No.79590

真・恋姫SS 【I'M...】11話

11話です。
元々9話くらいで終るかなーと思ってたのに、ここまで続いてしかもまだつづきそうっていう(’’

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2009-06-17 18:27:39 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:11746   閲覧ユーザー数:9023

 

 

はぁ…はぁ…

 

雨で体温が下がり、体力がなくなっていくのが目に見えて自覚できる。

視界も悪く、地面もぬかるんでより体力を奪うようになっていた。

ビシャビシャと泥が跳ね上がり、体や顔に飛び散る。

 

それでも止まるなんて出来ない。

あの子と約束した。

必ずつれて帰ると。

 

それは…あの人との約束を守ることでもある。

あの子を救うという約束。

 

 

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 

兵達の叫びが聞こえた。

始まったのだ。

結果の見えた戦いが。

 

足が重く感じる。

どうやって助ける。この戦場の中で、どうやって彼女を助ける。

彼女自身がすでに死ぬ覚悟をしてしまったこの状況で、どうやって…

 

悩みながらも走り続け、目の前に戦場が広がった。

もう数十メートル向こうへ行けば、殺し合いの世界だ。

兵隊の足音が、地鳴りとなって聞こえる。

剣戟の音が合奏となって、耳が痛いほどに聞こえてくる。

 

そんな中で、飛び散る泥と赤い液体。

見ているだけでも次々と消えていく命。

 

そんな景色をただ眺めていた。

先ほどまでの決意はどこへ行ったのか。

足が震える。……怖い。

 

だが、行かなければならない。

ここで迷っていても、後に待つのは後悔しかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

一歩ずつ、進んでいく。

恐怖を踏み潰すように、しっかり踏みしめて、少しずつ歩くペースを上げる。

 

 

徐々に聞こえてくる音が大きくなる。

ガチャガチャと金属がこすりあう音。

人の叫び。鉄が肉を切り裂く音。それがはじけて液体が噴出す音。

 

間近まで近づき、覚悟を決めた。

 

ダッー―

 

一気に駆け出す。全ての音を掻き消すように全力で走る。

今、自分は戦場にいる。その事実を噛み締め、突き抜ける。

 

どこにいる。

あの人が見つけられない。

どこに―――

 

そう思って視界を左右に振った瞬間。

 

「うっ…」

 

突然視界が真っ暗になった。

重いものが突然のしかかってくる。

 

何かと思い、払いのける。

そして、それを確かめ―――

 

「うわああああああああ!!!」

 

それは“人だった”もの。

鮮血に濡れ、ただの肉塊と成り果てた元ヒト。

 

その異常なものを振り払い、無意識に叫んでいた。

思わず、足が止まる。

自分に体にこびりついた血液。その匂いと、この景色に気を失いそうになる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

鼓動も早くなり、目の前がゆがむ。

 

「おおおおおおおお!!」

 

「っ!」

 

急に聞こえた叫びに正気に戻る。

だが、目の前には剣を持ち、こちらに突っ込んでくる兵。

その刹那―――“殺される”。

 

そう自覚した。

……逃げろ。

逃げろ、逃げろ、逃げろ―――!

 

無意識に後ろに下がる…。

 

ガッ

 

「―――っ!」

 

何かに足を引っ掛け、後ろから躓く。

 

「うああああ!!」

 

さっきの兵が叫びながら突っ込んでくる―――!

 

ガッ

 

―――ズブブブブ!!

 

剣が肉を貫く感触が伝わる。

自分が転んでいる体勢のために兵が上からのしかかるように剣を刺す……だが、

 

貫かれたのは、俺じゃなかった。

俺の手にあったのは、無意識のうちにつかんでいた、さっきの死体の剣。

血があふれ出ていたのは、さっきの兵士。

 

相手が剣を振り下ろす前に、俺が相手に剣をつきたてていた。

 

剣を通して、血が流れてくる。

雨ですらぬぐいきれないほどの量の朱。

白かった制服は、泥と血で黒か茶色か赤か分からない色に染まっていた。

 

自分の状況を把握するまで数秒かかってしまった。

俺は生きている。

剣で貫かれた相手をどけ、立ちあがろうとする。

 

ズルッ―――バシャッ

 

ぬかるんだ地面で上手くたつことが出来ない。腰のぬけたような体勢から今度は四つんばいになる。

 

もう一度立ち上がり、今度は立つ事ができた。

そして、さっきの二人の死体を見ることで改めて自覚した。

 

