No.796378

義輝記 異伝 ≪ 後編 ≫

いたさん

異伝の後編です。

2015-08-15 16:45:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1256   閲覧ユーザー数:1180

【 甲斐より始めよ の件 】

 

〖 ?? 〗

 

二人は、俺が告げた後、それぞれの行動に移る。

 

久秀殿は遠方と付近を注視して興味深げに微笑し、順慶殿は足下付近の草木を手に取りて首を傾げた。

 

久秀「遠き眺めば群峰は雲へと隠れ、眼前を虎視すれば草本が伏せいるのみ。 ───どう控えめに見ても、一乗谷の山並みじゃないわね。 水墨画のような山が連なって見えるもの 」

 

順慶「………そうですわね。 この付近に自生する野草も、あまり見た事が無いしものですわ。 どちらかと言えば、大陸方面の物が多く見受けられますわ 」

 

久秀「へぇ~、順慶は意外と野草に関しても知識があるようね?」

 

順慶「当然ですわ。 わたくしも歴としたおなごですので、香に使用する材料を周辺で必ず探しているからです。 何処かの誰かみたいに無頓着では、颯馬さまより、不潔なおなごなどと思われたくないのですから……… 」

 

久秀「そうなの? てっきり……落城後に食べる物が無いから、山の中から食べれる野草を探してきてから詳しくなったのかと思ったのよ。 それは、久秀の思い違いだったみたい。 ごめんなさいね」

 

順慶「だ、誰の為に、城や領地を取られたとぉ────!!!」

 

口論になりそうな勢いで話し出す二人。 またかと思いつつも、止めなければ支障が出てくる。 この地の場所さえ、未だに分からないんだから。

 

颯馬「二人とも喧嘩は止めてくれ! 理由はどうあれ、今の俺たちには情報が必要だ。 だから、まず……自分たちの持ち物を確認してくれ!」

 

順慶「颯馬さまが、そう仰るのでしたら……。 ですが、何故わたくしたち自身の持ち物を確認しなければならないのですの? 御屋敷内でしたから、普段より身に付ける物しか、身体に備えておりませんが………」

 

久秀「あらあら、順慶は忘れているようね? 自分の置かれた状況を確認するには、まず持ち物を確認すること。 自分自身を先に把握してから、それより相手を調べる。 孫子にも記載してあったでしょう? 」

 

順慶「ふ、ふん! それくらい分かって───」

 

颯馬「それもある。 だけど、他にも確認して貰いたんだ。 俺たちが屋敷内に居たのに関わらず、既に足へ履き物を履かせている状態。 これは、他にも色々持たせられている可能性があると、考えてもいいんじゃないかな?」

 

久秀殿の正論に、意義申し立てしようとする順慶殿に、俺が言い添える。

 

このまま、仲間割れなどさせられては、此処に連れて来られた相手の思う壺だ。 あの時、意識を失う前に聞こえた怪しい声が、この怪異を引き起こした首謀者だと思うんだけど。 何故か……あの悲しげな声が耳に残る。

 

順慶「さ、流石は颯馬さま! この様な異例な事態なのに関わらず、冷静な判断、的確な指示。 やはり、わたくしの思った通りの方ですわ! ああぁ……颯馬さま。 貴方の事を………もっともっと……理解したくなりましたぁ……!」

 

久秀「ふふふ……久秀の玩具にして正解だったわね。 久秀に逆らうだけの能無しは沢山居るけど、逆らいつつも対抗できる力を持つ者は少ない。 やはり、颯馬は久秀に相応しい逸材であり、久秀の為だけに力を使うべきなのよ!」

 

二人して、俺を見る目が怖い。

 

いや、何時もの事だが……目の光が更に妖しく強まる。

 

ここで、この二人に弱みを見せると後々怖い……。 再度、確認するように言った後、自分の持ち物を確認した。

 

 

◆◇◆

 

【 颯馬、賊と間違えられる! の件 】

 

〖 兗州陳留郡 荒野 にて 〗

 

