No.800547

とあるギルドの死神様?

piguzam]さん

EP2~ほえ?俺の強さ?……ちょっとだけよん♡

2015-09-05 21:41:42 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5385   閲覧ユーザー数:4984

 

 

 

前書き

 

 

……何で作者は短く話を纏める事が出来ないのだろうか?

 

誰かアドバイスををを(;・∀・)

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん。ここでアレをこーして……」

 

トンチンカン、と間抜けな金属音を鳴らしながらえっちらおっちらと部品を組み上げる。

片手には魔水晶を動力にして動くはんだごてを持ってます。

それではんだを溶かしてジュージューくっつけてっと。

 

「あーとーはー……ふむ、こんなんぶちこんでみよーっか」

 

後は適当にその辺にあった部品をとっつけちゃって……。

 

「はい完成!!いやー我ながら見事な出来栄えだねぇー」

 

出来上がった魔道具を見ながら額の汗を拭う。

うーん。やっぱ転生特典ってチート。上手く活用すればセレブリティな生活も夢じゃ無し。

ソウルイーターの登場人物であるエイボンって人の技術の応用。

それだけで簡単な魔道具くらいなら感覚で作れちゃうんだからねー。

何時もの格好では無く、ギリコの着ていた作業用の服と魔力を消費して物品を作る手袋の姿でうんうんと頷く。

さーて、そろそろ朝食にでもしよっかなーとか思ってたら、作業場の扉が開かれた。

 

「おはよう、ユーキ」

 

「ありゃ、おっはーエルザちゃん。ゴメンねーまだ朝食作って無いんだー」

 

ちょーっと趣味に熱中し過ぎちゃってたかな、反省反省。

扉を開けたエルザちゃんに謝ると、エルザちゃんは微笑みながら首を横に振る。

 

「いや、私こそすまない。世話になっているだけで無く、料理が作れないなんて」

 

「そーれこそ気にしなくていいよん。君を連れてきた責任もあるし、家を借りれる資金が貯まるまで遠慮せずに居てくれてさ♪部屋も余ってる事だしぃ」

 

「あ、あぁ……本当にありがとう」

 

「にょほほ。それじゃシャワーを浴びたら朝食作るから、ちょっと待っててねー」

 

「あぁ、ゆっくりで構わない。私も急いでいないか」

 

ぐうぅ~~。

 

「ら……」

 

……え~っと?……ここはスルーしてあげた方が良かったり?

にこやかに大丈夫といった直後に鳴り響くエルザちゃんの腹の虫。

エルザちゃんはその大合唱に目を丸くして直ぐ、顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

……良し。ここは慰める方針でいきましょ。

 

「ダイジョブダイジョブ!!朝っぱらからハァングリィなのは元気な証拠だべさー!!」

 

「うっ、うぅ……何だか、納得いかん……」

 

自分の鳴ったお腹を恨めしそうに抑えながらそんな事を言うエルザちゃんの横をスルーっと抜け、お風呂に直行。

触らぬ何やらに何と無しってね。

 

 

と、まぁここまでの流れでお気付きになられちゃった?

 

 

ワタクシことユーキ・ヤスダがエルザちゃんと劇的な出会いを果たしてから、実は今日で3日も経ってたり。

んでもってー!!エルザちゃんは俺と同棲しちゃってたりなんかしちゃって!!

羨ましい?俺ももうちょっとお姉ちゃんだったら自慢してたかも。

まぁ理由としては単純に、エルザちゃんの住む所がまだ決まって無いからなんだけど。

それに彼女、まだ家賃とか払うお金も無いし、それ以前に生活必需品とかも無いからねぇ。

 

フライパンに卵を落として目玉焼きを作りながら今日に至るまでの事を振り返る。

ん~、ジューッと焼ける卵の匂いが心地良いねぇ~。

 

「しかし、グレイだったか?あ奴のアレはどうにかならないのだろうか?」

 

「ん~?グレイ君のアレ~?……あぁ、アレねぇ」

 

「そう。アレだ」

 

椅子に座って先に自分の分の飲み物を確保したエルザちゃんの質問に、フライパンから目を離さず答える。

あれ以来俺からのジュースは受け取らないんだよね、ナンデダロウナー?

 

「あの脱ぎ癖はどうにもならないんじゃなーい?本人無自覚で脱いでる時あるし」

 

「そ、そうか……無自覚の変態……新しいな」

 

なーんか愉快な事考えてるなーエルザちゃん。

ちなみに何故グレイ君の話題が出るかと言えば、だ。

エルザちゃんの歓迎の宴の次の日、つまり昨日なんだけど、早速グレイ君が喧嘩を吹っ掛けたからである。

しかもその時パンツいっちょだったもんだから売り言葉に買い言葉もヒートアップ。

んで、マスター立会いの元で戦った訳なんだけど。

 

「にしても~エルザちゃんも最初より強くなってるじゃん。元々素質はあったみたいだしぃ、このまま行ったら妖精の尻尾でもかなり上までいけるんじゃない~?」

 

「いや。私などまだまだだ」

 

「何言ってんのー。そんな事言っちゃったら、エルザちゃんが瞬殺したグレイ君が可哀相でしょ」

 

「む……」

 

俺の言い分に何やら納得いかなそーな表情だけど、実際そうだからね。

エルザちゃんてば、魔力で強化した純粋な格闘術だけでグレイ君をフルボッコにしちゃったから。

魔力の扱いなんて、旅の途中に片手間で教えただけなのにあそこまで使いこなしてたのには俺もビックリしちゃった。

 

「……まぁ、その辺りの事は置いとくとして、だ。私が言いたいのは、無闇に人の前で脱がないで欲しいという事なのだ。昨日も直ぐにまた挑んできたんだが、ああも公衆の面前で脱がれるのは……ちょっと、な」

 

「あ~。そういえば昨日は殆ど戦ってたんだっけ?」

 

「うむ。負けん気が強く、努力してるのも分かる。だが町中で堂々と脱ぐなと言いたい。周りの女子がキャーキャー言っててうるさいんだ」

 

といったエルザちゃんの溜息混じりの言葉に、俺は苦笑いしてしまう。

何度も一発でKOされる事に納得がいかないらしくて、グレイ君てば何度も挑みかかってるんだよねー。

でも昨日は何度も瞬殺されてるのは推して計るべし。

 

「まっ、それが妖精の尻尾の魔導士って事で、頑張って慣れてちょーだいなー」

 

「脱ぎ癖を改めさせる気は最初から無いんだな……」

 

いやだって、それがグレイ君の持ち味だし?

