海鳴スタジアム。

　普段はプロアマ問わず野球が行われているそのドームの真ん中で数人の少女達と共に歌を歌っている『傷だらけの獅子』がいた。

　「「「ノア―――――――っ！！」」」

　じゃん！

　と、ギターやドラムの音が成り終えると同時にレヴィとアミタと高志はハイタッチをする。

　「「「イエーッイ！」」」

　どの世界でもジャム・プロは心を熱くさせる歌だ。

　ボーカル兼ギターを担当しているアミタに高志。メインボーカルのレヴィとアリシア。

　ドラムをディアーチェにやってもらい、音響整備をシュテルとユーリに任せている。即席のバンドにしてはかなりいい線をいっているのではないだろうか。

　先日、自衛隊の人達にランボルトの操縦方法をレクチャーした後、ストレス発散を兼ねてジャム・プロジェクトの『ＮＯＡＨ』を熱唱した高志のテンションは最高潮だった。

　そう確信しながら高志は用意されていたスポーツ飲料に口をつけた所で二つの拍手が上がる。

　ちょうどレヴィやアミタ達がシャワーを浴びに言った時。高志だけがステージの上で休んでる時だった。

　「すっごく楽しい歌だったね。すっごくよかったよ」

　「『ＮＯＡＨ』か。とても勇気づけられる歌だったよ。以前聞いた君の歌よりずっといい。魂のこもった歌だね」

　一人はピンク色の髪をした少女。

　もう一人は白い髪の青年。

　二人共中学生ぐらいの少年少女だった。

　「ありがとうな。だけど、一応ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ？デートならここじゃなくて、別の所にしなさい」

　それに『乳をもげ』を歌った後にジャム・プロの曲は合わせにくいよな。

　でも、仕方ないんや。

　ガンレオンのマグナモードは見た目が凶悪だからいざという時、マグナモードを見ても『乳をもげ』を思い出してくれれば、その凶悪なイメージは減少される。

　それにフォルゴレは架空の存在のアイドルでも最高のアイドルだと思っている。

　私はかばさんが一番好きだ。

　俺、ライオンだけど・・・。

　「うーうん。私達はデートでここにきているわけじゃないよ。こいつと私は無関係～」

　「残念ながらね・・・」

　すこしも残念そうな顔じゃないけど、少年は少女の方に気があるのか？

　しかし、男の子の方は見覚えがあるんだが。

　なにか大事な事を忘れているような・・・。

　「というわけで、もう一曲何か歌ってっ」

　妙にキラキラした目でアンコールしてくる少女にもう一曲歌おうと腰を上げた瞬間。

　突如響く避難警報。

　「悪い、続きはまた今度な！」

　「え～」

　「それは残念だね」

　ステージから離れる様に二人に言うと俺の後ろからからアリシアがチビレオンと共に走ってきた。

　どうやら、また使徒が海上に現れたらしい。と、振り返りながら事情を聴かされる。

　怪獣は海からくるのはお約束なのだろうか？

　まあ、街中に突然現れるのも困るけど・・・。

　ガンレオンを召喚して出撃しようとしたが、先程の二人がガンレオン召還する時に巻き込まれないようにここから離れるように言おうと思って再度振り返ると件の二人は消えていた。

　もう、避難したのか。

　二人を探している暇もないのでガンレオンを即座に召還することにした。

　鋼鉄の獅子が現れ、背中に炎の翼を生やし、空へと飛び出していく光景を見た少年と少女。

　「・・・行ってしまったね。いいのかい、彼等に自分の事を話さないで」

　「話さないでもいいでしょ。別に。それにあんな中途半端な覚醒でも『この世界』の使徒じゃ話にならない。ま、遠距離攻撃がほぼ無いから今回(・・)の対決はいかに接近戦に持ち込めるかがキモでしょうけど。あ～、つまんない。もうちょっとあの歌を聞いていたかったな～」

