No.825405

復讐の『モモタロウ』

ushirakuさん

むかしばなし『桃太郎』の世界観をもとにした二次創作の物語です。

本家とはかなり作風が違っていて、桃太郎が復讐のために鬼退治にいくというお話。

2016-01-17 17:38:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:608   閲覧ユーザー数:606

 
 

1.【プロローグ】

 

むかしむかし、ある所におじいさんとおばあさんが暮らしていました。

 

おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 

おばあさんが川辺で洗濯をしていると、川の上流から大きな桃が流れてきました。

 

1人では抱えられない重さだったので、おばあさんはおじいさんを呼んできて、2人ががりで桃を家へと運んでいきました。

 

桃の中から「ドンドコ、ドンドコ」という鈍い音がしたので、中に何が入っているのかが気になったおじいさんは台所から包丁を持ってきて、桃を真っ二つに切りました。

 

桃の中から出てきたのはとても元気な男の子の赤ん坊でした。

 

おじいさんとおばあさんはとても驚き、一歩あとずさんでいました。

少し間を置いてから、この子をどうするか話し合いました。

そして、2人で育てることに決めました。

 

赤ん坊の名前は『モモタロウ』。

桃のように身が厚く、太く逞しく育ってほしいという思いで名付けました。

 

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2.【おじいさんたちの暮らし】

 

おじいさんとおばあさんの家はかなり質素で、3人で住むには少し狭いつくり。

 

壁に穴があいているため、室内はすきま風がビュウビュウ入ってくるし、戸もガタついて冬場はまともに眠れないくらいの寒さです。

 

おばあさんはもともと病弱で、モモタロウがこの家に来る前から部屋で寝込むことが多く、仕事と家事はおじいさんが1人でこなしていました。

 

モモタロウは家の手伝いをさせられるべく、おじいさんからかなり厳しく「しつけ」を受けました。

 

その「しつけ」の中で一番守るべきものは『鬼さまに逆らうな。 』でした。

 

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3.【鬼がきた】

 

村にはときおり鬼がやってきて、金や食べものを奪っていきます。

鬼の言うことを聞かない人は、ひどい暴力をうけ場合によっては死んでしまう人もいました。

 

鬼は、村はずれにあるこの家にも取り立てにやってきます。

 

おじいさんは、いつも鬼に逆らわず大人しく金と食べものを差し出していました。

 

モモタロウはなぜ鬼がこんなに偉そうにしているのか分かりませんでしたが、おじいさんの「しつけ」に従って過ごしました。

 

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4.【モモタロウの成長】

 

月日は流れ、モモタロウは10歳になりました。

 

おばあさんは相変わらず寝込む生活が続いていて、家事と仕事はおじいさんとモモタロウとで分担しています。

 

モモタロウは子どもにしてはかなり力が強く、芝刈りや畑の仕事は1人でこなせるようになりました。

 

おじいさんの「しつけ」は相変わらず厳しいですが、モモタロウの働きぶりには一目置いています。

 

モモタロウには、村へ出て遊んでみたいという気持ちが少なからずありますが、仕事で手一杯なため遊びに行ったことはありませんでした。

 

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5.【おばあさんのきび団子】

 

ごくまれに、おばあさんの調子がいいときがあります。

体調がいい日は、モモタロウにきび団子を作ってくれました。モモタロウの大好物です。

 

ある日、おばあさんは畑仕事に行こうとするモモタロウを呼び止め「いつもありがとうね。今日も行ってらっしゃい」と言いながらきび団子を手渡しました。

 

モモタロウは朝から気分良く家を出て、畑にむかいました。

 

畑の横にある休憩用のイスにきび団子を置き、いつもよりも元気に仕事を始めました。

 

お昼ごろになったとき、畑の脇道から子どもたちの声が聞こえてきました。

 

 

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6.【悪ガキ3人組】

 

3人組の子どもたちは休憩用のイスに座り、モモタロウのきび団子に手を伸ばしました。

 

「おっえ〜! クソマズい!」

 

声がした方へ振り向くと、イスの上に置いてあったきび団子がグチャグチャになって地面に崩れていました。

 

3人組はモモタロウの方に向かってきて、

 

「おい、あのクソマズい団子お前の? よく食えるね、あんなの。」

 

と言い放ちました。

 

その一言でモモタロウの顔は真っ赤にふくれあがり、一呼吸おく間もなく、3人組に突っかかっていきました。

 

気がつくと3人組は血まみれになって地べたに這いつくばっていて、モモタロウ1人だけがその場に立っていました。

 

「こ、こいつ、バケモノだっ…!」

 

3人組はそう言い放ち、たちまち逃げ去っていきました。

 

モモタロウは、地面に崩れてしまったきび団子を砂ごと口に頬張り、涙を流しながら食べました。

 

 

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7.【サル山、キジ谷、イヌ尾】

 

後日、モモタロウが畑で仕事をしていると、このあいだの3人組が謝りにきました。

 

「あ、あのさ、この前は本当にゴメンよ。悪気はなかったんだ。ただ、からかってみたかっただけなんだ。本当にゴメン。」

 

モモタロウは渋々ながらも3人組を許し、休憩用のイスに腰掛けました。

 

3人組の少年の名は 、サル山、キジ谷、イヌ尾。

村に住んでいる子どもたちです。

 

 

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8.【鬼との遭遇】

 

3人組と仲良くなったモモタロウは、仕事が終わってから少しの時間だけ一緒に遊ぶようになりました。

 

ある日の仕事終わり、モモタロウはいつも通り3人組と遊ぶべく、畑の腰掛け椅子で待っていたのですが、日が暮れても彼らは来ませんでした。

 

待ちくたびれたモモタロウは家に帰ることにしました…が、帰りの道中で鬼に遭遇してしまいました。

 

真っ黒で毛むくじゃら、体長はモモタロウの5倍くらいの大きさ。

 

今まで見た鬼の中で一番大きな鬼でした。

 

鬼の手元には、血まみれになったおじいさんとおばあさんが握られていました。

 

その光景を見たモモタロウは激怒し、鬼に飛びかかりました。

 

しかし、鬼の力強さはケタ違いで、モモタロウでは全く歯が立ちませんでした。

 

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9.【2つの骸】

 

どれくらいの時間が経ったでしょうか。

 

気が付くとモモタロウは地面に突っ伏していて、体中が血まみれになっていました。

 

そして、目の前にはおじいさんとおばあさんの骸が2つ。

 

育ての親である2人は鬼に殺され、モモタロウは勝負に負けてしまいました。

 

モモタロウは2つの骸を家の近くに埋葬し、自分の傷を手当しました。

 

そして、かつて桃を真っ二つに切った包丁を手にし、村の方へと歩き出しました。

 

「サル山、キジ谷、イヌ尾…お前らの力が必要だ。」

 

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10.【エピローグ】

 

それから一ヶ月ほどが経ったころ、村には鬼が一匹も来なくなりました。

 

モモタロウと3人組の行方は誰にも知られていません。

 

ただ、おじいさんとおばあさんのお墓には、一本の包丁が供えられていましたとさ。

 
 

 
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