

 祉狼は傷を負った兵の治療を行いながら、小波から句伝無量で伝えられた情報を二人に教える。

 

「あれが鬼の塵!?御大将の三昧耶曼荼羅並に一度に鬼を殺さないとああはならないですよ!?」

「聖刀兄さんと桐琴さんが中心になって戦っている。聖刀兄さんの怒りも我慢の限界を越えてしまったな………」

「あの聖刀さまがお怒りになるんですか?」

 

 秋子はこの数日間に聖刀と会う度に微笑みを絶やさないので、優しげだが何処か掴み所の無い青少年という印象を持っていた。

 勿論それは聖刀本人がそう印象付ける為にしていたからなのだが。

 

「余程の事が無いと怒らないけど、怒った時の聖刀兄さんは容赦が無い…………華琳伯母さんの…曹孟徳の息子だからな………」

「………武王曹孟徳の………」

 

 秋子は思わず息を呑んだ。

 秋子の知識に有るのはこの外史の曹操だが、それでも祉狼の言葉の意味は正しく伝わった。

 

「また怪我人が運ばれてきた。」

 

 呟く様な松葉の言葉に祉狼と秋子が顔を上げると、ゴットヴェイドー隊の隊士二人が担架で松平衆の足軽を運んで来ていた。

 

「お頭!お願い致します!」

「毒抜きは木下さまがしてくださいました!」

「判った!」

 

 死を恐れない松平衆とは言え、毒を受けた苦しみに脂汗を流して痛みに耐えていた。

 祉狼は手甲から鍼を抜き氣を込める。

 

「はぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああっ!

 我が身!我が鍼と一つなりっ!

 一鍼胴体!全力全快!必察必治癒!病魔覆滅!!」

 

 秋子と松葉が今日何度も目にした凰羅の輝き。

 

「ゴットヴェイドオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 しかし何度見てもその眩さに目を奪われる。

 

「元気にっ!なれえぇええええええええええええええええええええええええっ!!!」

 

 鍼を刺して氣を送り込むと、傷口から残っていた毒がどす黒い血となって僅かだが噴き出した。

 その血が顔に掛かるのも気にせず、祉狼は傷口を確かめる。

 

「よし!毒は骨まで至っていない。後は薬と包帯で大丈夫だ♪」

「あ、ありがとう…ございます………祉狼さま………」

 

 毒による痛みが引いた事と祉狼の笑顔に励まされ、松平の足軽は安堵の笑顔を返した。

 

「薬と包帯、松葉がする。」

 

 それまでは黙って見ているだけだった松葉が祉狼の横にしゃがみ込んだ。

 

「ま、松葉ちゃん!?」

「大丈夫、秋子。鬼もここまで来ない。薬を塗って包帯を巻くくらい松葉にもできる。」

「そうか♪なら任せる♪」

 

 祉狼は松葉に塗り薬の入った壺を手渡す。

 松葉は今まで見て覚えた通りに、薬を指で掬って傷口に塗布した。

 

「ひぎゃぁあああああああああああああああああっ!!し、しみるぅうううううううううっ!!」

 

「男ならこれくらい我慢する。」

 

 暴れて逃げようとする足軽を押さえつけて包帯を巻いていく。

 その姿は治療と言うよりも捕縛しているみたいだった。

 

「松葉は………」

 

 包帯を巻きながらポソリと呟いた。

 

「松葉は戦なんて面倒くさいって思ってる。」

「うん。」

 

 松葉が何を伝えようとしているのか。

 祉狼は素直に聞き入った。

 

「でも、攻め込まれれば戦うし、脅かされる人が居れば助けたい。」

「うん♪」

「みんなが仲良くなれば戦なんか無くなるけど、現実はそんなに甘くない。」

「うん。そうだな。」

「でも、祉狼なら出来そうな気がする♪」

「俺ひとりでは不可能だ。みんなが力を合わせなければ……」

「違う。祉狼はみんなが力を合わせるきっかけ。祉狼が居なければみんなで力を合わせようなんて思わなかった。」

「………そうかな?」

「御大将と柘榴を見れば判る…………包帯巻き終わった。本陣に連れて行ってあげて。」

 

 足軽は再び担架に乗せられゴットヴェイドー隊士によって本陣に在る救護天幕へと運ばれて行った。

 見送ってから松葉は祉狼の顔を見る。

 

「御大将も柘榴も祉狼の喜ぶ事をしようとしてる。」

「そ、それって!」

 

 今のは秋子の声だ。

 秋子は顔を赤くして松葉と祉狼を見ていた。

 そんな秋子を松葉がジト目で見た。

 

「秋子…………変態。」

「へ、変態じゃありませんっ!」

 

 腕を振り回して誤魔化す秋子を無視して、松葉は話を続ける。

 

「御大将はきっと、始めは連合での立場を良くする為に祉狼に近づいた。でも、今はそんなの関係無くなってる。祉狼の笑顔が見たいから。祉狼が喜ぶ事はみんなが幸せになれる事だからしてる。」

「そうか………」

「松葉は御大将が祉狼を本当に好きになったらこうなるって思ってた。空さまと名月さまにも同じだから。後、愛菜にも。」

 

 祉狼は少し考えてから話し始める。

 

「俺は、人は全て家族だと教えられて育った。実際に今もそう思っている。だから病気や怪我で苦しむ人をひとりでも多く助けたい。俺も戦が嫌いだ。けれどそうしなければならない事も有ると、日の本に来て理解出来た。理解出来て更に戦を無くしたいと思った。俺を愛してくれる女性がずっと穏やかに笑ってくれる世の中にしたい。松葉が言う様に、美空が俺の為にみんなと仲良くしてくれるのも有難い事だと思うし、それで良いとも思う。そうしていずれはみんなが仲良くなれるのなら、俺がこの世に生を受けた意味が有ると思えるから♪」

 

 最後に祉狼は笑顔で締めくくった。

 松葉も祉狼に笑顔で応える。

 

「柘榴は凄い。きっと祉狼の良さをひと目で見抜いた。松葉も祉狼の嫁になる♪」

「ま、松葉ちゃんっ!?」

「秋子も祉狼の嫁になれば良い。歳や愛菜の事は気にしなくていいって、織田の大将も言ってた。」

 

 松葉に言われて秋子は目を伏せ、少し逡巡してから祉狼に頭を下げた。

 

「祉狼さんは……その…とても素晴らしい方だとおもいます………ですけど今は愛菜の事が心配で………」

 

 その言葉に祉狼は笑顔になった。

 

「秋子さんは愛菜の事を本当に愛しているんだな♪母親の顔をしている♪」

「そ、それは……人として当たり前の……」

 

 言い掛けて秋子は言葉に詰まった。

 甲斐の武田家、美濃の斎藤家の様に実の親子で争う事も有るのだ。

 

「聞いていないかな。俺には多くの伯母と従姉妹が居るのを。従姉妹達を見守って微笑む伯母さん達を見るのが俺は大好きなんだ。色んな伯母さんが居るんだ♪優しい人、厳しい人、小さい子を甘やかしてばかりの麗羽伯母さんや愛紗伯母さんみたいな人も居れば、翠伯母さんや霞伯母さんみたいに豪快な人も居て、見ていて飽きなかったな♪」

 

 真名を言われても誰の事か秋子には判らないが、祉狼の顔を見ればとても幸せな思い出なのが良く判った。

 しかし、祉狼の顔が急に悲しげな物に変わった。

 

「子供の頃はそれが当たり前だと思っていた。でも、母さんに連れられて孤児院に行った時にそれがとても特別な事だと思い知らされた。」

「孤児院?」

「俺が居た国には孤児を保護する施設が在るんだ。皇帝である一刀伯父さんたちが勅命で設立した物で、そこには戦や災害で親を失った子供や…………」

 

 祉狼の顔は更に沈痛な物になり、言葉を出せなくなっていた。

 秋子は祉狼に代わってその事実を口にする。

 

「親に捨てられた子供達ですね………口減らしの為に………」

 

 人買いに買われて下男下女として裕福な武家や商家に売られるならまだマシな方で、遊郭に売られる事もざらだ。

 売られた先を逃げ出し浮浪児になり、盗賊に身をやつすと言うのもよく聞く話だった。

 一刀たちや二刃は人身売買を否定し禁止させたいと思っているが、人買いとは人材派遣業でもあるので完全に禁止する訳にもいかず、それならばと法を整備した結果が『孤児院』である。

 悪徳な人買いから保護された子供は、親を失って孤児院に来た子供よりも心的外傷が大きく、初めて祉狼が孤児院に行った時に向けられた眼差しは一生忘れる事は出来ないだろう。

 

「俺は政を語れる様な性格じゃない……目の前に在る出来事に一喜一憂して突き進む事しか出来ない猪だ。だから俺は子供を心配する秋子さんを素敵だと思うし、守ってあげたいと思ったんだ♪」

 

 再び見せた祉狼の笑顔と、男性から生まれて初めて『守ってあげたい』と言われた秋子は、女心を揺さぶられ反応する事すら忘れて呆然となった。

 

「っと!済まない!俺みたいな若造が生意気だった…」

「い、いえっ!その様な事は全っ然っ!ありませんっ!わ、わたしを守るということは愛菜も守ってくださるのでしょうかっ!?」

 

 我に返ったと言うより、捕獲対象を定めた鷹の様な勢いで秋子は祉狼に詰め寄り手を取った。

 

「勿論その時は全力で守る!」

「それではっ!」

 

「祉狼くーーーーーんっ!怪我人連れて来たから直してあげて欲しいっすーーーーっ!」

 

 秋子が意気込んだ所で柘榴が怪我人を担いで走り込んで来た。

 

「判ったっ!その人をここに寝かせてくれっ!」

 

 祉狼は秋子の前から瞬時に移動して怪我人の具合を確かめ始め、秋子は祉狼の手を取った姿勢で決意を述べようと口を開けた状態で固まっていた。

 

「どうっすか♪柘榴だって祉狼くんのお手伝いができるんっすよ♪松葉も見てたっすよねっ♪」

 

 はしゃぐ柘榴に松葉は溜息を吐いた。

 

「柘榴………………間が悪い。」

「へ?どう言う意味っすか?」

 

 柘榴が可愛らしく小首を傾げると、背後からどす黒いプレッシャーがのし掛かって来た。

 

「ざ・ぐ・ろ゙・ぢゃ・あ゙ぁぁぁぁん゙………………」

「ヒィッ!」

 

 両肩を掴まれた柘榴が恐る恐る振り向くと、怨めしげな目をして滂沱の涙を流す秋子が居た。

 

「あ、秋子さんっ!?なななななな、なんなんっすかっ!?」

 

 結局この日、秋子は祉狼に嫁にしてくれと言い出す事が出来なかったのだった。

 