??「やれやれ……風よ、災難だったな。 真名を預けてないのに関わらず、見知らぬ男から呼ばれるなど……。 私達の目当ての御仁かと思っていたが……とんだ空振りだったな?」

 

風「それでも、あのお兄さんは良い人ですよー? 話を聞く耳と素直に謝罪の言葉を紡ぐ口、悪かったと真摯に思ってくれる心根を持っていましたからねー? 普通、育ちの良い豪族の子息は、大概反対の対応しか出来ませんー」

 

??「私のように偽名を使えば、まだ被害を抑えられるものを。 そもそも、一人称で真名を不用意に使えば、勘違いも間違いも起こります。 あの人が、誤るのも無理ないとは思えますよ?」

 

??「しかしだな……稟よ! 異国に足を踏み入れるのなら、その国の礼儀を調べて入るものだと思うぞ? 」

 

風「星ちゃんの言う通り、国とは一つの家、一つの集団。 決まりや規則、法も当然あるものですー。 それを、知識も無しに入り込み、禁句を知らなかったで済ますのは───あまりにも、いい加減ではないかと思うのですよー?」

 

稟「ですが──んっ? 前方に人影が見えますね……あ、あれは!?」

 

★☆☆

 

颯馬「な、何だよ……この名刀は?」

 

俺は腰に 佩刀した刀を抜き身とし、陽の光に当てて刀身を確認すれば、その異様さと造形美に、思わず息を飲み込んだ。

 

刃渡り二尺三寸(約70㌢)の輝く刀身は、半分から先端まで両刃で造られ、斬ることより突く事を優先した作りを示す。

 

颯馬「こ、これって………!?」

 

鋒両刃造と言われる独特の刀身を持つ刀は、俺の知る限り一振りだけだ!

 

平家重代とも、源氏重代とも言われる『名刀 小鴉丸』……その宝刀を、信じられないことに俺の手が……力強く握り締めている!

 

言っておくが……元の佩刀は、数打ち刀の割と出来が良い物だ。 これでも 軍師としての俺には充分。 前面で刃を振るい、敵を撃破して武勲を得る将では無いからだ。 値打ち物じゃなくても役には立つ。

 

颯馬「…………俺の腰に下げてあったから、俺の物で良いんだよな?」

 

そんな事を、この名刀を見ながら考えていると、俺に向けて怒声を浴びせる者が現れた!

 

星「そこの者! 私たちが周辺を通過するのを見て、刃を抜いたようだが…… 野盗であれ山賊であれ、此方に武器を向けるとは良い度胸だ! この常山の趙子龍、貴様の相手をしてやろう!!」

 

慌てて前を見れば、若いおなごが三人三様で、警戒、怒り、興味の表情を見せている。

 

『刃を向けた? 誰が? 』

 

俺は、距離を取って離れていた久秀殿と順慶殿に顔を向ける。

 

久秀「(*⌒∇⌒*)」

 

………イイ笑顔で肯定。

 

『颯馬しか居ないじゃない』っと言う意味だと、すぐに悟った。

 

順慶殿は、久秀殿の傍で『颯馬様は悪くなんかありませんわぁ!!』と大声で弁護してくれている。

 

ま、まさか……付近に誰も居ない事をさっき確認して、久秀殿や順慶殿とも距離を開けて、自分の持ち物を確認していたのだが?

 

慌てて俺は、誤解である事を説明しようと声を上げようとした!

 

されど、『趙子龍』を名乗る槍使いの動きが早く、結構な間合いがあったのに数歩で距離を縮めて、俺に鋭利な穂先を向けて突進してくる!

 

颯馬「ご、誤解だ! 俺は賊じゃない! 普通の旅の者だ!!」

 

星「ほぅ……? 普通の旅人が、そのような気品溢れる名剣を所持するなど、どう考えても無理な話だぞ! 仮にその話が本当だとしても、貴様の風体、その剣の所持、か弱い女人を連れて荒野を渡る事、どう説明する気なのだ!?」

 

颯馬「そ、それは………」

 

星「やはり、答えられまい! 貴様が賊でなければ獣か? いや、獣が宝剣を携えている訳がないな! 宝剣を取り出し笑顔を表すのは、人を殺める考えを巡らしていたに違いない!!」

 

颯馬「────!?」

 

星「───図星のようだな? そのような疚しい心根があるから、賊という獣以下の者に身を落とすのだ! ふっ、だが……ここで私と出会ったのが幸いした。貴様が罪の無い者を殺める前に───成敗してやろう!!」

 

白い装束を大胆に着こなし、柳眉を逆立てた美しき麗人が、見た目に反して槍を精密に操り、穂先を俺に突き付けようと伸ばしてきた!

