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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ十三

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2015-11-08 17:58:20 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:2185   閲覧ユーザー数:1912

 

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ十三

 

 

 鬼となった三好衆を全滅させた織田・松平・足利・姫路衆連合軍。

 その夜、二条館では多くの篝火を焚き酒が振る舞われ、戦勝の宴が開かれた。

 宴の席で武将達を前に、久遠は声高に宣言する

 

「この度!征夷大将軍足利一葉義輝が我と同じく天人華祉狼伯元の正室となった!そして足利双葉義秋は、我が妻斎藤結菜帰蝶と同じ側室となる!今後、奥の管理は結菜と双葉が中心となって行われる!細川幽藤孝!六角四鶴承禎!蒲生慶賢秀!以上の三名は二人の与力となり、近日中に奥法度を定めよ!」

 

 この事は予めは伝えてあるので、五人は静かに頭を下げる。

 

「この奥法度は昴にも適用するからそのつもりでおれ!」

「えっ!?」

 

 驚いて聞き返したのは昴本人だ。

 久遠は不出来な弟を叱る姉の様に昴を睨む。

 

「お前がいつまで経っても正式な奥の管理をせんからだっ!このまま放って置いたらお前が原因で国が乱れるわっ!!」

 

「あの〜、久遠さま〜。質問が有りま〜す。」

 

「雛か。奥に関する質問ならば、我ではなく結菜にせよ。」

「は〜い。それじゃあ結菜さま〜。」

「なに?雛。」

「その奥法度ってぇ、雛達も正室、側室、愛妾って決めるんですかぁ?」

「それはまあ……………基本ですもの………ねぇ……」

 

 途端に結菜の歯切れが悪くなる。

 

「おい、雛。何当たり前のこと言ってんだよ。結菜さま困ってるじゃんか。」

「そうだわん。正室、側室、愛妾なんてジョーシキだよね。ジョーシキ♪」

 

 和奏と犬子は雛の質問の真意を理解していなかった。

 そんな二人に雛はジト目を向ける。

 

「ふぅ〜ん………それじゃあ和奏と犬子は自分が正室、側室、愛妾のどれになると思ってるのかなぁ?」

「そんなの正室に決まってるだろ♪」

「えっ!?正室は犬子だよっ!」

「バーカ、祉狼を見ろよ。久遠さまと公方様のお二人を正室にしたんだぞ。だからボクらは揃って正室だ♪」

「あ♪そっか♪」

 

 和奏と犬子の遣り取りに雛は溜息が出た。

 

「和奏。犬子。久遠さまと公方様の例えが出てきて、何で自分達が正室になれると思うのかな?」

「へ?だって順番で言ったらボクらが先だし……」

「和奏ちん、家格の事が頭から抜けてるよぉ………順番で決まるんだったら結菜さまとかひよちゃん達だって正室じゃないとおかしいでしょ。」

 

「はいぃいいっ!?わ、わわわ、わたしがせせせせせせ…」

 

「ひよ、慌てすぎだってば♪」

「例え話だから安心して、ひよ♪」

 

 パニックを起こしたひよ子を転子と不干が落ち着かせる。

 その様子に和奏と犬子は冷や汗を流した。

 

「で、でも、ボクらの家格は低くないだろ!」

「(和奏!和奏!)」

「なんだよ、犬子!」

 

 流石に犬子は気付き、和奏の腕を引いて止めようとする。

 

「(鞠ちゃん!鞠ちゃん!)」

「鞠がどうしたって、あ…………………」

 

 和奏は漸く鞠が治部大輔であり一葉の親族である事を思い出した。

 

「え、え〜と………や、やっぱりこういうのは昴の気持ちが大事だよな!」

「何言ってんの?昴ちゃんがみんなを平等に愛してくれてるのは和奏だってよく判ってるよね?」

 

 雛の言葉に昴は感動の涙を流す。

 

「まあ、その愛が広がりすぎて〜、今日いきなり五十人以上が加わった訳だけどぉおおお!」

 

 雛は背後にゴゴゴと描き文字を背負って氷の様な目で昴を睨み、感動の涙は恐怖の涙に変わった。

 

「そんな訳で序列が必要になったけど〜、雛だって出来れば正室になりたいし〜、でも今のままだと鞠ちゃんが正室で熊ちゃんと小夜叉ちゃんが側室で〜、雛達は側室か愛妾か微妙な感じ〜、みたいな?」

「鞠は別に正室じゃなくてもいいの………昴と一緒に居られるなら立場なんて関係ないの………」

 

 鞠が困った顔で和奏の手を握る。

 和奏だって本心の根っこではそうだ。

 しかし、そうは言っていられないのが現状だ。

 特に………。

 

「ほんならワイが正室になったろうやんけ♪」

 

 熊こと三好義継がこんな事を言い出すし、

 

「なに言ってんだ!テメェらっ!昴は森家のモンの決まってんだろうがっ!!」

 

 小夜叉までこんな事を言い出すのは予想がついていたからだ。

 

「とまあ、こんな感じで混乱するんで〜。ここは勝負で決めようと思うのですが、どうでしょう、結菜さま〜♪」

「勝負って………前の時は………」

 

 結奈は鞠と綾那が岐阜城に初めて来た日の事を思い出していた。

 

(あの日の結果は鞠と綾那の圧勝だったけど、雛がこんな事を言い出すと云う事は、今回は勝目が在る…………筈よね?)

 

「あ、勝負って言っても武力勝負じゃないですから〜♪正室として必要な嗜みとかをいくつか競い合うって事でどうでしょう〜♪」

「あ♪そうね♪確かにそれは必要な事だわ。一葉さまの和歌や茶の湯は言うまでも無く、久遠も舞は見事だし♪そういう勝負もたまには良いわね♪」

 

 和奏や犬子に和歌が詠めるのか甚だ疑問ではあるが、これで負ければ本人も納得するだろうと、結奈は認める事にした。

 

「デアルカ。では昴はそれで良いとして、残る聖刀の事だが…」

 

 久遠は言葉を区切って集まっている者達を見回す。

 

「聖刀は天の国に絶対に帰すと、我は約束をしている!聖刀に懸想する者は、狸狐の様に日の本を捨てて天の国まで往って添い遂げる覚悟をせよっ!」

 

 これは白百合に対して言っている様な物だが、葵と悠季にも釘を刺す意味で宣言したのだった。

 

「我の話は以上だ!では存分に宴を楽しむがよい♪」

 

 

 

 

「バナナがたべたいのにゃ…………」

 

 麦穂の膝に座っていた美衣が、突然そんな事を言い出した。

 聞き付けたエーリカが眉を吊り上げる。

 

「美衣!静かになさい!あなたが大人しくしていると約束をしたから軍議に同席を許したのですよっ!」

 

 そう、現在二条館の一室では、鬼との戦闘から一夜明けて直ぐに軍議が開かれていた。

 室内には久遠と一葉を中心に、織田勢からは壬月、麦穂、雹子、エーリカ、詩乃、新参者ではあるが慶。

 松平勢の葵と悠季。

 足利勢は幽と白百合。

 そして姫路衆の雫も軍議に参加している。

 後、祉狼と聖刀と狸狐も同席していた。

 

「そう目くじらを立てるな、金柑。ひとつ小休止としよう♪」

 

 久遠の一言に場の緊張が解かれた。

 怒られて悄気(しょげ)ている美衣に、麦穂は頭を撫でて微笑み掛ける。

 

「美衣ちゃん、さっき言った『ばなな』ってどんな食べ物なの?」

 

 麦穂は先日、赤ん坊の力丸を見て以来母性本能が刺激されて美衣を異様に可愛がる様になっていた。

 

「むぎほはバナナしらないにゃ?バナナはこれくらいの棒みたいなくだもののにゃ♪」

 

 美衣が手振りで示した大きさに女性陣全員が反応した。

 

「き、金柑………まことか?」

「は、はい。世界中の高温な地域で栽培されている果物です。棒状なのですが…………」

「曲がってるのにゃ♪」

「曲がってる?」

「いえ!曲がっていると言うより反り返ってっ!…………………」

 

『こ、これくらいの長さで……そ、反り返っている……………』

 

「か、皮が鮮やかな黄色ですから…」

「きいろいくらいじゃまだまだにゃ。ちょっと黒くなったくらいがとっても甘くておいしいにゃ♪」

 

『く、黒くなって……』

 

「あんまり強くにぎるとベタベタのヌルヌルになるから気をつけるにゃ!」

 

『ベタベタのヌルヌル……………』

 

「そ、その様に卑猥な果物が世界中に…………」

 

 詩乃が顔を真っ赤にして呟いた。

 

「卑猥ではありません!創世記の知恵の実が本当はバナナではないかと唱える学者が居る程とても美味しい果物ですっ!」

 

 力説するエーリカの頭の上に宝譿が飛び乗る。

 

「エーリカ、南蛮の港でエーリカがバナナ食ってる姿見て、周りの野郎共は股間押さえてたぜ。知恵がつくかどうか知らねえけど想像力は掻き立てたみたいだぞ♪」

 

 宝譿が宣った言葉にエーリカはガックリと項垂れて畳に手を着いた。

 

「あ、あれは…………そういう意味だったのですね………」

 

 落ち込むエーリカに祉狼が肩を叩いて微笑み掛ける。

 

「エーリカ!何だかよく判らないがバナナは非常に栄養価が高く便秘の特効薬でもある!芭蕉の仲間で俺達の国では香蕉と呼ばれ、孫呉の特産品のひとつだ♪乾燥させた物が薬剤として流通していたぞ♪」

 

 祉狼の無駄に力強い言葉にエーリカは顔を上げて喜びの涙を浮かべた。

 

「メィストリァ………♥」

 

 祉狼とエーリカが良い雰囲気になると、当然他の正室愛妾達がムッとなる。

 

「ウォッホン!美以、ばななは用意してやれぬが、他の果物や菓子で我慢しないか?我も甘い物が食べたくなった♪」

「おかしにゃ♪」

 

 美以の喜ぶ顔に全員が癒され場が明るくなった。

 一葉が思い付いたと膝を叩いて立ち上がる。

 

「折角じゃ♪街に繰り出し美以が喜ぶ物を探そうではないか♪公方である余が直々に案内してやろう♪幽は双葉達を呼んで参れ♪」

「畏まりました。それでは皆様は南門でお待ち下さいませ。側室様方と他の方々にもお声を掛けて参りますので♪」

 

 

 

 

 幽が双葉を探しに庭へ出ると、何やら少女達の歓声が聞こえて来た。

 

「鞠さま!!」

「任せてなの!綾那!」

 

「おや、蹴鞠………ですか?」

 

 幽が目にしたのは蹴鞠に興じる昴の嫁達と、それを見守る祉狼の側室愛妾達だった。

 しかし、蹴鞠が幽の知る物とはかなり違っている。

 

「あ、幽。軍議は終わったのですか?」

 

 双葉が幽に気付いて微笑みを浮かべて振り返る。

 幽も会釈を返して双葉の傍に寄った。

 

「軍議は一時中断でございます。して、双葉さま。あちらの方々がなさっていらっしゃるのは?」

「あれは旦那さまの伯父上様が、かの国で広められた蹴鞠です♪」

「やはり蹴鞠なのですか……玉が地を転がっておりますが……その玉も何やら地味でございますなぁ………」

「この競技の規範では玉を相手の本陣に入れた軍が点を取り、時間内に多くの点を取った軍の勝ちとなるそうですよ♪」

 

 双葉の説明で読者の皆さんには察しが着いたと思いますが、鞠達がやっているのはサッカー、いや、正確にはフットサルだった。

 指導しているのは昴で、ボールも昴が例の四次元麻袋から出した物だ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」

「いっけぇええ!和奏ぁあああ♪」

「させるかよっ!クソがぁあっ!!」

「昴ちゃんの玉を和奏と小夜叉ちんが取り合って!二人ともそんなに乱暴にしたら昴ちゃんの玉がっ!」

 

 パーーーーーーーーーン!

 

「あ〜……昴さまの玉がつぶれてしまったのです………」

「昴の玉がペチャンコなの………」

「昴の玉はもう一個あったやろ。そっち使(つこ)たらええんちゃうか?」

「そうですね♪昴さまの玉をもう一個、桃子に貸して下さい♪」

「つぶれた昴さまの玉は大丈夫ですか?」

「つぶれた昴さまの玉は祉狼お父様なら直してくれると思うのです♪夢が持って行くですよ♪…………昴さま、なんでピョンピョン飛び跳ねてるですか?」」

 

 競技が中断したので幽が全員に向かって声を掛けた。

 

「皆様、今から祉狼どの、聖刀どのと菓子を求めに街へ出掛けますが、同行される方はいらっしゃいますかな?」

 

 

 

 

 結局、全員が揃って京の街に繰り出す事になった。

 街の人達は武将達の行列に何事かと驚いたが、昨日の鬼襲撃とその鬼を殲滅した織田信長の軍勢を目撃した者達から説明を聞いて警戒を解いたのだった。

 

「あの………私も同行して良かったのでしょうか………」

 

 申し訳無さそうにしているのは小寺官兵衛孝高。通称雫である。

 雫の周りは詩乃、エーリカ、蒲生三姉妹が寄り添い、その周りをゴットヴェイドー隊が囲んでいた。

 

「この様な他愛ない集まりこそ、互の心を通わせる機会ですよ、雫♪尤も、私もゴットヴェイドー隊に入るまで疎かにしていた口ですけど♪」

「でも、その………私は昨日参戦したばかりの新参者ですし………」

「その参戦こそ雫どのがこの場に居ても誰もが歓迎している最大の理由ですよ♪主も雫どのの決断を祝福してくださるでしょう♪」

 

 天主教の司祭でもあるエーリカの言葉に雫は感動し、感謝の祈りを捧げた。

 

「雫さんも熱心な奉教人なのですわね♪でうす様の教えに背いたザビエルを、共に成敗致しましょう♪」

「は、はい♪」

 

 雫は同じ奉教人という味方を得た事を心から嬉しく思っていた。

 その様子をひよ子がじっと見ている。

 

「ひよ、雫ちゃんと話がしたいなら一緒に行く?」

「ころちゃん?いや、そうじゃなくて…いやいや!お話はしようと思ってるけど今は別の事を考えてて………」

「?………何考えてたの?」

「えっとね…………豊胸人って言うから天主教に入信するにはおっぱいが大きくないとダメなのかなって思ってたんだけど、雫ちゃんを見て違うのかなって………」

「ひよ……………字が違う。教えを奉ずる人って書くの!それに雫ちゃんに失礼でしょ…………」

「え!?そうなの!?だって、エーリカさんも梅ちゃんも松さんも竹さんも慶さんも………あっ!もしかしたら入信したらおっぱいが大きくなるのかもっ♪」

 

 ひよ子と転子の会話が耳に入った久遠、一葉、幽、結菜、麦穂、不干、雹子、歌夜、四鶴、慶、白百合は敢えて聞こえない振りをした。

 この話題は危険だと勘が囁くのだ。

 しかし、そんな勘の囁きが無かった人物も居る。

 壬月と桐琴だ。

 

「ひよは乳房を大きくしたいのか♪」

「なんじゃ?乳だけでは無く全体的に細っこいのぉ。もっと食って鍛錬せい♪がっはっはっは♪」

 

 織田家切っての巨乳の迫力に気圧され………いや、ひよ子は物理的におっぱいで潰されそうになっていた。

 

「きゅう………」

 

(ごめん、ひよ!…………このお二人が相手じゃ私には助け出してあげる事が出来ないよ!)