全体に火が通ったと見て、フライパンからお皿へ乗せてっと。

んで、ハムの花びらを咲かせるローズハムの花びらを沿えて完成。

後は焼きあがったトーストを四等分してクォータートーストもOK。

イチゴ、ブルーベリー、ピーナッツバター、チョコ、とジャムをいっぱい取り出しておけば、好きな味がパン一枚で楽しめちゃう。

全部の用意が終わったので、席に付いてさっきから目を輝かせてるエルザちゃんと共に朝食を頂く。

 

「ん……そういえばユーキ。一つ聞いても良いか?」

 

「ズズー。んー?どったの?」

 

「この家なのだが、家賃は月幾ら程なんだ?これだけ広くて倉庫もあるなら、かなり高いと思うのだが……」

 

「え?この家は俺が建てた家だから、家賃なんて無いけど?」

 

コーヒーの味を楽しんでいた所に投げ掛けられた質問に、俺は軽く答える。

驚きに目を見開くエルザちゃんに視線を合わせながら、俺はこの家を買った経緯を教えて上げた。

最初この土地はとある資産家が余らせていたらしく、ボロボロの納屋が建っているだけだったんだよねー。

んで、当時妖精の尻尾に所属したばかりだった俺が家を探していた時にその資産家とギャンブルをする機会があって、この土地を賭けでブン取ったのだ。

後は家の材料を買ったり採取クエストで沢山取ってきたりして、建築家に頼んで引いてもらった図面通りに組んだのがマイハウス。

二階建ての本邸にガレージ兼製作所の倉庫。

裏側にはデカイ庭もあるし、まさに理想の住居だよココ。

長々と話して喉が渇いたのでコーヒーを啜りながら、驚きに目を見開くエルザちゃんに視線を向ける。

 

「まぁ、そんな経緯でこの家を建てちゃった訳。俺のはかーなり特殊なケースだから、参考にはなんないんじゃない?」

 

「そ、そうだな。さすがに同じ事ができるとは思えんし……」

 

「確か、妖精の尻尾専用の女子寮があった筈だけど?」

 

「フェアリーヒルズの事だな。そこならマスターに聞いた。今の所第一候補ではあるが」

 

「まっ、今日はクエストに出てるんでしょ?ならお金も直ぐに貯まるだろうしぃ、焦らず頑張ってちょ」

 

「だが、何時までも居てはお前に迷惑じゃ……」

 

「ノンノン。迷惑だったら最初から誘わないってば。焦って仕事したら怪我しちゃうかもだし、気にせずゆっくりやってちょーだいよ」

 

なおも食い下がろうとするエルザちゃんを諌めてまたコーヒーをズズズーッと啜る。

元々広い家に一人暮らしだし、貯金も有り余ってるから問題無いしねー。

そう答えた俺に対し、エルザちゃんは申し訳無さそーな表情を浮かべてたの、で。

 

「マスターも言ってたっしょ?ギルドの仲間は家族。家族は助け合うものなんだからさー。もちっと肩の力抜いちゃっていいじゃん」

 

「ユーキ……ありがとう」

 

「どーいたましてー」

 

微笑むエルザちゃんに軽く返した所で朝食を食べ終えたので、俺達は支度を済ませる。

そして家に鍵を掛けたのを確認後、倉庫から一台の魔動二輪を引っ張り出す。

主人公のソウル・イーターが乗ってたアメリカンっぽいバイクに跨り、後ろにエルザちゃんをパイルダーオン。

エンジン掛けてギルドにしゅっぱーつ!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「くっそ……ッ!!どんだけ強ぇんだっつの……」

 

「わはは。まーたエルザにちょっかいかけたのかよグレイ」

 

「しかも負けてるし」

 

「うっせぇ!!次はゼッテーぶっ倒す!!」

 

時刻は進んでお昼過ぎ。

 

相も変わらず騒がしい妖精の尻尾の酒場で、仏頂面のグレイ君が周りの冷やかしに怒鳴り返す。

いやー、今日の朝ギルドに来て早々に喧嘩吹っ掛けたかと思ったら速攻でぶっ飛ばされてたもんね。

あの飛び具合。ビデオとかあったら『ホームビデオは撮った!!人が飛ぶ奇跡の瞬間!!』とか題名打って出したいぐらいでした。

まぁこの世界じゃ人の攻撃で人が飛ぶ所なんてそう珍しくも無いけど。

 

そんなこんなで華麗にトリプルアクセルから床にダイブしてさっき復活したグレイ君は不機嫌状態。

 

新入りだからって喧嘩吹っ掛けたのは良いけど、エルザちゃんの強さは今でもギルド内で充分上位に食い込めてる。

勿論グレイ君も成長すればもっと上に行けるだろうけど、現時点じゃまだ勝てないだろうね。

 

「くそ!!……そういえば、アイツ何処行ったんだ?」

 

「エルザちゃんなーらカナちゃんと一緒にお仕事ちゅーだねー」

 

「あ?ユーキ?」

 

荒ぶるグレイ君の台詞にチキン料理を食べながら答える。

最初は他の人とも打ち解けられるか不安だったけど、カナちゃんやレビィちゃんといった年の近い女の子のおかげで少しづつ打ち解けてるご様子。

そんで今日の初クエストはカードの魔法を使うカナちゃんと一緒に行くって言ってた。

いやー、ちゃんと打ち解けてくれてお兄さん嬉しいなー。

感慨深い思いと料理を同時に味わっていると、身を起こしたグレイ君が俺と同じテーブルに座った。

既に半裸なのは見事と言う他無いっしょ。

 

「ユーキは今日、仕事行かねーのか?」

 

「グレイ君がぶっ倒れてる間に一件終わらせて来たよん」

 

「何だそっか。どんな仕事行ったんだ?」

 

「猫探し」

 

「……いっつも思うけど、仕事の落差激しすぎじゃねぇの?」

 

「まっ、その時の気分で受けてるしぃ」

 

「ふーん」

 

俺の答えを聞いて、グレイ君は「それでいいのか」みたいな顔になる。

でもまぁ、貯金もまだたんまりあるし、お金には特に困って無いからねぇ。

急ぎで買いたい物がある訳でも無いんだから、のんびりやらせていただきます。

 

「っていうか、エルザの初仕事なんだろ?着いていかなくても良かったのかよ?」

 

「んー?エルザちゃんが「何時迄もユーキの世話になりっぱなしじゃ申し訳ない」って言って、初仕事は俺抜きでやりたいんだってさ」

 

「へぇ。そりゃ殊勝なこって」

 

喧嘩で負けてる事を引きずってか、グレイ君は面白く無さそうにそう吐き捨てる。

まっ、その辺も二人が認め合う仲になれば解消されんでしょ。

別に険悪なムードって訳じゃなくて、子供の喧嘩の延長だーしねー。

最後の一切れになったチキンのソテーをサッと食べ、お茶をのんびり啜る。

 

「ずずずー……ぷぅ……あー……」

 

「茶ぁ飲んで溜息って……おっさん過ぎんぞ、ユーキ」

 

「お前ホントに15かよ」

 

茶を啜って和む俺に、短髪に髭面のマカオとリーゼントにタバコといったスタイルをしたワカバの2人がそんな事を言ってくる。

いいじゃん、こうしてると安らぐんだから。

なんつーの?前世(日本)の心っつーの?まぁ兎に角そんな感じで魂が落ち着くのよねー。

この世界に来ても緑茶が飲めるのはかなり嬉しかったなぁ。

 

「こーゆーのも大事なーのよ。ONとOFFの切り替えってねー」

 

「切り替えっていうより……」

 

「アレだな。ガスの抜けた風船」

 

ほっほーう?萎んで役に立たないと申しますか?

そんな事言っちゃうなら、こっちにも考えがございますのことよ?

