No.782896

妹ごころ、姉ごころ

くれはさん

睦月結婚もの第8話。
卯月の為に、弥生は睦月と如月、司令官にあるお願いをします。それは――

2015-06-11 00:09:31 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:390   閲覧ユーザー数:386

「――というのを、したいんです。

 ……司令官、睦月、如月。お願いしてもいいでしょうか」

 

 

……ある日の夜。

私は鎮守府の執務室を訪れ、司令官達にお願いをしていた。

その内容に対して――まず、如月が返答する。

 

「ええ、私としては特に問題はないわ。……ふふっ、弥生ちゃんは卯月ちゃんの事、本当に大切なのね?」

「そんなこと、……ない、とは言わないけど。でも、卯月には必要だと思ったから」

 

私がそう答えると、如月はどこか優しさを感じる目で私を見てくる。

……如月に答えた事には何の誇張も不足も無い筈なのに、どうしてか照れてしまう。

 

「睦月も、特に問題はないかなあ……それに、何より楽しそうなお話だし!

 たまにはこんな、鎮守府のみんなでやるイベントもいいかなって思うのです。てーとくは、どお?」

「んー、まあ私としても断る理由は特にないしね。

 睦月と如月がいいって思うんだったら、やりましょうか。……後、私達に任せてもらっていい?弥生」

「はい、お願いします」

 

 

……受け入れて貰えてよかったと、そう安堵して。

それから、その日が来ることを待ち続ける――。

 

 

 

 

ここは、リンガ泊地、鎮守府。

海より来る異形の存在、『深海棲艦』に対抗するべく作られた前線基地。

 

夏が終わり、秋に差し掛かり――少しずつ早くなっていく夕方の訪れと共に、出撃のリズムを調整していく。

――私達の、生活の場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それから、数日後。

 

朝、目を覚まして。いつもどおりに身だしなみを整え、卯月と共に部屋を出て。

司令官からの連絡事項がないか確認する為、鎮守府内の連絡掲示板の前に行く。

……すると、そこにはいつもとは違い、人だかりが出来ていた。

 

普通の連絡事項なら、こんなふうに人だかりは出来ない。

だから、何か普段とは違う事が書いてあるのかな、と思い、卯月と二人で近付くと。

そこには、こう書いてある張り紙があった。

 

 

 

 

――『イベント:1晩だけお部屋入れ替えのお知らせ』

 

――『たまには、他の子と一緒に一晩を過ごしてみよう!

   ということで、一晩だけ相部屋の子を変えてみよう!というイベントを開催します。

   組み合わせは以下――』

 

 

 

 

「――ど、どういう事ぴょん!?」

 

……そのお知らせを見て、卯月は私の方を向く。

 

   ・・・・・・・・・・・・・・・

うん、そういう反応をされる気はしてたけど。……とりあえず、どう返そうか一瞬考え――

 

「いや、どういうも何も……見たまんまじゃない?『1晩だけお部屋入れ替えのお知らせ』って。

 なに、卯月は何か心配な事でもあるの?……あたしはちょっと面倒だけど」

 

横に来た望月が、私よりも早く。やれやれ……というような顔をしながら、卯月に返答する。

 

「そ、そそそそんなことないぴょん!うーちゃんは、かっこよくてキュートな可愛い女の子だし!

 それに、しれーかんと睦月達のへんなイベントはいつものこと、っぴょん!」

 

 

 

 

 

……卯月の言うとおり。

司令官と睦月、如月――それに金剛さんや響さん達は、時々イベントを企画する。

目的は、日々戦っているみんなの息抜き。

 

司令官は、出撃が激しくない時期を狙ってそういうイベントを仕込んでるのよ――

なんて、言っていたけれど。私には、司令官がどうやってそれを見極めてるかはよく分からない……かな。

 

 

「ふーん、……まあいいか。

 ……全く、今日は夜はダラダラしながら寝ようと思ってたのに……これじゃあ騒がしくなるじゃん」

「……望月、それは起きたばっかりで言う事じゃないと思う。

 それに……卯月がそう言ってるなら、問題ないと思うから。たまにはこういうのもいいと思う」

「え゛っ」

「……お?」

 

私の言葉に、卯月と望月がそれぞれ反応する。

望月は、私の言葉を意外そうに。そして卯月は――

いつもだったら助けてくれるのに、と。そんな顔をしながら。

 

……わかってる。分かってるよ、卯月。

いつもだったら、ここで私は卯月を心配しているから。そうされると思っていたのは、知ってる。

さっき、卯月はああ言っていたけど――

本当は、一晩だけでも私がそばに居ないのが不安だ、っていうのは……知ってる。

 

 

 

   ・・・・・

でも、今回のことは……私が睦月達に持ちかけて、頼んだ事なんだ。

だから、ごめん。……そう、心の中で呟く。

 

……すると。

 

「……?どうしたんですか、弥生?

 何だか、苦しそうな顔をしてますけど……あ、体調が悪いんですか!?だったら休まないと!」

 

私達と同じように、掲示を見に来た三日月から心配されてしまった。

三日月に心配されるくらい、分かりやすく。私はそんなに、顔に出てた……かな。

 

「ううん。……なんでもないよ、三日月」

「そ、そう……ですか?あの、体調が悪かったらいつでも言ってくださいね!