 

 転子は襟元から自分の乳房を覗き、力不足だと奥歯を噛んだ。

 転子の乳房は決して小さい訳ではないが、壬月と桐琴の宝珠が相手では攻撃力も防御力も敵わない。

 

「壬月、桐琴さん、その辺でひよを開放してあげてくれ。窒息してしまうぞ。」

 

 見かねた祉狼が二人を嗜めた。

 

「ははははは♪ひよが努力もせずに神頼みをしようなどと考えたみたいなので、少々懲らしめてやっただけだ♪」

「うむ♪乳はガキを育てる為に出れば、大きさなんぞ関係無かろうに。それとも祉狼は乳のでかい女が好みか?」

「いや、俺も桐琴さんの意見には賛成だ。俺の母さんも胸は小さいが母乳はよく出たと言っていた。」

 

 祉狼から出た新情報に祉狼の嫁全員が意識を向けた。

 

「判っておるではないか、祉狼♪で、お前の母は具体的にどれくらいの大きさじゃ?」

「そうだな………詩乃くらいだな。」

 

 今度は明ら様に詩乃へ視線が集中した。

 詩乃は慌てて話題を変えようと雫に話し掛ける。

 

「えっ!?ええと…………し、雫は祉狼さまをどう思いますかっ!?」

「ええっ!?そ、それは………噂以上に凄い方だと思いました!特にあの蝶々の仮面は聞いていませんでしたから驚きました!」

「いえ………あれは私達も初見でしたから驚きましたけど………」

「傷ついた兵を次々と回復して、それだけに留まらず街の人達の怪我と病気まで治しに行かれてしまうなんて!正に天の御遣いだと感動しましたっ!」

 

「華蝶の仮面は自らの意思を持った霊装でな。こっちに来てからはずっと眠りに就いたままだったんだ。それが昨日は突然目覚めて、一葉と双葉を救ける為に急げと警告してくれた♪後、仮面が眠っていた間に蓄えてくれた氣のお陰で患者の居場所を知る事が出来たんだ♪」

 

 雫は自分の知識を総動員して祉狼の言葉を理解しようと熱心に聞き入った。

 

「でも俺は雫の方が凄いと思うぞ。あの短時間によく兵を集めて駆け付けられたな。」

「あ、あれは以前から三好三人衆の動向を見ていたので、近々何か行動を起こすと読めましたから………まさか鬼になって二条館を襲うとまでは思いませんでしたけど………」

「いや、その洞察力が凄いんだ♪雫が詩乃と一緒に指揮を執ってくれれば被害はもっと抑えられる♪」

 

 祉狼の言葉に雫の顔が明るくなる。

 しかし、それは直ぐに沈んでしまった。

 

「ん?どうしたんだ?」

「雫………まさか………」

 

 詩乃は姫路衆の行動の早さから、雫が独断で軍を動かしたのではと懸念していた。

 雫は小寺性を名乗っているが、父親は播磨国前当主小寺則職(のりもと)の養子であり、飽くまでも家臣の域を出ない家柄である。

 

「そ、その事で祉狼さまにお願いしたき義がございますっ!どうか私を愛妾、いえ!御伽衆でも構いませんのでお側に置いて頂けないでしょうかっ!」

 

「ぶふっ!」

 

 目を閉じて体を強張らせる雫の突飛な発言に、詩乃は思わず自分の唾液で咽せてしまった。

 

「詩乃、おとぎ衆って何だ?」

「え、ええと、そのですね………………………」

 

「祉狼!後で教えてやるから、お前は貂蝉卑弥呼と話でもしておれ。」

 

 久遠の助け船に詩乃は胸を撫で下ろす。

 しかし今度は正室、側室、奥女中に囲まれた。

 

「おい、小寺官兵衛!詳しく説明せいっ!!」

 

「ひゃ、ひゃい!じ、実は私、本家播州御着城の小寺政職(まさとも)さまには無断でここに来ています!御着城内は播州に鬼が現れていない為に危機感薄く………と言うか関心が無く、私と母は播州の未来を話し合った結果、僅かでも鬼退治に関わるべきという結論に辿り着きました。母は後日、私を小寺家からの人質として差し出したと本家に伝える手筈となっております!」

 

 雫の話を聞く間、久遠の目は戦国武将のそれになっていた。

 

「デアルカ。我らが鬼を根切りにすれば、その後日の本に覇を唱えるのは我ら。その時に播州は味方であったと発言が出来、我らが鬼に敗れれば鬼の情報を持って毛利に降るか。」

「………はい。その通りでございます。」

 

 雫は覚悟を決め、腹を据えた。そう見えた双葉が堪らず声を発した。

 

「お、お待ちください!久遠さま!雫は自ら人身御供、いえ捨て石となる覚悟!どうか温情を以て…」

「落ち着け、双葉。久遠は雫を咎めようとは思っておらんぞ♪」

 

 姉に止められ双葉は目を瞬いてキョトンと久遠を見た。

 

「この程度は想定済みだ。ザビエルに負けるつもりは無いが、万が一の場合は後事を託し鬼から日の本を救って貰わねばならんからな。」

「そうですよ、双葉さま♪今大事なのは雫が祉狼の事をどう想っているかです♪」

 

 結菜も微笑んで双葉を諭す。

 

「で、雫。さっき祉狼に言っていた言葉は聞いていたけど、あなたは祉狼に対する正直な気持ちを教えてもらえる?」

「そ、それは、その…………」

 

 雫が顔を真っ赤にして俯く姿が全てを物語っているのだが、雫の反応が余りにも可愛いので、結菜、久遠、一葉、四鶴、慶はつい意地悪くなり、雫の言葉を待ち続けた。

 

「し、祉狼さまの噂は大変良く耳に致しまして!と、とても気になっておりました!き、昨日実際にお姿を拝見して噂以上にす、素敵な男性だと思いましたっ!」

 

 雫が遂に顔を両手で覆って震えだしてしまった。

 双葉は同い年くらいの雫に親近感を覚え、詩乃、ひよ子、転子と同じ様に友達になりたいと手を差し伸べようするが、またしても姉が無言で遮る。

 その間に結菜が雫に言葉を掛ける。

 

「祉狼の性格から言って、伽役を求める事は無いわよ。それでも良ければ雫を御伽衆にしてあげるけど?」

「え………………そ……それでも……………かまいません……………」

 

 まるで死刑宣告を受けたみたいに見る見る血の気が引いて行く雫を見て、流石に遣り過ぎたと結菜はバツが悪くなり、雫を胸に抱き締めた。

 

「あなたには祉狼の愛妾になってもらいます。しっかり努めを果たしなさい♪」

「え………え?…え?」

 

 戸惑う雫に詩乃が微笑み掛ける。

 

「良かったですね、雫♪」

 

 詩乃の声と結菜の体温が頭と体に染み込むと、雫は満面の笑みを浮かべた。

 

「は、はい♪ありがとうございますっ♪未熟者ですのでご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します♪」

 

「あら♪それじゃあ、詩乃にしたみたいに色々と指導してあげなきゃね♪」

「ゆ、結菜さま!?そ、それは………」

 

 詩乃は初夜の時に結菜から施された『指導』を思い出し、顔から火が出そうだ。

 

「各々方、『ししや』が見えて参りましたぞ。ここからはもう少々会話の内容に気を配って頂けますかな?」

 

 和菓子屋を目前にした事で久遠を初めとする甘党達が色めき立った。

 

「殿は何をたべるんですか!?ボクは殿と違うの頼みますから一口ずつ交換しましょうね♪」

 

 三若一の甘党の和奏は尾張で久遠に連れられ団子や和菓子を食べ歩いていたので気分はその頃に戻っていてとても楽しそうだ。

 

「『ししや』は近い内に禁裏でも御用達になるだろうと今評判のお店ですわよ♪」

「ほええ〜。羊羹がおいしいって聞いてたけど、そんなにスゴイんだ〜……雀食べたこと無いんだぁ♪……………高くて……」

「確かに他のお店の十倍はしますものね………」

「(コクコク!)」

「でも今日は久遠さまが買って下さるのですからお好きなお菓子を食べられますわよ♪」

「(…………………)」

「え?……うん、そうだねお姉ちゃん!」

「烏さんは何とおっしゃいましたの?」

「うん、何を食べるかじっくり考えないとって!」

「そうですわね♪後悔しないよう、しっかり吟味しましょう♪」

 

 梅、雀、烏の会話を聞いていた祉狼、昴、聖刀は無言で頷き合った。

 

「ここの支払いは俺と昴と聖刀兄さんで持つから、皆は遠慮しないで好きな物を頼んでくれ♪」

 

 祉狼の発言に女性陣の殆どが驚きの声を上げる。

 

「ひよさん!メィストリァのお財布の管理はあなたの仕事ですけど、大丈夫なのですかっ!?」

「え、ええ、お頭のお小遣いの蓄えだけでも、充分賄えると思います。」

「いつの間にメィストリァはそんな大金を………」

「今までお頭が立てた武功を思い出してくださいよぉ。恩賞のほとんどが銭で賜っていますし、お頭って普段は銭を使わないんです。」

「恩賞が銭で………確かにメィストリァが武具や茶器を頂いても持て余すだけですね。ですけど普段の私達の食事などはメィストリァが………」

「普段の食事はお頭が病気を直した人達がお礼に持ってきてくれる物で賄えちゃうんです。ゴットヴェイドー隊の運営費は聖刀さまの行っている商いで潤沢ですし、エーリカさんもこの間、明智衆の用意した支度金を預けてくれましたよね?半羽さまも不干ちゃんと夢ちゃんの支度金を下さいましたし、他にも色んな所から銭が集まってきて………」

「わ、判りました!もう結構です!」

「そんな訳ですから、今はお菓子を楽しみましょう♪」

 

 『ししや』に到着した一行だが、流石にこの人数が一度に入るのは無理があるので、最初に暖簾をくぐったのは久遠と一葉の正室二人と結菜と双葉の側室二人、そして幽、和奏、鞠、熊、白百合、葵、悠季の十一人と祉狼、昴、聖刀の三人。

 そして最後に狸狐が聖刀に手を引かれて緊張しながら店内に入った。

 『ししや』の番頭が入店した顔ぶれを見て、慌てて奥に居る主人を呼びに行く。

 

「これはこれは、ようこそおこしやす♪細川様♪松永様♪」

 

 ついこの前まで敵対していた二人が連れ添って現れたというのに、主人は何事も無い様に対応する。

 公家や大名家を相手に商売をしているのだから決して世事に疎い訳では無く、それだけ事態を察して強かに立ち回れる能力が高いという事だ。

 

「おや、弾正少弼殿もこちらを贔屓になさっておいでですか。」

「当然であろうよ、兵部大輔よ。名物と良き茶を揃えても、菓子が伴わねば持て成す相手に失礼であろう♪」

「成程、然り。『平蜘蛛』に吊り合う菓子ともなると菓子探しも大変でございますな♪」

「なに、数寄の為ならばこの苦労も楽しみのひとつ♪」

「いや、ご尤もで。はっはっはっはっは。」

「ほっほっほっほっほっほ。」

 

 数寄人二人の茶番劇は無視して、久遠達はお菓子選びをしていた。

 

「和奏、我は栗羊羹と栗の練りきり、焼き菓子にしようと思う♪」

「それじゃあボクは………豆羊羹とモナカと………やっぱりボクも栗の練りきりはひとつ!」

「ふふ、和奏ならばそう来ると思ったぞ♪」

「えへへ♪やっぱり判っちゃいました?」

 

 笑い合う久遠と和奏に一葉が面白い物を見たと微笑んだ。

 

「仲が良いな久遠♪」

「うむ、我がうつけを演じている時に、直々に馬周りに起用した者のひとりだ。」

「昨日騒いでおった『昴の正室』殿じゃな♪余の従妹殿に勝てそうか?」

「ひゃ、ひゃい!いえ!その!ええと…」

 

 和奏は将軍から声を掛けて貰えるとはまるで考えていなかったのでパニックに陥った。

 そういう意味では和奏はこの時代の常識人の範疇に入るだろう。

 昨日の思い込みは恋する少女故の暴走と見るか、三バカ故のボケと見るかは微妙な所だ。

 

「和奏、甘味の大食い勝負をしてはどうだ?」

「え!?久遠さま、それって正室と関係あるんですか?」

「おい、久遠。何じゃその甘味の大食い勝負とは………」

「さっきも言ったうつけをやっていた頃に、清洲で何度も繰り返した勝負だ。汁粉を何杯食えるかとか、団子を何本食えるかとか…」

「そ、そうか…………」

 

 一葉は青い顔をして双葉と結菜の所へ移動した。

 

「一葉さま、大丈夫ですか?いま、お茶を貰って参りますね♪」

「………ありがたい………話を聞いただけで胸焼けがしてきたわ………」

「久遠と和奏のアレは異常ですから……」

 

 苦笑する結菜に双葉が小さく微笑み掛ける。

 

「久遠お姉さまと和奏さんはとても仲がよろしいのですね♪わたくしも昴さんのお嫁さんと仲良くなれるよう努力致します♪」

「宜しくお願い致します、双葉さま。あ♪鞠ちゃんを通じて接すればあの子達も早く打ち解けてくれますよ♪」

「ふふ♪そうですね♪鞠ったら、あんなに昴さんを慕って♪」

 

 双葉と結菜が昴と鞠に温かな視線を向ける。

 鞠は昴の手を握って並べられた菓子を眺めては、笑顔で話し掛けていた。

 その横には祉狼と聖刀も居る。

 

「ねえ、昴は何にするの?」

「私はいいから鞠ちゃんの食べたい物を選んでね♪」

「鞠……昴と同じのが食べたいの……」

 

 上目遣いで言われ、昴は菓子よりも鞠を食べたいと思ったが、ここは我慢して鞠に事情を話す。

 

「私と聖刀さまはここのお菓子の味を知るために全種類を少しずつ味見するのよ。完全に再現は出来ないけど、いつか作ってあげるわね♪」

「凄いの!昴と聖刀お兄ちゃんはこんなお菓子も作れるの!?」

「ここに有る半分くらいは作った事あるわよ♪他のも大体作り方は想像が着くかな♪」

「それじゃあ御萩も作れるの!?」

「ふふ♪御萩なら羊羹を作るよりずっと簡単よ♪鞠ちゃんは御萩が好きなの?」

「うんなの♪泰能が作ってくれたの♪」

「へ、へえ……や、泰能さんが………」

 

 昴は一瞬だけ背後を確認した。

 

「御萩と言えば祉狼のお母さんの二刃さまが作った御萩は絶品なのよ♪私も聖刀さまもあの味にはたどり着けていないわ!」

「そ、そんなに美味しいの…………」

 

 鞠は味を想像して唾を飲み込む。

 もう鞠が今日は何を食べるかが完全に確定していた。

 

「鞠様、御萩になさるのですか♪私も御萩は素朴でとても好きですよ♪」

 

 葵が鞠に声を掛けて来る。

 しかし、それは聖刀に声を掛ける為だった。

 

「聖刀さま、御萩は季節によって呼び方が変わる事をご存知ですか♪」

「へえ♪父上たちと二刃叔母さんは御萩としか呼んで無かったから初耳だな♪どんな名前なの?」

「秋は御萩、春は牡丹餅、夏は夜船、冬は北窓と言います♪」

「面白い名前だね♪」

「先ず御萩とは秋に咲く萩の花の形と色から名付けられ、春には牡丹の花にも似ている為に牡丹餅と名付けられました。それから……聖刀さまも作られるならご存知とは思いますが、普通の餅とは違い擂り粉木で潰しますよね。なので『いつ餅を搗いたか判らない』事から『搗き知らず』とも言われたそうです。更に『搗き知らず』を『着き知らず』と掛けて夜の船。冬には月を見る事の無い北の窓で『月知らず』です♪日の本独特の言葉遊びですね♪」

「詩的でいいね♪母上に教えたら喜ぶだろうな♪」

 