 

「とーころでさぁ。二人の食べよーとしてるでかいハム。一体どうやって作られてるか知りたくないー?」

 

「何だよ?薮から棒に……そういや何気なく食ってるけどどうやって出来てんだ、これ?」

 

「んー……まぁ、気になるっちゃ気になるけどな」

 

おっけ。言質とったよん♪

 

「ハムの作り方っていうのはねぇ?丸々太らせたぶーたさんを嬲ってぶっ殺しちゃってぇ、おっ死んだ豚の魂を八つ裂きにするかの如く捌いてかーら、炭でスモークして念入りに死なせた挙句ぅ、熟成室でこれでもかと吊るし殺して完せ――」

 

「オイやめろマジで!!」

 

「食欲が失せちまったじゃねーか!?まだ一口も食ってねーのに!!」

 

「マカオ!!テメーが気になるなんて言うからだぞ!!」

 

「あぁ!?テメーこそ普通に聞いてただろ!!」

 

あっ、という間に殴り合いに発展して二人を眺めながらお茶をズズズー。

……あっー……和むー。

 

「……酷え」

 

横でグレイ君が戦慄した表情でそんな事言ってるけど、しーらない。

ちなみにさっきの言葉の使い方はデスっ子言葉ってヤツね。

そうして5分ほど和んでから気持ちを切り変え、ハムを片手に殴り合ってる二人の横を素通りしてクエストボードへ向かう。

もう一件くらい仕事して、エルザちゃんが帰ってくるまで時間潰しておこーっと。

依頼板(クエストボード)とは読んで字の如く、このギルドに集められた依頼の紙を貼ったボードだ。

このクエストボードからクエストを選び、その仕事に行く事をマスターに報告して受理してもらう。

で、その依頼が達成出来たら依頼主からサインなりなんなりを貰って報酬を受け取る、というシステムである。

 

「ふーむ……お?これにしようか。食後の腹ごなしには丁度良いし」

 

数ある依頼の中から運動できそうで近場の仕事を見繕い、見事その条件に当てはまる依頼をゲッツ。

その依頼書をボードから剥がす。

後はこの依頼書をマスターに見せれば受理完了ってね。

 

「ちょっと待った!!久しぶりに俺も一緒に行くぜ!!」

 

「ほぇ?」

 

と、ここで何時の間にか俺の後ろに居たグレイ君が声を掛けてきた。

ここがギルドのクエストの味噌で、複数人でパーティを組んで依頼に当たる事も可能なのだ。

そうすれば危険度が下がり、一人一人の負担も軽くなる。

デメリットがあるとしたら、報酬が山分けになるので一人でやるより取り分が少ないって事かな。

ギルドの仕組みを思い返しつつ、何でグレイ君が一緒に行きたいのかと首を傾げる。

一緒に仕事行ったのなんて、グレイ君の付き添いだった時くらいだし。

 

「そりゃまたなんでー?」

 

「最近ちょっとビンボーだから、ここらででっかく稼ぎたいんだ!!爺さんはまだ値段の高いクエストに一人で行ったら駄目だっつーしよぉ」

 

俺の質問に答えながら、グレイ君は少し不貞腐れた表情で腕を頭の後ろに組む。

でーもマスターの言いたい事も分かるんだよね~。

クエストの値段が高額な程、その仕事には一定の危険ってものが付き纏う。

それは勿論『死』の危険性も例外じゃないし。

だからまだ年若いグレイ君とかは行かせたくないんだろうね~。

 

「報酬は6:4で良いからさ。連れてってくれよ」

 

「ふ~む……そうだねぇ~」

 

「その依頼ならそんなに危険な事は無いだろ?爺さんが良いって言ったらで良いからよぉ」

 

と、俺が何も言わないのを渋ってると思ったのか、グレイ君は食い下がってくる。

んー、俺の方は別に構わないんだけどー……マスターに聞いてみよ。

 

「マ~スタァ~。この依頼にいってきま~すわ~」

 

「む?どれどれ……東の森で木材の伐採、か。依頼書には建築用とあるのう」

 

俺が選んだ依頼書に目を通しながら、マスターが答える。

依頼内容は『東の森で建築用木材の樹を切って運び出して欲しい』という内容のもの。

樹木の大きさは指定があり、報酬は10万Jでサイズは10m。

東の森の入り口辺りまで運べば、そこからは業者が回収してくれるらしい。

 

「んで、グレイ君も行きたいって言ってるからさー。連れてっても良ーい?」

 

「む?グレイか……まぁ、そんなに危険そうでも無いしの。別に構わんぞい。お前さんが一緒なら東の森のモンスターくらい問題なかろう」

 

「りょ~かぁ~い。そんじゃグレイ君。準備は良い?」

 

「ああ!!東の森ならキャンプ道具とかも要らねーだろ!?準備万端だ!!」

 

俺の問いかけに自信満々に掌と拳を打ち鳴らして答える。

うんうん、そのやる気はスンバラシーよ?けーどねー。

 

「まずは上着とズボン履こうか?」

 

「だあぁ!?」

 

さっきまで半裸だったのに何時の間に下まで脱いだのよ?

食事中に何時の間にか上半身の服が無くなり、今マスターと話してる間に下も脱いでる。

どんな早業ですか?

慌てて服を着直すグレイ君から視線を外し、とりあえずマスターに一言。

 

「そんじゃ、行ってきまぁ~す」

 

「おぉ、気を付けてな……あぁ、待てユーキ!!ちと頼みがあるんじゃ」

 

「ほえ?なーによ?」

 

さぁ仕事に行こうと思ったら頼み事って何だろうか?

ギルドから出ようとした足を止めてマスターに振り返ると、マスターは少しばかり難しそうな表情を浮かべていた。

 

「これから東の森に行くんじゃったら、ついでにエルザとカナの様子を見てきて欲しい」

 

「え?二人も東の森で仕事?」

 

「うむ。確か東の森の入り口付近に生えてる魔法薬の材料となるベビーハーブの採取クエストじゃ。カナは何度も行っとるんじゃが、最近森のベビーハーブを片っ端から取ってちまうマナーのなっとらん魔導士がおってのぉ」

 

「あ~りゃりゃ。そりゃ酷い話だねぇ」

 

マスターの話にそう返すと、マスターも「全くじゃ」とか言いながら酒をかっ食らう。アンタ何時も飲んでますね。

採取クエストは基本的に指定された量を超える採取は禁止なんだよね~。

乱獲しちゃったら、そこの群生地に生えなくなっちゃう事もあるから、最低1,2本は残しとくのがマナーなんだけどさ。

 

「んぐ……ぷはぁ……まぁエルザも初仕事じゃし、ちと軽く様子を見てやってはくれんか?」

 

「ふーむ……確かに、チラッと様子見といた方が良さそうだねー……おっけ~。一応見てくるよん」

 

「すまんな。頼んだぞい」

 

「おいユーキ!!速く行こうぜ!!」

 

「焦らなくても木は逃げたりしないよ~」

 

マスターの言葉に返事を返しつつ、逸るグレイ君を宥める。

まっ、他ならぬマスターの頼みだしぃ。

いっちょ二人のお仕事ぶりを見せてもらいますか。

俺は自前の魔動二輪の後ろにグレイ君を乗せて、東の森へと向かった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「なぁ、この木で良いんじゃねーか?」

 

妖精の尻尾を出て、東の森に入って数十分経ったぐらいの時。

グレイ君の指差した木の大きさをざっと見てみるが、依頼にはまだ少し足りないねぇ。

 

「もちょっとおっきくないと駄目ー」

 

「ちぇっ。結構楽勝な依頼だと思ったのに、意外と面倒だな」

 

「まぁまぁ。そろそろ樹齢の長ーい木がいっぱいある所だから……ほらー、いっぱいあるじゃな~い」

 

俺が指さした木を見て「おぉ!!」と嬉しそうな声を出すグレイ君。

この木の大きさなら問題無いでしょ。

俺は目の前の木を見上げながら首の骨を軽くほぐす。

 

「そんじゃー早速切り飛ばしちゃうから、ちょっと離れててねー」

 

「お、おう」

 

側に立っていたグレイ君に注意を促して離れた所で、片足を上げて足の裏に魔法陣を生み出す。

 

「武器憑依。”チェーンソー”」

 

言葉をスイッチとして、俺の転生特典魔法の第2弾が発動。

足の裏から膝まで魔法陣が通過し、足の中心線にチェーンソーの刃が現れる。

 

これが俺の魔法第2弾、その名も”憑依魔法”と言う。まんまとか言わないの。

 

換装魔法で魔武器を取り出すだけじゃなく、自分の体の一部分を魔武器に変える事が出来ちゃうんだよね。

もしも俺がソウルイーターの世界に居たなら、俺の立ち位置は”魔武器の適正を持った職人”って立ち位置になるんじゃないかな?