 

 

 

 尾山御坊の鬼は聖刀達の活躍により一日で殲滅され、翌日は周辺の捜索が行われた。

 

「この森を抜ければ加賀の領内じゃ!」

 

 その最中(さなか)に昴の率いるスバル隊が本隊に戻って来た。

 

「あれ?越後に向かっていた時に感じた鬼の気配が無くなってるわ?」

「昴♪本隊がもうここまで来てるの♪ほら、あっちこっちに味方の旗指物を掲げた隊が見えるのおっ♪」

 

 先頭を駆けている鞠が喜びの声を上げる。

 

「なんだよ、戻ったら尾山の鬼共をぶっ殺そうって楽しみにしてたのによぉ………」

 

 小夜叉の不満な声に笑いが起きる。

 戻って来た事を実感し、緊張が解けたのだ。

 

「ようし♪私達も旗を上げるわよっ♪」

 

 昴は肩に下げた麻袋から旗竿を引っ張り出した。

 

「本当にその袋はどうなっておるんじゃ?」

「内緒ですよ、沙綾さん♪あ、手綱をお願いしますね♪」

 

 手綱を沙綾に任せた昴は、旗を広げて両手で高々と掲げた。

 旗は蜀を示す緑色を基調にし、『孟』の文字を刺繍した昴専用の旗だ。

 

 

「スバル隊っ!無事任務を完遂し帰還しましたぁっ!」

 

 

 昴の声が聞こえた近くの部隊から歓声が上がり、スバル隊に向かって駆けてくる騎馬の姿も在った。

 白馬に乗った白銀の鎧。

 何より目を引くのは陽の光を浴びて輝く美しい金髪。

 

「お帰りなさい、昴さん♪任務完遂、おめでとうございます♪」

「ただいま♪エーリカさん♪」

 

 昴と挨拶を交わすエーリカを見た空と名月は口開け、驚きの表情を隠さずにエーリカに見入っていた。

 貞子は平静を装っているが内心は空や名月と変わらない。

 異人でこれだけの美人を見るのは初めてで、しかも日の本言葉を流暢に話すのだから当然の反応だ。

 しかし、沙綾、一二三、湖衣の三人は驚き以上に噂に聞いていた人物がどれ程の物か見定めようとしていた。

 因みに愛菜は貞子によって眠らされている。

 

「お初にお目に掛かります。私は織田家ゴットヴェイドー隊の長、華伯元祉狼の妻のひとりにして美濃明智城城主を任されておりますルイス・エーリカ・フロイス。日の本の名を明智十兵衛光秀と申します。」

 

 エーリカは聞いていた話より二人多い事に気が付いていたが、敢えて何も言わずに一礼した。

 その礼に対し、沙綾が応える。

 

「ご挨拶傷み入る。儂は長尾家家老の宇佐美沙綾定満じゃ。我が主、長尾美空さまと他三名が“祉狼様”にお世話になっておりましょう。」

 

 エーリカが久遠の家臣では無く祉狼の妻と自己紹介したのは、女としての主張などでは無く美空の話題に入りやすくする為の前振りであり、沙綾もそれが判ったので乗ったのである。

 

「美空さまと柘榴さんはメィストリァ…我が主を良人に迎えられました。松葉さんも昨日想いを伝えられたと聞き及んでおります。」

「ん?………もうひとりはどうなった?」

「秋子殿は愛菜さんを心配なさっておいででしたから………ですが私はその母親としての姿勢に聖母様の愛を見る思いでした。」

 

 エーリカが十字を切って祈りを捧げた。

 

(秋子はヘタレているだけじゃろうな。それよりも美空さまが天主教の司祭とも折り合いを着けている事が驚きじゃ。)

 

「美空さまは尾山御坊、今は金沢城と名を改めましたが、そちらで静養なさっておいでです。」

「静養っ!?まさか美空さまの身に何か…」

「お怪我やご病気などではございません。むしろ女性として健康な証と申しましょうか………」

「ああ…………成程、確かにその時期じゃな。」

 

 沙綾も美空の月経周期を把握しているので納得した。

 

「では皆様を金沢城へご案内致しましょう。」

「あ、ちょっと待って!エーリカさん!」

 

 昴が呼び止め一二三と湖衣に振り返る。

 

「あちらは甲斐武田の方で武藤一二三さんと山本湖衣さん。」

「甲斐武田の!?」

 

 エーリカが驚いて二人に注視すると、一二三はいつもの余裕を持った笑顔で、湖衣は恥ずかしそうに一二三の陰から一礼する。

 

「初めまして、明智十兵衛殿♪」

「は、初めまして………」

「は、はい…………初めまして………」

 

 美空の家臣かと予測していたエーリカは戸惑ったが、即座に久遠達へ知らせるべきと判断した。

 

「昴さん。どなたか先触れを出して頂けますか?私の隊の者では事態を正しく本陣に伝えられないでしょう。」

「あ、そうよね!ええっとそれじゃあ…………」

 

「はいはいはーーーい♪犬子が先触れしたいわん♪」

 

 元気よく両手を挙げて犬子が立候補した。

 

「いいの?犬子ちゃん。」

「あのお城、越後に往く時に見て何だか気になってたの♪一足先に見てみたいなぁ~って♪」

 

 金沢城と言えば正史では前田利家の居城となった事で有名である。

 どうやら犬子にその影響が現れているらしい。

 

「おい、犬子。お前、ちゃんと説明できるのか?」

「和奏ってば犬子のことバカにしてるぅ!犬子はちゃんと説明できるもん♪」

 

 犬子が頬を膨らませて怒るのを昴は心の萌えフォルダーに保存しながら笑顔で犬子に頷く。

 

「それじゃあ犬子ちゃん。先触れお願いするわね♪」

「はーーーい♪いってきまーーーーすっ!!」

 

 犬子は馬腹を蹴って金沢城へ向けて飛び出して行った。

 

「さあ♪私達も向かいましょう♪」

 

 エーリカを先頭に一行は、早足程の速度で犬子の後を追って金沢城へと向かったのだった。

 

 

 

 

「空っ!名月っ!」

「「美空お姉さまっ!」」

 

 金沢城の馬出で美空は空と名月を抱き締め、涙を流して無事を喜んだ。

 空と名月も美空と再会出来た喜びに声を上げて泣き出す。

 

「愛菜っ!」

「母上ぇえええええっ!」

 

 秋子と愛菜も声を上げて泣きながら抱き合っていた。

 

「ご無事で何よりっす、うささん♪貞子さん♪」

「お疲れさま、うささん。貞子。」

「お主らも無事の様じゃな、柘榴。松葉。」

「お前はもう少し感情を表せ、松葉………」

 

 越後家臣団もお互いの無事を喜び合った。

 彼女達の再会に水を差さない様に、久遠は少し離れた場所で昴から帰還の報告を聞いている。

 

「苦労♪よくぞ大役を果たした。」

「はっ!ありがとうございます!」

 

 昴は片膝を着いて久遠から労いの言葉を受け取った。

 

「お前達も苦労。よくぞ昴から美空と秋子の娘を守った♪」

『『『はいっ♪』』』

 

 和奏達もやりきったと笑顔で返事をした。

 

「え〜?」

「ははは♪冗談だ♪………二割はな♪」

「…………八割本気なんですね………」

「まあそれよりもだ。犬子の先触れで大まかな事態は把握した。」

 

 久遠はスバル隊の後ろに控える一二三と湖衣に視線を向ける。

 久遠の横には一葉と他にも主だった将が集まっていた。

 

「武田の者だそうだな。面を上げよ。」

「はっ!武田大膳大夫が家臣。武藤喜兵衛昌幸、通称を一二三と申します。」

「お、同じく、山本勘助春幸、通称を湖衣と申します。」

 

 一二三と湖衣の顔を見て一葉が先に声を掛ける。

 

「ほう、光璃に『我が耳、我が眼』と言わせた武藤と川中島で名を馳せた『勘助』か。」

 

 二人は返答に窮した。

 目の前の人物に直接声を掛けて良い物かと迷っているのだ。

 

「やはり余の顔を知っておるな♪大方前の川中島の仲裁の時に光璃が連れて来た供回りの中におったのじゃろう♪良い、ここは戦場じゃ。御簾など無いのじゃから、そう心得よ。」

「「はっ!」」

 

 二人は深く頭を下げ一葉の言葉に恭順の意を示した。

 

「で、今一度お主達からこの場に居る意味を聞かせてくれ。」

 

「畏まりました。それでは……………」

 

 一二三が昴に聞かせた話を改めて語った。

 

「………という次第にございます。」

「デアルカ。駿府がその様な状況とはな………」

「じゃが、よくまああの光璃が美空と和解しようと決断したものじゃ。…………成程、北条か。」

 

 一葉が納得したのは名月の存在だ。

 今川義元が討たれて直ぐに北条は甲相駿三国同盟を破棄して名月を美空の養子に出して越相同盟を結んだのだ。

 武田としては手痛い裏切り行為と非難して然るべき所だが、光璃は敢えて黙した。

 駿府の信虎、そして砥石城でも猛威を振るった鬼の出現が光璃を慎重にしたのだ。

 光璃の密命を受けた一二三と湖衣が越後の変事に気付けたのは僥倖だろう。

 今の越後を助け貸しを作る事は北条に対しても武田は再度同盟を結ぶ切っ掛けに出来るからだ。

 

「我は武田へ連合に参加を呼び掛ける文を出したが、行き違いの様になってしまったな。武田大膳大夫は動くか?」

「はい。御屋形様本人は駿府の動きを封じる為に動けませんが、名代として武田典厩が春日山城解放の援軍を率いて海津城に詰める手筈となっております。恐らくは既に到着している頃かと。」

「手が早いな♪その海津城から春日山城までどれ程の距離だ。」

「ここからの進軍と同時に早馬を出せば、ほぼ同時に春日山城に到着出来る距離。と、いった処です。」

「デアルカ。ならば日を置かず明日の朝には進軍を再開するべきであろうな。」

「その事ですが、ひとつ問題がございまして………」

「ん?何だ?申してみよ。」

「美空さまを守る軒猿の警戒が厳しく、この金沢の地に私の配下である吾妻衆が近寄れません♪」

 

 一二三は久遠の前で初めて笑顔を見せた。

 それは少々おどけた物ではあるが、それまでの深刻な雰囲気を和らげる物であった。

 

「それは美空達が落ち着いてから頼むしかあるまい♪」

 

 久遠も冗談めかし笑って応える余裕を見せる。

 実際今後の事で見通しが明るくなったので、人目の無い所ならもっと喜んでいたに違いない。

 

「それならもう大丈夫よ。越後を取り戻す為ですもの、軒猿には直ぐに取計らうわ。」

 

