No.80634

真・恋姫無双~魏・外史伝19

こんばんわ、アンドレカンドレです。
本当は後編を投稿すする予定でしたが、第九章もまた長くなりそうなので、3部構成になってしまいました。う~ん、視点があっちこっちいってしまって読みにくいような気が・・・。
言葉で状況を説明するのは、本当に難しいです・・・。シリアス回は話が長くなるのは何故でしょうかね?

2009-06-23 22:22:59 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5524   閲覧ユーザー数:4788

第九章~悪意の矛先・中編~

 

 

 

  夜空を赤く染めるもの、それは村ではなかった。場所は成都より南東の一つ山の向こうに

 位置する巴郡。その中で一番大きい街、かつて劉備達が入蜀した際、彼女達が厳顔、魏延と

 戦った城壁に囲まれた街のいたる場所で火が上がっていた。その火が夜空を赤く染めていた

 のであった。

  「・・・っ!!」

  その悲惨な光景を見た姜維は唖然とする。

  「姜維、どうやら襲われていたのは村じゃなかったようだな。」

  彼の隣りにいた党員が、その光景を見ながら皮肉を言う。

  「しかし、一体どこの賊がこんな真似を・・・。」

  「今は、頭を使っている場合じゃねぇ!今すべき事は、自分の体を使ってこの惨状を

  どうにかする事だ!行くぞ、皆!!」

  「「「応!!」」」

  リーダー格の党員が皆に檄を飛ばす。それに他の党員達が呼応する。

 そして、燃え盛る街へと馬で駆けて行った。

  

  「愛紗!どうやら火元は巴郡の街のようだ!」

  駆ける馬の上で、星は隣で自分同様に馬に乗る愛紗に言う。

  「巴郡か・・・!あそこは以前、我等が桔梗達と戦った場所だな。」

  赤く染まった夜空を見上げながら、愛紗はその時の事を思い返す。

  「最も、あの時とは状況がまるで反対ではあるがな・・・。」

  余裕があるのか、星は皮肉めいた事を言う。

  「・・・そうだな。」

  「関羽将軍、趙雲将軍!」

  そんな時、前方から馬に乗った一人の兵が近づいてきた。

 そして、そのまま愛紗と星が率いる騎馬隊の中へと上手く入り込むと、二人の横に並んだ。

  「先程、先行していた馬岱隊が巴郡に入りました。」

  「そうか。それで状況は?」

  「はっ!街の至る所で火が上がっており、住民達はかなり混乱しております。

  恐らく、何者かが放火したものかと・・・。」

  「くっ、何と卑劣な・・・!」

  愛紗は悔しさから、口元から歯が軋む音が出る。

  「火か・・・。我等の生活に必要不可欠な存在が、我等に牙を向けて来る・・・か。」

  「現在、馬岱将軍達が消火にあたっておりますが、火元が強く消火に時間がかかっています。」

  「分かった。皆の者、聞いての通りだ!全速力で街に向かうぞ!!」

  「「「応!!!」」」

  愛紗の檄に兵達は呼応する。そして行軍速度を上げていく。

 その一方で、星はその兵士に問いかける。

  「所で、先程お主は何者かが放火した・・・と言っておったが、その根拠はあるのかな?」

  「は?・・・ああ、それは・・・その。」

  星の問いに、兵は思わず言葉を濁す。

  「はっきりとした情報では無いのですが、正和党の者達が火を付けていたのを見た・・・

  と街の住民が話していたので・・・。」

  「ふむ・・・。」

  兵の話を聞いて、星は黙ってしまう。

  (まさかここで、その名が出て来ようとは・・・。しかし、まだ不確かな情報のである以上、

  まだ結論付けるのは早計だろうな。)

  「そうか。済まなかった。下がってくれ。」

  「はっ!」

  兵は星に言われた通り、後ろの行軍に戻っていく。

  「星、今の者と何を話しておった?」

  「大したことではない。気にするな。」

  「しかし・・・。」

  「愛紗。男と女の話に、それ以上の詮索は・・・野暮と言うものだぞ?」

  「な!?そ、それは・・・どういう意味なのだ?!」

  妖艶な表情でそんな事を言う星に、愛紗は顔を少し赤くして怒鳴る。

 