 

完全に俺を賊と看做し(みなし)殺すつもりだ! そう思った俺は小鴉丸を構え、俺の腕を狙った穂先を打ち落とす!

 

颯馬「何度言われようと、違う者は違う! ───順慶殿、久秀殿! 俺に構わず早く逃げてくれ! 俺も後で追い掛けるから!!」

 

迫り来る龍の攻撃を捌きながら、二人に叫ぶ!

 

俺は自分で言っておきながら、笑いたくなった。

 

────後で追い掛ける?

 

はははっ…………そんな武勇なんて、俺にある訳ないだろう?

 

────あの二人を

 

────俺の為に

 

────巻き添えにしたくなかったんだ!

 

―――――

―――――

 

順慶「……………」

 

久秀「……………」

 

颯馬は、二人に向かい叫んだ! しかし、二人は颯馬の様子を見続けるだけで動かない。 颯馬の戦いが終わるときまで、場を離れる気は無い。

 

順慶「颯馬さま………颯馬さま………」

 

順慶は心配そうにハラハラした様子で颯馬の様子を窺う。

 

颯馬の許しがあれば、直ぐにでも助けに入りたい! 一人で戦って勝てぬのなら、二人で戦えば勝機が生まれる! でも、苦しんでいる颯馬が無言で拒否を示す! だから───それが出来ない!

 

颯馬が不利な戦いに追い込まれても、手助けを一切求めず、アノ順慶が……助けに行きたくても、動くことができない理由。

 

───日ノ本の将として戦場での矜持があったからだった。

 

戦国の世では、一騎討ちは戦の華。 理由はどうあれ……相手が一騎討ちを望んだ。 それなら軍師といえど、相手の挑戦を受けならない!

 

だから……どんなに味方が不利になろうとも手助けは出来ない。 出来るのは、味方から応援を求められた一回限りで一人のみ助勢を許可される。 しかし、颯馬は……順慶たちに助けは求めないのだろう!

 

助勢を願えば 、二人の内一人を犠牲にしてしまうのが分かるから。 助勢に入れば、戦が終わるまで一蓮托生。 生死も相方次第であるため、颯馬は助けを拒む。 自分の死よりも巻き添えにしてしまう事を遥かに恐れたからだ。

 

────最後の最後まで、自分の力で勝負を付ける覚悟なのは、さっきの投げ掛けた言葉が証明していた。

 

久秀「…………………………」

 

久秀の顔には、何時の間にか笑みが消えて、睨むような表情になり、颯馬の対戦を眺めていたのだった。

 

 

◆◇◆

 

【 勝負の行方 の件 】

 

〖 星 視点 にて 〗

 

私は、稟の指摘により、この者を試す為に動いた!

 

相手は若い優男………先程会った『白い服を着用した者』と同じくらいの年格好だが、手に持つ剣は優美な光を放つ宝剣。 『管路』から聞かされた『にほんとう』なる天の剣に酷似している。

 

管路の話は、ただの与太話だと聞いていたのだが……まさか、一日も経たずして、その人物に出会う事になるとは?

 

風や稟には、直ぐに終わると軽く伝え、待機して貰うように頼んだのが……なかなかどうして……面白い反応をするではないか。

 

奇妙な雰囲気を纏うが、剣を振る動作を見ると官兵より上ぐらい。 得物も私の龍牙に比べれば、間合いなど此方が遥かに有利だ。

 

だが、それだけでは……まだ足りない。

 

更に高飛車な物言いをして相手を怒らせ、私の流れに引き込もうとした! 怒らせれば、相手の動きが鈍く思考も単純になるからな。

 

そう考えて出来る限り、此方へ有利な流れに持ち込もうとしたのだが。

 

この者は、普通なら怒り出すような言葉を向けても、冷静に対応して槍の動きに付いてきているとは。 怒りに取り込まれずに自分を保つ……言うは容易きだが実現する事は、かなり難しいはずだ!