 如月や由良さんほどの医療の知識はないですけど、看病は頑張りますから!」

「本当に、大丈夫だから。……ありがとう。

 卯月。……その、唸ってるのはいいけど、ずっとそうしててもご飯が遅くなっちゃうから。

 私達も食べに行こう」

「うー……だってぇー……」

 

これ以上、三日月に心配を掛けないように。……そして、どこか感じた後ろめたさから逃げる様に。

私は卯月と二人、この場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

……どうか今夜、卯月が上手くいってくれればいいと。

そう、思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、望月、文月。弥生……何か、変じゃないですか。今日はちょっとぼーっとしてるみたいで」

 

「ああ、うん。……まあ、そりゃあね。

 やれやれ……やりたい事はあたしも分かるけどさ、ちょいと荒療治だと思うよ、弥生?」

 

「あたしも、ちょっと頑張りすぎだと思うなあー?うーちゃんの事が心配だからだって思うけど、

 でも、これじゃあうーちゃんびっくりしちゃうんじゃないかなあ?」

 

「ま、その辺りは司令官と睦月達が上手くやってくれるだろうよ。

 ……卯月だけじゃなく、弥生も含めて、ね。あたしらのお姉ちゃんは伊達じゃない、ってね」

 

「……うー、望月も文月も!何か知ってるなら私にも教えてください!」

 

「三日月……結構鈍いよね、意外と」

 

「あのねぇ、三日月ちゃん。うーちゃんはねえ――」

 

 

 

***

***

 

 

「ふーんふんふふー♪」

 

――夕方から、夜に差し掛かる頃。

私、瑞鳳は弥生ちゃんと卯月ちゃんの部屋へ向かっていた。

二人の部屋に向かう目的は――もちろん、今夜のイベントの為。

朝に張り出されていた、提督、睦月ちゃん如月ちゃんお手製の張り紙だと、私、卯月ちゃんと相部屋なのよね。

 

いつもは私、金剛ちゃんと相部屋で。

だから、違う人と一晩を一緒に過ごすっていうのは、ものすごい楽しみだったりするのよね♪

 

……あ、違うよ?違うからね?金剛ちゃんと一緒の部屋が退屈とか、そういう事じゃないからね?

金剛ちゃんとはここに来て以来、ずっと同じ部屋で生活してるけど。気配りはしっかりできる人だし、

私が落ち込んでた時も励ましてくれたりして、すっごい頼りになるんだから!

……って、誰に言い訳してるのかな、私。

 

 

と、そんな事を思っている間に。卯月ちゃんが待っているだろう部屋に、だんだん近づいていく。

さて、と。

 

「卯月ちゃんと、どんなお話ししようかなーっと♪」

 

ふんふん、とまた鼻歌を鳴らす。

 

卯月ちゃんには、初めて出会った時から、元気な子だなあ……っていう印象を持っている。

誰かが落ち込んでいると、賑やかにしようと頑張っていたり。

ちょっと騒がしいときもあるけど……うん、すごくいい子なんだと思う。

 

弥生ちゃんとよく一緒に行動している印象のある、卯月ちゃん。

私は、今日はそんな卯月ちゃんと一緒に夜を過ごす事になる。

 

 

あんなふうに元気な卯月ちゃんだから、きっと今夜も楽しく過ごせるはずだもんね。

楽しいお話、できたらいいな。なんて思いながら……たどり着いた部屋を前に、扉の取っ手に手を掛けて。

 

 

「お邪魔します!卯月ちゃん、今晩はよろしくね?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

「………………あ、あれ?」

 

 

扉を開けた先には。

ベッドに腰掛け、枕を抱きながら俯いている……卯月ちゃんの姿があった。

 

あれ?……あれ??卯月ちゃんなら、『よろしくぴょん!』って

お出迎えしてくれるかなって思ってたんだけど……?あれ?

それどころか、まるで私が入って来た事に気付いてない……みたい?

 

……そんな風に、困惑する私に。今私の存在に気付いたみたいに、

卯月ちゃんはゆっくりと顔を上げ、

 

「……あ、瑞鳳ちゃん」

「う、うん」

「入って、いいぴょん。……でも、多分うーちゃんと一緒に居ても楽しくないぴょん。ごめんなさい」

 

……え?え??あれ、どうしちゃったの卯月ちゃん?

いつもはもっと、明るい顔をしていたのに、何だか今日は生気に乏しい、っていうか……。

 

「あ、あの……大丈夫、卯月ちゃん?もしかして、調子悪かった?

 なにか、大変なことあった?……あ、もしかして生理!?

 ごめんね、それだったら私卯月ちゃんの邪魔しないようにするから――」

「違う、ぴょん」

 

緩々と、卯月ちゃんは首を振る。

普段の卯月ちゃんからは考えられないくらい、緩慢な動き。

 

 

……そして、卯月ちゃんは一瞬躊躇うような仕草を見せた後。

不安そうな顔で、私の目を見ながら……ゆっくりと、口を開いた。

 

 

 

***

***

 

 

「よく来たネー、弥生ー!」

「失礼します、金剛さん。……あの、今晩はよろしくお願いします」

 

……今日の任務を終え、――私は、金剛さんと瑞鳳さんの部屋にいた。

今夜のイベント、私の相部屋になるのは……金剛さん。

だから私は今夜、金剛さんと瑞鳳さんの居室にお邪魔する事になる。

 

私が、金剛さんの所に。瑞鳳さんが、卯月の所に。

だから、丁度金剛さんと瑞鳳さん、私と卯月で部屋を入れ替える事になる。

……他の人たちはもっと複雑な入れ替えをしているみたいだけど、ただの偶然かな。

 

 

初めて来た金剛さんたちの部屋は、とても落ち着いた雰囲気があった。

私と卯月の部屋は、飾りや物の置き方に統一感がなく、

卯月の側の方がものが多いのもあって、やや雑然としているように感じられる……けど、

金剛さんたちの部屋は、部屋の両側で物の置き方のバランスが取れているように見える。

二人で、置き場所を相談しているんだろうか。

 