　「君が聴きたかったのはあの自分を偽っている歌。いや、あれは歌というのは僕はいやだな」

　高志がグランツ研究所でガンレオンとエヴァ。コクボウガーの模擬戦で歌った『乳をもげ』という歌はガンレオンの凶悪な部分と自分の危険性を隠すための歌だと少年は感づいていた。

　現に先程聞いた歌『ＮＯＡＨ』は『乳をもげ』と歌っている時に比べ、明らかに力の入れようが違う。

　それは彼の生き様が『ＮＯＡＨ』よりだったからかもしれない。

　「でも世界をたった三回しか救わなかった人間には大した出来だと思うよ。私は～。さーて、今度は髭ちゃんをからかってこよーっと」

　「君はいつみても楽しそうだね。世界が一つ終わるかもしれないというのに」

　興味を無くしたのか、少女はスタジアムをあとにする。

　「当然でしょ？私はそう言う存在なの。じゃあね、お人形のカヲル君」

　「さようなら御使い(・・)。出来る事ならこれで最後にしたいね」

　「全学校の併合かですか？」

　「うん、まあ、そうなっているみたいねぇ」

　使徒襲来以降、シンジはミサトのマンションで世話になっていた。

　玄関までは綺麗だったが、リビング・キッチンに入るとその惨状があった。

　ビール缶につまみ。分別されていないゴミなど、綺麗好きなシンジはその日のうちにあらかた片づけ、更には食事がインスタント中心だったミサトの為に朝食から夕食。果ては酒のつまみまで作ることになったシンジはほぼ主夫になっていた。