 美空が両手に空と名月の手を握り、揃った越後衆と共に話に加わった。

 

「美空、もう良いのか?」

「積もる話は後でゆっくりするわ。それよりも…………まさかあんた達が来るとはね。」

 

 美空は呆れた顔をして一二三と湖衣を見た。

 

「人の縁とは斯も奇な物、味な物と言うでは有りませんか♪」

「あんたのその笑顔が信用ならないのよ!一徳斎といい、昌輝といい、あんたといい!ほんっとーにいやらしい一族ねっ!」

「国人衆は領地領民を守るのに必死なだけですよ♪」

「あんたらが変に引っ掻き回すから川中島で何度も戦う羽目になったんでしょ!」

 

 横で聞いていた幽が美空と一二三の間に割って入る。

 

「あのぅ、こちらの武藤殿は真田一徳斎殿とはどの様なご関係で?」

「三女よ!光璃が気に入って武田の血縁である武藤家の養子にして跡を継がせたのよ!」

「ほほう、それ程の逸材ですか。」

「周りの顔色を伺って立ち回るのが上手いだけよ!」

「それは国人衆なれば仕方のない事でしょう。特に交通の要衝な上に周りを大大名に囲まれては。そんな国人衆を上手に取り込んで見せるのが大名の器では?」

「うっ…………痛い所を突くわね…………」

 

 美空が言葉に窮した処で沙綾がやれやれと助け舟を出した。

 

「まあまあ、細川殿。そう美空さまをいじめてくれるな。美空さまも、儂らの脱出に力を貸してくれた恩人にその言いようはいけませんぞ。」

「わ、判ってるわよ…………この度の人質救出に力を貸してくれた事、感謝しているわ。ありがとう。」

 

 一二三は笑いながらも黙って頭を垂れ、その後ろで湖衣が小さくなっていた。

 

「さて、春日山城を取り戻す算段も大事じゃが、儂としては先ず美空さまの良人殿にご挨拶がしたい………おっと、これは正式なご挨拶もせず、無礼、平にご容赦を、公方様。」

「よいよい♪叱られる美空という珍しい物が見れたのじゃ♪これ以上の挨拶は無いぞ♪」

 

 笑う一葉を美空はぐぬぬと唸って睨んでいる。

 

「では、織田上総介様に改めてご挨拶を。我が名は宇佐美良勝定満。美空さまの家老にして琵琶島城主を努めております。通称は沙綾ですじゃ。美空さまから聞き及んでおいでとは思いますが、こんな(なり)をしておりますが中身は婆ですので亀の甲よりは役に立ってみせますぞ♪」

「うむ♪我の通称は久遠だ。よろしく頼む♪」

 

 久遠は見た目よりもその風格から正しく沙綾の歳を理解した。

 どこか半羽を思い出す雰囲気に、思わず笑が溢れる。

 沙綾は一歩引いて道を開けると空と名月に振り返った。

 

「さあ、公方様と久遠さまにご挨拶を♪」

 

 言われて二人は美空の手を離し、緊張した面持ちで一葉と久遠の前に出る。

 

「は、はじめまして、な、長尾空景勝です………」

「お、おはつにおめにかかかりますわ!北条名月景虎ですわ!」

 

 緊張して挨拶をする二人に久遠と一葉の目が思わず細まる。

 

「我の事は久遠と呼ぶが良いぞ♪」

「余の事も通称の一葉で呼ぶのじゃぞ♪」

「「はい♪久遠さま♪一葉さま♪」」

 

 空と名月の笑顔に久遠と一葉は心が癒される気分だった。

 そして一瞬で目を吊り上げて美空を睨む。

 

「おい美空!貴様、こんな可愛い娘を二人も養女にするなどずるいであろう!」

「まったくじゃ!どちらかひとり余に寄こせ!」

「あげないわよっ!!一葉さまには双葉さまって妹が居るし、久遠には市が居るでしょう!これも御仏のお導きなのだから、二人ももっと信心を持てば良い出会いがあるわよ!」

「「むむ………坊主の様な事を………」」

「今は還俗してるけど、私は元々仏門の人間なのっ!!」

 

 

「どやぁあーーーーーーーーーーーーーっ!」

 

 

 突然の大声に注目が集まる。

 

「「どや?」」

 

 声の主は勿論愛菜だった。

 

「この度は我が愛しき主長尾空景勝さまと、北条名月景虎さまをお救いくださり、誠に感謝感激恐悦至極でございますぞっ!どーーーーーーーーーん!」

 

「「どーん?」」

 

 久遠と一葉は目を点にして愛菜を眺めていた。

 

「この越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続はぷぎゅ!」

「愛菜!静かになさいっ!」

 

 愛菜は秋子からゲンコツを貰って気絶した。

 

「………………秋子、それがお主の娘か?」

「は、はい!誠に申し訳ございませんっ!!」

「いや………その…………苦労。」

「…………その………大事にしてやれ………」

 

 久遠も一葉もそれ以上の言葉が見付からなかった。

 そして最後に貞子が前に出て片膝を着く。

 

「この度のご助力、誠に感謝の言葉もございません。私は小島慶之助貞興。通称は貞子と申します。武一辺倒の無骨者故この御恩は槍働きにて必ずや報いてご覧にいれます!」

「デアルカ♪」

「ほほう♪お主が『鬼小島』か♪小夜叉とはもう死合ったのか?」

「え!?い、いえ………」

 

 言い淀む貞子の後ろから、その小夜叉の声が掛かる。

 

「殿と公方の姉ちゃんからも言ってやってくれよ!オレの事ガキ扱いして死合おうとしねぇんだよ!」

「デアルカ。貞子、遠慮はいらんから全力で相手をしてやってくれ♪」

「小夜叉の後で余もお主の腕を試してやろう♪」

「公方様が私などの相手をなさって下さるのですかっ!?」

 

 貞子の驚きは喜びの驚きだ。

 剣豪将軍と名高い一葉と刃を交えるなど、夢のまた夢と思っていたのだ。思わぬ所でその夢が叶うとなればやらない理由は無い。

 

「先ずは小夜叉の相手をしてやってからじゃぞ♪」

 

 小夜叉の腕は認めていたが、越後武士である貞子は子供相手に刀を振るう事に抵抗を感じずにはいられなかった。

 

「貞子さんがやるなら柘榴もやりたいっすーーー♪」

 

 柘榴はその点珍しがって、貞子とは逆の発想の様である。

 

 その時、大手門にゴットヴェイドー隊が戻って来た。

 

「済まない!少し離れた村で生存者を見付けて保護していた!昴が帰って来たと知らせを受けたが……おっ♪昴っ♪無事に任務を果たしたかっ♪」

 

 馬から下りて昴に駆け寄る祉狼を貞子、沙綾、空、名月、愛菜、一二三、湖衣が注目する。

 

「和奏ちゃん達が居てくれたから楽勝よ♪みんな大活躍だったんだから♪」

「おお!そうか♪みんな凄いなっ♪」

「鞠がんばったの♪祉狼お兄ちゃん♪」

「父上♪夢もがんばったですよ♪」

「雀もがんばったよーー♪ほめて、ほめてーー♪」

 

 兄として慕ってくれる彼女達を、祉狼は頭を撫でて労った。

 その祉狼の前に沙綾が立つ。

 

「ええと………貴女が宇佐美さんだな♪初めまして、華旉伯元祉狼です♪」

 

 祉狼はしっかりと目上の者に対する挨拶をした。

 すると沙綾は大陸式の包拳礼で祉狼に頭を下げて見せる。

 

「お初にお目に掛かります。我が通称は沙綾でございます。どうか美空さまの事、末永くよろしくお願い致します。」

「あ、ああ………それは絶対に約束するが…………頭は上げて下さい。沙綾さんにとっては主君の良人だからだろうけど、俺はこんな若造だ。沙綾さん程の年長者にそんな態度を取られては落ち着かない………」

 

 沙綾は祉狼の反応が自分の予想以上だったので相好を崩した。

 

「ふふ♪では祉狼さまには母親の様に接しても宜しいかな?」

「ああ♪俺には六十人以上いる伯母が全員母親みたいだったから、今更ひとり増えても問題ないさ。俺もその様にさせてもらうよ♪」

 

(ふむ、昴とは違いとても素直な少年じゃの。これならば美空さまが気に入りそうじゃわい♪)

 

「そうそう、それと儂は昴の嫁になったから、そちらも宜しく頼むぞ♪」

「それはこちらこそ、昴の事をよろしくお願いします♪」

「はっはっはっ任されよう♪しっかりと調教、いや監視、いや面倒を見てやるわい♪さて、それでは美空さま…」

 

シャキン!

 

「(……………美空さま…)」

「(ええ………柘榴、松葉、秋子………)」

「(はいっす!)」「(了解。)」「(貞子、これは預かっておきます。)」

「え?そんな!」

 

 僅かに聞こえた鍔鳴りに美空達は素早く反応し処理をした。

 貞子には困った癖が有り、好きになった男性を見ると極度に緊張するのだがそこまでなら可愛いで済ませられた。

 問題なのはその間中、刀を抜き差しし続けるのだ。

 相手の男は普通逃げ出す。

 更に貞子は好きになった相手が気になってそっと物陰から見守る事が多くなるのだが、その際にも刀を抜き差しし続けるので、相手の男は命を狙われていると思い美空に暇乞いを出して春日山城から去って行くというのが常だった。

 今も貞子は祉狼に一目惚れしたと美空達には察しが付いた。

 しかし、ここで刀をシャキンシャキンし始めたらどんな騒動が起こるか火を見るより明らかだ。

 実際に小波の殺気が既に痛い程感じられている。

 貞子に殺気が無いから気が付いたのが小波だけなので、まだこの場は誤魔化しが効くと柘榴と松葉が腕を押さえ、秋子が刀を取り上げたのだった。

 

「し、祉狼♪これは小島貞子貞興って言うの♪………………お願いだから仲良くしてあげて………」

 

 貞子の事が不憫で美空は思わず涙が出ていた。

 

「?………ははは♪美空はおかしな事を言うな♪そんなの当たり前じゃないか♪よろしくな、貞子さん♪」

「よ、よろしくお願いしますっ!し、祉狼さまはおっぱいの右と左!どっちが好きですかっ!?」

「は?」

「ちょっと貞子っ!あんた何を口走ってるのっ!!」

 

 流石にこれは駄目だと美空は決断し、三人に貞子を祉狼から遠ざける様に目配せした。

 

「さ、貞子は疲れているのよ!さあ、空、名月、挨拶をなさい♪」

 

 まるで今のは無かった事にするかの如く、美空は二人の背中を押して促した。

 

