No.82785

真・恋姫†無双 終わらぬループの果てに 第10話

ささっとさん

21周目の世界で目覚めた一刀の前に突如として現れた風。
なんと彼女は一刀の事を覚えていた。
大きな変化を見せるループの中で、一刀は何を思うのか……

2009-07-06 07:04:35 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:40236   閲覧ユーザー数:27089

また、消えてしまうのだと思っていた。

 

どれだけの思い出を積み重ねても、次に出会う彼女達は何も覚えていない。

 

いつか聞いたその声、いつか見たその表情、仕草で彼女達は俺に言うのだ。

 

 

はじめまして、と。

 

 

いっそ彼女達の事を『そういう存在』だと割り切ってしまえば、辛い思いなんてしなかっただろう。

 

でも、それをするには彼女達の存在はあまりにも大きすぎて……

 

結局俺に出来るのはただ心の奥底で感情を押し殺す事だけ。

 

 

「また会えて、本当に嬉しいです。おかえりなさい、お兄さん」

 

 

だからこそ、俺は目の前の出来事が信じられなかった。

 

嬉しさに溢れた声も、涙を流しながら笑っている表情も、抱きしめている彼女から伝わる温もりも本物。

 

そんな事は当事者である俺自身が一番よくわかっている。

 

それでも、それでもこれが現実だなんて信じられないんだ。

 

俺が勝手に思い描いている都合の良い妄想なんじゃないかって……

 

気がついたら目の前には誰も居ないんじゃないかって……

 

 

「………本当に、風なのか?」

 

「はい。散々弄ばれた挙句に身も心もお兄さんの虜にされてしまった哀れな風ちゃんですよ~♪」

 

 

でも、この言葉で俺の中の恐怖は掻き消えた。

 

この状況で空気を読まない、でも俺の心をしっかりと読んだ発言をするのは間違いなく風だ。

 

俺の知っている……誰よりも愛しい彼女しかいない。

 

そんな彼女に苦笑しつつ、俺は抑えきれない感情でもって応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ただいま、風」

 

「はい、お兄さん」

 

 

このループが始まってから初めて、俺はいないと思っていた神様に感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐふふっ、ご主人様のためなら当たり前よん♪ 御礼はあちゅ~いキッス☆でいいわぁ♪』

 

「!?」

 

「…お兄さん?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

直後に何処からともなく聞こえた渋いオカマ口調の声は、きっと気のせいだという事にした。

 

 

 

 

恋姫†無双 終わらぬループの果てに

 

 

第10話 21週目 その2

 

 

予期せぬ嬉しい再会を果たした俺達は、気絶している3人組をほったらかして近くの町へと移動。

 

適当な宿に入って腰を落ち着けると、他人の気配に気を配りつつ早速風から話を聞くことにした。

 

もっとも風自身詳しい事は全然解らないらしく、

 

 

「お兄さんをお見送りした直後に急に意識が遠くなってしまって、

 気づいたら稟ちゃんや星ちゃんと一緒に旅をしていた頃に戻ってたんです」

 

 

と言う事らしい。

 

要するに2度目のループ直後の俺と同じような状態だ。

 

そこで俺は風に対し、俺の経験してきたループの全てを話すことにした。

 

初めてこの世界に来た時の戸惑いや初めて殺された時の恐怖。

 

繰り返す過程で大陸最強の武や妖術を手に入れた事。

 

ループの度に風達とどのように過ごし別れたのかを嘘偽りなく語った。

 

躊躇いがなかったわけでもないが、それよりも聞いてほしいと言う気持ちが強かったから。

 

だから俺は何かに突き動かされるように、ただただ自分の全てを語っていた。

 

 

「………お兄さんは、風が思っていたよりもずっと大変な思いをしていたんですね」

 

 

そして話を聞き終えた風はそう呟くと、不意に俺の頭を抱え込むようにして胸に抱き寄せる。

 

突然の行動に驚いた俺だが、抱き寄せられた直後に風の声色の変化に気づく。

 

もしかして、泣いてるのか?

 

 

「ふ、う……?」

 

「お兄さんがたった一人で無理をする必要はありません。

 風なんかでは頼りないかもしれませんが、全部一人で抱え込まないでください。

 こんなにも傷ついた表情で泣いてるお兄さんを……見たくありませんから」

 

「は? 泣いてるのは、風のほう……え?」

 

 

風に言われ、俺は初めて自分が涙を流していることに気がついた。

 

何故、どうして俺は泣いてるんだ?