　そんなシンジはなのは達も通っている学校から帰ってくるとミサトが書類の束を机の上に広げてシンジに簡単に説明する。

　その書類には何枚かの写真があり、その中には話題の作業用ロボットのガンレオンやチヴィットなど映し出されていた。

　ご丁寧にそのサイズにあった安全ヘルメットをつけた状態で。

　「・・・なんか、のどかですね」

　「のどかというか、暢気すぎなのよ！こいつら！こんな事をするくらいならこっちに資金まわせばいいのに！」

　「ま、まあ、高志さん達も使徒の迎撃に出てくれているみたいだし、八神さん達みたいな魔法使いもいるみたいですからエヴァは最後の手段という事でいいんじゃないですかね」

　妙に荒れているミサトにシンジは麦茶を冷蔵庫から出して彼女に進める。

　「それに悪い話じゃないと思いますけどね、学校の下に地下シェルターを設置するんですよね。ＮＥＲＶみたいに」

　「だったらＮＥＲＶでもいいじゃんよーっ」

　だがそうもいかないのも事実。

　エヴァを含めて重要機密がてんこ盛りのＮＥＲＶに避難するのは別に構わない。

　だが、それは立ち入り禁止区域であるセントラル・ドグマに通じる通路が幾つも伸びている。

　パニックを起こした住人達がなだれ込むなどあってはならない。

　「まあ、逃げる場所が沢山あるのはいいことだと思いますけど・・・」

　「それはっ、・・・それはねぇ、でも、まあ、そうねぇ」

　エヴァにシンジを乗せて戦わせているミサトは強くは言えない。

　今でこそこうやって話し合いが出来るのも、自分よりも命の危険がある最前線にはやてや高志。自衛隊の人達がいるからこその余裕から生まれた賜物である。

　そして、それは地域の住人にも同じことが言える。

　魔法少女とスーパーロボット。

　幼いころ夢見た力が双璧を成して自分達を守ってくれる。

　それがどんなに心強いか。

　「まあ、一番は使徒が来ない事なんですけどね」

　「シンちゃんがそれを言うとフラグにしか聞こえないん『ウ―――――！ウ―――――！』」

　と、ミサトが言い切る前にお腹に響くような警報が鳴り響く。

　「シンちゃん？」

　「ぼ、僕の所為ですか？！」

　ジト目で見られたシンジは思わず手にした麦茶をこぼしかけた。

　一方、ＮＥＲＶでは総司令であるゲンドウ自ら指揮を執っていた。

　「総員、第一種戦闘配備。初号機と零号機の発進準備」

　ＮＥＲＶの総本山。

　指令室に映し出されたモニターには新たなる使徒の姿が映し出されていた。

　今回も神出鬼没。

　なんの前兆も無く不意に現れた

　「了解っ。自衛隊からコクボウガーおよび戦闘機、戦車の出撃を確認。いかがしますかっ」

　「好きにさせろ。エヴァが出撃するまでの時間稼ぎくらいにはなるだろう」

　「りょ、了解。っ、海鳴市スタジアムから高速で接近してくる熱源！ガンレオンです！」

　オペレーターのマヤの言葉を聞いたその時、ゲンドウにほんの少しばかり反応があった。

　それは長年付き合っている副司令フユツキにしか分からないほどの反応だ。

　使徒の襲来にではなく、使徒の迎撃に出たと思われるガンレオンに反応した。

　それは使徒よりもガンレオンに興味があるという事だ。

　「・・・葛城三佐に通達。至急初号機のパイロットを連れてくるように伝えろ」

　「了解！」

　(彼等に使徒を倒されては困る。そんなに感情を露わにしてはこの先のシナリオに支障をきたすことになるぞ。碇)

　ゲンドウの焦りを感じ取ったフユツキはガンレオンの映し出されたモニターを注視する。

　(エヴァで使徒を倒す。それがこの組織の存在意義。だが・・・)

　ゲンドウとは別の焦りを感じているフユツキ。

　だが、そんな焦りがあるはずなのにフユツキは落ち着いていた。

　(なんだ、この既視感は？イレギュラーに既視感を覚えている？)

　とある物からこれから起きるだろう歴史的な出来事を知っているフユツキ。

　だが、自分が知り得る未来。予定が少しずつではあるがずれてきている。

　ゲンドウもそう感じているから珍しく焦ったのだろう。

　だが、そのゲンドウの焦りにすらも既視感を覚える。

　フユツキはそんな思惑の中、使徒と対峙する鋼鉄の獅子。その光景をモニター越しに見続けていた。

　エヴァ初号機が配備されている格納庫が見える一室でゲンドウはシンジが来るのを待っていた。

　厳格な人物。ゲンドウに合わせたかのような無機質な部屋にそぐわない声が鳴り響く。

　その声は明るく、元気で、やんちゃ盛りな女の子の声だった。

　「・・・」

　「あははははー♪君がそこまで慌てるなんて久しぶりじゃないかな～♪」

　「・・・」

　「あれあれ～？だんまり。むっつり。のんびり～。いいのかにゃー、このまま使徒を倒されても～？」

　「・・・」

　「あはははーっ、やっぱり、君って面白～い。最後は自分が勝つなんてまだそう思っているんだ～。でもね・・・」

　少女の声が一度区切られる。そして、次に出てきた言葉にゲンドウは目に見えて慌てることになる。

　「あまり、同じことを繰り返しているようじゃあ、つまらないな～。もう、この世界を壊しちゃおうかな～」

　「ま、待て。話が違う！今回は！今回ばかりはそちらの要件にも合わせた展開になっているではないか！」

　その慌てようと仕草に少女の笑い声は再度響く。

　「あはははは～、おっかしいー。でもね、そうそう、君はそうするためにこの世界にいる。だから、私を飽きさせないでね」

　「ぜ、善処する」

　「じゃあ、頑張ってね。これが成功したらまた、一万と二千年後にまた会おうよ」

　それっきり、少女の声は聞こえなくなった。

　その事に安堵し、同時に苛立ちを覚えた。

　「・・・早く。早くエヴァに乗れ。シンジ」

　ゲンドウは自分以外の人間には出入りできない個室でやり場のない怒りの言葉をこぼしていた。