「は、はい、美空お姉さま…」

「あら、ご挨拶ならわたくしが先よ♪わたくしは北条三郎景虎。通称は名月ですわ♪お父様♪」

「おとうさま?」

「わたくしは美空お姉さまの養子ですもの♪美空お姉さまの良人となられた祉狼さまはわたくしのお父様ですわ♪」

「ちょ、ちょっと名月!」

 

 美空は名月を止めようとするが、その顔はにやけていて行動も緩慢だ。

 

「成程………」

 

 祉狼はそう呟いただけで空の目を見て微笑む。

 

「あ………私は長尾喜平次景勝です♪通称は空………です、お父様♪」

「名月と空だな♪二人共、俺の事を父と認めてくれて嬉しいぞ♪」

 

 祉狼の優しい笑顔と言葉に名月と空も一層の笑顔を見せる。

 しかし、祉狼の顔は一瞬で真剣な物に変わった。

 

「父親と認められたからには叱るべき時には叱らねばならない。」

 

 美空は祉狼の様子に驚いて止めに入ろうとしたが、沙綾が腕を掴んで引き止める。

 オロオロする美空に沙綾は無言で頷き、黙って祉狼を見る様に示した。

 

「先ずは名月。」

「は、はい!」

 

 祉狼から感じる威圧感は、生母である北条氏康の怒った時にそっくりで、名月は膝がカクカクと震え出した。

 

「名月と空は姉妹になったのだから仲良くしなければ駄目だ。」

「は…………はい………」

 

 目に涙を浮かべ、蚊の鳴く様な声で返事をする。

 

「そして空はもっと自分の言いたい事を口にするんだ。言葉にしなくても判ってくれる人はいる。だけどそれは極一部の人だけで、言葉にしなければ大抵の人には伝わらない。空も美空の後継者として大人になれば人の上に立たねばならないんだ。少しずつでも構わないから言葉に強い意思を込められる様に心掛けるんだ。」

「……………はい………」

 

 空もか細い声ではあったが、祉狼の言葉には励ましの想いが込められている事を感じ取り、言われた通りに自分も勇気を言葉に込めて返事をした。

 

「よし♪二人共良い子だ♪最初からお説教になってしまって済まなかったな♪」

 

 祉狼は名月と空を抱き締めて優しく頭を撫でる。

 

「でも、これは二人が美空の娘だと胸を張って言える人物になって欲しいから厳しくするんだ。俺は全身全霊を賭けて名月と空を守ると約束する!困った事や助けて欲しい時は呼んでくれ!必ず駆け付ける!」

 

「「………お父様♪」」

 

 名月と空も祉狼に甘える様に抱きついた。

 

「そうだ♪二人には俺の尊敬する義姉妹の話をしよう♪その人達は三姉妹で、生まれた日は違っても死ぬ時は同じ日に死のうとまで誓ったんだ。」

 

 美空は胸を撫で下ろして大きく深呼吸をする。

 沙綾も祉狼がここまで子供慣れしている事に舌を巻いた。

 祉狼には妹の三刃と多くの従妹が居るので、これくらいは極普通の出来事だ。

 

「あいやまたれい!」

 

 ここで空気を読まずに登場するのは意識が戻ったら愛菜だった。

 秋子は貞子を押さえるのに手一杯で愛菜を止める事が出来ない。

 

「愛菜こそは越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続とは愛菜のこと!どこの馬の骨ともわからない輩が、いきなり空さまの父親と名乗るなど笑止千万!どやっ!」

 

 久遠や一葉は愛菜が二度目の登場なので今度はよく観察し、同時に祉狼がどう対処するか面白そうに眺めている。

 祉狼と一緒に戻って来たゴットヴェイドー隊の面々は愛菜を見て頭上に『?』を大量生産していた。

 

「何ですの、あの子は?ハニーを馬の骨扱いするなんて!」

「本人が樋口愛菜兼続と名乗っている所から、おそらくは秋子殿の養子となった子だと思われますが………」

 

 梅にそう説明する詩乃自身もはっきり言って自信が無かった。

 詩乃の横で雫が苦笑いをしながら付け足す。

 

「そう言えば秋子殿も『変な子』と仰ってましたから多分間違い無いかと………久遠さまも一葉さまも笑っておいでですから、ここは祉狼さまがあの子をどう扱うか我々も黙って見ているべきでしょうね。」

 

 そんな外野の声は当然愛菜の耳には届かず、祉狼に指を突きつけていた。

 

「どの様な甘い言葉で空さまを誑かそうと!空さま一の家臣、樋口愛菜兼続が身命を賭してお守りする所存!どーーーん!」

 

 そんな愛菜を祉狼は楽しそうに見つめていた。

 

「いざ!尋常に勝負!えい!とーーー!やーーーー!!」

 

 殴り掛かる愛菜だが、祉狼が愛菜の頭を押さえただけで拳はまるで届かない。

 

「ふー!ふー!…………どやっ♪」

 

「(あの子勝ち誇ってますわよ?)」

「(あれはあれで可愛らしくはありますが………)」

「(祉狼さまはどうなさるおつもりでしょう?)」

 

 祉狼は押さえていた手に違和感を覚えて眉をひそめる。

 

「ん?瘤が出来てるじゃないか!誰がこんな事をっ!!」

 

 祉狼の言葉に秋子が顔を伏せた。

 

「痛かっただろう。大丈夫か?」

「ふ♪この程度の傷!越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続にはどうという事はないですぞっ!どやっ♪」

「ははは♪我慢強いんだな♪でも俺は医者だ。怪我人が目の前に居るのに黙っている訳にはいかない!」

 

 祉狼が氣を練り始めると、愛菜にも何か様子がおかしいと判った。

 

「はぁあああああああああああああっ!!」

「な、なにごと!?ですが愛菜は決して逃げなど………」

 

「痛いの!痛いの!飛・ん・でっ!いけぇえええええええええええええええええええええええっ!!」

 

 祉狼の手が光って愛菜の頭を包み込む。

 愛菜はその温かさに顔が緩んでいった。

 

「さあ♪どうだ?もう痛くないだろ♪」

「……………あ、ホント………」

 

 愛菜は両手を自分の頭に置いて痛みが無くなっているのを確認していた。

 そんな子供らしい仕草に祉狼は更に頭を撫でて声を出して笑う。

 

「はははは♪愛菜♪元気が良いのは良い事だ♪だが、空だけではなく名月とも仲良くして欲しいな。」

「名月さまとも………」

 

 愛菜が振り向けば名月がこちらを見ており、その横で空も頷いていた。

 

「愛菜の愛はそんな小さな物なのか?もっと大きく!もっと広く!もっと深く!全ての人を愛すればみんなが幸せになれるぞ!俺と一緒に空と名月を守るんだっ!!」

 

 祉狼は炎の凰羅を背中と瞳に燃やし、熱血スポ根オヤジの様に腕を組んで仁王立ちをする。

 

「お、おう………」

 

 流石の愛菜も熱血モードに入った祉狼に圧倒されていた。

 

「越後きっての義侠人ならば!次は日の本一の義侠人を目指すんだっ!」

「日の本一の義侠人っ!!」

 

 圧倒されていた愛菜の目にも炎が燃えた!

 

「見ろっ!愛菜っ!あれが義侠人の星だっ!!」

「愛菜はやるぜっ!父ちゃんっ!!」

 

 昼の日中に星が見える訳は無いのだが、祉狼が空を指差し、愛菜もその先を見つめて涙を流している。

 空と名月は意味が判らずポカンと口を開け、美空も祉狼の新たな一面を見て冷や汗を流して曖昧な笑いを見せていた。

 沙綾は祉狼と愛菜を放っておくと、この寸劇がいつまでも終わらないと思い無理矢理割り込むことにした。

 

「祉狼どの。愛菜も祉狼どのを父と呼び慕ったようじゃ。ここは秋子も祉狼どのの嫁にしては下さらぬか?」

「それには答えられない!」

 ドガシャンッ!

 

 キッパリと言い切られ秋子がぶっ倒れた。

 沙綾は冷や汗を流し後ろを振り返らず祉狼の説得を試みる。

 

「あ、秋子の何処が気に入らぬ?歳と言われたらちと苦しいが…」

「いや、秋子さんは素晴らしい女性だ。俺が言いたいのは本人の了承も無いのに返事は出来ないという意味だ。」

「何!?ならば話が早い!ほれ、秋子!そんな所で突っ伏しておらんでさっさと告白せいっ!!」

 

 秋子はバネ仕掛けの絡繰の様に跳ね起きて祉狼の下へ駆け寄り、スライディング土下座で土埃を舞い上げる。

 

「どうか私も祉狼さんの嫁にしてくださいっ!!」

 

「あ、ああ…………お、俺で良ければ…………」

 

 流石の祉狼も気圧されて、腰が引けた状態で返事をした。

 

 

「そ、それでは私もお願い致しますっ!!祉狼さまっ!!!」

 

 

 殆ど絶叫に近い大音声に振り向けば、貞子が柘榴と松葉を引きずって直ぐ傍まで来ていた。

 

「こ、こちらこそ…………よ、よろしく…………」

 

 こうして越後勢で沙綾以外の大人達は全員が祉狼の嫁となる事が決まった。

 結菜は美空から事前にこうなるだろうと聞いていたので動揺は無いが、松葉、秋子、貞子の初夜をどの時期でするか頭を悩ませている。

 そして昴は空、名月、愛菜が祉狼に懐いたのを見てどう思っているのかというと……。

 

「ふふふ………ここまでは予定通り。ここからが勝負よ♪」

 

 幼女を狙う変態の本領を開放しようとしていた。

 

 その昴を後ろから見ている和奏達スバル隊の面々は溜息を吐いている。

 

「(こりゃしばらく原隊復帰は無理そうだな…………)」

「(雛達で昴ちゃんを見張ってないと、絶対に空ちゃん達を蕩すよねぇ………)」

 

 これに関しては沙綾という知恵袋を手に入れた事で余裕はある様だ。

 

 更にそんな連合の人間模様を鋭く観察しているのが一二三と湖衣だった。

 

「これは中々面白い事になっているね♪」

「まだ田楽狭間の天人で最後のひとりを見ていないよ、一二三ちゃん。」

「まあ、それも直ぐに会えるだろうさ♪御館様への報告の為にもしっかりと見極めなければね。それと祉狼くんの奥向きを管理されている斎藤帰蝶様とも話をしなくては♪」

「はぁ…………祉狼さまを見ていると女の浅ましさを見せ付けられるみたいで………心が痛みますよ………」

「おや♪湖衣も祉狼くんに惚れたのかな♪」

「ち、違いますよっ!し、祉狼さまが真っ直ぐな気性の方みたいですから、つい心配になったと言うか………」

「確かに真っ直ぐ過ぎて女にコロリと騙されそうではあるね♪今の所そんな人は見当たらないみたいだけど、その為にも帰蝶様との話は重要になる。」

 