 褒められた葵は頬を赤らめ、更に言葉を続けた。

 

「牡丹餅には諺も多く、それだけ日の本では馴染みが深く、愛されている食べ物なのです。中でも私の好きな諺は『牡丹餅は米、辛抱は金』です♪」

 

「『牡丹餅の塩と女の口』と謂うのもあるぞ、松平元康♪」

 

「え?…………弾正少弼殿…………」

 

 いつの間にやら白百合が葵と聖刀の傍らに立っていた。

 白百合の顔は笑っていたが、それは爬虫類を連想させる物で、明らかに葵を敵と見なしている。

 

「わ、私の口が過ぎると申されますか?」

 

 白百合の言った諺は『牡丹餅の塩が過ぎたのと、女の口が過ぎたのは取り返しがつかない』と謂う物である。

 

「口数多く殿方に言い寄る女など無粋の極みよ。良き女ならば好いた殿方を雰囲気で酔わせる物。おお、数寄を解せぬ田舎者では仕方なしか♪」

「………………………」

 

 葵は口を閉ざして白百合を眼光鋭く見据える。

 心の中で『辛抱』の言葉を繰り返し、白百合の侮辱に耐え、必死に無表情を装おうと努力した。

 

「その様に下品な胸を放り出すのが良き女なのですかぁ?わたくしちっとも存じ上げませんでしたわぁ!何しろ田舎者でございますからぁ♪」

 

 横から悠季が割り込んで白百合を挑発する。

 主第一の悠季が葵を侮辱されて黙っていられる筈がない。

 

「ゆ、悠季!?さ、下がりなさい!」

「いいえ、葵さま!わたくしは堪忍袋の緒が切れましたわ!この年増に葵さまの素晴らしさを教えてやらねば気が済みません!」

 

 吠える悠季を白百合は舌なめずりをして嗤う。

 

「ほう♪未通女の半端者が我に説教をしようというのか♪面白い、囀って見せい♪」

「ええっ!とくと聞かせて差し上げますから、その耳を茶杓で掘じってよくお聞きなさいませっ!!」

 

「お、お静かになさって下さいっ!聖刀さまが菓子を吟味されているのですよっ!」

 

 更に割って入ったのは狸狐だ。

 

「ん?聖刀さまの侍女か。貴様の出る幕では無いわ。下がっておれ!」

「じ、侍女ではありません!末席なれど、私は聖刀さまの妻です!」

「何だと……………」

 

 今まで狸狐の事が目に入っていなかった白百合は、改めてその姿を頭の天辺から足の爪先まで眺めた。

 指先と膝が震えているのを見て白百合は再び嗤う。

 

「面白い♪ここはそなたの顔を立てて引いてやろうぞ♪」

 

 こうもあっさり白百合が引き下がるとは思っていなかったので、狸狐は呆気に取られた。

 

「今宵、改めて白黒着けようではないか♪」

「こ、今宵?」

「勿論、三河の二人も♪まあ、来たくなければ来なくても構わぬが、その時は我の勝ちとなるぞ♪」

 

 白百合の挑発に悠季が警戒しながら応える。

 

「な、何をさせるつもりなんです?」

「それは来てのお楽しみよ♪はぁーーーっはっはっはっは♪」

 

 白百合は一頻り笑った後、流し目を聖刀に贈ってから菓子を選んでいる熊の下へ向かった。

 黙って見ていた聖刀は狸狐の頭を優しく撫でて働きを労い、狸狐は聖刀の手の温かさに心も体も癒され目を細める。

 祉狼は正室と側室の四人に囲まれ御萩と母親の話をさせられていた。

 そして昴は鞠と和奏を抱きしめている。

 

「鞠ちゃん。和奏ちゃん。…………お願いだからあんな風にはならないでね………」

「何言ってんだ、バカ♪」

「何だかよく判らないけど、判ったの♪」

 

 そして菓子を選び終わった女性陣が入れ替わる。

 

「あら、御萩も有りますのね♪」

「お彼岸も近いですからね♪」

 

 梅が目敏く見つけて手に取った。

 

「ぼた餅………」

「嫌ですわ、詩乃さん♪秋の呼び名は御萩ですわよ♪」

「え、ええ…………そうですね……」

「ですけど、やはり練り切りも捨て難いですわ………」

 

 手に取った物を元に戻す。

 

「御萩…………」

「ああ、でもやっぱり御萩も良いですわ!」

 

 また手に取る。

 

「牡丹餅…………」

 

 

 

 

「余と双葉も久遠と結菜の様に、共に祉狼と初夜を迎えたいと考えておる♪」

 

 街から戻った一行が、二条館の一室で最初に会議の議題としたのは、一葉と双葉の初夜についてだった。

 議題が議題なので会議に出席しているのは当人の一葉と双葉、そして側仕えの幽、奥の管理を担当する結菜、四鶴、慶。

 久遠も正室として出席している。

 一葉の発言に結菜は当惑して幽に助力を求めた。

 

「私と久遠は礼法に拘らないから………幽、将軍家としては大丈夫なの?」

「正直に申しますと前代未聞ですな。元々ひとりの殿方に当代の公方さまと御妹君が嫁がれる事自体有り得ません。まあ、その公方さまが街のゴロツキを倒して銭を巻き上げる型破りな方ですから、皇族や公卿が相手ではないので礼法に拘らなくとも宜しいかと。何より、それがしはまだ馬に蹴られて死にたくはございませんからなあ♪」

 

 結菜、四鶴、慶は苦笑して頷き、次に双葉へ問い掛ける。

 

「双葉さまは一葉さまの提案をご承知なさいますか?」

 

 双葉は恥じらい伏し目がちながらも、背筋を伸ばして頷いた。

 

「はい♪この事はお姉さまとよく話し合って決めた事ですから♪」

 

 結菜はこのたおやかな姫君に保護欲をそそられ、一葉が可愛がる気持ちを理解した。

 

「では今宵の支度はその様に取り計らせて頂きます。久遠も異存は無いわよね?」

「構わん…………と言うか、我がここに居た意味が有ったのか?」

「後で報告聞いてヤキモキするよりマシでしょう。」

「べ、別に我はヤキモキなどせんぞ!」

 

 それでも口を尖らせているのだから説得力が無い。

 そんな久遠を好ましいと内心微笑む四鶴は、祉狼がそれだけ愛されているのだとまるで実の子か孫の様に嬉しく思った。

 そうなると今度は祉狼の事が心配になってくる。

 

「のう、結菜殿。祉狼さまにこれだけ嫁が増えて、お体の方は大丈夫なのじゃろうか?」

「それはわたくしも気になります。我が娘達のお相手をなされた時も、祉狼さまがお若いとはいえ、その………」

 

 慶も梅達の初夜の翌朝に自分の想像を遥かに超えた状況になっていて、その光景が今も頭から離れないのだ。

 

「やっぱり……その……無理をさせてるかしら………美濃で守りを任せている半羽…佐久間以外は全員祉狼しか男性を知らないから………」

「儂も亡き夫しか知らぬが、若い頃でも一晩に三度精を放つのが限界じゃった。それが慶から話を聞いて、祉狼さまの精剛ぶりに腰が抜けましたわ。」

「わたくしは先ず娘達の初夜の翌朝に閨の状態を見て驚きました。そして娘達から惚気話を聞かされて唖然としましたわ………普通は破瓜の痛みで一度が限界。わたくしなど慣れるまでにどれだけ掛かったか!」

「私も久遠も初めての時は痛くて一度が限界だったわよ。ねえ、久遠。」

「その様な事をペラペラ話すでないわっ!」

「別に女同士なんだから良いじゃない♪一葉さまと双葉さまの参考にもなるし♪」

「花も恥じらう乙女のそれがしもおるのですが、いやはや、ここにおりますと耳年増になってしまいますな♪」

「ほほう、幽は今の会話の意味がわかるのだな♪余は何の事やらチンプンカンプンであったぞ。乙女じゃからの♪」

 

 幽と一葉に対して久遠はジト目を向ける。

 

「よく言うわ。褥での礼法すら在ると先程の会話で白状しておいて、今の話の意味が判らぬ筈が無かろうが。」

「公方さまの戯言はさて置いて、見た事も無い物を書にて想像しながら知識を得たとして、どこまで役に立つ物やら。やはり経験者の皆様から教えを請わなければ。」

「結局は知りたいのではないか!」

「まあまあ、久遠、落ち着いて♪祉狼は特別だから、事前に知っておかないと大変な事になるでしょ。」

 

 こうして結菜を中心に未経験者への講義が始まった。

 

「ええと………先ずは祉狼の逸物なのだけど…」

「いきなりそれからかっ!」

「久遠、横槍を入れないでよ!大事な話なんだら!」

 

 結菜は一度咳払いをして、もう一度話し始める。

 

「祉狼の逸物は普通より大きい…………らしいわ。私も比較する物を知らないから何とも言えないけど、佐久間はそう言っていたわ。」

「結菜どの、儂と慶が比較しよう♪祉狼さまはどれ程の物をお持ちなのじゃ♪」

「そ、その………長さがこれくらいで……太さがこれくらい………」

 

 如何にもそこに在る様に、手で大きさを表現する。

 

「「な………なんとご立派な…………」」

 

 四鶴と慶は生唾を呑み込み、幽と一葉、双葉は息を呑んだ。

 特に処女の三人が書物で得ていた知識よりふた回りは大きいのだから驚くのも無理はない。

 

「だから破瓜の痛みはかなりの物よ。祉狼もそんな痛がる姿を見るのが辛くて、破瓜と同時に治療をする技をひよの時に咄嗟に使ったの。でもそれがまた厄介な代物で…………凄く気持ち良くなっちゃうのよ、あまりにも気持ち良すぎて何度も求めてしまいたくなるくらい………」

 

「成程、それで…………」

 

 慶は閨の光景の意味を漸く完全に理解した。

 

「一葉さま。双葉さま。破瓜の痛みを我慢するか、乱れた姿を初夜から祉狼に晒すか、二つにひとつです。その時までにお決めになっていてください。」

 

「う、うむ………」

「は、はい………」

 

 それから暫くは結菜の講義が続き、終わった後は早速一葉と双葉の初夜を迎える準備が始められた。

 段取りを決め、その段取りに沿って閨を整え、風呂を沸かし、食事の準備がされる。

 食事は双葉の強い要望で、双葉自身も包丁を握った。

 そして何より大事な事は……………祉狼の確保だった。

 祉狼の妻達には今夜の事は知らせてあるので祉狼を呼びに来る事は無いだろうが、祉狼自身が放っておけば街へ患者を探しに出掛けてしまうのが目に見えている。

 

「いいこと、祉狼。今夜は一葉さまと双葉さまがあなたのお嫁さんになるのよ。」

「判った!」

 

 結菜に全幅の信頼を寄せている祉狼は二つ返事で力強く頷いた。

 そんな祉狼が可愛くて、結菜は抱き締めたくなるが今は我慢する。

 己の欲望を制御出来ずに奥の管理などままならないのは、結菜が一番良く判っていた。

 

「それから、明日は小波と雫があなたのお嫁さんになるから、部屋から出ない様に♪」

「あ、ああ………判った。」

 

 祉狼は何故か結菜の笑顔の陰に蛇を見た気がした。

 しかし、それは一瞬だったので、気の所為かと気持ちを一葉と双葉の初夜に向ける。

 夕食を二人と一緒に摂りながら長久手での鬼子を人に戻した話を聴かせ、ひとりで風呂に入り身を清め、肌襦袢に着替えて閨で大人しく待つ。

 やがて襖の向こうに気配を感じると、一葉と双葉の声がした。

 

「祉狼………余と双葉じゃ。入るぞ。」

「し、失礼いたします………」

 

 音を立てず襖を開き、完璧な礼法の所作で室内に入る姉妹。

 着ている物はやはり肌襦袢である。

 双葉は顔を真っ赤にしてまともに祉狼が見れないでいた。

 昼間に結菜から聞いた話が頭に蘇り、気を抜けば祉狼の股間あたりに目が行ってしまい、それを恥じてまた顔を伏せる。

 隣の一葉には双葉が単に恥じらっている様に見えていたので、自分は姉として双葉を励ますべきか、それとも乙女として双葉の様に恥じらうべきなのか、数瞬迷ったが結局成り行きに任せる事にした。

 

「一葉。双葉。ありがとう。こんな俺の奥さんになってくれて。」

 

 二人が頭を下げる前に祉狼が頭を下げた。

 

「こ、これ、祉狼!先ずは嫁である余と双葉が挨拶をする物だぞ!」

「いや、どうしても一葉と双葉に俺の気持ちを伝えたい!俺は未熟者だ!多くの人に支えられて生きている!誰かの役に立っていると自覚していないと不安になる!こんな情けない男だが、俺と一緒に生きてくれ!」

 

 自分の惚れた相手に告白されて嬉しくない筈がない。

 姉妹は礼法など無視して祉狼に駆け寄り抱き着いた。

 

「何を言うておる!祉狼は余の良人じゃ!一生支えてやるぞ♪」

「祉狼さま!お慕いしております!絶対に、絶対に離れたり致しません!」

 

 二人は祉狼を布団に押し倒して交互に口付けを交わした。

 

「ふぅ………それからもうひとつ二人にお礼を言わないとな♪前の別れ際に貰った…」

 

 双葉の身体が硬直した。

 それは一葉が無断で持ち出し渡してしまった下着の事に違いないからだ。

 

「下着なんだが…」

 

 予想通り、しかもストレートに言われて双葉は顔から火が出る思いだった。

 

「あれはお守りとしてくれた物だったんだな。気が付かなくて済まない。長久手で鬼子を治療できたのもこのお守りのお陰だろうな♪」

「そ、そうであろう?何しろ公方とその妹の下履きじゃからの♪霊験(あらた)かであろう♪」

「ふぇぇ………」

「一葉にあげたのが手巾だったから、最初は手巾だと思ってしまった。小谷に向かう途中で広げてみて初めて下着だと判った。」

「ひ、広げて………」

「誰にも見せてないから安心してくれ♪」

「ほっ…」

「余は見られても構わぬぞ♪」

「お姉さまっ!」

「ただ、最初は意図が判らなくてな。俺が知っているのは子宝祈願の奉納品として下着を桂花叔母さんに贈るくらいだ。」

 

 一葉と双葉には子宝祈願で祉狼の叔母に下着を贈る事の方が理解出来なかった。

 

「それで聖刀兄さんに相談したら…」

 

 双葉は見られはしなくとも、義兄となった聖刀に知られていた事にショックを受ける。

 

「聖刀兄さんも奥さん達からお守りとして下着を貰う事がよく有るそうなんだ。何でもこれは一刀伯父さん達が俺の生まれる前に命を賭けた戦いに赴く時に、天和叔母さんがお守りに渡したのが起源らしい。」

 

 それは数え役満シスターズが揃って懐妊した時にファンの怒りを鎮める為に行われた『北郷一刀を探せ』の最中に天和が一刀たちに手渡した一件の事だった。

 一刀たちは奮起して見事に怒りに燃えるファンから逃げ切ったが、聖刀と祉狼は女性の下着で興奮したりしないので、本当に『お守り』としての意味しか無い。

 

「日の本にも似た風習が有る事に、聖刀兄さんは興味を引かれていたな♪」

 

 一葉は今更単なる思い付きだと言い出せず、誤魔化す為に話題を変えた。

 

「お、お守りと言えば、双葉が祉狼に渡す為に作っておったな♪持って来ているのであろう?」

「は、はい!こ、こちらです!」

 

 双葉が袂から巾着袋を取り出し開いて見せる。

 その中にはパッと見ただけでは何個有るのか判らない数のお守り袋が入っていた。

 

「沢山有るな………」

「れ、練習で作った物も有りますので………それに願い事を刺繍したらあれもこれもとつい………」

 

