No.827622

リリカル東方恋姫外伝 アスラズラース編


自己修復中…自己修復中…自己修復中…


一刀「赤屍さん、どんだけコマ切れにしたんだか…;」

2016-01-30 09:00:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2218   閲覧ユーザー数:2184

 

 とある世界の地球。

 そこは【人】と人の信仰と魂を糧にし生きる人を超えた種族【神人類】が人類を脅かす星の意思【ゴーマ】と一万年以上戦いを続けていた。

 そして、地球から月よりも遠く離れた宇宙空間にて、最大級で最強のゴーマである【ゴーマ・ヴリトラ】を地球ごとを消滅させようと地球をも越える超弩級の巨躯の像【因果要塞・帝釈天デウスエクストラ】が起動。数万年ほど強制的に集めた人の魂をエネルギー源とし、その魂のマントラを囚われた巫女である『ミスラ』の力で増幅させ、巨大な光線『ブラズマストア』に変換・放出する計画『大廻転』を実行しようとしていた。

 その計画を破壊とミスラの救出のため、この世界にやってきた一刀と仲間に裏切られ怒りに身を焼き復讐するミスラの父『アスラ』と、ミスラ叔父で忠誠に疑問を抱き『ヤシャ』たちはミスラがいる因果要塞の中枢に乗り込んでいた。

 

「ミスラァァアアアアア!!」

 

 中枢の一角で管によって拘束されたアスラの娘“ミスラ”。眠っているのか父親であるアスラの呼びかけに反応しない。

 

「愚かな者どもよ。真に戦うべき敵は、人類を滅ぼそうとする星の意思だとなぜ理解せぬ」

 

 彼らの一人の男――七星天頭目『デウス』が立ち塞がった。

 

「わかっている…わかっているとも!」

 

 ヤシャが握り拳を作り叫ぶ。

 デウスの弟子であり、ゴーマの駆逐と世界救済への大儀のため七星天として大廻転を成就するため心を鬼してきた彼だったが、長きに渡る超人類と七星天が救済という名の元に行った人間への“残虐”と、彼らの思想と人格腐敗、そして大儀のためへの実妹の死と姪っ子のミスラを道具にしたという罪悪感に悩まさ、デウスと七星天の計画に疑問を抱くようになった。

 

 

 そして、娘と人々を悲しませる世界に対して憤怒に燃えるアスラの怒りに触れ、自身の真理を求めた。

 

 そして、己の信念を貫き通してきた一刀の言葉に、真の大儀を見出した。

 

 世界を救うという“大儀の仮面”など捨てた。

 彼の中に今あるのは、七星天の間違いを正し、そして、実妹を見殺しにした己自身への怒りだけだ!!

 

「俺は自らの心に従う!」

 

「……我は全人類の未来を背負いて神になりし者。我に歯向かうは大儀への反逆」

 

 デウスが顔を手で覆うと顔面に金色に光る文様が仮面のように浮かび上がる。

 

「世界を危うくする汝ら、ここで滅ぶべし!」

 

 デウスの身体から白黒の雷が帯電。

 瞬時に手元に雷の鎖でつながったヌンチャク“ヴァジュラ”が現れ、それを握った。

 

 アスラとヤシャが戦闘態勢をとると、一刀が長刀“破修羅”を抜いて二人の前から出る。

 

「…ヤシャ、アスラ。ここは俺にまかせて、お前らはあの囚われの姫を安全な場所へ連れていけ」

「なにをいってるカズト!?貴様が普通の人間でないことは百も承知だが、相手は七星天の頭目!貴様だけでは無理だ!」

「カズト!アイツは俺の獲物だ!これは俺の復讐だ!関係のないおまえは引っ込んどけ!」

「…たしかに、俺は部外者だ。本来ならおまえらがけじめをつける権利がある。けど、あの子を救うことよりも優先なのか?」

 

 その言葉にアスラとヤシャが黙る。

 目的はデウスを倒すだけじゃない。囚われたミスラを助け、大廻転を阻止することだ。

 

「それに、父親と叔父がズタボロの状態で娘に会うのは無礼だろう?ほら、数万年ぶりの親子の再会しちゃえって♪」

 

