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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ十五

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2015-12-24 02:01:08 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:1790   閲覧ユーザー数:1560

 

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ十五

 

 

房都城 皇帝執務室

 

「ご主人さまっ!かの外史へ向かう術は無いのですかっ!!」

 

 部屋に入るなり鬼も逃げ出す怒りの形相で言い放つ愛紗に対し、机に向かっている一刀たちは深刻な顔で答える。

 

「「「愛紗………俺たちだって行ける物なら聖刀達を助けに行きたいさ………」」」

 

 一刀たちは静かに立ち上がり、窓から空を見上げて記憶に在る前の外史での于吉との戦いを思い返す。

 

「「「前の外史で曹魏の兵士を妖術で操り、華琳の意識も奪った。建業では冥琳の心を闇に落とし蓮華を裏切らせ、最後には命を奪った。そんな于吉の闇の部分だけを抽出した様な奴が、ザビエルを名乗って聖刀達を狙ってるんだ。俺たちが焦っていないわけ無いだろう!」」」

 

 一刀たちの気持ちに愛紗は今頃になって気が付き、自分の短絡な行動を恥じた。

 

「申し訳ございません………ご主人さま………この関雲長、心配のあまり目が眩んでおりました………」

「「「愛紗がここまであの子達を心配して取り乱すとは思わなかったな。その気持ちは素直に嬉しいよ♪来るなら春蘭だろうと思ってたけど…」」」

「春蘭は華琳殿の所に行きました。」

 

 一刀たちは、今頃華琳が春蘭を相手に説得しているのだろうと想像し、結果春蘭が『お仕置き』されるヴィジョンも浮かんだ。

 

「やはり春蘭もあの小さな子供達が狙われているかと思うと、私と同じで居ても立っても居られなくなってしまうのでしょう………」

「「「は?小さいって、聖刀は俺たちと同じか少しでかいんじゃないか?祉狼と昴は背が低い方だけど小さい子供って言うのはちょっと…」」」

 

「何を言われますかっ!三人共ついこの間、学園の初等部に入ったばかりではないですかっ!!」

 

「「「何年前の話だよっ!聖刀は愛絽と同い年なんだぞ!ちゃんと一緒に高等部への入学式をやっただろうっ!!」」」

「…………………そう言えばそんな記憶が…………いえ、しかしこうして目蓋を閉じれば聖刀と祉狼と昴の可愛らしく駆け回る姿が…………」

「「「………………ダメだ………かなり錯乱してる…………………」」」

 

 思い出の中の聖刀、祉狼、昴を愛でる愛紗は顔が緩みきって武神の姿はどこにも無い。

 旅立っている愛紗をどうした物かと一刀たちが考えていると扉をノックする音が聞こえた。

 

「一刀たち、少々話が有るのだが入ってもいいか?」

「「「冥琳か、どうぞ。」」」

 

 部屋に入った冥琳は、先ず愛紗を目にして溜息を吐いた。

 

「話と言うのはこれの事だ。」

 

 そう言って愛紗を指差す。

 

「「「愛紗の事?」」」

「いや、愛紗だけでは無い。聖刀からの報告で武将達の大半が情緒不安定だ。」

「「「他もみんなこんな感じになってるのか?」」」

「まあ、似た様な物だな。そこで大規模な模擬戦をやってはと丞相室では意見が纏まった。」

「「「頭で考えるより身体を動かした方が良いか…………俺たちも賛成だ。」」」

 

 愛紗のこんな姿を見れば、目的を示してやるのが今は一番効果的だと思える。

 

「「「愛紗、模擬戦をやるぞ。」」」

「ほらほら♪そんなにはしゃいでいたら転んでしまうぞ……………………え?…………模擬戦?」

「「「そうだ。向こうに行ける手段が解っても愛紗が不抜けていたら意味が無いだろ♪」」」

「はっ!そ、その通りですっ!!では早速準備に入りますっ!!」

 

 我に返った愛紗は大慌てで皇帝執務室を後にし、廊下を走って行った。

 

「「「実際、こちらから向こうに行けるかは判らないが、いつザビエルがこっちに鬼を送り込んで来ても対処出来る様にはしておかないとな。」」」

「その為にこれまでお前たちには頑張ってもらったんだ♪娘達もこれだけ増えた♪」

「「「冥琳やみんながあの子達を鍛えてくれなければ、それこそ意味が無かったさ。これからも頼むよ、冥琳。」」」

「これからは私達親が言わなくともあの子達自身が聖刀達の為に頑張るだろうさ♪」

 

 一刀たちは再び窓へ向かい、今度は庭を慌ただしく走っている娘達を見た。

 声を聞けば、愛紗に言われて模擬戦の準備を始めているのが判る。

 

「「「まだ具体的な事は決まってないのに、みんなやる気充分だな♪さて、これから会議で模擬戦の詳しい所を決めるんだろ?」」」

「ああ♪私も戦の勘を取り戻さなければな。ふふ♪久々だな、この感覚は♪」

 

 一刀たちと冥琳は戦乱の頃の顔つきになって、会議の場である玉座の間へ向かった。

 

 

 

 

「越後を…………鬼の手から救うのを手伝って!」

 

 場面は一刀たちが玉座の間に向かう数日前の朝倉屋敷にまで戻る。

 美空の言葉とザビエルが残した捨て台詞で、現在越後がどうなっているのか全員が察した。

 

「美空、聞きたい事は山ほど有るが、先ずは自己紹介をすべきであろう。ここにはお主と初対面の者の方が大半じゃ。」

 

 一葉に言われて美空ははっとなり、先ずは大きく深呼吸をしてから室内を見回す。

 そして久遠と祉狼の前に座り深く頭を下げた。

 

「私は長尾宗心景虎。通称は美空。春日山城城主…………いえ、元城主ね…………」

 

 越後の龍、軍神、聖将と謳われた長尾景虎がここまで打ち拉がれている姿に、その渾名を知る者達は驚いていた。

 

「おい貴様、本当に美空か?前に京に来た時と態度が違いすぎる………もしやザビエルに操られておるのかっ!!」

 

「私があんなクソメガネの術に操られる筈ないでしょっ!!」

 

 美空が打ち拉がれた態度から一転、目を吊り上げて一葉に食って掛かった。

 

「おお♪これこそ余の知る美空じゃ♪」

「…………あのね、一葉さま…………私は今、本当に追い詰められてるの!本当ならここに助けを求めにも来たくなかったのよっ!!」

 

「落ち着け、長尾の。我が織田上総介久遠信長だ。」

 

 久遠が間に入った事で美空は落ち着きを取り戻し、再び久遠に向き直り、その横に居る祉狼に視線を向けた。

 

「うむ、これが我が良人、華旉伯元祉狼だ。」

「あなたが噂の薬師如来なのね………」

 

「俺がどう呼ばれているかは知らないが、越後の人々を鬼から守ると言うなら俺は協力を惜しまない!」

 

「ふふ、あなたの力が本物なのは一目見て判ったわ♪元々あなたの事は疑って無かったけどね♪」

 

 美空の祉狼に向ける笑顔には何の邪気も感じられず、素直な信頼が篭っていた。

 その笑顔を見ていた久遠が探る様に目を細める。

 

「ふむ…………美空、越後で何が有った。」

「そうね…………先ずは私達が越中から加賀に攻め込んだ時が始まりだったわ。」

 

 美空の話に全員が耳を傾け、一字一句聞き逃すまいと集中した。

 

「加賀に攻め込んだ私達を待ち受けていたのは鬼の大軍だった。」

「ちょっと待てっ!加賀で鬼に待ち伏せされたと言うのかっ!?」

「ええ、そうよ…………やはりこちらも加賀の情報は掴んでいなかったのね。」

「加賀どころかこの越前すらザビエルの手に落ちていたとは気付けなかった。」

「あいつの幻術で草が偽の情報を掴まされていたのでは仕方ないわよ。私の所も同じだったもの。でも、私にとっては加賀の鬼は大した驚異では無かったわ。問題は加賀に攻め入った時に春日山城を馬鹿姉に奪われてしまった事よ。」

 

 一葉が美空の姉がどういう人物だったか記憶を探る。

 

「美空の姉というと………長尾晴景か。凡人だと聞いていたが………」

「ええ、一葉さまの言う通り。凡人は凡人らしく大人しくしていればいい物をっ!変な欲を出すからザビエルにつけ込まれるのよっ!!」

「それはまさかっ!……………晴景は鬼の力に頼ったのかっ!?」

「私の三昧耶曼荼羅に対抗するためでしょうね。そんな借り物の力じゃ意味無い上に越後どころか日の本にまで仇をなすって気付かないなんて…………本っ当に馬鹿よっ!!」

 

「なあ、美空。『さまやまんだら』とは御家流か?」

 

 祉狼が素直に疑問を口にする。

 その何も邪心の無い顔に美空が笑顔で応えた。

 

「そうよ、祉狼♪尤も私が自力で手に入れた技だから、私が初代だけどね♪」

「御家流を自力で手に入れたのかっ!それは凄い修行をしたんだろうな♪」

「え、えへへへ♪そ、それ程でも無いわよ♪」

 

 祉狼の美空を称える目に、美空は照れくさくなって顔を赤くして謙遜する。

 

「尊敬するぞ!美空♪」

「あ、ありがとう…………祉狼♪」

 

「おい!お前は本当に美空なのか!?そんなしおらしい態度は初めて見たぞっ!」

 

「一葉さま!いい雰囲気になってるのに口を挟まないでよっ!!こんなに可愛くて素直な心を持った男の子なんだからこっちだって素直になるわよっ!!」

 

 美空の言葉に祉狼の嫁達から溜息が出た。

 

「(はぁ…………祉狼さまの御家流には越後の龍もあっさり絡め取られましたか………)」

「(でも詩乃ちゃん、美空様って初めからお頭には好意的だったよ?それなのに何でお頭に助けを求めたく無かったなんて言ったんだろ?)」

「(ひよも気が付きましたか。私もそこが気になりました。もう少し話を聞いてみて、その理由を仰らない様なら問うてみましょう。)」

 

 そんな周囲のヒソヒソ声を他所に美空と一葉の言い争いは続いている。

 

「祉狼は余が主様と呼ぶ余の良人ぞっ!誘惑なんぞされて黙って見ていられるかっ!」

「一葉、それは我が先に美空に我の良人だと説明した。」

「一葉さまも嫁になったのは初耳だけど、祉狼をこの日の本に繋ぎ止める為に多くの妻を必要としている話は聞いているわ!一葉さまが独り占めする様な言い方は駄目なんじゃないかしら?」

「別に余は独り占めなどしておらんっ!初夜の時だって…」

「一葉!その事は後でじっくり話し合う。今は春日山の話が先だっ!」

 

 一葉が妙な事を口走り出したので久遠は強引に話を戻した。

 

「そ、そうね。ええと、どこまで話して……そうそう、馬鹿姉がザビエルに騙されて春日山を乗っ取った所ね。春日山城に居るのが馬鹿姉とそれを支援して鬼にされた連中だけなら、私の三昧耶曼荼羅で城ごと叩き潰してやる所なんだけど………人質を取られたのよ………」

 

 途中まで怒りを露わにしていた美空が、人質の事を告げる時は沈痛な表情を浮かべたのを見て久遠達にもその人質が美空に取って大事な人物だと判った。

 

「その人質を救出に協力すればいいんだなっ!任せてくれっ!」

 

「「だから即答してはいかんっ!!」」

 

 久遠と一葉は左右から祉狼の頭と口を押さえ返事が出来ない様にしてから、更に畳の上に押し倒した。

 

「ちょっと!良人がやるって言ってるのを邪魔するなんて、良い妻とは言えないわよ!」

「昨日までなら率先して賛成しておったわっ!」

「今日、我らはザビエルが祉狼を攫おうとしている事が判ったのだ!お前の人質に加えて祉狼まで人質にされては我らも手が出せなくなる!」

「そんなのどうやって知ったのよっ!」

「奴はほんの半刻前までここに居たのだ!」

 

「ぬわんですってえぇえええええええええっ!!そうと知ってればもっと早く駆け付けて一乗谷ごと三昧耶曼荼羅で叩き潰してやったのにっ!!」

 

 憤る美空を眞琴が慌てて遮った。

 

「そ、それは困りますっ!ここでもこちらの義景姉さまが囚われていたんですからっ!!」

「え?義景って………」

 

 ここで改めて美空は眞琴の背後でひとりだけ布団の中で赤ん坊を抱いている延子を見た。

 

「あなた朝倉義景だったのっ!?良かった♪あなたは生きていたのね♪」

 

 美空が延子の下に駆け寄りその手を取る。

 その喜ぶ姿が演技ではないのは誰の目にも判った。

 当の延子は始め驚いた顔をしていたが、美空が赤ん坊に笑い掛けたのを見て微笑みに代わる。

 