 祉狼が幾つか取り出して見てみると『無病息災』『戦勝祈願』『家内安全』と文字が刺繍してあった。

 

「ありがとう♪大事にするよ♪」

「は、はい♪」

「こんなに作っておったのか………ん?『子宝成就』………」

 

 一葉も気になって取り出したお守り袋にはそう刺繍されていた。

 

「えっ!?なんで!?それは私の……………」

 

 間違えて入れてしまったと気が付いたが、今更見なかった事にして貰える筈も無く、双葉は顔を両手で覆って背中を向けてしまう。

 

「す、すまぬ双葉…………願いを成就する為にも双葉が先に…」

「い、いえ!それは筋が通りません!どうか先にお姉さまが祉狼さまのお情けを頂いて下さいっ!」

 

 双葉は慌てて振り返って一葉の手を握った。

 優しい姉がそう言い出す可能性も有ると考えていたので、絶対に一葉が先に祉狼と結ばれる様にすると心に決めていた。

 

「判った。でも、双葉も見ているだけじゃなくていいんだぞ♪」

 

「え?」

「ひゃ!」

 

 祉狼は両腕に一葉と双葉を抱いて二人に頬擦りをする。

 

「三人で一緒に気持ち良くなればいい♪」

「うむ♪そうじゃな♪」

「はい♪祉狼さま♪」

 

 

…………………………………

 

…………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

 名匠の手による精緻な意匠を施された明かり欄間から、秋の朝日が差し込んで室内を照らす。

 祉狼は朝日以外に視線も感じて目を覚ました。

 それはひとつの布団の中で寝ていた一葉と双葉のものだった。

 まだ目を閉じたままだが、視線から感じる温かさで二人だと判る。

 そもそも自分の身体に触れている柔らかい肌の温もりが一葉と双葉だと語っていた。

 ゆっくりと瞼を開けば自分を見つめる二人の笑顔が迎えてくれる。

 

「起きたか、主様♪」

「おはようございます、旦那さま♪」

 

「ん?その呼び方は………」

 

(一葉の呼び方は美羽叔母さんを思い出すな……口調も結構似てるし……)

 

 プロポーションも結構似ているのだが、祉狼はその辺りは無頓着だ。

 

「妻となったからにはそれらしい呼び方がしたくての♪」

「あの………お嫌ですか?」

「いや、二人にそう呼ばれるのに相応しい男にならないと駄目だと思ってね♪」

 

「主様充分に相応しい男であるぞ♪」

「私もそう思います、旦那さま♪」

 

 そう言って微笑む二人の肌と髪が朝日を浴びて艶々と輝いていた。

 

 

 対する祉狼の顔には疲れの色が見えていた。

 

 

 

 

 時間は戻り『ししや』でお菓子を食べ終わった後、和奏達はフットサルをしていた二条館の庭に再び集まっていた。

 

「妻としての順位を決めるなら、やっぱりやる事はひとつだろっ!!」

 

 和奏が昴と昴の嫁全員を前にて、高らかに宣言した。

 

「え〜?そんな身も蓋もない………」

「それって和奏がしたいだけなんじゃないの〜?」

 

 雛と犬子からツッコミが入ったが、今の和奏は自信満々だ。

 

「いいか!?妻の役目とは何だ!?旦那が一番喜ぶ事をする事だろうがっ!じゃあ昴が一番喜ぶ事とは何だ!?」

「そんなの今更なの〜♪」

「綾那にだってわかるのです♪」

 

 鞠と綾那の賛同を受けて気を良くした和奏は、昴を指さし問い掛ける。

 

「昴っ!誰が一番お前を気持ちよくできるかの勝負っ!了承するかっ!!」

 

 昴はその場から天高く跳び上がり、和奏の足下に土下座で着地した。

 

「是非お願いしますっ!!」

 

「な♪こういうヤツなんだから♪」

「しょうがないな〜、昴ちゃんは………」

「和奏、いつになく冴えてるけど、どうしたの?」

「ふっふっふ♪今のボクは甘い物を食べて気力が充実してるんだ♪」

 

 脳に糖分が補給されている為なのだが、和奏の場合はプラセボ効果も付随している様である。

 

「おヌウちゃんの喜ぶ事なら雀もガンバルよーー♪ねえ♪お姉ちゃん♪…………あれ?何でお姉ちゃん真っ赤な顔してうつむいてるの?」

「(ブンブンブンッ!)」

「え?お姉ちゃんは正室じゃなくて愛妾でいいから参加しない?そんな、お姉ちゃん!おヌウちゃんが喜ぶ事をしてあげるだけでしょ?」

「(…………)」

「それが何だか分かってるのかって?一緒にごはん作ったり、お洗濯したりじゃダメなの?」

「(……♪)」

「何でお姉ちゃん頭なでてくれるの?ま、いっか♪わーーーい♪ほめられたあ♪」

 

 無邪気な雀の姿を雛と犬子が温かな目で見守り、振り返って和奏をジト目で眺めた。

 

「な、なんだよ!その目はっ!!」

「べっつにぃ〜♪」

「和奏ってばすっかり汚れちゃって………」

「犬子!お前さっき冴えてるって言ったばっかりじゃないかっ!」

 

 暴れ出しそうになる和奏を、夢が宥める。

 

「まあまあ、和奏どの。夢としてもアレで決着を着けられるのは困るのです。何しろ期限の前に昴さまとアレすると母上が昴さまのアレをちょん切ってしまうのです。まあ、その約束は姉上を説得すれば何とかなるでしょうが、夢を含めまだアレを未経験の者が大半で、この勝負はあまりに不平等だと思うのです。」

 

 夢の言葉に熊と烏、そして八咫烏隊の幼女五十人が頷いた。

 

「おいワレ!ええこと言うやんけ♪正室いうんはアレで決めるモンちゃうで!もちろんどつき合うんもなしや!おんどれら話し合いで決めたらんかい!」

 

 喧嘩腰なんだか弱腰なんだか良く判らない発言をする熊に、和奏が肩を抱いて語り掛ける。

 

「あのな、熊………話し合いで納得しないのがあそこにひとり居るんだよ。お前、あいつを説得できんのか?」

 

 和奏が指差したのは胡座を掻き人間無骨を抱えて不機嫌な顔をしている小夜叉だった。

 

「ああっ!?やんのか、こら!」

 

 小夜叉のひと睨みで、熊は昨日の戦いで小夜叉が鬼をグッチョングッチョンにしていたのを思い出し、血の気が引いてガタガタ震えだす。

 

「ヮ、ワイは……ワイは……べつにこわないで………」

 

 小夜叉が口の端を吊り上げてニィッと嗤った。

 

「ひぃっ!」

ジョバーーーーーーーーー………………

 

 熊は恐怖に耐えきれず失禁してしまった。

 

「ああっ!もったいないっ!」

「昴ちゃん………反応がおかしいよ………」

 

 雛にツッコミを入れられて表面上は平静を装う昴は、熊に寄り添い慰める。

 

「熊ちゃん、大丈夫、怖くないわよ♪服も濡れちゃって気持ち悪いわよね。直ぐに私がナメナメして…」

ボカッ!!

 

 雛に殴られた。

 

「ねえ、和奏ちん。今回は取り敢えず暫定って事で〜、事ある毎に順位を決め直すとかした方が平等じゃないかなぁ〜?」

「う〜ん、それもそうか…………夢、熊、烏、雀!それなら文句ないだろ?」

「ですな。」

「………グスッ………うん………」

「(コクコク!)」

「なんだかよく分かんないけど、お姉ちゃんと八咫烏隊のみんながそれでいいって言うから、雀もそれでいいよーー♪」

 

「小夜叉もこれでいいだろ?」

 

「しゃあねえなぁ!付き合ってやんよ!んじゃ、早速おっぱじめようぜ♪」

 

 小夜叉がいきなり上着を脱いだので、夢、烏と八咫烏隊の幼女達が驚き動揺した。

 

「小夜叉どの!?ま、まさか、こんな庭の真ん中で………」

「ばっか、先にそのションベン野郎を風呂に入れねえとダメだろうが!」

「ほえ?……………風呂にいれて……くれるんけ?……………」

 

 泣きべそを掻いていた熊が呆然と小夜叉を眺める。

 

「まったく、まるでオレんとこのチビどもみてぇで、ほっとけねぇんだよっ!」

 

 上着を肩に担ぐ小夜叉が熊にはとても眩しく、頼れる姉の様に見えた。

 

「姐さん!姐さんって呼んでもええですかっ!?」

「ああっ!?……………好きにしろっ!おいっ!そっちのガキ共っ!風呂の用意するから井戸から水汲んで来いっ!」

 

 小夜叉に命令されて八咫烏隊の幼女達が慌てて走り出した。

 雀は隊の仲間を勝手に使われ憤慨する。

 

「八咫烏隊はお前の部下じゃないんだぞーーーっ!!」

 

「ああっ!?文句あんのかぁ、ごらぁ!」

 

「………………って、お姉ちゃんが…………」

 

 小夜叉の眼光が剣呑な物に変わる。

 

「ごみんにゃしゃい………………」

 

「小夜叉、悪ぃけどこっちは任せる。ボク達は夢の事で不干の所に行ってくる。」

「おう!戻んのが遅くても待たねぇぞ。」

「分かってるって。この人数だ。時間が無いからな♪んじゃ、よろしく♪」

 

 和奏は雛、犬子、鞠、綾那と一緒に夢を連れて館の中に入って行く。

 

「ん?桃子と小百合は行かねぇのか?」

「こちらの指揮が小夜叉さまひとりじゃ大変でしょう♪」

「それは建前で、昴さまと少しでも早くお風呂に入りたいだけなんですけどね~♪」

「けっ、ちゃっかりしてやがんな♪まあ、いいや♪そんじゃ、熊公の服を脱がすから手伝え。」

 

「ひょえ?」

 

 いきなり服を脱がされると言われた熊は耳を疑った。

 

「そうですね。おしっこで濡れた服をお風呂が沸くまで着せておく訳にも行きませんし。」

「昴さまの楽しみを取っちゃうんですか?」

「こいつにさせたら、そのまま食っちまうだろうが。」

 

 熊にくっついている昴の頬を、小夜叉は人間無骨の石突でグリグリする。

 

「小夜叉ちゃんが私の事を理解してくれていて嬉しい様な悲しい様な…………」

「いいからオメェは離れてろっ!」

 

 名残惜しそうに昴が熊から離れ充分に距離が取れたのを確認すると、小夜叉がニヤリと笑った。

 

「それっ!ひん剥けっ♪」

「「おおーーーっ♪」」

 

「ひょえええぇぇえええええええええええええええっ!!」

 

 

 

 

 夢を連れた和奏、雛、犬子、鞠、綾那は、夢の姉の不干の居る二条館南門へとやって来た。

 不干は他のゴットヴェイドー隊の者と一緒に、傷付いた門や城壁の普請について話し合っている最中である。

 

「お♪居た居た♪おぉーーーーい!不干ぇーーー♪」

 

 和奏の声に不干だけでは無く、詩乃、ひよ子、転子、エーリカ、歌夜、梅、松、竹、雫が振り返る。

 

「和奏?それに夢…………」

 

 不干は三若と鞠、綾那が夢を連れて来た事で何の話か想像が着いた。

 

「不干!夢が昴の嫁になるのを許可してくれ!」

「はぁ…………単刀直入ですね、和奏。潔いその態度は立派ですが、許可できません!」

 

 きっぱりと言い切る不干に和奏は少しも動じず頭を下げる。

 

「これは佐久間家の問題だってのは分かってる!だけど、夢の為にそこを曲げてやってくれっ!」

「いいえ!母半羽が昴さんと交わした約束のひと月まで、後僅か四半月ではないですか!何故待てないのですっ!」

「それは観音寺城に向かう前の話だろ!半羽さまだってこの二条館に着くのがひと月くらい掛かるって思ったから祉狼の提案に乗った筈だ!今の状況を考えれば四半月後は若狭に向かう途中か、下手すりゃ若狭で戦の最中だぞっ!その戦を生き残れるか分からないって思ったから、半羽さまはぎりぎりの所で許したんだろっ!」

「うっ………それは………」

 

 不干はそこまで考えていなかったので言葉に詰まった。

 そして、母ならばそこまで考えていてもおかしくないと思い至ったのだ。

 不干は大きく深呼吸をしてから口を開く。

 

「判りました。夢の事は姉で有る私が責任を持って許可します。」

「姉上っ!♪」

 

 不干は優しい瞳で妹に頷き、和奏へ頭を下げる。

 

「母上には私から手紙を出しておきますから………和奏、夢の事を宜しくお願いします。」

「ああ♪任せてくれ♪」

「夢、あなたも『退きの佐久間』の娘です。立派に務めを果たすのですよ。」

「はいなのです!姉上♪」

 

 三人の遣り取りを見守っていた者達は、全員が心を打たれ己も武士としての覚悟を新たにした。

 

「はぁ………私もまだ祉狼さまに二度しかして頂いていないのに………」

「そう言うなよ。ボクだって半月以上おあずけなんだぞ。」

 

 感動の場面から一転、不干と和奏から女の本音が飛び出す。

 それを切掛けに全員の興味がそちらへ向いた。

 

「ねえ、ひよちゃん♪祉狼さまのおちんちんがこれくらいあるって本当?」

「ふぇ!?犬子ちゃん、それ誰から聞いたの!?」

「美濃で壬月さまと麦穂さまと半羽のおばちゃんが話してるの聞いちゃった♪ねぇ、雛ちゃん♪」

「うんうん。雛達って昴ちゃんのしか知らないから衝撃だったよねぇ~♪初めての時にそんなの入れられて大丈夫だったの?」

「スゴく痛かったけど、お頭が氣で治療をしてくれたから直ぐに痛みは引いたよ♪ねぇ、ころちゃん♪」

「えっ!?ちょっと、私に振るのっ!?…………う、うん………でも、その後が………」

「あら?ころさん、あれこそがハニーの愛ではありませんの♪ねぇ、松お姉さま♪竹お姉さま♪」

「そうですわね♪天にも登る心地とは正にあの事ですわ♪」

「わたくしはころさんの気持ちも判りますわよ。正気に戻ってみると………その、やっぱり恥ずかしくなりますもの♪」

「どういう事なのです、歌夜?」

「え?………そ、その…祉狼さまに氣で………アソコを治療して頂くと…か、かなり敏感に…」

「治療……………ああっ♪綾那はちょっぴりだけ血が出ましたけど、全然痛く無かったですよっ♪」

「あ………やっぱり綾那でも破瓜の時は血が出たのね………」

「?………どういう意味ですか、歌夜?」

「エーリカさん!?い、いえ、この子は昔からかすり傷ひとつ負わない子だったんです。」

「それは…………きっと神のご加護ですね♪」

「その時綾那は呟いたですよ。『本多忠勝も傷を負うとは女だな』と♪」

「綾那…………意味が判らないわよ………」

「綾那、あの時はそんな事言ってないの♪」

「鞠さま!?しーっ!しーっ!なのです!」

「綾那ったら、変な見栄を張って…………そう言えば、エーリカさんは祉狼さまの治療を受けられずに破瓜を終えられたとか………」

「だ、誰からそんな話をっ!?」

「詩乃さんから…………ですけど………」

「詩乃!」

「おや、バレてしまいましたか。ですが、祉狼さまと初夜を迎える者に例えとして伝えるには都合が良いので。雫はどうします?」

「ふぇっ!?わ、私ですかっ!?」

「結菜さまからの、明日初夜を行う様にとのお達しは伝えてありますよ。」

「そ、それは忘れていません!と言うか、忘れる筈ありません!ですけど………その………」

「雫さん。別に無理をする必要は無いのですよ。私の場合は前世の罪に対する罰だと自ら選んだだけなのですから。」

「前世の罪に対する罰ですか?」

「その割には祉狼さまの寝込みを襲った唯一の方ですけど。」

「「「愛ですわっ♪エーリカさんの溢れる想いが、ハニーに罰を与えられたいと願ったのですわっ♪」」」

「そ、その通りです。それ故に私はメィストリァとお呼びしているのです。」

「あの、『めぃすとりあ』とはどういった意味なのでしょう?」

「日の本の言葉で(あるじ)という意味ですよ♪」

「ねえ、詩乃ちゃん。」

「どうしました、ひよ。」

「小波ちゃんも明日初夜をって結菜さまに言われたけど、ちゃんと来てくれるかなぁ?」

「大丈夫ですよ♪小波さんには『命令』として伝えてありますから♪」

「それって、お頭が嫌がるよ?」

「それも大丈夫でしょう。雹子どののお相手をするよりは気が楽な筈です。」

「なあ、詩乃。祉狼のヤツ大丈夫なのか?」

「大丈夫とはどういう意味ですか、和奏さん?」

「いや、だってあの雹子さんだろ?戦場みたいに………」

「ああ、ご存知無いのですね。雹子どのは戦場とは正反対に祉狼さまから激しく攻められるのがお好みだそうですよ。」

「………………昴の女版かよ………」

「そう言えば昴ちゃんって、お頭の妹様によく蹴られてたって嬉しそうに話してたっけ…………」

「本当ですか、ひよ!?」

「う、うん、不干ちゃん………」

「夢…………あなたが変態になってしまわないか心配になって来ました…………」

 

