No.793664

真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第七十八話


 お待たせしました!

 及川のピンチを救った空は一刀達

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2015-08-02 08:53:44 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:4122   閲覧ユーザー数:2955

 

「ふむ、久々に見る洛陽だがますますの盛況ぶりだな。命もちゃんと皇帝の役割を果た

 

 しているようだ」

 

 洛陽に入っての空様の第一声がそれであった。

 

 俺達は及川や空様と合流して、そのまままっすぐに洛陽への帰途へとついていた。

 

 今回の事で左慈達が再び暗躍し始めている事を命達にも報告し、今後の対策を考える

 

 為である。

 

 空様は『奴らは一刀の前に必ず現れるのだからその時に殺ってしまえば良いんじゃな

 

 いか?』という物騒にして大雑把な発言をしていたが、それではその前に余計な被害

 

 を出してしまう可能性もあるので(左慈達が俺だけを狙って来るのであれば逆にその

 

 方がベストなのかもしれないが)、此処は一度洛陽に戻って対策を練る事にしたので

 

 あった。

 

 しかし改めてこうして洛陽の街の活気を見ていると色々と感慨深い物がある。初めて

 

 洛陽に来た時のあの惨状から此処まで良く復興を果たした物だ…これも全て命達の努

 

 力の賜物なのだろうけど。この街に生きる人達…ひいては大陸中に生きる人達全ての

 

 営みを守る為にも、左慈達のやろうとしている事は絶対に止めなければならない。そ

 

 れが、まがいなりにも『天の御遣い』などという大仰な虚名を背負った俺の役目なの

 

 かもしれないしな。

 

「一刀さん、もうすぐ城内に入りますので馬から降りましょう」

 

 輝里のその声で俺の意識は現実に戻る。

 

 そして此処で一旦軍は解散して俺は及川・輝里、そして空様を伴って宮中へと入って

 

 いったのであった。

 

 

 

「一刀、徐州の件はご苦労じゃった。仔細は夢より聞いたのでそれについては改めての

 

 報告は良いが…それだけでは無かったようじゃの?」

 

 そう命は言葉をかけてくれたが…その視線は完全に空様に注がれていたりする。結構

 

 長い事行方不明になっていた空様がしれっと戻って来ているから当然と言えば当然で

 

 はあるのだが。

 

「ああ、おm…陛下にも見せたかったなぁ、この私の大活躍を」

 

 そしてそこでさらにしれっとそんな事を言う空様も色々な意味で凄いのだが。

 

「…その前に私達に対して何か仰るような事は無いのですか?」

 

 空様のその態度にさすがの月もこめかみに手を当てて頬を引きつらせながらそう言っ

 

 ていたりする。

 

「言う事…ああ、そうだったな」

 

 月の言葉に空様は一瞬怪訝な表情を浮かべるが、すぐに思い当ったらしく少し居住ま

 

 いを正す。そして…。

 

「この李通、恥ずかしながら帰って参りました!」

 

 何故かビシッと敬礼をしながらそう言っていた。この敬礼は陸軍式だな…って、違ぁ

 

 ーーう!

 

「空様、なにやってるんですか!?」

 

「何って…こういう時はそう挨拶するとさっき及川から聞いたのだが?」

 

「及川…お前」

 

「いや、ちょっとワイはちょっとボケた方がええかなぁって…」

 

 及川はそうしどろもどろに言っていたが…これについては一度しっかり話し合いを持

 

 つ必要があるな。

 

 

 

「空様、こういう時にそういうのはいりませんから」

 

「ああ、そうだな…その、私もどう切り出せば良いか分からなくなってな」

 

 空様はそう言って一度コホンを咳払いをした後、改めて居住まいを正す。

 

「長い事姿を消していて申し訳なかった。あの時は私も色々と思う所があってな…少し

 

 ばかり冷静に自分を見つめる時間が欲しかったんだ。だからと言って皆に心配をかけ

 

