No.803256

「シャッフル♪」

蓮城美月さん

シンデレラや白雪姫など、名作童話をシャッフルしたコメディシリーズ。
オールキャラ。カップリング要素あり。
ダウンロード版同人誌のサンプル(単一作品・全文)です。
B6判 / 084P / \100
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2015-09-20 15:10:51 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:449   閲覧ユーザー数:449

 

◆CONTENT◆

 

シャッフル

シャッフルPart-2

シャッフル…???

シャッフルPart-1.5

トリプルシャッフル

シャッフルスペシャル

 

シャッフル

 

むかしむかし、あるところに風変わりな魔法使いがいました。

「次の仕事は…シンデレラにガラスの靴とカボチャの馬車?」

サングラスにひげを生やした魔法使いは、ほうきに乗って空を飛んでいました。魔法使いの燕さんは、気が向いたときにしか働かない変わり者です。

「……ま、いっか」

舞踏会にどうしてそんなものが必要なのか疑問に思いましたが、魔法使いは細かいことは気にしない性分です。すぐシンデレラのことに興味が移りました。きっと名前からして、心優しい働き者の少女なのでしょう。魔法使いはミーハー心を抑えられず、シンデレラの家へ急ぎました。

シンデレラの家に着くと、可憐な少女が洗濯物を干しています。まさしくシンデレラだと思い、魔法使いは軽やかなステップで少女に声をかけました。

「お嬢さん、あなたがシンデレラですか?」

振り向いて微笑む少女に、魔法使いはすぐさまカボチャを準備しました。

「いいえ。わたしじゃありません」

魔法使いは首を傾げます。シンデレラといえば、継母と姉二人にこき使われているはずです。

「わたしはシンデレラの妹で、ゆりといいます」

拍子抜けした魔法使いは、家事をしているもう一人の少女を見つけました。今度こそはと駆け出していきます。

「お、お嬢さん。あなたがシンデレラですね?」

食事の準備をしていた少女は、怪しい魔法使いを不審に思いながら答えます。

「違います」

二度も間違えた魔法使いは、いじけてしまいそうになりました。

「わたしはシンデレラの妹で深雪といいます。お姉ちゃん…シンデレラなら、村の集会場にいると思いますけど」

それを聞いた魔法使いは、気を取り直して集会場へ向かいました。村の住人が集まって、会合をしているようです。魔法使いは村人にシンデレラの居場所を訊ねました。

「シンデレラならあそこにいるよ」

村人が指した先に、綺麗な女の子が座っていました。魔法使いは、なぜシンデレラが村の集会に出ているのか不思議に思いましたが、とにかく仕事を済ませようとシンデレラに近づきます。

「――――もっと画期的なアイデアはないの!?」

声をかけようとした瞬間、魔法使いの耳に怒声が突き刺さりました。周囲を見渡すと、村人たちはその勢いに気圧されています。すべての視線がシンデレラに向いていました。

「吹雪ちゃん、抑えて」

シンデレラの隣に座っていた美人が、控えめに諭します。

「だって、母さん。具体案がまったく出てこないじゃない。これだけの人間が集まっておいて。何のために話し合っているの。こんな状態じゃ、うちの村はいつまでたっても貧乏なままよ」

魔法使いは中央に置かれた黒板を見ました。そこにはこう書かれています。

『ひまわり村緊急経済対策会議』

つまり、村おこしを話し合っている会議中のようです。それにしては村人たちの覇気や主体性がなく、シンデレラは我慢できなかったのです。魔法使いは、シンデレラのイメージが崩れていくのを感じました。この仕事はどうも嫌な予感がするので、別の仕事に変えてもらおうと思いました。忍び足で帰ろうとしたとき、なんとシンデレラと目が合ってしまったのです。

「アンタは? 村じゃ見ない顔だけど」

「ワタシですか? ただの通りすがりの…」

「魔法使いさんでしょう!」

冷や汗をかいて硬直している魔法使いに、シンデレラの母が楽しそうに言いました。

「なに言ってるの、母さん。魔法使いなんているはず――――」

「だって黒い服と帽子、それにほうき。こんな格好、魔法使い以外に考えられないわ」

シンデレラは胡散臭そうに魔法使いを観察します。

「本当に魔法使いなの?」

「……は、はい。そうです」

シンデレラの厳しい視線に、魔法使いは泣きたくなりました。

「じゃあ、この貧乏な村を魔法で豊かにしてみせて」

「は…?」

「魔法使いならできるでしょ?」

仕切り屋のシンデレラに口を挟める人など、一人もいません。村で一番偉い村長さんでさえも、シンデレラの権力には敵わないのです。村長さんは村の平穏をお地蔵様に祈るようなおとなしい人なので、シンデレラの発案に異を唱えることもありません。