まぁそんな感じで憑依させた”ギリコ”のチェーンソーがキュイィンと甲高い音を立てて回転しだす。

 

あーとは足を振りかぶってぇ!!

 

「鋸脚!!回転速度、一速ぅ!!」

 

円回転でスパーキィング!!

 

ギュイイィイン!!という食い込む音が一瞬したかと思ったら、次の瞬間には木に亀裂が走り、豪快な音を立てて地面に倒れる。

よし、依頼の木の採取は完了だねー。

ギュンギュン回転してたチェーンソーを停めて武器憑依を解除すると、チェーンが消えて元の脚に戻る。

ふぃー、と息を吐きながら肩をコキコキ鳴らしていると、グレイ君が呆れた表情で近づいてくる。

 

「相変わらずヤベー切れ味だな。木の端っこから煙出てるぞ」

 

「まーね。だから人間相手にはあんまり使いたく無いんだけどさ」

 

下手こいたらバラッバラにしちゃいそーで怖い怖い。

 

「ってか、俺何にもしてねぇし……」

 

「ダイジョーブ。後でちゃんと出番を残してあるよん」

 

「そうなのか?」

 

「うん。そーじゃないと、ほーしゅー受け取らないでしょ?」

 

「……まぁ、な」

 

ニヤニヤしながら聞いてみたらそっぽを向くグレイ君。

こーの子も子供のくせしてその辺は律儀とゆーかなんとゆーか。

まっ、ここまで来て報酬無しじゃあんまりだから、ちゃんと仕事は作ってありますけど。

 

「そういえば……ユーキ、じいさんから何か頼まれて無かったっけ?」

 

「あー、まぁね。俺らと同じで採取クエストに来てる筈のエルザちゃんとカナちゃんの様子を見てきてくれーって」

 

「げっ。あいつらここに来てんのかよ?」

 

「そーの筈なんだけどさー」

 

頬を指で掻きながら辺りを見回しつつ答える。

ふーむ……困ったねぇ。

 

「二人の依頼はベビーハーブの採取。順調に行けばもう終わってる筈なんだーけーどー……」

 

「え?ちょっと待て……ベビーハーブって森の入口辺りで採れなかったか?」

 

「うん。あの辺りが一番多く生えてるよねぇ」

 

「……でも、ここに来るまで俺達誰にも会ってねぇぞ?」

 

だよねー。ここは既に東の森の”中頃”って辺りなのに、誰にも会わなかったのよ。

普通なら入り口の辺りで絶対に合う筈なんだけど。

森に来る時も1本道なのに誰にも擦れ違わなかったし。

状況を理解し始めたのか、グレイ君は冷や汗を流しながら真剣な顔つきになる。

 

「もしかしたら、森の奥まで行って探してるのかーもねぇ」

 

「お、奥って……!?」

 

「うん。なーんか普段ベビーハーブの生えてた所をさっき見つけたんだけどさ。どーにも誰かが根こそぎ持ってっちゃったっぽいの」

 

しかも最近じゃなくて何日か前に持ってった感がするんだよねー。

マスターの懸念が当たっちゃったか。

もし、二人がベビーハーブを探して入り口辺りに無かったら、他にベビーハーブの生えてる森の奥まで行った可能性がある。

 

「おいおい。この奥って確か……」

 

「凶悪モンスターゴリアン。通称モリバルカンが居るんだよねぇ」

 

まぁエルザちゃんとカナちゃんの実力ならぁ、モリバルカンの一匹や二匹くらいヨユーだと思うけど……。

 

「ここのモリバルカンって、よく魔導士が来るから徒党を組む様になってるじゃねーか。もし何十匹に囲まれたらさすがにヤベェだろ……それに、滅多に居ない大型種も居るし……」

 

「そーなのよ……だからちょっくら――頑張りますか」

 

二人の身を案じるグレイ君に答えつつ、俺は一度目を閉じて集中力を高めた。

ソウルイーターの世界で職人の持つ”魂感知能力”。

人間や魔女の魂の性質や大きさを直接見たり魂の波長を感じ取る事ができる。

 

その変形した能力が、”魔力探知能力”だ。

 

つまり俺の目は魔力に敏感であり、探知能力にも長けているってね。

集中して魂ならぬ魔力を探し出していくと……森の奥に2つの魔力反応を感じた。

こりゃ悪い方向にビンゴしちゃってるみたいだねぇ。

しょーがない、ちょっと急ぎますか。

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

「はぁ!!」

 

「ウホゥ!?」

 

東の森の奥側。

 

凶暴なモンスターが住む事で有名な森の中で、エルザはモリバルカンに対し剣を振るう。

体長6mに届こうかという大型種など、幼く魔法を使える様になったばかりのエルザにはまだ荷が重かった。

現に、彼女がギルドの支給品として持ってきた剣は所々が欠けている。

 

「ぶうぅ!!いい加減にしろぉ!!」

 

「ぐあぁ!?」

 

「エルザ!?」

 

それでいて、彼女らの目の前に居るモリバルカンは小さな切り傷をいくつか負って血を流してはいるが、それだけだ。

寧ろチマチマした攻撃で怒りを感じ、地面に叩き付けられた拳の衝撃でエルザの軽い体が吹き飛ばされてしまう。

直撃は避けても衝撃に耐え切れずに地面を転がるエルザに、カナの悲痛な叫び声が向けられる。

しかしカナの声に「大丈夫だ!!」とエルザは返す。

 

「はぁ、はぁ……は、早く逃げろ。ここは私が食い止める」

 

「何言ってんの!?そんな事出来ないよ!!」

 

エルザの言葉にカナは感情を荒げて返す。

しかしそんなカナの言葉を聞きながら、エルザは目の前のモリバルカンから視線を外さない。

 

「こんな事になってしまったのは、このクエストを選んだ私の責任だ……だから、お前は早く逃げ――」

 

「違う!!私の所為だよ!!私が、奥へ行こうなんて言ったから……ッ!!」

 

モリバルカンと対峙する事になった発端は自分だとエルザが言えば、こうなったのは自分の所為だとカナが諌める。

二人が何故自分の責任だと言い合うのかと言えば、双方合意でここまで来たからとも言える。

エルザの初仕事という事で、今回同行してくれるカナは「エルザが選んで良いよ」とクエストの選択権を譲ったのだ。

勿論危ない依頼なら止めるつもりだったし、これはどんな依頼か?と質問されたらそれに答えたりもしていた。

そうやってカナのアドバイスを吟味してエルザが選んだのは、東の森でベビーハーブを採ってくるという比較的簡単なクエスト。

報酬も決して高くは無いが、初仕事としては充分だろうと二人で納得。

過去にカナも何度かこなした依頼だったので、心配は特にしていなかった。

それをマスターに見せてOKを貰った二人は東の森に向かい、その道中でカナはエルザに依頼者との受け答えや報酬の受け渡し等の細かい事をレクチャーしていた。

エルザも初めてのクエストという事もあり、真剣に話を聞くなど、滑り出しは充分だったと言える。

 

 

しかし困った事に、目的のベビーハーブが生えていなかったのだ。

 

 

どうやら自分達より前に採取クエストを受けた別の誰かが根こそぎ持って行ってしまったらしい。

これでは依頼が達成出来ない。

初仕事が失敗という事にエルザは少し落胆するが、ここでカナが提案した。

 