 

これまでの事を風に打ち明けただけなのに。

 

悲しい事や辛い事なんて『今は』何も起こっていない。

 

むしろ、全てを受け入れてくれた風にとても感謝しているのに。

 

どうして、どうしてこんなにも気持ちが乱れているんだ?

 

 

「風、おれ……ぁ……」

 

「大丈夫ですよ、お兄さん。

 お兄さんの苦しみも悲しみも全部風が受け止めてあげます。

 だから、今はただ思う存分に泣いてください。

 これまで心の奥底に溜め込んできた分を全部、吐き出してください」

 

「……おれ、は……ぅあ……っく…」

 

「もう、お兄さんは一人じゃありません。これからは風がずっとお兄さんの傍にいますから……」

 

 

まるで女神のような慈愛に満ち溢れた風を前に、俺は溜め込んでいた感情を爆発させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなしている間に日は沈み、町にも夜の帳が下りていた。

 

 

「その、なんだ………ありがとな」

 

「いえいえ。お兄さんを愛する者として当然の事ですよ」

 

 

あの後、風に縋り付いて散々大泣きしてしまった俺としては恥ずかしい事この上ない。

 

でも、開放感とでもいうのか何だか心が軽くなったような気がする。

 

ホント、前の世界から風にはいろいろな意味で世話になりっぱなしだな。

 

 

「それに、泣いているお兄さんが意外にも可愛らしいという事も解りましたので」

 

 

………なんか、しばらくネタにされてからかわれそうだ。

 

 

「普段の素敵なお兄さんもいいですが、泣いてるお兄さんもいいですね。ふふっ♪」

 

 

………からかわれるどころか、とんでもない事になりそうだ。

 

 

「ともかく、もう夜になってしまいましたし、今日はこのまま休むことにしましょうか」

 

「そうだな………ん?」

 

 

いそいそと布団にもぐる風に習って寝床につこうとした俺だが、ふとしたある事に気付いた。

 

当たり前だが、この部屋には俺と風の2人しかない。

 

さらに本日この宿に泊まっているのも俺と風の2人だけ。

 

もっと言えば俺が今日会話したのは風と宿屋の亭主の2人のみ。

 

そう、本来風と一緒にいるはずの星と稟に会っていないのである。

 

 

「風、他の2人はどうしてるんだ?」

 

「稟ちゃんと星ちゃんですか? もうこの町にはいませんよ」

 

「………はい?」

 

 

風の実にあっさりとした返答に俺は目が点になる。

 

もうこの町にはいない? 何故?

 

 

「だって稟ちゃんと星ちゃんが一緒だと、風がお兄さんと二人っきりになれないじゃないですか」

 

 

なんでも風曰く、この町に到着した直後に適当な理由をつけて稟と星の2人と別れたらしい。

 

つまり俺と再会した時点で既に一人きりだったわけだ。

 

 

「大胆と言うか無謀と言うか……もし俺に会えなかったらどうするつもりだったんだ?」

 

「………おおっ! 言われてみればそうですね~」

 

「おいおい」

 

 

俺の指摘にいつもの態度で反応する風だが、残念な事に風が素で驚いているのだと俺には解った。

 

どうやら本当にその可能性を考えていなかったらしい。

 

 

「でも、それだけお兄さんの事で頭がいっぱいだったんですよ」

 

「うっ……」

 

 

思わず説教しそうになってしまったが、直後に風の口から出た言葉の前に沈黙する。

 

そんな事言われたら何も言えないじゃないか。

 

 

「どの道、過ぎ去ったことを今更言っても無意味です。

 そんな訳でお兄さん、今日からまたよろしくお願いしますね~」

 

「………ああ、こちらこそ」

 

 

こうして21周目の世界は、俺と風の2人旅で幕を開けたのであった。

 

 

 

 

風達が旅をしていたそもそもの目的は、自分達の足で大陸を歩き見聞を広める事である。

 

だが、前の世界の事を覚えている今の風にとっては今更な話。

 

それもあってか、今回の旅は20周目の世界とは一線を画すものになってしまった。

 

よく言えば自由な観光旅行、ぶっちゃけて言えば何の目的もないただの放浪である。

 

 

「お兄さん、次はどこへ行きましょうか?」

 

「そうだなぁ……」

 

 

数日前に出会った賊を張り倒して手に入れた馬に乗り、ゆったりと進む俺達。

 