「あ、あの…ワタシにも仕事がありまして………」

「どんな仕事?」

「その…シンデレラさんを、お城の舞踏会に……だからカボチャを」

怯える魔法使いは途切れがちに言いました。馬車にするはずのカボチャを差し出します。

「舞踏会? そんなものに行く暇なんてないわよ。大体、あの変わり者の王子がいる城なんて、絶対に御免だわ。だからその仕事もキャンセルね。その代わり、この村のために働いて」

「そ、そんな…」

カボチャを受け取ると、シンデレラは母に渡しました。魔法使いの嘆きなど、知らん顔です。

「母さん。このカボチャで煮物作って」

「あら。いいカボチャね」

「煮物にするために持ってきたんじゃないんですよ…」

 

ここは舞踏会が行われるお城です。今夜のために着々と準備が進められています。

「――――…」

人々が動き回る中、悠然と会場を歩いている青年がいます。彼はこの城の王子様です。見かけは端麗ですが、中身は…。王子は周囲を見渡すと、退屈そうに会場を出て行きました。

王子はこの城の地下に実験室を持っています。そこには、怪しげな本や試験管がいっぱいです。王子は本を片手に、異様な色の液体を調合しています。最後の液体を混ぜ合わせたあと、白い煙が上がりました。どうやら完成したようです。王子は嬉しそうな笑みを浮かべました。

「さあて、だれに飲まそうかな」

 

隣の国のお城です。ここにはとても美しい王妃様がいます。

「鏡よ、鏡。この国で一番美しいのはだれ?」

王妃様は鏡に向かって訊ねます。

『そっ、それはもちろん、お妃様です』

鏡は王妃様の機嫌を損ねないように答えます。

「じゃあ、二番目に美しいのは?」

王妃様は絶世の美女ですが、とても個性的な方なので、鏡はいつも胃の痛い思いをしています。鏡は困惑しながら答えました。

『…迷いの森に木こりたちと住んでいる、白雪姫です』

それを聞いた王妃様は、リンゴの入ったカゴを置きます。鏡は胸騒ぎがしました。王妃様が嬉しそうなときは、なにかを目論んでいるときだからです。

『お妃様。そのリンゴは…?』

「白雪姫に食べさせるのは、何番目のリンゴがいいかしら」

王妃様は十個のリンゴを並べて鏡に問います。

『ま、まさか…毒入りリンゴですか?』

王妃様は「聞きたい?」と微笑みました。

「一番目が笑い薬、二番目が痺れ薬、三番目が眠り薬、四番目が――――」

『お、お妃さま…』

 

迷いの森にある小人の家です。

「退屈だわ」

ここには三人の小人と、美少女なのに毒舌家の白雪姫が住んでいます。小人がどうして三人なのか。それは白雪姫の毒舌ぶりに、四人が逃げ出してしまったからです。

「だったら、オマエもメシの支度手伝えよ」

小人Cの慎吾クンが、家事をまったくしない白雪姫に怒ります。

「イヤよ。だって、手が荒れるじゃない」

あっさりと言い返されて、慎吾クンは二の句が告げません。

「……――――」

小人Bの(小人と言われることに不満がありそうな)雪人クンは、黙々と昼食の準備をしています。白雪姫は手伝わず、慎吾クンは家事に不慣れ、もう一人の小人は戦力にならず。実質的に一人で四人分の食事を作っているのです。

「ねえ、なにか面白いことはないの?」

好奇心旺盛な白雪姫には、森の生活は平凡すぎて耐えられないようです。

「そうだ、あげはちゃん」

「白雪姫よ」

小人Aの大和クンが白雪姫に言いました。

「旅の人から聞いたんだけど、今夜、隣のひまわり王国のお城で舞踏会が開かれるんだって」

「ふうん。舞踏会か」

「多くの人がやって来て、ごちそうがたくさんあるんだろうな」

「面白そうね。じゃあ行ってくるわ」

「えっ?」

白雪姫は宣言すると、早々に出かけようとします。

「森を抜けたらすぐだし、夕方までには着くわね」

「ダメだよ。女の子が一人でこんな森を歩くなんて」

「平気よ。放っておいて」

慎吾クンも雪人クンも、白雪姫を止めません。言って聞く人じゃないのを知っているからです。

「一人じゃ危ないよ」

「そんなに言うなら、一緒に来れば」

引き下がらない大和クンに、白雪姫は根負けしました。大和クンは自分が頼りにしてもらえたと思い、嬉しそうに笑いました。

「うん。ボク、あげはちゃんを守るからね!」

 

