No.802116

天馬†行空 四十六話目 『鴉』

赤糸さん

 真・恋姫†無双の二次創作小説で、処女作です。
 のんびりなペースで投稿しています。

 一話目からこちら、閲覧頂き有り難う御座います。 
 皆様から頂ける支援、コメントが作品の力となっております。

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2015-09-14 01:00:41 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4228   閲覧ユーザー数:3184

 

 

 ――城陽、そして北海。

 

 今でこそ袁紹が治めている土地であるが、これら二郡は元々別の太守がいた。

 なのだが、袁紹は鄴から前太守韓馥を降して占領した時と同じく城陽と北海を制圧したのだ。

 今、この二郡では黎陽へと急襲した曹操軍を迎撃するための急援隊が編成されている。

 

「急げ! こうしている間にも逆賊共は黎陽へと歩を進めているのだぞ!」

 

「物資の積み込み急げ! 出来た隊から騎乗せよ! 我らの力で本来あるべき王朝の姿を取り戻すのだ!!」

 

 その一つ、北海郡。

 元は孔子の子孫である孔融(こうゆう)が治めていた土地ではあるが、今は袁紹の下に身を寄せた都落ちの元将軍達が詰めている。

 実はこの北海占拠には袁紹――というより洛陽を追われた元清流派達の――ある思惑が絡んでいた。

 現皇帝が掲げている儒教軽視政策(と彼等は歪曲している)に対しての大義名分を得る為に孔子の末裔である孔融を味方に付けようとしていたのである。

 政も知らない子供が出した愚かなこの政策には孔融も憤っており、必ずや協力を得られる、いや、むしろ進んでこちらの味方になってくれるであろう、と袁紹を含め誰もがそう思っていた。

 

 

 だが――

 

「へぇ、流石は天子様だ。上手い事考え付くねぇ、これで歪に捩じくれた木に生る汚臭を放つ腐った果実は悉く地に落ちることだろうよ」

 

 孔融は訪れた袁紹の使者が見せた劉協の政策についての弾劾文に対し、こう述べたのである。

 呆気に取られる袁紹の使者は素気無く北海の城から追い返され、袁紹は怒り狂った。

 

「きいいいいいいいいいいいぃっ!!!!! な・に・が・孔子二十代目の子孫ですの!! とてもわたくしと同じ高貴な血を引く名族とは思えませんわ!!」

 

 周りの者たちが静止するのも聞き入れず、袁紹は北海を攻めて孔融を捕らえようとしたが、それよりも一足早く孔融は何者かの手引きによって難を逃れたのである。

 大義名分は得られず、逆に孔子の子孫が治めていた土地を力で奪ったという悪評が立つことを恐れた袁紹の取り巻き達は消息不明の孔融が袁紹の徳を称えて北海を譲った、という風評を流した。

 同時期に鄴、城陽を制圧して城下に多数の巡回兵と風評を広める間者を放った成果もあってか、人々は表向き袁紹の統治下に入ることを了承する。

 尤も、あくまで表向きの話ではあるが。

 暗愚の相が強かった韓馥の政から解放された鄴の民は洛陽を救った漢の名族たる袁紹の統治を喜んだが、城陽の民は寧ろ(戦乱が続いた中原に比べれば)まずまず平穏に暮らせていたところに降って沸いた金色の鎧が町を闊歩する事態を(顔や口には出さないものの)迷惑に感じていた。

 北海に至っては言わずもがな、である。

 

(何が正しき漢の姿だ、侵略者共め)

(平原から移ってきた人達の言う通りね。本当に横暴な連中だわ)

 

 故に、民達は出陣の仕度に大わらわな袁紹兵達の様子を冷ややかに見つめていた。

 

「よし、全部隊準備が出来たな? ――では、出陣である!!」

 

『応っ!!!!!』

 

 意気揚々と北海の城門をくぐって出て行く兵士達はそんな民達の様子には気付かない、いや、気にも留めてはいない。

 袁紹という大きな柱に寄り掛かって甘い汁を啜る彼らにとっては城陽や北海は仮の宿りに過ぎず、何れ到達する(元清流派からすれば凱旋する)洛陽での贅沢な暮らしの方が魅力的に映っているのだ。