「こうしてかの越後の龍殿からその様な言葉が聞けるとは、一年前は思いもしませんでした♪全ては祉狼様のお蔭です♪」

「本当にね♪これからは私の事は通称の美空で呼んでちょうだい♪」

「私の通称は延子です♪以後よしなに♪」

 

 延子と頷き合った美空は再び眞琴に振り返る。

 

「さっきはごめんなさい。無神経な事を言ってしまったわ。あなたは浅井新九郎ね♪」

「はい。義景姉さまが通称を許したのなら、ボクの事も通称の眞琴で構いません。」

「よろしくね、眞琴♪………あら?眞琴は延子の事を通称で呼ばないのね?」

「義景姉さまの『義』は公方様から頂いた名ですから、ボクは尊敬を込めて呼んでいるんです♪」

「一葉さまからねぇ………(落ちぶれ将軍家から名前を貰って嬉しいモノかしら?)」

 

 美空は横目で一葉を見る。

 

「ん?何じゃ♪美空も余の名を欲しいのか♪ならば『輝』の一字をやるから『輝虎』と名乗るがよい♪」

「ああ、はいはい。気が向いたらね。そんな事より加賀と能登が鬼に攻め落とされて、冨樫氏と畠山氏が滅んだわ。でも朝倉が生き延びていてくれて希望が見えたわよ。」

「加賀と能登がっ!?」

「それだけじゃなく、出羽と陸奥にも鬼が出始めているらしいわ。」

「ザビエルめ…………そこまで手を伸ばしているのか………」

 

 久遠は考えていた以上にザビエルの手が早い事に焦りを感じ始めている。

 越後の鬼を退治する為に進軍するのに否は無い。

 しかし、越前に後どれくらい残っているか判らない鬼を退治して、加賀と能登の鬼も殲滅し、生き残っている人達の救援もしなければならない。

 

(これもザビエルの策であり、こちらが時間を掛けている間に越後を越前の様にしてしまうつもりだろう。ザビエルの裏を掻くには春日山城の人質を助け出し、美空が越前を取り戻すのが一番なのだが………小波ならば出来るのではないか?)

 

「美空、人質となっているのは誰だ?」

「それは………五人居るのだけれど………」

「五人だと!?それは流石に……」

 

 小波が配下を使っても連れ出すのは難しいと久遠は思った。

 

「その五人の名は?」

「名前っ!?………ええと………」

 

 美空が視線を逸らす。

 久遠は美空の言う人質の話が一瞬嘘なのかと思ったが、美空は視線を泳がせるのでは無く明らかに誰かを探していた。

 結局見付けられなかったらしく、久遠に顔を近付けて囁く声で問い掛ける。

 

「(ねえ、孟興子度昴ってこの中に居ないわよね!白い天の衣を着ているって聞いてるけど、たまたま着替えてたなんて事も有るし!)」

 

 この発言で久遠はピンと来た。

 人質の中に幼女が居て、昴の噂を聞いた美空が警戒、いや敵視している事が。

 

「(いや、あやつは今屋敷の外で鬼が潜んで居ないか捜索をしている。)」

 

 昴がこの場に居ないのは、女の子の赤ん坊達を見て『早く大きくなって私と遊びましょうねぇ〜♪色んな事をして♪』とヨダレを流していたので、和奏達が屋敷から連れ出したのだった。

 と、その時屋敷の外から大声で呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「おーーんたーーいしょーーーー!ここに居るっすかぁあーーーーーー?」

「柘榴、それだと御大将が居留守をしているみたいに聞こえる。」

「なんっすか、松葉!柘榴の言葉が訛ってるって言うんすかっ!?」

「柘榴、自覚ない………」

「柘榴ちゃんも松葉ちゃんもこんな所で言い争いしないのっ!」

 

「ああ、やっと来たわね。私の家臣なんだけど入れてもいいかしら?」

「構わんぞ。むしろ早い内に面通ししておいた方が良かろう。」

 

 久遠はひよ子に目配せをして迎えに行かせる。

 ひよ子が部屋を出て直ぐに、そのひよ子の驚く声が聞こえてきた。

 

「こ、昴ちゃんっ!?どうして…」

 

 久遠は頭を抱えて溜息を吐いた。

 

「城戸の所で柘榴ちゃん達が御大将って人を捜してたから、きっと麦穂さんが案内した人がそうだと思って連れて来たの♪」

「いやあ、助かったっす♪で、御大将はさっき話した空さまと名月さまを教育してどちらかを跡継ぎにする予定なんすよ♪あ、御大将っ!ひとりで行っちゃうんすから…」

 

 

「柘榴ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

 

 美空はスカートが捲れるのも無視して、柘榴こと柿崎景家に飛び蹴りをぶちかました。

 

「げっふぅうっ!」

 

 蹴られた柘榴は、今来た廊下を逆戻りして玄関から砲弾の様に外まで飛んで行く。

 蹴っ飛ばした本人は怒りに目を血走らせ蟹股でゼェゼェと肩で息をしていて、とても女の子が人前で見せて良い姿ではなかった。

 

「まあまあ、お義母さん♪落ち着いて下さい♪」

「お義母さんなんて呼ばせないわよっ!特にっ!!あんたにはっ!!!絶対にっっ!!!!」

 

「お、御大将……本当に落ち着いて………」

「秋子っ!あんたが付いて居ながら何してたのっ!?」

「す、すいませぇん!情報交換していたらいつの間にか……」

 

「お話は伺いました、長尾美空景虎様♪この孟興子度が必ずや囚われの姫君お二人と秋子さんの幼女を救い出してご覧に入れましょう♪」

 

 昴は自信たっぷりに胸を張って宣言した。さり気なく養女を幼女と言い換えて。

 美空は目を吊り上げたままだが、呼吸が落ち着いてきている。

 

「囚われているのは全部で五人よ。その内ひとりはあなたよりも年上だけど、出来るのかしら?」

 

「問題有りません♪久遠さまのお許しが有れば直ぐにでも春日山城へ向かいます♪」

 

「そう。なら私は今から久遠と相談するから外で待ってなさい。」

 

「はい♪いつまででもお待ち致します♪ですが、少しでも早く決断下されば、その分人質の方が不安を覚える時間が短くなる事をぐべぷきべは!」

 

 昴の腹に和奏渾身の右ストレートがめり込んだ。

 

「いつの間にか見えなくなったと思ったら勝手に戻りやがって!ほら、まだ探索終わってないんだからさっさと来いっ!!」

 

 美空の事が目に入っていない和奏は、白目を剥いた昴を引き摺って玄関から外に出て行った。

 

「…………………え〜と………」

「今のは我の処の黒母衣筆頭で昴の正室の佐々成政。通称は和奏だ。」

「へぇ、何だか結構尻に敷かれてるのね……」

 

 美空は部屋の中に戻りながらそんな感想を述べた。

 

「なあ、美空。ここはひとつ、昴に賭けてみるのはどうだ。」

「はあっ!?養子でも私には心の支えになる大事な娘なのよっ!あんな除夜の鐘を千回突いても祓えそうに無い煩悩の塊を近付けられる訳ないでしょっ!…………って、言いたいけど………確かに現状はあいつが一番ザビエルの隙を突けると思うわ………」

「どういう意味っすか、御大将?」

「それはつまり……………って!柘榴っ!あんたもう復活したっ!?」

 

 いつの間にか美空の後、松葉と秋子の横に柘榴が並んでいた。

 

「いやあ♪流石に効いたっすけど祉狼くんが治してくれたっす♪もうピカーーっと光ってドーーンってな感じでスゴかったっすよ♪公方様が旦那に選ぶ理由が分かったっす♪可愛いけど格好良くって頼りになるけど守ってあげたくなるっていう、この相反する魅力を持ち合わせているのが堪らないっす♪気分はもう若紫を目にした源氏の君っすよ♪」

 

 詩乃達は、又ひとり祉狼の北郷家御家流の餌食になったと溜息が出た。

 美空はまだ北郷家御家流の存在を知らないので、柘榴を冷ややかな目でみている。

 

「柘榴、あなたが源氏物語を読んでいたとは知らなかったわ…………」

「何言ってるんすか、御大将!源氏物語くらい当たり前の教養っす!柘榴だって乙女なんすから恋物語に憧れるんっすよっ!!」

「はいはい、その話は後!今は人質の事を説明するのが先よ!」

「え?まだしてなかったんすか?」

「あの煩悩が戻って来る前に説明しなきゃいけないんだから、口を挟まないようにねっ!」

 

 美空は久遠達に振り返り、確認も取らずに話し始める。

 

「人質五人の内、二人は私の跡継ぎ候補で長尾空景勝と北条名月景虎よ。」

「北条?」

「言いたい事は判るけど、先に人質全員の事を話すわ。次にここに居る直江秋子景綱の養子で樋口愛菜兼続。そして私の家臣の宇佐美沙綾定満と小島貞子貞興。以上の五人が春日山城に囚われている。」

「ん?先程、昴に大人はひとりと言っておったが、それは家臣のどっちだ?」

「それは貞子の事よ。元々空の護衛を任せていた者。貞子が居るから馬鹿姉も子供達に手荒な真似は出来ないでいる筈だわ。」

「ひとりで四人の子供を守っているのか……」

 

「うささんは御大将の家臣で一番年上っすよ。」

 

「???どう言うことだ?」

 

 頭を悩ませている久遠に沙綾と面識のある一葉が説明する。

 

「久遠、宇佐美は見た目が若くての。余も初めて会った時は騙された。」

「見た目が若い?それは慶の様な感じか?」

「いや、慶はまだ良い方じゃ。宇佐美は昴の嫁達の中に紛れても違和感が無いくらいじゃぞ。」

「そんな人間が居るのか?」

 

 久遠は信じられず疑いの眼差しを一葉に向けるが、祉狼と聖刀は納得顔で頷いていた。

 

「そういう人は俺の伯母にも居るぞ。朱里伯母さん…諸葛孔明もそうだ。」

「そうなのか、祉狼?今孔明と比べてどうだ?」

「詩乃の方が年上に見えるな♪」

「ほほう♪良かったな、詩乃♪今孔明として本家より勝る所が見つかったぞ♪」

「そんなの嬉しく有りません………」

 

 拗ねる詩乃の横でひよ子がふと思い出す。

 

「そう言えば昴ちゃんって諸葛孔明様が苦手って言ってました。」

「あら♪それは良い事を聞いたわ♪実は沙綾があの煩悩に対する対抗手段だったのよ。沙綾なら身を呈してあの煩悩から子供達を守ってくれると信じていたから。だから沙綾の正体はあの煩悩には秘密にしてちょうだい♪」

「デアルカ。まあそれは昴の嫁達も率先して協力するだろうから安心して良いと思うぞ♪」

 

 二条館での正室を決める騒動の前から、和奏達は昴の幼女に対する手の速さには怒っていたので久遠は大丈夫だと踏んだのだった。

 

「さて、今孔明。昴に人質救出を任せる事を前提に、我ら連合の戦略は思いつくか?」

「その呼び名はおやめ下さい、久遠さま。」

 

 詩乃はまだ拗ねた顔をしながらも、連合の取るべき戦略を思案する。

 軍略の天才と名高い美空を前に、内心対抗意識を燃やして思考をフル回転させた。

 

 

 

 

「先ず春日山城への人質救出部隊の編成は、昴さんにお任せしたいと思います。本隊は陽動と人質救出後の越後解放の準備を兼ねて、越前、加賀、能登、越中の鬼を駆逐します。その為の補給路確保に飛騨の姉小路様を連合に迎える必要が有ります。北陸道側がこの様な状況ですし、姉小路頼綱様の正室は結菜さまの妹君ですから否とは言われないでしょう。」

「あそこも姉小路に改姓するのにゴタゴタしたからな。使者には誰をたてるか………」

「ここは明智衆の秀満殿にお願いしようと思います。私や結菜さまが往けば話が早いのですが、本陣を離れる訳には行きません。エーリカさんは結菜さまの親戚ですし、秀満殿は飛騨と美濃の関係も熟知してますから安心して任せられます。」

「秀満………ああ、三宅が改名したのであったな。うむ、では明智秀満には飛騨との交渉役を終わらせたら、岐阜城の半羽と連携させ物資の輸送を任せる。」

「久遠さま、飛騨の調略に併せて甲斐武田、相模北条に連合への参加を呼び掛けては如何でしょう?」

 

 詩乃の提案にいち早く反応したのは美空だった。

 

「はあ?この長尾景虎に武田晴信と手を組めって言うのっ!?」

 

 川中島の因縁を当然知っている詩乃は、この反応も計算済みだ。

 

「祉狼さま、美空さまは甲斐信濃の民が鬼に襲われても心が痛まないそうですが…」

「ちょ、ちょっとっ!何言ってるのよっ!」

 