この森の奥ならベビーハーブが生えているから、そこまで取りに行こう。

 

最初はこの案に不安を感じたエルザだが、カナ曰く今までもこういう事があったらしい。

その時にカナは一人で森の奥に入ってベビーハーブの群生している場所を発見したそうだ。

そこは森の奥でも比較的安全で、入口付近に生えていなかったらそこまで向かってたとの事。

他にも高く売れる魔法薬の材料が生えているから、それも持って帰って売ればお金になる。

そう言われて、エルザは自分の状況を振り返った。

自分の身に付けている物は全て、ユーキが買い与えてくれた物。

服も靴も食べ物も、そして鎧や報酬が入るまでのお小遣い――彼に世話になりっぱなしだった。

カナの言う森の奥に行けば、報酬以外にも高い魔法薬の材料が取れる。

 

お金さえあれば、もうユーキに迷惑を掛けずに済む。

 

結局、エルザはカナの提案を承諾し、今の状況に陥っている。

植物のベビーハーブと違って、モリバルカンは生きて動いているのだ。

偶々今までは見つからなかったかもしれないが、今回は運が悪く見つかってしまった。

そしてモリバルカンと戦っている訳だが――。

 

「うっほぅ!!女!!けどガキで、俺を傷つけた!!いらねぇ!!」

 

「く!?」

 

「きゃあ!?」

 

モリバルカンの繰り出したパンチの衝撃で、二人はゴロゴロと地面を転がる。

潜在魔力の高いエルザとカナだが、いまだ二人はその才能を開花させるまでには至っていない。

ましてやエルザは魔法を学んでからまだ一週間も経っていない素人。

まだ成熟していないという点と、大型の強いモンスターが現れたという2つの点が、この苦境を生んでいると言えるだろう。

 

「こ、のぉ!!」

 

やられっぱなしでいられるかと、エルザは四肢に力を込めて踏み出す。

魔力で強化した身体能力を駆使し、モリバルカンの双腕を掻い潜って額を斬り付ける。

ズバッ!!という斬撃の音が鳴り響き、モリバルカンの額に裂傷を刻み込んだ。

 

「うほうあぁああ!?」

 

「よし!!(浅いが、ダメージは与えられ――)」

 

パキンッ。

 

「な!?」

 

そして、斬撃の音の直ぐ後に、乾いた音と共にエルザの持つ剣の寿命も潰えた。

ギルドの支給品である標準能力程度の武器では、モリバルカンとの戦闘に耐える事が出来なかったのである。

逆に対人間用の剣でここまで戦えた事こそエルザの力量が並以上だという現れなのだ。

 

「むむむう!!あったまキたんだなもー!!」

 

己の体に傷をつけられたモリバルカンの怒りは凄まじく、空中にジャンプして己の全体重を乗せた拳を繰り出した。

 

「うっほほー!!」

 

「うわぁあああああああああ!?」

 

「エルザー!?」

 

地面を揺るがす程の剛撃。

運よく直撃は躱したが、またもパンチの衝撃波に吹き飛ばされ、今度は樹木に体を打ち付けてしまう。

衝撃波よりそちらのダメージが大きく、起き上がれそうになかった。

 

「く、そ……ッ!!(なんて事だ……ッ!!カナを、巻き込んでしまうとは……ッ!!)」

 

この状況でエルザが考えていたのは、自分の心配ではなくパートナーのカナの事だった。

自分の所為で誰かがまた罰を受ける……それは、彼女の心を縛る鎖の様なモノだ。

元々エルザは”過去の出来事”の所為で人を傍に置く事に不安を感じていた。

それはユーキに助けられた時も変わらず、妖精の尻尾に向かっている道中でも同じだった。

 

ギルドに入ったら、誰とも関わらず一人で仕事をしよう。

 

もう二度と、失う悲しみを味わいたく無いから。

 

そう決意して妖精の尻尾の扉を叩けば、その考えは一瞬にして覆されてしまう。

いや、ほだされたと言うべきか。

事情も聞かず、出自の知れない自分を暖かく優しく迎え入れてくれたマスター。

巻き込まない為に誰の言葉にも取り合おうとはしなかったのに、何時の間にか”ある男”にその壁を崩される。

 

何故なのか?エルザにも分からなかった。

 

それが、”外の世界に出て”初めて受けた無償の優しさ故か?

 

気付けば同じギルドの少女に誘われるがままに、依頼を受けていた。

その油断がこんな事態を招いたのかと思うと、エルザは悔しくて仕方が無かった。

地面に倒れるエルザに意気揚々と近付くモリバルカンの姿を見ながら、エルザは祈る。

 

(今の内に、逃げてくれ……もう二度と、私の前で……死なないでくれ)

 

自分の目の前で仲間が死ぬ姿を見たくなくて、エルザはカナが逃げてくれる事を願った。

もし”あの光景”が再び目の前で起きれば、自分はもう自分を保てなくなってしまう。

だから、自分を見捨てて逃げて欲しい……そう考えていた。

仲間の死を見るくらいなら、自分だけで……。

 

「はあぁ!!」

 

しかし、そんな事を考えていたエルザの頭上を、2枚のカードが通り過ぎ――。

 

「ッ!?うごぉおおおおお!?」

 

軽い爆発音を鳴らし、モリバルカンの顔の前で破裂した。

すると、自分を見下ろしていたモリバルカンが目を抑えて転げ回るではないか。

カードが破裂した事により巻き起こった強烈な光が、モリバルカンの視界を奪ったのだ。

そんな光景を目の前で見て、エルザは驚きに目を見開く。

今のは一体――?突然の出来事に硬直したエルザの肩に手が回され、地面から引き起こされる。

 

「い、今の内に逃げるよ!!」

 

「カナ……ッ!?」

 

エルザを助けた人物は、同じクエストを受けたカナであった。

必死な表情で肩を貸す彼女の手には、数枚のカードが握られている。

 

「あたしの魔法の札(マジックカード)じゃ、まだ小さな光しか作れないの!!目眩ましはそんなに保たないから、急いで!!」

 

脱力している少女の体を必死に抱き起こしながら声を掛け、カナはモリバルカンから距離を取ろうと歩を進める。

これがカナの使う魔法の媒体。

カードを飛び道具や組み合わせで発動し、様々な効果を駆使する戦闘スタイルである。

しかし未だ本格的な戦闘を経験した事の無い故に、攻撃とは程遠い魔法しか使えないのだ。

なのでどうにか作れた時間を使って、カナはエルザを運んでモリバルカンからの逃走を試みようとする。

 

「わ、私の事は良い……早く、逃げろ……ッ!!」

 

「ッ!!さっきも言ったじゃん!!そんな事出来ないって!!」

 

「では、このまま共倒れになるつもりか!?お前だけなら逃げ切れる!!選択を間違えるな!!」

 

自分は良いと言ってるのに、引きずる事を止めないカナにエルザは激昂した。

実際エルザの言葉は諦めではなく、確実な予想を言っている。

二人のそう遠くない背後では、既にモリバルカンが暴れるのを辞めて目を擦っているからだ。

このままでは直ぐに復活し、今度は二人仲良くやられてしまう。

それが分かっているからこそ、一人で逃げろとエルザは凄んでいた。

 

「間違ってない!!!」

 

しかし、エルザの凄みを含ませた言葉は、今も必死にエルザを引き摺るカナには届かない。

たった一言。

しかしその一言が持つ謎の重みが、エルザに二の句を告げさせなかった。

 

「間違ってなんか無いんだ……ッ!!”私達”は、絶対に――」

 

「うぉおおおおお!!待ちやがれぇえええええい!!」

 