 現状では傀儡の帝に北方の弱小勢力(と侮っている)である公孫賛、更には宦官の孫風情に攻められてはいるがいずれも個々の兵力ではこちらに及んではいない。

 鄴、渤海の本隊に加え、自分達が戦線に加われば拙速にも黎陽を攻めている曹操軍などすぐにでも蹴散らせるものと彼等は思っていた。

 折りしも南方の劉備は袁術に攻められているらしい。

 義勇軍上がりで元々農民風情が主の劉備軍では名族たる袁家に連なる袁術軍には兵の質でも数でも敵うまい、南には注意を払う必要もないと彼等は高をくくっていた(この時点で袁紹軍は袁術軍の敗北を知らない)。

 

(西の曹操もほぼ全兵力を渡河させて北進している為、こちらの動きまでは抑えきれまい)

 

 黎陽急援軍の参謀、審配(しんぱい)はそう判断すると自身の馬に鞭をくれる。

 

「急げ! 一刻も早く進軍し、曹操軍を挟撃するぞ!!」

 

 一刻も早く黎陽へ駆けつけんとする審配達は、やはり最後まで気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 ――彼らの姿が北海から見えなくなってすぐ、北海に「劉」の旗が掲げられたのを。

 

 

 

 

 

「ほう、見えましたな」

 

「いよいよですね。張允殿、油断なきよう」

 

 江陵と武陵を隔てる長江の中程あたりで、南下する劉表水軍は北上してくる董卓水軍を視界に入れた。

 長年に渡って長江に親しんでいる張允は水平線の端に覗いた幽かな紫の色だけで敵の旗を認めて目を細め、そこまで水戦慣れしていない蒯越は水平線に目を凝らしながらどことなく楽観視している風にも見える張允に警鐘を鳴らす。

 

「はいはい、了解してますよ軍師殿」

 

 しかし、張允の顔に浮かぶのはあくまで余裕の表情。

 尤も、水軍慣れしている張允にしてみればこの態度も当然のものである。

 いくら水練を積んだとはいえ、一年にも満たぬ練度の水軍などたとえこちらの倍の兵力差であっても恐るるに足りない、と張允は判断していた。

 

「さて、初手はこちらが頂きますか」

 

 一直線に進んでくる敵船団を見据え、張允は握り拳を天に突き出す。

 途端、ざあっ、と水飛沫を立てて劉表水軍は滑らかに弧を描いて二手に別れ、敵船団の横腹を突くように動き始めた。

 

「うむ、上出来だな。――弓兵構え! 次の合図で一斉射撃を行う!」

 

『はっ!!!』

 

 董卓の船団はこちらの急な動きに対応しきれず、警戒してか速度を落とす。

 

(慎重な相手か、はたまた臆病な相手か――ふ、まあどちらにしてもこちらの思うツボだな)

「…………よし! 撃ち方――」

 

 易々と敵船の横を取り、弓の射程圏内に的を捉えた張允が号令を下そうとしたまさにその時――。

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

「――っ! (まん)を張れっ!!!!!」

 

 踏蹶箭が射ち込まれた方角から突如来襲した大軍を目にした高幹は、その先陣が騎兵である事を認めるとあらんばかりの声を張り上げた。

 雷鳴のように響き渡ったその声に反応し、兵達は即座に幔を張る。

 突如として関の上に隙間なく掲げられた長方形の布は、まるで船上に張られる帆を想起させた。

 横は七尺、縦に十尺ほど(おおよそ横二メートル、縦三メートル)の大きさのこの布は布幔(ふまん)と言い、麻の縄を厚く編まれた物を支柱に緩く固定された物を指す。

 わざと緩く柱に固定する事で矢や石弾の衝撃を殺しやすくしてあるのだ。

 これにより、たとえ貫通力がある強弩が中って布幔を突き破っても威力は大幅に殺されてしまい、布幔の後ろにいる兵には殆ど被害を与えられなくなる。

 

(騎射――か!)