……と、ふと、部屋の両側にそれぞれ置かれた、和風の卓、洋風のテーブルに目が行く。

私と卯月の場合は、二人で一つのテーブルだけど……と一瞬思い、

 

「Oh,いいところに目を付けましたネー」

 

私の視線に気付いた金剛さんが、教えてくれた。

この2つのテーブルは、金剛さんと瑞鳳さんがお茶の時間に使っているもので、

瑞鳳さんが主で緑茶や焙じ茶を淹れる時は和風の方で座布団に座り、

金剛さんが主で紅茶の準備をするときは洋風のテーブルを使う……という事らしい。

 

「……金剛さんは、お茶の時間の時はこういうテーブルを使うものだと思っていました」

 

と、私は洋風のテーブルの方に視線を向ける。

実際、私は金剛さんが和風の卓に座る姿なんて、想像できていなかったから。

 

「まあ、そういうイメージをもたれてもしょうがないネー」

 

私の言葉に、金剛さんは鷹揚に笑う。

 

「紅茶が好きなのは確かだケド、日本茶も悪くはないと思ってますヨ?

 瑞鳳の淹れるお茶は美味しいですしネー」

 

そうなんだ……と、瑞鳳さんと金剛さんが卓につき、二人でお茶を啜る所を想像してみる。

……意外と似合っているかもしれない。

 

「――そう、ですね。金剛さんには失礼かもしれませんけれど、意外だと思います」

 

 

そう言って。――ふと、自分達……私と卯月の部屋での過ごし方が思い出される。

卯月は甘い飲み物の方が好みで、お茶はあまり飲まない。緑茶は渋いからと、あまり好きではないみたい。

でも、私がお茶を飲むとき、時々付き合って飲んでくれる。

 

 

きっと今、瑞鳳さんといる卯月はどうしているだろう。

 

         ・・・・・・

大丈夫、だろうか。卯月は素顔で、瑞鳳さんと過ごせているだろうか――

 

 

 

 

「――やっぱり、卯月が気になるのネー?」

「……え」

 

金剛さんから声を掛けられ、私は自分がぼんやりしていた事に気付いた。

卯月の事を思い出し……私はそのまま、考え込んでしまっていたらしい。

金剛さんは、薄く笑いながら私を見て、

 

「睦月と如月から、話は聞いてるヨ?今回のイベントは弥生からの提案、って。

 ……その理由も、ネ?」

「……」

 

そういう訳じゃない、と卯月の事を考えていた自分の事を誤魔化そうとして

――思わぬ形で金剛さんに先手を打たれてしまった。

 

つまりは、睦月と如月に話したことを、金剛さんは知っている……ということで。

そうだとしたら、隠す必要はない、と思い直す。

 

「……そこまで、ご存知でしたら。金剛さんもお聞きしていると思いますけれど、

 このイベントは、弥生が睦月達にお願いしたものです。――卯月のために」

 

一拍、おいて。

 

「卯月は、私の前だと、無理をして笑おうとするから。

 だから弥生は、卯月に本当の意味で笑ってほしい、って。

 そう思って、今回の件を司令官や睦月達にお願いしたんです。そういう人を作れる機会が欲しい、って。

 ……私達の前以外で、私達じゃない人と一緒に過ごす事で、笑い方を思い出してほしいから」

「Hmm,成程ネー……」

 

金剛さんは、私の話に頷くように、短く応答を返す。ふむふむ、と。

 

……あれ、でもさっき金剛さんは睦月と如月から理由を聞いてるって……あ。

 

「……引っ掛けられました。金剛さん、本当は睦月達から話を聞いてなんてなかったんですね」

「フフフ、これ位できないと『頼れるお姉ちゃん』はやれないヨ?

 まあ、弥生と卯月の事をお願い、って言われたのは本当ですけどネ。

 それに先日の、お風呂での弥生と卯月の様子もありましたし」

「いえ。……弥生も、少し安心できたかもしれないです。

 そう仰っているという事は……金剛さんは、『私の悩み』の方も気付いてるんですよね」

「大体なら分かりますヨ?細かい所までは、ちょっと分からないけどネ」

 

その金剛さんの言葉に、私は少しだけ苦笑する。

 

「そこまで金剛さんが察してしまっていたら、弥生はもう姉としての自信がなくなってしまいます」

 

そう言った後。……すぅ、と軽く息を吸い、心を落ち着かせる。

そして、――卯月の事で、私の事だから、と出来る限り真面目な表情を作り、言う。

 

 

 

「――教えてください、金剛さん。

 弥生の前では無理をして笑顔でい続けようとする卯月に、

 姉として、何が出来るのか――」

 

 

***

***

 

 

「……うーちゃんは、もともとこういう子だぴょん」

 

うーちゃんの話を、もっと詳しく聞きたいって。

そう言って、横に座った瑞鳳ちゃんに……そんな言葉から、自分のことを話し始める。

 

……今日は、弥生も睦月達もそばに居ないから。寂しいけど……

でも、頑張って笑顔でいる必要がないのは、ちょっとだけ疲れない気もする、ぴょん。

と、そう思って。笑う事を疎んでいるような自分がいる事に、嫌な気分になる。

弥生達に笑っていてほしいのは、本当なのに。……うーちゃん、疲れてるのかな。

 

そんな風に思いながら……ぽつり、ぽつりと昔の事を喋る。

 

「ずっと、ずーっと昔、うーちゃん達がまだお船の身体を持ってたころの話。

 うーちゃんは、睦月や如月、弥生、姉妹のみんな……それに夕張ちゃんや霧島ちゃんと

 一緒にいた頃があったぴょん。そのときは、うーちゃんムードメーカーを頑張ってたぴょん。

 ……でも」

 