「ッ!?カナ!!早く逃げ――」

 

そして、等々モリバルカンの視力が回復し、怒りに顔を赤く染めて二人の元へ走りながら拳を振り上げる。

このままいけば間違いなく直撃してしまう。

あんな豪腕で殴られれば、簡単に死を迎えてしまう。

直感でそれを理解したエルザはカナを突き飛ばそうとする――が、体が痺れて思う様に動かなかった。

そのワンアクションが遅れた事で、二人は完全に逃げ場を失う。

もう駄目だ――と、迫り来る拳にエルザは目を瞑り――。

 

 

 

「絶対に、仲間(家族)を見捨てない!!それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の、魔導士なんだから!!」

 

「――ッ!?」

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士が持つ、絶対に曲がらない鉄の意志に心打たれ――。

 

 

 

「アイスメイク――槍騎兵(ランス)!!」

 

 

 

今朝も聞いた覚えのある、自分に良く突っかかる男の声に耳を疑った。

その声の主に目を向ける前に自分達の頭上を何かが通り過ぎ、何かに当たった音が聞こえてくる。

 

「うぎゃぁああああ!?また目かぁああああ!?」

 

と、頭上から自分達を攻撃しようとしていたモリバルカンの悲鳴が聞こえたかと思えば、大きな音を立てて地面に倒れる姿を捉えた。

二人が振り返ってみると、顔の目の辺りが凍りついていた。

モリバルカンはそれを剥がそうと躍起になって目の周りを拭っている。

 

「この魔法って……ッ!?」

 

「おぉ~~いぃ~~……」

 

と、二人を助けた魔法の主が誰なのか検討が付いたカナが驚いていると、今正に魔法が飛んできた方から間延びした声が聞こえてくる。

そしてこの声も、いやこの声こそ、エルザが尤も強く印象に残っている声だった。

しかも、何かギャリギャリというやかましい金属音も聞こえてくるではないか。

二人がモリバルカンから新たに乱入した音の発生源へ目を向けると――。

 

「大丈夫~?」

 

「へっ!!しょーがねぇから助けに来てやったぞ!!」

 

 

 

うん●座りの態勢で土煙を巻き起こしながら”爆走”してくるユーキ。

 

 

 

そしてそのユーキの肩に足を乗せて”全裸”で腕を組んで仁王立ちするグレイの姿を目撃してしまった。

 

 

 

「……は?」

 

「いやぁああああ!?グレイ服!!服ぅ!!」

 

ここでエルザとカナは著しく異なる反応を見せる。

片や、理解不能の状況に目を丸くするエルザ。

片や、フルティン状態で仁王立ちするグレイのぶ~らぶら揺れるナニカを直視してしまって恥ずかしがるカナ。

乙女の心にドぎついダメージを負った瞬間であった。

しかしそんな二人の状況などお構いなく、うん●座りで爆走する奇妙なユーキとグレイ達。

 

「は?……おわ!?何処行った!?」

 

「ありゃりゃー!?俺の肩に乗った時はパンツ履いてなかったっけー!?」

 

カナが顔を隠しながら指摘した事実に、グレイは驚愕を顕にし、同時にユーキも慄いていた。

相変わらずの無意識脱衣っぷりである。

しかし特に気にした様子も無く、グレイは左手をパーに、右手をグーにして合わせる。

グレイの使う氷の造形魔法の構え、その構えをしながら魔力を集中し――。

 

「へっ!!まぁ良い!!このままもう一発カマしてや――」

 

「その前に、下着を履かんかぁ!!」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

「ナイッショ!!」

 

体のダメージも忘れてとび蹴りを行ったエルザに大事なモノを蹴り抜かれ、悶絶してしまった。

しかも下になってるユーキには当てないという高等芸っぷり。

思わず賞賛の言葉とグットサインが出てしまうユーキであった。

そのまま飛んでいくグレイを放置して、エルザとカナの前で停止。

グレイの事なんて無かったかの様に何時もの瓢々とした笑顔を見せる。

 

「ちゃっすちゃっすちゅいーっす!!思ったより元気そーでな~によりだよ~」

 

「元気なものか。あんなモノを見せ付けられてダメージは甚大だぞ」

 

「そうだよ!!私まだ揺れてる映像が頭にこびりついちゃってるんだからー!!」

 

「いや、それは俺じゃなくてグレイ君に言ってくれないー?」

 

シュタッと手を上げて無事を喜ぶユーキだが、先ほど乙女の心に甚大なダメージを負った二人は非難轟々だ。

二人の様子に苦笑しながら、ユーキは「よっこいせ」と親父臭い事を言って立ち上がる。

立ち上がったユーキは内股で地面に沈むグレイの姿に合掌、そして一礼。

目の前で黙祷を捧げるユーキに視線を向けつつ、エルザは先ほどから気になっていた事を質問した。

 

「……その足も、ユーキの魔法なのか?」

 

「んん?そーだよん。武器憑依魔法って言うんだけどねー」

 

うん●座りから立ち上がったユーキはエルザの質問に答えつつ、足をブラブラさせる。

その度に太陽の光を受けた刃がギラギラとした光を放っていた。

 

「そう、か……(私はユーキの事を、何も知らないんだな……)」

 

エルザはユーキの初めて聞いた魔法を見ながらそう返すので精一杯だった。

浜辺で助けてもらって、ここまで世話をかけてくれているのに……自分は恩人の事を何も知らない。

 

 

 

その事実が、今は堪らなくエルザの心を掻き乱していた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「まっ、その辺の話は置いといてぇ~。ふ~たり共ちょっと下がっててねぇ~」

 

とりあえずグレイ君への黙祷はこの辺にしといて、何故か目の前で俯いてるエルザちゃんから視線を外し、その奥を見る。

どーにもこのままじゃ済みそーにないしねぇ。

 

「うっがぁああああ!!もう許さないぞぉおお!!」

 

と、予想していた通りに、地面を踏み締める音と怒りの咆哮が轟く。

倒れていたモリバルカンが立ち上がったのだ。

まぁ今のグレイ君の魔法じゃ、ああやって霍乱するので精一杯なのは分かってたから、そこまで驚かないけど。

モリバルカンの咆哮を聞いて存在を思い出したエルザちゃんとカナちゃん。

でも、次のアクションは二人とも全く違ってた。

カナちゃんはサッと俺の後ろに回って内股で地面に倒れるグレイ君の傍に行ったのに、エルザちゃんは動こうとしない。

っというか、何やら不安そうな顔で俺を見てらっしゃる。

 

あれ?俺ってそんなに頼りなさそーに見える?……客観的に自分を見たら、まぁ何とも頼りがいの無さ。

 

しかーし!!これでも俺って”二つ名”が付く程度には強いんです。

なので不安そうにしてるエルザちゃんの頭に手を置いて、撫でくり撫でくり。

キョトンとしてるけど、不安そうな表情は消えたのでおっけー。

 

「しーんぱいしなくても大丈夫。まーかせてちょーだいな」

 

「……分かった……”信じるから”……気を付けて」

 

信じる、という言葉を何でか強調して、エルザちゃんはグレイ君達の傍に駆け寄っていった。

ふーむ?……まっ、その辺はエルザちゃんが話したくなってからでいっか。

無理に聞くのも野暮ってもんだしねぃ。

そんな感じで考えを纏めて、目の前でウホウホ言ってるモリバルカンへ視線を向ける。

 

「さて……まぁ、ぶっちゃけアレなんだよねー。君に報酬ってかかってないかーらさー。イマイチやる気が出ないってゆーか?」

 

「うっほっほっほ!!何をごちゃごちゃ言ってるぅ!!」

 

「ッ!?ユーキ、危ない!!」

 

やーれやれって感じで溜息吐いてたら、そんなのお構いなしにモリバルカンがパンチを放ってきちゃった。

全くもー、せっかちなのは女の子に嫌われちゃうぞー?

