No.796085

IS ゲッターを継ぐ者

第十二話です。

2015-08-13 21:58:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:726   閲覧ユーザー数:713

 

 

   〜ナレーションside〜

 

 

 クラス対抗戦当日。

 

 会場となる第四アリーナの観客席には生徒が詰めかけ、開戦の時を今か今かと待っている。

 

 

「………………」

 

 

 Aピットにて。ISスーツの光牙は目を閉じて壁にもたれかかり、脳内でイメージトレーニング中。

 

 対戦相手は鈴。

 

 事前に組み合わせを知っていてのことかは分からないが、光牙のベーオも格闘型。クロスレンジでの激戦になるのは間違いないと見た。

 

 脳裏で接近戦をイメージ。壁に追い込まれた時や、逆に追い込んだ時など、様々なシチュエーションを予想し対策を練る。

 

 

「(……でも)」

 

 

 目を開ける光牙は何処かイメージに集中出来ずにいた。

 

 理由は率直に現せば違和感だ。何かは分からない、モヤモヤとしたもの。

 

 まるで何かあるぞ、不安定だぞ、と警告しているみたいで、どうにも気になって仕方がない。

 

 

「なんだってんだ」

 

「どうしたのだ、光牙?」

 

 思わずぼそりと口に出す。それを同じ室内にいた人間が聞いていた。

 

 千冬である。モニターを見ていた彼女が光牙に歩み寄り聞いてくる。

 

 

 

「先程から何か考えているみたいだが、心配事か?」

「……いや。ちょっと気になることがありましてね」

 

「気になること?」

 

「僕の思い過ごしとかかもしれません。気にしないで下さい」

 

 

 ベーオで時間を確認し、開始時間が間近となったので光牙はカタパルトへ向かう。

 

 確証がないから話しても仕方ない。無闇に不安を広げる必要もないのだから。

 

 そんな自分の横を通り過ぎていく光牙を見た千冬の心境。

 

 

「(気になること、私に言えないことか? ……ま、まさか女絡みか!? 光牙を狙う理由は考えればキリがないが遂に何処かのアホが手を出したか! うおのれぇ、もしそうならば……我が愛機のサビにしてくれるッ!!)」

 

 バキバキバキィッ!

 

 

 相も変わらずブラコン一直線。ブレーキなぞある訳ない。

 

 両目は昭和のスポ根漫画よろしく炎が燃え、手にしていた携帯端末が木っ端微塵に砕け散る。隣の副担任がビビってまっせ。

 

 

「あ、あぁ……十万もするのに」

 

「さ、寒気が……」

 

『(こ、この感じは一体……?)』

 

 

 請求書に涙目の真耶。そんなブラコンお姉ちゃんの影響を受ける、カタパルトで機体を纏う一人と学園深部に眠る一機であった……。

 

 

 

 

〜第五アリーナ・倉庫〜

 

〜第五アリーナ〜

 

 

 第四アリーナとは真反対に静まり返っている倉庫にて。

 

 

 ――ガリガリガリガリ……。

 

 

 何やら怪しい物音が反響している。まるで何か堅いものを削る様な。

 

 動くものなど、何一つない筈なのに。

 

 奇妙な音源は、一つの物体から発せられていた。

 

 緑の黒のガントレット。機材の搬入時に紛れ込んでいたあれ。数日前から蠢いていたガントレットは、その左右から生えた計六本の脚が二回り巨大化していて、節がつき先端には鋭い爪。腕を入れる空洞部分には無数の牙がびっしりと生え揃っている。

 

 それが何をしているかというと、六本脚で踏ん張り金属の機材を牙で削り“食っている”。

 

 

 常識ではありえない光景だ。もし監視カメラのレンズがこれを捉えていたら、警備室の女性は卒倒していただろう。

 

 もっともそのカメラは既にガントレットの腹の中。警備室には外部からのダミー映像が流れ、全く気付かれていないのだが。

 

 ガントレットは紫の体液を散らしつつ、機材を貪る。

 

 

 ガリガリ、ガギン、グシャグシャ、バギャン。

 

 

 誰もが知らぬ中、そいつは黙々と“食事”を続けていく。

 

 

 

 

〜第四アリーナ〜

『さあさあ皆さん! お待たせぇいたしましたぁ! ただ今より、クラス対抗戦を開幕ぅ致します!』

 

 

 場所は戻り第四アリーナ。

 

 放送席に座る女子の言葉に歓声が沸き起こる。

 