 た事が許されるとは思ってはいないんだが…本当にすまなかった!」

 

 空様はそう言って深々と頭を下げる。

 

 命はそんな空様をしばらく無言のままじっと見つめてからおもむろに口を開く。

 

「李通…いえ、母様。あなたがいなくなって私や夢だけでなく、多くの者があなたの事

 

 を気にかけておりました。如何にあなたがもう皇帝では無いからとはいえ、妾も夢も

 

 他の皆もあなたから教わりたい事はまだまだ沢山あるのです。これからは勝手にいな

 

 くならないと此処で誓ってください。ならば妾は母様を許します」

 

 命のその言葉にその場にいる皆が驚きの表情を見せる。何故なら此処には空様の事を

 

 知らない兵士や役人達もいたからである。

 

「命…まさか此処で空様の事をはっきり口に出してしまうとは」

 

「…やはり、李通殿の正体は劉宏様だったのですね」

 

 俺の呟きに横にいた輝里がそう反応する。そういえば輝里も一応知らなかったんだっ

 

 たな…多分気付いているとは思っていたけど。

 

「すまない輝里…劉宏様は死んだと発表した以上、誰にも言うわけにもいかなかったも

 

 のでね」

 

「それを咎めるつもりは無いからご安心を…そもそも劉宏様自身が本気で隠す気があっ

 

 たのかが疑問でしたけどね」

 

 

 

 輝里はそう言って肩をすくめていただけだったのだが、その場の騒めきはまだまだ収

 

 まっていなかったりする。

 

「静まれ!!」

 

 命の一喝でその騒めきがとりあえずは収まるも、皆の眼に落ち着きは無くそわそわし

 

 た感じのまま命の方を向いていたのである。

 

「陛下、此処はまず李通…劉宏様の事を皆にちゃんとお話するしかございますまい。他

 

 ならぬ陛下ご自身のご発言からの事ですから」

 

「…確かにじいの言う通りじゃな」

 

 王允さんからの言葉に命はそう言って一つ深呼吸してから話し始める。

 

「今、妾が言った通り、この李通の正体は我が母『劉宏』である。妾が即位してすぐに

 

 死んだ事にしていたのは、母自身からの『新しき世の到来には古い象徴にして暗君の

 

 名が高い劉宏の存在は不要』との提案による所だったとはいえ、此処まで皆を謀って

 

 いた事については申し開きのしようも無い…すまなかった」

 

「…今、劉弁が言った通り、これは私から言い出した事。劉弁は最後までそれには反対

 

 の立場であった。だから責めるならばこの『劉宏』を責めてくれ。そして、さらに我

 

 儘な事を言わせてもらえば、これからも変わらず漢の為、劉弁の為に力を尽くして欲

 

 しい…この通りだ」

 

 命の言葉に続いて空様が発言し、その直後の空様の行動に皆が騒然となる。それもそ

 

 のはず、何と空様はその場で土下座をしていたのである。如何に今は皇帝で無い上に

 

 今まで死んだ事になっていたとはいえ、本来ならばあり得ないその光景に皆はほとん

 

 ど呆然となっていたのであった。

 

 

 

「りゅ、劉宏様!おやめになってください!!あなたのその頭は軽々しくそうやって良

 

 い物ではございません!!」

 

 それにいち早く反応して空様を起こそうと行動に移したのは麗羽であった。

 

「下がれ、麗羽!私の所業を考えればこれでもなお謝罪したりない位だ!!」

 

「それでもです!如何に退位した身とは仰せになろうともあなたはこの国の最も高い所

 

 におられる事に変わりは無いのです。そして陛下にとって御母君である事もまた事実

 

 である以上、あなたが頭を下げる事は陛下のお立場をも卑下する事になりかねないの

 

 です。さあ、顔をお上げください!」

 

 普段とは打って変ったと言って良い程に迫力のある麗羽のその言葉にさすがの空様も

 