 美空が慌てて振り返ると、祉狼が悲しそうな顔で美空を見ている。

 

「わ、判ったわよっ!民の為!民の為に光璃と一緒に鬼と戦うわよっ!!」

 

 美空はヤケクソになって宣言するが、祉狼が笑顔になったのを見て川中島の因縁も水に流せそうな気分になってくる。

 

「美空さまの了承が得られましたので、後は武田晴信様の出方次第ですね。北条氏康様ですが………美空さまは名月さまの件で発言力が有るのでは?」

「あのね、竹中半兵衛………あんたも判ってて言ってるでしょ!」

「それはまあ………あの北条氏康様ですから………」

 

 この軍議の中で解っていない顔をしているのは祉狼と聖刀だけだった。

 

「その北条氏康さんはどんな人なんだ?」

「うむ………常に微笑みを絶やさぬが目的の為なら手段を選ばぬ危険な女だ。」

「子供好きで良い母親ではあるけどね。」

「子沢山じゃしの。美空が養子に迎えたのは何女じゃ?」

「七女よ。」

 

「子供好きで子沢山で微笑みを絶やさず目的の為なら手段を選ばないか………何だか桂花伯母さんみたいだな、聖刀兄さん♪」

「桂花母さんが笑顔なのは僕らと母上と眞琳姉さんの前だけだよ♪父上たちに対しては怒鳴ってる時の方が多い気がするね♪」

 

祉狼と聖刀の語った親族の新情報に女性陣が色めき立つ。

 

「祉狼、その桂花殿の姓名は何というのだ?」

「荀彧文若だ。」

「王佐の才の!…………成程、氏康は今文若か♪」

 

 見た目、特に胸の辺りが対極なのだが、久遠は北条氏康も桂花も見た事が無いのだから仕方の無い事だった。

 

「まあ、あの人にはザビエルと鬼の事を教えれば、情報を集める為に自分からこちらに近付いてくるわよ。」

「三好三人衆ほど馬鹿では無いが、ザビエルを利用しようなどと、妙な色気を出さねば良いがな。」

 

 北条氏康の件は一応の見解が出たので、詩乃は次の提案に入る。

 

「今回の越前ではザビエルに偽の情報を掴まされ、一乗谷がこの様になってしまいました。加賀と能登も鬼が蔓延(はびこ)っている上に出羽と陸奥でも鬼が出ているとなれば、山陽道、山陰道、四国、西海道と日の本のどこかにザビエルが手を伸ばしている可能性も考えねばなりません。情報を集める為に草を放っても、また偽の情報を掴まされるでしょうし、ここは連合を大きくして行くのが一番の近道だと私は考えます。その為にもこの北陸道の戦は派手に行い日の本全土に連合の強さを知らしめる必要が有ります。」

 

 詩乃の提案に一葉がニヤリと笑う。

 

「ふむ、人質救出への陽動ともなるし、一石二鳥と言う訳か♪」

「一葉は暴れたいだけであろうが。」

「今日は余の三千世界の出番が無かったからの。派手にするなら打って付けであろう♪」

「あら♪それなら私の三昧耶曼荼羅もでしょう♪」

 

 盛り上がる一葉と美空に対して、詩乃は冷静に告げる。

 

「お二人の御家流にも期待していますが、それ以上に私は祉狼さまのゴットヴェイドーが諸国には強い影響を与えると考えています。」

「ん?俺か?」

「はい。今日は延子さまのお命と赤子十二名をお救いになられました♪長久手の頃と比べて祉狼さまはとても成長なさっておられます♪この戦で多くの鬼を人に戻す事が、何よりも日の本の人々の心の支えとなるに違いありませんっ!」

 

 詩乃が力強く締め括ると、この場に居る全員の顔が賛同していた。

 久遠が膝をひとつ叩いて頷く。

 

「さて、それでは具体的な鬼退治の話に入りたいが……小波、昴を呼び戻して参れ。」

「はっ!畏まりましたっ!」

 

 部屋の隅に居た小波が瞬時にその姿を消した。

 句伝無量を使う所をまだ美空達に見せない為の行動である。

 

「昴が戻って来るまでの間に祉狼の事を決めておこうと思う。祉狼が鬼を人に戻す為には前線に出る必要が有る。故に本隊を前に押し出しザビエルを警戒し祉狼を守りながらの進軍となろう。祉狼は一日に何人の鬼を人に戻せそうだ?」

「そうだな…………今日の感じから言って二十人は行ける……」

 

 答えた祉狼の顔にはまだまだこんな人数では足りないと悔しがっている思いが滲み出ていた。

 久遠は祉狼がそういう顔をするだろうと判っていたので、こう提案する。

 

「祉狼、お前は作戦の開始まで氣を増大する修行をせよ。」

 

「それは当然するつもりだったが………」

「祉狼の修行の管理は結菜達に任せる。」

「はい♪任されましょう♪」

 

 結菜が嬉しそうに答えた所で、祉狼の嫁達は『修行』の内容がどういった物か察してソワソワし始めた。

 

「氣に関する修行なら私も手伝うわよ♪」

 

 そして『修行』の内容を知らない美空がそう言ってしまうのは仕方の無い事だろう。

 

「御大将がするなら柘榴もやりたいっすーーーー♪」

 

 更にもうひとり、勘違いしているのが手を上げた。

 

「これは祉狼の妻である我らの仕事だ。お前達も祉狼の嫁になるか?」

「あら、いいの?祉狼が私に夢中になっちゃうわよ♪」

「修行を手伝うだけで祉狼くんのお嫁さんになれるなら願ったり叶ったりっすよー♪」

「別に構わん。出来たらの話だがな♪そっちの蜆汁も覚悟はしておけよ♪」

「しじみ汁って、柘榴の事っすか?」

「そうだ。沸い(湧い)たらガチャガチャうるさい♪」

「ヒドイっす!柘榴だって乙女っすよ!」

 

「言い得て妙。」

 

 ボソリと呟いた松葉に柘榴が目を吊り上げて憤慨する。

 

「なんなんっすか、松葉っ!あっ!さては柘榴の事がうらやましいんすね♪だったら松葉も祉狼くんのお嫁さんにしてもらえばいいっすよ♪」

「別に………さっき知り合ったばかりでどんな人か判らないし。松葉よりも、むしろ秋子さん。」

 

 いきなり話を振られて秋子は腕を振り回し慌てふためいた。

 

「な、なんで私に振るんですっ!?」

「行き遅れ…」

「言わなくてもいいですっ!!」

「秋子さんは祉狼くんのお嫁さんになるの、嫌っすか?」

「そんな、私みたいに(とう)の立った女では祉狼さまにご迷惑でしょ………」

「祉狼の嫁にはお主よりも年上で未亡人だった者も居るから気にせんでも良いぞ♪」

 

 久遠に笑顔で言われ、ちょっと心が揺らぐ秋子だった。

 

「い、いえ!松葉ちゃんも言いましたけど、出会ったばかりの上に言葉も交わしておりませんし………」

 

「何言ってるんすか秋子さん!名前しか知らない相手に嫁がされるのだって珍しくない世の中っすよ!こうして顔が見れた上にカッコ可愛いんすよっ!若紫の君っすよっ!公方様の旦那さんのお妾さんになれるなんて普通あり得ないっす!それが無くても柘榴はひと目で脳天がかち割られるような衝撃を受けたっすっ♪」

 

「いや………あの時柘榴ちゃん、御大将に蹴られて頭打ってたし………」

 

「そんな細かい事はどうでもいいっすっ!恋は女の戦っすよ!ビビッと来たときに攻め込まなくてはどうするんすかっ!そんなんだから秋子さんは行き遅れんごっ!」

 

 柘榴の脳天に秋子の手刀が叩き落とされていた。

 

「何か言った?ざ・く・ろ・ちゃん♪」

「……………………なんでもないっす…………」

 

 柘榴が大人しくなった所で玄関から複数の軽い足音が聞こえて来る。

 

「殿ぉーーー!昴に人質救出をさせるならボクも行っていいですかっ!!」

「昴がやる気になってるって事はまた女が絡んでんだろっ!オレも行くぜっ!殿っ!!」

「雛は甲賀忍者だから潜入には必要だと思うんですよぉ〜♪」

「犬子の鼻だってきっと役に立ちますよねっ♪」

「夢は犬子ちゃんみたいな鼻は無いですが力だったら負けないですよ♪近い内におっぱいだって勝ってみせるのです!」

「桃子、どうしよう!?小百合には特技が無いよぉっ!」

「それは桃子も同じよ!でも気合と根性で何とかして見せますっ!」

「北条の三郎ちゃんが捕まってるって聞いたのっ!鞠が必ず助け出してあげるのっ!」

「綾那も人質救出するですよぉーーーー♪」

「…………(ぐっ!)」

「ええっ!?お姉ちゃんも行く気なのっ!?雀、鬼のお城になんか行きたくないよぉ〜…………」

「なんや、雀♪そないビビってどないすんねん♪こんなん隠れんぼといっしょやんけ♪」

 

 思い思いの事を好き勝手に述べているが、ひとりを除いた全員が昴と一緒に春日山城へ赴く気満々だ。

 そして十二名の嫁達の後ろから昴が力強く宣言する。

 

「美空様っ!この孟興子度が必ずや四人を無事救い出して見せましょうっ!!」

 

 荒縄でグルグル巻きにされ、芋虫みたいに這いずりながら。

 

「そんな姿で言われても安心出来ないわよっ!それにさりげなくひとり抹消しないでちょうだいっ!!」

 

 

 

 

 一乗谷をザビエルから取り戻し周囲の鬼を殲滅した連合軍は、丸一日の大休止を取ってから越前の鬼の掃討を行う事とした。

 飛騨の姉小路頼綱と美濃の半羽へは先に使者を送り後方の準備は既に始まっている。

 連合軍が越後を目指すのを急ぐのは人質救出の為も有るが、冬が来る前に春日山城を取り戻す必要が有ったからだ。

 北陸道に雪が積もればとても進軍など出来なくなる。

 寒さで身が悴み、雪で足を取られた所を鬼に襲われれば、五万の兵力も只の餌食と化してしまう。

 兵站の輸送もままならなくなり、ひと冬を北陸で鬼からの攻撃に耐えながら越さなければならないのだ。

 

「そうは言っても兵を休ませねば春日山に到着した時には全員が疲れ果てて使い物にならんからな。」

 

 久遠は朝倉屋敷の一室で庭を見ながら、結菜と一緒に市と眞琴の初夜の準備を手伝っていた。

 

「あの………こんな大事な時に良いのでしょうか………」

 

 眞琴が申し訳なさそうにしていると、結菜が笑顔で励ます。

 

「これは祉狼の修行でも有るのよ♪妻として良人の役に立てるんだから胸を張りなさい♪」

「結菜お姉さまみたいに豊かなら…………ボクの胸じゃ祉狼兄さまががっかりしちゃうんじゃ………」

「まこっちゃんのおっぱいは市と同じくらい有るから大丈夫だよ♪」

「市は背が低くて可愛いから良いけど、ボクみたいな大女じゃ…………そもそも女として見て貰えないかも………」

 

 何を言ってもネガティブな発想になってしまう眞琴に、市はもう仕方ないと決断する。

 

「ねえ、お姉ちゃん達。市とまこっちゃんの初夜に付き添ってくれないかな?」

「うん?我は構わんが………」

「私も嬉しいお誘いだけど…………いいの?」

 

 眞琴は市の突然の提案に恥ずかしさから反対しようと口を開きかけた。

 しかし、久遠と結菜が指導してくれたなら心強いとも思い今一度思案する。

 

「ひよところと詩乃の時は結菜お姉ちゃんが付いてあげたんでしょ?」

「なあに?ひよ達から聞き出したの?」

「えへへ♪でも、三人共結菜お姉ちゃんが居てくれて心強かったって言ってたよ♪」

「我はその時部屋に篭って仕事をしておったがな。」

「もう、久遠ったら思い出して拗ねないの!今回は二人で指導して……あ!眞琴が恥ずかしいなら遠慮するわよ!」

 

「いえ!是非お願いしますっ!ボクが逃げ腰になって兄さまに失礼をする方が怖いですからっ!」

 

 出した結論は義理の姉へ助力を素直に求める事。

 それが絆をより強くしてくれると思えたからだった。

 眞琴は六角家からの独立を支援してくれた延子を主筋と敬い、江北の統治で迷惑を掛けまいと助力を遠慮していた。

 しかし、それが結果的に一乗谷の現状を招いたのではと責任を感じている。

 もっと延子と親しく交流していればザビエルに付け入る隙を与えなかったのではと考えるのだ。

 

(二度とこの様な後悔をしない為にも、ボクはもっとこの連合で多くの人達に借りを作り、沢山恩返しをして行こう!)