  「街の状況はどうなっている!?」

  「はい!火が強く、消火に手こずっています。このままでは、街全体が火の海です!」

  愛紗達とは反対の方向から、廖化が率いる騎馬隊が街へと向かっていた。

 廖化は党員から街の現状を聞いていた。その悲惨さに思わず、自分の顔を手で覆い尽くしてしまった。

  「・・・・・・。」

  「廖化さん・・・。」

  そんな彼の姿を見て、党員は思わず彼の名を呼ぶ。それに気づいた廖化はすかさず、命令を出す。

  「今は街の住民達の安全を最優先だ!消火は住民の避難が完了するまでの時間稼ぎとするんだ!」

  「分かりました。では、皆にそのように伝えてきます!!」

  党員は、一足先に街へと向かっていった。

 その姿を確認した廖化は、後ろから付いてくる五十人前後の党員達の方に振り向く。

  「皆、急ぐぞ!!火は俺達を待ってはくれないぞ!!」

  「「「「応っ!!!」」」」

  彼の檄に党員達は呼応する。そして行軍速度を上げていく。

 

  「おい、こっちだ!早く水を回せ!!」

  「水じゃなくて、砂をかけた方が早く鎮火出来るぞ!!」

  「大変だ、中に逃げ遅れた奴がいるようだ!」

  「足を怪我しているようだ!誰か手を貸してくれ!!」

  街中のあちらこちらで、怒声が交わる。蜀軍よりも一足先に街に入った正和党達は

 街の住民達と連携して、消火作業を開始していたが、火の勢いが強く消火が進まない。

  「水で消せないのなら、火もと近くの物を壊すんだ!!」

  「了解ーー!!」

  そして男達は火もとの家やその周辺を片っ端から破壊していった。

 それ以外にも、逃げ遅れた人達の救助、怪我をした者達の手当などとこの混乱した状況の中、

 そこに一つの情報が入りこむ。

  「何だって・・・!?」

  「声がでかいぞ・・・!」

  「すまん。だが、この騒ぎは・・・劉備軍の仕業だっていうのは?」

  城壁の外に設置された簡易的な避難所で、二人の党員が他の住民達に聞こえないように話していた。

  「ああ、本当かどうかは分からないんだけどよ・・・。劉備軍の兵装を身に着けていた奴が

  家に火を着けるのを見たって・・・。」

  「どこからの情報だ、それ?」

  「すまない、こんな状況だからどっからのものなのかまでは。」

  「・・・とにかく、この事はここだけに留めておけ!こんな事が街の皆に知れ渡れば、

  火に油を注ぐも同然・・・さらに大混乱になるぞ。」

  「どうかしたんですかい?」

  二人の党員の話に、街の住民が割って入って来た。

  「あ、ああ・・・その、どうやら劉備様もこの事態に気付いて大至急、こちらに

  応援に来ているってさ!」

  党員は、上手く話を誤魔化す。それを聞いた住民は先程まで不安そうな表情は安心した表情に変わる。

 そして、その事を他の皆に言いふらしていた。

  「いいのかよ?あんなこと言って?」

  「本当の事を言う訳にはいかないだろうが!・・・それに劉備様だってこの事態に

  気が付いているはずだ。」

  「そうだな。」

  「・・・・・・。」  

  そんな二人の話を傍らで耳を立てて聞いていた姜維は、気付かれないように膝を擦りむいた

 少女の手当を続ける。心の中で巻き起こっている怒りを・・・。

  「お兄ちゃん、どうかしたの?」

  「え?ああ・・・、いや何でもない。何でもないよ。」

  どうやら、この少女は彼のそれに気がついたようだが・・・。

  「た、大変だ!誰か手を貸してくれ!」

  そこに、慌てた様子で剣を持った党員が駆け込んできた。

  「どうした!」

  「向こうの方で、暴れている連中がいるんだ!!」

  「火事場泥棒か!?」

  「いや・・・、そういうんじゃなくて・・・。とにかく、来てくれ。人手が足りないんだ!」

  「・・・分かった!姜維、お前も来い!!」

  「あ、はい・・・!」

  一通り少女の怪我を治療した姜維は立ち上がる。しかし、少女が彼の服を引っ張る。

  「お兄ちゃん、どこにいくの?」

  心配そうな顔をして自分を見上げている少女と同じ目線になるようにしゃがむと少女の

 頭を撫でる。

  「うん、ちょっとね・・・。皆が困っているから、助けに行かないといけないんだ。

  だから・・・行って来るよ。」

  姜維は優しく微笑む。それに少女は笑顔になる。

  「・・・うん!」

  そして、姜維は再び立ち上がると、党員達と共に走っていった。

 