 彼女は三年生の整備科・放送部部長『熱騎響子(あつき きょうこ)』。自他共に認める熱血女子であり、トレードマークは性格を体現するかの如き真っ赤なショートヘア。実況が趣味、否、本人曰く生き甲斐としている。

 

 入学し放送部に入部してから、その性格と実況に対する熱い思いを部長(現在はIS関係企業に就職)に見初められ、試合関係の実況に抜擢。その熱い実況は生徒・教員の大半から高い支持を受け、以来ほぼ全ての実況を担当してきた猛者である。

 

 

『今年は男性のIS操縦者が見つかるという驚愕の年! こんなことが起ころうとは私も予想外でした。ですがまあ前置きはいいでしょう。早速、皆さんも待ち望む第一試合! その選手紹介に参ります!』

 

 

 マイクを握り片目を瞑りながら、ビシィ! と響子はフィールドを指差す。

 

 

『Aといきたいですが、まずはBコーナー! 一年にして中国の代表候補生。黒き龍の雄叫びが空を揺るがす。二組代表、凰鈴音!! 愛機は中国第三世代機、甲龍!!』

 

 

「凰さん頑張ってー!」

 

「私から代表奪ったんだからしっかりねー!」

 

「それ応援なの!?」

 

 

 主に二組の生徒(一部皮肉込み)から声援が上がる。

 

 

『……対するはAコーナー。全くの予想外、イレギュラー。現実を書き換え、彼は現れた……。――史上初の男性操縦者、滝沢光牙ァァァァ!! 愛機は漆黒の狼牙、ゲッターロボベーオォォォォ!!』

 

『何なのこの紹介』

 

 

 対し熱すぎる響子の紹介に、光牙は若干引き気味。どうやらウケなかったようだ。

 

 ワァァァァ、と観客には大ウケだが……。

 

 

「「「「滝沢君頑張れー!」」」」

 

「気合いだ光牙!」「ファイトですわー!」

 

「フレー! フレー! こ・う・が! ファイト・光牙! 最・強! 光牙!」

 

 

 一組から主に歓声。……約一名――学ランにハチマキ、手袋と応援団スタイルで応援歌を熱唱していたが光牙は聞かなかったことにした。

 

 

「つーか私の扱い、なんか雑なんだけど」

 

『いやそんなこと言われましても……』

 

 

 ジト目で光牙もといベーオを睨んでくる鈴。しかしこれにはどうすることも出来ず、反応に困った時の雫マークを浮かべるしか出来ないベーオであった。

 

 

「まあいいわ。外野の反応なんかひっくり返してあげる、アンタとの戦いで!」

 

 

 けどそこは鈴。直ぐに表情を変え強気なものに変え、堂々と宣言。両手に青竜刀型近接ブレード『双天牙月』を展開すると、手の中で演舞さながら、回転させて構えてみせた。

 

 

『望むところです』

 

 

 対しベーオもファイティングポーズを取りシャドーパンチ。

 

 両者とも準備万端。

 

 歓声が静まり返る。

 

 時間が止まったかの様に沈黙が流れてゆき――。

 

 

『では参りましょう! ISバトル・レディィィィ――』

 

 

 カァァァン!

 

 

『ゴォォォォォォォッ!』

 

 

 響子の叫びと隣に座る放送部部員のゴングが開戦の合図となり、対抗戦が幕を開ける!

 

 

『ダブルゥ! ゲッタァァァトマホーク!』

 

 

 バシュッ、バシュッと二本のトマホークが射出され空中キャッチ。Xを描くように振り抜いて、ベーオは鈴に突っ込む。

 

 

『開始早々、ベーオが攻撃を仕掛けましたぁ!』

 

「はぁっ!」

 

『対し甲龍も突撃する!』

 

 

 互いに敵機へ向けて一直線に疾駆していく。

 

 

『どらぁぁ!』

 

「たあぁぁ!」

 

 

 全力と勢いを込めた一撃。袈裟と横の軌道でトマホークと青竜刀が激突、瞬間的に強烈な紫電と火花が発生する。

 

 同時に衝撃で両者は後退するもベーオはゲッターウイング、甲龍はスラスターでブレーキをかけ、再度ぶつかり合う。

 

 

 ギャリン、ギャリン、ギャリィン!!