迷いの森の中。この森は、旅人が必ず迷ってしまう森です。

「まいったな…」

今日も一人の青年が迷い込みました。青年は、この国のもうひとつ隣の国の王子様です。本来なら従者が付いているはずですが、この王子は単身で道中を歩いています。

「なんなんだ、この森は」

王子がぼやきますが、仕方ありません。ここは、あの王妃様が作った罠の森。王子も気乗りしない道行きなので、無理に急ぐこともしません。王子は今夜、ひまわり王国で催される舞踏会に招待されているのです。でも、この王子は華やかな場所が好きではありません。

「待ってよ、あげはちゃん」

王子がどちらに進むべきか迷っていると、向こうから人の声が聞こえます。

「白雪姫だって言ってるでしょ。さっさと歩かないと置いていくわよ」

女の子の怒鳴り声が続き、二人の姿が王子の目にも見えてきました。

「危ないよ」

早足で進む女の子を、小人が追いかけています。

「ちょっと道を教えてもらいたいんだけど…」

王子は白雪姫に話しかけました。白雪姫は王子を上から下まで品定めしてから答えます。

「イヤ」

一刀両断に切り捨てた白雪姫は、脇目も振らず通り過ぎました。

「あの、ごめんなさい。あげはちゃん、急いでいるので」

絶句する王子に、大和クンは白雪姫の非礼を謝ります。

「それより、道を教えてくれないか」

「それならここをまっすぐ行くと…あ、あげはちゃん、待って。――――すみません。この先に木こりの家があるので、そこで聞いてください」

いつもなら迷った旅人を森の出口まで案内してあげる大和クンですが、今日は白雪姫を守るという重大な使命に燃えているので、それはできませんでした。王子は仕方なく先へ進んでいくと、今度は別の方角から奇妙な声が聞こえました。

「待て、インチキ魔法使い!」

何事だろうと、王子は振り返ります。すると、そこの茂みから変な格好をした男が現れました。黒い服と帽子にほうきを持った、怪しげな男です。

「お、お願いです。ワタシを助けてください!」

いきなり泣きつかれて、王子は困ってしまいました。

「とっても怖い人に追われているんですよ」

「そんなこと言われても…」

「燕、出てこい!」

追ってくる恐怖の声に、魔法使いは震え上がります。

「とにかく、ワタシがこっちに逃げたことは言わないでください」

魔法使いが全力で逃走した直後、眉間に皺を寄せた少女が現れました。かなりの距離を追いかけてきたらしく、髪は乱れて葉っぱが付いています。

「ねえ。変な格好の胡散臭い男見なかった?」

「ああ、今さっき」

「どっちに逃げたの?」

王子は教えるべきか迷いましたが、どちらかというと男のほうが不審に思えたので、あっさりと男が逃げた方向を指差しました。

「そう、ありがとう」

シンデレラが走り出そうとしたとき、その挙動が一瞬で硬直します。

「――――――!」

「…どうかしたのか?」

声も出せない彼女を不思議に思い、王子はその視線の先を追いました。シンデレラの行く手を、巨大なクモが阻んでいます。金縛り状態のシンデレラは一歩も動けません。このまま放っておくこともできないので、王子はクモを追い払ってあげました。

 

小人の家。シンデレラの魔手から逃れた魔法使いが、二人の小人に頼んでいます。

「ワタシ、あの人に見つかったらどうなるか…。お願いです、ここに置いてもらえませんか」

魔法使いは執念深いシンデレラの追跡に、心身とも疲れきっていました。

「はっきり言って、家に居候を増やせる余裕はありません。白雪姫のせいで木こりが四人逃げ出したから、働き手が不足しているんです。このままだと家の財政は破綻してしまいますから、僕らも必死で働いているんですよ」

三人の中で一番しっかり者の雪人クンは、肉体労働に向きそうもない魔法使いの懇願を、シビアな見解で断りました。小人の家に必要なのはタフな労働力なのです。

「あの、ちょっと道を聞きたいんだが…」

新しい来訪者に、慎吾クンが扉を開けます。

「ひまわり王国はどっちに行けば…」

そこには、シンデレラを背負った王子がいました。王子の背中から小人の家を見渡したシンデレラが、魔法使いの姿を発見します。

「インチキ魔法使い!」

「とっても怖いシンデレラ!」

シンデレラと魔法使いは同時に叫びました。クモとの遭遇で腰が抜けていたシンデレラですが、魔法使いを見つけるなり王子の背中から飛び降り、一目散に魔法使いの身柄を確保しました。

