No.819532

リリカルST 第10話

桐生キラさん

Sサイド
サブタイトル:ルネッサとユキ

2015-12-18 20:51:28 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1388   閲覧ユーザー数:1316

 

 

 

 

 

俺がイクスヴェリアの事を知ったのは、様々な偶然、いや、これはもう必然だったんじゃないかって言っていいレベルで、色んな事が重なった事がキッカケだ。

 

俺の相棒レーゲン、そして俺がとある世界で保護した少女ルネッサ。

 

中心となったのは、この2人だった。

 

あれは、俺がまだ店を建てる前の、魔導師として働いていた頃…

 

 

 

 

 

1年前

 

 

 

「ルネ!久しぶりだな。元気にしていたか?」

 

「士希さん?」

 

地上本部での仕事の帰り道、エントランスにて偶然にもルネッサ・マグナスと出会った。その突然の出会いに俺は嬉しくなり、思わず話し掛けてしまった

 

「いやぁ、ずいぶん大きくなっちゃって。最近は忙しくてあまり会えなかったから、どうしてるか気になってたんだよね」

 

「………誰ですか、あなた。馴れ馴れしいですね」

 

「いやさっき士希さんって呟いてましたよねルネさん!?」

 

「冗談ですよ。お久しぶりですね、士希さん。あと、あなたの反応が親戚のおじさんみたいで不愉快です」

 

相変わらず辛辣だなぁ…

 

ルネッサ・マグナス。地方世界『オルセア』出身の女性。年齢は14歳。数年前、当時内戦で家族を失ったルネを俺が保護し、その後も何かと支援していた。俺としては学校に通ったりして、普通に暮らしてもらいたかったが、管理局に入局してしまい、捜査官になってしまった。しかも優秀だったせいでかなりの功績を挙げている。魔導師ではないので、陸ではかなり重宝され、遂行率の高さからも信頼が厚い。

 

ほんと、どうしてこうなったのかなぁ…

 

「士希さーん、手続き終わりましたよ。早速帰り…あ!ルネさん!久しぶりー!」

 

俺がルネに絡んでいると、受付カウンターで帰宅手続きをしていたレーゲンがやって来た。レーゲンはルネを見て笑顔で手を振って来たが、ルネの反応は微妙なものだった。

 

「……え?あれ?誰ですか?レーゲン君に似ている…気はしますが」

 

先程俺に対して言った冗談とは違い、今回は本当に自信なさ気に、困惑している様子だった。

 

それもそのはずだろう。ルネが最後に見たレーゲンの姿は、小学生くらいの見た目だった。だが、今目の前にいるのは、高校生くらいの見た目の好青年だ。

 

「ルネ、あれはレーゲンだ」

 

「……士希さん。いくらレーゲン君が成長期でも、たった1年そこらでアレになる訳ないじゃないですか」

 

ルネは疑いの眼差しを向けていた。まぁ当然と言えば当然なんだけどさ。

 

「レーゲン、ユニゾンデバイスなんだ。ちょっと訳ありでな。神器事件は聞いた事あるだろ」

 

「えぇ、あの士希さんがやらかしたやつですよね?」

 

やらかしたとか言うな

 

「その神器がレーゲンなんだ」

 

その言葉に、ルネはほんの僅かに、だが確かに、ピクリと反応した。その理由が何なのかは、この時の俺にはわからなかった。

 

「神器は破壊されたと伺っていましたが?」

 

「あぁ、世間的にはそうなってる。だから、今ここにいるレーゲンもデバイス扱いじゃなく、一人の人間として管理局員になっているんだ」

 

それを提案してくれたのは騎士カリムだった。曰く、神器は強力過ぎるが故に、その存在は争いを招きやすいと。だから、既に破壊扱いにして、神器という存在を消した。そして今目の前にいるのが、漢字を一文字変えた神騎、レーゲンだ。

 

「なるほど、だいたいわかりました。だから伸縮が自由と。ユニゾンデバイスとは凄いのですね」

 

「それじゃあまるで僕が凄く伸び縮みするみたいだよ!?」

 

レーゲンのツッコミが入ると、場も和やかな物になる。ホント、レーゲンは癒し系だよな

 

「せっかくだ、ルネはこの後暇か?一緒に飯なんてどうだ?もちろん奢るぜ」

 

「タダ飯より美味いものもありませんし、ご相伴にあずかります」

 

この子の性格は一体誰が形成したんだろう…

 

 

 

 

俺はレーゲンとルネ、そして留守番していたアギトを拾ってミッドの首都に向かっていた。もちろん、俺の運転で

 

「士希さんは相変わらず、美少女との遭遇率が高いみたいですね」

 

「マスターは相変わらず、はやて以外の女にフラグ立ててんのな」

 

助手席にはレーゲン、後部座席にアギトとルネが座っているが、なんと言うか居心地…というかジトッとした視線が突き刺さって落ち着かなかった

 

「レーゲン君は士希さんの様なジゴロになっちゃいけませんからね」

 

「ジゴロじゃねぇよ。あともう手遅れだわ」

 

「士希さん!?僕もジゴロじゃありませんからね!?」

 

とは言うものの、レーゲンは見た目が見た目なだけにかなりモテる。この前も女性職員にチョコ貰っているの、見てたんだからな?