今俺は、ヒトを……コロシタ。

 

ここは戦場なのだから、仕方がない。

偶然とはいえ、俺は相手を殺し、生きている。

 

震える手を押さえながら、殺した相手の剣を奪い、歩き出す。

重い。

この重さは、鉄だからじゃない。

そう確信できる。

 

そして、もう一度、琳音の姿を探す。

 

「あ………」

 

少しはなれたところで、ヒトが飛び散った。

そしてその中心で、探し人を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/ANOTHER side

 

 

「え、袁成様!さきほどの曹嵩の言葉はどういうことですか!」

 

「奴らは反乱を起こす賊ではなかったんですか!?」

 

兵達が、先ほどの曹嵩の号令で動揺する。

彼らは曹嵩達が今の治世を乱そうと反乱を起こす賊だと伝えられていたのだから、当然かもしれない。

そして、始めは数人だった動揺は、一気に広まり、半数以上の兵が右往左往していた。

 

こうなると、自分達の調練不足が嫌というほど目に付く。

これでは民とほとんど変わらない。

 

何より、嫌悪すべきは、自分までもが揺れているということ。

娘の麗羽に詰め寄られ、はっきりと言えなかった自分が、恨めしい。

陶謙のしていることは反乱の鎮圧などではない。

だからこそ、自分がそれに加担していることに迷いがでる。

ここでもし、陶謙を裏切り、曹嵩を救うように兵を動かせば、心は満たされるかもしれない。

だが、今は数千対数百の戦いでも、そうなってしまえば伯仲の戦となる。

そうなれば、被害はどんなものになるか…

 

「私も…麗羽のように決められれば、どれほど…」

 

名族として、やっていいことではない。

名族として…

 

麗羽が口癖のように言う言葉。

それは、驕り・虚勢・妄言そのどれもが当てはまると、考えてきた。

所詮名族といっても、結局は自分の力を示すしかないのだから。

 

「え、袁成様…、われわれの君主はあなたです。陶謙ではありません!」

 

「…え?」

 

近くにいた兵の1人がいい出した。

 

「俺達は袁成様の命令に従います。」

 

「俺は、暴れられるならどっちでも…」

 

「おい!」

 

次々に兵が私に声をかける。

私の迷いが伝わってしまったのだろう。

 

「ですが……皆さん…」

 

「俺達はあなたの兵なんですよ?袁成様。これでも袁家に仕えれて良かったと思ってるんですから」

 

「まぁ、いつかあの袁紹さまにも使えるんだって思うとちょっとこわいけどな」

 

「お、お前、いいかげんに…」

 

「…………ふふ」

 

「袁成様?」

 

「娘には怒鳴られて、部下には諭されて…将としても母としても………だめな人間ですね、私は」

 

『………………』

 

本当にだめな人間だなと、自嘲する。

被害…散る命…。

できれば、そんなものをなくしてしまいたい。

けれど……私は、皆を導く将なのだから。

 

誇りだけは失ってはいけない。

それは失えば取り戻せない、命と同等の価値を持つものなんだから。

 

「皆さん……これから私は、あなたたちに許されないことを命じます。…ですから――」

 

「袁成様、我々ならどんなことでも従います」

 

「……ありがとう。では……命じます。我々はこれより敵陣に向かい突撃をかけます。そして、名族に仕える者として誇りある戦いをしなさい。わが信念をこの戦にて示します!」

 

「麗羽…袁家の誇り、あなたに見せましょう…」

 

剣を空へと向け、言い放つ。

 

「全軍、転進せよ!!この戦い…我らの手でおわらせます!!!」

 

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

/華琳side

 

 

 

 

雨の中、私は急いであの姉妹のもとへ向かっていた。

母の事は一刀に任せ、自分は自分のするべきことをするために。

約束したのだから、私も守らなければいけない。

走りながら決意を確認する。

やがて邑の中でも広いところに出ると、二人が見えた。

 

 

「春蘭!秋蘭!状況は!?」

 

「華琳さま!邑の人たちはほとんど避難はできたんですけど、小さい子供いる人が少しおくれてて…」

 

春蘭が大まかに今の状況を説明する。

おおよその避難は完了しているが、さすがに子連れや老人などは少し遅れているようだ。

 

「そう、なら二人は子供達の先導をしてくれる?私は遅れている人をまとめて避難させるわ」

 

『はい!』

 