「……チッ。おまえのお節介はいつも癇に障る」

 

「そうだな。それも筋金入りで、神でもすら骨が折れそうだ」

 

「……神の前で余裕を見せるとは…肝が据わった者たちだ!」

 

 デウスが白い雷の柱を放ち、雷撃の柱がまっすぐ一刀たちに向かう。

 しかし、一刀が破修羅で雷撃を一刀両断する。

 

「いっけ!」

 

「オォオオオオオ!ミスラァァァア!」

 

「渡さぬ!?」

 

 ミスラに向かって走るアスラとヤシャ。それを妨害しようとデウスが動くが、一刀が瞬時にデウスの懐へ入り込み、破修羅でデウスをヴァジュラごと押えつけた。

 

「邪魔をするか人の子よ!」

 

 デウスが身体を雷化し高速移動をしようとするも、

 

「グラビティレイション!!」

「ぐっぉ!?」

 

 それを察知した一刀が自身ごと、重力で押えつけた。重力の衝撃が使用者の一刀も襲う。

 その隙にアスラとヤシャが囚われていたミスラを救助した。

 

「一刀!」

 

 援護しようとヤシャが駆けつけようとするも「来るな!」と一刀が怒鳴った。

 ヤシャの肩をミスラを抱いたアスラが掴んで止めた。

 

「…勝手にくたばるんじゃねぇぞ」

 

「ご安心を。泣き虫な娘さんの笑顔をみるまでは死なないから俺♪」

 

「フッ、女たらしが…。いくぞヤシャ」

 

「あぁ…(まさかこの石頭がここまで信頼するとはなぁ。一刀、少々、おまえがうらましい)」

 

 一刀を信用するアスラに若干の嫉妬を抱いてしまうヤシャは、ミスラを連れてどこかへ走った。

 

「逃げたか…まぁよい。まずは貴様からだ愚者よ…!」

 

 ヴァジュラを薙ぎ払い、衝撃と白い雷が一刀を襲う。

 一刀は破修羅を盾にし、後方へ飛ばされも、持ち堪えた。

 

「人の子が神に楯突くか。アスラ共々、愚かなことを」

 

「あんたからみれば愚かだろうな。ただ感情のまかせて目の前のことでいっぱい俺たちには全知全能なあんたらからみれば、無鉄砲にみえるだろう。…けど、貴様ら心のない人形よりはよっぽどマシなほうさ」

 

「人形だと…我ら神を…?」

 

「あぁ、そうさ。大儀やら業を断つのやら、大層なことベラベラしゃべってる癖に、テメェらはテメェの罪も業も見向きもせず、ただテメェの建前に生きるだけの奴は人でも神でもない。魂も心もないただの傀儡!それも、他人の命を弄ぶ化け物だ!」

 

 一刀は知ってる。

 信念や目標のためと言いつつ思考を放棄する者は、ただの幻想の奴隷だということを。

 

 痛みを感じない正義など、偽善でもないただの建前に過ぎないということを。

 

 自身を犠牲にせず、ただ他者を利用するのが大儀でなく、外道の類だということを。

 

 そんな者たちを長く見てきた一刀にとって、眼前の擬神がまさにそれだ。

 ゆえに、

 

「テメェらに大儀を語る資格なんて無いッ!!」

 

 そういって、デウスに剣先を向ける。

 デウスは一刀の言葉に目を見開き、哀れんだような声で呟く。

 

「人でも神でもなく化け物と呼ぶか…人の子よ。我の大儀を否定するか…人の子よ。フッフフフ、大きくでたものだ。神に仇名すだけでなく我信念も侮辱するか!!」

 

 自身の大儀を否定され、彼の頭の中で何かが切れた。

 身体の先ほどよりも白き雷が、怒りの如く放出される。

 

 

 

「その蛮行許すまじ!我が雷で裁く!」

 

「それはこっちの台詞だアホ愚神!!」

 

 

 

 デウスはヴァジュラを弾丸代わりにしたレールガンを放つも、一刀がザケルガを放ち相殺。

 瞬きの間に、二人は互いに接近し、ゼロ距離で獲物を撃ち合う。

 

「貴様の力は認めるが所詮は神に支配されるだけの下等。我と我が神棍ヴァジュラの敵ではない」

 

 雷撃ヌンチャクというべき、ヴァジュラを横に薙ぎ払い一刀を数歩ほど吹き飛ばすも…

 

 

 バッキ!!

