No.770680

或るスナックのママのお話

古淵工機さん

こちら http://www.tinami.com/view/770620
でひらめいたシチュ。俺だったらこんな感じかなというね。

こんな娘がスナックのママさんだったら毎晩飲みに行きますw

2015-04-13 00:08:55 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:955   閲覧ユーザー数:934

それはとある夜のこと、都内とはいえどこか人気のない細い路地。

そこに少し古びた、小さなスナックがあった。

 

鈍い輝きを放つ真鍮製のドアノブがついたオーク材の木製扉を開き中へ入る。

床にはカーペットが敷かれているが、内装はところどころくたびれ、年季が入った店内。

シャンデリアライトの白熱電球がやわらかい光で僕を包んでくれる。

「あら、いらっしゃい」

そこでいつものように僕を出迎えるスナックのママ。だがよく見ると、少なくとも人ではありえないような銀の髪、

そしてガラス玉をはめ込んだようなグリーンの瞳、何より肌の質感が人間のそれとは違った。

 

彼女は美しかった。あまりに美しすぎる。まるで…。

「いつも思ったんだけど、ママってまるで人形みたいに綺麗だよね」

率直な感想だった。

前から気になっていたが、とうとう口をついてその言葉がこぼれてしまう。

 

その言葉を聞いた彼女は少し微笑む。

「ええ、それね。よく言われるのよ。まあ実際人形って言うか…ガイノイドなんだけどね」

「ガイノイド…ってことは、ママはつまりロボットなの?」

「そうよ。この店に来るお客さんには大体お話ししてるけど…あなたにはまだだったみたいねw」

「あはは…」

「あらいけない。オーダー聞いてなかったわね」

「じゃあハイボールを一杯頼むよ」

 

…都心のバーを切り盛りしている、一風変わったママ。

でも、彼女の仕草や振る舞いを見ていると、なんだか彼女がロボットとは思えない。

そんな気持ちを考えながら彼女を見つめる。

「ねえ、知りたい?」

「?」

突然彼女に聞かれて面食らった。

「ふふ、わたしの製造年なんだけど」

 

確かにそれは気になる。今日びロボットが普及を通り越して『市民』として定着している世の中だが、

彼女はどうやらそれ以前に作られたモデルらしい。

「是非聞かせてよ」

「そうね、今からおよそ78年と24日、5時間前が私の生まれた日だったわね」

「78年前っていうと…ロボット市民法が作られた年だよね?」

「そう、まさしくその法律が施行されたのと同じ日に私は製造されたの。いわばロボット市民の第1号ね。ほらここ」

そういって彼女は髪をかき上げ、額の製造番号標識を見せる。

"CITIZEN-DROID X001(市民ロボット試作001号)"それが彼女の開発コードだった。

「製造された当初はもう生活費を稼ぐのも大変でね。それはそれはもういろんな仕事してたものよ」

「例えばどんな?」

「レストランのウェイトレスでしょ。それから遊園地の案内嬢。アイドル活動に手を出したときもあったわ」

さらに彼女は語る。

 

「どれも鳴かず飛ばずだったんだけど、そのあと喫茶店で働くようになってね。しばらくはそこで働いてたわ」

「どれぐらい?」

「んー、ざっと25年ぐらいネ」

「え、そんなに?」

「まあ、見た目年取らないしね…でも働いているうちに、自分だけのお店も持ちたいなって思って。お金に余裕も出てきたしね」

「自分だけのお店ねぇ」

「それで20年と5日、17時間前にこの店を買い受けたの」

「へぇ…そんな過去があったんですか」

「前のオーナーさんが別のお店に移られるって格安で譲ってくださったのよ」

…そんな話をしているうちに、そろそろ閉店の時間だ。

 

「あ、今日はもう帰らなきゃ」

「あら残念ね。でも明日は休みなんでしょ?」

「そうなんだけど、やっぱり酔いつぶれるのは良くないしさ。でも明日の夜も来るよ」

「それは言えたwじゃあ美味しいピザ焼いて待ってるわね」

「そうきたかーwそんじゃまた明日ね」

「気をつけてね」

 

そう言葉を交わし、彼女に見送られながら、僕は店をあとにしたのだった。


 
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