 

などと話し合って数分、目的地に到着し、車を駐車場に停める。そして降りて店の中に入ると、そこには既に見慣れた女性がタバコを吸いながら携帯端末をイジっていた。

 

「ユキ?」

 

「ん?おぉ!やっと来たか!おっちゃん、ビール!後テキトーにツマミも!」

 

ユキは俺を確認するや否や、許可も取らずに注文し始めた。

 

ユキ・ブレア。とある世界出身の女性。年齢は19歳。ちょっと訳ありな過去を持っており、紆余曲折あってルネと同居している。現在はルネと同じく管理局の捜査官として働いており、ルネ同様功績を残している。ただ、少々不真面目な部分がある為、ルネ程の信頼は得てないようだ。

 

「おいユキ、お前なんで此処で…」

 

「そりゃ、私が教えたからに決まってるからじゃないですか。相変わらずめぐりが悪い頭ですね、士希さんは」

 

ルネさんは相変わらず口が悪すぎやしませんかね?そろそろ泣くよ俺?

 

「まぁそういう事だ。それ抜きにしても、ここは私のお気に入りでな。どっちにしろ今日の夕飯はここって決めてたんだ。お!ビールさんきゅー!」

 

ユキはビールを受け取ると、ジョッキの半分以上を一気に飲み干した。そのまま上機嫌に、出されたツマミもちみちみ食べ始める。

 

おかしいなぁ、昔はこいつも、結構真面目な奴だったんだけどなぁ…

 

「はぁ…まぁいいや…ほら、みんなも注文していけ。遠慮はするなよ」

 

「マスターがいいなら、好きに頼むぜ!」

 

「士希さんゴチでーす!」

 

「レーゲン君、アギトちゃん、こういう時は高いものから順に頼んでいくものなんですよ」

 

ルネさんはもう少し遠慮を覚えましょうねぇ

 

 

 

 

「士希!もう一軒行こうぜ!」

 

「おいユキ、飲み過ぎだ」

 

夕食を済ませ、店の外に出ると、かなり飲んで酔ったユキに絡まれてしまう。べろんべろんとはこの事を言うのだろう。心なしか、足取りも覚束ない

 

「お!そうだ士希!久しぶりに2人でサイコロなんてどうだ?昔はよくやったよなぁ」

 

「ッ!?」

 

その言葉は、先程までの緩みきった俺の気を引き締めさせるには、十分過ぎるものだった。

 

ユキは確かに酔っている。頬も紅潮させ、口元もだらしなくニヤニヤとさせている。なのに、目だけは、俺をしっかりと見つめ、真剣なものだった

 

「ったく、レーゲン、俺はもう少しこいつの面倒見てくよ。ルネとアギトを送ってもらえるか?」

 

俺はレーゲンに車の鍵を投げつける。レーゲンはそれを軽く受け取りながら苦笑いで頷いた。

 

「士希さん、うちの呑んだくれが迷惑を掛けます」

 

「マスター、酔ってるからって、ホテルとかには行くなよー」

 

「アギトちゃーん?女の子がそう言う事は言っちゃいけませんよー?」

 

俺は三人が車に乗り、帰っていくのを見届ける。その後にユキに話し掛けた

 

「一体どういうつもりだ?」

 

サイコロ…とは、昔俺とユキが居た隊で使っていた隠語だ。意味は「話がある」。しかもその後に「昔はよくやったよな」と続いた。これは「重要な案件だ」という事。いくら酔っているとは言え、ユキがそれを言う事には、必ず意味がある。

 

「ふふ、やっぱり覚えてたか。流石士希」

 

ユキはなに食わぬ顔でタバコに火を着けた。そのままタバコを吸い、煙を吐き出すと、少し悲しげな表情を見せる。その視線は、レーゲン達を乗せた車にあった。

 

「話ってのは、ルネについてだ。お前、あいつの事どこまで調べた?」

 

その問いの意味まではわからないが、あまり良い予感はしなかった。まるで、ルネが何か、隠し事をしているような…

 

「あいつの出身地や年齢などといったパーソナルデータや生い立ちくらいだが、何かあったのか?」

 

俺の問いに、ユキは溜息と共に煙を吐いた。

 

「オルセアの活動家、トレディア・グラーゼって名前に聞き覚えはあるか?」

 