 

 人生の指針となる想いを心に刻むと眞琴は目の前が開け、目に見える景色までが明るくなった気がした。

 

「ただいま♪久遠、結菜、眞琴、市♪」

 

 突然聞こえた祉狼の声は庭からだった。

 その背には大きな籠が背負われている。

 

「お帰りなさい、祉狼♪」

「お帰り、祉狼♪一乗谷を見て回ってみてどうであった?」

「ああ、やはり獣も鳥も鬼を恐れて逃げ出していて何も居なかった。」

「逃げ出しただけなら良いが、鬼の腹に収まってしまったのも多いのだろうな………」

「ああ…………だけどそのお陰と言っては変だが、秋の実りはまるで手付かずだったぞ♪籠の中身はお土産だ♪こういった山の幸を収穫すれば越冬の備蓄にかなり余裕が出来るな♪」

 

 そう言って籠を下ろして中身を見せる。

 

「ほう♪茸に栗に胡桃、梨に柿か♪」

「わあ♪たっくさん採ってきたね♪」

「この一乗谷だけでもかなりの量になるぞ♪」

「あら?これって…………木通(あけび)ね……」

「ああ♪木通は薬剤としてとても重宝するから見付けた時は嬉しかったな♪」

「茸と木通か…………祉狼の事だからわざとでは無いのだろうが…………」

 

 茸と木通の実を並べた絵面は自然と今夜の眞琴と市の初夜を連想させる。

 

「木通の蔓は炎症に効くんだが、通乳作用も有るから延子さんには早速煎じて飲ませてあげよう♪」

 

 祉狼が延子の為にそこまでしてくれた事に、眞琴は感動して胸が熱くなった。

 

「祉狼兄さま。義景姉さまの事、よろしくお願いします。」

「それじゃあ私はこの山の幸を使った夕飯を作るとしますか♪」

「結菜!栗と茸の炊き込みが食いたい♪我も手伝うぞ♪」

「あ!市も手伝うよっ♪」

「ボクも手伝いますっ♪」

「薬も大事だが先ずは延子さんが食べなければ母乳も出ないからな♪」

 

 五人は山の幸の詰まった籠を持ち、揃って台所に向かったのだった。

 

 

 

 そして日も沈み、夕食を済ませ、風呂で身体を清め、眞琴と市は肌襦袢姿となり布団を敷いた部屋で正座をして静かに待っていた。

 

「待たせたな、市、眞琴♪」

 

 久遠が先頭に立ち、祉狼と結菜も肌襦袢姿で部屋に入った。

 眞琴と市は三人を迎え、座ったのを確認してから深く頭を下げる。

 

「「この度は私達二人を妻に迎えて下さり誠にありがとうございます。不束者ではございますが、末永くよろしくお願い致します。」」

 

 祉狼は真摯に二人の言葉を受け止め、久遠と結菜は微笑みを浮かべて見守っていた。

 

「そう固くなるな。と言いたい所だが、お前達の気持ちは判る♪我と結菜も同じだったからな♪」

「緊張を解す為にも、先ずは祉狼に按摩をしてもらいましょう♪眞琴、布団に俯せになって♪」

「は、はい!結菜お姉さま!」

 

 眞琴は言われた通り布団へ俯せになる。

 

「よし、始めるぞ、眞琴♪」

「は、はい!」

 

 祉狼は肩から揉み始めた。

 それだけで祉狼の手から優しさが伝わる気がして、眞琴の緊張は肩の凝りと一緒に解れて行く。

 

「こうして改めて見ると、眞琴って手足が長くて綺麗よね♪」

「うむ♪少し羨ましいな♪」

「そうでしょう♪だからまこっちゃんの立ち姿って絵になるんだよねえ♪」

「そ、そんな!ボクなんかヒョロヒョロした糸杉みたいな物で………もっと肉が付けば貫禄が出るし、結菜お姉さまみたいに女らしくなりたいと思ってるんですけど………」

「何だ、眞琴。それは我も痩せすぎだと言っているのか♪」

「私は貫禄が有るくらい太ってるって言いたいのね♪」

「ええっ!?そ、そうでは無くてですねっ!そ、その……」

「あはは♪お姉ちゃん達の冗談だよ、まこっちゃん♪」

「そうだぞ、眞琴♪柔軟で良い筋肉をしているし骨もしっかりしている♪鬼の毒もすっかり抜けているし、食事もしっかり取れているから内蔵にも問題は無いぞ♪」

 

 祉狼は背中から腰を揉みながら眞琴の体調も診ていた。

 

「祉狼兄さま…………あの時は本当にありがとうございました………あそこで救って頂いたこの命ひゃあああ!」

 

 祉狼の手がお尻を揉み始めたので、つい悲鳴を上げてしまう。

 

「ん?痛かったか?少し力を弱めるか。」

「ふひっ!に、にいさま!そこはちょっと……はぁあん!」

「眞琴ってお尻が弱いの?」

「そうなんだよねぇ♪反応が可愛いでしょ♪」

「成程♪これは存外、早く事をすすめられそうだ♪祉狼、尻を揉みながら例の氣を送る事は出来るか?」

「この位置からだと骨盤越しになるから強めに氣を送る事になるが………」

「出来るのだな。ではやれ♪結菜、我らも準備を。」

「ええ♪」

 

 久遠と結菜が帯を解き始めた。

 

「市も襦袢を脱げ。先に我らが脱いでおれば眞琴も恥ずかしく無かろう♪」

「へ?そ、それはそうだと思うけど………」

 

 市はちらりと祉狼を見た。

 

「我らが脱いだら次は祉狼を脱がす。安心しろ♪」

 

 そう言われても安心出来る要素はどこにも無いのだが、祉狼の身体に興味の有る市は生唾を飲み込んでから帯を解き始める。

 襦袢を脱いだ市の体は姉の久遠をサイズダウンした様によく似ていた。

 

「久しぶりに見たが、市も女らしい身体になったな♪」

「もう、お姉ちゃんったら!最後に一緒にお風呂に入ったのって、もう二年以上前だよ!市はまだまだ成長するんだから…………」

 

 照れ隠しに少し声を大きく反論して久遠と結菜を見れば、自分よりもずっと女らしい裸身が目に入った。

 夏に久遠が小谷城へ来た時にも少し肉付きが良くなったとは思ったが、今の久遠は全体的に柔らかで女性的な印象が増している。

 

「お姉ちゃんこそ、スゴく色っぽくなってるじゃない♪なんか丸くなった♪」

「ふ、太ったかっ!?こ、これは結菜と聖刀が結託して美味い飯を出すものだからつい食いすぎてしまって………」

 

 気にしていた久遠は隠す為に腕で自分の身体を抱いた。

 

「そういう意味じゃないよ♪綺麗になったって言ってるの♪ねえ、結菜お姉ちゃん、祉狼くん♪」

「そうよ、久遠。前は痩せすぎだったのよ。」

「うん♪前から久遠は綺麗だったが、今の久遠は健康的で良いな♪」

「そ、そうか?祉狼が気に入ってくれるならそれで良い♪」

 

 今度は逆に祉狼へ見せ付ける様に腕を腰に当てて立ち上がった。

 

「市、見られるばかりでは不公平であろう♪祉狼の襦袢を脱がすぞ♪祉狼はそのまま眞琴の按摩を続けておれ♪」

「脱がされながらマッサージを続けるというのは少し難しいんだが…………」

「祉狼くんの………」

 

 市は再び生唾を飲み、久遠と結菜と一緒に祉狼の帯に手を掛けた。

 

 

………………………………

 

………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

 この日、眞琴と市に加え久遠と結菜も祉狼の『修行』をして一夜を過ごしたのだった。

 市が祉狼を独り占めしようとしたり、結菜が市と張り合って羽目を外したりした結果、祉狼は『修行』は『荒行』と呼べる域に達した。

 

 

 

 

 翌朝、鬼を退治する為の軍勢が一乗谷を出陣して行く。

 先ずは九頭竜川より南側の鬼を完全に殲滅する事と生き残っている人々の救出が目的とされ、東は美濃との国境近くの山中、西は日本海に近い朝倉山城までの広範囲に出陣する手筈となっていた。

 その喧騒に紛れて出発する極小数の特殊部隊が有る。

 昴を隊長とした人質救出部隊だ。

 一乗谷の北城戸ではその見送りをしていた。

 

「いいこと、昴っ!あんたの命に代えても人質を助け出すのよっ!出来れば人質を助け出したら直ぐに死んでくれるのが一番嬉しいわ!」

「わー。本音を包み隠さない美空さまサイコー。」

 

 桂花の娘達から似たような事を言われ続けてきた昴にはこの程度の口撃など日常会話と変わらない。

 笑顔を絶やさず棒読みで対応した昴は久遠達に向き直って頭を下げる。

 

「それでは久遠さま。朗報をお待ち下さい♪梅ちゃん、雫ちゃん、八咫烏隊のみんなをよろしくね♪」

「ええ♪お任せなさい♪」

「昴さんも。ご武運をお祈りしています!」

 

 今回は隠密作戦なので狙撃手の烏とサポートの雀以外の八咫烏隊五十人はお留守番となり、ゴットヴェイドー隊の鉄砲隊と一緒に梅と雫が面倒を見る事になっていた。

 

「うむ。お主の事だから心配はしておらぬ。和奏、犬子、雛、小夜叉、夢、桃子、小百合、鞠、綾那、熊、烏、雀。昴の手綱は任せたぞ♪」

「やっほー。久遠さまにも信用されてなーい。」

「はっはっは。それはお前の事をよく理解しているからだ。それから餞別と言っては何だが、この隊に名をやろう♪今後は『スバル隊』と呼称するがよい♪」

「ありがとうございます!」

 

 昴は頭を下げた後、久遠の隣に居る祉狼を見た。

 

「昴!俺はお前が人質を無事救出して戻って来ると信じているぞ!」

「ありがとう、祉狼♪あんたも修行頑張んなさい………ちょっとやつれてるわよ?ちゃんと薬飲みなさいよ………」

 

 祉狼がザビエルに狙われている(性的に)事を知ってから、昴は祉狼を本気で心配していた。

 自分が朱里と雛里にそっち方面へ誘導していたのに比べれば、直接狙われる(お尻を)と考えると恐怖がこみ上げて来る。

 

「ザビエルには本当に気を付けるのよっ!」

「ああっ!今回の人質救出作戦では俺が囮としてザビエルを引き付けるのが役目だ♪充分気を付けるさ♪」

 

 祉狼がザビエルの狙う真意に気付いていない事は判っているので、後の事を託す為に聖刀、卑弥呼、貂蝉へ振り向く。

 

「支障、いえ、師匠!ザビエルの迎撃をよろしくお願いします!聖刀さまと祉狼を守って下さい!」

「何故『師匠』を言い直したのか判らんが良く判ったっ!わしらに任せておけいっ!」

「ザビエルちゃんは絶対に近付けないわよぉ〜ん♪」

「聖刀さま。行って参ります。くれぐれもザビエルの攻撃にお気を付け下さい。それと祉狼を師匠達から守って下さい。」

「うん♪判ってるよ♪昴も武運を♪」

「はっ!」

 

 昴は『スバル隊』を率いて一乗谷を出発した。

 

「ねえ、あいつに任せて本当に大丈夫なの?」

 

 スバル隊の姿が見えなくなるまで見送っていた美空が声を掛けたのは、何と貂蝉と卑弥呼だった。

 

「不肖の弟子ではあるが能力に問題は無い。何よりも昴はザビエルの眼中に入っておらぬ。」

「ザビエルちゃんとわたしたちは因縁の関係。そしてわたしたちの愛するご主人様もザビエルちゃんとは宿命の敵と言っても過言ではないわぁあ。そんなご主人様のムスコの聖刀ちゃんとぉ、甥っ子の祉狼ちゃんをぉ、目の敵にして狙っているのよぉおおおお!」

 

「成程ね……あのザビエルってのは越中で鬼退治をしている時に現れたけど、この日の本の人々を全て鬼にするって言ってたわ。それに私を………まあ、それはいいわ。あなた達はあのザビエルの野望を阻止する為にこの日の本へやって来たと思って良いのかしら?」

「わしらを送り込んだ者の思惑はそうだろう。しかし祉狼ちゃん達もわしと貂蝉も何も知らされずこの地に参った。全く、吉祥の奴め。せめてわしらには事情を説明してからでも良かろうにっ!」