小さな邑…といってもそれなりに人はいるのだ。

子供3人が頑張っても、そうそううまくまとまるものではないかもしれない。

でも、しなくちゃいけない。

一刀は必ず母を連れて帰るといったのだから、私は必ず、皆を逃がしてみせる。

 

 

 

 

 

 

「さあ、こっちだ!絶対はなれるなよ!!」

 

春蘭が先頭で子供達を導く。

普段があれでも、こういうときは頼りになるのが彼女だ。

 

「ほら、しっかり立って歩け。少し擦りむいただけだから、大丈夫」

 

転んでしまった子をなだめつつ、後ろでは秋蘭が遅れている子を後押しする。

子供達のほうは二人がなんとか無事に非難させてくれていた。

 

 

だけど―――

 

 

 

「皆、こっちよ!遅れないで!………ぁ!」

 

 

こちらは老人達も多く、この雨のせいでなかなか歩がすすまない。

思わず足を滑らせる者もいて、なんとかその人を支えながらも先を行く春蘭達からはぐれないようにする。

だが、自分がいるのは隊列の丁度真ん中辺り。

1人では前を導くことも、後ろから後押しすることも出来ず、歩行速度は落ちる一方だった。

 

「このままじゃ…はぐれちゃう……」

 

そうなったら、この雨の荒野の中、民を連れたまま迷い歩くことになる。

そして迷った挙句、今日中に別の街か邑にたどり着けなければ最悪だ。

 

ズルッ

 

後ろで誰かがまた転んだ。

仕方なく、支えていた人から離れ、その人を起こしに向かう。

なんとか起こすことは出来るが、さっきの人も今倒れてしまった人も体力がかなり消耗してきている。

自分が支えて上げられる人は1人が限界だ。

 

それに進む方向も指示しなければ全体の足まで止まってしまう。

 

「そのまま進んで!!できるだけ前から離れないで!!」

 

必死で叫ぶ。

なんとか移動はできるが、何しろ遅い。

秋蘭がこちらの様子を伺いながらペースをあわせてくれているが、それにも限度がある。

 

「足元をよく見て!!できるだけ転ばないように!!!………ゴホッゴホッ」

 

叫びすぎたせいか、咳き込んでしまう。

体が冷えてきたのか、視界もぼやけてきた。

だめだ。私が倒れるわけにはいかない。

任せられたんだから………一刀に、任せられたんだから!

 

「きゃっ!」

 

ズルッ

 

バシャン!

 

「く…」

 

足に力が入り、そのまま転んでしまった。

手を地について、起き上がる。

 

「きにしない…で、すす…でっ!」

 

声がでない。

のどが痛い。

叫んで、非難させなきゃいけないのに…っ!

 

 

一刀……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーーーほっほっほっほ!!!!いい格好ですわね、華琳さん!」

 

「な―――」

 

今一番聞こえなくない高笑いが聞こえてきた。

 

「な、なんで……最悪だわ…」

 

「あらあら、なんですの、その今にも助けて欲しそうな目線は!」

 

「うるさいわよ…今はあんたなんかにかまってる暇ないんだから…」

 

「ふふふ…そうですわね、あなたがお願いするなら、手伝って差し上げてもよくてよ?」

 

……は?

 

「……は?」

 

心と声の両方で言ってしまった。というか、もう一度言ってやりたいくらいだ。

なんと言った?手伝う?麗羽が?

 

「ついに頭でもこわれたの?…いや、それはもともとだったわね…」

 

「いやぁ~、あたいもそう思ったんだけど、麗羽さまってば言い出したら猪突猛進だし」

 

「それは文ちゃんも同じだとおもう…」

 

「ていうか、始めから手伝う気まんまんで飛び出したのに、なんでわざわざこんな…」

 

「文ちゃん…もうそこは突っ込んじゃいけないところなんだよ…」

 

「ちょっと、顔良さん、文醜さん、うるさいですわよ!」

 

「まったく…この雨はあなたのせいね…麗羽。」

 

泥を少し払い、いつの間に作ったんだかわからない小塚の上に立っている麗羽に言った。

 

「手伝ってもらえるかしら、麗羽?」

 

『………え?』

 

三人が同時に固まった。

お願いすればいいというから言ったのに、どういうつもりだ。

 

「あ、あの華琳さんが、わ、わたくしに頼み事……いいわ……よくってよ、よくってよ!よくってよぉぉ!!!」

 

「な、なぁ斗詩」

 

「…なに?文ちゃん」

 

「もしかして目の敵にしてるのって麗羽さまの一方通行だったりする?」

 

「私にきかれても…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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