 

まったく……実に面白い反応に興味をそそられ……私の心が逸る(はやる)ではないか!

 

うむ……これは、直ぐに終わらせる訳にはいかんな。 風が文句を言うだろうが、念には念を入れねば……真実は掴めん!

 

私は龍牙に更なる力を込めて、攻撃を仕掛けた!!

 

この者………いや、この御仁が……私たちの担ぎ上げる『主』かどうかを……見極めん為に!!

 

☆★☆

 

〖 颯馬 視点 にて 〗

 

この槍使いの攻撃は、遥か昔に滅ぼされた蛇神を彷彿させられる。

 

『八岐大蛇』───俺の頭に過るのは……日ノ本の神話で語られる八つの首を持つ巨大な怪物。

 

この槍使いの攻撃は、 一つしか無いハズの槍が二つ、三つに別れ、最高になると八つに分身と化し、鎌首を跨げ、俺を害さんと的確に狙いを定めてくる!

 

星「───はぁっ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!!」

 

颯馬「くうぅぅぅぅっ! 」

 

龍の牙や爪を思い起こす疾風迅雷の槍さばきが、俺の身体を喰らい尽くさんと何本にも別れ攻めてくる! 一度や二度押し返しても、精妙な連撃は水の流れのように続き………俺の精神を削り取って行く!!

 

相手の実力は俺より上。このまま防御に徹していても、倒されるのが僅かに遅くなるだけだ! だから、生を掴むため前へと進める! 狙いは──槍使いの攻撃を捌き、体勢を崩す事! そうすればぁ───!!

 

颯馬「でぇえええやぁあああ──っ!!」

 

俺は、覚悟を決めて迎え撃ちながら、更に歩を進めようとする!!

 

一つ、二つを左右に捌き、三つを上に跳ね除けた! されど、連撃は続くので四つを流しながら受けて、ようやく隙が見つかる!

 

颯馬「ここだ──っ!」

 

俺は、この槍使いの麗人が、片足を踏み込んで槍の連撃をするのを見ていたんだ。 だから、片足を狙い斬りかかった!

 

────しかし!

 

星「……私の脚が余りに魅力的なのは分かる………が、素直に注目し過ぎだぞ! ほらぁ、私の足に見惚れると高く付くぞぉ!!!」

 

順慶「颯馬さま! 上、頭の上!!」

 

颯馬「な、何んだぁあああっ!?」

 

星「ハァアアアア──ッ!!」

 

言われて初めて気付いた、俺の頭上へ迫る槍全体を使用した圧殺攻撃!

 

慌てて前方回転して、その場を緊急回避を行う!

 

素早く立ち上がって様子を見れば、先程の場所を見れば砂埃が舞い……一時的ながら視界が遮られてしまった。

 

久秀「───颯馬!」

 

俺は、久秀殿に呼ばれて顔を向け─────

 

★☆★

 

〖 星 視点 にて 〗

 

私の連撃を耐えてくれるとは……ますます興味深い!

 

ふふふっ………ここまで私の攻撃に粘る御仁は初めてかも知れん! 当たり外れに関わらず、今宵のメンマの味は、さぞ格別だろう! いやぁ……楽しみだ!

 

うむ───お誂え向きに砂煙が薄くなったな。 あの御仁はと……おやっ? 先程の場所より移動されて、剣を構えて近付いて来たのか。

 

こちらに少しずつ近寄るが、果たして何か考えでもあるのか? 御仁の力量、技、速さは既に見切った。 普通の攻撃では私には勝てぬぞ!

 

さて、風も稟も待っているのだ、茶番劇も終わりにし、次の攻撃で見極めさせて貰う! 私は、龍牙を御仁の頭に狙いを定めて腕を引く!