「………吉祥……あなた達からは帝釈と同じ匂いがすると思ったわ♪」

「長尾景虎よ。おぬしは彼女達に愛されておる。よしなにしてやってくれ♪」

「帝釈ちゃん達とも永らくお話ししてなかったからうれしいわぁあ♪」

「私の力ではそう長く現世に留めていられないわよ?」

「心配には及ばん♪お主は常に彼女達の存在を感じていよう♪会話だけなら具現化せずともこれで充分よ♪」

「そう♪………私の事は通称の美空で呼んで欲しいのだけど………呼んで頂けるかしら?」

「その程度の事、遠慮するでないわ♪美空よ♪」

「よろしくねぇ~ん♪美空ちゃ~ん♪」

 

 三人の会話がひと区切り着いたのを見て、聖刀が声を掛ける。

 

「貂蝉、卑弥呼。ちょっと頼みが有るんだけど手を貸してもらえるかな?」

「聖刀ちゃんお願いだったら!例え火の中!水の中!」

「手だけじゃなくって!足でも!唇でも!人に言えない様なトコロだって延滞料金無しの無期限レンタルしちゃうわよぉ~~~~ん♥」

「それじゃあ先に朝倉屋敷に行っていてね♪」

「「了解っ!!ぬっふぅううううううううううううううううんっ!!」」

 

 貂蝉と卑弥呼が走り去ったのを確認して、聖刀は美空に頭を下げた。

 

「本当は美空ちゃんにちょっとお願いが有って、二人には離れて貰ったんだ。」

「あら、何かしら♪祉狼のお嫁さんになって欲しいという願いなら聞き届けるわよ♪」

「それなら話が早いや♪よろしくね♪」

 

 聖刀は美空に手を振って貂蝉と卑弥呼を追って朝倉屋敷に行ってしまう。

 美空は冗談のつもりで言ったのに、保護者である聖刀に言質を取った形になってしまった。

 

「ちょ、ちょっと待って………………………いや、待たなくてもいいのかしら?」

「さすが御大将っ♪スゴいっす♪」

「えっ!?い、今のは物の弾みと言うか!別にそんなつもりはっ!!」

「いやあ♪あんなごっついの相手にスラスラ会話するなんて!柘榴には無理っすよーー♪」

「は?そうかしら?あんなに話し掛けやすそうなのに?馬鹿姉の方がよっぽど会話にならないわよ。」

「「「…………………………………………………」」」

 

 柘榴の後ろに居た松葉と秋子も揃って眉間に皺を刻んで美空の正気を疑った。

 

「ねえ、一葉さま。久遠。貂蝉と卑弥呼って話しやすいわよね?」

「うむ♪神話の英雄に相応しい凰羅を纏いながらも、誰とも分け隔てなく語り掛け受け入れる。余も見習わなければと二人を見る度に思い知らされる。」

「一葉は大袈裟だな♪その様に構えては却って二人に気を使わせてしまうぞ♪なあ、双葉、市、眞琴♪」

「はい♪卑弥呼さまも貂蝉さまも素敵な方です♪あの様な自然体の所作を私も身に付けたいです♪」

「あの女らしさと力強さは市が目指す目標その物だよ♪」

「そうだね、市♪初めてお目に掛かった時の感動は今でも忘れないよ♪」

 

「……………………………マジで言ってるんすか?」

 

 目を点にして愕然とする柘榴の肩に、詩乃がそっと手を置いた。

 

「あちらの方々の目には我々と違った世界が見えている様ですので、気にしたら負けですよ。」

「そ………そうっすね…………御大将は毘沙門天と繋がっちゃうお人っすから………」

 

 柘榴の呟きに松葉と秋子も納得してうんうんと頷く。

 その柘榴に結菜が歩み寄って微笑み掛けた。

 

「柘榴。あなたが祉狼の妻になる事を皆が了承したわ♪今夜にでも…」

 

「いいんすかっ♪それじゃあ早速、祉狼くんと修行するっすよおっ♪御大将ぉーーー!御大将も一緒に祉狼くんの修行を手伝うっすーーーー♪」

 

 柘榴は美空と祉狼の手を掴むと突然走り出した。

 

「え?ちょっと柘榴っ!?」

「おわっ!」

「ここじゃ狭いしみんなの邪魔になるからもっと広い所に行くっすよぉーーーー♪柘榴は刀でも槍でも何でもいけるっすから祉狼くんのご要望に合わせるっすっ♪」

 

 そのまま一乗谷の中に走り去る後ろ姿を、結菜を始め祉狼の妻達は苦笑いで見送った。

 

「柘榴はまだ勘違いをしたままみたいね♪」

「勘違い……ですか?」

 

 秋子が結菜に問い掛ける。

 

「祉狼の氣を強化する『修行』は…………まあ、平たく言うと『子作り』ね♪」

「ええっ!?」

「祉狼は若紫の君じゃ無く、源氏の君だった…………」

 

 松葉はひとり納得してポンと手を叩いた。

 

「まあ、これはこれで祉狼が柘榴と美空さまと親睦を深める機会だし、放って置きましょう♪双葉さま、四鶴さん、慶。私達は初夜の準備を致しましょう♪」

「はい♪結菜お姉さま♪」

「はい♪越後の龍まで虜にするとは、流石祉狼さまじゃ♪」

「それはそうと、結菜さま。いくら祉狼さまの修行とは言え、昨夜はやり過ぎですよ。」

「あ、あら…………ほほほ♪つい市に対抗してしまって…………」

 

 結菜達も朝倉屋敷に歩いて行くと、残った者達はいよいよ鬼退治に向けて出発を始める。

 祉狼の『修行』にショックを受けて呆然とする秋子とその横で何を考えているか判らない無表情の松葉に詩乃が声を掛けた。

 

「あの、長尾衆はどう致しますか?」

「は、はいっ!直ぐに出発致しますっ!」

「秋子、向こうに混ざりたいなら、こっちは松葉が指揮をする。」

「だ、大丈夫ですっ!」

 

 秋子の様子を見て、落ちるのは時間の問題だと詩乃は溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 昴の率いるスバル隊は街道を北に向かって馬を走らせていた。

 既に九頭竜川を越えて間もなく加賀と越前の境に届こうという速さである。

 

「おヌウちゃん、鬼がぜんぜんいないねぇ。雀、鬼がウジャウジャいる中を突っ込んで行くのかと思ってドキドキしてたよ〜♪」

「街道に鬼が居ないのは美空さまが越前に来る時に全部蹴散らして来たからなんですって。」

 

 昴と雀は同じ馬に乗っており、雀の小さく柔らかい身体を抱いて馬を駆る昴はご満悦だ。

 

「ほえぇ〜……美空さまの長尾衆って五百人くらいだったけど、まさか越後から越前にくる間にそこまで数がへっちゃったとか………」

「そうじゃなくって、長尾衆の本隊は越中で神保衆と一緒に待機させて、五百騎だけを連れて来たんですって。それでひとりも欠けてはいないって柘榴ちゃんが自慢してたわよ♪」

「越後の長尾衆って強いんだねぇ!」

「長尾衆も強いけど、何よりも美空さまよ。さっき『街道の鬼を美空さまが蹴散らした』って言ったでしょ♪」

「それって………『秋刀魚や真鱈』っていう御家流?」

 

「アホ!三昧耶曼荼羅や!んな旨そうな名前の御家流で鬼をどうやっていてこますんや、ワレ!」

 

 併走していた熊が雀のボケにツッコミを入れる。

 

「秋刀魚の塩焼きと鱈ちりでも出てきよるんけ!?って、無性に魚が食いたなってきよった!詩乃かっ!?詩乃の霊が乗り移ったんかっ!?」

「気にするのはそこじゃないだろ!長尾の殿様の御家流がとんでもない威力だって事だろ!」

 

 和奏が馬を寄せて会話に加わったので、残りの九人も昴の馬に寄せて併走し始めた。

 

「どんな御家流なんだろ?一葉ちゃんの三千世界みたいなのかな?」

「綾那は御家流無いから欲しいですけど、公方様みたいなのより小夜叉のみたいなのが欲しいです。」

「お♪判ってんじゃねぇか♪でも、御家流使うよりこいつで直接ぶっ殺した方が気持ちいいぜ。」

「綾那は何が有っても怪我しないって御家流が有るじゃない。犬子こそ御家流がほしいよ〜。」

「犬子の御家流はそのおっぱいだよねぇ〜♪あ、それは夢ちんもか♪」

「夢にはちゃんと佐久間家御家流が有るのです!」

「だからおっぱい…」

「ちがうのですっ!」

「……………………………」

「え?お姉ちゃんも御家流が欲しいの?お姉ちゃんの狙撃はもう御家流の域に達してると雀は思うけどなぁ。」

「桃子の家は御家流って有る?」

「有ったらもっと活躍してるよ………小百合だってそうじゃない。でも自分で編み出せば始祖って呼ばれるんだよ♪その為にも修行有るのみ♪」

 

 昴は可愛い幼妻達に囲まれ笑顔を浮かべている。

 

「お♪一里塚に着いたぞ♪ほら、雀!降りろ降りろ♪」

「え〜?もう着いちゃったの〜?さっきおヌウちゃんと一緒に乗ったばっかりなのに〜………」

「一里ごとって決めただろっ!雀!次は誰だ!?」

「はーい♪次は鞠の番なのーっ♪」

 

 一里塚で馬を止め、鞠が雀と交代して昴の前に座り背中を預ける。

 彼女達はこうして特等席を一里毎に交代しているのだが、待つ身の者が考える事は皆一緒だった。

 

「よぅし!次の一里塚目指すぞっ!」

『『『おおーーーーーーーーーーーーーー!!』』』

 

 馬に鞭を入れて飛び出して行く。

 

「あーん!みんなずるいのっ!」

 

 昴が速度を上げなければ意味は無いのだが、彼女達は昴の性格をよく理解しており、馬上でお尻を上げてジョッキー乗りをして見せる。

 可愛いお尻が十一個並び、ミニスカートを履いている子などは当然パンツも丸見えとなっている。

 昴がこれを追わない訳は無い。

 

「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおお♥」

「ああん!昴!お尻に当たってるの!」

 

 鞍上で激しく上下に揺さぶられれば鞠のお尻が昴の股間を擦るので、これも昴が速度を上げる要因となる。

 こうしてスバル隊は驚異的な速度で春日山城へ移動して行ったのだった。

 

 

 

 

 同じ頃、スバル隊が目指す春日山城とその城下は、かつての一乗谷と同じ様に鬼が跋扈するザビエルの拠点と成り果てていた。

 春日山城内からは人間の男の姿が完全に消え去り全て鬼にされ、残った女達をひたすら犯し続けている。

 ザビエルに騙され鬼の力に頼った長尾晴景と、晴景に味方した長尾政景や黒川清実らも主城の評定の間で鬼に犯され、春日山城は完全に狂気の地獄と化していた。

 その地獄の中心である評定の間の中に黒と白の人影が立っている。

 ザビエルと傀儡の白装束だ。

 

「ザビエル様。性欲を強化した鬼の出来は合格でしょうか?」

「悪くは無いが、女が直ぐに壊れてしまうのが面白く無いですね。朝倉義景を基準にしたので、この程度の奴らでは無理もないですか………長尾景虎や武田晴信ならば最後まで泣き喚いてくれるでしょうからこれで良しとしましょう♪」

「御意。では、この鬼の素を薩摩と土佐へ持って参ります。」

「頼みましたよ。私は駿府と陸奥の仕上げに行きますからね♪」

「朗報をお待ち下さい。では…………………」

 

 白装束は影の中へ溶ける様に姿を消した。

 

「くっくっく♪祉狼くん、君の為に素晴らしい舞台をたくさん用意してあげますよ♪先ずはこの越後へやって来なさい♪はぁーーーーーーーっはっはっはっはっはっは♪」

 

 高笑いをするザビエルの姿もまた、闇と同化して見えなくなっていった。

 評定の間で鬼に犯され狂う女達は二人が消えた事を、いや、そもそも居た事すら気付いていなかった。

 しかし本城から西に離れた曲輪に在る宇佐美屋敷で、軟禁されている人質の内の二人がその気配が消えた事に気が付いた。

 

「貞子………」

「はい、沙綾さま………あやつの気配が消えましたね………」

 

 二人は東の窓から本丸の有る山頂を見上げる。

 貞子と呼ばれた女性の名は小島貞興。貞子は通称である。

 渾名を『鬼小島』と言い、美空の三昧耶曼荼羅を除けば越後随一の武力の持ち主だ。

 もうひとりの沙綾と呼ばれた女性は宇佐美沙綾定満。

 その姿は幼女にしか見えないが、美空に軍略を教えた師であり、年齢は四鶴とほぼ同じ。

 いわゆる『ロリBBA』である。

 

「あのザビエルが居なくなったといっても、この屋敷からは出られんがな………」

「美空さまが施しておいてくれた結界のお陰で鬼はこの沙綾さまのお屋敷に入って来られませんけど、出て行けば鬼の餌食ですか………これだけの数の鬼が相手では空さま方を守っての脱出は私でも無理ですからね。」