……でも。その後は。

 

「それから、うーちゃんが弥生達と別れて、第23駆逐隊に行って。

 菊月がいなくなって、久しぶりに戻って来た第30駆逐隊で、如月もいなくなってて。

 弥生、泣いてた……から。だからうーちゃん、弥生に笑顔になって欲しくて。頑張って笑った……ぴょん。

 そうしたら、弥生は少しだけ元気になってくれたから……、

 だから、うーちゃんはいつも元気でいる事にしたぴょん」

 

あの時の事は、今も思い出す。

睦月は一番お姉ちゃんだからって頑張って耐えて、

弥生は泣きそうになりながら如月のリボンを抱きしめてて、

望月は……どうしたらいいのか、分からないって。そんな顔をしてた。

 

だから、頑張ってる睦月の代わりに。泣いちゃダメで、でも笑うのもダメな一番のお姉ちゃんの代わりに。

自分が、弥生を笑わせようって……決めた。

 

「……それから、ずっと戦って、戦って、戦って。睦月も弥生も、いなくなって。

 その後、望月と一緒に他の子達と合流する事になって、気付いたぴょん。

 ……うーちゃん、元気でいる事が止められなくなってる、って。みんな、辛そうだったから」

 

その時のことを思い出して、少しだけ涙がこぼれる。

うーちゃんも泣きたかったけど、泣いちゃったらみんながもっと悲しくなるから……元気でいようって。

でも、それに気づいてた望月は……あの時、なんて言ったっけ。

――無理に笑おうとしなくていいんだぞ、だったぴょん……?

 

「それから……また、皆がいなくなって。最後はうーちゃんと夕月だけになって。

 うーちゃん、頑張って夕月を励ましてたけど……あはは、うーちゃんの方が先に沈んじゃった、ぴょん」

 

そして、それからは……今自分たちがいる、ここに続く。

 

「それで、……気が付いたら、弥生と一緒に今の身体で海に浮かんでて。

 もう、絶対会えないと思ってた弥生に会えて。

 ……でも、弥生はうーちゃんと別れた時と同じ、悲しそうな顔をしてたから、

 だからうーちゃん、また元気でいようって、そう思ったぴょん」

 

 

少しだけ、間を空けて。

 

 

 

「そうしたら……きっと、弥生は笑ってくれると思ったから」

 

 

そして――

元気でいれば、そうやって引き留めていれば、弥生はもう何処へも行かないって……そう思いたいから。

 

 

 

 

……はあ、とおっきく溜め息を吐く。これで、全部。

話してて思ったけど……うーちゃんは、弥生に、睦月や如月たちにも嘘をついてる、ダメな子ぴょん。

 

         ・・                   ・・

司令官を、からかう振りをするときも。睦月や如月に構ってほしい振りをするときも。

そうすれば、きっとうーちゃんの行動を弥生が気にして、悲しい顔じゃなくなると思ったから。

……司令官や睦月達、望月には見破られてる気がする、けど。

 

 

「瑞鳳ちゃん。うーちゃんは、ほんとは元気に笑えない子、ぴょん。

 ……こんなうそつきな子は、嫌い、だよね」

 

そう言って、俯く。

 

どうだろうか。

瑞鳳ちゃんは、こんな自分のことを嫌いになるだろうか。嫌いになる……気が、する。

瑞鳳ちゃんは、頭も面倒見も良くて……それに、うーちゃんとは違う、本当のムードメーカーだから――

 

 

 

 

 

 

 

「う、うう、う、う゛づぎぢゃ゛ぁぁぁぁん゛……!」

 

 

 

 

 

「………………ぴ、ぴょん?瑞鳳、ちゃん?」

 

顔を上げて、瑞鳳ちゃんの方を見る。……と、

瑞鳳ちゃん、なんで泣いてるぴょん!?うーちゃんの事そんなに嫌い……!?

だばだばって涙を流す瑞鳳ちゃんに、どうしたらいいかわからない。

どうしよう、これうーちゃんのせいだよね……と、慌てていたら。

 

「うづぎぢゃん、いい子すぎるよぉ……ふぇぇ、頑張ったんだね、頑張ったんだね……」

「え、え……え?」

 

 

ぎゅ、って。強く瑞鳳ちゃんに抱き締められる。

うーちゃんを抱きしめながら……瑞鳳ちゃんは、ぐすっ、と鼻を鳴らしてた。

 

「……あ」

 

……それで、わかった。瑞鳳ちゃん、うーちゃんのことが嫌いになったわけじゃなくて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そっか。卯月ちゃん、大変だったんだね……」

「そんな事ないぴょん。……弥生やみんなの方が、色々辛かったと思うから。

 うーちゃんは、笑ってただけぴょん」

 

……瑞鳳ちゃんが、泣き止んだ後。

うーちゃんは瑞鳳ちゃんと、いろんなことを話し合った。

 

瑞鳳ちゃんは、うーちゃんの言った事を聞いて褒めて、笑って、泣いてくれて。

……そして、瑞鳳ちゃんの話も聞いた。

 

 

――私も、ね。お姉ちゃんの祥鳳がいて、義理の…うーん、義理の?妹の龍鳳がいて、

  それに、妹みたいな子達……翔鶴と瑞鶴の二人がいるの。

 

――みんなで、励ましながら、頑張って。

  妹たちの為にも、私はかっこいいお姉ちゃんとしての姿を見せなきゃ、って頑張ってたの。

  まあ、翔鶴と瑞鶴については……うん。

 

――でも、でもね!ここの鎮守府に来て、祥鳳と翔鶴にまた会えて!