 

 

 すれ違い様に相手へ武器を振るって、何度も何度も突撃からの攻撃を繰り返し、両者の位置が激しく入れ替わる。

 

『たぁっ!』「せやっ!」

 

 

 何度か目の激突でゲッタートマホークと双天牙月での鍔迫り合いとなり、火花が二機の装甲に浴びせられる。お互いが武器を振り抜くと反動と勢いでノックバック。

 

 そこからもベーオと甲龍は突貫していく!

 

 

『トォラララララララッ!!』

 

「はあああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 雄叫びと共にゲッタートマホーク、双天牙月が高速で振るわれ、火花を散らして刃の欠片が散る。

 

 四つの刃のぶつかり合い。それは刃と刃が奏でる嵐。観客の生徒らはそれに、目を奪われていた。

 

 

『凄い、凄いですっ! のっけからここまでの激戦、そうはありません! 流石は男性操縦者と代表候補生と言うべきでしょうか!! 0.1秒たりとも目が離せなぁぁぁぁい!!』

 

「そこだ! やったれ光牙ァァァァ!!」

 

「ぶはっ!?」

 

 

 響子の実況(と教師一名)もヒートアップし、約一名が巻き添えにはなりつつ観客からも歓声が沸く。

 

 彼女の言う通り正に激戦! 瞬きすら躊躇させる戦い!!

 

『ハートが震え、燃え尽きる程熱い! 全ての戦いを目に刻めぇぇぇぇ!!』

 

 

 今言っていいのかってくらい響子のテンションもアゲアゲ!

 

 周囲も急上昇する中で、ベーオと甲龍は二度目の鍔迫り合いに入る!

 

 

「やるわねぇ光牙! 周りも盛り上がってるし!」

 

『鈴さんだって! その言葉をそっくり返しますよっと!』

 

 

 好戦的に笑う鈴にベーオはトマホークをかち上げ双天牙月を跳ねて懐を空けさせ、右脚でのキック!

 

 同時に反動で一回転しながら距離を取ってみせる。

 

 

「くっ、やるわね! なら私もガチで行くわよ!!」

 

 

 一撃を貰った鈴は遂にカードを切る。

 “それ”をベーオは、いち早く感じ取った。

 

『(空間に歪み?)』

 

 

 通常ではありえない現象。直感的に何かあると察し、鈴の正面から移動したその時だった。

 

 

 ――ドォン!!

 

 

『ぐぁっ!?』

 

 

 巨大なハンマーで殴られたかの様な衝撃がベーオの右腕を襲い、ゲッタートマホークが吹き飛んで地面に刺さる。視界がぐるんと回転して地面と空が入れ替わりながら吹き飛ばされていって、なんとかウイングと足裏スラスターで態勢を直したが、

 

 

『ぐっ!』

 

「逃がさないわよ!」

 

 

 不味いと感じたベーオは後退しそれを追う鈴。ドォン、ドォン、と轟音が連続しフィールドに二、三メートル大のクレーターが穿たれていく。

 

 

『クッソ!』

 

 

 これでは接近できない。しかし今は攻撃から逃れるべくベーオは全速力で甲龍から離れる。

 

 

 

 

〜Aピット〜

 

 

「ひ、酷いですよ織斑先生……この眼鏡、買い換えたばっかなんですよぉ!」

 

「……すまなかった。まさか本体に当たるとは思わなくて」

 

「いや違いますよ!?」

 

「それより見てみろ。あれは、中国の第三世代武装だな」

 

「(ってもっともらしい話で逸らしたぁ〜!)」

 

 

 ピットにて試合観戦をしている一組教師二人。担任により本体に被害「だから違います!」いや眼鏡を壊されてしまった真耶。仕方なくガムテープで貼っただけの眼鏡で試合を観るしかない。苦労人である。

 そんな二人は鈴の扱う攻撃に注目していた。

 

 第三世代武装は、第三世代ISに装備される武装。その機体の特徴であり長所となる部分だ。まだまだ燃費が悪く改善が各国のテーマになっている。

 

 モニターの鈴と甲龍を見る千冬の目は、かつて世界最強となった者のそれ。冷静に機体を分析していく。

 

「衝撃砲。空間に圧力をかけ、砲身を形成し不可視の弾丸を放つ。それでいて第三世代武装の中では燃費が良い。中々の完成度だな。敵に回すと厄介だ」

 

「砲身も見えませんから、使われたらセンサーが空間の歪みを捉えて、それから回避するしか有効な手段はありませんから」

 

 

 不可視だから、撃たれてから避けるしかない。

 

 そんなギリギリの回避では余裕が持てず、続けば集中力を多大に消費し、相手の思うつぼとなる。

 

