No.810619

熾天使外伝・運命の獅子 番外編・獅子なる守護者

第拾壱話 猛禽の王と騎士の王

2015-10-29 09:00:04 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1527   閲覧ユーザー数:1464

 

 

 

 

「一体、これは…」

 

 

 

俊足で持って森を駆け抜けたセイバーは、自身の目に映る光景が信じられなかった。

子供たちを守るように立つ、獅子に似た黒色の怪人と昆虫のような緑色の怪人。

折れた手首を庇い、狂乱したように怪物を召喚するキャスター。

何より―――――炎の翼を広げる、赤い仮面の戦士。

その雄々しさと美しさにセイバーは暫し魅了され呆けていたが、状況を思い出し我に返る。

―――そして―――――

 

 

 

「やぁぁぁッ!!!」

「ぬぅっ!?」

 

 

 

緑色の怪人―――ウヴァに斬りかかった。

 

 

 

「待て待て待て!!何故俺に攻撃する!?どう見ても子供たちを守っている側だろう俺は!!」

「ウヴァが胡散臭いからでしょ?」

お前(カザリ)に言われたくないわぁぁぁ!!」

「どう見ても怪しいからだ!!」

「断言された!?」

 

 

 

ウヴァは右腕から伸びている鎌でセイバーの聖剣を防ぎながら弁明する。

が、信用される訳も無く攻撃は続行される。

何でかって?ウヴァさんだからだよ。

 

 

 

「オイコラ地の文んんんん!!!」

「メタいよウヴァ」

「あー…セイバー。彼らは僕が召喚した使い魔のようなものです。子供たちを守らせているので攻撃しないでくれますか?」

「む…その声はガーディアンですか?…その姿は一体?」

「僕の宝具です。姿を変異させ身体能力や防御力を高める『対己宝具』とでも思っていただければ」

「なるほど、分かりました。…キャスター、望み通り来てやったぞ」

 

 

 

セイバーは攻撃をやめ、キャスターに呼びかける。

呼びかけられたキャスターはと言うと怪魔を召喚する手をいったん止め、セイバーの顔を見て破顔する。

 

 

 

「おおお…ようこそ御出でくださいましたジャンヌ…。しかし申し訳ない、未だ歓迎の準備が整っていないのです。すぐに終わりますゆえ…」

「黙れ。もう私は貴様と聖杯を競おうなどとは思わない」

「―――?」

 

義憤の感情を顔に浮かべ、剣を構えるセイバーにキャスターは怪訝な顔を向ける。

不可視の剣の切っ先をキャスターの首に向け―――セイバーは凛々しく、だが怒りを浮かべ静かに呟いた。

 

 

 

「この戦いに私は何も求めまい…。何も勝ち取るまい…。今はただ…キャスター。貴様を滅ぼすためだけに剣を執る」

「―――――おおおジャンヌ…。なんと気高い…なんと雄々しい…」

 

 

 

だが、セイバーの怒りを一身に受けたキャスターがその顔に浮かべた表情は畏怖ではない。恐れでも、動揺でもない。

―――恍惚だった。

 

 

 

「ああ聖処女よ、貴女の前には神すらも霞む!!」

 

 

 

歓喜の声とともに両手を高らかに上げるキャスター。

キャスターの笑い声とともに背後の怪魔たちの触手が怪しげに蠢く。

 

 

 

「我が愛にて穢れよッ!我が愛にて堕ちよッ!!聖処女よぉッ!!!」

 

 

 

狂笑とともに海魔たちが雪崩を打ったようにセイバーへと殺到する―――ことは無かった。

 

 

 

ウルの変身したオーズ・タジャドルコンボが左手に装備した手甲―――タジャスピナーから火炎弾を放ち、怪魔たちを押し返したからだ。

 

 

 

「セイバーもキャスターも、僕を忘れないでもらいたいですね」

「ガーディアン…貴方は…」

「子供を惨殺しようとするアイツの言動は僕にも許しがたい事です。僕にも参加させてください」

「こちらから頼みたいほどだ。一緒にあの外道を叩き潰してくれないか?」

「了解です、騎士王殿。―――それではこの場限りですが、共同戦線と行きましょう!!」

「………匹夫めが…。ジャンヌの御傍に居るべきはこの私だ!!私から生贄を奪い、なおジャンヌをも奪おうと言うのかぁッ!!」

 

 

 

今度は怒りの表情で魔書を手に取るキャスター。

その怒りに呼応するかのように周囲に怪魔たちが召喚されていく。

セイバーは不可視の聖剣を、そして彼女と背中合わせのウルはタジャスピナーを構え―戦端は開かれた。

 

 

 

「せぁッ!!」

 

 

 

口火を切ったのはウルだ。

又もタジャスピナーから火炎弾を放ち、周囲の怪魔を燃やし尽くす。

その掛け声を合図にセイバーがキャスターに切り込むが、キャスターはまたも新たな怪魔を召喚し肉の壁で斬撃を防ぐ。

聖剣に絡みつく触手を剣に纏った風で吹き飛ばしたセイバーは、尚も自身を貪ろうとする怪魔たちを剣で振り払う。

 