「来るぞ! 盾構え!」

 

 とは言え、向こうの大群に比すればこちらの戦力はあまりに少なく、いくら要害に拠っていてもその差は埋めきれない。

 一瞬で逆転してしまったこの難局を乗り切るには鄴からの援軍を頼みにするしかないだろう、と高幹は即座に判断した。

 ならばここからは可能な限り兵の損耗を避けねばならぬ。

 一気呵成に詰め寄ってくる張燕の兵達を幔の隙間から睨み付け、次に高幹は砂塵を蹴立てる馬群の後方へと目を遣った。

 

(やはり騎馬は牽制か。本命は続いてくる歩兵――故に踏蹶箭を見当違いの方向へと放ったのだ!)

 

 未だ後方に控えている司馬懿の本隊を目の端に捉えたまま、高幹は関に肉薄する騎馬隊を認めて自身も盾を構える。

 

(来るがいい。――だが、そう簡単にはここを落とさせはせぬ!)

 

 ――二呼吸の後。

 

「ち……っ!」

 

 馬蹄が大地を蹂躙する凄まじい音と共に黒い雨が関の上に降り注いできた。

 その殆どは幔に当たって止まるか、貫いた後盾の表面をかするだけ。

 自軍に被害は無いに等しいのだが、何しろ矢の数が多く、また幔を張ったために視界が悪い。

 だが、高幹はすでに敵の狙いを読み切っている。

 

「皆の者! 私に続けぇ!! 敵歩兵を関に上がらせるな!!!」

 

『おおおおおおおおおおおっ!!!!!!』

 

「辛評! お前は兵五百を率いて引き続き先陣に当たれ! 敵の一挙手一投足を見逃すなよ!!」

 

「ははっ!!!」

 

 その場に留まり鍾会の部隊に矢を射掛ける辛評らを背に、高幹は箭が射ち込まれた方面へと急ぎ兵を集める。

 幔の隙間からは張燕の騎馬隊が上げた土煙で霞んでいるが、わずかに映る視界には関へと殺到する歩兵の姿があった。

 

「撃ち方始め! 石と熱湯も用意せよ!!」

 

 配置に着くや否や、檄を飛ばした高幹が、

 

(ん――――? ッッ!?)

 

 何かに気付き、驚愕に目を見開いた次の瞬間――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異なる二つの戦場で、

 

 

 

 

 

「軍師さんよ! 敵さんが圏内に入ったぜ!!」

 

「準備かんりょー!! いつでも行けるよ!」

 

「ご苦労様、刑道栄殿、劉賢殿。それでは、展開」

 

 荀攸が静かに告げた一言で船の側面の板が外側に向かってパタン、と倒れ――

 

 

 

 

 

 天の采配か、まったく同じ瞬間に、

 

 

 

 

 

「いやいや、ほんと機知に長けてるね高幹は。とてもあの袁紹と血縁関係にあるとは思えないねー」

 

「将軍、次弾装填を完了致しました」

 

 砂埃に煙る壺関に微笑ましいものを見るような目線を向ける司馬懿に、駆け寄った兵士は片膝を付く。

 

「はいはい、んじゃ、やりますか」

 

(ま、その機知に長けてるのが命取りなんだけどね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『発射』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異なる声音で告げられたその言葉と共に――――鴉が啼いた。

 

 

 

 

 

「いささか不味いですね。このままでは顔良殿と文醜殿のどちらも――」

 

「いや、軍師殿。それは無い」

 

 倒れてしまう、と続けようとした著莪を遮り、斎姫は二人の一騎打ちから目を離さぬままにそう告げた。

 

「何故です? あの二人の力量は拮抗しているように見受けられますが……」

 

「確かに――ですが、文醜の方は覚悟は出来ても準備が出来ていなかった」

 

「準備?」

 

 何の、と視線で問う著莪に対し、

 

「自らの武を十全に発揮する為の得物、ですよ」

 

 一見、斗詩と対峙する猪々子は肉厚の大剣を常よりも巧みに扱っているように見える。

 少なくとも著莪には猪々子の剣捌きは熟練した武人のそれに思えた。

 

 

 

 

 

「せやぁっ!!!」

 

 一閃。

 

「――っ、もひとぉぉっつ!!!」

 

 横に薙いだ大剣は空を切るが、猪々子は無理やりに剣の軌道を変えて斬り返す。

 

「……」

 

 それを無言のまま一撃目は身を屈め、斜めに切り下ろされた剣先を見つめたままかわす斗詩。

 武人ではない沮授には判らぬ、しかしこの場にいる三人には確りと解る――その意味は。

 

(――――くっそ)

 

 切り下ろしの隙を消す為、地に傷痕を刻んだ重い鉄の塊を無理やりに引き抜きながら飛び退る猪々子は心の中で悪態を吐いた。

 

「はぁっ!!」

 

 刹那、引ききる前の大剣を伝う衝撃。

 

(速ぇえっ!)