 一二三は目を細めて祉狼の周囲に集まる女性達をつぶさに観察するのだった。

 

 

 

 

 尾山御坊改め金沢城の大広間で早速軍議が開かれた。

 顔触れは久遠、壬月、麦穂、雹子、エーリカ、詩乃、雫、松、葵、悠季、眞琴、一葉、幽、白百合、美空、秋子、沙綾。

 そして聖刀と狸狐に、祉狼の奥向きを管理する結菜、双葉、四鶴、慶。

 これに一二三と湖衣を加えた二十五名が今後の作戦を話し合っている。

 

「では能登の鬼は壬月と麦穂に任す。向後の憂いを断つ為にも鬼共を尽く根切りに致せ!」

「御意!」

「畏まりましてございます。」

 

 織田勢の主力である柴田衆と丹羽衆を背後に置くのは最悪の場合の逃げ道を確保する為だ。

 

「しかし美空。本当に春日山城を潰してしまって構わぬのか?」

「どっかの誰かさんが事細かに縄張り図を作ってくれちゃったんだから仕方無いでしょ。」

 

 幾ら味方になったとは言え、他国の者に拠点となる城の全てを知られてしまっては防衛などままならないのだ。

 しかもそれが海津城を普請した湖衣が調べたとあっては尚の事だ。

 

「今後は城下も含めて京みたいな結界になる普請をしなくちゃ、あのザビエルに対抗できないしね。」

 

 美空の言う通り、今のままでは取り返した土地も簡単に奪い返されてしまう。

 宇佐美屋敷が鬼の侵入を阻む事が出来たと聞き、現在は簡単ではあるが金沢城にも結界を施してあった。

 しかし、だからと言って納得出来ない秋子は涙を流してさめざめと泣いている。

 

「うぅ…為景公の大改修から今まで攻め込まれた事すら無かった天下の堅城の春日山城が………初めて攻めるのがまさか御大将だなんてぇ………」

「諦めの悪い奴じゃな。ザビエル相手では意味が無いと判った上に、人に対しても用をなさなくなったのじゃ。美空さま、いっその事新たに城を普請いたしますか♪年を取ると山城は堪えますでな♪」

「あら、それじゃあ秋子の所領の直江津にでもしようかしら♪海の傍で良さそうだし♪」

「直江津ですか♪新鮮な魚が毎日食べられますな♪」

 

「いい加減にしてくださーーーいっ!」

 

 秋子がキレたので美空と沙綾はからかうのを止めにした。

 

「さて、そう言う事なら遠慮はせんが………問題は春日山城に残された晴景達となるな。」

「それこそ城と一緒に潰したって構わない………って、言いたいけど………祉狼が悲しむでしょうね。」

 

 この場に祉狼が居ないのは、この話を聞かせたくなかったからだった。

 

「沙綾が見た感じではどう?バカ姉達の様子は。」

 

 沙綾は一度目を伏せて、沈痛な面持ちで応える。

 

「………我が屋敷からでも鬼に犯されよがり狂う女達の声が聞こえておりました。あの様子では心が既に壊れておりましょう………朝倉殿はよくぞ堪えなさった。儂とて同じ目に遭っておったら、とても正気ではいられますまい。」

 

 この場に居るのは聖刀以外全員女性だ。

 彼女達は自分に置き換えた場合を考える。

 以前の彼女達ならば迷わず自決を選び、自決が出来ない延子と同じ状況になったら誰でもいいから殺してくれと願うに違いなかった。

 しかし、今は延子という実例を目にしてしまった。

 鬼に穢されたとしても祉狼ならば(いた)わってくれる。そして、変わらずに愛してくれるだろう。

 逆に穢された自分を許せないと死を選べば、祉狼が悲嘆に暮れると判っている。

 武士の誇りと祉狼の魂。

 どちらを選ぶかと自問した時、彼女達は自分が女で在る事を痛感した。

 では、自分は延子の様に正気を保って耐える事が出来るのか。

 助け出された時に祉狼の顔をまともに見る事が出来るのか。

 死を選ぶよりも辛いに違いない。

 それでもその覚悟が無ければ祉狼を愛する資格が無いのだと自らに言い聞かせた。

 

「それでも祉狼さまが望まれるのであれば!わたくしは春日山城に残る女性達を救け出しますっ!」

 

 強く叫んだのは雹子だった。

 全員が注目する中、雹子は言葉を続ける。

 

「祉狼さまはわたくしの心に棲む鬼も退治して下さると約束して下さいました!祉狼さまならばその方達の壊れた心も治して下さいます!」

 

 雹子の戦い方が以前とは変わっている事は、共に戦場へ立つ者は知っていた。

 『鬼兵庫』の『鬼』を退治出来るのならば、心の壊れた晴景も癒す事が出来るだろうと気持ちが傾く。

 

「ちょっといいかな?」

 

 それはこの部屋で唯一の男性で、祉狼の従兄である聖刀だった。

 聖刀の口元からいつもの優しげな微笑みが消えている

 仮面から覗く瞳も強い意が感じられた。

 

「その女性達を助け出したとして、その女性達は正気に戻った時に春日山城で受けた辱めの記憶に耐えられるのかい?」

 

 聖刀は美空、沙綾、秋子に問い掛けた。

 

「無理ね。直ぐに再び正気を失うか、耐え切れずに自害するでしょう。」

 

 美空が聖刀の目を見て、キッパリと言い放つ。

 

「つまり、どちらにしても祉狼が苦しむ結果になる。だったら僕は春日山城と運命を共にさせる方を選ぶよ。」

 

 聖刀も非情に言い切った。

 聖刀からこんな言葉が出るとは思っていなかった詩乃や双葉が息を飲んだ。

 その様子を目敏く察した白百合が静かに口を開く。

 

「聖刀さまの言われる通りであるな。これも武士の情け。祉狼どのには辛かろうが、これもまた救いの道と教えねばならぬ。」

 

 白百合の言葉に祉狼の妻達は武士の心構えを思い出す。

 自分達は武士であり、春日山城に残った彼女達もまた武士だという事も。

 

「祉狼を諭すのは僕がしよう。みんなは祉狼を慰めてあげてね♪」

 

 聖刀の口元に笑みが戻った。

 久遠達はここで聖刀に頼る自分が妻として情けないとも思うのだ。

 

「その説得は我もする。」

「それなら私もよ。直接手を下すのは私なんだから!」

「では、余もであろうな。三昧耶曼荼羅だけでは春日山城全てを網羅しきれまい。三千世界が合わさればまず大丈夫じゃ。主様を諭すのは正室としての役目じゃろうしな。」

 

 久遠、美空、一葉。三人の正室が名乗りを上げた。

 そして更にもうひとり、葵が前に出る。

 

「美空さまと一葉さまの御家流だけでは祉狼さまは生存者を探しに飛び出されるかも知れません。最後にこの葵の御家流で止めを刺しましょう。」

 

 葵の御家流と聞いて久遠が不思議そうな顔をした。

 

「葵に御家流が使えたとは初耳だが、どの様な技だ?」

「はい。妙見菩薩掌といって、その名の通り妙見菩薩の加護を賜り菩薩の掌を天空より召喚し、全てを押し潰す技です。今まで久遠姉さまにもお教えしてこなかったのは松平家秘中の秘故……お許し下さい。」

「別に咎めたりはせん。むしろここで明かしてしまって良かったのか?」

「はい。祉狼さまには歌夜と小波、そして大事な妹をお預けするのです。強くなっていただく為なら、祉狼さまの恨みを買うことも厭いません。」

 

 葵が語った御家流『妙見菩薩掌』は、葵の御家流では無く小波の持つもうひとつの御家流だ。

 悠季は当然知っているが特に何も言わず、実は聖刀も葵から聞いていたが、葵の意図を汲んで黙っていた。

 

「康元の為にそこまでするか………これは昴に三河への立ち入りを禁止せねばいかんな♪」

 

 久遠が冗談を言った事で春日山城攻略の大方針は決定を意味した

 緊張を解いた美空は葵の妹の事が気になり、話題をそちらに持って行く。

 

「葵の妹の歳は幾つなの?」

「空さま、名月ざまと同い年です。こちらも松平家は総力を上げて味方致します!」

「ありがとう♪………はぁ、まったくあの煩悩の所為で苦労が絶えないわよ………」

 

 愚痴を溢す美空に一二三が軽い調子で声を掛ける。

 

「越後と三河の同盟に甲信も一枚噛ませて貰えませんか、美空さま♪」

「は?武田が噛むって…………ああ、あの『でやがる娘』が援軍に来るんだったわね。」

 

「でやがる娘?」

 

 久遠が耳慣れない言葉を聞き返した。

 

「光璃の妹の武田典厩の事よ。あれも背が低くて煩悩が好きそうな娘でね。口癖が『でやがる』なのよ。」

「ふむ、ならば一二三は昴から典厩を遠ざけたい訳か。あいつも嫌われた物だな♪」

「いえ、私はむしろ昴くんに典厩様の良人になってもらえればと思っています♪」

「はあっ!?あんたは主筋の人間を生贄に差し出すつもりっ!?」

 

 美空の外套を秋子がクイクイと引っ張った。

 

「(御大将……それはうささんがちょっと………)」

「え?…………………あ………」

 

 美空が気付いてバツの悪そうな顔をすると、沙綾が声を上げて笑った。

 

「はっはっはっはっ♪別に構わん♪儂は美空さまへの最後のご奉公と思っておるし、昴も一緒におって退屈せん奴じゃ♪そうじゃ、結菜殿。昴の奥向きは儂が管理しても宜しいかな?」

 

 突然話を振られた結菜は慌てて頷いた。

 

「え、ええ……そう……ですね。」

「やはり結菜も戸惑うか………我も事前に聞いていたのに、こうして目の当たりにすると………」

 

 久遠と結菜が戸惑うのを見て一葉は面白そうに笑った。

 

「昴でも見抜けなかった春日山の山姥じゃからの♪」

「そう言う公方様も初めて沙綾殿とお会いになられた時は騙されておられましたな♪」

「あれは騙された振りをしておったのじゃ。早々に見抜いては興が醒めるであろう♪」

「そうでございましたか♪いやはや、公方様の迫真の演技にそれがしはすっかり騙され申した♪」

 

 一葉と幽の韜晦漫才が始まった所で軍議はお開きとなり、スバル隊の活躍を労うささやかな宴の準備を始める為に、三々五々大広間から出て行くのだった。

 その中で結菜は四鶴と慶を手招きした。

 

「如何なさいました、結菜どの。」

「新たに加わった越後衆の事でしょうか?」

「それも有るけど………春日山城を攻め終わった後の事で………」

 