「軍略で言えば美空さまは儂らを切り捨て、三昧耶曼荼羅で春日山城ごと鬼を潰してしまうべきなんじゃ。」

「私もそう思いますが、美空さまは情の深いお方ですから絶対になされないでしょう。だからと言って自害すればザビエルは我らの亡骸を操ってさも生きている様に美空さまへ見せるでしょうね………」

「あの下衆の事じゃ。儂らの亡骸が鬼に犯される所を美空さまに見せるくらいするじゃろう。死んだ後まで身を汚された上にあやつの策の道具にされるくらいなら意地でも生き延びてくれるわ!」

「ですが、生き延びるにしてもこのまま囚われの身では事態が好転しませんよ?」

「そこはな、美空さまが援軍を頼られる。」

「援軍?越中のですか?」

「あやつらが何の役に立つ。美空さまが頼られるのは『田楽狭間の天人衆』じゃ。」

「あの噂のですか!?薬師如来の化身と言われている方は美空さまも好意的な興味を持っておられましたけど、あの幼女タラシを敵視してたじゃないですか!私だって空さまや名月さま、愛菜に近付けたく有りませんよっ!」

「その為に儂がおる♪聞けばまだ十四の儒子だ。儂が其奴を骨抜きにして空さま達を守るのじゃ♪」

「………沙綾さま………楽しそうですね…………」

「じゃから、貞子。其奴が現れたら儂を童女として扱う芝居をするのじゃぞ♪」

「それは………心得ました。しかし、本当に美空さまは其奴をここに来させるでしょうか?」

「儂が美空さまに軍略を教えたのじゃぞ。美空さまならば儂が居る事を見越して其奴に一芝居打つわい♪まあ、後は美空さま自身が薬師如来殿と(ねんご)ろになって下されば、かの連合で発言力が手に入るのじゃが、こればかりは薬師如来殿が美空さま好みである事を祈るしかないの♪」

「そこまでやりますか………」

「事が終わった後で、越後が織田の家臣となっておっては意味が無いからの。空さまと名月さまの為ならそれくらいされるわ♪」

 

 その時、二人の背後で襖が静かに開く音が聞こえ、三人の幼女が姿を見せた。

 

「うささん……美空おねえさまが来るの?」

 

 おかっぱ頭の気の弱そうな女の子の名は長尾空景勝。

 その顔は美空が来るのを心配しているのが良く判る。

 

「美空おねえさまが来てくだされば鬼なんかあっと言う間に全滅ですわ♪」

 

 もうひとりは美空と同じに長い髪をツインテールにした北条名月景虎。

 名月は美空の力を信じ切って、満面の笑顔だ。

 

「御大将がいらっしゃるまでもなく!この越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続が空さまをお救いしてみせますぞ!どーーーん!」

 

 最後の女の子は赤いくせっ毛のショートヘアで、名前は今自分で名乗った通りである。

 この状況を理解していないのか、無駄に高いテンションで胸を張って効果音まで自演した。

 

「御大将は援軍を連れて戻られるでしょうが、我らが囚われていては手出しが出来ません。我らをここから脱出させる為にとある人物をここに送り込むと思われます。」

「とある人物って…」

「まさか飛び加藤!?あいつは美空おねえさまが胡散臭いからって追い出したじゃないっ!」

 

 空を遮って名月が言った名は、かつて長尾家の抱える忍『軒猿』に所属した人物で、名を加藤段蔵と言いう。

 一度敵方の屋敷から刀を奪って来る様に美空が命じた時、刀だけではなくその屋敷に奉公していた幼女まで掠って来てしまった。

 飛び加藤の腕以上にその性癖を疎んじた美空は追い出したのだが、飛び加藤はその腹癒せに秋子の屋敷から家宝の大薙刀を盗んで甲斐武田に奔ったのだ。

 美空が昴を警戒するのは、この加藤の前例が有るからに他ならない。

 

「あの女に笑いかけられると愛菜の背筋がゾクッとしましたぞ。しかしこの越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続は空さまを守るため!果敢に立ち向かったのですっ!どや♪」

「有る意味飛び加藤より質の悪いのがやって来そうじゃ。儂が相手をするから、姫様達は其奴が来たら隠れていなされ。」

 

「そ、そんな人を…」

「そんなのを美空おねえさまが寄越すっていうのっ!?」

「むむむ!相手にとって不足無し!この越後きっての…」

「この際選り好みは出来ません。この春日山城から我々が脱出しなければ、美空さまは手出しが出来ないのですから。」

「今はその為に体力を付ける時ですぞ。さあ、夕餉の準備が出来ました故、先ずは食べるのじゃ♪」

「はい、うささん♪」

「いつまでも美空おねえさまの足手まといでは高貴な出の名折れですわ!食べるばかりではなく鍛錬もしますわよ!」

「空さまをお守りするのは…」

「お前は黙って飯を食えっ!」

 ズビシッ!

「ふぎゅっ!」

 

 出来るだけ愛菜を無視していた貞子も、いい加減鬱陶しくなってその頭に手刀を叩き込んだ。

 貞子の行動はいつもの事なので、沙綾と名月はスルー。

 ただひとり、空だけが愛菜を心配してオロオロしていた。

 

「そうそう♪美空さまはもしかしたら旦那を手に入れて来られるやも知れませぬぞ♪そうなれば空さまと名月さまが正式に美空さまの養子となった暁には、新しきお父上で御座います♪」

「新しい父上…」

「高貴なわたくしの父上となるからには、やはり高貴な方なのでしょうね?」

「その方は薬師如来の化身と謳われる『田楽狭間の天人衆』のおひとりじゃ♪天の国の帝の甥であらせられますぞ♪」

「そのような方と…」

「そのような方と美空おねえさまがご結婚なさるのですか♪さすが美空おねえさまですわ♪」

「新しきお父上に褒めて頂ける姫にならねばいけませんぞ♪」

「「はい♪」」

 

 空と名月は初めて声を揃え、輝く笑顔で返事をする。

 その笑顔を何としても守ってみせると沙綾と貞子は心に誓った。

 因みに愛菜は貞子の手刀を喰らった時に気絶していた。

 

 そして、沙綾が語った美空の婿取りが、今正に現実となろうとしているとは越後の大軍師である沙綾にも予測が出来ていなかった。

 

 

 

 

 一乗谷の朝倉屋敷前の広場で、柘榴が滝の様な汗を流しゼエゼエと喘ぎながら地面で大の字になっていた。

 

「な、なんなんすか…………祉狼くん………強すぎ……っすよ…………」

「いや、柘榴も強かったぞ♪別に武器を使っても良かったのに、俺に合わせて無手で付き合ってくれたしな♪」

 

 そう言う祉狼も汗は掻いているが柘榴と比べれば極僅かで、息も少々荒くなっている程度だ。

 

「ちょっと柘榴!鍛錬を怠けていたんじゃないの!?」

「そ……そんなこと……ないっすよ…………そう言う……御大将だって……すごい汗……っすよ……」

 

 柘榴の言う通り美空も全身に汗を掻いていて、平気な振りをしているのだ。

 しかし祉狼がそれに気付かない筈が無い。

 

「美空、変な見栄を張って呼吸を抑えるな!そんな事をしたら…」

「はうっ………………」

 

 美空は酸欠で立ち眩みを起こして倒れそうになり、祉狼が慌てて美空を支えるとその体が運動をした後にも関わらず冷えている事に驚かされた。

 汗が冷えたというレベルでは無く、体調その物が良くないのだと祉狼は即座に診断して己の未熟さを責める

 

「美空っ!済まない!何で俺は気が付かなかったんだ!病魔か!?毒かっ!?」

 

 氣を集中して美空を診るがそのどちらでも無かった。

 

「だ、大丈夫よ………祉狼…あったかい♪……………こうしていてくれると少し安心するわ………」

 

 その言葉に祉狼は美空が囚われた人質を心配するあまり身体に影響が出る程なのだと悟った。

 

「御大将っ!?やっぱり三昧耶曼荼羅の連発で疲れてたんじゃないっすかっ!!ホントに意地っ張りなんすからっ!!」

「舐められる……わけには…………いかな………」

「御大将ぉおおおおおおおおっ!!」

 

 美空の意識が反論の途中で途切れたのを見て、柘榴は疲れた身体に鞭打って美空の下へ行こうとするがその動きは緩慢だ。

 祉狼は柘榴の言った新事実から、美空が心身共に疲弊している所為で体温が下がっているに違いないと結論を出した。

 

「祉狼!?何が有ったのっ!?」

 

 柘榴の声に気付いた結菜が屋敷から駆け出して来る。

 美空が気を失っているのを見て、即座に祉狼の指示に従おうと身構えた。

 

「結菜っ!風呂の準備は出来ているかっ!?」

「え?それはもう大丈夫だけど………」

「美空の身体を温めながら治療をする!美空はここに来るまでに御家流を何度も使って氣を殆ど使い果たしていたんだ!心労も重なって身体も冷えている!俺が氣を送り込んで補充してやれば身体だけは回復させられる!心労の方は………」

 

 ここで祉狼は心を癒すのには昴が人質を救出するのを待たねばならない事に気が付いた。

 しかし、結菜は事情を察した上で一度深呼吸をして気分を落ち着かせ、頷き笑顔を見せる。

 

「祉狼、昨日久遠と話した事を思い出して♪あなたなら美空さまの心も癒せるわよ♪早くお風呂場に行って♪」

「そうか!美空が幸せな気持ちになればいいんだなっ♪判った!」

 

 美空をお姫様抱っこして祉狼は屋敷の中へと急いだ。

 結菜は柘榴に駆け寄り肩を貸す。

 

「さあ、柘榴も一緒にお風呂へ行きましょう♪」

「ありがとうっす………でも何で柘榴もお風呂に入るっすか?」

「そんなに汗を掻いて土で汚れているのだから当たり前でしょ♪」

「そりゃそうっすけど………お風呂で祉狼くんが御大将を治療するんすよね?柘榴はお邪魔じゃないっすか?」

「あら、あなたも祉狼の妻になるのだから動けない美空さまを助けなければ駄目じゃない♪」

「ああ!なるほど!今度はお医者様の妻としての初仕事っすね!」

「違うわよ♪祉狼の妻の初仕事はその身を以て修行を手伝う事よ♪」

「それなら柘榴と御大将はもう初仕事を終えたっすよ?」

「いえ、そうじゃなくてね………………どうやらあなたには単刀直入に言わないと駄目なのね………」

「へ?どういう意味っす?」

「妻にとって最も重要な仕事は夫の子供を産む事。だから初仕事は子作りよ♪」

「な〜んだ♪初仕事って子作りっすかぁ♪……………………………………子作りっすかっ!!?」

 

 柘榴が驚きの余り疲れを忘れ結菜から飛び退いて壁に背中から張り付いた。

 しかし、結菜は柘榴の手を握り風呂場へと引っ張って行く。

 

「そ、そそ、そんないきなり言われたって無理っすっ!恥ずかしいっす!」

「あら、意外………もっと乗り気になると思ってたのに。」

「ざ、柘榴は乙女なんっす!」

「それは置いといて、その子作りが祉狼にとっては一番効率の良い特訓にもなるのよ♪」

「それって女誑しになる特訓に聞こえるっす!」

「男性は精を放つ時に、氣も同時に放つのよ。基本を何度も繰り返す事は修練の基本でしょ♪」

「何度も繰り返すんすかっ!?」

「そこは心配しなくても大丈夫♪ほら、もうお風呂場に着いたわ♪」

 

 柘榴の目の前で美空を抱えた祉狼が木戸をくぐって中に入って行く。

 

「ここから先も手助けが必要なら私も付き添ってあげるけど、どうする?」

 

 結菜の浮かべる笑みに、柘榴の本能が警鐘を鳴らした。

 何故か柘榴の脳裏に蝮が大きく口を開けて雛鳥を丸呑みしようとしている姿が浮かんだ。

 

「だ、大丈夫っす!なんか急に腹が据わったっす!ここで助けを借りたとあっては柘榴の女が廃るっす!」

 

 柘榴はそれらしい事を言って無理矢理背筋を伸ばし、何度も頭を下げて脱衣所の中へ入って行く。

 

「そう………」

 

 結菜は心底残念だという顔をしたが、無理を言ってご相伴に預かるのは流石に出来ないと諦める事にした。

 

「それじゃあ祉狼、もし助手が必要呼んでちょうだい。」

「ああ、頼む!」

「じょ、助手って何の助手っすか!」

「美空さまの治療だけど………」

「………………………………………その時はお願いするっす…………」

 

 結菜は木戸を閉めると台所へと向かう。

 風呂から上がってからの食事になるので、祉狼の膳には例の強壮薬が必要だと判断したのだ。

 一方、脱衣場の柘榴は先ずは何をするべきかとアレコレ考え思い付いては想像に顔を赤くしていた。

 軽いパニックを起こしてオロオロしていると祉狼から声が掛かる。

 