「うわぁ・・・、これはひどいな~・・・!」

  「そうですね。街が火の海です。」

  姜維達より一足遅く街に入った蒲公英達は、その街の惨状に唖然としていた。

  「馬岱将軍、消火の準備が出来ました!」

  「え・・・?あ、ああ・・・うん!ならさっさと火を消しちゃおっか!」

  部下に呼びかけられ、はっと我を返す蒲公英であった。

  愛紗達より先に到着した蒲公英達は、正和党と同様に鎮火作業、住民の避難、怪我人の手当を開始した。

 この時、彼女達がいる所は街の北門、そして姜維達は街の南門とちょうど反対側の位置であった。

 しかし、北門と南門を繋ぐ大通りは火事で倒れた物見櫓や倒壊した家々のせいで遮断されていた。

 それによって、蜀軍と正和党とを遮断する事にもなった。今、蒲公英達はこの街に駐屯しているはず

 の仲間と連絡が取れず、正和党が既に街の鎮火作業を展開していた事を、姜維達は蜀軍が街に来ている

 事を、未だに分かっていなかった。

  その結果、事態は最悪な方向へと向かっている事に誰も気付いていなかった。

  「馬岱様!!」

  「ど、どうしたの!?たんぽぽ、今すごく忙しいんだけど・・・!」

  馬に乗りながら、桶に入った水を器用に火もとにかけながら、部下の話を耳を傾ける。

  「そ、それが今、街の東通りでこの街に駐屯していた兵達と正和党と思しき武装集団

  が交戦していると・・・先程、仲間の一人が!」

  「うええぇぇっ!!それ、本当!!」

  「間違いありません。しかも、この街を襲撃したのも正和党の者達だと・・・。」

  「な、何だってーーー!!!」

  その急な展開に、蒲公英は目を大きく見開いて大袈裟気味に驚く。

  「ど、どうしましょうか!?」

  「どうするも何も、助けに行くに決まってるよ!ここは任せるから、五、六人誰か蒲公英に

  付いて来て!!」

     

  「きゃああーーー!!!」

  「た、助けてくれだーーー!!!」

  燃え盛る家々の間を逃げ惑う民達。

  「ひゃはははは、死ね死ねーー!」

  「皆、殺してやるぜーー!!」

  ザシュッ!!!

  「ぎゃあぁっ!!」

  ドシュッ!!!

  「グへっ!!」

  そして、そんな彼等を問答無しに斬り捨てるは・・・。

  「な、何だ・・・あれは!?」

  「蜀軍の兵が何でを民達を襲っているんだよ!?」

  本来、彼等民達を守るはずの蜀軍の兵士であった。

  「一体何がどうなっているんだ!とち狂ったのか!?」

  「分からん・・・だが、目の前で起きている事は全て事実だ。」

  その時、蜀軍の兵士が一人の女性に襲いかかろうとしていた。

  「はっ!いかん・・・!」

  「やーーーめーーーろーーー!!!」

  「っ!?」

  党員の一人が気が付いた時には、姜維は走り出していた。その手に大型の

 片刃剣を振りかぶりながら・・・、その女性を守るために・・・!

  「うりゃあっ!!」

  ザシュゥッ!!!

  「うぎゃあっ!!!」

  その兵士は姜維によって、後ろから叩き斬られる。

  「・・・・・・っ!!!」

  だが、彼の行為は無駄であった事に気が付いた。

  彼の目の前には、背中を斬りつけられ、すでに息を引き取っていた若い女性。

 そして、その女性が腕に抱えていたのはすでに息を引き取っていた幼い赤子であった。

 恐らく、母子であったのであろう。その両手は守るように、しっかりと胸の中に、赤子を

 抱きしめていた。

  

  ―――『・・・・・・っ!!!』

 

  姜維の頭を、一瞬よぎる・・・。それは、目の前に広がる光景とよく似ており、

 されど全く別の・・・彼の中の記憶の断片であった。

 

  「・・・、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ

  あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

  ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

  彼の叫びが、この通りを、そしてこの街全体に響く。この火が燃える音に混ざり合いながら・・・。

 そして、いつしか彼の周りを数人の蜀軍の兵士達が囲んでいた。

  「!?いかん、このままでは姜維が危ない!お前達戦闘準備だ!!」

  「で、でも、相手は蜀軍ですぜ!」

  「今は姜維を守る事だけを考えろ!!連中は、あいつを殺す気だ!!」

  「分かりました!!お前等、さっさと武器を持て!」

  「「「応!!!」」」

  そして、皆々が武器を携えたのであった。

  一方、姜維は・・・。

  「・・・殺してやる・・・、ぶっ殺してやる!!」

  先程、少女を包み込むような優しい目は、いつの間にか怒りに濁った獣の様な眼と変わっていた。

  「てめえら、全員・・・、地獄行きだぁぁぁぁああああああーーーー!!!」

  再び剣を肩にかけ、兵士の一人に猪のごとく、突っ込んでいった。

 


 
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