「なんかそれだとボクらが変態みたいじゃないかっ!!」

 

 女同士の赤裸々な情報交換を終えて和奏達は風呂場へと移動した。

 その頃、風呂場の脱衣場では昴、小夜叉、桃子、小百合、熊が湯の沸くのを待っている。

 

「ぶえっくしょいっ!ちきしょうめっ!!」

 

 江戸っ子の様なクシャミをした熊は全裸の上に小夜叉の上着を羽織って身体を隠していた。

 

「ションベンまみれの服をいつまでも着てるからだ。だからさっさと脱げって言っただろ。」

「で、でも姐さん………庭で裸んぼになるんは流石に堪忍したって…………ぶえっくしょいっ!」

「熊ちゃん!私が抱いて温めてあげるわよっ♪」

「だから昴さま!まだお預けですってば!!」

「お湯が沸くまでの辛抱ですっ!!」

 

 烏と雀が風呂焚きの指揮をしてくれているので、先に始めてしまうのは申し訳ないと小百合と桃子が待たせているのだ。

 小夜叉は熊に上着を貸し、更にニーソや帯も外してサラシと黒のパンツだけの姿になっており、桃子と小百合もブラとパンツだけの姿になっている。

 昴はこれも焦らしプレイになっているので素直に言う事を聞いていた。

 

「おっ待たせぇーーー♪お風呂わいたよーーー♪」

「(グッ!)」

 

 風呂場から雀は両手を広げて、烏はサムズアップで出て来た。

 二人共パンツ一枚の姿で、肌にはうっすらと汗を掻いている。

 

「よぅしっ!戦湯準備っ♪」

「「イエス!マムッ!!」」

 

 小夜叉、桃子、小百合は元気よく下着を脱ぎ捨てた。

 雀も一緒に燥いでパンツを取り去る。

 

「ほら♪お姉ちゃん、お風呂に入るんだから脱がないと♪」

 

 烏は昴の視線を気にして、背中を向けてオズオズとパンツを下ろす。

 

「「さあ♪熊さまも♪」」

「ひょえっ!?」

 

 桃子と小百合が熊の羽織っている上着を剥ぎ取ると、六人の幼女の全裸が昴の目の前に並んだ。

 

「ふぉおぉおぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 瞬間、昴の辛抱が限界を越えた!

 

「クロス・アウッ!!」

 

 昴は一瞬で脱衣し、幼女達を風呂場へと連れ込んだ!

 

 十分後には和奏達も風呂場へ到着し、急いで戦湯に参加する。

 その後は八咫烏隊も加わり、62対1という大乱戦が繰り広げられた。

 この日、昴は五十四人の破瓜と七十回を越える射精を行い、前人未踏の記録を樹立した。

 幼女力エネルギーを補給し続ける事で、睾丸が超高速で精子を造り、連続の射精を可能にしたのだ。

 そして、この時に編み出された技は、後に孟家御家流となり、『孟家伝家の宝刀は光の剣なり』と謳われたのだった。

 

 

 

 

 夜の帳が降りる頃。

 桐琴は二条館の庭から屋敷の裏をふらりと歩いていた。

 

「ん?この声は…………ふっ♪クソガキどもが盛っておるか………」

 

 風呂場から小夜叉達の楽しそうな声が聞こえて来て、つい笑いが込み上げる。

 ふと空を見上げれば星が瞬き始めていた。

 

「クソガキに婿も出来たし………ワシもそろそろか………」

 

 再び歩き始め、屋敷の裏口から中に入る。

 目的地が決まっているのか歩みに迷いはなく、大胆な足取りで廊下を進んでいった。

 

「ふむ、ここか。」

 

 目的の部屋の前に立つと、おもむろに襖を開く。

 

「聖刀!ワシだ!邪魔するぞっ!」

 

 桐琴が訪れたのは聖刀に用意された部屋で、開いた襖の向こうには聖刀と狸狐が座って桐琴に振り向いていた。

 しかし、部屋の中に居たのは聖刀と狸狐だけではなく、葵と悠季、そして白百合も一緒だった。

 

「どうぞ、桐琴さん♪」

「おう♪断られても居座ってやるつもりよ♪」

 

「森三左衛門殿、今は葵さまが聖刀さまとお話をされていらっしゃる最中ですぞ。遠慮なさってはいかがですかな。」

 

 葵命の悠季はたとえ桐琴であってもその姿勢を変えない所は忠臣の鑑と言えるだろう。

 

「がっはっはっは♪松平の腰巾着がぬかしおるわ♪」

 

 一頻り笑った後、桐琴は悠季を鋭い眼光で睨んだ。

 

「主人は聖刀でテメェじゃねぇだろ!クソがっ!」

 

「なっ………クソぉ?」

 

 悠季の反応が面白くて、白百合がここぞとばかりに笑い出す。

 

「くっくっくっく♪三左殿の言われる通りよ♪主人が招いた客人を追い返そうなど無粋の極み♪昼も言ったが、東海の田舎者とはいえ茶の湯の作法くらい覚えておいた方が良いぞ♪」

 

 悠季は白百合の揶揄で桐琴が茶の湯の席に例えていると漸く理解した。

 

「そ、それはそれは、この本多悠季正信、不勉強でございました。若輩者ゆえ今後もご指導の程、宜しくお願い致しますわぁ♪おほほほほほほ♪」

 

 聖刀の後ろに控えている狸狐はもう生きた心地がしなかった。

 葵と悠季と白百合が来るのは昼の『ししや』で決まっていたので、色々と詩乃から秘策を伝授してもらったが、ここに桐琴が現れるなど完全に予想外で、何をしに来たのかまるで想像がつかない。

 葵、悠季、白百合が相手ならば、最悪聖刀の手を引いてゴットヴェイドー隊の部屋か結菜の部屋に逃げ込む策も授けられていたが、桐琴が相手では逃げる素振りを見せただけで殺されそうだ。

 

「三左殿、私と悠季は今から弾正少弼殿と白黒着けるところです。三左殿のご用事に差し障りが有ってはと悠季が気を回したのですが、気が昂ぶっていますので失礼な言い方になりました。どうかご容赦願えませんでしょうか。」

 

 頭を下げる葵を軽く眺めて直ぐに視線を外す。

 葵が何かを企んでいる事は長久手で出会った時に見抜いていた。

 久遠に仇なすのでなければ今は泳がせておけば良いと、わざと気の無い素振りを見せて聖刀の前にドカリと胡座を掻く。

 

「聖刀、お前の子種を貰い受けに来た。」

「「「「ぶふっ!」」」」

 

 単刀直入過ぎる発言に狸狐、葵、悠季、白百合が咽せた。

 

「ええと…………僕は桐琴さんにそう言って貰える程の事をしてたっけ?」

「そうじゃな………口説き文句のひとつも言われてはおらんが、初めて出会った時からお前の事は認めておったぞ♪」

「はは………それはありがとうございます♪」

 

「お、お待ち下さい!桐琴様!昨夜、久遠さまが『聖刀さまに懸想する者は私の様に日の本を捨てて天の国まで往って添い遂げる覚悟をせよ』と仰ったではありませんか!」

 

 狸狐が桐琴を思い留まらせ様と咄嗟に割って入った。

 桐琴は落ち着いた表情で狸狐を見る。

 

「だからよ♪聖刀が天の国に還るとすれば、ザビエルとやらをぶっ殺してからじゃろう?ザビエルが居なくなれば日の本の鬼もやがては全て駆逐される。鬼との戦いを知ってしまった人修羅には人間相手ではもう物足りないのさ♪天の国ならば武神がおるそうじゃから、鬼の居なくなった日の本よりも楽しく余生を過ごせるじゃろ♪」

 

 桐琴の言葉に狸狐は目眩がした。

 

(こ、この人は………鬼の次は神に喧嘩を売ろうと言うのか…………)

 

「し、しかし!森家はどうなさいます!それに蘭丸殿、坊丸殿、先日育てると宣言された力丸殿を置いて行かれるのですかっ!?」

「森一家はクソガキが跡を継ぎゃいいだろ。婿も取ったしな♪蘭と坊はザビエルをぶっ殺すまでに何年掛かるかわからんからのぉ。その時本人に決めさせれば良いだろ。その時には蘭も坊も昴に食われとるかも知れんしな♪力丸はワシが育てると宣言したからには絶対に連れて行くぞ。おお、そうだ。聖刀に子種を貰うのは力丸に乳を飲ませる為でもあったわ♪がっはっはっはっは♪」

「いや………お乳が出る頃には力丸殿はもうお乳を飲まなくなっていると思いますが…………」

 

 狸狐のツッコミは無視して、桐琴は葵、悠季、白百合に振り向いた。

 

「さて、これでお前らの白黒着ける勝負とやらが決着しやすくなっただろう♪それとも、ワシのひとり勝ちかあ?」

 

「あいや待たれよ、三左殿。その覚悟であれば、我も既に出来ておる。」

「ほう、弾正少弼。では、三好の姫はどうするつもりだ?」

「そなたと同じよ。昴殿のお嫁となられ、やがては我の手も必要と無くなるであろう。」

「ならば数寄はどうじゃ?天の国には数寄が有るのか?」

「そんな物、無ければ我が天の国に広めてやるわ♪それに………」

 

 白百合は一度目を伏せてから、柔和な顔で桐琴を見る。

 

「三左殿には女として既に負けを認めておる。我は三好の主様との子を儲ける事が出来なんだ。」

 

 桐琴は黙って頷き、次に葵と悠季を見た。

 桐琴の眼力を葵は正面から受け止め、毅然とした態度で口を開く。

 

「桐琴殿は私が日の本の未来………五年先、十年先を見ているとお思いでしょう。確かについ最近まではその通りでした。」

「葵さまっ!?」

「よいのです、悠季。私は今宵、聖刀さまに全てをお話しする心構えで来たのですから。」

 

 葵は聖刀に向き直り、一度深呼吸をしてから話し始めた。

 

「私は幼い頃、織田家に人質として連れて来られ尾張で育ちました。そして、織田家と今川家の人質交換で今度は駿府へ。尾張では久遠姉さまと過ごし、駿府では鞠さまと共に過ごしました。久遠姉さま、鞠さまと過ごした日々は私の大切な思い出です。しかし、義元公は久遠姉さまが尾張の当主となったのを受け今こそ好機と尾張に攻め込む決意をされ、松平家当主なった私は戦国の習いと久遠姉さまに刃を向けました。ですけど…………」

 

 葵の言葉が途切れた。

 いや、葵は嗚咽を堪えて涙を流していた。

 

「幼かった私を常に守って下さった久遠姉さまと戦いたいなどと思える訳ないじゃないですかっ!!」

 

 聖刀は葵のこれほど感情が込められた声を聞いたのは始めてだった。

 

「戦など大っ嫌いですっ!戦など無ければ私はお父さまとお母さまと暮らせた筈なのにっ!久遠姉さまとも!鞠さまとも!戦など無くとも出会う事は出来るじゃないっ!」

 

 それは正に魂の叫びだった。

 気性の荒い三河武士を束ねる当主として、本来ならば決して口に出来ない想い。

 

「私は戦を呪い!時代を呪い!運命を呪いました!…………………ですけど……呪った所で何かが変わる筈も無く、私はある考えに到達しました…………」

 

 葵は狂気の孕んだ目で天井を見上げる。

 

「武士が居るから戦が無くならない!ならば日の本を統一して武士の必要が無い国にしてしまえば良い!」

 

 大声で言い放つと憑き物が落ちた様に冷静ないつもの葵に戻った。

 

「そんな考えに取り憑かれたまま出陣した田楽狭間で………聖刀さま、祉狼さま、昴さんが降臨されたのです。義元公が討たれ、その直後に天人衆が降臨される。これは私の願いが天に通じたと思いました。歌夜と綾那がその場に居た事もそう信じさせました。田楽狭間から退却した私は今川家の混乱に乗じて独立を果たし、天人衆の情報を集め、久遠姉さまの政を研究し、どの様に日の本を戦の無い地にするか悠季と共に毎日話し合いました。そして、出た結論は…………」

 

 葵は涙で腫れた顔で聖刀を見る。

 

「聖刀さま…………この日の本の政が歪んで居る事にお気付きですか?」

「あ〜、うん。禁裏と幕府という行政機関が二つ存在する事だよね。しかも現在はどちらも実質的な権力が無い。」

「はい。大陸であれば、国が滅びて新たな支配者が誕生するのでしょう。しかし、今の日の本では大名小名の殆どが帝の血を引く者であると称しています。」

「え?それじゃあ日の本は全土で親戚同士の戦をしてるの?」

「建前上は………私は源氏の流れを汲む家柄で、三左殿も源氏の家柄。悠季は藤原氏で弾正少弼殿も確か藤原氏でありましたね。源氏も藤原氏も皇族が臣籍降下で与えられる姓ですが、その数が余りに多い上に養子に入って家柄を手に入れるなども有りますので、どこまで本当に血が繋がっているのか、はたまた辿ることが出来ないだけで本当は皇族と血の繋がりが有るかも知れないのが今の日の本の大名小名です。主家に取って代わるよりも傀儡政治を行って実権を握る方が確実だという考えが何百年も続き、その結果が今の戦国乱世を生んだのです。」

 

 葵は聖刀が自分の話を理解していると目を見て確認する。

 

「この歪な政治形態を作り替え、絶対的な支配者が現れない限り戦の無い国、武士の居ない国など作れません。過去にもこの考えに至った先人は居たでしょうが、かの足利尊氏公ですら幕府を開くのが限界でした。ですがそれを実現出来る方を私は幼い頃から存じ上げています。」

 

「それが、久遠ちゃん………」

 

「はい。久遠姉さまが周りから『うつけ』と呼ばれた行動は全て計算された物でした。内部の敵を洗い出し、油断させ、殲滅する。その中には壬月どのもいらっしゃいましたが…………この話は三左殿の方がお詳しいですから省きましょう。ともかく、久遠姉さまはより良い国を作る為に争いの原因となる物を根底から覆そうとなさる方でした。」

 

 聖刀は葵の語った話を頭の中で整理した。

 