ここのところやたらと賊が増えたおかげで路銀には全く困ら…じゃなくて、色々と物騒になってきた。

 

それでも黄巾の乱が本格化するのにはまだ少し猶予があり、

大陸全体で見れば辛うじて平穏を維持していると言えなくもない状態だった。

 

それはそれとして、感覚的にはそろそろ桂花が華琳に仕えた頃。

 

一抹の不安はあったが、どうやら20周目を境にループに関する条件が完全に変更されたらしいな。

 

 

「まぁ、今のお兄さんは何処へ言っても大歓迎されるでしょうけどね。天の御遣い様」

 

「それを言うなよ、天女様」

 

 

風の冗談めかしたからかいに苦笑しつつ、こちらも仕返す。

 

路銀稼ぎのために賊をひたすら狩っていたためか、俺達はいつの間にか有名になっていた。

 

もちろんその噂は俺についてだけでなく、常に一緒にいる風も含まれている。

 

 

『平和をもたらすためにこの地へと降り立った2人の使者。

 それは鬼神の如き強さを誇る天の御遣いと奇跡の如き才知を揮う天女である』

 

 

これが現在の大陸を賑わせている俺達の評価だった。

 

 

「でも、ここまで騒がれてしまうとは正直風も予想外でした」

 

「風が行く先々で俺の事を天の御遣いだって触れて回ったのがそもそもの原因だろ?」

 

「せっかくお兄さんと2人っきりで静かに旅が出来てたのに、これじゃあ計画が台無しです」

 

「いや、人の話聞けって。それから計画とか恐ろしい単語を口に出すな」

 

 

口に出されず実行されるのはもっと勘弁だけど。

 

 

「ん?」

 

 

その時、何気なく辺りを見渡した俺の視界にふと奇妙な光景が飛び込んできた。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、あれなんだけど……」

 

 

突然馬を止めた俺に不思議そうな表情を向けてくる風。

 

俺は彼女にも解るようその方向を指差し、その光景を見せる。

 

町はおろか一軒の家すらも見えないこの荒野において不自然なまでの人だかり。

 

しかもそのほとんどは武器を構えたガラの悪い男達。

 

十中八九野盗が何者かに襲撃をかけているのだと判断できる。

 

だが、俺達の見ている異常はそういう意味での異常ではない。

 

 

「………飛んでますね」

 

「………ああ、飛んでる」

 

 

そう、飛んでいた。

 

人だかりの中心部分と思われる場所からランダムなタイミングで空高く打ち上げられている野盗達。

 

目測だが多分5~6mくらいの高さには到達しているのではなかろうか。

 

あっ、今飛んだ奴10m近かったぞ。

 

 

「一体何が起きてるんだ?」

 

「普通に誰かが戦っているだけだと思いますけど?」

 

「だけって、そんな非常識な事出来る奴なんて………いるか」

 

 

それどころか知り合いの大半は可能に違いない。

 

改めて考えてみると凄まじい友好関係だ。

 

ともかく戦っているのはかなり強い奴だと判明。

 

とは言え野盗達も100人くらいはいるようだし、さすがに多勢に無勢だろう。

 

 

「風、ちょっと行って来るからここで待っててくれ」

 

「解りました。気をつけてくださいね」

 

「おう」

 

 

俺は馬を飛び降りると、一直線に野盗(仮)の集団に突撃していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで俺が目にしたのは、思いもよらない人物達だった。

 

 

 

 

あとがき

 

 

どうも、『ささっと』です。

 

第2章の導入部ということもあってちょいと短め。

 

しかし風がいよいよメインヒロインとして確定してしまった感のある10話でした。

 

これから2人は本当の意味で共に歩んでいくことになるでしょう。

 

そしてこれとは別にもう一つ存在する第2章のコンセプトがあるのですが、

これは次回11話をご覧いただければ解ります。

 

もう大体の察しがついている方もいらっしゃるでしょうけどね。

 

さて妹コンビと三羽烏、どっちを先にしようかな。

 

 

コメント、および支援ありがとうございました。

 

次回もよろしくお願いいたします。

 

私自身すっかり忘れていましたが、友達登録もお気軽にどうぞ。

 

 

PS.記憶継承については物語中で出ますので、それまではノーコメントです(ネタばれ的な意味で)

 

PSのPS.もしかしたら次回ははっちゃけ注意な番外編になるかもしれません。

 

PSのPSのPS.前回のコメが40以上で吹いたw 支援数も過去最高w 読んでくれた皆、本当にありがとう!

 


 
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