 

 

「馬鹿な!?ヴァジュラを破壊するなど!?」

 

「オイ、人を支配する神さまの実力ってこんなもんなのか」

 

 破裂したヴァジュラに驚くデウス。

 その隙に一刀が破修羅で攻める。

 

「俺が知ってる武神のほうがよっぼど強い!」

 

「ぐぉ!?(先ほどよりパワーがあがっておる!?)」

 

 素手で迎撃するデウス。手刀で刃を払い一刀に身体に当て、一刀の体に鋭い手刀で斬られた傷や重い鉄拳の痕が付けられる。

 しかし、被弾を物ともせず、ダメージを負う一刀は太刀を振るい続ける。徐々にだが刀の速度と鋭さが増し、デウスでさえ捌き切れなくなる。

 一旦、距離を置き、回り込もうとするデウスが雷化して一刀の背後に回ったが――、

 

「ソコ!!」

 

「ぐっぉぉ!?」

 

 独楽の様に横に回転した凶刃が走った。

 破修羅の刃がデウスの胸を切り裂き、大量の血が噴射する。

 

(雷と化した我を捕らえるなど、そんな馬鹿なことが…!?)

 

 地面を蹴って一刀から距離をとったデウス。胸の傷を押さえるも、

 一刀は蓄積されたダメージか、破修羅を杖代わりに支え、「ぜぇぜぇ」と息を荒くしていた。

 

「ありえん…人を超え、世界を統べるはずの神人類がただの人の子にやられるはずが-ッ!?」

 

 デウスが気づく。

 彼が見知ってる人類とは違うことを。彼の瞳を見て理解した。

 

 

――まっすぐで奥に紅蓮の業火を篭めた猛々しい眼光……

 

 

(その瞳…こやつもまたアスラと同じ悪鬼…いや、悪鬼ではない…その目は、その殺意は…たとえ人であろうと神であろうとすべての不義を滅する純粋で冷徹な義憤……)

 

 

――修羅の鬼神そのもの

 

 

 大儀のため生きたきたデウスは北郷一刀という存在…その一片を理解した。

 

「されど!!」

 

 身体に白き雷を纏わせ、一気に距離を詰める。

 一刀も迎撃とばかり、太刀を枝のように振るう。

 

「たとえ修羅であろうと鬼神であろうと、我が大儀成就のため決して負けはせぬ!」

 

 雷撃が纏った拳と凶刃がぶつかり合い爆ぜる。

 まるで嵐か花火の如く、二人は打ち合う。

 

「ウォォォリャァァァァァァ!!」

 

 ゼロ距離で、一刀が渾身の突き放ちデウスの胸に破修羅で貫いた!!

 血を吐き出すデウスあったが、刺している破修羅を右手で抑えた。

 破修羅を抜こうとするがビクともしない。

 

「肉を斬らせて骨を断つ」

 

「チッ」

 

 武器を封じられた一刀は太刀を放ち、素手喧嘩に切り替えようとするが、その瞬間のデウスが逃さず、胸に太刀が刺さったままだというのに、自身の気力で一刀の顎にアッパーで打ち上げ後方へ吹き飛ばした。

 

「消え失せろ!義憤の鬼神!!」

 

 因果要塞と繋がっているデウス。因果要塞の貯められたマントラを自身に供給し、自身の限界をもこえる白き雷撃を放った。

 

 一言で表現するならば白き壁。白光に輝く神の暴力というべき雷撃が床に膝をつく一刀を包んだ。

 

 

 

 

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 一方、アスラとヤシャは因果要塞にあるヤシャ自身の部屋にいた。

 人の像となった因果要塞だが、各自の部屋だけは無事だったためここに隠れていた。

 その部屋のベットでいまだ眠っているミスラが横たわっていた。

 