 

神槍とも言われる我が絶技、特と味わうが────!?!?

 

『─────☆☆☆』

 

な、何だ!? 眩しくて目が見えない!!

 

辛うじて龍牙を落とさなかったが、私の目が強烈な光を浴びて、見開く事が出来ないでいる!

 

いったい、何があったと─────!?

 

颯馬「…………俺の勝ちだ! 武器を捨てて大人しくしろ!」

 

私の首筋に冷たい刃が当たる。

 

戦いで火照っていた身体が、急速に冷えていく事が分かる!

 

そして、目の見えない代わりに、耳から稟と風の声が聞こえる!

 

稟「星、風も私も……こうして捕らえられてしまいました。 申し訳ありません 見極めるつもりが、逆に見張られていたなんて…………」

 

風「……………ぐぅぅぅぅぅ」

 

順慶「貴女の連れは、わたくしが捕縛しましたわ。 颯馬さまを危険な事に巻き込んだ理由───正直に全部、語って頂きますわよ!!」

 

────稟、風! 喜べ!!

 

どうやら、この御仁こそ………我々の探していた方だぞ!!!

 

私は稟たちの声が聞こえた場所に向かい、そう言い放ったのだ!!

 

 

◆◇◆

 

【 その後の行方は………の件 】

 

〖 兗州陳留郡 荒野 にて 〗

 

俺たちは、襲いかかってきた『趙子龍』、連れで一緒に居た『郭奉孝』『程仲徳』を座らせて尋問を始める。

 

名前と場所は、早速聞き出したさ。

 

趙子龍と名乗りを挙げたから、まさかと思ったんだよ! だけど、三人に状況把握だけ聞いたところ、俺たちの予想は───斜め上を突き抜けた!

 

この時代は、後漢王朝末期。 皇帝が劉宏だと言うから間違いないだろう。 この場所は、兗州陳留郡に属す場所。 陳留より少し離れた荒れ地だそうだ。

 

そして、三人は旅仲間。 偶々、滞在中に知り合い、それぞれの思惑や大陸の平和への思いに共感して、仕官先を探して放浪していたのだという。

 

名前を尋ねると、蜀の名将どころか魏の知将の名が出たので驚愕した。

 

だから、 色々と聞いてみたよ?

 

曹孟徳、孫仲謀、劉玄徳の名前とか?

 

赤壁、長坂、官渡とかの地名で、有名な戦いは知らないかどうかとか?

 

曹孟徳は、やはり陳留の太守で活躍しているとの事。 郭奉孝が力説していたのが気に掛かるが。

 

孫仲謀に関して、『南陽太守の袁公路に孫伯符が客将で一族を率いているとの事、その中に居るかも知れませんね~』と程仲徳の言。

 

劉玄徳は───世に出て居ないらしく、分からないとの趙子龍の弁。

 

戦場については、全員に首を捻られた。

 

これで、把握できたのは………今の時代は後漢末期。 黄巾さえも現れていない漢王朝最後の余徳が残っている時代だったのだ。

 

流石に、この混沌とした状況には……俺たちも開いた口が塞がらなかった!

 

日ノ本の朝倉屋敷内で仕事?をしていた俺たちが、どうして大陸、それも時代も状況も変化した場所に倒れていたのか?

 

謎は深まるばかり……………!

 

───更に!

 

今、一番、俺が頭を悩ませている事柄───

 

───それは!

 

───現状の俺への待遇である───!!

 

颯馬「…………………」

 

何故か、命を掛けて戦った俺まで正座をさせられ、三人の横で頭を項垂れている。

 

────いったい………俺が何をしたと……………?