「やっと捕まえたわよ、このインチキ魔法使い」

「ワタシは本物の魔法使いです」

魔法使いとシンデレラの格闘に、残りの三人は唖然と見守っています。

「小さな村ひとつ裕福にできないで、なにが魔法使いよ」

「ワタシの魔法にも、できることとできないことが…」

二人の言い合いは水掛け論になっていくので、王子は改めて小人に道を聞きました。

「ひまわり王国なら、あっちの――――」

道を教えようとした慎吾クンの口を、雪人クンが塞ぎます。その不意打ちに慎吾クンは怒りますが、雪人クンは王子にひとつの提案をしました。

「教えてもいいですけど、その前に僕たちの仕事を手伝ってもらえませんか?」

 

「大味ですねえ」

首輪につながれた魔法使いが、煮物の感想を率直に呟きます。

「うるさい!」

シンデレラは小人の家で五人分の夕食を準備しています。二人の小人と王子は、木こりの仕事に出かけました。王子はすっかり舞踏会のことを忘れているようです。

「ワタシ、これでも料理には自信がありまして」

「そんな格好で言われても」

この首輪を外してもらおうと、魔法使いは必死です。シンデレラは鎖の根元を厳重につないでいるので、魔法使いはキッチンの周囲しか動けません。

「おいしいリンゴはいりませんか」

日も暮れてきた頃、小人の家にリンゴ売りが訪ねてきました。

「押し売りお断りって言っておいで」

シンデレラは手が離せないので、魔法使いに命令しました。

「そんなこと言っても、この鎖じゃドアまで行けませんよ」

「逃げたら、地の果てまで追いかけるから」

「…わかってますって」

首輪を外された魔法使いは、軽やかな足取りでその扉を開けます。

「押し売りはお断りなんですよ」

「白雪姫はいるかしら?」

見たこともない美人が、カゴを携えて立っていました。美しさと有無を言わせぬ迫力に魔法使いは圧倒され、思考能力も飛んでいきます。

「キッチンです」

今この家で料理を作っているのはシンデレラ。完全な人違いなのですが、来訪者はそんなことは知りません。魔法使いには目もくれず、キッチンへ向かいます。

「リンゴは美容にいいのよ」

「役立たずの魔法使い!」

押し売りを招き入れた魔法使いに、シンデレラは激怒しました。その声で正気を取り戻した魔法使いは、今になって自分の仕事を思い出します。

「もうすぐ舞踏会の始まる時間では…?」

シンデレラの参加は望めそうにないので、舞踏会で理想の女の子を探してガラスの靴を履いてもらうことにしました。魔法使いは小人の家を抜け出し、全力でひまわり王国のお城へ急ぎました。

 

ひまわり王国のお城です。広いホールで舞踏会が始まりました。

「ほら。隠れてないで、出てきなさいよ」

白雪姫は、片隅で身を潜める大和クンを引きずり出します。

「イヤよ。こんな格好でボク…恥ずかしいよ」

「いいじゃない、似合ってるわよ」

「そんな…。そもそも、どうしてボクがドレスなの?」

大和クンは女装していました。とても可憐なのですが、本人は不満なようです。

「サイズの合うタキシードがないんだから、それで我慢しなさい」

がっくりとうなだれる大和クン。そんな嘆きも知らず、周囲の目は二人に釘付けでした。

「――――見つけた」

そして、この人の目にも止まってしまったのです。

 