「一刀の奴、ほんとうに大丈夫なのだろうか…」

 

「………」

 

 ヤシャが質問するがアスラは答えず、ただ腕を組んでミスラを見続ける。

 一刀を心配するヤシャは一刀を助けに行くべきだと痺れを切らして一人でに部屋から出ようとすると……

 

「…うぅ…あれ、ここは?」

 

 眠っていたミスラが目を覚ました。

 ヤシャはすぐさまアスラの横に移動し、ミスラに声を掛けた。

 

「気がつきましたミスラさま」

 

「お、伯父様?」

 

「叔父様など、私には叔父を名乗る資格などありません」

 

 妹でありミスラの母であるドゥルガを見殺しにしたヤシャ。

 謝罪をしても、命を差し出しても許されない。ヤシャは未だ自身の罪と罪悪感を抱く。

 そして、ミスラは自分の父親に気づいた。

 

「お父様…?」

 

「………ミスラ…」

 

 一万二千年も別れていた父娘。

 アスラはミスラの頭を撫で様と、腕を伸ばす……

 

 

 そのとき警報が鳴り響き、因果要塞が揺れた。

 

「ヤッシャ、いったい何がどうなんていやがるんだ!?」

 

 アスラが叫ぶ中、ヤシャは宙に表示されたディスプレイを操作する。

 原因を探る中、彼の表情が曇り、驚愕の顔になった。

 

「……ありえん…因果要塞が…貯められていたマントラが逆流してる…!?」

 

 因果要塞には一万二千年の間ためて来た七兆の人間の魂が蓄積さている。

 すでにブラズマストアを放つため、魂をマントラに変換したためただのエネルギー体にないるため後はブラズマストアを放つだけの状態になっている。

 で、その“ただのエネルギー”が人知れず膨大し、現在、因果要塞の蓄積量を超える外部へとあふれ出ているのだ。

 

「なに…これ…」

 

「どうかしましたか、ミスラ様?」

 

 その現況にミスラが怯えたような声で震えて言う。

 

「震えている…マントラが…なにかに共鳴している?」

 

「共鳴だと!?一度、エネルギーとして変換された魂がまた自我をもつなど…!?」

 

「ですが現状、マントラがいろいろな感情を爆発して高まっています!…こんな現象、私が巫女になってから一度も無かった!?」

 

 マントラの力を操り高める力をもった“奇跡の巫女”であるミスラ。長年、デウスの世界を救う計画の要として利用されてきたため、ヤシャ以上にマントラという存在を理解している。

 …理解してる上で、マントラが“暴れている”という未知に分からず恐怖を抱いていた。

 そんなミスラにヤシャが介抱する。

 

 そんな中、アスラだけが冷静に壁の向こう…デウスと一刀が戦っているはずの中枢に視線を向けた。

 

 

「……カズト。テメェの“そいつ”は俺と同じ怒りか?…それとも、ミスラみてぇな悲しみなのか?」

 

 

 

――俺以上に救われねぇよ

 

 

 

 家族以外の他者を気にかけず、気に入らぬものを壊すだけでアスラは初めて、一人の男に同情するのだった。

 

 

 

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 一方、デウスも同じくマントラの異変に気づいていた。

 しかし、眼前の”アレ”に目を背けられなかった。

 

「…今一度、問おう。貴様はいったい何の者なのだ?」

 

「宇宙一バカな何でも屋だ」

 

 神の天罰というべき白き雷撃というべき暴力。

 

 その絶対の暴力が、いつのまにか大太刀を握った一人の何でも屋が縦に切り裂いたのだ。

 

「その大太刀は我が友の物。なぜ下等が神の所有物を持ている…!?」

「こいつ?アスラが要らないからって渡されてな。ってか刀身が直ってるんだけど…?」

 