 確かに厄介極まりない。けど同時に千冬は、戦う光牙はそれくらい理解していると思っている。

 男性操縦者という色眼鏡ごしたが、強いものを持っていると感じていた。怯まずに戦うその姿。まるでそれは、千冬の記憶の中にいるとある人物の様で……。

 

 と、そこまで思った時に千冬は気づく。

 

 

「(? ……何処か動きがぎこちないな。どうかしたのか?)」

 

 

 回避を続けるベーオの姿に千冬は違和感を感じていた。

 

 珍しくブラコン思想ではなくせんs「ふっ」しゃびゃっ。

 

 

「私はからかわれるのが嫌いだ」

 

「……何故ダーツを?」

 

 

〜ナレーション強制sideout〜

 

 

 

 

〜光牙side〜

 

『ぬっ、うっ、くぉっ!』

 

「ほらほら! 逃げてばかりかしら!」

 

 

 鈴さんの放つ連続攻撃と挑発じみた言葉に今は返せぬまま、ジグザグに飛行し攻撃を必死にかわす。

 

 後方の鈴さんがいる辺りからセンサーが空間の歪みが感知する度、地面が爆発。とりあえずこれを空間爆発(仮)と名付けよう。我ながら怖いけどね。

 どうやら空間爆発はセンサーにある通り空間に関係している様だ。いきなり爆発が起こるのはそのせいだろう。

 

 見えなくて、威力もある。単純に厄介だ。

 

 ……けどそれより、大きなな問題がある。

 

 

『(結構痛いな……)』

 

 

 さっき空間爆発が直撃した右腕。偶然か関節に直撃にしていて、変な方向に曲がったのが分かった。それで何処か痛めたのだろう、鈍い痛みと鋭い痛みを感じる。

 

 しかも今は空間爆発から逃れる度に回避しなければならず、その度に痛みが伝わる。

 

 鈴さんにはまだ悟られてないだろうけど、利き手で武器を使えないのは痛い。

 回避一択を余儀なくされる。

 

 

『試合は一転、ベーオの防戦一方となりました! 避け続けていますがいつまで持ちこたえられるのでしょう、このまま甲龍が押し切るか!』

 

 

 んなわけあるか! 解説の人め、好き勝手言ってくれちゃって……!

 

 こんなくらいでへたれるもんか!

 

 

『そこ!』

 

 

 空間爆発を回避した直後、機体を反転させ、左腕を後ろに引く。

 

 

『トマホークブーメラン!』

 

 

 左手のトマホークを投げ、その隙にもう少し距離を取って脚部と左腕に武装を召喚する。

 

『ゲッターミサイル! ドリルランサー!』

 

 

 両脚部には三連ミサイルポッド『ゲッターミサイルポッド』。左腕にはドリルランサー。

 

 

『ミサイルファイヤー!』

 

 

 肩脚より三発、計六発のミサイルを放つ。内三発が自ら爆発し、内部をぶちまける。

 

 

「いっ、拡散弾!?」

 

 

 その通り。モンハンの拡散弾よろしく拡散した火花が鈴さんに降り注いで、遅れて残り三発が飛んでいく。鈴さんは肩の非固定ユニットを展開すると、空間に歪みが生じ、ミサイルが爆発した。

 

 

『そういう事か!』

 

 

 空間爆発はあのユニットから発射されている。それだけでも分かればいい情報だ!

 

 

『いざ突撃ィ! ドリルハリケェェェェン!!』

 

「くぅぅ!」

 

 

 突き出したドリルを高速回転させての高速突撃! 僕自身がハリケーンとドリルとなり、竜巻の如く駆け抜ける。

 

 横に回避されたけど、ドリルが当たった手応えを感じた。

 

 空間爆発は厄介だけどトリックが分かれば対処出来る筈。

 

 僕はベーオを反転させ、再度ドリルハリケーンで突っ込んでいく。

 

 

〜光牙sideout〜

 

 

 

 

〜ナレーションside〜

 

 

 ドーモ、ドクシャ=サン。ナレーションデス。 

 

 復活したので地の文に戻らせて頂きます。

 

 場所は変わり第五アリーナ。

 

 “食事”を続け、倉庫の機材をあらかた食い尽くしたガントレット。それは紫の光に包まれて、同色の繭の様な形になる。

 

 それがドクン、ドクン、と蠢き、ヒビが入ったかと思うと、繭の殻が砕け腕の様なものが出てきた。

 