「そうか………久遠ちゃんの言っていたみんなが笑って暮らせる世って、葵ちゃんの事が有ったからなんだね。」

「久遠姉さまからその言葉をお聞きになったのですか♪」

「初めて久遠ちゃんと会ったその日に祉狼が、何で天下布武を目指すのか問い掛けてね♪久遠ちゃんは口が滑ったって顔をしてたけど♪」

「その言葉は私が尾張を離れる日に久遠姉さまが仰られた言葉です♪私が戦のない世を目指すのもその言葉が有るからなのです♪」

「成程、僕の国の話を聞きに来ていたのも、魏、呉、蜀がどうやって争わずに戦乱後の統治をしているか、参考にしたかったからなんだね♪」

 

 聖刀の言葉に葵の顔から笑顔が消えた。

 

「それは…………目的のひとつですが、全てではありません。私は…………聖刀さまに日の本の新たな帝となって頂く事も考えておりました!」

 

 黙って聞いていた白百合と桐琴が、流石にこの話を聞いて驚いた。

 それはつい今しがた葵が語った通り、日の本全てを敵に回す事と同義であり、争いを無くすどころか終わりのない戦乱へと突き進む選択だからだ。

 

「…………過去形で言ったって事は、今は違うんだ…………鬼が出たから?」

「はい。久遠姉さまからこの度の上洛の目的を書状で頂いた時は目を疑いました。三河には鬼が現れてはいませんでしたから、当初は鬼退治と同時進行で計画を進めるつもりでいました。しかし、歌夜と綾那から鬼と戦った時の報告を聞き、先ずは穢らわしい鬼を日の本から消し去らねば武士が不要な世が決して来ないと悟りました。」

「戦力が必要なのに歌夜ちゃんと綾那ちゃんを三河勢に戻さないのは………」

「やはり聖刀さまは、あの二人は私が聖刀さまに近付く為の駒だったとお気付きなのですね。ですが、それだけでは有りません。歌夜も綾那も祉狼さまと昴さんの降臨された様子をとても眩しそうに話すのですよ♪その姿にこの二人なら戦の無い世が訪れても、女の幸せを手に入れ武士ではなく母として生きて行けると希望が持てたのです♪例え私が周りから走狗を煮る主に見られても、あの子達には幸せになって欲しかったのです♪」

 

 葵の今の笑顔は普段の仮面じみた物では無く、心の底からそう思っている事が誰の目にも判る笑顔だった。

 

「さてと、松平殿。またしても長々と語られたが、今の聖刀さまに対するお気持ちはどうであるか。お聞かせ願いたいものだのぅ。」

 

 白百合の言葉は挑発的な物であったが、葵は平然と微笑み返す。

 

「私も悠季も既に心は定まっております。」

 

 葵は居住まいを正し聖刀に向き直り、悠季もその後ろで葵に倣う。

 

「聖刀さま。お会いする度、言葉を交わす度に葵は聖刀さまに惹かれてゆきました。もう自分の心を隠す事が出来ない程に……………どうかこの葵を妻のひとりにお加え下さいませ。」

「わたくしも葵さまと同じでございます。どうか葵さま共々よろしくお願い致します。」

 

 三つ指を着いて深々と頭を下げる葵と悠季。

 それに待ったを掛ける者が居た。

 

「お、おまちください!松平様!本多殿!それはお家をお捨てになるという事なのですよ!」

 

 狸狐が大慌てで葵に言い寄った。

 お家大事のこの二人だけは何が有っても日の本に残ると考えていたが、詩乃が万一を考えていざという時はそこから攻めて思い止まらせる策を授けていた。

 

「斎藤殿、それは昨日久遠姉さまが公言されております。この葵が久遠姉さまの言を聞き違えると思いますか?」

「では松平家はどうなさるのです!」

 

「おやおや、斎藤殿はそこまで松平家の事を心配してくださるのですなあ♪ですが心配はご無用ですぞ。」

 

 相手が狸狐だと悠季はいつもの調子を取り戻す。

 

「それは…………………まさか、久松勝元殿をっ!?」

「おや、ご存知でしたか♪それとも誰かの入れ知恵ですかな♪ちなみに現在は松平康元様と名乗られておいでですよ♪」

 

「?……………誰の事?」

 

 事態を掴めない聖刀は狸狐の腕をつついた。

 

「葵さまの妹君でございます。但し異母妹となる方で母上が織田家家臣の久松俊勝殿。少々複雑な話ですのでご説明致します。葵さまのお父上は水野大蔵様という方なのですが、大蔵様の姉で水野家当主の水野信元殿が今川家から離反して織田家に降った為、葵さまのお母上で松平家先代松平広忠様が大蔵様の身に今川家からの危害が及ぶ事を案じて離縁されたのです。これは葵様が尾張に来られる前の出来事です。尾張に戻られた大蔵様は姉の信元殿の勧めで、夫を亡くされていた久松俊勝殿と再婚なされその間に生まれたのが久松勝元殿です。」

 

「少し補足致しましょう。それに先程も申しましたが今は松平康元さまです。」

 

 悠季が得意気に狸狐を見る。

 

「葵さまが幼い頃に尾張へ来る事になったのは、義元公が先代様に人質として葵さまを駿府へ寄越す事を要求され、それを知った大蔵様が織田家の助力を得て駿府へ向かう途中の葵さまを攫ったからなのです。大蔵様は葵さまが先代様と共に居られるならと離縁を受け入れられたのに、これでは意味が無いと憤られ葵さまを奪って尾張に連れて来られました。それから数年は大蔵様と共に過ごされ、康元さまがお生まれになった時は葵さまも初めての妹とたいそう可愛がられておりました。ですが、葵さまは今川家に捕らえられた織田信広殿との人質交換の相手に指名されてしまったのです。葵さまは駿府へ向かい、せめて先代様と暮らす事が出来れば良かったのですが、先代様は葵さまが駿府へ入られて一年後、病に倒れ亡くなられました。葵さまが松平家当主となられ今川家に身を置く間も密かに大蔵様とは文の遣り取りをなされ、親子の縁を強くされていたのです。」

 

 語り終えた悠季に葵は微笑みを贈り、改めて聖刀と狸狐に正対する。

 

「康元には松平家を任せられると自信を持って言えます。故に松平家のご心配は無用ですよ♪」

 

 これで狸狐は万策尽きてしまった。

 後は聖刀の決断次第となり、狸狐は聖刀の横顔を心配そうに見守った。

 

「四人ともそこまで覚悟をしちゃってるのか…………そうだね、条件を出すからそれを承諾出来たら僕も覚悟を決めるよ。」

「ま、聖刀さまっ!?」

 

 縋る想いで言い寄る狸狐を聖刀は手で制して、四人の女性に語りだす。

 

「ひとつ、妻の序列は四人ともこの狸狐の下になる。奥向きの要件では絶対に狸狐に従う事。」

 

「ええっ!?」

「はい。」

「ほほう♪」

「そんな事か。別に構わん。」

 

 悠季は驚き、葵は揺らがぬ決意で頷き、白百合は面白そうに笑い、桐琴はどうでもいいと無関心だ。

 

「ひとつ、全員が互を通称で呼び合い、喧嘩をしない事。」

 

「ワシが本気で喧嘩をしたらこいつら全員瞬殺してしまうからな♪その条件、呑んでやる♪」

「「「「………………………………」」」」

 

「ひとつ、僕は奥さんに老衰以外の死を認めない。何が有っても生き抜く事。以上の三点だよ。」

 

「死に場所を選べんのか?難儀じゃのぅ………」

「心得ました。この命尽きるまでお側を離れませぬぞ♪」

「葵は石に齧り付いてでも生き抜いて見せます!」

「わたくしは…………葵さまと聖刀さまのお命を守る時だけはその約束を破るかも知れません………」

「何を言っておるか。聖刀が貴様に守られる状況なぞ想像もつかんわ。葵の事はワシも守ってやるから、安心して婆になるまで生きとけや♪」

 

 カラカラ笑う桐琴を、悠季はこれまでとは違う頼もしい者を見る目で見ていた。

 聖刀の妻となる事を決意する四人を見て、狸狐は血の気が引いて項垂れている。

 

「聖刀さま………………………私はあちらに行ったら眞琳様に折檻されて最後の条件を満たせない気がしますよ……………」

「そこはちゃんと僕が庇ってあげるから♪」

 

 聖刀に頭を撫でられ、少しだけ慰められる狸狐だった。

 

「さて、長々時間が掛かったが、そろそろ始めるとするかあ♪」

 

 桐琴が立ち上がって、勢い良く羽織っていた外套を脱ぎ捨てる。

 葵と悠季は顔を真っ赤にして驚き、あたふたし始めた。

 

「な、何を始めるのですかっ!」

 

「ああ?ワシはこの部屋に入る時に子種を貰いに来たと言うただろうが?」

 

「そ、そんな!いきなり着物を脱ぐものなんですの!?」

 

「はっはっは♪おい、桐琴♪未通女には些か刺激が強すぎであろう♪」

「ん?おお、そうか。この二人は未通女だったな。よし♪先ずはワシが手本を見せてやろう♪」

「これこれ、独り占めは無かろう♪」

 

 白百合も桐琴と一緒になってその場で服を脱ぎ始めた。

 と言っても、二人共羽織の下の上半身は豊満な乳房を申し訳程度に隠すブラだけだ。

 白百合の場合はブラとすら呼んでも良いものか疑わしいレースの布が張り付いているだけ。

 簡単に外して乳首を曝け出した。

 

「そなた、狸狐………で、あったな。お主もこの二人に手本を見せてやるべきであろう♪」

 

 白百合が狸狐ににじり寄る。ユサユサと揺れる爆乳に圧倒されて、狸狐は思わずたじろいだ。

 しかし、自分こそが先に聖刀を愛した女だという思いと意地が心の底から湧き上がり、奥歯に力を込めて白百合を睨んだ。

 

「判りました!その目でしかとご覧になってくださいっ!!」

 

 狸狐も立ち上がって一気に帯紐を解く。

 バラリと帯が解けると上着とミニスカートも脱ぎ捨て下着姿になった。

 

「むむ!これは………」

「ほほう♪なかなかに気合の入った女の戦装束だ♪赤備えとはやるではないか♪」

 

 桐琴の言う通り狸狐の下着は真っ赤な上下で、ブラは二人とは逆にハーフカップブラで初めから乳首が見えていた。

 下に至っては側面に大きなフリルが着いているが、局部は極僅かにしか布が無く下手をすれば間違いなくはみだすだろう。

 

「では聖刀さま!失礼いたしますっ!」

 

 狸狐は聖刀の前に回り、胡座を掻いた股の間に横向きに座って聖刀の上着のファスナーを前歯で噛んだ。

 

 

……………………………………

 

……………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

「ふぅ…………」

 

 聖刀は深呼吸をして息を整えた。

 狸狐、桐琴、白百合、葵、悠季の五人はあられもない姿で全員が気を失っている。

 

「おっと!みんなを布団に寝かせてあげないと風邪を引いちゃうな!」

 

 聖刀はひとりで全員分の布団を敷き、寝巻も着せて寝かせてあげた。

 

「さてと、僕ももう寝るとするか…………眞琳姉さんや愛羅姉さんはやっぱり怒るだろうなぁ………向こうに戻ったら最低ひと月は閨から出して貰えないんじゃないかな…………」

 

 それでも誤魔化したり隠したり逃げ出したりしないのが聖刀らしい所だ。

 真剣な顔で考えた結果、ひとつの答えに辿り着いた。

 

「駕医叔父さんにあの精力剤を調合して貰わないと………………」

 

 

 

 

 祉狼、昴、聖刀の三人が京で戦闘、もといお努め、もとい営みを行った翌日。

 久遠と結菜が祉狼と部屋で話をしていた所へ葵と悠季が訪れた。

 

「久遠姉さま、結菜さま、お伝えしたい事がございます。」

 

「うん?葵、何か吹っ切れた顔をしているな。綿毛も浮かれているみたいだが………」

 

「はい♪私と悠季は聖刀さまへ一生添い遂げると決めました♪」

 

「ええっ!?」

 

 驚きの声を上げたのは祉狼だった。

 久遠と結菜は半ば予期していたので『やっぱり』という顔をしている。

 

「祉狼、お前には後で説明してやるから今は黙って聞いておれ。」

「わ、わかった………」

「で、葵。先に確認しておきたい。その決断は聖刀の仮面の下を見る前か、後か?」

「前です♪」

「デアルカ……………ふ♪出会ってひと月も経たぬ内にこの頑固者の心を変えるとはな♪」

「長久手でお会いした時の私と悠季はこんな気持ちになるなど夢にも思いませんでした♪」

「で、昨夜か?」

「はい♪桐琴どの、白百合どのと一緒に♪」

 

「桐琴もかっ!?」

 

「はい。詳しい事はご本人が直接申し上げると言っていました。」

「デアルナ…………一昨晩のあれは、お前達に釘を刺すつもりで言ったのだがな。逆に後押しをしてしまったか……………家は康元に継がせるのか?」

「はい。つきましては久遠姉さまには後見人をお願いしたいと思い、そのお願いも有って参ったのです。」

「心得た。葵と我の仲だ。安心して旅立つがいい………と言ってもザビエルを根切りにするまではままならんな♪」

「若狭では絶対に決着を着ける所存!三河武士の恐ろしさを思い知らせて見せましょうっ!」

「も、燃えておるな………ははは♪竹千代の頃の顔をしておるぞ♪」

「ふふふ♪久遠姉さまも吉法師の頃の顔をしておいでです♪」

 

 久遠と葵の笑顔を見て、祉狼は自分と聖刀と昴の絆と同じ物を見た気がした。

 すると葵と悠季が居住まいを正したかと思うと、突然祉狼に向かって畳に手を着き深く頭を下げた。

 

「祉狼さま。私と悠季が聖刀さまに嫁ぐ事をお許し願えますか?」

「いや、それは別に俺が許可する事じゃないだろ?」

 

 結菜が微笑んで祉狼の肩をポンと軽く叩く。

 

「二人は聖刀の身内に許可をもらって安心したいのよ♪」

「そういう事か♪判った。幸せになってくれ、葵♪悠季♪」

 

「「ありがとうございます♪」」

 

 更に深く頭を下げ礼を言うと、葵は顔を上げて祉狼に顔をジッと見つめてきた。

 

「祉狼さま………葵は聖刀さまがいらっしらなければ祉狼さまに惹かれていたでしょう。葵は戦が嫌いですので、戦が嫌いだと仰る祉狼さまを♪」

「ああ!それでだったのか♪葵が戦の話になると厳しい顔になって暗い凰羅が見えてたのが気にはなっていたんだ♪」

「あ、葵はそんな顔をしていましたか!?」

 

 葵は赤くなった顔を両手で覆って恥じ入った。

 

「安心しろ、葵♪この祉狼も我と初めて出会った時は戦の最中だったから、ずっと仏頂面をしておったぞ♪」

「あら♪…………うふふ♪やはり祉狼さまは葵が見込んだ通りの方です♪」

「葵…………お前はもう聖刀の嫁だ。変な気を起こすなよ。」

「久遠姉さま、葵は一途な頑固者ですからそれは有り得ません♪」

 

 祉狼は葵が初めて見せた茶目っ気の在る仕草に、思わず笑いが漏れてしまった。

 

「祉狼さま、歌夜の事、そして小波の事をよろしくお願い致します。どうかあの子達をいつか戦の無い平和な世で幸せにしてあげて下さいませ。」

「ああっ!任せてくれっ♪」

「それと後ひとつお願いがございます。」

「俺に出来る事なら何でも言ってくれ♪」

「妹の康元を嫁に迎えて頂きたいのです。」

 

「何だとっ!?」

 

 今度は久遠が驚きの声を上げた。

 そんな久遠に向かい葵は真剣な顔になる。

 