 先程の話で祉狼が傷付く事はほぼ確定だと、四鶴と慶も心を痛めていた。

 それ故に祉狼を慰める役を誰に振るか、奥を預かる身として責任は重大だ。

 

「儂は久遠さまと結菜さまと思うております。」

「わたくしも同じございます。」

「いえ、私と久遠ではただ慰めるだけで終わってしまうわ。それでは駄目なのよ。」

「祉狼さまをお慰めする以上に何を………」

「日の本の武士の魂を伝えなければ、この先の駿府でも同じ事の繰り返しになってしまう。いえ、駿府だけではなく、ザビエルを倒すまで何度も繰り返す事になるわ。そうなればいずれは祉狼の心が壊れてしまう。きっとそこがザビエルの狙いなのよ。」

「それは判ります。ですが、結菜さまがそこに気付いておいでですのに、何故結菜さまご自身が祉狼さまにお教えしないのですか?」

「言葉の重み………ね。久遠が私の母利政の言葉を聞いたのも言葉に重みが有ったからだもの。こればっかりは私と久遠ではまだまだ軽いのよ。そこで……」

「成程、では慶に任せましょう♪」

「ええっ!?四鶴さま、何を…」

「あなたもよ、四鶴♪」

「は?…………………………………はぁあああっ!?」

「それと幽にもお願いしようと思っているの♪現状で最強の布陣でしょ♪」

「幽ですか…………あの者が首を縦に振りますかな?」

「あれで中々義理堅いですから公方様と双葉さまの手前…………成程、武士の心構えを伝えるには適任ですね。」

「という訳だから、頼むわよ、四鶴♪慶♪春日山城を落とすまでに幽も説得するわよ♪」

 

 意気軒昂な結菜を見て、四鶴はやれやれと首を振った。

 

「祉狼さまに命を捧げると誓った身じゃ。祉狼さまのお役に立てるのであれば素直に喜ぶとしようかの♪」

「それはそうですが…………娘たちにどう伝えたら良いのか……………」

 

 慶は困った顔をしながらも、心の底ではときめいている自分が居る事を自覚するのだった。

 

 

 

 

 スバル隊を労う宴の最中、葵と悠季は中座し縁側で酔いを覚ます振りをして、密かに小波を呼び春日山城攻撃の際の作戦を伝えた。

 

「(小波。あなたの妙見菩薩掌を使います。)」

「(はっ!畏まりましてございます!美空さまの三昧耶曼荼羅、一葉さまの三千世界の後、春日山城に止めを刺してご覧に入れます!)」

 

 一切の質問を挟まず、命令を復唱する小波に、悠季が少しイラついた声で小波に説明する。

 

「(小波、ただ妙見菩薩掌を使えば良いのではありません。葵さまの御家流である様に見せるのですよ!いいですか、小波。妙見菩薩掌はあなたが松平の為に秘匿していた技である事は承知しています。それは今後、祉狼さま守る最後の切り札でなければいけません。その為に妙見菩薩掌が葵さまの御家流であるとザビエルに信じ込ませるのが今回の狙いのひとつなのです!)」

「(お、お待ち下さい!それでは葵さまがザビエルに狙われる事に!)」

 

 慌てる小波に、葵は静かに微笑んだ。

 

「(大丈夫です。私には聖刀さまがいらっしゃいます。小波は歌夜、綾那と共に女の幸せを求めなさい。それが私の願いなのですから♪)」

 

 葵にそこまで言われ小波は涙を流して深く頭を下げた。

 

「こ……小波は幸せ者でございます………葵さまにそこまで心を砕いて頂き………どの様にこのご恩をお返ししてよいのか見当もつきません………」

「(幸せにおなりなさい♪繰り返しますが、それが私の望み…………そうね、ひとつだけお願いがあります。)」

「(はっ!何なりとお申し付け下さい!)」

「(妹の康元が祉狼さまに無事嫁げる様に守ってあげて♪)」

 

「(はっ!必ずやっ!)」

 

 小波にも最大の障害が昴である事が直ぐに判った。

 この時から小波は昴を危険人物と見る様になったのだった。

 

 

 

 

 スバル隊が戻ってから数日後。

 連合軍本隊は越中を抜け春日山城を前にしていた。

 そして、一二三からの早馬を受けて海津城を出発した武田典厩次郎信繁も海津城主真田徳次郎昌輝と真田衆二百騎を率いて春日山城の間近まで来ていた。

 

「零美、見るでやがる!連合軍はもう春日山を包囲してるでやがりますよ!」

「一二三の予想を上回る進軍速度だったみたいですね、夕霧さま。」

 

 夕霧とは武田典厩の通称で、零美が真田昌輝の通称である。

 零美は一二三の実姉であり、武田の中でも智勇兼ね備えた武将として名が通っていた。

 

「先ずは本陣に行き公方様と織田殿、美空どのに挨拶しやがるですよ!」

 

 夕霧が気張って馬腹を蹴ろうとした時、春日山の上空に眩い光を放つ五芒星が現れた。

 

「あれはっ!」

 

 零美が驚きの声を上げた時、連合軍の本陣では美空が…

 

「三昧耶曼荼羅っ!!」

 

 降り注ぐ浄化の光を受け、鬼が数百纏めて塵になる。

 光の中を護法五神の帝釈天、持国天、広目天、増長天、多聞天が飛び交い、光だけで浄化出来ない強力な鬼や、建物の中に居る鬼を建物ごと叩き潰していった。

 

「三千世界っ!!」

 

 続いて一葉の声が響き、二条館の時以上の武具を顕現して三昧耶曼荼羅の範囲外の鬼を切り刻んだ。

 こちらも建物に隠れる鬼を、壁や屋根を穴だらけにして殺していく。

 

「臨・兵・闘・者・階・陣・列・在・前!!」

 

 葵が小波から教わった印を結び、九字を唱えた。

 小波が句伝無量で連絡を取りながら人目の無い所で葵と同じ動作を行う。

 

「妙見菩薩掌っ!!」

 

 葵と小波が同時に叫ぶ。

 空に有った五芒星は既に消え、代わりに暗雲が俄に立ち込め空を覆った。

 暗雲に切れ間が生じ、陽の光と共に後光の射した巨大な掌が現れる。

 その掌を見上げる者達は大きいのは判ったが比較対象物が無い為、それがどれ程の大きさか測りかねていた。

 掌が地表に近付くと見ていた者達は全員が言葉を失う。

 

 掌は春日山を覆い尽くし、圧倒的な力で『春日山城』を押し潰したのだ。

 

 館や曲輪、本丸とか二の丸とか言うレベルでは無い。

 春日山とその周囲を含む城を形作っていた全てが潰され、春日山はもう『春日丘』と名を変えなければならない有様だ。

 

「…………これは本当に直江津に城を普請せねば成らなくなったの…………」

 

 沙綾の呟きに、秋子は反応する事すら出来ない程、涙を流し真っ白になって放心していた。

 

 そしてもうひとり、涙を流し、唇を噛んで堪える姿が有る。

 

「祉狼どの、無理に見なくとも宜しいのですぞ………」

 

 幽が普段は見せない真摯な顔で祉狼に促す。

 幽の顔は祉狼を気遣う優しい物だった。

 

「…………幽…………俺は間違っていたのだろうか………」

「何をでございましょう?」

「人は…………生きていれば幸せを得る努力が出来る…………そう信じていたんだ………」

「間違いではございませんが………正しき答えでもありませんな。」

 

 祉狼は視線をゆっくりと春日山から幽に移す。

 いつもは自信に満ち溢れた祉狼の顔が今にも壊れてしまいそうな、儚げな物に見え、幽の母性本能を刺激した。

 

「延子どのの時は正しかったのに、長尾晴景殿の時は間違っている。それは何故かと言えば人が皆、違う心を持っているからです。延子どのには耐えられた苦しみに、晴景殿は耐えられない。どうしてでしょうな?」

「それは…………心の強さ………」

「では、心の強さとは何でござろう?延子どのは日の本の為に鬼子を世に生み出さぬと耐えられ、朝倉家を再興しようと思われております。それは強き意思でしょう。ですが生き恥を晒すの良しとせず、自害するのもまた強い意志ではござらぬか?」

「生き恥を晒す…………」

「晴景殿にも武士の矜持、女の矜持がござろう。それが強ければ強い程、ザビエルから受けた辱めには耐えられぬでしょうな。武士とはそういう生き方なのです。祉狼どのが医者としての生き方を進まれているのと同じなのですよ。」

 

 祉狼は何故自分が医者として生きているのか自問した。

 両親にそう育てられたから。

 確かにそれも在るだろう。

 しかし、それだけでは無い。

 祉狼は思い出す。

 幼い日々に見た、父と母が治療した患者の笑顔を。

 自分が治療した患者の笑顔を見た時が何よりも嬉しいと感じる事を。

 

「俺がしたいのは人に喜んでもらう事であり、その笑顔を見る為に医者として生きているんだな………一葉や聖刀兄さんに言われた事がやっと理解出来た………後で謝らないと駄目だな………」

「それがよろしいですな。」

 

 祉狼の出した答えに満足した幽は笑顔で頷いた。

 

「少し付け加えますと、公方様を始め祉狼どのの奥方様方は同じ状況になっても死を選ばず耐えられると思いますぞ。祉狼どのが必ず救って下さると信じておりますからな♪」

「ああっ!俺は絶対にみんなを救ってみせるっ!」

「晴景殿も………祉狼どのに出会った後であれば耐えられたのやも知れません…………っと、こんな事を言ってはまた祉狼どのを苦しめてしまいますな。」

「いや…………普通の病気を患った人でも、俺が出会えず亡くなる人がいる事は判っている。そこまでしたいだなんて驕ってはいないさ。」

 

(結菜どのに勧められた時はどうしたものかと迷いましたが、これは拙者も祉狼どのに蕩されてしまいましたかな♪)

 

 

 

 

 圧倒的な力で鬼の巣となった春日山城を潰し、後は城下に残った鬼の殲滅だが、先日のスバル隊の撤退戦でかなりの数の鬼を討伐していた為に組織立った反撃は無く、数匹ずつ纏まった鬼を虱潰しにするだけだった。

 夕霧と零美は、大仕事を終えて一息ついている本陣に現れた。

 

「武田典厩信繁、通称は夕霧でやがる。」

「真田左衛門尉昌輝。通称は零美と申します。」

 

 礼法に則った所作ではあったが、やはり『でやがる』に詩乃と雫は戸惑い、美空は明から様に眉を顰めた。

 久遠と一葉は気にした風も無く、これが武田の次女かと感心していた。

 

「この度は遅参となってしまい、誠に申し訳ないでやがります。この侘びは今後越後の復興に助力する事でご容赦願いたいでやがる。」

 