 

 今まで鉄槌を扱う斗詩を見慣れていただけに、彼女が有する本来の力量を久し振りに見た猪々子はその速度に舌を巻く。

 瞬時に踏み込んで来た斗詩の槍は的確に大剣の腹を衝き、剣の主へと戻らんとするその挙動を僅かながらに狂わせた。

 

(!! ――間に合わ)

 

 踏み込み、衝いた勢いのまま斗詩が軸足を中心として回転し、

 

「――往くよ」

 

 その背が猪々子の視界から一瞬だけ二の太刀を隠す。

 

「疾っ!!」

 

 鈍く、しかし高らかに響いた鉄を打つ音。

 

(なかった……か)

 

 己の得物は既にその手の中には無く、気が付けば親友は大剣を弾き飛ばした剣ではなく槍をこちらに突き付けていた。

 ざすり、と斬山刀がやけに大きな音を立てて地に突き立つ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 対峙する二人だけではなく、見守っていた両軍共に誰一人声を上げる者は無かった。

 どれだけ無音の時が過ぎたか、喉元に槍を突き付けられている猪々子が不意に破顔する。

 

「……やっぱ、斗詩はすげーや」

 

 それは心からの賛辞だった。

 混じり気の無い、清々しい笑顔で猪々子は親友の目を見る。

 

「文ちゃんこそ」

 

 ふっ、と斗詩は微笑を浮かべてそれに応えた。

 

「…………」

 

「…………いいぜ斗詩、もう、覚悟は出来てる」

 

 だがそれも一瞬のこと、すぐに表情を引き締める二人。

 微動だにしない斗詩に、猪々子は告げた。

 

 ――己を討て、と。

 

「……」

 

「斗詩には色々と謝んなきゃいけないけど――ごめんな」

 

 当事者達以外は沈黙の帳に包まれる中、覚悟を決めた者の声だけが響く。

 

「それと――今まで、本当にありがとな」

 

 どこか昔を懐かしむように、穏やかな、とても穏やかな声音が。

 

「最後に一個だけ頼むよ――――斗詩、姫の目も覚ましてやってくれ」

 

「――っ」

 

 優しい瞳でそう告げた猪々子の首から槍が一度引かれ、

 

「――――文ちゃんっ!!!!」

 

 決死の形相の斗詩が再び槍を繰り出そうと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「斗詩! 猪々子! なにやってんだ二人とも!!」

 

 した正にその時、

 

「このおバカ!! ――っ、もう!! 全員!!! その場で正座しろっ!!!!!!!!」

 

 白馬に乗った救世主が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛来するそれは太い矢のように見えた。

 いや、形容するのなら『矢』というよりも銛や槍に近い。

 放物線を描いて迫りくる一本の銀。

 それは前触れも無く――。

 

『な…………っ!!???』

 

 船上の張允が、関の上の高幹が、同時に大きく目を見開く。

 驚愕に彩られた両者の瞳には、”先端に鏃が無い鉄の筒から溢れ出した無数の矢”が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

寒鴉箭(かんあせん)、って言うんッスよ」

 

「鴉? それはまた何でだい?」

 

 郝昭が築いた陣より後方に数十里にある物資集積所にて馬鈞が口に出した聞き覚えの無いその単語に、薛綜は眉根を寄せる。

 

「ホントは名前なんて無くても良いッスけど……アレに鴉って付けたのはそのままの意味なんスよ」

 

「ふむ?」

 

「トウ※(豆偏に斗)って鉄の筒に矢を何十本と詰めてあるんス。で、それを床子弩で撃ち出すんスよ」

 

「……成る程ね、放物線を描いたトウがその先を少しでも下へと向ければ」

 

 目をスッと細めた薛綜に馬鈞が頷く。

 

「そうッス。一斉に飛び出して来る黒い矢の雨が、空一面を覆う鴉の群れみたいに見えたッスから……」

 