「つ、着いた…」

魔法使いはようやくお城にたどり着きました。すぐさま理想のシンデレラを探します。

「おお、あれこそシンデレラ!」

ホールを見渡すと、飛びぬけた美貌の少女を発見しました。小柄で長い髪、美少女。まさにおとぎ話のヒロイン。魔法使いは小躍りしながら少女に接近します。

「あ…あの、お嬢さん。ワタシのシンデレラになってください!」

「わたしは白雪姫よ」

「白雪姫でもいいからお願いします。ワタシを助けると思って、この靴を履いてください」

魔法使いはガラスの靴を差し出します。白雪姫はそれを一瞥して言い放ちました。

「ダサイじゃん!」

その言葉に魔法使いは石化します。シンデレラの理想像が、音を立てて崩れていきました。

「あげはちゃん、助けて!」

そこへ大和クンが駆け寄ってきます。どうやら、しつこい男の人に追われているようです。大和クンが背後に逃げ込むと、白雪姫は持ち前の毒舌でその輩を撃退しました。

「あれ? この人は…?」

「ああ、なにか変なこと言ってたわね。ガラスの靴がどうとか」

大和クンは、白雪姫の隣で固まっていた魔法使いに声をかけます。

「あの…大丈夫ですか?」

思いやりのある言葉に癒されて、魔法使いは元に戻りました。

「うわあ。綺麗なガラスの靴だ」

足元にあった靴を見て、大和クンは歓声を上げます。その率直な反応に、魔法使いは泣けてきました。こういう反応こそ、おとぎ話のヒロインだと感動したのです。

「お嬢さん、その靴を受け取ってくれませんか」

「えっ。こんな素敵なものを?」

「お願いです。それをだれかに履いてもらわないと、ワタシは家に帰れないんですよ」

嘆く魔法使いを気の毒に思った大和クンは、その靴を履いてみました。

「ぴったりだ。どうして?」

「その靴は魔法の靴だから、履いた人のサイズに大きさを変えてくれるんですよ」

「へえ、すごいや」

大和クンは嬉しそうに笑います。

「そうだね、小林クン」

「だ、だれ?」

大和クンの背後に現れたのは、ひまわり王国の王子様です。

「このお城の王子様だよ」

「あなたが変な実験ばかりしてる、変わり者王子ね?」

白雪姫の毒舌攻撃ですが、この王子はまったくダメージを受けません。

「そういうキミは、毒リンゴを食べても死なない白雪姫じゃないか」

毒舌では引けを取らない王子。二人の間に火花が散っています。居合わせた大和クンと魔法使いは、危うくやけどをしそうになりました。

「あ、ジュースだ。ボク、のどが渇いてたんだ」

大和クンがテーブル上のグラスに手を伸ばした瞬間、王子は早業であの液体を注ぎます。気づかず口へ運ぶ様子を、王子はしたり顔で傍観していました。ところが…。

「バカ。そんなものを飲んだら、酔っ払うでしょ!」

白雪姫が大和クンの手からグラスを奪取し、一気に飲み干します。

「あーあ」

それを見た王子は、白雪姫の視界に入らない場所へ大和クンを避難させました。状況が分からない魔法使いは右往左往。

「あの…?」

白雪姫が空になったグラスを置き、その正面では魔法使いが首を傾げます。

「――――…」

空ろな瞳をした白雪姫と目が合った魔法使いは、とてつもなく嫌な予感がしました。今日は人生最大の厄日と言えるような体験を味わったのです。これ以上、怖いことは起こってほしくありません。もつれる足取りで後退するものの、身柄を拘束されました。その上、サングラスをはぎ取られてしまいます。魔法使いの素顔を見た白雪姫は、顔を紅潮させました。

「あの…サングラス、返してもらえませんか。それがないと、ワタシ仕事ができないので」

哀願する魔法使い。大和クンと王子は、様子を遠巻きに眺めています。白雪姫の変わりように、大和クンは不安になりました。

「ち、千尋クン。まさか、さっきのグラスになにか入れたんじゃ…?」

「本当は、小林クンが飲むはずだったんだけどね」

「な…なにを入れたの!?」

「それはね」

「――――結婚して!」

ホール中に白雪姫の声が響き渡り、魔法使いは凍りつきます。

「ほれ薬だよ」

王子は極上の笑みを浮かべ、白雪姫は魔法使いの襟首を掴んで叫びました。

「結婚してくれるまで離れないから!」

「だけどよかったよ。もう一人前、残っていて」

「えっ!」

「だから、はい。これ飲んで」

王子はジュースの入ったグラスに薬を注ぎます。大和クンは悲鳴を上げて逃げ出しました。

「だれか助けて!」

大和クンが長い階段を駆け下りていると、十二時を知らせる鐘が鳴り響きます。途中転んでしまい、靴が片方脱げてしまいましたが、履き直す時間はありません。大和クンは脱兎のごとく、お城から抜け出しました。その残されたガラスの靴を王子が拾います。なにやら思案気味の表情です。また新しい罠を考えているのでしょうか。

「うう、足が痛いよ」

必死に走った大和クンは、小さな村にたどり着きました。夜中なのに明かりが灯って、にぎやかです。とりあえず水を飲ませてもらおうと、群衆の中に入っていきました。

「どうしてこんなに騒いでいるんですか?」

大和クンは優しそうな女の人に水をもらい、問いかけます。

「実は、井戸を掘っていた現場から温泉が湧いてきてね。これで村が観光名所になるって、みんな喜んで宴会をしているのよ」

「母さん。お姉ちゃんの姿が見えないんだけど…」

「ああ、吹雪ちゃんなら、昼間魔法使いさんを追いかけて出て行ったきり、まだ帰ってないのよ。でも吹雪ちゃんなら大丈夫。あの子たくましいから」

「そんなこと言ったって…」

「あら、大和ちゃん。足から血が出てるわ。手当てしないと」

そうして、ひまわり村の夜は更けていきました。

 