 土下座をやめて立ち上がる。そしてそれを見ていた兵士や役人達は誰からという事も

 

 無く自然に空様に対して礼を取っていたのであった。

 

「皆…まさか皆を謀っていたこの私にまだ礼を取るというのか?」

 

 空様のその言葉に皆は返事をするでもなくただ礼を取り無言でその姿勢のままでいた

 

 のであった。

 

「母様、これが皆の答えという事です。さあ、皆にお言葉を」

 

 夢にそう促され、空様は一歩前に出る。そして…。

 

「皆、ありがとう。これからも劉弁や劉協の事、そして漢の事をよろしく頼む!」

 

『御意!!』

 

 空様のその言葉に皆が一斉にそう答える。

 

「ありがとう…本当にありがとう」

 

 それを見ていた空様の眼には、うっすらと涙が浮かんでいたのであった。

 

 

 

 一刻後、俺達は玉座の間を離れ命の執務室に移動していた。

 

「しかし何だ…長い事皆を謀っていたのに、随分とすんなり受け入れられた物だ。実を

 

 言うともっと罵声的な事が来ると思っていたのだがな」

 

 部屋に入っての空様の第一声はそれであった。

 

「あの後兵士や役人の人達に聞いてみたんですけど、ほとんど皆が『李通殿の正体は劉

 

 宏様なんじゃないか』と思っていたみたいですわ」

 

「…そうなのか?」

 

 そして及川からのその回答に少々顔を引きつらせていたりする。

 

「宮中にいる人達はそもそも劉宏様の事を知っていたわけですし、さらに言えば何時も

 

 李通はんは城内の奥の方でも普通に歩いていて、陛下も殿下もまったくそれを止めよ

 

 うとしてへんので、皆『もしかして?』という疑念はあったそうですわ。他にあった

 

 意見では『劉宏様が病気如きに後れを取るわけが無いと思っていた』とか『劉宏様が

 

 お亡くなりになった直後から李通殿が城内を我が物顔で歩いていたので、最初から怪

 

 しいとは思っていた』とか『っていうか李通殿って時々兜を被らずに普通に歩いてい

 

 たからそもそもバレバレだったよね』とか『あれはバレバレな話だけどあえて秘密っ

 

 ていう態で行く暗黙の了解があったのかと思っていた』とか…どうやら皆の中では既

 

 に『李通=劉宏』という認識が出来ていたみたいですね」

 

「ははは…それじゃあえて皆は劉宏は死んだという事にしておいてくれていたというわ

 

 けか」

 

 もはや空様からは渇いた笑いしか出ていなかったのである。

 

 

 

 しかしどうやら例外はいたようで…。

 

「七乃、七乃!空お姉様が化けて出て来ていたぞ!!妾は城門の所で一刀と一緒に歩い

 

 ている空お姉様を見たのじゃ!!一刀に早う知らせるのじゃ、背後に霊が憑りついて

 

 おると!!…悪霊退散、悪霊退散、どうか成仏してください、空お姉様…」

 

 美羽は屋敷に帰るなり七乃にそう言うと寝台に潜り込んでブルブル震えていたのであ

 

 った…ちなみにそれを七乃に聞いたのは二日後だったりする。どうやら七乃は全てを

 

 知った上で二日間そのまま放置していたらしい…やれやれ。

 

 ・・・・・・・

 

 話は元に戻って、とりあえず空様の事が解決(?)した所で改めて左慈達の話になる。

 

「それではその左慈と于吉かいう者は妾達を全て排除しようとしておるというわけか?」

 

「しかもこの世界ごと…というおまけ付ですけどね」

 

「実際、その『外史』だの『管理者』だのいう話を完全に理解しきれているわけでは無

 

 いのじゃが…少なくとも、その者達を放置しておいて良いわけでは無いというのは分

 

 かったぞ」

 

 とりあえずそれだけ理解しておいてもらえば大丈夫か…全てを理解するには無理があ

 