「柘榴、美空の服を脱がすのを手伝って貰えるか?」

「ひょえっ!?御大将の服をっ!?」

「汗で濡れた服をいつまでも着せたままではもっと身体が冷える!早くお湯に入れてあげるんだ!」

「そ、そうっす!御大将!御大将は大丈夫っすかっ!?」

「ああ、意識を失っていると言うより眠っている状態だ。命に問題はないが体力と氣力が落ちているから悪い病魔が寄って来ている。とにかく氣を回復させないと!」

 

 祉狼の真剣な目に柘榴も恥ずかしがっている場合では無いと、気持ちを入れ替え美空の服を脱がせに掛かった。

 そして美空の身体に触れると予想以上に冷えている事に驚き、急いで美空の服を脱がせる。

 美空が下着姿になった所でこの先は女の自分が脱がすべきだろうと思ったのも束の間、祉狼が何の躊躇いも無くブラとパンツを脱がせてしまい、柘榴はここで初めて祉狼が女に慣れている事を実感した。

 

「よし!浴場の木戸を開けてくれ!」

 

 祉狼が美空をお姫様抱っこで抱え上げたので、柘榴は急いで木戸を開ける。

 そこは越前の殿様である朝倉義景に相応しい立派な湯殿だった。

 大浴場では無いが総檜の湯殿で、湯船も四人は余裕で入れるくらい大きな湯船だ。

 

「柘榴、美空の脚を持って湯船に浸けてくれ。ゆっくりだ。出来れば手でお湯を掬って掛けながら………そうだ♪上手いぞ♪」

「なんだか親戚の赤ちゃんをお風呂に入れてあげていた頃を思い出すっす………」

「赤ん坊をお風呂に入れていた経験が有るのか♪成程、上手い訳だ♪よし、俺が支えて美空をお湯に浸けて行くから柘榴はそのまま美空の身体にお湯を掛けていてくれ。」

「了解っす♪」

 

 祉狼に褒められて嬉しくなった柘榴は集中力が増し、より丁寧により素早く美空の身体にお湯を賭けて温め続けた。

 美空の身体が鎖骨の辺りまでお湯に浸かった所で、身体を安定させて祉狼は手を離した。

 

「これで少しの間は離れても大丈夫だ。俺達も服を急いで脱ぐぞ。」

「了解っす♪」

 

 柘榴は美空の治療にばかり頭が行ってしまい、祉狼の指示を素直に聞いて、一気に着ている物を全て脱いでしまった。

 

「汗をかいたから服は洗濯してしまうっす♪………………………あ。」

 

 祉狼の全裸が目に入って、この後でする事を柘榴は思い出した

 咄嗟に腕で胸と股間を隠し、しゃがみ込んで俯いてしまう。

 

「今度は風呂の中で美空に氣を送り込むから、柘榴は美空の身体を支えていてくれ。」

 

 祉狼が湯船に入って行くのを俯きながらも目だけで追うと、祉狼の股間で揺れる物が見えてしまった。

 隠そうとしないからブラブラ揺れている姿が丸見えで、その大きさに驚き柘榴は硬直する。

 

「ん?どうしたんだ、柘榴?…………もしかして足を捻ったのかっ!?」

 

 祉狼が方向転換して柘榴に近付いて来る。

 しゃがみ込んだ柘榴の顔の前に、ブラブラと揺れながら。

 

「な。ななな、なんでもないっすっ!!柘榴は御大将を支えてればいいっすねっ!」

 

 祉狼の前から風呂の中へ逃げ込んで美空の腕を掴んだ。

 しかし、両手で掴むと胸が隠せなくなり、片腕ではしっかりと支えられない事に気が付きどうしようと焦った結果、柘榴は美空を後ろから抱えて座る事で身体を祉狼から隠した。

 

「ああ♪それならしっかり支えられるな♪よし!それじゃあ美空に氣を送り込むぞっ!」

 

 湯船の中に入ってきた祉狼が正面で仁王立ちをするので、柘榴は目をつむり、早く座ってくれと願った。

 

「はぁあああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 祉狼が気合を込めて氣を練り、両掌に氣を集中させていく。

 その氣の圧力の凄まじさに柘榴は思わず目を開けた。

 両掌が光っている。が、それよりもその光に照らされた祉狼の逸物に目がいってしまった。

 

「ゴットヴェイドォオオオオオオオオオオオオオッ!!げ・ん・き・にっ!!なれぇえええええええええええええええええええええっ!!」

ザボォオッ!!

 

 祉狼が湯の中の美空の腹に双掌打の様に当てて氣を送り込む。

 攻撃の為の発勁とは違い、柔らかな氣が美空の身体を満たして行く。

 そして、美空の背中にお腹を密着させていた柘榴にも、祉狼の氣が伝わって来た。

 

「わわっ!これって、昨日柘榴が怪我を治してもらった時とおんなじっす………………スゴくあったかくて…………気持ちがいいっす……」

 

 柘榴の緊張も解れて行き、美空の頭越しに祉狼を見る瞳は熱を持って潤み始めている。

 無意識に伸ばされた手が祉狼の腕に触れた。

 

「ん?ああ♪美空はひと先ず大丈夫だ。俺の送った氣が体調を整えた♪」

「そ、そうっすか………ありがとうっす………」

「それじゃあ次は柘榴の疲れをとってやろう♪按摩をするからちょっとこっちに来てくれないか?」

「りょ、了解っす………」

 

 まだ祉狼に裸を見られるのが恥ずかしかったが、今はそれ以上に寄り添いたいという気持ちの方が勝っていた。

 美空の身体の下から出て来て裸身を祉狼に晒す。

 

「や、やっぱりその…………按摩はいいっす。」

「え?あんなに疲れてただろ。やっておけば明日身体が楽だぞ?」

「それよりも………」

 

 柘榴は祉狼の手を取って、自分の乳房に押し当てた。

 

「柘榴を祉狼くんのお嫁さんにしてほしいっす………」

 

 柘榴の上気した顔と潤んだ瞳で見つめられ、祉狼は数瞬戸惑ったが結菜から言われていた柘榴と美空を妻に迎えるという目的を思い出す。

 一度目を閉じて気持ちを医者から良人へと切り替えた。

 

「判った♪」

 

 短く答えて微笑むと、祉狼は柘榴が乳房に押し当てた手に力を入れる。

 

 

……………………

 

………………………………………………

 

……………………………………………………………………………………………………

 

 

 柘榴の破瓜を終え、祉狼は肩で息をして柘榴を抱き締めていた。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………」

 

 当の柘榴は意識が飛んでグッタリしている。

 

「可愛い顔をして容赦がないのね、し・ろ・う♪」

 

 それは湯の中に居る美空の声だった。

 

「美空♪気が付いたのか、良かった♪」

「そりゃ、あれだけ大きな声を傍で出されたら目も覚めるわよ!柘榴がこんな可愛い声を出すなんて初めて聞いたわ………」

 

 美空は湯船の縁に腕を組んで顎を乗せ、祉狼と柘榴を見ていた。

 

「体調はどうだ?俺の氣を氣道に通したから違和感が有るんじゃないか?」

「もう!人の話を聞かない子ね!違和感!?もう、大有りよっ!!さっきから身体の調子がおかしいわっ!!」

「えっ!!済まない!直ぐに治療を再開させてくれっ!」

「ええ♪是非そうして頂戴♪」

 

 美空は笑顔で立ち上がる。

 

「この身体が火照って仕方が無い状態を、しっかり静めてね♪」

 

 祉狼は美空の治療に破瓜治療とは違う処置をした筈なのだが、美空の身体には既に同じ効果が現れていた。

 

「その前に祉狼にはお仕置きよ!ほら!柘榴から離れてここに座りなさいっ!」

 

 怒りを顕わに仁王立ちで腕を組む美空だが、その腕は乳房の下で組まれ見せ付けている様だった。

 いや、見せ付けているのだ。

 

「わ、判った………」

 

 治療を失敗したと認めた祉狼は、項垂れて柘榴から離れる。

 その顔に美空の母性本能が刺激されて思わず抱き締めたくなるが、グッと堪えた。

 

(己の欲望に負けては駄目よ!連合で優位な立場を手に入れるには祉狼に対して主導権を握らないといけないんだから…………)

 

 この時、美空は祉狼の体臭を吸い込み、鼻腔粘膜から北郷家御家流の侵入を許してしまった。

 

「ねえ、祉狼。あなたはわざと私の身体をこんな風にしたんじゃないの?」

「そ、そんな事は無い!それは完全に俺が失敗したんだっ!」

「あら、潔いのね♪」

 

 美空はニヤリと笑ってしゃがみ、正座をした祉狼に顔を寄せる

 

「確かに祉狼はそのつもりが無かったのかも知れないけど………無意識に私を求めたのではないかしら♪」

「えっ!?」

 

 祉狼が驚いて目を見開けば美空の顔が目の前に在り、流し目で妖しく微笑む顔は猫科の大型肉食獣を連想させる。

 

「祉狼が私に氣を送る時は私の身体に触れたのでしょう♪おっぱい?それともお尻?もしかして陰戸に触れたのかしら♪」

「ち、違う!湯の中で腹部に………お腹に手を当てて………」

「お風呂の中で!?という事は裸の私を見ながらしたのね!やっぱり私の身体に欲情したんじゃないの!」

 

 美空は再び怒り口調で祉狼を攻める。

 

「そ、そうなのか!?」

「そうなのかって、祉狼!自分の事でしょっ!」

「お、俺はその…………女性の裸を見ても勃起しなくて………」

「ええっ!?………そんな事はないでしょう?今も私の裸を見てコレをこんなにしていたじゃない♪」

 

 美空はまた優しい声で微笑む。

 美空のしている事は洗脳と言っていいだろう。

 相手を恫喝し萎縮させ、次に優しく接して懐柔する。これを何度も繰り返して相手の思考を支配していく。

 これも美空が沙綾から伝授された人心操作術のひとつだ。

 

「………これは柘榴としていたから………」

「いいえ!違うわ!祉狼は私の身体が醜いと思っているのかしらっ!?」

「そ、そんな事は無い!美空の身体は綺麗だ!」

「ふふ♪ありがとう♪」

「でも!美空に氣を送った時は美空を助ける事しか考えていなかった!」

「だ・か・ら♪無意識なのよ♪祉狼は無意識に私の事を欲したの♪ほら、見なさいよ♪私の乳首がこんなになっているのは祉狼の所為なのよ?それに男は萎縮するとコレ………犬のしっぽみたいに垂れ下がるのが普通なのよ?でも祉狼は私の裸を見ていたから萎えなかった♪祉狼はまだ自分の事が判っていないのよ♪」

「そう…………なのか?…………」

 

 勿論、美空の出まかせである。

 経験の無い美空に実質的な根拠など無く、全て沙綾から教わった性知識だ。

 推論を出して自分に都合の良い様に誘導しているに過ぎない。

 

(ふふ♪上手くいっているわね♪このまま尻に敷いてあげるわよ、祉狼♪…………尻に敷く……)

 

 しかし、ここで北郷家御家流の逆襲が始まった。

 

「い、今から証明してあげるわ♪仰向けになりなさい♪」

 

 言われるままに祉狼が簀で横になる。

 美空はその顔を跨いで腰を落とした。

 

「ほら、祉狼の氣を受けてこんなになってしまったわ♪」

 

 

……………………

 

………………………………………………

 

……………………………………………………………………………………………………

 

 

 満足気な顔で目を開いたまま気を失った美空が祉狼の胸に倒れ込む。

 

「はぁ………………はぁ………………はぁ………………」

 

 祉狼は寝ているだけだったにも関わらず息が切れていて、美空の攻めがどれだけ強力だったかを物語っていた。

 

「祉狼くん♥次は柘榴の番っすよね♥」

 

 復活した柘榴が四つん這いで祉狼の顔を覗き込んできた。

 

「ざ、柘榴はもう大丈夫なのか?」

 

 祉狼が目を見つめ返すと、柘榴はニッコリ微笑んだ。

 

「大丈夫っすよ♪直ぐに子作りを始められるっす♪準備完了っす♥」

「いや………体調の事を訊いたつもりだったんだが…………」

「御大将は気を失ってるなら退いてもらってもいいっすよね♪よいしょっと♪」

 

 祉狼の言葉がまるで耳に入っておらず、柘榴は美空を祉狼の上から退けてしまう。

 

「ありゃ?ふにゃふにゃになっちゃってるっすね?ここはうささんから教えてもらった技で復活させてあげるっすよ♪」

「ざ、柘榴?」

 

 

 