  蒼龍ちゃんにも金剛ちゃんにも、愛宕ちゃん達にも会えたし、私、すっごく嬉しかったんだよ!

 

瑞鳳ちゃんの話を聞いていて、何だか瑞鳳ちゃんに親近感を感じる……そんな部分があった。

瑞鳳ちゃんも、うーちゃんと同じ様な事、してたんだな、って。

 

 

――え、卯月ちゃん龍鳳のこと知ってるの!?

 

 

それに、うーちゃんが龍鳳ちゃんの事を知っていたから、そこでまた話が広がった。

そっか、瑞鳳ちゃん、龍鳳ちゃんのお義姉ちゃんだったんだ……。

 

 

 

そうして、いろんなことを話し合って。お互いの事を知って。

……そんな風にしている内に、

 

「……よかった。卯月ちゃん、やっと笑ってくれた。

 うん、やっぱり卯月ちゃんの笑顔は可愛いよね」

「え……」

 

瑞鳳ちゃんにそう言われ、ぐに、って手で唇のあたりを触ってみる。

自分で意識はしてなかったけど、確かに口の端っこは緩んでいた。

……きっと、まだぶすっとした顔をしてると自分では思ってたのに。うーちゃん、笑ってるぴょん?

と、そんな風に口に端を物思いしながらいじってたら、

 

「ね、卯月ちゃん。……あの、ね?」

 

横に座った瑞鳳ちゃんが……話す前より、うーちゃんに近い位置に座り直した瑞鳳ちゃんが、

手を握って来る。……そして、そっと囁くみたいに、

 

「私達、色々似てるかな、って。そう思うんだ、私。

 お姉ちゃんも妹もいたり、妹の為に頑張ろうとしたり。だからね、そんな私達だから――」

 

 

 

 

 

 

「――私、卯月ちゃんと友達になりたいな、って思うんだ。

 卯月ちゃん達が鎮守府に来てから、もうだいぶ経っちゃってるけど……お願いしても、いいかな?」

 

 

 

***

***

 

 

「――私、卯月ちゃんと友達になりたいな、って思うんだ。

 卯月ちゃん達が鎮守府に来てから、もうだいぶ経っちゃってるけど……お願いしても、いいかな?」

 

 

 

 

 

……卯月ちゃんに向けて、私はそれを言った。

いや、本当にちょっと遅いかなー、っていう感じはあるんだけど。

でも、お友達になるのに時期は関係ないよね?ね?

 

 

……私と、そして金剛ちゃんは、この鎮守府では結構古参の部類に入る。

それで、結構鎮守府の中心みたいな位置にいるんだけど……そのせいか、つながりのある子や

同じ古参の子達以外とは、なかなか話が出来ないのよね。新しく入った子達とは距離があるっていうか。

……そんな事、ないのになあ。私はそんなに偉い立場じゃないし。

鎮守府空母組のトップ、みたいな扱いはされてるけど……うーん。

 

……はあ。

新しい子達とも積極的に関わって行ける、睦月ちゃんや如月ちゃんが羨ましいなあ……。

 

 

だから、今回のイベントの内容が発表されたとき。

私は、相部屋になる子と一杯お話したい、って思ってた。そんな風に考えていたから、

あんまり話したことがない卯月ちゃんと私が一緒になったのは、絶好の機会だって思ってた。

 

……だけど、

 

 

――うーちゃんは、もともとこういう子だぴょん。

 

 

卯月ちゃんの、話を聞いて。私は今までの考えを改めた。

この子は――卯月ちゃんは、私と同じように、あの戦いの中にいて、悲しい事があって。

だけど、それでも誰かの為に笑い続けていた、すごく強い子なんだ、って。

ただ能天気で、優しくしてあげたいから優しくしてる、そんな私とは大違い。

 

 

 

――瑞鳳ちゃん。うーちゃんは、ほんとは元気に笑えない子、ぴょん。

  こんなうそつきな子は、嫌い、だよね。

 

 

 

……違う。違うよ、卯月ちゃん。それは、卯月ちゃんの強さなんだよ。

私が昔、瑞鶴と一緒にあの場所に行った時に……

私が持っていなくて、瑞鶴を支えてあげられなかった。強さ、なんだよ。

 

 

……そして。

私は、卯月ちゃんの話を聞き終って――この子としっかり、話してみたいって。そう思った。

私が持っていないものを持っているこの子と、もっとちゃんと話を出来て、

互いに相談できるような関係に……そう、『友達』っていうような関係になりたいって、思った。

 

 

……そんな、私の願いを込めた言葉に。

卯月ちゃんは、一瞬驚いたような顔を見せて、言った。

 

「……さっきも言ったみたいに、うーちゃん、ほんとは嘘吐きな笑えない子ぴょん。

 そんな子と一緒に居ても、瑞鳳ちゃんはきっと楽しくないぴょん」

 

卯月ちゃんは、さっきの笑顔は偶然で、普段はずっとこう、という様に、

また自分を『笑えない子』だと思いながら答えを返してくる。

 

 

――だけど、ね。卯月ちゃん。

 

 

「……卯月ちゃんがそう言っても。それでも、私は卯月ちゃんと友達になりたいな」

 

 

卯月ちゃんの笑顔は……卯月ちゃんが嘘吐きだっていう笑顔は、今でもすっごく可愛くて。

だからきっと、卯月ちゃんが本当に笑えるようになったら、きっと凄く素敵な笑顔になると思うのよね。

 

私は、卯月ちゃんとこれからも、いろんなお話をいっぱいして。

それで、卯月ちゃんの笑顔も見たい……そんな欲張りになりたいって、今思ったのよ。

 

 

きっと、卯月ちゃんを本当に笑わせるためには……弥生ちゃんの力が必要だと思う。

卯月ちゃんが、今は弥生ちゃんの為に笑おうとしているんだから。

 

……でも、ね?私も卯月ちゃんの可愛い笑顔が見たいから、ちょっとだけちょっかいを出したい。

そんな、ちょっとずるい打算もあるけれど……と、とにかく!私は卯月ちゃんと友達になってみたいの!