 爬虫類の爪や鱗があるぬめぬめとした腕。

 

 同じ様にもう片方の腕、脚が飛び出し、紫の液体をまき散らしながら何が出てくる。

 

 バキャッ……ズリュッ……。

 

「ウゥゥ」

 

 

 まるで昆虫の完全変態。羽化の如く。うめき声を発しながら、そいつは繭から出てきた。

 

 鎧を纏った二足歩行のトカゲ。

 

 その両肩にある突起状の物体がついた金属パーツが光る。そこには銀色の砲身が形成され、先端が左右二枚板バレルの特徴的な形状をしている。

 

 

「グゥゥゥゥ」

 

 

 周囲を見渡し、この倉庫の外ーー向こうのアリーナに標的を見つける砲身を前面に展開。

 

 

「グアアァァァァッ!!」

 

 

 バレルに青いスパークが散り、発射口から青白い光が倉庫の壁目掛けて発射された。 

 

〜ナレーションsideout〜

 

 

〜光牙side〜

 

 

『はぁぁぁぁ!! ――ッ!』

 

 

 ドリルランサーが直撃する直前、それは僕の脳裏をよぎった。

 

 あの違和感が雷の様に走り抜ける。

 

 これはッ!?

 

 思わず身をよじってしまい、ドリルハリケーンの軌道がずれて甲龍の横を通り過ぎていく。

 

 

「えっ?」

 

「光牙、何をやっている!」

 

「どうして外しますの〜!」

 

 ブーイングとかそんなもんはいい。

 

 この感じは……何かが来る!

 そう思った瞬間、第四アリーナから少し離れた場所で爆発音が感知された。

 

 

「何?」

 

 

 鈴さんもハイパーセンサーで気づいた様だ。僕と同じ方向を向く。

 

 

 ズガァァァァァン!!

 

 

 轟音が響き、この第四アリーナの一部分で大爆発が発生。とてつもない衝撃がビリビリとアリーナを揺らす。

 

 ……僕は、その中にいるヤツの存在を感じていた。

 

 ズシン、ズシン、と足音を鳴らし、煙を切り裂いてヤツは、その姿を現した。

 

 

「ウゥ……ウグァァァァァァ!!」

 

 

 

 かつてのゲッターロボの敵、恐竜帝国が作り上げたサイボーグ。

――『メカザウルス』。

 

 

『な……これは一体どういう事でしょうか! 白熱する第一試合に謎の機体が乱入です!! 一体あれはなんなんだぁ!!』

 

『いや今はやらなくていいから!』

 

「グルァァァァァァ!!」

 

 

 いきなり現れたメカザウルス、緑の鱗を基調とし肩や胴体に金属パーツを取り付けた二足歩行のそいつは、肩の銀色のパーツを僕に向けると、青白い光を放ってきた。

 

 

『んなっ!!』

 

 

 慌てて身を捻り回避。放たれた光はシールドに命中すると拡散したが、バチバチと青白いスパークが散っていてシールドにダメージを与えているのが分かる。 スパークを解析すると、感知できたのはプラズマ。つまりあれはプラズマを用いた武器か!

 

 

「プラズマって、そんなの何処の国が!」

 

 

 鈴さんもプラズマ武器に気づいたのが驚いている。

 

『全校生徒、及び職員に通達します!! 緊急事態により試合は中止、至急避難を開始してください!! これは訓練ではありません。繰り返します! これは訓練ではありません!』

 

「グァァァッ!!」

 

 

 ここで先生の放送が流れ観客席に隔壁が降りていく。向こうでは多分、生徒達が避難を始めただろう。

 

『今はアイツを!』

 

 僕はと言うとメカザウルスに向き直り前に出ようとした時に通信が入ってきた。

 

 

『滝沢君、凰さん! 聞こえますか!?』

 

 

 山田先生からだ。その声にはいつもと違い威厳が感じられる。

 

 

『二人とも、早く脱出して下さい! 教員部隊がそちらに向かいます!』

 

『すみません、山田先生。それには従えません』

 

『え、えぇっ!? 何言ってるんですか!』

 

『ヤツはメカザウルス。恐竜帝国のサイボーグです』

『何だと?』

 

 

 

 織斑先生の声が聞こえてくる。一夏さんを拐った奴等なんだ、その気持ちは複雑だろう。

『アレが、一夏を攫った奴らの戦力なのか!?』

 

『アイツは通常の兵器や、恐らくISでも勝ち目はありません。ゲッターである僕が行きます!』

『でも、滝沢君にもしもの事があったら――』

 

「グルァッ!」

 

 

 メカザウルスがプラズマ砲を放ってきて対処を余儀なくされ、マシンガンを連射し迎撃。

 

 メカザウルスの力なら、観客席に被害が及ぶ可能性だってある。

 

 ここで食い止めないと!