小人の家。二人の小人も王子も沈み込んでいます。部屋の中央には、息絶えたシンデレラの姿。三人が仕事を終えて家に帰ると、シンデレラが倒れていました。近くには一口かじられたリンゴ。おそらく、このリンゴに毒が入っていたのでしょう。

「おい、なにか生き返らせる方法はないのかよ」

「こういうときにばかり、あてにするなよ」

いつもは頼りになる雪人クンも、人を生き返らせる方法など知りません。慎吾クンと二人で頭をひねらせています。王子は黙ったまま、シンデレラを見つめていました。

「おとぎ話だったら、白馬の王子様のキスで目が覚めるのに…」

慎吾クンが呟くと、雪人クンは猛烈に反論しました。

「そんなことで、人間が生き返るはずがないだろう!」

「でも、そこにいるけど。王子様」

「なっ…」

雪人クンの胸中も知らず、王子を指差す慎吾クン。いきなりそんな提案をされた王子は、焦って顔を真っ赤にします。

「却下! そんな非科学的な方法、信じられないね」

「じゃあ、どうしたらいいんだよ」

「だから今、それを考えてるんだ!」

王子は話が流れて安心しましたが、雪人クンに睨まれてしまいました。

「…あの怪しげな魔法使いでも連れてくるか。頼りなさそうだけど、なにか手段を知っているかもしれない」

「そういえば、いつの間にいなくなってたんだ?」

「案外、あいつが犯人なのかも」

雪人クンの言葉に慎吾クンも頷いています。魔法使いは無実なので、とんだ濡れ衣ですね。

「あ、クモ」

沈黙を保っていた王子が、真上から糸を垂らして降りてくるそれを発見しました。そのとき、シンデレラの手が微かに動いたのですが、だれも気づきません。黄色と黒の横縞模様のクモは、軽やかにシンデレラの顔へ降りていきます。それを追い払おうと、王子はシンデレラに近づきました。まさにその瞬間です。

「ぎゃああっ!」

突如、シンデレラが絶叫しました。死者が飛び起きた光景に、三人とも言葉を失います。

「ク、クモ…クモが――――」

シンデレラは半泣きで王子に助けを求めました。王子は混乱しながらも、クモを追い払います。ともかく、シンデレラは息を吹き返しました。

 

『お妃様?』

珍しく思案に暮れる王妃様に、鏡は控えめに呼びかけます。どこかへ出かけて帰ってきてから、ずっと様子がおかしいのです。

「どうしてかしら…?」

どうやらリンゴの罠が空振りに終わってしまったらしく、九個のリンゴを見比べていました。

『白雪姫は普通のリンゴを選んだんですか?』

「そうなのよ。それなのに、リンゴをのどに詰まらせて、倒れてしまったの。なんてことかしら。こんな予想外な展開は初めてだわ」

王妃様は自分の計算が狂ったことにショックを受けているようです。これを機会にまともな王妃になってもらいたい鏡は、王妃様を励ましました。

『お妃様、たまにはそういうこともありますよ。だから元気を出してください』

鏡は王妃様の性格を完全に理解していなかったようです。王妃様は笑顔で鏡に聞きました。

「おまえは何番目のリンゴが食べたい?」

『お、お妃様…』

王妃様がリンゴを差し出すと、鏡は衝撃のあまり、粉々に割れてしまいました。やはり王妃様と付き合うには、かなりの精神力が必要とされるようですね。

 

その後のシンデレラはというと…小人の家で家事に勤しんでいます。温泉の発掘により、ひまわり村は一躍観光スポットとなり、村の財政は安定しました。豊かになったのなら、自分のいる必要はないと、小人の家に居座ることにしたのです。

王子は雪人クンに労働力をあてにされ、慎吾クンに頼りにされ、王子という立場に未練もないので、小人の家で暮らしています。実際のところ、理由はそれだけではないでしょうけど。

現在のところ、四人で仲良く暮らしています。シンデレラは家事一切を仕切って楽しそうです。やはりシンデレラには仕切ることが生きがいなんですね。

小人Aの大和クンは、ひまわり村で学校に行っています。お城から逃げたあと、村長さんに気に入られて家に連れて行かれたようです。そして小学校に入学させられてしまいました。ボクは高校生だよと訴えても、信じてもらえなかったのです。

ひまわり王国の王子様は、残されたガラスの靴でどんな罠を作ろうかと模索中です。大和クン、気をつけてくださいね。

そして白雪姫は、今日もサングラスの魔法使いを追いかけています。魔法使いはとうとう失業してしまいました。この二人に平穏が訪れる日はあるのでしょうか。

 

to be continued…?