「あぁ、オルセアの反政府軍の中でもかなりの有力者だな。国を思う気持ちが強く、同志達の信頼も厚いと聞く反面、過激的な部分も見せる奴だったかな。そいつがどうかしたのか?」

 

「端的に言えば、ルネはそいつの娘だ」

 

「なに?」

 

俺はルネに関してのデータ、特に親族については調べ尽くしたはずだ。その結果、ルネの家族は間違いなく戦争で命を落とし、ルネが天涯孤独であると断定できた。もし、グラーゼなんていうオルセアでのビッグネームが父親なら、調べりゃわかるはずだが…

 

「正確には義理の娘だがな。ルネが家族を失ったのは6歳の頃。そしてお前が保護したのは9歳の頃。この空白の3年間、誰がルネを守ってたと思う?」

 

そう言えば、保護した当初もルネがそう言っていたな。その時は名前までは教えてくれなかったが。それが、グラーゼだって言うのか?

 

「私がそれを知ったのは本当に偶然だった。あいつがオルセアに帰るって言うから、私も暇だったんでこっそり後を着けて、それで着いた先でグラーゼと共に銃持って戦場に行って。それで、容赦無く引き鉄を引いていた。それについちゃ、私もお前もあんまり人の事言えねぇけどさ、やっぱり、ガキが人殺してるとこってのは、見てて良いもんじゃねぇよな」

 

ユキの話は、信じたくないようなものだった筈なのに、不思議とルネがそれをしているところを想像出来てしまった。思えば、あの子は初めて会った時から、どこか虚ろな、そして獣のような目をしていた。俺はあの目をよく知っていた。地獄を見てきた、その手で人を殺した事のある奴が見せる目だ。

 

俺は気付いていた。だけど、それを押し殺していた。それが彼女の傷なんじゃないかと思っていたから。

 

「あいつは今も戦っている。グラーゼの指示に従ってな。そこで問題が二つあってな。一つは、あいつもそれを良しとしているところ。故郷を思う気持ちは今でも強いらしい。そして二つ目、こっちはグラーゼについての問題なんだが…」

 

そう言って、ユキは端末から一つの写真データを見せてくれた。そこに映っていたのはグラーゼと複数の男達、そして…

 

「こいつは…ジェイル・スカリエッティ!?」

 

紫色の長髪の科学者風の男は、昔レーゲンを襲った男と一緒の風貌だった。間違いない。俺やはやて達が追っている、次元世界の凶悪事件にはこいつの影があると謳われている、ジェイル・スカリエッティだ。

 

「あぁ。グラーゼとスカリエッティは繋がっている。どういう経緯かはわからないが、グラーゼはオルセア内戦に終止符を打つ為に悪魔と契約したらしい」

 

「その事をルネは?」

 

「スカリエッティが絡んでいる事は知らないはずだ。あいつの端末ハッキングしたが、それらしいやり取りはなかったからな。だが、あいつは既にグラーゼの指示で色々探ってる。特に神器とイクスヴェリアについてな」

 

「神器だと?それにイクスヴェリアって言ったら、古代ベルカの冥府の炎王…」

 

何故、その二つを?神器については俺も粗方調べたし、レーゲンからも話を聞いて来たが、その中でイクスヴェリアが関わる様な事項はなかったはずだが…

 

「何にしろ、良い予感はしない。恐らく大量の血が流れる筈だ」

 

それには全面的に同意だった。グラーゼのバックに付いたのがよりにもよってジェイル・スカリエッティとは。あいつが関わるだけでロクでもない事になるのは明白だ。早急に何とかしないと…

 

「チッ…戦争に関わる気は無かったが…仕方ない。ユキ、戦争を止めるぞ」

 

「正気か?あの世界は管理局の介入を望んでいないし、管理局も関わる気配がない。戦争止める程の人間なんて集められないぞ」

 

「わかってる。それにこれは、管理局員としてじゃない、俺個人でやる事だ。だから、他所から民間人を連れてくる。それも、最強無敵のな」

 

俺の発言にユキはピクリと反応し、微笑を浮かべる。そしてすぐ様、微笑は不敵な笑みへと変わり、真剣な目付きになった。

 

「戦争を根っこから潰すには、その戦争を煽る奴らを探す必要がある。情報なら任せろ。もう既にアテがいくつかある」

 

「ハッ!随分根回しが速いじゃないか?俺がこう出るってわかってたみたいだな」

 

「当たり前だろ。もう何年の付き合いだよ」

 

ユキはタバコの火を消し、自販機でコーヒーを買って、それを一気に飲み干した。

 

「止めてやろうぜ、オルセア内戦。私らなら出来るだろ」

 

そう言って、俺とユキは拳をコツンと合わせた

 

 

 


 
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