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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side蜀軍-南蛮族-)~ 第零回 プロローグ

stsさん

皆さまどうもお久しぶりでございます!初めましてな方は初めまして!stsと申します!

お久しぶりな方はタイトル見てあれ?と思われたかと思います。

そうです、本日から新年度ということで、心機一転、新作の投稿を開始いたします!

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2015-04-01 00:24:53 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3967   閲覧ユーザー数:3409

 

 

 

 

 

 

 

 

『天の御遣い数多なる世を渡り乱世を救ひけり。然れど忘るること勿れ。数多なる世へ渡りし後の、御遣い無き世の事を。太平の続かぬ世の有ることを』

 

―――稀代の占師・管輅の予言より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜀軍と魏軍が激しい戦闘を繰り広げている中のとある戦場、背丈の高い草が一面に広がる一帯の中から、

 

倒れた仲間に懸命に声をかけるものの姿があった。

 

 

 

「ミケ!しっかりするのにゃ!」

 

「・・・だ、大王しゃま・・・」

 

 

 

声をかけているのは、ボサボサの薄緑の髪が腰下あたりまで無造作に伸び、ホワイトタイガーの毛皮で作った布で、

 

胸の要所と黒のパンツをスカートのように覆い、首から金色のチェーンを垂らした小柄な少女。

 

中でも特徴的なのが、ホワイトタイガーのような耳と尻尾が生えており、

 

肉球付の手袋をはめ、頭に王冠を戴いたピンク色の手乗りサイズの象を乗せているところである。

 

彼女の名前は孟獲。

 

南中は南蛮族の王であり、現在は蜀軍と同盟関係にある。

 

そして、孟獲の呼びかけに弱弱しく答えたのは、短めのピーコックブルーの髪に虎の頭を模した頭巾を被り、

 

上半身は胸の部分を黒い布で覆っているだけであり、下半身も黒の下着に虎柄の布をスカートのように巻いているだけ。

 

そして、お尻から虎柄のしっぽが生えており、手には虎柄の手袋をはめている。

 

孟獲と同じくらい小柄な彼女の名前はミケ。

 

南蛮族三幹部の一角で、主力である藤甲部隊を率いているのだが、今は魏軍との戦いに敗れ、満身創痍の状態であった。

 

 

 

「だいおー様、ぱやぱやの実もってきたにゃん」

 

 

 

さらに、二人の元に走ってやって来たのは、桃色の髪を腰のあたりまで伸ばし、ミケと同じ出で立ちの小柄な少女。

 

どこか眠たげな表情である彼女の名前はシャム。

 

同じく南蛮族三幹部の一角を担うものである。

 

シャムは両腕いっぱいにココナッツのような実を抱えながら、負傷したミケの手当てのために一時戦線を離脱し、

 

敵の目から逃れるため茂みの中に隠れている孟獲たちと合流した。

 

 

 

「ありがとーなのにゃシャム!さぁミケ、このパヤパヤの実から採れる汁は火傷によく効くのにゃ!ちょっとしみるけど我慢するにゃ!」

 

「・・・ぴにょっ・・・にょぉぉぉぉぉぉ・・・」

 

 

 

シャムの到着に大喜びの孟獲は、さっそくシャムから“パヤパヤの実”なるココナッツのような大きな木の実を受け取ると、

 

慣れた手つきで表面に傷を入れ、そこからにじみ出てきた汁を指に絡めると、体中に火傷の跡があるミケに慎重に塗っていった。

 

その瞬間、ミケの弱弱しい悲鳴が漏れ出る。

 

 

 

「だいおー様、これからどうするにゃん?ミケのとーこーたいはしばいにまけたにゃん」

 

 

 

現在、蜀軍は司馬懿率いる魏軍と対峙しているのだが、前線で戦っていた南蛮軍の藤甲部隊が、

 

見事に敵の軍師郭淮(カクワイ)に弱点が火であることを見破られ火攻めにあい、あえなく藤甲部隊は壊滅。

 

隊長であるミケも大火傷という重傷を負ったのであった。

 

 

 

「にゃーん、けどここはしゅりに託された大事なところなのにゃ。トラもまだ戦ってるし、もう少しがんばるじょ!」

 

 

 

シャムの心配そうな問いかけに、孟獲は腕を組みながらしばし考え込んでいたが、

 

やがて、諸葛亮に任された地と、握り拳を作りながら気合を入れ直した。

 

孟獲が言うように、前線ではまだ三幹部の一角で猛獣部隊を率いるトラが奮戦しているのである。

 

しかし・・・

 

 

 

「だいおー!!」

 

 

 

三人の元に新たにもう一人が加わった。

 

いや、正確には一人と一頭である。

 