 一刀が手に持っている大太刀は『無明鬼哭刀』。

 アスラの師匠であり七星天の一人――オーガスが持っていた武器だ。

 アスラを自身の最後で最強の好敵手として戦い、敗れ、満足して消えた。そしてアスラによって刀身が折れた無明鬼哭刀だけを残して。

 その後、刀を使う一刀にアスラが「お前がもってろ」と押し付けられた。

 まぁ、オーガスも一刀の本質を見抜いた上で彼自身を深く気にっており、アスラもオーガスの供養として常に戦い続ける一刀を守るための無言の配慮でもあった。もっとも、視点を変えればいらない形見を押し付けられたというべきか。

 話が戻すが、デウスが放った雷撃を防ぐため、一刀はとっさに愛用の木刀“一騎当千”を召還しようとした。なのに、間違えて刀身が折れていた無明鬼哭刀が出してしまった。

 仕方なく射あい抜きの構えで、折れて尚自身の身長より長い大太刀を抜いた。

 するど、見事に雷撃を両断した。しかも、修理してないのに刀身が直っていたというオマケ付きで。

 どうして直っているのか分からない一刀。その間、デウスは一刀の後ろにある人物がぼんやりと浮かんでいた。

 

「…我が友よ。貴様は己の信念(欲)のため、そいつに味方するというのか…!」

 

 にやりを笑みを浮かべるのはアスラに倒されたはずの男――オーガスは「がっははははは!」と笑い声をあげ、デウスの視界から消えた。

 

「認めぬ…認めて成るものか!」

 

 

 デウスが見抜いた。あの人間(一刀)は危険だということを。

 

 デウスは悟った。世界は彼に味方していることを。

 

 デウスは恐れた。己の大儀を否定されることを。

 

 いゆえに全力で眼前の最大の障害を抹消すべきだと覚悟し、マントラを高めるのだが……

 

「ち、力が…」

 

 自身のマントラがまるで底が開いた桶のように抜けてくる。

 

 デウスが困惑する中、その隙に一刀が距離を詰めデウスの胸に刺さったままの破修羅の柄を握った。

 

「最初に説明しとくけど、こいつは神だろうが魔王だろう幽霊だろうが切り裂く特別製でな。しかも、自他の力を吸収する呪い付きだ」

 

「なっ!?」

 

 肉を切らさせて骨を絶ったはずだ、逆に肉を食われていたのだ。

 一刀を殴ろうとするデウスだが…――もう遅い!

 

「おまえら神に奪われた人類の自由…未来返してもらう!!!」

 

 ブッシュゥゥゥ!!!

 

 デウスの胸から瞬時に破修羅が抜かれた。

 

「グッォオオオオオオオオオオオ!!??」

 

 デウスの胸より大量の血が…多くのマントラが噴射する。

 絶叫をあげよろけるデウス。

 このままでは因果要塞に貯められたマントラが奪われる。そう危機を察知したデウスは、自身と因果要塞とのラインを切断。マントラの供給を止めた。

 

 

 一刀は右手に大太刀、左手に長刀を天井に掲げ……

 

「北郷流剣術…明王斬戒剣。軍茶利の型“乱武太鼓”!!」

 

 ダダダダダダダダダダダダダッ!!!

 

 斬撃と思わせない鈍く重い衝撃音が響き渡る。

 乱れ打ちとばかりに長刀と大太刀を振るう一刀。デウスは最後に残ったマントラで雷を身体に纏わせる(いわゆるスーパーアーマー)が、マントラの減少に加え激しい連斬で雷を無理やり剥がしていく。

 

「わ、我が…大儀は決して…滅ばん!!」

 

 最後の意地か、信念か。

 両手で二本の刃を掴み、連斬を止めた。

 

 あとは至近距離で雷を放出しようとするデウスだが、彼はある勘違いをしていた。

 

 

……一刀は剣士ではないということを。

 

 

 武器を受け止められた一刀は瞬時に二本の柄を離し、格闘態勢(ファイティングポーズ)を取っていた。

 しかも、血液操作による“北郷流七禍破王拳”の“武曲の型”状態になっており、拳が紅く硬化し、弾丸となって放たれる。

 

「こいつはヤシャを言葉巧み操り苦しめた分!」

 

 デウスの腹を右拳で殴る。重い一撃がデウスをくの字に曲げ、血を吐き出す。

 

 一刀の脳裏に自身の正義と罪悪感に苦しむヤシャの姿が浮かぶ。

 