 

「光牙何やってんの! 早くピットに戻って!」

 

 

 鈴さんが近づいて、僕が出てきたピットを指差した。

 

『いや、僕はアイツを押さえます』

 

「バカ! 何言ってんの! こんなの先生達が直ぐ収拾してくれる。それにあんな怪獣みたいなのにどうやって――」

「グガァァァ!!」

 

『ぐっ!』

 

「光牙!」

 

 

 鈴さんとの会話を引き裂く様に、プラズマ弾を放ちながらメカザウルスがタックルしてくる。

 

 間一髪、横にステップで避けたけどメカザウルスは反転し射撃を再開。

 

 鈴さんの言う通りだけど、異常が起こったのにさっきから先生達が来る気配がない。よく見ればアリーナのゲートは閉じられてる。もしや、先生達は来れないんじゃないのか?

 

 なによりあのメカザウルス、先生や鈴さんとの通信の最中も僕を狙ってきた。二回もだ。

 

 先生が来ないことも考えると……間違いない、あのメカザウルスは、僕を狙っている!

 

 ゲッターロボだからか? なんにしろ、ここで止める必要がある!

 

 

『ぐっ、ゲッターミサイル!』

 

 

 右腕の痛みを堪えながらプラズマ弾を左移動でかわし、ミサイルを全て圧縮弾に切り替え発射。

 迎撃されるも拡散した火花と爆風がメカザウルスを襲う。

 

 

「グルゥ!?」

 

 

 多少はダメージがあったみたいでたたらを踏む。しかし直ぐに態勢を立て直すと、爬虫類を思わせる黄色い瞳でこちらを睨み返してきた。

 

 

「グァッ!」

 

 

 何事もなかったかの様に、両肩のWプラズマ弾を連射させてきた。

 

 分かってたけど、通常兵器じゃ効果が薄い! 

 

 ジグザグ移動で回避しながら同時にマシンガンを撃ちまくるも、弾丸は弾かれるか撃ち落される。

 

 せめてゲッタービームが使えたら……!

 

 思わず歯噛みしたその時。

 

 

 ドォン!

 

 

「グル?」

 

 

 メカザウルスの足元付近がいきなり爆発、爆風が浴びせられた。

 

 なんだ、という感じに首を傾げるメカザウルス。

 

 今のは……空間爆発!

 

 

『鈴さん!?』

 

「光牙、早く逃げて!」

 

 

 そう言い鈴さんは空間爆発をメカザウルスへと浴びせる。

 

 見えない攻撃にはメカザウルスも対処出来ないらしく、動きを止めている。

 

 けどダメだ、それじゃ!

 

「ほら! 今の内に早く逃げ……」

 

「ウガァァァァ!」

 

「なっ、効いてない!?」

 

 

 けどメカザウルスは空間爆発を振り払い、無理矢理プラズマ弾をぶっ放した。

 

 

 シュゥゥゥ、バシュッ!

 

「えっ!?」

 

 

その弾は途中で網の様に広がり、驚く鈴さんへと絡み付いて地面へ落とす。

 

 

「な、なによコレ!? ああぁぁぁ!」

 

『鈴さん!』

 

 

 網が発した電撃に鈴さんが叫ぶ。プラズマ弾ならぬプラズマネットかよ!? しかもそこへメカザウルスはプラズマ砲を向けていて、僕は反射的に前へと躍り出た。

 

 

『止めろぉぉぉぉ!!』

 

 

 叫びながら全開でブーストをかけ、射線上目指し疾駆する。

 

 頼む、間に合ってくれぇっ!!

 

 迸るプラズマ。鈴さんへ飛んでいくその間に割り込んでドリルランサーを地面へ刺し、全開で回転させる。ドリルランサーを持つ僕はそれにより逆さのまま回転!

 

 

『なんとぉぉぉぉっ!!』

 

 

 回転キックでプラズマ弾を弾き、回転の勢いで空中を回りながら鈴さんの前に着地した。

 

「こ、光牙……」

 

『大丈夫ですか、鈴さん!』

 

「ご、ゴメン。体が痺れて動けない!」

 

 

 痺れてって、このプラズマネットか!

