No.809238

九番目の熾天使・外伝 ~短編㉓~

竜神丸さん

龍魂vs黒眼

2015-10-21 14:59:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4775   閲覧ユーザー数:1192

夜の海鳴市、そのとあるマンションの屋上…

 

 

 

 

 

 

 

 

-ゴォォォォォォォォッ!!-

 

 

『ヘルヘイム植物、焼却完了。クラックの消滅も確認』

 

海鳴市に繁殖したヘルヘイム植物を焼却するのは、okaka直属の黒影トルーパー部隊。今回も一人の黒影トルーパーがヘルヘイム植物の焼却を完了し、結界を解除してから楽園(エデン)に帰還しようとしているところだった。

 

『これより、楽園(エデン)に帰還します……!』

 

その時、黒影トルーパーは何かの気配を感じ取ったのか、結界は敢えて解かず、影松を両手で構えてから周囲を見渡す。時間帯が夜だからか周囲は明かりが少ないが、黒影トルーパーに変身しているのはokakaが開発した自動人形であり、視野の暗さに関してはさほど問題ではない。

 

『敵の気配を確認、警戒を開始し―――』

 

 

 

 

 

 

-ガシュウッ!!-

 

 

 

 

 

 

『―――ッ!?』

 

直後、大きな斬撃が黒影トルーパーを縦に斬り裂いた。それにより装着していた戦極ドライバーとマツボックリロックシードが破損した他、変身が解けた自動人形は右腕を切断され、更に首元にも強烈な蹴りが炸裂。破損した自動人形のボディを黒装束の男が踏みつける中、外れた頭部は空中に浮遊したまま両目を光らせ、ボディの自爆機能を作動させようとする。

 

『ッ…ボディを破損、すぐに自爆処理を―――』

 

「させん」

 

『…!?』

 

しかし、それすらも予測していたのだろう。黒装束の男が指を鳴らした途端、周囲に張られていた結界が一瞬で解除されてしまい、自動人形はすぐに自爆機能を一時停止。そして浮遊している頭部の方にもスタンロッドによる電流の一撃が当てられ、頭部はショートしながら床に落ちていく。

 

「人が大勢住むマンションだ、結界も無しに自爆は出来まい」

 

『ガガ、ガ……申し、訳…ザザー……あり、ま……ザー…せ……マス、タ……ブツンッ』

 

落下した頭部は目のハイライトが消失し、機能が停止してピクリとも動かなくなる。それをヒョイと片手で拾い上げた黒装束の男―――“黒眼(こくがん)のウィズナー”は、その夜目の効く両目をギラリと怪しく光らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ただ捕まるだけで終わらないのがこの自動人形だ。

 

全個体の自動人形が有するリアルタイムネットワーク機能により、彼女(?)がウィズナーの手に落ちた事は彼女の記憶を通じて、彼女以外の自動人形達にも短時間であっという間に伝わっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「No.83が敵の手に落ちただと!?」

 

『はい。それも、自爆による証拠隠滅も出来ないまま捕縛された模様』

 

「ッ……ヘルヘイム植物の焼却作業中を狙われたか……くそ、面倒な事をしてくれる…!!」

 

現在、楽園(エデン)ではokaka率いる自動人形達がその対応に追われていた。自動人形達のリーダー格である桃花から伝えられたアクシデントに、okakaは思わず頭を抱えたくなったが、すぐに気持ちを切り替えて現在の状況を確認する。

 

「今、No.83の居場所は?」

 

『海鳴市、中央区に留まっています。恐らく現在、敵にボディを解体されてデータを解析されている頃かと。そうなる事を予測し、こちら側から既にNo.83のボディからほとんどのデータは回収しました……が、極一部の情報は敵に掴まれてしまった可能性があります』

 

「まぁ、そうなってしまった以上は仕方ない、仕方ないんだが……また、俺の財布から諭吉が消える事になっちまうんだな……ただでさえ、ただでさえPDがトライドロンを無駄に作りやがった所為で、俺の予算が現在進行形で低下しちまってるというのに……自動人形を一人作るたびに一体どれだけ予算がかかってると思ってんだよ…」

 

『ご愁傷様です』

 

『…あ、もしかしなくても私の所為かね?』

 

「お前じゃなかったら一体誰の所為になるのかねぇこのポンコツベルトがよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

『あぁ、やめろぉ!? そんな乱暴に私を叩きつけるなぁー!?』

 

okakaが八つ当たり目的でプロトディケイドライバーを壁に向かってガンガン叩きつけている中、それをスルーした支配人やmiriは桃花と会話を続ける。

 

「敵の正体は分かるか?」

 

『黒眼のウィズナー、時空管理局非正規部隊直属の暗殺者(アサシン)部隊の一員です。奴によって、過去に管理局の闇を知った人間は大勢排除されています」

 