「……ゾッとするねそれは。発射されるのが一本ならまだしも」

 

「はい、敵さんには同情するッスよ。なにせ荀攸さんの旗艦には――」

 

 ぶるりと身を震わせる薛綜に、馬鈞は目を伏せて口を開いた。

 

 

 

 

 

「――オイラの回転式床子弩が二十台も積んであるんスから」

 

 

 

 

 

 だが馬鈞は知らない。

 

 ソレが――

 

「しかし、御遣い様に花火を残した技術者ってのはとんでもない発想をしたもんだね」

 

「まったくです、司馬懿様」

 

 遠く離れた戦場でも姿を見せたことに。

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 お待たせです、天馬†行空四十六話でございます。

 前回のあとがきではここと次の話で色々と決着が付く予定だったのですが、も少しかかりそうです……。

 短い文章になってしまいましたが、今回はここで区切らせて頂きました。

 次回は張允の船団と壺関の被害状況、雪蓮達と黄祖の戦に移行したいと思います。

 

 

 では、次回四十七話でお会いしましょう。

 それでは、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超絶小話:鍛錬中!

 

 

「遅い!」

 

「うわっ!?」

 

 鈍砕骨が何も無い空を切り、頭上から瀑布の如き勢いで振り下ろされる華雄の一撃。

 すんでのところでそれをかわした焔耶はたたらを踏んだ。

 

「これで三度目だ。……今日はここまでにするか」

 

「ま、待って下さい華雄将軍! もう一度! もう一度だけ!」

 

 眼前に突きつけた戦斧を肩に担ぎ、身を翻した華雄に焔耶が懇願する。

 

「やめておけ、その状態ではもはや十全とは言えまい。身を休め、明日にでもまた挑んで来い」

 

「うっ……」

 

 膝が笑っていることを華雄に指摘され、焔耶は短く呻くとそのまま地に膝を付いた。

 

「得物に振り回されている内はまだまだだ。力もそうだが眼も磨け」

 

「目、ですか?」

 

「そうだな…………純然たる武人ではないが一刀の眼は鍛え抜かれている。一度、手合わせをしてみると良い」

 

「お館と?」

 

「ああ。勝敗はどうあれ、何かつかめるやもしれんぞ」

 

 振り向きざまにそれだけを語り去ってゆく華雄を見送り、

 

「眼、か」

 

 焔耶はぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 も一つ超絶小話:始動(すでに始まっていたとも言う)

 

 

 ※一刀と星が成都攻略後、夜の城壁で逢瀬をした後日のことです。

 

 

「う~むむむむむむむ~~」

 

「どうしたの風?」

 

 成都城内の東屋にて唸り声を上げる友人に稟は眉根を寄せる。

 

「お兄さんと星ちゃん、ついに大きな進展があったみたいですねー」

 

「進展? ――! ぶふっ!?」

 

 半眼の風の口から出た言葉に反応していつもの如く鼻血を噴き出す稟。

 

「そ、そそそそれがどうかしたの?」

 

「いえ、どうも想夏さんと星ちゃんは同盟関係にあるみたいですからねー。と言う訳で稟ちゃん」

 

「言う訳で、何?」

 

「風達も同盟を組んでお兄さんとの関係を進めませんかー?」

 

「おぶふっ!!????」

 

 あっけらかんと出た言葉にまたしても朱色の噴水。

 

「な、ななななな何を言い出すの風!?」

 

「稟ちゃんだってお兄さんともっと一緒に過ごしたいですよねー?」

 

「…………」

 

「無言は肯定と受け取りますよー」

 

 実のところ、風の言葉は的を得ている。

 稟もまた、あまり表に出さないだけだが一刀には敬愛すべき主君としてだけではなく男性としての魅力も感じているのだ。

 

「それじゃ早速策を練りますよー」

 

「まま待って風! まだ私は――」

 

 でもやっぱり素直に口には出せない稟を置いて風の作戦が今、始まろうとしていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず稟ちゃんにはこの服をですねー」

 

「こ、これ布地がほとんど…………これで一刀殿と………………ぶーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 …………尤も、作戦前から脱落者が出かねない状況ではあったが。

 

 

 

 


 
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