 

 

楽屋裏インタビュー

シンデレラ:小林吹雪

「あんな巨大なクモ、どこから連れてきたのよ! 二度と出ないからね、こんな芝居!」

白雪姫:斉藤あげは

「先生とのラブシーンがあったらよかったのに」

魔法使い:小林燕

「どうしてワタシはこんな役なんですか…」

ひまわり王国の王子:小林千尋

「出番が少ないと思うのは、気のせいかな?」

隣のそのまた隣の国の王子:小林健吾

「…こんな衣装、二度と着ないからな!」

小人A:小林大和

「楽しかったね、雪人クン、慎吾クン」

小人B:小林雪人

「ノーコメントにしてください」

小人C:小林慎吾

「小人の役なんてできなくなるくらい、大きくなってやるからな!」

隣の国の王妃:小林真尋

「フフフ…」

王妃の鏡:日影只男

「………僕には…とても…耐え切れません……」

シンデレラの母:小林静

「カボチャの煮物ができたわ。みんなで食べましょう」

シンデレラの妹:向井ゆり

「おいしそう」

シンデレラの妹:小林深雪

「いただきます」

ひまわり村の村長:校長先生

「皆さんに楽しんでもらえたならよかったです」

ひまわり村の村人:2‐Aの皆さん

「お疲れさま!」

 

シャッフル…???

 

むかしむかし、あるところに仕切り屋の白雪姫がおりました。どうして配役が変わっているかって? それは――――。

「吹雪ちゃん…じゃなかった。白雪姫」

小人Aの大和クンが、白雪姫に話しかけました。

「なあに? 小林クン」

とても上機嫌の白雪姫は、調理の手を止め笑顔で答えます。ここには愛らしい小人が二人もいるので、腕によりをかけて食事を作っていました。

「ボクね、お腹すいちゃった…」

大和クンは恥ずかしそうに言います。

「姉ちゃん! オレも腹減った。メシまだ?」

そこへ小人Bの慎吾クンが現れて、空腹を訴えました。

「慎吾クン。もうすぐできるから、待っててね」

二人の小人から頼りにされ、白雪姫は嬉しそうです。かなりの邪念を感じますが…。

「うるさいわね、そこ!」

吹雪さん、ナレーションに突っ込みを入れないでください。

「そんなのこっちの勝手でしょ!」

そんなこと言うと、配役変えますよ。

「……………」

アナタがどうしてもって言うから、白雪姫の役にしたのに。

作者の反撃に、白雪姫は沈黙しました。さあ、劇に戻ってください。

「姉ちゃん。早くメシ!」

「吹雪ちゃん」

不服顔の白雪姫でしたが、二人の声に一瞬で機嫌が直ります。小人の大和クンと慎吾クンに、白雪姫はメロメロになっていました。

 

皆さん、お忘れかもしれませんが、この国には罠を趣味とするお妃様がおりました。

「フフッ。今日もまた、だれかが罠にかかったようね」

あの…真尋さん。PTAなのに全作に出演してますよね。

「あら。いけない?」

それはかまいませんけど…。

「だって、こんな楽しいこと、見ているだけじゃつまらないでしょう?」

ええ、ごもっともで。けど、できれば脚本には忠実に…。

 

「ひょっとして…また罠の森、か?」

ピンポーン、正解です。隣の国の王子様、勘がいいですね。

「正解です、じゃねえ」

あの、気づいてますか。さっきからずっと同じ道を迷ってますよ。

「……………」

分かってるんですね。だけどこの迷路を抜けても、今回健吾クンの出番はないかもしれません。白雪姫が小人二人にショタってますから。完全にお芝居を忘れてますよ、吹雪さん。

「だったら、こんな格好させるなよ!」

だって、個人的に見たかったから。

「人で遊ぶな!」

健吾クン、怒って行ってしまいました。そっちは行き止まりですよ。

 

さて、今回のシンデレラはというと――――。

「先生!」

毒舌シンデレラが、舞踏会で一目ぼれした王子様に求婚していました。どこへ逃げても追跡するシンデレラに、王子様は弱っています。

「あ、あげはサン、困りますよ」

延々と逃げ回る王子様。

「結婚してくれたっていいじゃない!」

「そんなこと言われても…」

そこへ、美形の魔法使いが通りかかりました。

「あ、いいところへ。千尋クン、助けてくださいよ!」

王子様の燕先生は、魔法使いに懇願しました。

「やだね」

マイペースな魔法使いは、その頼みを一蹴して通り過ぎます。

「そんな…」

ものを頼むときは、相手を見てから頼むべきだと思いますよ、燕先生。

「先生、捕まえた!」

憐れな王子様は、シンデレラに捕まってしまいました。この王子様の命運は尽きたようです。

「だれか、助けてくださいよ」

残念ですが、助けられません。

 