その言葉にピクッと反応した者がいる事は、桃花以外は気付いていない。

 

「しかし、それなら何で奴は奪ったボディをミッドに持ち帰らなかったんだ? データは奪われないから良いにしても、奴だってそれぐらいは考えると思うが」

 

『今言ったように、我々自動人形は万が一ボディを奪われたとしても、別の自動人形を通じてデータを回収する事が可能です。恐らくそれを見越した上で、早急に解析作業に取り掛かった物と思われます』

 

「…まぁ何にせよ、奴は直接俺達に喧嘩を売ってきたって事で違いねぇんだろ? だったら、そういうクソッタレは俺達の手でとっとと叩き潰すだけだ。そうだろう?」

 

「ま、miriの言う通りだな。だが俺の記憶が正しければ、奴は何か特殊な能力を有していた筈だ。桃花、何か分からないか?」

 

『申し訳ありません。接触は今回が初めての為、まだウィズナーのデータについては解析が出来ておりません』

 

「なら、俺達で何とかするっきゃ無さそうだな。まずは俺とmiriで奴を探し出して…」

 

「待て」

 

支配人の台詞を遮る者がいた。

 

「ん? どうした、二百式」

 

「その敵の捜索には俺が向かう」

 

「おいおい、どういう風の吹き回しだ? お前が自分から頼んで来るとは珍しい」

 

「…少しな」

 

二百式は右目を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいつには、色々と聞かなきゃいけない事がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その目には、今まで以上に深い憎悪に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、海鳴市の中央区…

 

 

 

 

 

「データはほとんど向こうから消されたか……だが、一部でもデータを回収出来たのは幸いか」

 

既に自爆機能を取り外され、ボディを解体されてしまっていたNo.83。そんな彼女だったパーツを放り捨て、ウィズナーは回収出来たほんの少しのデータを自身の杖型ストレージデバイスに移し、それを空中にディスプレイとして映し出す。

 

(旅団関係者の簡潔なデータか……ならば、まずは一人目…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央区にある商店街…

 

 

 

 

『~♪』

 

(…へぇ、結構良いかも)

 

相変わらずコートにマフラーを纏っているスノーズは、音楽プレーヤーで曲を聴きながら歩いていた。この音楽プレーヤーはユウナからプレゼントされた物で、予め彼女に入れて貰って聴いてみたところ、意外と気に入ったらしいのか、今のように外出中は音楽を聴きながら移動しているのだ。もちろん、音楽を聴きながらだと通行人とぶつかってしまう可能性があるのだが、彼の場合はPSIのおかげで動体視力などの感覚が人一倍鋭い為、音楽を聴いている間も誰かとぶつかるような失敗は無いのである。

 

そして商店街を出て、しばらく人の出入りが少ない道を歩き続けていたその時…

 

-ブゥン-

 

「…ふぅん」

 

結界が張られ、周囲は無人の状態になる。スノーズは不機嫌そうな表情で音楽プレーヤーを外し、手元に氷の銃を生成する。

 

「隠れても無駄だよ。そこにいるのは分かってるから……ねっ!!」

 

-ズドンッ!!-

 

「ッ…!!」

 

振り返る瞬間にスノーズが氷の銃を撃ち、曲がり角に隠れていたウィズナーが飛んで来た氷の銃弾を回避。着弾した箇所が凍りついていき、回避したウィズナーは両腕の袖から数本のナイフを取り出して構える。

 

「貴様、アルファ・リバインズの関係者だな」

 

「…へぇ、No.01を知ってるんだ」

 

「旅団に与する者、全て排除させて貰う」

 

「お断りだよ」

 

スノーズが再び氷の銃を撃ち、左に避けたウィズナーがナイフを一斉に投擲。投げられたナイフはスノーズに刺さる前に出現した氷の壁に阻まれ、そこから伸びる巨大な氷の槍がウィズナーの左頬を掠る。その間にスノーズは氷の壁の後ろに隠れて氷の剣を無数に生成し、それをウィズナー目掛けて一斉に放つ。

 

「自分に有利なフィールドを作るか……だが無駄だ」

 

 

 

-ピュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ…!!-

 

 

 

「…ッ!? く、ぁ……何、だ…これは…ッ…!!」

 

ウィズナーは口元のマスクを押さえたまま、特殊な音波を周囲に響かせ始める。するとどうした事か、隙を見て氷の銃を構えようとしていたスノーズが、突然頭を押さえてその場で苦しみ始めたのだ。そしてそれに呼応するかのように、スノーズが出現させた氷の壁も皹が生えて脆く崩れ去っていく。

 

「ぁ、ぐ……PSIが、乱れる…ッ…!!」

 

「旅団の中にはアルファ・リバインズを含め、超能力を操れる者がいると聞く。普通の人間にとってはただの音波でも、超能力者にとっては効果覿面のようだ」

 