 

久秀「さて………説明して貰いましょうか? 貴女たちの事、久秀たちを襲撃した真の理由を!」

 

颯馬「ひ、久秀殿……その前に一つ質問が……」

 

久秀「あぁ……颯馬を趙雲達と一緒に正座させている事? 当然、久秀の逆鱗に触れたからじゃない。 颯馬は久秀の玩具、壊れるのは久秀が命じるか、飽きちゃた時にして頂戴! だから、久秀の意を反した玩具に罰を命じるのよ!」

 

順慶「颯馬さまが御自分の命を捨ててまで、わたくしを守って下さる心意気、感激致しました! しかし、敵である姫武将の色香に迷われる事、納得できませんわ! だから、後でわたくしの魅力をたっぷりと味わって頂きます!」

 

颯馬「…………意味が全然わからないよ………」

 

久秀殿たちの話を聞いたが、相変わらず理解できない。 何をそんなに怒られる事をしたのかと首を傾げた。

 

それよりも───身体を正し三人へ向けて問い掛ける。

 

颯馬「え~と、君達の名前は、さっき教えて貰ったけど………本当に?」

 

星「これは失敬な! 私たちの名前は、敬愛する父母より名付けられ、この歳まで共に歩んで来た立派な私たちの一部ですぞ? 姓は趙、名は雲、字は子龍と申した事、嘘偽りも御座いません! ───主よ!」

 

主……今、聞きなれない言葉が出て来た。 俺の空耳では無いことは、久秀殿と順慶が趙子龍へと、問い詰めているから明白である!

 

久秀「今………颯馬の事を『主』………って呼称したけど、それは何?」

 

星「はっ! 私達は『管路』の話を耳にして馳せ参じた者ゆえに。 されど、如何に管路の話とは言え、私達の命を預けられる御仁か試させて頂いた所存。 懸念は既に晴れました。 どうか、私達を天城さまの臣下の末席にと!! 」

 

順慶「颯馬さまが……? 納得のいく説明が欲しいですわね?」

 

稟「詳しい話は、後ほど語らせて頂きます。 この場所より西に陳留なる街があり、その街で私達は『管路』なる占い師に出会いました。 『天の名を冠す天人が降臨す』と。 その話を聞き、興味を抱き参った次第です!」

 

順慶「颯馬さまは、姓は『天城』ですから……間違いは無いですが、それだけで? 貴女たちは、かなり聡明な人物のようですから、決め手となる別の物があるのでしょう?」

 

風「管路さんの話ではー『にほんとう』なる綺羅びやかな剣を持ち、智勇兼備の将が、天人を守っていると聞いてまーす。 風としては、星ちゃん……趙子龍を撃破した際の策を見て、信用したんですけどねー?」

 

星「うむ、私もだ!」

 

稟「同じく!」

 

三人が俺の顔を見詰める。 久秀殿の方に顔を向ければ、コクリと頭を縦に軽く振ったので、理由を説明したんだ。

 

颯馬「あれは、丁度砂煙が俺たちを覆った時───」

 

 

☆★☆

 

《 回想 》

 

久秀殿に呼ばれて顔を向け──うわっ! 眩しい!

 

俺は顔を背けると、久秀殿が手鏡で陽の光を反射させたていたんだ。

 

『なるほど、これを利用すればいいのか!』

 

久秀の顔を見ると───無表情でコクリと頷いたんだ。

 

剣を構えた俺は、その反射を見えないように俺の身体で隠し、素知らぬ振りをして攻めた。

 

簡単に言えば、こういう結果だ。

 

★☆★

 

 

 

星「もし……その事を私が気付き、反対側に回っていたら………どうするおつもりだったのですか?」

 

颯馬「その時は、これを利用しいたよ。 この刀……小鴉丸の刀身で更に反射させ、子龍殿の顔に当てていた。 問題は全くなかったんだよ」

 

俺は鞘より引き抜いた小鴉丸を見せる。

 

陽の光を反射させ、神々しさを醸し出す名刀。 『これは預り物として、何時か持ち主に返すんだ。 それまで大切に保管しよう』……そう決意したんだ。

 

順慶「………………」

 

颯馬「それに…………順慶殿も、俺の策が失敗してしまった時の補助で、俺の背後に居てくれたんだよね? 奉孝殿、仲徳殿を捕らえるのも役目だったけど、万が一の為に待機もしてくれたのは、正直……心強かった!」

 

順慶「そ、颯馬さま! 何故、それを───」

 