暗めのブラウンの髪を二つにくくり、シャム・ミケ同様の出で立ちの小柄な少女。

 

普段は活発そうな明るい表情の彼女も、今は涙を浮かべながらくしゃっとなっているその小柄な少女の名前はトラ。

 

そして、トラは大きな虎に跨っていたが、所々に矢が刺さったままになっており、激しい戦場を繰り広げてきたことをうかがわせた。

 

そして、その虎は主を無事目的地まで運び終えると、そのままその場に倒れてしまった。

 

 

 

「トラ!?大丈夫かにゃ!?早くその虎も傷の手当てを―――!」

 

 

 

しかし、孟獲の心配などお構いなしに、トラは這いずるように孟獲の元まで近づくと、

 

涙でくしゃくしゃになった表情のまま孟獲にすがり訴えかけた。

 

 

 

「だいおー・・・しゅりが・・・しゅりが・・・!」

 

「しゅりがどうしたのにゃ!?」

 

 

 

トラの尋常でない様子に、そしてここで諸葛亮の名前が出てくることで、孟獲の心中は不安で埋め尽くされる。

 

それはもしかしたらという万が一の可能性。

 

そんなことあるはずがないと思いながらも、どこか心の奥底にその可能性を押し込めていた最悪の展開。

 

 

 

「しゅりがしんじゃったにゃー!にゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

そして、その万が一の最悪の可能性が、今トラの口から現実になったということが告げられた。

 

 

 

「にゃ・・・そんにゃ・・・!」

 

「にょー・・・しゅり・・・しんじゃったにょ・・・?」

 

「ニャ・・・ニャァァァァァァン・・・」

 

 

 

トラの言葉に孟獲、ミケ、シャムはそれぞれ驚愕と悲痛の入り混じった表情を浮かべながら言葉を失った。

 

 

 

「しゅり・・・しゅり~~~~~ふにゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

 

そして、堪え切れなくなった孟獲は堰を切ったかのように大粒の涙を滝のごとく流しながら大声で泣き始めた。

 

 

 

「おい、こっちから声が聞こえたぞ!」

 

 

 

しかし、その大きな鳴き声によって、孟獲たちを探していた魏軍の兵士に気づかれてしまった。

 

幸い背丈が高い草が生い茂っているおかげで、まだ姿は捕捉されていないようである。

 

 

 

「ぐすん、だいおー様、こえがおおきいにゃん」

 

「うぅぅ、けどしゅりが・・・ひっぐ、しゅりが~~~ふにゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

 

あわててシャムが鼻をすすりながら声を静めるように言うが、それでも孟獲は泣き止むことができず、さらに大ボリュームで泣き始めた。

 

 

 

「大王しゃま・・・ぐす、てきにきづかれるにょ・・・にょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「えっぐ、だいおー・・・にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぐすん、だいおー様・・・・・・ニャァァァァァァン」

 

 

 

そして孟獲に触発されたかのように、ついに三人とも次々に大声で泣き出してしまった。

 

 

 

「けっ、この茂みの中か!すぐに丸裸にしてやるぜ!おい、油と松明を準備しろ!」

 

 

 

四人の大きな鳴き声によって場所の特定ができた魏の兵士たちは、すぐさま火攻めの準備に取り掛かり始めた。

 

 

 

「大王しゃま・・・ここももやされるにょー」

 

 

 

油の匂いにいち早く反応したミケは、さきほど自身の藤甲兵が次々に燃やされていった光景が頭をよぎり、

 

体を震わせながら弱弱しく告げた。

 

 

 

「えっぐ、安心するじょ・・・お前たちはみぃが守るにゃ・・・!」

 

 

 

しかし、そのように体を震わせるミケの様子を見て取った孟獲はすぐにごしごしと涙を拭き取り、

 

平らな胸をドンと叩きながら気丈にふるまって見せた。

 

この辺りはさすが南蛮の王といったところか。

 

 

 

「大王しゃま」

「だいおー」

「だいおー様」

 

 

 

そのような孟獲の振る舞いに、三人も真似してゴシゴシと涙を拭き取った。

 

 

 

「そもそもしゅりは具合が悪かったのにゃ・・・にゃのにしばいのせいで・・・!」

 

 

 

蜀軍が魏軍と戦い始めたその時には、すでに諸葛亮は重い病を患っており、

 

死期を悟った諸葛亮は存命中に何としても北伐を成功させようと強行したのだが、

 

諸葛亮の寿命が迫っていると感付いた司馬懿は、持久戦を展開。

 

結果戦闘はだらだらと続き、すでに半年が経過しようとしていた。

 

 

 

「火を放てぇ!!」

 

 

 