 

 

 

「……ぷ、ぷっぷくぷー。瑞鳳ちゃん、変わってるぴょん。

 そんなに言うなら、お友達になっても……その、いい、ぴょん……」

 

 

 

……あ、目をそらした。顔も赤くなってるし……うん、やっぱりかわいい。

強いし、笑顔も可愛いし。ほんと、私じゃかなわないなあ、って思う。

 

「うん!それじゃあ、お近づきのしるしに――」

 

そう言いながら、私は持ってきた荷物をごそごそと探り、その中から――

目当てのものを、探し出す。

 

「あの夜に、卯月ちゃんや睦月ちゃん達、提督と一緒に弥生ちゃんを探しに行った時の子。

 ……この子の翼に」

 

……それは、弥生ちゃんと卯月ちゃんがこの鎮守府に来てから、少しした頃。

睦月ちゃんと提督の、結婚式の少し前だったよね、確か。

いなくなってしまった弥生ちゃんを探した時に、この子が弥生ちゃんを見つけてくれたのよね。

もしかしたら、卯月ちゃんと話す話題になるかな……って思って連れてきたんだけど。うん。

 

その子の片翼に、太めのマジックできゅきゅ、と絵を描く。

そうしてそれを、私は卯月ちゃんに見せた。

 

「よし、できた!うさぎさんのマーク!……かわいいでしょ?

 私と卯月ちゃんの九九艦爆。みんなと一緒に戦う、私達の翼、だよっ!」

 

   つばさ  うさぎさん

私の九九艦爆と、卯月ちゃん。

その二つの意匠を併せ持ったこの子は、私達の友達の証になるかも、なんて。

そんな風に思い立って、兎の顔の輪郭を描く。

 

……そして、私にそれを見せられた卯月ちゃんは。

 

「…………」

 

……あ、あれ?私、外しちゃった?と――そう焦ったのも、束の間。

卯月ちゃんはちょっとだけ悪そうな――何かの楽しみを見つけたような顔をして。

 

「瑞鳳ちゃん、ウサギにはお目目がないと駄目ぴょん!うーちゃんのぉ、この髪飾りみたいに!」

「あ、そっか」

 

そう、言った。

そしてわたしも、それに得心する。……うん、目がないと可愛さ半減だよね。

 

 

 

「……あ、違うぴょん!そうじゃないぴょん!

 その眉じゃ、うさぎさんが拗ねた顔になっちゃうぴょん!」

「えー、こっちの方が可愛いよ、卯月ちゃん」

「そこはうーちゃん、譲れないところぴょん!」

 

 

 

……そんなやり取りを数分して。

私達の前には、ウサギのマークが描かれた九九艦爆が出来上がった。

そして――

 

「……♪」

 

その子を前に――私達は、笑っていた。

卯月ちゃんは、少しおっかなびっくりな感じだったけど――それでも、しっかりと。

 

 

 

「……さ、それじゃ友達になったところで!

 お茶にしよっか?今日卯月ちゃんと色々お喋りしながら話すのに、

 お部屋からお茶っ葉とお茶請けたくさん持ってきたのよねー……」

 

「……う、うーちゃんお茶はちょっと苦手ぴょん……。にがいし」

 

「む。卯月ちゃん、お茶ってお茶っ葉と淹れ方で味が変わるのよ?

 ……今晩は、ちょっとそこのところ、教えながらお話しよっか」

 

 

 

そうして。

改めて、私達の夜は始まった――。

 

 

***

***

 

「……姉として、何が出来るのか――。それはDifficultでEasyな問題かも、ネ?」

「難しくて、簡単……なんですか?」

 

――洋風のテーブルに、金剛さんと共に着き。

私は、立ち上る紅茶の湯気を見通しながら……その向こうに座る金剛さんの話を聞いていた。

難しくて簡単、っていうのは……どういうことだろう。

 

「Hmm、その前に。弥生は、どんなお姉ちゃんを目指してるノ?」

「……私の目指す、姉、ですか。そうですね……」

 

そう、金剛さんに言われて。私の目指す姉の像を思い描く。

……そして、それほどの時間を掛けずその姿が思い浮かぶ。それは、

 

「睦月と、如月の二人です。姉妹達の面倒見も良くて、強くて。

 私は、睦月達みたいになりたい、です」

「Ah,やっぱりそういう事ネー……」

 

私の返した答えに対して、金剛さんは……予想通り、と。

そんな風な表情を浮かべながら、少しだけ眉を寄せて。私を、見た。

 

「お姉ちゃん、って言ってもネ?一口で全部説明できるわけじゃないデス。

 私みたいに、比叡と榛名、霧島を一人で支えたり。

 祥鳳みたいに、妹と近い位置にいる姉だったり。

 ――睦月と如月みたいに、互いに補い合いながら姉として頑張ろうとしたり」

「……あ」

 

そう言われて、気付く。つまりそれは――

 

「私の目指している、睦月と如月は――2人でできている、姉の姿なんですね」

 

私が、金剛さんに導いて行き着いた答え。

その答えに金剛さんは満足したように笑顔を浮かべて、

 

「そういう事ネー。今の弥生は、あの『二人』だからできていることを一人でやろうとしてる状態ヨ?