颯馬「だって、順慶殿の懐より……手鏡の一部が顔を覗かしている。 二人ともおなごだから、身嗜みに気にしてると考えれば、即座に理解できたよ? ありがとう……心配を大分掛けてしまって………」

 

順慶「颯馬さま───っ! そこまでわたくしを……気に掛けて下さるなんて、わたくしは、わたくしは…………!!」

 

颯馬「じゅ、順慶殿! 離して下さい!! ───周りの視線が!?」

 

久秀「ちょっと! 献策したのは久秀よ! 久秀にも礼を述べるべきじゃないの? いえ……久秀こそ命を救った恩人、だから颯馬は………久秀を敬い、久秀だけに忠誠を尽くすべきなのよ! ────な、何よ! その笑顔は!!」

 

颯馬「ありがとう、久秀殿! 貴女の策で救われた。 これからも頼りにしていいですか?」

 

久秀「当たり前じゃない! 久秀の玩具なんだから、勝手に死なれるなんて迷惑なのよ! これからも、扱き使ってあげるから覚悟なさい!!」

 

正座している俺の前で、久秀殿と順慶殿が騒ぎ立てた!

 

 

 

風「あぁあ……風たちの事………完全に忘れてしまってますね───ぐぅ~」

 

稟「しかし──仕えがいのある方ですよ? 臣下の策を即座に理解して、更なる策に転化する軍師を上回る王。 果たして……この先どんな展開を見せてくれるのか。 非常に楽しみです! それと………寝るなぁぁぁ!!」

 

星「主よ! 臣下としていただければ、何なりと命じ下さい! 偵察でも、見張りでも───夜伽でも!」

 

 

───────────!!!

 

 

 

颯馬「夜伽!? ちょ、そんな事、誰が────」

 

順慶「颯馬さま! 夜伽なら、わたくしが行って差し上げますわ!」

 

久秀「駄目よ、颯馬はね……久秀のやり方じゃないと反応はしないの! だから、久秀が調教も兼ねて相手してあげる!!」

 

颯馬「俺は、別にぃそんな事を言いたい訳じゃ────」

 

 

 

 

稟「星………貴女、ワザと波紋を起こさせましたね………?」

 

星「失敬な……これでも、半分本気だ!」

 

風「余計に質が悪いですねー。 でも、半分とはー?」

 

星「主の性癖、その器を全部確かめていないからな。 我が真名を預ける時に、それとなく誘うつもりだ………」

 

稟「私としては………あの御二方の実力を確認してから考えますが……い、いえ! 例えですよ、例えで!! まだ、会ったばかりの御仁に、懸想するほど安い女と思われたくありません!」

 

宝譿「おうおう! それは即ち………あの兄さんを慕っているってことかい?」

 

風「駄目ですよ、宝譿。 稟ちゃんも乙女なんだから、それぐらいにしておかないと。 後で泣かれてしまい、面倒くさ……いえいえ、慰めるのが大変ですからー」

 

星「ほぅ………稟もか?」

 

稟「な、なななぁ何を!? そ、それと風! 私が泣くと面倒くさいとはどういう事ですかっ!! 」

 

風「風じゃ~ありませんー! 宝譿ですよ~」

 

稟「宝譿の後見人は風の筈。 ならば、宝譿の生じた責務は必然的に風に帰します! そうなれば、責任は風に確定となりますよ!?」

 

風「────!」

 

星「………賑やかな事だ。 さて、この先どう動くのかは───主の行動次第になるのだろうな…………」

 

 

----

----

 

三國志の外史に降りたった天城颯馬一行。

 

新たな仲間が早くも加わり、波瀾万丈の道程が見え隠れしている。

 

この後、どのような話が紡ぎられるのかは………定まってはいない。

 

これも外史の一つゆえ、道程も無限に広がっているのだから。

 

 

 

 

 

―――――――――

―――――――――

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

義輝記の外史みたいな物ですが……この話はこれでお仕舞いです。

 

本編は本編で終わらせたいと考えていますが、もう一つの話(艦これ)が主に作成しているため、最終回が年末になるかも。

 

月一回は、更新して行きたいと思っております。

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
4
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択