「久遠姉さま!どうか康元が昴どのと出会う前に祉狼さまと会わせて下さいっ!この葵の一生の頼みですっ!!」

 

「成程、そういう事か…………」

 

 松平康元は幼女だった。

 葵も夢の情報は聞いているので、半羽の轍を踏むまいと久遠に願い出たのだ。

 

「その願い聞き届けよう!結菜も異論あるまい?」

「葵の一生のお願いだもの。任せてちょうだい♪」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 葵と悠季は畳に額を着けそうなくらい深く頭をさげた。

 

 

 

 

 同じ頃、庭では祉狼の嫁達が集まって雫と小波に今夜の為の教育をしていた。

 場所が庭なのは部屋では狭くて入りきらなかったからである。

 そこへ犬子が壬月を捜しに珍しくひとりでやって来た。

 

「壬月さまーーー♪ちょっとご相談が……………あれ?ねえねえ、ひよちゃん、何してるの?」

「何故ひよに訊く!?」

「えっと……壬月さまが話しづらい内容かな〜って………」

 

 犬子は笑って誤魔化しながら、壬月の拳骨を警戒している。

 

「雫と小波に祉狼の事を教えているだけだ。それより何か有ったのか?」

「それほど急ぎの用事じゃないから、どうぞお話を続けてくださーい♪」

 

 拳骨が飛んで来ないと判ると、俄然会話の内容に興味が湧いた犬子は目をキラキラさせ尻尾をパタパタ振って野次馬モードに入った。

 

「好きにしろ♪おっと、済まんな、詩乃。話を中断させてしまったか……」

「いえ、壬月さま。お気になさらず♪では雫、小波さん、祉狼さまと初夜を迎える時に一番の問題となるのは、祉狼さまが破瓜で痛がる相手を治療される事です。昨日も話題に出ましたがそれはこの治療法には副作用が有り、その事を祉狼さまが気に病まれているからです。」

 

 犬子が邪魔にならない様気を付けてひよ子に話し掛けた。

 

「(祉狼さまってそういうの気にするんだね。昨日昴さまにしてもらってスッゴく気持ちよかったわん♪昴さまも悦んでくれたよ♪)」

「えっ!?昴ちゃんもお頭と同じ事ができるのっ!?」

 

 ひよ子の驚きの声に全員が振り返った。

 

「わあっ!ごめんなさいっ!気にせず続きをどうぞ!」

「いえ、今聞き捨て成らない言葉が聞こえました。犬子さん、昴さんは前からその技を使えたのですか?」

「わふっ!?昨日が初めてだよ。昨日聞いた祉狼さまの技を、和奏が昴さまも氣を使えるならできないかってやらせたんだよね。そうしたらできちゃった♪」

「できちゃったじゃありませんよ………」

「わふ?」

 

 詩乃が頭を抱える理由を犬子が解っていないので、麦穂が厳しい顔で説明する。

 

「犬子ちゃん、氣だったら私や壬月さまも使えます。一葉さまも幽さんも雹子さんも。それこそ聖刀さん、卑弥呼さん、貂蝉さんが氣で治療を行わないのは何故だと思います?怪我の治療や病を治すのには特別な修行が必要だからよ。昴さんだって充分承知しているでしょうに………」

 

 麦穂が困った様に言った昴に対する言葉に、ひよ子は普段から話していた昴の昔話を思い出した。

 

「そう言えば、昴ちゃんは小さい頃からお頭の修行を見ていたって言ってました。もしかしたら『門前の小僧習わぬ経を読む』ってやつじゃないですかね?普通の薬を使う治療はゴットヴェイドー隊で先生になって教えるくらい知識が有りますし、鞠ちゃんを見つけた時も直ぐに応急処置をしてます。」

「でも普段の治療に使っていないのでしょう?それはまだまだ実用出来る程では無いと昴さん自身が判っているからではないかしら。祉狼どのの様に手から氣を送って治療をすると言うのはやはり難しいと思うわ。」

 

「あ、麦穂さま!昴さまは手で氣を送るの失敗してました♪」

 

「ほら、犬子ちゃんもそう言って……………え?手でなければどうやって…………」

 

「おちんちんですわんっ♪」

 

『ぶふっ!げほっ!!』

 

 集まっていた祉狼の嫁達全員が噎せた。

 

「氣を溜めたお〇んちんがピカーって光って、スゴいんだよーーー♪」

 

 犬子は得意気に付け加えたが、聞いた方は引いていた。

 

「昴のやつ…………妖怪じみてきたな………」

「壬月さま、それは言い過ぎでは………」

 

 そう言いながらも麦穂は内心『卑弥呼さまと貂蝉さまのお弟子さんだからかしら?』と思っていた。

 

「お姉さま………旦那様のも………その…光るのでしょうか………」

「それは………ちょっと見てみたいの♪」

 

 足利姉妹は祉狼に置き換えて想像して顔を赤くしている。

 それを傍で聞いてしまったひよ子、転子、エーリカ、歌夜、蒲生三姉妹も同じ様に赤くなった顔を両手で隠しつつも、双眸は妖しく輝いていた。

 雹子は恍惚の表情を隠そうともせず、完全に妄想の世界に旅立っている。

 雫と小波は想像もつかない別次元の話に頭がオーバーヒートしていた。

 そんな中で不干は不安顔で犬子に詰め寄る。

 

「犬子!もしかして夢も…………」

「へ?うん、光ったお〇んちんで初めてを………」

「やめてーーーーーーーっ!!」

 

 不干は昨日の決断が間違いだったと激しく後悔した。

 

「落ち着け、不干。遅かれ早かれ結果は変わらんのだ。お前も死地に赴く前に想い人と結ばれて良かったと、犬子が来る前に話していただろう。」

「壬月さまはさっき妖怪っていったじゃないですか!妖怪に妹が襲われた姉の気持ちを考えて下さい!」

「昴さまは妖怪じゃないよぉ………そうそう、熊ちゃんは天津麻羅命って言ってた♪」

「天津麻羅は命ではありませんよ。しかも摩羅は空海が持ち帰った真言から広まった言葉です。」

 

 詩乃の冷静なツッコミに犬子は笑顔のまま言葉に詰まった。

 

「……………え、ええと………で、でも、昴さまも光らせると自分が敏感になるって言ってたよ♪ほら、なんか可愛いでしょ♪実際に昴さま、入れただけで果てちゃってたんだよ♪」

「その割にはお風呂場で長い間騒いでいましたが?」

「あ♪あれは八咫烏隊の子達全員を相手にしてたから…」

「ちょっと待て!」

 

 今度は一葉が割り込んだ。

 

「八咫烏隊は五十人おるのだぞ!それを全員、一晩でかっ!?」

「はい♪その通りですっ♪」

 

 犬子はまたも胸を張って得意気だが、聞いた方は全員が眉毛に唾を付けるおまじないをした。

 

「昴は本当に妖怪か神族ではないのか?」

「壬月さま…………私もそう思えて来ました………」

 

 壬月と麦穂は祉狼に確認しに行こうか真剣に考えて始めた。

 

 

 

 

 昼間にそんな一幕が有りつつも、雫と小波の初夜の準備は滞り無く進められた。

 全ての支度を整えて、雫と小波は肌襦袢に防寒の羽織物という姿で祉狼の待つ閨へと廊下を歩いて行く。

 

「し、雫様……………わ、わたし、き、緊張してきました………」

「そ、それは私もです…………」

 

〈雫、小波さん、私達が付いていますから気を楽にして。〉

 

 詩乃の声が句伝無量で二人の頭に届いた。

 これは詩乃が雫と小波に助言を与える為に考えた策だ。

 そして蒲生三姉妹や足利姉妹の様な暴走を、二人がしない様にする監視の意味も有る。

 詩乃の待機している部屋にはゴットヴェイドー隊の面々も揃っていた。

 

「詩乃様、部屋の前に到着致しました。ご指示をお願い致します。」

「こ、小波さん。ここは普通に祉狼さまへお声がけして入室すればいいんですよ♪」

「も、申し訳ございません!雫様!な、何ぶん初めてなもので………潜入ならば得意なのですが………」

「いえ、私も初めての経験ですけど…………って、初夜に花嫁が潜入で入室したら普通の花婿は逃げますよっ!」

「そ、それもそうですね……………本当に緊張してしまってもうどうして良いやら……………そもそも、私のような者が雫様と同時に初夜などと恐れ多い……………いや!それ以前にご主人様にお情けを頂こうなどという事こそがっ!」

 

〈小波さん、その話は散々したでしょう。あなたは祉狼さまが好きで、命を捧げると葵さまにも誓ったではありませんか。ならば今からその身を捧げて下さい。〉

 

 小波がこうなる事を予見していた葵が、昼間に訪れて『初夜に挑み、嫁の務めを果たしなさい』と『命令』した。

 『命令』という免罪符が無ければ己の幸せを追う事が出来ない小波。

 これも戦の世が生み出した歪みだと葵は嘆き、小波を絶対に幸せにするのだと『時代』に真っ向から戦いを挑んでいるのだ。

 

「そ、そうでした!………殿、小波は立派に務めを果たしてご覧に入れますっ!」

 

〈雫、いいからもう部屋に入ってください。〉

「わ、判りました!…………コホン…祉狼さま、小寺官兵衛雫孝高、並びに服部半蔵小波正成、罷り越しました。」

 

 廊下に正座をして、襖越しに祉狼へと声を掛ける。

 直ぐに部屋の中から祉狼の声が返ってきた。

 

「あ、ああ…………さっきから声も句伝無量の念話も聞こえているんだが…………」

 

「「………………………………………………………」」

〈…………………………………………………………〉

 

「ええと………廊下は寒いだろ?早く中に入った方がいい。」

 

 祉狼が句伝無量を使う為のお守りを持っている事を失念していた女性陣は、恥ずかしさの余り無言になり、雫と小波は恥じ入りながら言われるままに入室した。

 

「ほ、本日はお日柄もよく……ではなくて!ふ、ふふ、ふつつつつか者ではございますが………」

〈それでは本当に不束ですよ…………あ!雹子どの!?何を………〉

〈間怠っこしい!恋敵とは言え聞いていて加勢せずにはいられなくなりましたっ!わたくしが指示を出しますから言う通りになさいっ!祉狼さまも宜しいですねっ!〉

「お、おう………」

〈先ずは雫と小波に例の氣を襦袢の上からで構いませんので施して下さい!〉

「判った!」

「え?し、祉狼さま!?」

「ご、ご主人様!?何を………」

 

 祉狼は座る二人の前に移動すると、臍の下辺りに手を当てて氣を送り込んだ。

 

「……暖かい…………です♪」

「ご主人様のお優しさが伝わってまいります………♪」

 

〈では、雫から参りましょう!祉狼さま、着衣を脱ぎ捨て、次は雫を押し倒し、襦袢を荒々しく剥ぎ取ってって!こら!エーリカ、離しなさいっ!〉

〈何を言っているのですか!雹子!それではメィストリァがケダモノみたいではないですかっ!!〉

〈愛する殿方には蹂躙征服して頂きたいのが女の本性です!出来ればわたくしが手本となって祉狼さまに滅茶苦茶にして頂きたい!そうだわ♪今からでも…〉

〈誰か縄をっ!早く雹子の手足を縛ってくださいっ!〉

 

 ここで句伝無量の念話が突然途切れた。

 どうやら雹子の手からお守り袋が離れた様である。

 

「ええと……………雫、小波………布団へ行こうか。」

「「は、はい………」」

 

 二人は赤らめた顔で小さく頷いた。

 

 

………………………

 

…………………………………………………

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

〈祉狼さま♥気持ちよくしていただいてありがとうございます♥〉

〈私もです♥ご主人さま♥みなさまが仰っていた事がよく理解できました♪これが女の幸せなのですね♥〉

〈俺も気持ちよかったよ♪ありがとう♪雫♥小波♥〉

 

 三人は自然に唇を寄せ合いキスをする。

 

「もう辛抱たまりませんっ!!わたくしもご一緒させて下さいませっ!!」

 

 突然襖が開いて雹子が現れた。

 その身は既に全裸で、襖の陰に脱ぎ捨てられた着物が散乱している。

 

「雹子っ!おやめなさいっ!って、もう全裸にっ!?」

 

 雹子を追って来たエーリカ。

 その後ろには壬月、麦穂、松、竹、梅、歌夜、転子、ひよ子、不干、詩乃が続いていた。

 全員顔が赤いのは雹子を追って走ったからではなく、句伝無量でこっそり聞いていたからだった。

 心の声を漏らしそうになるとお守り袋を手放すという方法で気付かれるのを防いでいた。

 盗み聞きに熱中している隙をついて、雹子が縄抜けをしてここまでやって来たのだ。

 

「ふっふっふ。自縛師のわたくしにはあの程度の戒めなど抜けるのは容易いですよ♪」

「何の自慢をしているのですかっ!とにかくここから…………………」

 

 エーリカ眉間からシワが消え、表情が艶めいた物に変わる。

 それはエーリカだけでは無く、他の全員も同じだった。

 原因は部屋を満たした祉狼の精液の香りだ。

 北郷家御家流による実際の催淫効果も有るが、全員がパブロフの犬の様に条件反射でスイッチが入ってしまう身体となっていた。

 

「祉狼さまぁああ♥このはしたないケダモノに罰をお与えくださいませぇえええええ♥」

「ひょ、雹子!落ち着けっ!!」

 

 

 祉狼の静止も虚しく、雹子がルパンダイブで飛び込んだのを発端に桃色の宴が始まったのだった。

 

 

 

 翌朝、聖刀の部屋に祉狼が全身にキスマークを付け、やつれた顔で現れた。

 

「聖刀…兄さん………………例の薬を……分けて…貰えない…だろう………か……………」

 

 そう言い残して祉狼は畳の上にパタリと倒れた。

 聖刀は急いで精力剤を用意して、祉狼に飲ませる。

 

「これは駕医叔父さんに薬の材料と調合方法を教えて貰わないと足りなくなりそうだ…………」

 

 

 

 

 祉狼が目を覚ますと久遠の顔が在った。

 その横に結菜の顔も在る。

 二人は心配そうな顔をしていたが、祉狼が目を開けたのに気が付くと笑顔が戻った。

 

「久遠………結菜…………俺はどうして…………」

「祉狼!起きなくていいぞ!」

「ほら、今日はゆっくり休みなさい♪」

 

 二人に優しく身体を戻されて祉狼は再び横になった。

 

「枕が柔らかくて気持ちいいと思ったら、二人で膝枕をしてくれていたのか………ありがとう♪」

「どういたしまして♪」

「これくらい、妻として当然だ…………すまんな、祉狼………」

 

 久遠の顔がまた曇ったので、祉狼は不安になる。

 

「久遠………俺はまた久遠を心配させたのか?」

「これは我の責任だ。お前に無理をさせてしまった………」

「久遠が悪い訳じゃないわよ。奥の管理がしっかり出来ていない私の責任だわ………」

「ええと…………話が見えてこないんだが…………」

「お前は自分が倒れた事を覚えておらんのか?」

「倒れた!?…………あ、そうか、聖刀兄さんの部屋に薬を貰いに行ったんだった。」

「薬は聖刀が飲ませたと言っていた。じきに回復するそうだ。」

「まったく、あの子達ったら初夜に乱入するだなんて………」

「みんなはどうしたんだ?」

「汚した部屋の掃除と洗濯をさせているわ。四鶴と慶と幽の監視の下でね♪」

「雫と小波もか?」

「あの二人は被害者だもの。むしろ後で何かしてあげないと♪」

「そうか♪でも本当なら俺はあの場で逃げるべきだったんだろうな………」

「何を言っているんだ、お前は?」

「一刀伯父さんたちが時々伯母さん達から逃げていたのを思い出した。あの時は判らなかったが、一刀伯父さんたちも似た状況だったんだ。」

「お前の伯父は身体が三つ有っても逃げ出すのか。」

「伯母さん達の数は昨日の俺の五倍くらいだからな。」

「…………そ、そうであったな…………聖刀はどうなのだ?」

「聖刀は更にその倍だものね。興味が有るわね♪」

「どうだろう?少なくとも俺の見ている所ではそんな事は無かったが………今度訊いてみよう。」

「そうか♪まあ、それは良いとして…………祉狼、これから先、お前の嫁となる者が増えるだろう。昨夜の様な事がまたあるかも知れん…………苦労をさせてしまって申し訳ないな………」