 ……実を言えば、ワタシもちょっと『二人で姉をする』っていうのは羨ましかったりしマス。

 ワタシは、一人以外でお姉ちゃんの役目をする、なんて考えた事がなかったからネー」

 

そう言いながら、金剛さんは少しくたびれる、というような動きをする。

……けれど、きっとそんなのはポーズだけで。実際はそうではないんだと思う。

 

「……結構長く、卯月や望月達の姉をしていたつもりでいたんですけど。まだまだ、ですね」

「まあ、そういうものネ。『お姉ちゃん』っていうのは、ネ?

 沢山考えたらきっと、卯月や……他の子達への、自分の接し方も決まってきマス。

 それが、弥生の求めている『姉としての姿』、……かも、しれないネ?」

 

難しい、と少しだけ悩み始めた私に、金剛さんはウィンクしながら笑ってみせる。

……焦るな、ってこと、だよね。多分。

 

「……はい。少し、考えてみます」

「ン、いい返事ネ?……それじゃ、スコーンのお代わりを持ってきマース!」

 

スコーン……あれ、まだあったよね?と、そう思いながらテーブルの上を見る。

……やっぱり、ある。

 

「あの、金剛さん。スコーン、まだあります……けど」

「弥生。ワタシには、冷めたスコーンをお客様に頂いてもらうなんてできないのヨ?

 それじゃあ、ちょっと新しいのを作ってくる、デーース!」

「……あ」

 

金剛さんは、入口の方にある――部屋備え付けの簡易台所の方に行ってしまった。

……そして、その姿を見送る……しかできなかった私は。

 

「……冷めても、美味しそうなのに」

 

金剛さんが、私の為に新しいスコーンを作って来るといった以上……

目の前の、冷めたスコーンに手を出すわけにはいかなくて。少し、残念だった。

 

 

***

 

 

「――さて、これで弥生は大丈夫そうネー」

 

……台所の、少し手前。部屋の入り口に程近い場所。

そこでワタシは、誰にともなく呟く。……弥生のいる場所からは死角になり、声は届かない。

 

……睦月達に、弥生の事をお願い、と言われた時は驚いたけれど。

それも、睦月や如月、テートクがワタシの事を信頼してくれているからだと思えば、悪くない気分ネ?

と、そんな風に考えながら。――部屋の扉の向こうにいるだろう約3名に向けて、小声で呟く。

 

「……テートク、睦月、如月。盗み聞きはあんまり良くないヨー?」

 

……ワタシのその呟きに、扉の向こうで少しだけ動きが発生する。

 

(にゃ……っ、てーとく、如月ちゃん、気付かれちゃってるよ!?)

 

(うん、まあ……金剛は多分私達の気配に気づくだろうなー、とは思ってたし……)

 

(私達が金剛ちゃんに弥生ちゃんの件を持ちかけた時に、

 金剛ちゃんは私達がこうする事まで予想してたんじゃないかしら、ね?)

 

……いるだろう、という気はしてましたケド。

本当にいるのはちょっとびっくりデス……。

 

そのうちに、扉の向こうから気配が離れていくのを感じ。

ふう、と息を吐く。

 

「テートクも、睦月も如月も、妹が心配なのはわかりますケド……

 一応、この鎮守府で一番偉くて忙しい筈の3人なんですけどネー……」

 

今回のこのイベントをする為に、無理をしてないといいんですけどネー……。

と、いけまセン。考え込んでいては弥生を待たせてしまいマス。

 

 

……そして、スコーンを焼きながら。

今夜弥生に付き合ってみて、少し分かったこと……それを、ふと考える。

弥生は卯月の事を、自分の前では笑おうとする、と言っていたけれど――

 

「……まあ、ワタシの所見だと弥生と卯月の考えは、ちょっとズレてるみたいですけど、ネ。

 でも、そういうすれ違いも姉妹の中を深めるものネー」

 

***

***

 

 

「……さて、弥生と卯月はどうしている事やら、ねえ。

 まあ、司令官達に任せておけば大丈夫だろうとは思うけど。

 …………で、何であたしを抱えて頬ずりしてくるのさ、愛宕さんは」

 

「うふふっ、だって望月ちゃんは抱いてても飽きないくらい柔らかいんだもの♪

 抱くくらい、してもいいじゃない?」

 

「はあ……。あたしは抱き枕やぬいぐるみじゃないんだけどねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何よ、大井」

 

「…………そっちこそ何よ、イムヤ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………とりあえず、一晩なにも話をしないのもなんだし。

 魚雷の話でも、する?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、今晩は宜しくお願いしますね、電ちゃん、蒼龍さん」

 

「ええ。私達だけ3人部屋、っていうのもちょっとなんだけど……その分、一杯お話しましょうか!」

 

「はい!祥鳳さん、蒼龍さん、よろしくお願いします、なのです!

 3人部屋なのは、……えへへ、電と暁ちゃんと響ちゃん、3人だけの特権なのです」

 

「睦月ちゃんより先に鎮守府に着任して、提督を迎えた3人、なんていう風に聞いてますからね。

 ……じゃあ今晩は、その辺りを聞いちゃいましょうか!いつもの3人の特権は、今晩は私達の物ですし!」

 

「了解なのです!えっと、ですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その、ね、青葉ちゃん。あんまり、寝間着の写真撮らないで……くれる、かな。

 ちょっと、恥ずかしいから」

 

「いやいやいやいや、だって由良さんの貴重なパジャマですよ!しかもネグリジェ!