 言葉だけ聞いていると謝っているのか上から目線なのか判らなくなるが、その態度は陳謝しているのが良く判った。

 

「気にするでない。我らも事情が有って攻撃に踏み切ったのだ。抜け駆けになってしまい済まなかった。」

「いえいえ!流石、織田久遠殿!期を見るに敏でやがりますな!駿府にとって返す時が稼げるのならば夕霧も願ったり叶ったりでやがりますよ♪」

 

 駿府と聞いて久遠は鞠に頷く。

 

「初めまして。今川鞠氏真なの。」

「これは初めましてでやがります。成程、義元公の面影が………いや!それよりもこの度は愚かな母がとんでもない事をしやがりまして!夕霧もつい先日姉上から教えて頂いたばかりでやがるのですが、顔から火が出る思いでやがった!このお詫びは駿府を取り戻し鞠さまにお返しせねば我ら武田の立つ瀬が無いでやがる!」

「ありがとうなの♪光璃ちゃんは元気?」

「元気でやがりますよ♪早く鞠さまにお会いしたいと仰ってやがりました♪」

 

 鞠は一二三から聞いた時も嬉しかったが、夕霧から聞くと一層駿府屋形に近付けた気がした。

 

「おっと、そう言えば美空さまにご結婚の祝いを述べて無かったでやがりますな。」

 

 今度は美空の方を向いて頭を下げる。

 

「この度は誠におめでとうでやがる♪後継候補の養子を二人も取ったから結婚を諦めたのかと思ってたでやがるが、噂の薬師如来殿は日の本一心が広い方でやがるな♪」

 

「夕霧!あんた祝うか貶すかハッキリしなさいよっ!」

 

「主様を褒めたのであろう♪夕霧、よく見えておるではないか♪」

「公方様に褒めていただけるとは、夕霧も鼻が高いでやがる♪」

 

「二人まとめてその辺りの木に吊るすわよっ!」

 

 憤慨する美空を久遠は笑って宥めた。

 

「そう怒るな、美空♪では、夕霧。美空の良人であり、我らの良人でもある祉狼を紹介しよう♪」

 

 久遠が祉狼に頷き、祉狼は一歩前に出る。

 

「初めまして。俺が華旉伯元祉狼だ。」

「お初にお目に掛かるでやがる。夕霧の兄上となられる方が素敵な方で安心したでやりますよ♪」

 

 夕霧の発言に久遠達連合側が全員驚いた顔になった。

 

「ん?一二三、まだ伝えてないでやがるか?」

「連合への参加は伝えましたが、そこはまだ。祉狼どのが御館様と直接お会いしてからの方が良いと判断したもので。」

「そうだったでやがるか…………これは夕霧が先走ったでやがるな………」

 

 バツの悪い顔をした夕霧に、祉狼は困った顔で頭を下げる。

 

「済まない………でも、夕霧のお姉さんが俺に会ったらガッカリするかも知れないだろう?やはりこういう事は本人の気持ちが大事だと思うんだ。」

「は?…………祉狼どのは良いお方でやがるな♪夕霧は気に入ったので是非とも兄上と呼べる日が来ることを願うでやがりますよ♪」

 

 夕霧の反応に危機感を覚えた一二三はさりげなく口を挟む。

 

「典厩さま、もうひとりの田楽狭間の天人殿をご紹介致します。こちらが美空さまのご養女を救い出した孟興子度です。」

 

 夕霧を見て萌え萌えしていた昴は突然紹介されて一瞬『え?』っという顔をしたが、直ぐにチャンスだと頭を切り替えた。

 

「初めまして♪孟興子度、通称は昴です♪」

「これは初めましてでやがる♪女の服を着た男性と聞いていたから、もっと傾奇者みたいな方を想像してやがったですが…………これはどう見ても女性にしか見ないでやがる。一二三の手紙ではかなりの強者と書いてありやがったので、是非とも一度手合わせしてみたいでやがる♪」

 

 昴は一二三が手紙にそんな事を書いていた事に驚き一二三に振り向いた。

 すると一二三が昴に笑顔で頷き返す。

 策士の一二三の事だから何か裏があると昴は気付いた。

 

 気付きはしたが目の前の幼女と仲良くなる切っ掛けには違いないので、素直に一二三に感謝し、心の中で小躍りする昴だった。

 

「私で良ければいつでもお相手するわよ♪都合のいい時にいつでも声を賭けてね♪」

 

「ならば私と今から手合わせ願おうか!」

 

 突然割って入ったのは今まで夕霧の横で控えていた零美だ。

 零美は妹の一二三から何も聞かされていないが、一二三が何か碌でもない事を企んでいると考え、それを確かめようとしていた。

 

「姉上、少々お待ちを。」

「何だ?私が相手では不都合が有るのか?」

 

 零美はわざと一二三を困らせる言い方をしたが、一二三は余裕の表情で答える。

 

「いえいえ♪今はまだ鬼を掃討している最中。そんな中で人同士が刃をぶつけ合っては兵が何事かと思い、士気にも関わりますよ。なので馬術比べなど如何ですかな♪これならば典厩さまもご一緒に出来ます♪」

「我ら武田と馬術比べだと?」

「姉上も典厩さまも馬術に絶対の自信がおありでしょう。それ故、昴くんの力量を見極めるのに最良でしょう♪」

 

 零美は二百騎を従える侍大将であり、部下の力量を見極めるのも慣れていた。

 刃を交えるよりも冷静に、厳しく判断出来る。

 

「一二三の言う事も尤もだ。では昴殿、よろしいか?」

「はい♪よろしくお願いします♪」

「それではちょっと昴どのをお借りするでやがる。」

 

 夕霧が久遠達に礼をして本陣を後にする。

 

「天人の馬術がどんな物かじっくり拝見するでやがりますよ♪」

 

 楽しそうに言う夕霧を久遠は微笑んで見送り、三人の姿が見えなくなった所で笑いだした。

 

「お前も人が悪いな、一二三♪」

「だから言ったでしょ。こいつはこういういやらしい奴なのよ。」

「典厩さまが昴くんに一目置く為の演出ですよ♪」

「でも、あの煩悩。そんなに馬術が上手いの?」

「私はまだ昴くんの本気の走りを見ていませんが、それでも武田の誰よりも速いでしょうね♪」

「そんなになのっ!?」

「祉狼と一緒にかの錦馬超に鍛えられたそうだ♪」

「へぇ………それじゃあ帰って来た時の夕霧の顔が見ものだわ♪」

「美空も充分いやらしいと思うぞ…………」

 

 久遠と美空と一二三がそんな会話をした一時間後、昴、夕霧、零美は本陣に戻って来た。

 

「うぅ………完敗でやがる…………」

「……無念………昴殿…………前半手を抜きましたな………」

 

 夕霧は落ち込み、零美は悔しさを隠さず昴を睨んでいる。

 昴はニコニコしながら零美を手で制していた。

 

「手を抜いていたんじゃなくて、夕霧ちゃんと零美さんと一緒に走りたかったんですよ♪轡を並べると気心が知れるじゃないですか♪」

 

 そんな三人の様子に美空はニヤニヤし、久遠達は予想通りと微笑んだ。

 一二三が零美を迎えて笑い掛ける。

 

「どうでした、姉上♪」

「どうもこうもあるかっ!」

「初めは典厩さまと姉上が先行、引き離そうとしてもピッタリと後ろに付かれ、中盤で併走、最後はぶっちぎられたといった所ですかな♪」

「見ていたのか、お前はっ!?」

「いえいえ♪昴くんの性格から予想したまでですよ♪」

 

 本当は『性格』ではなく『性癖』と言いたい一二三だが、ここは今後の為に隠しておく。

 昴が先ず夕霧のお尻を眺め、次に夕霧の姿を横から鑑賞し、充分に幼女力を補給した所で一気に加速して格好良い所を見せる。

 一二三は予想した通りの展開に満足していた。

 

「典厩さま、昴くんはかの錦馬超から馬術を習ったそうですよ♪」

「でやがるかっ!?これは是非とも夕霧に指南して頂きたいでやがる…………」

「私で良ければ幾らでも教えてあげるわよ、夕霧ちゃん♪」

「本当でやがるか♪昴殿は優しい方でやがるな♪」

 

 後は昴が勝手に夕霧を落とすに違いないので、一二三は作戦を次の段階へ移行する。

 具体的に何をするかと言うと、沙綾と一緒に和奏達へ頭を下げて回る事だった。

 

 

 

 

 春日山城と城下町に巣喰っていた鬼を一掃した夜、城下町で破壊を免れた寺のひとつに本陣を移した。

 その寺の一室で結菜に頼まれた三人が祉狼を慰める事になった。

 祉狼には普通に三人が良人に迎える決意をしたと伝えてある。

 それは決して偽りでは無いが慶と四鶴にとってはやはり幼い主君を慰めるという意識が強い。

 

「お寺でこの様な事をするとは…………仏罰が下りますかしら………」

 

 慶は本気で言っている訳では無く冗談を言っているのだ。

 既に湯浴みを終えて肌襦袢姿で祉狼の待つ部屋へ向かう廊下を歩き、口に手を当てて笑っている。

 

「ならば日の本の寺の大半に仏罰が下ってなければおかしいじゃろう。それに儂らは薬師如来様が戦国の世を憂う御心を慰めて差し上げるのじゃ。御仏の加護を賜りこそすれ罰など下って堪るものか。」

 

 四鶴も肌襦袢姿で憤慨する真似をして笑っている。

 

「ですが四鶴どの。出家した身で祉狼どのの妻となるのは如何なものかと。」

 

 幽は肌襦袢の袖口を持った手で口元を隠し、澄まして述べた。

 

「それは心配無用じゃ。結菜どのからの頼みを承諾する際に還俗したわ。今の儂は承禎ではなく義賢じゃ♪」

「なんとまあ都合に合わせてコロコロと。」

「全ては祉狼さまの御為よ♪必要とあらばエーリカどのから天主教の洗礼を受けるのも厭わぬぞ♪」

「それなら逸その事ゴットヴェイドーに入信なさればよろしいでしょうに………」

「それも有りじゃな♪どうじゃ、幽、慶。お主らも一緒に改宗せんか?」

 

 楽しそうに笑う四鶴に慶は引きつった笑いを浮かべている。

 幽は浮かれる四鶴に溜息で返事をした。

 

「わたくしは今こうして在るのもデウスのお導きと思っておりますので今のままで。」

「それがしも今のままで充分かと………そう言えば先程の仏罰の話ですが。」

 

 幽は勿体振ってひと呼吸置いた。

 

「東密には男女の交わりを記した曼荼羅が在るそうな。仏罰どころか解脱が出来るやも知れませぬぞ♪」

 