「そこは心配いらないと思うぞ。」

「なに?…………まさか………」

「実は普通に修行をするよりも性交をした方が氣の力が強くなっている事に気が付いた。」

「ほっ………そっちか…」

「ん?久遠は何だと思ったんだ?」

「い、いや、何でもない!」

 

 久遠は祉狼が新たな女を囲う事に目覚めてしまったのかと勘違いをしたのだった。

 

「それよりも、性交をすると氣の力が強くなるだと!?」

「ああ、確信が持てたのはこの二条館を守る戦いの時だ。観音寺城を鬼から守った時よりも確実に上がっている。」

「あれはあの華蝶の仮面のお陰ではないのか?」

「傍から見たらそう感じるだろう。俺も最初はそう思った。だけど仮面の意思が俺の氣の上昇に驚いていた。それで長久手以降の修行の成果が出てる事も考えたが、それだと観音寺城から二条館をまでの短期間で氣の力が上がっている説明が付かない。その間はあまり修行をしてなかったからな。」

 

 観音寺城攻略前は結菜によって祉狼との性交は暫く禁止されていた。しかし、結菜の手紙により解禁されると溜まった欲求不満を解消する為に嫁達は祉狼を求めた。

 そして久遠の本隊が到着してからは蒲生三姉妹の初夜を行い、久遠、結菜、壬月、麦穂が欲求不満を解消しようと祉狼を求めた。

 その時も祉狼はかなり消耗していたが、二日間完全な休養を取ることで回復して二条館に向かったのだった。

 久遠も結菜も記憶に新しい事なので納得するしか無かった。

 

「そうなると、祉狼は鬼となった人々を救う為にもっと性交をしなければならないのか…………」

「とても世間に公表できないわ……………」

 

 北郷の血を受け継ぐ者の宿命か。

 ちんこ太守、ちんこ将軍、ちんこ皇帝の因縁が付いて回るらしい。

 久遠と結菜はその事を知らないが、一刀の話を教えられる度に大体間違っていない想像が出来ていた。

 

「きっとかの国の伯母上達も我らと同じ気持ちだったに違いない。」

「そうねぇ……………っ!」

 

 結菜が久遠の袖を引っ張り自分の視線の先を見る様に促す。

 

「なんだ?結………菜………」

 

 その視線の先は祉狼のズボン。より正確に言えばテントを張った股間だった。

 視線を祉狼の顔に戻せば、赤い顔をして息が荒くなっている。

 

「聖刀が薬の量を間違えたのか!?」

「そう言えば聖刀が去り際に『今日は久遠ちゃんと結菜ちゃんが面倒を見てあげてね♪』って言ってたわよね………」

「そういう意味だったのかっ!?」

 

「久遠………結菜………」

 

 祉狼が熱に浮かされ潤んだ瞳で二人を見上げている。

 

『久遠さま、結菜さま、聖刀さまに頼まれました湯の準備が出来ましたが…………』

 

 襖の向こうから慶の声が聞こえた。

 

「あやつ………完全に確信犯だな…………」

「でも、折角だから好意に甘えましょ♪慶!私と久遠、それと祉狼が湯を使うから誰も近付けないでちょうだい♪」

 

『…………御意に♪ではごゆっくりどうぞ…………』

 

 慶が早足で遠ざかる気配がする。

 

「祉狼、もう少しだけ我慢してね。」

 

 久遠と結菜は祉狼を支えて湯殿へと向かった。

 

 

……………………

 

………………………………………………

 

……………………………………………………………………………………………………

 

 

 祉狼、結菜、久遠の三人は、お互いの体温を感じて、心も身体もひとつになっていく様に思えた。

 

 

 

 

 二日後、二条館の庭では全員が揃って大変な賑わいを見せていた。

 

「次のお米が蒸し上がりましたよーーーっ!」

 

 転子の声に十人程が駆け寄って、蒸篭を受け取り用意された作業台へと運んで行く。

 運ばれた先ではお米が擂鉢によそわれ、擂粉木で半殺しにされる。

 半殺しになったお米は俵状に丸められ、小豆餡で包まれ御萩となった。

 

「よしっ!出来上がった物を次の隊に届けても良いぞ!」

 

 壬月が御萩を丸めながら出した指示に、御萩が何十個も入った箱を持って足軽達が駆け出して行く。

 壬月の隣では麦穂も御萩をつくりながら美衣の相手をしている。

 

「おいしいですか?美衣ちゃん♪」

「おはぎおいしいのにゃ♪むぎほ♪」

「あらあら♪お口のまわりがあんこだらけよ♪ほら、とってあげますね♪」

「んにゃ♪」

「おい、麦穂!」

「はい、何ですか?壬月さま。」

「私にも美衣の世話をさせろ!こうも可愛い姿を見せられては辛抱堪らん!」

「はいはい♪美衣ちゃん、壬月さまと遊んであげてくれますか?」

「私が遊んでやるのだ!」

「みつきはおっぱいばいんばいんだから大好きにゃ♪」

「はっはっはっはっ♪そうかそうか♪ほら、抱っこしてやろう♪」

 

 その光景を久遠、結菜、一葉、双葉、幽が餅を小豆餡で包みながら見ていた。

 

「『鬼柴田』と聞いていたがなかなかどうして、子供の相手が上手ではないか♪」

「壬月はいたずら小僧の相手の方が得意なんだが、最近変わったな♪」

「これも主さまの影響か♪」

「うむ♪」

「しかし、出陣前の振る舞いに御萩とは、考えたの♪久遠♪」

「栗はまだしも、鮑と昆布を人数分揃えるのは無理だったからな。」

 

 久遠の言葉に幽が感心して頷く。

 

「足軽だけではなく、家人や人足にまで振る舞われるのですから、久遠どのは実にお心が広うございますな。それに、小豆は古来より魔を祓う力を宿すと言われております。御萩も日蓮の『首つぎの牡丹餅』と掛けていらっしゃるのでしょう♪鬼との戦いに向かう者も、勇気付けられると言う物です♪」

 

「日蓮のは胡麻だったそうだがな♪下々の者が少しでも安心出来るなら、これくらいはしてやらんと♪」

「将軍が直々に作った御萩じゃ。きっと御利益が在るぞ♪」

「公方様、ですからそういう事は自ら口になさらない方が有難味が有りますぞ。それにそれがしが先程見て参りました所、公方様よりも双葉さまのお作りになられた御萩の方が人気がございましたなあ♪」

「なんと!?」

「やはり嫋やかな姫の手で握られた物の方が嬉しいのでしょうな♪」

 

 双葉が真っ赤になってアタフタし始めた。

 

「ゆ、幽!わたくしの物より他の方々の作られたお餅はどうでしたっ!?」

「そうですな………皆、己の主が手ずから作ってくれた事に感動しておりました♪特に明智衆などは涙を流して食べておりましたな。」

「金柑は慕われておるようだな♪」

「それを抜きにしますと、先ずは聖刀さまの御萩は人気が高うございました。いやはや、あれはもう名物と呼んでも過言では無く、下手な茶器など霞んでしまう出来栄えでございました!」

 

 幽が珍しく興奮気味に話すので、四人は聖刀の居る作業台を振り返る。

 そこでは聖刀と狸狐、桐琴、白百合、葵と悠季が揃っていた。

 

「みんな上手だなあ♪」

「そんな!聖刀さまのお作りになった御萩を見た後では、恥ずかしい限りです………」

 

 葵が最後の方は消え入りそうな声で否定した。

 そこへ白百合が割って入る。

 

「確かに聖刀さまの御萩は宝玉の如き美しさ。だが、聖刀さまの求められておるのはこれよ。」

 

 白百合は葵の作った御萩をそっと手に取って聖刀に差し出す。

 

「うん♪僕は葵ちゃんの作ったを御萩は大好きだな♪作った人の優しさが伝わってくる。何よりとっても美味しそうだよ♪」

「そ、そんな………………♥」

 

 照れる葵を悠季と狸狐が微笑んで眺めている。

 そして、白百合は桐琴に振り返った。

 

「むしろ我が驚いたのは桐琴どのが御萩を作れた事よ!しかも、手慣れておる………」

「がっはっはっはっは♪恐れ入ったか♪ガキを三人も産んで育てればこれくらいは出来る様になるわ♪泣き出すガキの口に詰め込んでやると一発で泣き止むからのお♪」

 

「よく喉に詰まらせて死なんかったの…………」

「そんな柔な育て方などしとらんわ♪それよりも白百合、貴様もなかなかやるではないか♪」

「我は先代長慶様の側室となる前に花嫁修業をしたからのぅ♪熊さまにも幾度か作って差し上げたし、お教えもしたわ♪不器用な熊さまが懸命に拵える姿が可愛くてのう♪」

「そこは訊いとらん。」

 

 和気藹々の雰囲気に、眺めていた一葉が苦笑いをする。

 

「白百合のあんな顔は初めて見たわ!」

「それも聖刀の力なのだろうさ♪幽、他はどうだ?」

「昴どのの物も人気がござった。女童にではございますが♪」

 

 昴と聞いて双葉が思い出して目を輝かせる。

 

「昴さんはお菓子作りが得意と仰るだけ有って、御萩の形を整え飾りを付けて兎や羊を作っておられました♪」

「成程、童に受ける訳じゃ。昴と言えば、まさかあやつが八咫烏隊を全て我が物にするとは思わんかったぞ………」

「だから前に、タダより高い物は無いと言ったではないか。」

「これは耳が痛うございますな♪そうそう、卑弥呼どのと貂蝉どのの御萩も人気がございましたぞ♪」

「こやつ、明ら様に話題を変えよった…………まあ、あの二人の強さに憧れる者は多いであろうから納得だな。」

 

 久遠から普通の人間が聞けば耳を疑う発言が飛び出した。

 

「うむ、あの強さの上に御萩を作る手際の繊細さは見事であったな。」

 

 一葉も真剣に、冗談など微塵も無く頷いた。

 

「新しく入った子は、あの二人を見るのも畏れ多いと思ってしまうみたい………あんなに気さくなのに……」

 

 結菜!それは畏れ多いのではなく、恐れているのだっ!

 

「卑弥呼さまと貂蝉さまが旦那様と聖刀さま、昴さんを生まれた時から見守ってこられたと聞いて納得しました♪旦那様方が真っ直ぐに育たれたのは卑弥呼さまと貂蝉さまお蔭ですね♪」

 

 卑弥呼と貂蝉が見守っていたのは農夫が作物を美味しく育てるのと同じ心境だったに違いない。

 そして確かに真っ直ぐは育ったが三人共『目指す者』に対してであって、特に昴は出発点からズレていて、斜め上に向かって一直線に突き進んでいる。

 

「足軽や家人が特にお二人の作った御萩を得ようとしていましたから、きっと神仏の加護に縋る思いなのでございましょう♪」

 

 幽の意見は当たらずとも遠からずだった。卑弥呼と貂蝉の作った御萩は厄除けのお守りか魔除けの御札と同じに扱われていた。

 鬼に向かってぶつけると鬼が死ぬという噂も流れていた。

 

「ですが、やはり一番の人気は祉狼さまの拵えた御萩でございました♪まるで阿弥陀像の様に崇められ、不老長寿の妙薬と思われていました♪」

「それはまた、祉狼が聞いたら困った様をしそうだ♪」

 

 五人は笑ってゴットヴェイドー隊と一緒に御萩を作る祉狼に振り返る。

 

「お頭、かなり上手になってきましたよ♪」

「そうか?ひよが作った物と全然違わないか?」

「私は作り慣れていますから♪…………白いお米と小豆の餡じゃなかったですけど……………」

「祉狼さまの牡丹餅はこれで良いのですよ♪とても民を想う気持ちが込められていると思います♪」

「ん?詩乃、秋は御萩と呼ぶんだろ♪聖刀兄さんに教えて貰ったぞ♪」

「いえいえ♪祉狼さまがお作りになった物は牡丹餅です♪」

「え!?………ひよが作ったのは?」

「御萩ですよ♪」

 

 祉狼は自分の作った物とひよ子が作った物をジッと見比べた。

 

「形が歪だとぼた餅になるのか?」

「いいえ、そんな事は有りません。」

 

 祉狼と詩乃の会話をひよ子と転子は笑いを堪えて聞いていた。

 

「ちなみに松さん、竹さん、梅さんの作られたのも牡丹餅ですね。」

 

 松、竹、梅が作った物は、ひよ子の作った物ともっと同じに見える。

 同じ物なのだから当たり前だが。

 

「後はそうですね………昴さんの所で作っている物は殆どが牡丹餅ですね。」

 

 祉狼は首を捻って真剣に見比べ始めた。

 詩乃が堪えきれずにクスクス笑い出すと、ひよ子と転子も声を出して笑い出した。

 不干と雫も笑い出し、エーリカと歌夜は苦笑いをして、内心『自分の作った物も牡丹餅だな』と思っていた。

 小波は祉狼に答えを教えて良いものか迷ってオロオロしていて、蒲生三姉妹は意味が判らずポカンとしている。

 

 

 そこへ南門の方から使番が慌てた様子で走って来た。

 

 

「たった今浅井長政様から至急の文を持った早馬が参りましたっ!」

 

 使番は久遠の足元に跪き手紙を捧げる。

 久遠は慌てず、しかし素早く開けて内容を確認する。

 

「若狭の鬼が小谷と一乗谷に攻めて来ただとっ!?」

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

前回のあとがきで『予定では京を出発する所までです。』と書きましたが、結果は読まれた通り出発直前までになってしまいました。

次回から戦闘シーンの連続になると思い、今回は幕間でやりたかった事を出来るだけ詰め込みました。

それでも書ききれなかったネタが有るので、次回に少しだけ食い込みます。

 

 

 葵の父親の『大蔵』ですが、正史の『於大の方』の事です

 一文字名の『大』だと男の名前では違和感が有ったのでアレンジしました。

 

 綾那のセリフの「本多忠勝も傷を負ったら女だな」は死亡フラグではありませんのでご安心くださいw

 

 昴の『光の剣』ですが、『くりぃむレモン』と言って解る方は強者です!

 

 

さて、オリキャラがかなり増えたので、そろそろこちらにも一覧を付けたいと思います。

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

・ 佐久間信盛 通称:半羽(なかわ)

・ 佐久間信栄 通称:不干(ふえ)

・ 佐久間信実 通称:夢(ゆめ)

・ 各務元正 通称:雹子(ひょうこ)

・ 森蘭丸

・ 森坊丸

・ 森力丸

・ 毛利新介 通称:桃子(ももこ)

・ 服部小平太 通称:小百合(さゆり)

・ 斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

・ 三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

・ 蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

・ 蒲生氏春 通称:松(まつ)

・ 蒲生氏信 通称:竹(たけ)

・ 六角承禎 通称:四鶴(しづる)

・ 三好義継 通称:熊(くま)

・ 武田信虎

・ 朝比奈泰能

・ 松平康元

・ フランシスコ・ザビエル

・ 白装束の男

・ 朝倉義景

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6016205

 

 

この投稿が終わったら恋姫英雄譚3をやるんだぁああああああ!

 

 

 


 
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