 

 プラズマやそのネットと言い、あのメカザウルスは本当に攻撃なのか? もしかすれば、それ以外に何かある?

 

 そう思う間にもプラズマが降り注ぐ。

 

 

『やらせるか! おぉぉっ!!』

 

 

 その場に陣取りドリルランサーとマシンガン乱射で攻撃を弾き、撃ち落すが状況がかなり悪い。

 

 しかも悪いことに腕の痛みもさっきより痛くなってきた気がするし……!

 

 

『くっ……! うわぁ!』

 

 痛みで腕が鈍り、落し損ねたプラズマ弾を胸に食らってしまった。焼けつく様な痛みが走り、胸を押さえながら膝をついてしまう。

 

「グアアアアアア!!」

 

『うあああああっ!!』

 

 

 そこへ次々と降り注ぐプラズマ。全身に熱が、痛みが走る!

 

 痛い……! 熱い……! だけどっ!

 

 

『ぐ……うぅあぁぁぁ!!』

 

 

 無理矢理立ち上がる。ここでやられたら鈴さんが危ない、何よりメカザウルスを放っておけるか!!

 

 それにこれくらい……『あんな実験』に比べればなんともない!

 

 ベーオが傷つきその度に痛みを堪える。頼むベーオ、堪えてくれ……!

「グルル……」

 

 

 すると突然メカザウルスが別の方向を向いた。

 

 攻撃が止み思わず一瞬の安心……と思いきや直ぐに吹っ飛んだ。

 

 ヤツが目を付けたのは放送室。センサーで確認すると……人の存在が。その数、二人。

 

 そこ目掛け、プラズマ砲が向けられる。

 

 

『させるか!!』

 

 

 再び全開ブースト突撃。マシンガンで弾丸をばらまき、ドリルランサーで突きぬける。

 

 

『ぜあああっ!』

 

「グアア!?」

 

 

 ヤツの右肩を抉り、プラズマ砲の片方を取り除いた。体を捻り反対の方もマシンガンで撃とうとしたが、振りぬかれた腕に弾かれる。

 

「ギャアゥウ!!」

 

『がぁぁっ!?』

 

 

 更にメカザウルスが大口を開け、左腕に噛みつかれる。ドリルランサーを手放してしまい、そこから振り回され地面に叩き付けられる。

 

 

『ぐっは!!』

 

 

 無理矢理肺から空気が絞り出され、意識が一瞬遠退いた。なんとか意識を保ち、そこで僕が見たのは――残るプラズマ砲が放送室へ向けられた瞬間だった。

 

 

『うわあああああ!!』

 

 

 絶叫しながら急上昇。放送室へのプラズマ弾を身を盾にし防ぐ……!

 

 

『だあああああっ!!!!』

 

 痛みに構わず左のマシンガンを呼び出しプラズマ砲を撃ち抜く。爆散するプラズマ砲、これで潰した……かと思った時、再び熱と痺れが駆け巡った。

 

 

『がっ……!』

 

 

 どうして?

 

 視界が霞み落下していく。

 

 そこで見たのは……メカザウルスがプラズマ砲を銃の様に構えた姿。

 

 しまった、と思ったけど意識が薄れていく。

 

 チクショウ……なんだよ。

 

 行く手を阻むヤツは全部倒す?

 

 笑わせる。こんなんで、何が相手を倒すだ。 

 

 竜馬さんや號さんが見たら呆れられる。

 メカザウルスと戦えるゲッターは、僕しかいないのに。

 

 それなのに、僕は……。

 

 ぼく、は……。

 

 

 

 

 

 

 

 ――こんなんで終わるのかよ?

 

 

 ……君は。

 

 

 ――前に言った事は、今まで戦ってきたのはどうしたのさ?

 

 

 だって、大口叩いて結局ダメじゃないか。今がそうだ……。

 

 

 ――たった今やられただけで? 情けないわね。それでもゲッター戦士なの、アナタ。

 

 

 ……ゲッター……。

 

 

 ――お主が無理ならゲッターに力を求めろ。無限に力を秘めた宇宙の神秘に。

 

 僕は……。

 

 

 ――貴方は、何を望みますか?

 

 ……僕が望むのは……力。

 

 

 ――ほう、力か。

 

 

 阻む全てを倒し、前に進むための力……! アイツらさえも!