頭上から落ちてくるパンチを見ながら慌てず騒がず魔法を使用。

ソウル君モデルの大鎌を呼び出し、刃を落ちてくる拳に向かって――。

 

「おいしょー!!」

 

「ッ!?んぎゃぁあああああ!?」

 

三日月のよーに振り抜く。

いくらモリバルカンの拳でも鋭く速く動いた刃には勝てず、拳から血がドックドクと流れてしまう。

うへぇ、気持ちの良い晴れた日なのに、血の匂いでもーカオスじゃん。

痛がるモリバルカンに注意を払いながら、鎌を振った力の流れに逆らわず手の力を緩めて手の甲と手の平で回転させて構え直す。

 

「い、痛ぇええええ!?」

 

「あらら、痛そーだねぇ。でもそっちが先に攻撃してきたんだから、お相子って事でぇ」

 

「う、がぁあああああああ!!」

 

「おっとっと?」

 

怒ったモリバルカンが今度は横振りにビンタを繰り出した。

ならばと大鎌を消してジャンプし、横振りのビンタを回避する。

そして空中で魔法陣を生み出し、今度は別の武器を換装。

中務椿ちゃんが変身する暗器のひとぉつ!!

 

「換装!!モード忍者刀!!」

 

この忍者刀を持つと、俺自身の速度を上げてくれるんだよねぇ。

だから、返す手で俺を捕まえようとする相手の動きも簡単に見えるし――。

 

「こーれぐらいのスピードじゃ~当たらないよぉ!!」

 

「うぼぉ!?」

 

「そぉれっと!!速☆星(スピードスター)!!」

 

「ぎぃ!?」

 

相手の攻撃を避けて超高速で斬りつける事が可能なんだー。

二の腕を深く斬りつけられて、モリバルカンは体を屈ませてしまう。

まぁこんなチャンスを見逃す必要は無いよねぇ!!

 

「換装!!お墓!!」

 

「何だそれ!?」

 

新たに呼び出した武器を見て俺にツッコミを入れるモリバルカン。

その原因となる武器なんだが、さっき言った通り見事に『墓』だったりして。

ソウルイーター原作で死人(シド)先生が振り回してた、さきっちょの尖った十字架。

その十字架の下がブロックになってる西洋風のお墓である。

最初呼び出した時に「ふぇ?……武、器?」と一人物悲しくツッコミをいれた思い出の品です。

しかも彫られてる名前はご丁寧に『YUUKI』となってるご始末。縁起でも無い。

だがしかーし、自分の墓ならどう扱おうが俺の勝手ぇぇええ!!

 

「ありゃさぁ!!」

 

「ぼべぶぅうううううう!?」

 

降りてきた顔面を墓の十字架の横のとんがり部分でフルスイングして殴り飛ばす。

そのままモリバルカンの巨体が持ち上がり、お空へFLY A WAY

父ちゃん、明日はいやいや、今日はホームランだー!!

打ち上げたモリバルカンを追う形で、俺も大ジャンプ。

じゃっ、そろそろ終わらせるとしましょうかね。

 

 

ちょっと派手にいくわよぉー!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「す、凄い……ッ!?モリバルカンが、子供扱いされてる……ッ!?」

 

時間を少し遡り、こちらは妖精の尻尾の子供チーム。

自分達の中で最年長であるユーキの言葉に従って木の影に隠れながらユーキの戦いを覗いている所だった。

木の向こう側で小さな剣を逆手に持ち、残像が残る程の速さでモリバルカンの攻撃を避け、ユーキは逆にダメージを与える。

正に圧倒的な格の違いで、敵と遊んでいる様な戦いだ。

その戦いを見守る中でたった一人、エルザは初めて見るユーキの戦いに目を見開いて驚愕を表にしている。

カナはと言えば、ユーキが出た時点でもう安心しきっていた。

 

「まっ、ユーキならモリバルカンの一体くらい、どうって事無いもんね」

 

「そ、そりゃそうだろ……ユーキの強さは、妖精の尻尾の中でも5本の指に入るからな……痛てて」

 

「な……ッ!?ユーキはそんなに強かったのか……ッ!?」

 

と、何気なく呟いたカナの言葉に、内股になって大事な箇所を抑えていたグレイが復活して相槌を打つ。

勿論下着なぞ何処かに脱いでしまっているので無い。

だが、何時の間にか死神様の仮面の形に切りそろえられた大きめの葉っぱが蔓で巻き付けられ、即席の下着となっていた。

しかしグレイはそんな物を作った記憶は無く、カナ達もグレイに触れていないので、下手人は間違いなくユーキであろう。

でも穴が3つ空いているのは痛恨のミスとしか、エルザは思えなかった。

 

閑話休題。

 

そしてグレイの言葉に驚きを示したのが、他ならぬエルザだ。

妖精の尻尾に所属してまだ3日程の新人であり、ユーキが戦う所を見た事が無い。

そんなエルザが聞かされたのは、ユーキが自分の所属するギルドのトップ5に位置する存在だという事。

これはさすがに驚く他無かった。

 

「何だ、知らなかったのかよ?……ユーキがお前と会った時、あいつはモリバルカン25体の討伐依頼を一人で達成してきたんだぜ?」

 

「にじゅう、ご……ッ!?」

 

「それを怪我一つ負わずにやってのけるユーキが、あんな猿一匹に遅れをとるかよ」

 

「前はもっと凶悪なモンスターとも戦ってたしね」

 

最早驚きで言葉も出ないといったエルザに、ああなって当たり前だと言わんばかりのグレイ。

両極端な反応を示す二人の間で、カナがユーキの戦いを見ながら会話に混ざる。

 

「まっ、要するにユーキが来た時点で、あの猿は終わりって事だ……あらゆる武器を体の一部みてーに使いこなす技量の高さと体術」

 

「それと、自分でオリジナルの魔動四輪や色々な魔道具を作れる飛び抜けた技術力……その器用さから、皆に名付けられた”二つ名”持ち――」

 

二人の言葉を聞きながら、エルザはユーキの戦いに魅入られていた。

腕を斬られた痛みに体勢を崩し、地面に顔から落ちていくモリバルカン。

その顔面を先に地面に降りて墓にしか見えない武器を振り被り、思いっ切り殴り飛ばしてしまう。

まるで紙切れの様に宙に舞う大型モンスターを、ユーキもジャンプして追い縋っていく。

 

「お前の人生に墓をくれてやる」

 

「うっ、うぅ、ほ!?」

 

遂に、決着を匂わす台詞と共に、ユーキの魔力が高まる。

何時もの飄々としたヘラヘラ顔では無く、何時に無くキリッとした顔付きでモリバルカンを睨みつつ、墓石を握る手に力を込める。

高まった魔力がユーキの体から武器である墓石へと流れていく様を、その真剣な表情を、エルザは見つめていた。

 

 

そして、痛みに呻くモリバルカンの顔面を真下に捉えたまま、魔力を籠めた墓を振り被り――。

 

 

十字落とし(リビング・エンド)!!」

 

「ご……ッ!?」

 

奴の顔を墓石の底で、思いっ切り殴り潰す。

ゴスッ、という重々しい音は、横っ面に思いっ切り墓石で殴られたモリバルカンの顔面から鳴った音だ。

そのまま真下に向かって魔力を放出しながら落下し――轟音を鳴らして、モリバルカンを地面に叩きつける。

 