「ぐっは!?」

 

 デウスは殴られた衝撃で二本の刀を離した。

 

「これはミスラちゃんを泣かし続けた分!!」

 

 デウスの顔面を左拳で殴る。拳がめり込みエビ反りに足が地面に浮く。

 

 一刀の耳に、この世界に来たときから聞こえてきたミスラの泣き声が再生させる。

 

「お、おのれェェェェ!!」

 

 神の頭目としての意地と己の野望のため、気力を振り絞り、すぐに態勢を整え右拳を放つが――

 

「これはお前ら神に人の尊厳などを奪われたあの子の痛みの分!!」

 

 デウスが放った右拳を右拳で砕く。デウスの右腕が破片となって吹き飛ぶ。

 

 一刀の手に、自分とアスラの生き様を見届けたミスラに似た少女の手の温もりがまだ感じた。

 

「そしてこれが…――テメェらのエゴ(大儀名分)に対する俺とアスラの怒りだァァァァァァ!!!」

 

 

 ズッドォォォォォォン!!!

 

 

 

 音速を超えるほどの強烈な紅い拳が雷の衣をすべて吹き飛ばし、彼の胴体に拳でぽっかりと射抜かれた穴が空いていた。

 

 

「…………」

 

 デウスは無言で佇み、一刀を見つめる。目の前の一刀が憤怒に燃えがあるアスラと被って見えた。

 

 一刀にいたっては、腕を下ろし、戦闘態勢を解いた。

 デウスから反撃の気配もない。そればかりか先ほどまでの濃い威圧と覇気も感じられない。

 感じられるのは気品のあふれる死期だけ。

 

「………貴様はなぜ神に抗ってまで悪鬼に手を貸す…すべては人の未来のためだというのに…」

 

 デウスが口を開き、一刀に問いかけた。

 その問いに一刀は頭を手で掻きながら答える。

 

「…ただ、どっかの親馬鹿(アスラ)がほっとけなかった。それだけだ」

 

「……そんな理由で大儀を乱していいと思うのか…」

 

「さっきから、大儀大儀でいうけど、おまえらは大儀の意味をほんとに分かってるんか?」

 

「なに…?」

 

「目の前に困っている人がいたら手を貸してやるのが人として当たり前。そこに理由なんていらない。それが大儀の本質だ。最低基準の常識かな?」

 

「……常識だと…?」

 

「そう、なぜなら大儀とは人の無意識的な秩序であり暗黙の了解そのもの。そこをいちいち意識してがむしゃらに主張するなんて奴は、他人や世界を理解しない無知な大統領か道化師だけだ」

 

「…道化…か…」

 

「大体、お前ら神は“大儀”と“未来”を同列に考えているから大事なことを見落とすんだ。未来は大儀によって築かれるんじゃない。大儀という常識に測って今の自分自身に力と信念で創るもんだ。大儀を守っただけで未来が約束されるなんて、そんなもん都合のいい幻想でしかない」

 

「………ならば、我らはどうすればよかったのだ…?」

 

「……正面から立ち向かえばよかったんだ。未来(幻想)に逃げず、ただ現実(障害)に抗え続けば」

 

 

 たとえ、永遠の地獄だったとしても必ず終わりがある。

 

 そして、新しい未来のために今を精一杯生きる。

 

 その現実(今)が未来(理想)を築き上げんだ。

 

 一刀は微笑みながら告げた。

 

 

「そうか…ならば我の大儀はあの時…同胞(アスラ)を裏切った時点で、我が大儀を忘れてしまったっか…」

 

 

――大儀の中で大儀を忘れた。

 

 

 “今”を犠牲にしたきたデウスとって目から鱗というばかりに、悟った表情で残った左手で一刀の頭を撫でた。

 

 

「もしも…貴公が我の傍に…我の息子だったら…別の選択があったのかもしれんなぁ……」

 

「…もし、そうだったら息子としてあんたの凶行を止める。必ず」

 

「ククッ、そいつはありがたい」

 

 デウスの体が徐々に光の粒子となって薄れていく。

 