 この日、柘榴と美空は交互に四回ずつ祉狼の精をその身に受けた。

 柘榴は勿論、祉狼を虜にするつもりだった美空も完全に祉狼の虜になっていた。

 結局風呂から上がる時には柘榴と美空は完全に気を失っていて、四鶴と慶の手によって布団に寝かされた。

 祉狼は結菜の想像した通り状態になっていたので、結菜は用意した夕餉を食べさせ体力を回復させたのだった。

 

 

 

 

 そして翌朝。

 

「おい、美空…………昨日は祉狼を虜にすると(うそぶ)いておったよな。」

「あら?久遠はあの時からこうなる事は予想してたのでしょう♪」

 

 朝食の場で美空は祉狼の横を陣取り寄り添っていた。

 

「はい、祉狼♪あ~ん♪」

「いや…………自分で食べるから…………」

「あ~~~ん♪」

「あ………ああ………」

 

 祉狼は諦めて美空の差し出した箸のご飯を口にする。

 

「御大将ずるいっすよぅ…………柘榴も祉狼くんとイチャイチャしたいっす………」

 

 そう思っているのは柘榴だけではなく、当然他の嫁達も羨望の眼差しで見つめていた。

 

「ころりと態度を変えよって………お前の家臣達が見たら腰を抜かすぞ。」

「それでも喜んでくれるわよ♪」

 

 美空は満面の笑顔で答えたのだった。

 

 それから三日後。

 連合軍の前線は越前を越えて加賀に入った。

 それに伴い本陣も一乗谷から加賀との国境近くまで移動となる。

 加賀の前線からは鬼との遭遇報告が次々入ってきて、進軍速度が急激に遅くなってしまった。

 しかし、これは想定済みであり、ザビエルの注意を加賀に向けて昴のスバル隊が人質救出をしやすくする目的なのだから。

 そのスバル隊は、早くも春日山城を視界に捉えていた。

 

「あれが春日山ね。」

 

 昴の示した山の頂上に天守が見え、中腹にも曲輪と思われる建物が幾つも見える。

 

「攻め甲斐の有りそうな城じゃねえか♪」

 

 小夜叉が嬉々としているのを和奏が咎める。

 

「バカ、城攻めじゃなく人質を取り返すために忍び込むんだ!」

「ああっ!?鬼共を全部ぶっ殺しゃ同じだろうが!」

「それじゃあ敵に気づかれて人質を他の場所に連れ去られたり、最悪殺されたりしちゃうだろ!そんな事になったら昴はもちろん、殿の面目だって潰しちゃうんだぞっ!」

「ちぇ、めんどくせぇなあ………」

「まあまあ、小夜叉ちゃん♪人質を救出して帰る時はきっと鬼が阻んで来るから、その時は任せるわよ♪」

「しゃあねえなぁ。わかったよ。そんじゃ、ちゃっちゃとその人質をかっ攫いに行こうぜ。」

「よーーーし♪人質を助けに行くわよーーーーーっ♪」

 

『『『おーーーーーーーーーーーっ!』』』

 

 スバル隊の十二名が拳を振り上げ意気を示した。

 そして、雛が更に続ける。

 

「越後のお姫さまを昴ちゃんのマラから守るのだーーーー!」

 

『『『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』』』

「えーー?」

 

「あはははははは♪何やら盛り上がってるねえ♪」

「ひ、一二三ちゃん………」

 

 二人の女性が街道脇の木の陰から現れた。

 笑った一二三と呼ばれた女性は落ち着いた雰囲気をしており、もうひとりは逆にオロオロして一二三の腕を引っ張っている。何より特徴的なのは眼帯で片目を隠している所だ。

 

「大丈夫だよ、湖衣♪私達が居る事はとっくにばれていたさ♪隠れていたら逆に鬼と間違われて殺されてしまうよ♪先ずは自己紹介をしなきゃね♪」

 

 ニコニコと笑顔を絶やさず、昴に向かって会釈をしてからその名を明かす。

 

「私の名は武藤一二三昌幸。この子は山本湖衣晴幸。共に甲斐の国、武田晴信さまの家臣さ♪天人孟興子度くん♪」

 

「武田のっ!?」

 

 昴とスバル隊の数名が一二三と湖衣に警戒した。

 久遠が出した武田家に連合参加を呼び掛ける書状はまだ届いていない筈なのに、何故武田の家臣がここに居るのかと。

 

 

 

 

房都城内 真桜工房

 

「マオレツ〜!外史を越えるカラクリを作ってほしいナリよ〜!」

 

「だから誰がマオレツやっちゅーねんっ!って、二刃ちゃんかいな………」

「す、すいません…………取り乱しました………」

 

 机に向かって新たな発明品の研究をしていた真桜の所に祉狼の母親の北郷二刃が、その昔兄の北郷一刀が言ったのと同じ様な口調で泣きついて来た。

 真桜の長女、真梫を身篭もる前の話なので、かれこれ二十年近くも前のボケを真桜も良く覚えていた物である。

 

「取り乱す気持ちは判るけど、いくらウチでもそないなモンは作れんわ。大体、作れるならとっくに作っとる。」

「それも………………そうですよね…………」

「そない気ぃ落とさんと…」

 

「他の外史からそのカラクリを作った真桜さんがやって来る予定は有りませんかっ!?」

 

「……………なあ、二刃ちゃん…………今からお茶を淹れたるさかい、ちょ〜っと落ち着こうか?」

 

 真桜は二刃の手を引いて、奥の居間へと連れて行った。

 

 

 

「なあ、二刃ちゃんは過保護なんちゃうか?祉狼も元服した大人やで。それに二刃ちゃんがセンセと結婚した歳になっとるんや。嫁さんもろたってええ歳やで。」

 

 卓を挟んでお茶を啜り合いながら真桜は二刃を説得していた。

 

「それは判ってます…………でも兄さんたちみたいにお嫁さんをあんなに貰うだなんて………」

「いや、ウチもお父ちゃんの嫁のひとりなんやけど…………まあ、そら置いといて、血筋なんちゃうん?」

「あたしは駕医さん一筋ですっ!」

「男だけに現れる特性とか………」

「お父さんは浮気なんてしませんっ!おじいちゃんもおばあちゃんが亡くなってからずっと独り身でしたっ!」

(そら二刃ちゃんが知らんだけちゃうんか?)

「何か言いました?」

「ベツニナニモイウテヘンヨ。」

(むっちゃ勘が鋭ぅなっとる…………)

「ほんならアレや!前にお父ちゃんが言うとった………ええと……そうそう♪『しんくろにしてー』や♪」

 

 ガタンッ!

 

 二刃が突然立ち上がった。

 

「ちょっと兄さんたちをシメてきます。」

「ま、待ちいっ!ど、どうしてなんっ!?」

「それはつまり兄さんたちの影響って事ですよね………元兇を絶てば祉狼も元に戻る筈…………」

「無し無しっ!今のは無しやっ!冗談やって!そないな事普通有り得んやん♪」

(あ゛ーーーー、あれは言うたらあかん単語やったんか………)

「それよりもっ!祉狼の嫁さんになった子達やけど、二刃は気に入らんの?みんなええ子みたいやんか♪」

「それは直接会ってみないと判りません!それに、あたしと同じくらいの歳の人も居ます………」

(うっわーーー…………姐さん達もそこまではお父ちゃんたちと歳が離れてへんもんなぁ………)

「む、向こうは戦乱の真っ最中やし、未亡人が増えるのはしゃあないやろ。ましてや祉狼が命を救った相手や。惚れてまうのも仕方なしと思うで。」

「それは…………まあ………百歩譲って認めるけどっ!あの変態ホモメガネだけは絶対に許せないっ!」

「やっと話が本題に入ったか…………ウチもあいつは許せへん!ウチだけやのぅて、みんな気持ちは一緒やでっ!」

(若干数名色めき立っとるのがおるけど。)

 

「祉狼の嫁になるならまだしも!祉狼をお嫁になんか絶対に出しませんっ!」

「そっちかいっ!!二刃ちゃん、朱里と雛里に毒されとるで!」

「あの変態ホモメガネが極悪非道だとしても!見捨てない人二号として必ず改心させてその罪を一生掛けて償わせて見せますっ!」

「またどついてゲロ吐かすんか?あいつが毒を出しきったら何も残らんと思うけど………」

「話は変わりますけど…」

「もう変わるんかいっ!本題ちゃうんかっ!」

「聖刀くんのメールに美空ちゃんの声が真桜さんと似ていると書いて有りました。」

「そうなん?」

「で、何と言って祉狼を誘惑したんですか?」

「知らんがな!声が似とるだけで、ウチは美空ちゃんちゃうで!」

(そう言や詠が結菜ちゃんと声が似とるって理由で絡まれた言うてたな………これがそうなんか………)

「まあ、声が似とる人間がおっても不思議やないやろ。季衣と璃々とか、大喬小喬とねねとか、鈴々と阿猫とか。」

「大喬さんと小喬さんは互いに何を言ったかピタリと当てますよ。」

「そら双子だからやろっ!ほとんど一緒におんのやから知っててあたりまえやっ!」

 

(あかん………誰か助けてぇな………)

 

 真桜の祈りが天に通じたのか、この時部屋を訪ねて来た者が現れた。

 

「おい真桜っ!模擬戦の打ち合わせをするから会議室に来いと言ってあっただろうっ!」

「凪っ♪ええ所に…」

「凪さん?」

「ふ、二刃っ!?…………………………真桜、華琳さまには私から事情を話しておく。」

 

 凪は踵を返して部屋から逃げ出した。

 

「待ってぇな!ウチをひとりにせんといてぇええええええ!」

「凪さんにも梅ちゃんの事で訊きたい事があるんですっ!待って下さいっ!」

 

 この後、二刃は凪と真桜を曹魏の会議室まで追って行き、風を巻き込んで絡みまくったのだった。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

毎回グー○ルマップ、グーグ○アース、お城の縄張り図とにらめっこをしながら頭を悩ませ書いてます。

お金が有ったら春日山城跡や一乗谷史跡に行って、この目で地形を把握したい!

 

 

越後編に入り新キャラが一気に増えました。

『X』の新キャラはセリフ回しを少ない情報から想像して考えるのが楽しいですね♪

発売になった時が答え合わせみたいでドキドキしますw

 

 

美空が登場したので、中の人繋がりから真桜に登場してもらいました。

二刃の現状を書くための生贄でしたけどwww

 

 

新登場キャラ

長尾美空景虎:原作とは逆に助けを求めに来ているのでその辺りの違いを意識して書きました。昴が天敵ですねw髪の毛を青くしてネギを持たせてみたいですwww

柿崎柘榴景家:今回書いてて一番楽しかったキャラです。原作よりかなり乙女な感じになってますね。

甘粕松葉景持:今のところまだ掴み所のないキャラです。立ち絵を見てるとガンダムのGP-02を連想してしまいますw

直江秋子景綱:越後のおっぱいさん1号w役回りが斗詩に近い様な………。

宇佐美沙綾定満:日の本ロリBBA1号w音々さん的な立ち位置になりそうな予感がします。

小島貞子貞興:越後のおっぱいさん2号w祉狼を相手にシャキンシャキンする予定です。貞子だけどモニターからは出て来てくれません(;;)

長尾空景勝:双葉に次ぐ貴重な大人しいキャラですね。どうかそのままでいて欲しいものです。中の人の名前を見たときは「声優さんってスゲェ………」と改めて思いましたw

樋口愛菜兼続:どーん!どや!

北条名月景虎:既に美空から景虎の名前を貰っているのでかなり美空との仲は良いと推測。でも性格は麗羽や美羽に近いのか?

加藤段蔵(飛び加藤):今回は名前だけでしたが、いつか登場させたいと思っています。

武藤一二三昌幸:もうすぐ大河ドラマの『真田丸』が始まりますね。この子が祉狼の嫁になった時に、二刃が翠に絡むと思いますw

山本湖衣晴幸:眼帯をしてるけど、春蘭とは正反対ですねw

 

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

・ 佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)

・ 佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)

・ 佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)

・ 各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)

・ 森蘭丸

・ 森坊丸

・ 森力丸

・ 毛利新介 通称:桃子(ももこ)

・ 服部小平太 通称:小百合(さゆり)

・ 斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

・ 三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

・ 蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

・ 蒲生氏春 通称:松(まつ)

・ 蒲生氏信 通称:竹(たけ)

・ 六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)

・ 三好右京大夫義継 通称:熊(くま)

・ 武田信虎

・ 朝比奈泰能

・ 松平康元

・ フランシスコ・デ・ザビエル

・ 白装束の男

・ 朝倉義景 通称:延子(のぶこ)

・ 孟獲(子孫) 真名:美以

・ 宝譿

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6190873

 

さて、次回は『昴vs沙綾』

もとい、『人質救出作戦』です!

 

 

 


 
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