次の瞬間、衝撃と光が森を襲った。

 

「「きゃ!?」」

 

「うおぉおおッ!?」

 

二人分の女の子らしい悲鳴と、一人の男の悲鳴。

彼らが目を向ける先には、魔力の渦がまるで十字架の様な形で佇む、そんな神秘的な光景だった。

しかしその十字架は、ある者にこの世からの旅立ちを強制するシンボルであり――。

 

「――」

 

「……ふぅー……ちょーっとやりすぎちゃったかーしらん?」

 

この戦闘の終わりを告げる合図でもあった。

土煙の向こうから何時もの剽軽な口調で喋りながら墓石を担ぐシルエット。

その影が陥没した地面から這い出し、自分達の元へ歩いてくる様子を見て、エルザは息を呑む。

そしてグレイとカナは誇らしげな表情で影に視線を向けていた。

 

「あれが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に二人と居ねえ武術の達人――」

 

「そして、モノ造りも武器の扱いも一級品の魔導士――”職人”のユーキ・ヤスダだよ」

 

「…………”職人”の……ユーキ……」

 

「まっ、ユーキには”もう一つ”二つ名があるんだけど、それはユーキ本人があまり気に入ってないから、聞きたかったら本人に聞きな」

 

付け加える様にグレイがそう述べるが、この時のエルザにはその言葉は聞こえなかった。

墓石を換装してからグイーっと伸びをする、仲間を守った彼の姿を目で追いながら、エルザは小さく呟く。

妖精の尻尾が誇る、剽軽で掴み所の無い魔導士の名を。

 

 

 

そしてこの先、ずっと憧れ続けるであろう男の名を――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「いやー、昨日は大変だったねぇ」

 

「あぁ、全くだ。まさか初仕事であんなトラブルに巻き込まれるとは……」

 

あくる次の日。

 

昨日作った魔道具をギルドの中に設置しながら、俺は隣で魔導書を読むエルザちゃんと話していた。

彼女が読んでいるのは妖精の尻尾の書庫に納められていた魔導書の一冊で、換装魔法の手解きが記されている。

俺がお世話になった一冊でもあって、その本一冊で換装魔法の大体の事は学べてしまう。

お昼に頼んだ軽食を隣に置きながら、エルザちゃんは熱心にその本を読み耽っていた。

 

「でーも良く昨日の今日でそこまで本を集めたねぇ?結構大変だったんじゃない?」

 

「いや、図書館では司書の人がいろいろアドバイスしてくれたからな。そんなに時間は掛からなかった」

 

俺の言葉に答えながらも、エルザちゃんは魔導書から目を離さない。

かなり集中してるみたいだねぇ。

昨日家に帰ったら「私はもっと強くなりたい。だから、私に魔法を教えてくれ」なーんて言ってきてからこんな感じなんだよねぇ。

まっ、ギルドの仕事って昨日みたいなイレギュラーな事も良くあるし、力を求めるのは悪い傾向じゃない、か。

それに、「仲間を守れる様になりたい」なんて言われたら断る理由も無いしぃ。

手元の配線をあーだこーだと繋ぎ合わせながら昨日の事を振り返る。

 

あの後、俺とグレイ君、エルザちゃんとカナちゃんのクエストをそれぞれ終わらせてから、俺達はギルドに戻った。

 

そして勿論、別々に仕事に行った筈の俺達が同時に帰ってきたもんだから、マスターに質問されちゃったのです。

なので包み隠さずあった出来事と、多分どっかのマナーの悪い魔導士が一度に全部のベビーハーブを採取しちゃった事を伝えた訳。

まぁ結果的にその魔導士の所為でエルザちゃんとカナちゃんは危険な目に遭っちゃったんだもんねぇ。

あの時のマスターの怒り具合はすーさまじくて、皆ビビってたもんだ。

で、この件は明日評議会を通じてケジメを着けてくる、なんて言ってたから、今頃はどっかの誰かをこってり〆てるんじゃなーい?

せっせと部品を組み上げながら、顔も知らない誰かに冥福を祈る。南無三。

 

「良し、で~きた。ふぅ」

 

「そういえば、その魔道具は何なのだ?昨日から作っていたみたいだが……?」

 

ドライバー片手に額の汗を拭う俺に、エルザちゃんは魔導書から目を離して質問してくる。

お?良い質問きましたねー。

俺は道具を箱に入れて横に避け、ニヤニヤしながら口を開く。

 

「これはねー。魔動ジュークボックスって言うんだー」

 

「じゅーく、ぼっくす?」

 

「うん。まずはこーやってぇ……」

 

首を傾げながらオウム返しに聞き返すエルザちゃんに頷きながら、箱の表面に設置した魔水晶に手を触れる。

 

「ほんの少しだけ魔力を篭めるとぉ……」

 

俺の説明を追っかける形で魔力を入れられた魔道具が起動し、表面が光を帯びた。

うんうん。いい感じに光ってるね~。

いきなり光り始めたジュークボックスに「な、なんだ!?」と驚くエルザちゃん。

その声に惹かれて周りの皆も興味深そうにこっちを見てくる。

 

「これで起動はかんりょー。後はここの番号を押して、曲を選ぶだけ……ポチッとな」

 

選曲した番号のレコードがガラスの中でアームに掴まれ、台座に納められて針が落とされる。

すると、この騒がしいギルドにとても似合う陽気な曲が流れ始めた。

 

『おぉー!?』

 

「とまぁこんな感じでー!!盛り上がりたい時とかに使えたりなんかしちゃったりしちゃう魔道具なんだよーん!!」

 

「おぉ……ッ!?これは良いな……ッ!!」

 

大きすぎず小さすぎない音量と眩しくない程度の光を放つジュークボックス。

明るく軽快でどこか楽しい気持ちにさせてくれる音楽に、ギルドのメンバーは目を輝かせて聞きに入っていた。

うんうん、やっぱ店には場を盛り上げる音楽が必要だよねぇ。

 

「後、この魔水晶は大体二曲で中身が切れちゃうから、聞きたい人はじーぶんで魔力を注いじゃってほしーかなー!!」

 

盛り上がる皆に使用上の注意を言ってから、椅子に座ってバナナミルクを飲む。

視界の端では既に誰が次の魔力を注ぐかというのと、次の曲は何にするかで揉めに揉めていた。

 

「俺が!!」 「いや俺が!!」 「じゃあ俺が!!」 「「どうぞどうぞ」」

 

あれ?ダチョ●倶楽部?うちのギルドってお笑い事務所じゃない……よねぇ?

何か変なやりとりが行われて、終いには何時もの如く乱闘騒ぎに発展していく妖精の尻尾メンバー。

しかもその中にエルザちゃんまで混じっちゃてるジャマイカ。

並み居る敵をばったばったと殴り飛ばして……あっ、グレイ君が飛んでっちゃったなー。

大の大人だろうと引けを取らずに大立ち回りを演じるエルザちゃん。

 

 

 

しかしその顔には、今までに無いとても楽しそうな笑顔が浮かんでいましたとさ。

 

 

 

余談なんだけどエルザちゃんのキウイジュースを渋柿ティーに擦り変えておいたら、剣片手に追い回されちゃった。

 

 

 

その顔には、今までに無いマジな怒りが篭っていましたとさ。

 

 

 

まったくも~。か~ぶせて被せていくのってぇ、お笑いの基本なーのにねぇ。

 

 

 

 

 

後書き

 

 

上手い人って10キロバイトくらいでも凄く面白い作品を書いてる。

 

 

作者も話をもっと短く面白く纏めたいDEATH(切実)

 

 

 


 
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