しかし、すでに場所を特定されていたせいか、兵長の号令とともに油が投げ込まれ、次々と火がつけられていった。

 

 

 

「ひ・・・ひだにょー!!」

 

「だいおーこわいのにゃ!!」

 

「だいおー様、にげるにゃん」

 

 

 

さきほど火攻めにあったミケは言うまでもないが、そうでなくとも南蛮族は元々野性的な性分の持ち主なせいか、火が苦手である。

 

 

 

「お、お前たちそっちに逃げてはだめだじょ!」

 

 

 

ミケたちが慌てて無我夢中で逃げ出したので、孟獲が制止しようとするが、

 

 

 

「へへ、逃がすと思ってんのか!?」

 

 

 

一足遅く、茂みがら逃げ出したミケたちの目の前には、すでに先回りをしていた魏軍の兵士たちが待ち構えていた。

 

数はちょうど孟獲たちと同じ四人である。

 

 

 

「けっ、南蛮族なんて、隠れる森や草がなけりゃただのガキの集団だぜ!」

 

「にゃ、にゃんだとー!フシャーーー!!」

 

 

 

魏軍の兵士の、特段深い意味もなく考えなしに出てきた罵倒であったが、単純な思考の孟獲にとっては十分な挑発効果があり、

 

どこからともなく巨大な猫の手型のハンマー“虎王独鈷(コオウドッコ)”を取り出すと、体制を低くしながら威嚇の声を上げた。

 

 

 

「自分の領地から出て蜀なんかに協力するからこういう目に合うんだ!」

 

 

 

しかし、魏軍の兵士たちはそのような孟獲の姿を見てもお構いなしに好き放題罵倒し続けた。

 

 

 

「まぁ、せいぜいお前らを巻き込んだ自己中野郎の劉備や諸葛亮を恨むんだな!」

 

 

 

「にゃ、にゃんだかよくわからにゃいけど、今お前とーかやしゅりのことを悪く言ったじょ!!」

 

「うるせぇ!!」

 

「ふにゃっ!?」

 

「大王しゃま!」

「だいおー!」

「だいおー様!」

 

 

 

そして、魏軍の兵士の罵倒が劉備や諸葛亮にまでに及ぶと、その言葉の意味が分からなくとも本能で感じ取った孟獲は、

 

兵士に殴りかかろうと足に力を入れたが、しかしその時、兵士がわずかに早く孟獲を蹴飛ばした。

 

単純なパワーやスピードといった身体能力では孟獲の方が圧倒的に上なのだが、

 

体格差という数少ない利点を最大限有効利用した兵士は、孟獲の攻撃が兵士に届く前にその長い脚で蹴とばしたのである。

 

自分たちの王を蹴飛ばされ、ミケたちは慌てて孟獲の元に駆け寄る。

 

 

 

「けっ、たく躾のなってねぇ雌猫だなぁ!!大人しく降伏でもしてりゃ、俺様が愛玩動物として可愛がってやろうとも思ってたが、気が

 

変わった、お前らまとめて家畜として調教してやるぜ!!」

 

 

 

そして、反抗的な孟獲の事が気に喰わなかったのか、兵士は若干鼻息荒く危ない表情をしながらきわどい発言をした。

 

 

 

「そりゃ名案だ!最近戦に出ずっぱりで色々たまってたしな!」

 

「まぁ、おれはこんなガキじゃ立つもんも立たねぇけどな」

 

「けっ、ガキだからとか差別してんじゃねーよじゃぁお前は見てればいいだろーが!」

 

「―――と言っていた時期がおれにもあったって話をしたかったんだよ悪いか」

 

「おい、テメェらの趣味とかどーでもいーからさっさと捕まえるぞ!」

 

 

 

さらに他の兵士たちもその発言にのっかり、お互い少し掛け合いをしたのち、

 

最終的にはそのきわどい発言を現実のものにすることで意見が一致し、

 

実行に移すべくじりじりと両手をワキワキさせながら近づいていった。

 

 

 

「にゃぁぁぁ・・・にぃ・・・助けてにゃ・・・」

 

 

 

そのような狂気の雄と化した兵士たちの姿に恐怖を抱き、動きを封じられてしまった孟獲の頭をよぎったのは、

 

かつては一緒に乱世を渡り合い、今となっては姿かたちも見ること叶わなくなってしまった、白き衣に身を包み、

 

どこか神がかった、それでいて親しみやすい、大切な仲間にして愛すべき青年の姿であった。

 

そして・・・

 

 

 

 

 

 

どかーーーーーーーーーん!!!!!