 り過ぎるのも事実ではあるし。

 

「ならばその者達が現れそうな場所の洗い出しが必要ですね」

 

「それならばおそらくあそこしか無いと私は思います」

 

「あそこ?夢は何処か心当たりがあるのか?」

 

「心当たりという程ではありませんが…この大陸において最も神聖にして霊気の集まる

 

 場所といえば…」

 

 

 

「もしかして…それは泰山の事か?」

 

 命の言葉に夢ははっきりと頷く。

 

「あの山は神農の御代から神聖なる場所として伝わる所、この大陸の要ともいえる場所

 

 です」

 

「ですが夢様、私が昔聞いた話ではあの山は始皇帝が封禅の儀式を執り行った際に張っ

 

 た結界が今も生きていると…確か武帝がそれを無理やり破って封禅の儀式を行おうと

 

 した際にその身に呪いを受けてそれが漢が一度滅ぶ原因となったとか…如何にその管

 

 理者とかいう者達の力が強いとはいってもそう簡単に破る事など出来ないのでは?」

 

「月が言った今の話は妾も聞いた事がある。普通に考えたならば確かにそのような場所

 

 に手を出す事自体無謀な話じゃが…少なくとも奴らが現れる可能性が高いのであるな

 

 らば探りを入れてみる価値はあるじゃろう」

 

 皆の顔は色々と複雑な物があったが、命のその言葉で泰山へ部隊を派遣する事が決定

 

 したのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 ~???~

 

「左慈、どうやら北郷一刀達が泰山へ来るようです。おそらくこちらの動きを予想して

 

 の事でしょうが」

 

「ちっ…いちいちムカつく奴らだ。于吉、奴らが来る前に中に入る事は出来ないのか?」

 

「この結界は予想以上に厄介極まりない物です。このままでは破る事すらおぼつかない

 

 可能性も…」

 

「お前が自信満々に破れると言ったから来たのだぞ!」

 

「私はあくまでもどんな物にも穴の一つや二つあるだろうという意味合いで言っただけ

 

 なのですが…などと言い訳がましい事を言っている場合ではありませんね」

 

 

 

 

 

 

「とりあえずお前はさっさと中に入れるようにしておけ」

 

 左慈は于吉にそう告げるとその場を離れようとする。

 

「何処へ行こうというのです?」

 

「決まった事、奴らを足止めする」

 

「足止めとは随分と謙虚な事を…奴らを殺すのではないのですか?」

 

「忌々しい話がこの腕の状態では無理だ…おそらく向こうはあの斬馬刀女も来るのだろ

 

 うしな…いいな、さっさとこの結界を破る方法をかんがえておけ!!」

 

 左慈は本当に忌々しげな顔でそう吐き捨てるように于吉に言うと飛び出して行った。

 

「やれやれですね…ですが、左慈が私を信頼して時間稼ぎを買って出てくれたのですか

 

 ら、私はその愛に応えねばなりません。如何に此処に始皇帝の張った結界が強力であ

 

 ろうとも、私と左慈の愛の行く手を阻む事など許される物ではありません!」

 

 于吉は左慈本人が聞いたら怒り狂いそうな事を呟きながらじっと泰山を見上げていた

 

 のであった。

 

 

 

                                    続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 ようやく此処まで書けました…どうも最近ペースが

 

 落ちまくりです。

 

 そして実は空様の正体について洛陽にいるほとんど

 

 皆が知っていたという話でした。

 

 他の諸侯も大体は気付いていたりします。

 

(桃香さんは不明ですが)

 

 とりあえず次回はこの続きから、泰山へと向かう一刀

 

 達の前に再び左慈が…という所からです。

 

 

 それでは次回、第七十九話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 

 追伸 正体はばれましたが、これからも空様の名前は

 

    『李通』のままですので。劉宏は死んだという

 

    公式発表は基本そのままという事で。 

 

 

 

 


 
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