その間にもキャスターは怪魔を召喚し続けるが―――召喚した端からタジャスピナーの火炎弾が焼き尽くしていく。

僅かに取りこぼした怪魔がセイバーに向かうが、その程度の数でかの騎士王が圧し切れるはずもなく撫で斬りにされてしまう。

しかしキャスターも一つ覚えで召喚しているだけではない。少しずつではあるが、怪魔の配置によってウルとセイバーを分断することに成功していた。

分断してしまえばあとは個々に物量で押しつぶすだけ―そう考えていたキャスターだったが、悲しいかなその程度の策は通用しそうもない。

 

 

 

「ええい、無駄に数が多いですね…!ハァッ!!」

 

 

 

余りにも多い怪魔の数に業を煮やしたウルは、背中に折りたたまれた3対の翼―クジャクウィングで飛翔。

そして上空から怪魔たちをタジャスピナーから放つ火炎弾で爆撃、急襲しはじめたのだ。

 

 

 

「ぬぅ、空を飛ぶか…!」

 

 

 

キャスターは宝具能力にのみ特化したサーヴァント、そしてその宝具すらも怪魔を召喚することに特化した召喚宝具。

キャスターとして召喚された故、多少の魔術こそ扱えるものの彼は空への攻撃手段は無いに等しかった。

そして―――タジャドルコンボが放つ火炎弾は、セイバーの周囲の怪魔をも掃討していた。

 

 

 

「―――覚悟は良いな、外道」

「―――おおお、ジャンヌ…やはり貴女にあの程度の数では足止めにもなりませんでしたか」

 

 

 

騎士王は黄金の宝剣を右手一本で構え、その刀身に恍惚とした表情のキャスターを映し出す。

その隣に降り立つ赤い猛禽の仮面戦士。彼は腰のオースキャナーを手に取り、ベルトに装填されたメダルをスキャンする。

 

 

 

《スキャニングチャージ!!》

 

 

 

オーズ・タジャドルコンボの翼が広がり、空へと飛びあがる。

そして脚部の装甲に収納されていたクローが展開、炎を纏いながら猛然とキャスターへと掴みかかるようなライダーキックを放つ。

 

 

 

―――キャスターは今、怒りに満ちていた。

彼女が自分の元へたどり着いてくれたことが嬉しかったというのに、その隣をどこの馬の骨とも知れない少年に奪われ、さらに自分を打ち倒そうとしているのだ。

その怒りと焦燥は、遠く離れた冬木市内で拉致した子供たちを素材に『芸術』を作ろうと四苦八苦していたマスター―――雨生龍之介へと届いていた。

 

 

 

 

 

 

「ん?…旦那何だかすげえ焦ってんのかな?そういや戦争だか何だか言ってたけど…だー!!ったくもー上手くいかないなー…」

 

 

 

元来魔術師ではない龍之介はキャスターの危機を感知できなかった。

が、しかし運命の悪戯か神の思し召しか。

『芸術』の方向性に行き詰まっていた彼は無意識にその手に宿る痣―――『令呪』を使用した。

 

 

 

「どーも上手くいかないなぁ…。あぁーあ…『今すぐここに旦那が来てくれ』ればいいアイデアを出してくれるんだろーなぁ…」

 

 

 

 

 

 

「セイッヤァァァアアッ!!!」

 

 

 

オーズ・タジャドルコンボのライダーキック『プロミネンスドロップ』。

そしてセイバーの振りぬいた聖剣の斬撃は空を切った。

プロミネンスドロップの一撃は周囲の怪魔を全て焼き払ったものの、キャスター本人を取り逃がしたことをウルは手ごたえで感じ取った。

 

 

 

「…ちっ、逃げられましたか…!」

「ガーディアン、ここでキャスターを取り逃したことは痛いが、子供たちを守れたことだけでも誇りに思いましょう。貴方がいなければ彼らは皆殺しにされていた事でしょうから」

「…そうですね。…ですが、アイツを倒さなければ次々犠牲が増える事でしょう。…どうですかセイバー。キャスターを見つけた場合、僕らは手を取り合って奴を打倒すると言うのは」

「…!良い提案です。その提案、乗りましょう」

 

 

 

オーズの変身を解除したウル、そしてアーマーを解除しスーツの男装姿になったセイバーが共に手を差し出し、握手を交わす。

 

 

 

アインツベルンの森に集ったサーヴァントたちの戦闘は、ここにいったん終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その頃、アインツベルンの森の反対側では―――

 

 

 

 

 

「………む」

「…お前は、アサシンのマスター…?」

「…マダム、後ろに」

「ええ、舞弥さん」

 

 

 

 

 

別の場所でも、マスターたちの戦端が開かれようとしていた

 

はい、キャスター生き延びてしまいましたね(チッ)


 
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