「最後に貴様の名を聞こう青年よ…」

 

「…一刀…北郷一刀」

 

「一刀っか…まさに一人に刃のごとくまっすぐした瞳だ。我の大儀が成就がしなかったが最後に真の大儀を見れた。礼を言う」

 

 身体半分が消えていく中、意識が薄れていくデウスは最後まで一刀を見続けた。

 

 

――貴様の生き様、あの世でオーガスと共に見守っているぞ仏の化身よ

 

 

 デウスは父性を抱きながら微笑んで消え失せた。

 

「……仏の化身じゃない。ただの何でも屋だ…頑固親父」

 

 頭に撫でられた感触が残る中、そう呟いた。

 すると、アスラとヤシャ、そして、ミスラが駆けつけてきた。

 アスラとヤシャは周囲の状況から、デウスが死んだことを理解した。

 

「勝ったのだな…?」

 

「ギリギリだったけど、なんとか勝てたよ」

 

 一刀がヤシャに笑みを放った。ヤシャは一刀がデウスを倒したことに内心驚愕を抱くが、一刀が無事だったことに安心した。

 すると、突然、アスラが無言で一刀の頭に拳骨を放った。

 

「痛ッ、なにすんだ!?」

 

「フンッ、俺の復讐を奪った借りだ。こんど無茶したら宇宙に叩き出すから。覚悟しとけよ」

 

「…ハイハイ」

 

 ツンデレな発言するアスラに、一刀が乾いた声で返事をする。

 アスラ自身、一刀の安否を心配していたのだろう。素直でない友人にヤシャは苦笑する。

 一方で、ミスラはヤシャの背後に隠れて、一刀とアスラの会話をみて、信じられない顔をしていた。

 

「うっそ…あのお父様が家族以外で心配するなんて…叔父様、あの殿方はいったい?」

 

「……私がいえることは、おまえの泣き声を聞いて父と共に助けに来た、ただのお人よしさ」

 

 微笑するヤシャ。初めてみせた叔父の笑み。

 一刀のことは先ほど説明されたが、父親と叔父をここまで信用させた一刀にミスラは怯えながらも一刀を見つめる。

 

 その時、宇宙に獣の咆哮に似た慟哭が響き渡った。

 

 突然の轟音に一刀は困惑し、ミスラは父親にしがみついた。

 アスラとヤシャは、この轟音の正体を察し、巨大な窓からみえる地球に視線を変えた。

 

 青く美しかった地球から巨大な触手…卵から生まれたばかりの卵(地球)と同じサイズの溶岩のような肉体をもった巨龍が四匹、地表を破って出現した。

 以前、アスラから聞かされたこごがる。あの巨龍こそが人類の宿敵である存在“ゴーマ”であり、文明を滅ぼす最強の天敵“ゴーマ・ヴリトラ”だ。

 

「丁度いい。こっちは一刀に復讐する相手(デウス)を奪われてムシャムシャしてた所だ」

 

 アスラが拳を握り締め、白目で熱戦を吐くゴーマ・ヴリトラを睨む。

 

「ここいらでテメェらの因縁、ケリをつける!!」

 

「うむ!」

 

 意気込むアスラとヤシャ。

 一刀も戦闘準備のため、床に落ちた愛刀を拾うと……

 

「悪いがテメェはあっちだ」

 

「のっわ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 唐突にアスラに首根っこを掴まされ、そのままミスラの足元に投げられた。

 ミスラは突然のことに驚くが、デウスを倒した一刀を乱暴に扱った父親にミスラは一刀を介抱しながら怒鳴った。

 

「何をするんですかお父様!? この人はお父様の戦友の方なのでしょう!?」

 

「あぁ、だからこの戦いにそいつ(一刀)は必要ねぇ」

 

「アレ(ヴリトラ)は俺たち(超人類)の戦いだ。自分の尻は自分で拭く。それが道理というもの」

 

「伯父様まで…。ですが、デウス様を倒したこの人もいれば、あのヴリトラを倒せるかもしれ――」

 

「残念ですがミスラ様。それは無理です」

 

「そいつの体、よく見てみろ」

 

「……ッ!?」

 