 『東密』とは高野山真言宗の密教の事で、大日如来が“直接”説いた真理の教えであり、安易に明かしてはいけない教えとされている。

 因みに広く民衆へ伝えられる教えは顕教と呼ぶ。

 

「別に解脱まではしとうないが、祉狼さまをお元気にする房中術くらいは知っておきたかったの。」

「房中術はかの大陸で仏教伝来の前から研究されておった筈…………祉狼どのはご存知無いご様子ですがゴットヴェイドーには房中術は無いのでござろうか?」

「祉狼さまの師はご両親ですから………知っていても教え辛いでしょう。わたくしだって恥ずかしくて、娘達に男女の事を教えるのを人に頼りましたから。」

 

 慶の推測は大方マトを得ていた。

 ゴットヴェイドーにも房中術は在り、華佗が師匠から受け継いだ秘伝書に記されている。

 華佗が秘伝書を(ひもと)いたのは二刃と結婚してからだ。

 祉狼にゴットヴェイドーを教える歳になった時に、二刃によって封印され、祉狼は存在すら知らないのだった。

 しかし、現在の氣を増大する修行は正にその秘伝書に書かれている通りであり、祉狼は気付かぬ内に独学で秘伝書の内容にたどり着いたのである。

 

「幽は未通女であろう?知識ばかりの耳年増になっては後悔するぞ。覚えた事など全て忘れ、流れに身を任せた方が心は満たされる。経験者からの忠告じゃ。」

「つまり四鶴どのは初夜で失敗し、後悔した訳ですな。」

「うるさいわ!余計な所に気付くな!…っと、無駄話は終いじゃ。」

 

 祉狼の待つ部屋が近くなり、三人は口を噤んだ。

 襖の前に正座をして部屋の中に伺いを立てる。

 

「祉狼さま。四鶴、慶、幽。参りました。」

 

「ああ、廊下は寒いだろう?早く中に入ってくれ。」

 

 言われて三人は遠慮なく襖を開けて部屋の中に入った。

 祉狼が布団の上で正座をして微笑んでいる。

 観音寺城から今まで、祉狼が何を考え、どう接すれば喜ぶか見続けて来た四鶴と慶は、簡潔に、且つ気安く祉狼の横に座った。

 

「ほれ、幽。お主も祉狼さまの傍に侍らんか。」

「は、はぁ………では遠慮なく………」

 

 礼法どころか碌な挨拶もしないで身を寄せる事になり、幽は戸惑った。

 

「初夜の時はみんな挨拶をするんだが、四鶴達はしないんだな。」

「あれは女が緊張を隠す為にするのじゃ。祉狼さまは堅苦しいのよりこうして気安い方がよろしかろう♪」

 

 言いながら四鶴は祉狼の背後に回り身体を抱き寄せた。

 四鶴の豊満な乳房を枕にした祉狼の頭を優しく撫でる。

 

「祉狼さま、足を楽になさいませ。夜は長いのですから先ずはゆっくり致しましょう♪」

 

 慶が祉狼の足を取って正座を解く。

 幽も手伝い祉狼に楽な姿勢をさせると、身体を寄せて左右に侍った。

 

「幽………昼間はありがとう………一葉だって手を下すのは心苦しかったに違いないのに………俺はきちんと謝れていたかな?」

 

 祉狼は天井を見上げていた。

 しかし、その目に映っているのは崩壊する春日山城と一葉、美空、葵の顔。

 

「祉狼どの、昼はああ申しましたが…………直ぐに全てを理解しようとしなくても良いでござるよ。」

「うむ。話は幽から聞いておる。日の本の武士とはどの様な者か。祉狼さまの妻となった者をもっと良く見なされ♪国は違えどどこか共通した考え方をしておる事に気付ける筈じゃ。」

「聖刀さまの妻となった白百合にも、根元にはやはり武士として曲げられない矜持がございます。あれは弄れておりますので判り辛いでしょうから、あまり見なくても良いですが♪」

 

 祉狼は三人の気遣いに感謝した。

 

「祉狼さま。儂らとて鬼に捕まり嬲られるなど、まっぴら御免じゃ。しかし、万が一にもそうなった場合は、祉狼さまが救って下さると信じて、延子どのの様に意地でも正気を保ち生き抜いて見せましょう。武士の誇りを捨て、生き恥を晒して…………そう思える様に、儂らの身体に刻み込んで下され♪」

「四鶴…………」

「四鶴さま。わたくし共は後で良いでしょう?祉狼さま、先ずは幽に♪」

「ひょ?それがしが先鋒でござるか?」

 

 幽は奇妙な声を上げるが、祉狼から身体を離そうとはしなかった。

 

「未通女は手間が掛かるでな♪殿方の逸物を見た事も無いじゃろう?祉狼さまにしっかりとお教え頂け♪」

「そうですね♪ほら、先ずは手を………」

 

 慶は幽の手を取り、襦袢を着た祉狼の胸から撫でる様に下へ導いていく。

 

 

………………………………

 

………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

 翌朝、澄み渡る東の空に山の頂から登る朝日を四人は眺めていた。

 

「祉狼さま、生きている限りこれからも辛い事はございましょう………」

「ですが、祉狼どのはこれからも(きよ)く、熱く、前を向いてお進みなさいませ♪」

「祉狼さま、我らは祉狼さまの妻である誇りが有れば、武士の誇りを捨てても生きて行けるのじゃ。どうかお忘れ無き様に♪」

 

 そう言われた祉狼の顔は朝日を浴びて晴れやかに輝いていた。

 

「判ったっ!!」

 

 祉狼は己に言い聞かせる為にも力強く断言した。

 

 

 

 

房都 放牧地

 

 一刀たちが三人揃って放牧場へやって来た。

 

「「「おぉおおおい!翠ぃいいいいい!!」」」

 

 大声で両手を振ると、翠も気が付いて馬を一刀たちに向けて走らせる。

 相変わらずの手綱さばきに一刀たちは目を細めて見惚れた。

 

「どうしたんだ、ご主人様?こんな所にまで来るなんて♪」

 

 口調も相変わらずで乱暴に聞こえるが、一刀たちが馬に関心を持ってくれる事が嬉しいのを隠しきれていない。

 

「「「聖刀達から連絡が届いてな♪翠の事が書いてあったから見せようと思ってさ♪それと馬が急に見たくなった♪」」」

「あの孺子どもが何を書いてきたんだ♪」

 

 馬から降りて緑一刀の持つ水晶玉を覗き込む。

 

【翠様へ 鍛えて頂いた馬術がとても役に立っています。こちらでも錦馬超の名は有名でした。  昴】

 

「なんだよ♪照れくさい事書いてきやがって♪」

「「「あの子達は日の本でも最強と言われた騎馬軍団と接触したみたいでさ。遅れをとらずに済んでるのは翠のお陰だって感謝しているんだよ♪ホント、あの子達を鍛えてくれてありがとうな、翠♪」」」

「よせよ、ご主人様♪なんか背中が痒くなってくるだろ♪…………でも、そっか。役に立ったか。」

 

 翠は穏やかな顔で、感慨深そうに呟いた。

 脳裏には昴と祉狼を鍛えた頃の思い出が蘇っているのだろう。

 

「何度ゲンコツを落としたか分かんないくらいなのにな。恨まれても文句は言えないのに………こんな手紙よこしやがって…………」

 

 涙を滲ませる翠の肩を一刀たちは優しく叩いた。

 

「「「翠、どうだ?思い出話を肴に呑まないか♪」」」

 

 そう言って一刀たちは酒瓶を掲げた。

 

「あ!そんなもん持って来たら…」

 

 翠が眉を顰めた瞬間、遠くから蹄の音が聞こえてきた。

 

「一刀たちぃいい!翠ぃいいい!何しとんねん!模擬戦の準備せなあかんやろって、一刀たちが持っとるのお酒ちゃんとちゃう♪」

 

 勘が良いのか鼻が良いのか、霞がやって来てすかさず酒瓶をロックオンした。

 

「(分かってるよな、ご主人様。霞には手紙を見せるなよ!)」

「(((判ってるって!霞の名前が無いんだ!見せたら泣くぞ!!)))」

 

「なしたんや?一体?」

「「「いや、聖刀達が騎馬の強い国と接触したみたいでな。あの子達を鍛えてた頃を思い出したから、そんな話を肴に呑もうと思ってさ♪」」」

「そらええやんか♪まあ、聖刀はガチで天才やったから鍛えたっちゅうより競争した記憶しかあらへんけどな♪」

「そうそう♪そう言えば聖刀が初めて馬に乗った時は………」

 

 こうして一刀たちと翠、霞は思い出話に花を咲かせて酒を酌み交わしたのだった。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

大河ドラマの真田丸を見ていると、つい戦国恋姫のキャラに脳内変換してニヤニヤしてしまいますw

 

 

お気付きとは思いますが、幽が朝ちゅんで祉狼に語った言葉は、主題歌の『時空のパルス』からの引用です。

『潔く、熱く』って祉狼にピッタリだと思ったものでw

 

 

今回の新キャラ

 

武田典厩次郎信繁 通称:夕霧

口調と見た目が特徴的過ぎるのに、性格はとても真面目でいい子ですよね。

あのショートパンツは陳宮のオマージュでしょうか?

馬に乗っているイベントCGのお尻がとっても魅力的で大好きです!

正史の真田信繁(幸村)はこの典厩から名前を貰ったという説が有力ですね。

てんきゅーきっくはしないみたいですw

 

真田昌輝 通称:零美

原作で薫が剣丞に一二三の旧姓が真田だと教えるシーンで名前と通称だけ登場。

正史では武田信玄が「我が眼」と言ったのはこの昌輝さんの方です。

更に真田を継いで二百騎持ちの侍大将になったのは長男の信綱。

昌輝さんは分家を認められて五十騎持ちの侍大将になってます。

原作の外史では信綱さんは既にお亡くなりになっている様ですね。

 

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

・ 佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)

・ 佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)

・ 佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)

・ 各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)

・ 森蘭丸

・ 森坊丸

・ 森力丸

・ 毛利新介 通称:桃子(ももこ)

・ 服部小平太 通称:小百合(さゆり)

・ 斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

・ 三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

・ 蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

・ 蒲生氏春 通称:松(まつ)

・ 蒲生氏信 通称:竹(たけ)

・ 六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)

・ 三好右京大夫義継 通称:熊(くま)

・ 武田信虎

・ 朝比奈泰能

・ 松平康元

・ フランシスコ・デ・ザビエル

・ 白装束の男

・ 朝倉義景 通称:延子(のぶこ)

・ 孟獲(子孫) 真名:美以

・ 宝譿

・ 真田昌輝 通称:零美

 

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6387485

 

 

さて、次回から武田編の予定です。

 

 


 
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