 これはたまりませんって!……由良さんのスレンダーさも相俟って、これは何とも!」

 

「もう……煽てられてるのかな、私。青葉ちゃんも似合うと思うんだけどな、こういうの」

 

「……え?いやいや、青葉は似合いませんって、そんな可愛らしい服は。

 だって普段もショートパンツですし」

 

「そう言われると、着せてみたくなる、かなあ……。ね、青葉ちゃん。着てみない?

 クローゼットにもう何着か、あるんだけど」

 

 

 

 

……そんな風に、あちこちの部屋で賑やかに声は響き。

 

鎮守府の夜は、更けていく――。

 

 

 

***

***

 

 

――翌朝。

共に過ごす相手を変えての一晩が明け、私達は朝食を取る為に食堂に集まっていた。

 

朝食をとりながら、昨晩の出来事を、本来の相部屋の子と話す子の姿があり。

また、昨晩の相部屋の相手だろう子と一緒に朝食を取っている姿も見受けられた。

 

そんな中で、朝食を乗せたお盆を持ちながら。さて、私はどうしようかな……と、考えていると、

 

「おはよ、弥生ちゃんっ」

 

そんな風に、背中側から声を掛けられる。

振り返ってみれば、そこには睦月と……それに、司令官と如月もいた。

 

「……ん、おはよう、睦月、如月。おはようございます、司令官」

「おはよ、弥生」

「おはよう、弥生ちゃん。昨夜はどうだったかしら?」

 

司令官達に挨拶をして。

挨拶がえしとともに、如月にそんな質問をされる。

……どうだったか、か。

 

「金剛さんに、色々な事を聞けて……良かった、と思う」

「そう。……良かったわね?」

 

そう答える私の反応を見て、如月は満足げに頷く。

そして、

 

「そっか、それなら良かったわ。弥生に頼まれたのが元ではあったけど、

 イベントを企画した甲斐はあったわ。……ま、何人か夜更かしさんが出たみたいだけど」

「でも大丈夫、だもんね?睦月達はそれも見込んで準備、してるんだし!」

 

そう言いながら、司令官は満足げな……けれど、少しだけ。

仕方ないわね、と言いたげな感じが混ざった笑みを浮かべ。

睦月は、司令官に少し添うようにしながら、それ以上の笑顔を見せる。

 

睦月達にそう言われ、改めて周りを見回せば。

……確かに、欠伸をしている子、それを噛み殺そうとしている子の姿を何人か見受ける事が出来た。

その中に――

 

「……ふぁ、うーちゃんすっごい眠いぴょん……」

「私も、ちょっと眠い、かも……。うう、お話しすぎちゃったかなあ……。

 これじゃあみんなに笑われちゃうよお……」

 

――瑞鳳さんと。そして、共に歩く卯月の姿もあった。

その姿を見た時、寝不足なんて本当はいけないと、卯月に対してそう思わなければいけない筈なのに、

……どうしてか、少し安心した気持ちがあった。

 

「……あ。卯月ちゃん、弥生ちゃんだよ?

 ほらほら、頑張って頑張って!」

「う、……うん。やってみる、ぴょん。

 ………………ふ、普通に……弥生に向かって普通に……」

「それじゃ固いよぉ……夕べお話してた時みたいに、ね?」

「…………?」

 

――と。そんな事を思っている内に、瑞鳳さんがこちらに気付く。

そして、瑞鳳さんが卯月に促すようなそぶりを見せて……、……何だろう?

 

 

 

 

 

 

「弥生っ!お、おはようぴょんっ!」

 

 

 

 

 

そして、卯月は。いつも私にしているのと同じ朝の挨拶をする。

……いや、

 

 

「うん、おはよう……卯月。……ふふっ」

 

 

言葉は、同じだけれど。

なんだろう、いつもの表情より……ずっと、柔らかく感じた。

理由は分からないけれど、どこか懐かしさを感じて、少し可笑しくなる。

 

 

「ど、どうしたぴょん!?うーちゃん何かおかしかったぴょんっ!?」

「……ううん。今日の卯月は、なんだかいつもより、」

 

慌てる卯月に、私は思った事を何て返そうかと考える。

例えるなら……うん、そうだね。

 

「可愛い笑顔だって、感じたから」

「…………ぇ」

 

私の返事に、卯月はびくり、と大きく震えて。……そのまま固まってしまった。

そして、

 

「あ、あわ、あわわわわわわわわあ」

「ほら、出来たじゃない、卯月ちゃん!この調子で頑張ろ、ねっ?

 ほらほら、私も協力するからぁー♪」

「う、うん……し、しぜんなえがおしぜんなえがおをおおおあわわわわ、

 …………ず、瑞鳳ちゃんとご飯食べてくるぴょぉぉん!!」

「……あっ!置いてかないでよぉ、卯月ちゃーん!」

 

 

そんな言葉と共に。卯月と瑞鳳さんは、行ってしまった。

 

「…………?」

 

首をかしげる。どうしたのかな、卯月……。

 

「……あらあら♪ふうん?」

「瑞鳳に頼むのは睦月の案だったけど、思った以上に当たったみたいね。

 ……で、『こっちの方』は、目論見が効きすぎて分かってない、と。発案者の本人がねえ」

「あはは、そこはまあ、弥生ちゃんだから……にゃ?」

 

そして、その少し横では。

睦月と如月、司令官が、私達の様子を見て、面白そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……妹であることには、もう慣れていたつもりでいたけれど。

卯月の……妹の心が分からないあたり、妹としてもきっとまだまだ、なんだよね。

 

 

 

――妹ごころ、姉ごころ。

私には、まだまだ勉強が必要みたいだった。


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