さて、今日の魔法使いは退屈でした。

「ねえ、小林クンはどこ?」

大和クンなら、小人の家で白雪姫と仲良くしてますよ。

「ふうん…」

面白くなさそうですね、千尋クン。

「そりゃあね」

でも、今回はこういうお話なんですよ。読者の方、今回は全然シャッフルしてないとお思いでしょう。それはね…。

「――――罠だから!」

千尋クン、肝心な台詞を。

「だって、退屈だったから」

だからって…。千尋クン、作者に罠を張って、ただで済むと思いますか。

「ただで済まなきゃどうなるのさ?」

わたしのモットーは『目には目を、罠には罠を』です。

「へえ、楽しみだね」

余裕の顔で笑っていられるのも、今だけだからね、千尋クン。

さあ、作者はどうやって千尋クンに罠返しをするのでしょうか。ちなみに、この小説のタイトルは『罠シャッフル』でした。

 

 

楽屋裏インタビュー

皆さん、お疲れさまでした。恒例の楽屋裏インタビューです。

まずは小人Aの小林大和クン。今回は女装がなくてつまらなかったですね。

「ボク…もう絶対、女装はイヤだからね!」

えっ、どうして。

「ボクは男の子なんだから!」

一部の人からは好評なのに…。

「とにかく絶対しないからね!」

はい、わかりました。と答えておきましょう。

「オレ、もう帰る!」

小人Bの小林慎吾クン。なにかコメントをお願いします。

「小人なんて、二度とやらないからな!」

そんなこと言って。あのお姉さんが白雪姫だと聞いて、出るって言い出したくせに。

「――――!」

そういうところは、お兄ちゃんに似てますね。

「とにかく、これが最後だからな!」

早足で逃げてしまいました。

お次は、王子様役の小林燕先生。

「……アナタは、ワタシを何度こんな目に遭わせたら気が済むんですか」

だって、燕先生ってやられキャラなので。

「だからって…」

「先生、捕まえた!」

シンデレラ役の斉藤あげはさん。今日も燕先生にべったりですね。

「当然でしょ!」

今回は、あげはさんの希望で王子と魔法使いの役が入れ替わってます。

「先生が相手役じゃなきゃ、こんなものには出ないわ!」

「ワタシはいい迷惑ですよ」

好きにしてください。次、行きます。

王子様役の小林健吾クン。話の展開上、だれとの絡みもなかったですけど。

「……――――」

なにも言わないなら、勝手にコメント作りますよ。

「待て!」

だったら、なにか喋ってください。

「こういうのにオレを出すなよ」

健吾クンがいないと、つまらないじゃないですか。

「そんなのオレの知ったことじゃない」

そんなこと言ったら、後悔することになりますけど。

「…………?」

健吾クンが出ないなら、彼女の相手役はだれになるのかな。

「――――――!」

さあ、次行きましょう。

「ちょっと待て!」

待てません。

次は、白雪姫役の小林吹雪さん。今回は、要望にお答えしましたよ。

「…それに関しては、感謝してるわ」

両手に花状態に、かなりご満悦のようです。

「余計なことは言わないでよ!」

だって、事実ですから。

「――――…」

まあ、これで要望は叶ったってことで…次の方。

「ちょっと待った!」

なんですか。

「あのさ…他の小説のことだけど」

そんなこと、この場で言われても…。

「どっちみち作者はアンタでしょ!」

それはそうですけど。で、他の小説がどうかしたんですか。

「その…話の展開が…」

なにか問題がありますか。

「大ありよ! なんで、あんな心臓に悪い脚本ばっかり書くのよ!」

心臓に悪いですか? それは吹雪さんだけだと思いますよ。

「だって、あんな――――」

だんだん舌が回らなくなってます。他の小説に関しての苦情は受け付けません、あしからず。

さて、お妃様役の小林真尋さんは――――。

「次は●●の役がしたいわ」

と言い残して帰ってしまいました。それは多分…いや、絶対に無理です。

 

以上でインタビュー終わります。

え、千尋クンがいない…? 今回、彼のインタビューはありません。だって、それが作者の罠返し第一弾なんですから。

さあ、次はどんな罠返しを仕掛けようかな。罠返し第二弾はいずれどこかで。

 

 

 
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