 一刀を目を凝らして見たミスラは絶句した。

 一刀の体には重度の火傷や切り傷など満身創痍の状態だった。しかも、先ほどから黙っていると思われたが、実際は気絶しており、服を触って見るとべったりと赤い液体がミスラの手に付いた。

 

「一刀自身が言ったとおりギリギリだったのだろう。死力を尽くしてデウス様を倒したがその代償は大きい。そんな奴をこれ以上、俺たちの戦いに巻きたくないのだ」

 

「わ、私、お父様と伯父様のことばかり気にして…この方の心身を考えていませんでした…」

 

 自分勝手なこと考えていたミスラは反省する

 すると、アスラが背を向けて言い放つ。

 

「だから、ミスラ。テメェがそいつを護ってくれ。――頼む」

 

「ッ!?」

 

 ミスラはまた驚き、目を見開いた。

 他人を頼らなかった父親が、娘に甘いあの父親が娘に頼んだのだ。

 同時に、その言葉の意味を父親の背中が語ってくれた。

 

 一刀が死ぬ気でデウスを倒したように、父も伯父も死ぬ気で最後の敵を挑むのだと。

 

 そして、自分たちが死んでも一刀が無茶しないように見張っていろ。

 

 そう受け取ったミスラは真剣な表情で「分かりました…」と答え、小さく頷いた。

 そんな娘にアスラが不敵に言う。

 

「安心しろ。必ずおまえの元に戻って来る。それまでその馬鹿(一刀)を死なすじゃねーぞ」

 

「…ハイ!!」

 

 ミスラは元気良く返事し、アスラは笑みを堪えていたヤシャと共にヴリトラの元へ向かった。

 

「ヴゥ…アスラたちは…?」

 

「お父様と伯父様なら戦場へいきました。最後の戦場へ」

 

 一刀が目を覚ますと、そこにミスラが自分を見下ろしていた。

 どうやら膝枕されているようだ。

 眼前のディスプレイに巨龍に立ち向かう悪鬼たちがいた。一刀も参加しようと、痛む体に鞭を打って立ち上がろうとする。

 しかし、ミスラはそれを拒み、強引に一刀を押さえ付け、一刀の後頭部がミスラ膝に埋められる。

 

「駄目です。私の力で治療しましたがまだダメージが残ってます。ここでお父様が無事に帰ってくることを待ちましょう」

 

「けど…」

 

「あなたの戦いは終わりました。今度はお父様たちの戦いです。あの二人の生き様を邪魔をしてはいけません。絶対に…」

 

 と、強く言い聞かせるが、ミスラの目尻に涙が溜まっていた。

 彼女も父親の無事が不安なんだろう。一刀はそんな不安を抱く少女の頬を撫で、落ち着かせる。

 

「あっ…///」

 

「…そうだな。君の言うとおり、俺の戦いは終わった。あとはあいつらを信じて待つよ」

 

「…はい///」

 

 自分の頬に添えられた一刀の手を握り、潤んだ瞳で微笑んだミスラ。

 その頬はほんのりと赤くなり、表情が蕩けていた。

 

 ふと、一刀が横目をみるとうっすらと人の輪郭らしきものがみえた。

 その中には、見覚えのある、あの時、救えなかった少女がいた。

 微笑んで口を動かし…

 

 

――こ ん ど は わ た し た ち も た た か う

 

 

 その言葉に一刀は目を見開くも、クスン、と微笑した。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 ミスラには彼らがみえていないのか首を傾げた。

 一刀はミスラを見つめた。見つめられたミスラはさらに顔を赤くする。異性に対する免疫が無いのだろうか、それを置いとくとして。

 そんな彼女に一刀が…

 

「……ミスラちゃん」

 

 

 

――最後にあのデカブツに俺たち人類の力みせてみない?

 

 

「……へ?」

 

 

 

 

 

 その後、人類とゴーマがどうなったのか?

 

 

 

 それは彼らを観望していた黄金の機械蜘蛛か星読みの占い師、もしくは一人の修羅の隣を歩いていた一人の何でも屋しか知らないことだろう。

 

 

 


 
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