「ッ…はぁあっ!!!」

 

ズキズキと痛む頭を押さえながら、スノーズは氷の銃を連射して強引にウィズナーを後退させる。しかし先程の音波の影響で脳にダメージが響いたのか、命中率が下がって銃弾は全て回避されてしまう。

 

「命中精度が下がったな」

 

「うるさい!! はぁ、はぁ…!!」

 

スノーズは再び氷の壁を生成し、自身とウィズナーを分断。その間にスノーズは曲がり角に隠れてから氷の槍を右手に生成するも、脳のダメージの影響で氷の槍の生成速度が落ちてしまっていた。

 

(ッ…脳の痛みで、PSIが上手くイメージ出来ない…!! さっさと決めるか、急いで撤退するしか…!!)

 

「隠れても無駄だ」

 

「…オォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

氷の壁が破壊される音が聞こえて来る。スノーズは意を決して、曲がり角の先にいるであろうウィズナーに向けて氷の槍を投げつけ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スノーズさん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

―――られなかった。

 

投げつけようとした先に見えたのはユウナの姿。スノーズは思わず氷の槍を持った右手が止まり、一瞬だが隙が出来てしまった。

 

「愚かな」

 

「!! く―――」

 

 

 

 

 

 

 

-バシュウッ!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふんふーん♪」

 

「んお? ロキんとこの妹ちゃんじゃねーか」

 

「あ、シグマさん。こんばんは」

 

タカナシ家のホームに帰宅しようとしていたユウナ。買い物袋を持った彼女は、鼻歌を歌いながら楽しそうに帰路についていたのだが、その途中で彼女は何かを探している様子のシグマを発見する。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、それがよぉ……スノーズの奴を見なかったか? アイツ、途中で逸れちまったみたいでさぁ」

 

「え、シグマさんが逸れたんじゃなくて?」

 

「テメェも大概酷ぇな!? …で、見てないか?」

 

「いえ、私は見てませんね。たぶんスノーズさんも、何処かでシグマさんの事を探してると思いますよ」

 

「おいおい、俺ってそんなに情けなく見えるのか……ッ!」

 

その時、やれやれと言いたげにしていたシグマの表情が真剣な物に変わる。彼は鼻をスンスンと嗅ぎ、周囲を見渡し始める。

 

「シグマさん…?」

 

「血の匂いがする、しかもまだ新しいぜ……こっちか!」

 

シグマは血の匂いがする方へと走り、ユウナもひとまずそれに続いて走り出す。二人が入って行った路地裏、その先には…

 

「!? スノーズ!!」

 

「スノーズさん!?」

 

全身血塗れの状態で、壁に寄り添いながら歩いているスノーズの姿があった。斬り落とされた右腕は傷口が氷で塞がれており、それ以外でも頭部や腹部から流れている血、全身に切り傷が出来ているなど、彼の姿は誰から見ても分かるくらいに重傷だった。

 

「スノーズさん、しっかりして下さい!!」

 

「おい、どうした!? 何があったんだよ!?」

 

「ッ……シグマ………ユウナ、ちゃ……ッ…」

 

「いや、駄目!! 死なないで、スノーズさん!!」

 

シグマとユウナの存在に気付くスノーズだったが、既に体力も尽きかけていたのかその場に倒れてしまい、シグマとユウナが慌てて彼の下へ駆け寄っていく。

 

「くそ、ここじゃ埒が明かねぇ……一旦、嬢ちゃんの家まで運ぶぞ!!」

 

「ッ…はい!!」

 

意識を失ったスノーズをシグマが背中に背負い、ユウナの案内で彼等はタカナシ家まで一瞬で転移。到着した先では姉の帰りを待っていたであろうルイが血塗れのスノーズを見て驚き、ユウナはスノーズの治療を開始し、シグマは大急ぎで楽園(エデン)にいるメンバー達に連絡を繋げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(奴には、逃げられてしまったか…)

 

一方、とあるビルの屋上から街を見下ろしていたウィズナー。彼の右手には、彼が斬り落としたと思われるスノーズの右腕が掴まれていた。

 

「だが、そう遠くに逃げた訳ではない筈……早急に見つけ出して、始末をつけなければ…」

 

スノーズの右腕をその場に放り捨て、ウィズナーはその場からフッと姿を消す。

 

しかし…

 

「―――なるほどなぁ」

 

そんな彼の様子を陰から見据えているフードの人物―――武器商人の姿があった事に、ウィズナーは気付いていなかったようだ。

 

「面倒な奴がこの街に現れたようだ……さぁて、お前達は一体どう動くんだ? OTAKU旅団の諸君…」

 

スノーズの右腕を拾い上げ、ヘッヘッヘと不気味な笑い声を上げる武器商人。当然ながら、そんな彼の言葉に返事を返す者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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