 

 

 ――なら願え、望め、手を伸ばせ。

 

 

 

 

 ――ゲッターの力へと!!

 

 

 

 

 

「くっ……うおおおおおおおああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンッ……!

 

 何かが打ち付けられるような音が響く。

 

「グゥ?」

 

 

 襲来したメカザウルス・ファガは音がした方を振り返る。

 

 プラズマを用いた武器『プラズマカノン』。肩に取り付けていたがコネクターが破壊されたので、今は手持ちに切り替えて

 

 ファガの黄色い瞳が見たのは、先程プラズマカノンを叩き込みまくったゲッターロボ。

 

 この世界のゲッターの破壊。それがファガにプログラムされた絶対の命令。その為に手段は問わない。

 

 そいつは先程倒れた筈であった。

 

 だが今、ゲッターは立ち上がり、その全身に緑色の光が揺らめかせているではないか。

 

 同時に顔面の双眸に光が――瞳が宿る。

 それはかつて、流竜馬がブラックゲッターに搭乗していた時の様に。

 

 

 

「……………」

 

 

 その瞳がファガを捉え、次の瞬間。

 

 

「つぇあああああああァァァァァァァァ!!」

 

 

 周囲の空気がビリビリと震える程の雄叫びを発し、ゲッターロボベーオは一瞬でファガの懐に潜り込んだ。

 

 ゲッター最速、ゲッター2を遥かに上回るスピードでだ。

 

 

「ガッ!?」

 

「ウォォォォォォッ!!」

 

 

 両手両足でのラッシュを叩き込む。正拳突き、フック、アッパー、ボディブロー、ハイ・ミドル・ローキック、膝蹴り、踵落とし。

 多種多様な格闘をファガの四肢、胴体、頭部といった全てに打ち込み、更には緑の光を四肢に纏わせ、刃の様にして切りつける。

 

 

「ガ、ガアアッ!?」

 

 

 突然の猛ラッシュにファガは対応しきれなかった。ただボディ受けるしかない。

 

 対しベーオは両腕を広げると緑の光を飛ばして、アリーナに刺さっていたトマホークを念力の様に操り、手に持つと今度はトマホーク二丁でラッシュ。

 

 金属パーツを砕き、鱗とその下の皮膚、筋肉、メカをも切り裂く。

 

 血や機械が周囲に飛び散り、その中で斬り飛ばされたファガの腕が舞い落下。傍らにはボロボロになったプラズマカノンが。

 だがベーオはまだまだ手を止めない。

 

 トマホークを捨て、右腕を引いて拳にエネルギーをチャージ。緑の輝き放つそれを、突撃と同時に叩き込む!

 

 

「ゲッタァァァァァァ!! パァァァァァァァンチィッ!!!!」

 

「ギャオウッ……!」

 

 

 ファガの土手っ腹にぶち込む、からのアッパー。ファガの顔面がひしゃげ牙を粉砕。それだけでなく、ファガそのものを遥か空中へ吹っ飛ばす。

 

 

 

「フンッ!」

 

 

 ベーオが気合いを入れる様に両拳を打ち付ける。葵が右手へ召喚され、緑に光る左掌で刀身をなぞる。

 それにより葵の刀身に緑の輝きが宿され、両手持ちにし大上段に構え。

 

 そしてファガの落下地点を予測し、その地点へと疾駆する。

 

 

「一刀……両ぉぉぉぉぉぉぉぉぉだぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 

 一閃!!

 

 光を纏いし葵を袈裟斬りに振り抜く。

 

 光が尾を引き、ファガに緑のラインが引かれて、その通りに真っ二つ。直後、爆散。

 

 

「ギッ……ギャォォォォォッ!!」

 

 

 断末魔が響いて爆煙が巻き上がる。それを背に佇むベーオ。葵を左右に振り抜き血払いを行う。

 

 その姿、さながら勇者の如く。

 

 ――ピキッ。

 

 しかし爆風が収まると、刀身にヒビが入り、緑に輝きながら砕け散ってしまう。

 

 

 

 シュゥゥゥ……ガシャン!

 

 

 そしてベーオも瞳と双眸、全身から光が消えていき、機体が解除されて光牙は前のめりに倒れてしまう。

 

 この後、教員部隊にファガの残骸は回収され、光牙も搬送された。

 

 この戦いを目の当たりにしていた者達。

 

 ある者は戦慄し、ある者は驚愕し、ある者は恐怖し、ある者は戦う姿に最後まで釘付けになっていた。

 


 
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