 

 

 

 

 

 

「「「「ぎゃぁああああああああああああああ!!!!」」」」

 

 

 

孟獲たちが目をつぶったその刹那、東の空から一筋の流星が飛んできたかと思うと、

 

そのまま地面に向かって一直線落下し、見事に魏軍の兵士たちに直撃した。

 

 

 

 

 

 

「にゃ・・・にゃにがどーにゃってるのにゃ・・・」

 

「大王しゃま・・・おそらからおほししゃまがふってきたにょー」

 

「おほしさま!おほしさまなのにゃ!」

 

「おほし様なのにゃん」

 

 

 

空から飛来してきた流星に戸惑う孟獲たちは、土煙や火攻めによる煙が上がる中、

 

地面に横たわる四つの影と、立ち上がる一つの動く影を見た。

 

 

 

「―――っ痛・・・たく、毎度毎度よく生きてるよな・・・いったいどういう仕組―――ゲホッゲホッ・・・なんだこれ凄い土煙・・・

 

って燃えてるのかこれ!?」

 

 

 

その影からは若い男の声がしたかと思うと、よくわからない悪態をついていたが、やがて周囲が火攻めにあっていると気づくと、

 

慌てて煙の中からの脱出を図り、ちょうど孟獲たちの方向に駆けだした。

 

 

 

「にゃ・・・ましゃか・・・!」

 

 

 

しかし、孟獲たちに警戒の気配は一切ない。

 

それもそのはず、この声、そして匂い、忘れるはずもない、突然自分たちの前から消えた、兄と慕う大好きな人のもの。

 

 

 

「兄ーーー!!!」

「あにしゃま!!!」

「にぃにぃ!!!」

「にぃ様!!!」

 

 

 

気づいたときには、その影の正体が確認できる前から、孟獲たちは涙を流しながらその影に向かって飛び込んでいた。

 

 

 

「わわ!?って、美以か!?それにミケトラシャムも!!てことは今度は南蛮を救う感じ―――え?ちょっと待ってくれ!オレのことを

 

知ってるのか!?」

 

 

 

白い学生服に紺のズボン、そして茶色の髪のその青年は間違いなく天の御遣い・北郷一刀。

 

稀代の占師・管路が占ったという、乱世を救う英雄である。

 

彼は漢と書いて乙女と読むガチムチの漢女・貂蝉の能力によって、外史という名のパラレルワールドを渡り、

 

いくつもの世界で恋姫たちを救ってきており、今回も、その外史の一つと思われたのだが、

 

ここで北郷が困惑したように一つのイレギュラーが生じたのである。

 

つまり、別々の外史であるはずのこの世界において、自分のことを知っている人間などいるはずがないのにもかかわらず、

 

孟獲たちは自分のことを北郷と認識して抱き付いてきたのである。

 

 

 

「何を言っているのにゃ!みぃが兄のことを忘れるわけないのにゃ!」

 

 

 

北郷の戸惑いをよそに、孟獲はミケたちなどお構いなしに北郷の正面という絶好のポジションを確保し、

 

その胸に泣きはらした顔をぐりぐりと押し付けながら叫んだ。

 

 

 

(忘れることはない?ってことは、別の外史じゃないってことか?っていうか、今はいったいいつの時代だ?)

 

 

 

北郷は孟獲の言葉によって一つの可能性、つまり、ここは別の外史ではなく、

 

以前訪れたことのある外史なのでは、という仮説を立てるに至った。

 

そして、そのことによってさらに別の疑問が生まれた。

 

つまり、今が三国時代でのいつの時代になるのか、ということである。

 

例えば、呂布の元に舞い降りた外史では、下邳で呂布軍が敗ける寸前の時。

 

袁術の元に舞い降りた外史では、寿春を追われ、劉備軍に追いつかれた時。

 

といった具合に、外史によって舞い降りる時間軸が異なっているのである。

 

 

 

「どうして急にいなくなったのにゃ!兄がいなくなったせいで、またみんなと戦うことになったのにゃ!」

 

「え?それって―――?」

 

 

 

しかし、孟獲の口から発せられた更なる情報によって、

 

今がいつの時間軸なのかなどということが本当にどうでもいいと思えるほどの衝撃が北郷を襲った。

 

 

 

「どんどんみんな死んでいったのにゃ。あいしゃもりんりんも、とーかも、せいも、すいも、しおんも、ききょーも、ひなりも・・・」

 

「なっ・・・!?」

 

 

 

皆死んだだって!?絶句した北郷が心の中で叫んだのはその一言であった。

 

 

 

「それで、ついさっきしゅりも死んじゃったのにゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

 

孟獲の決定的な言葉をきっかけに、再びミケトラシャムもつられて大声で泣き出し始めた。

 

 

 

(おいおい、ちょっと待てよ。そんな・・・そんなことって・・・でも、もしオレがいなくなったことで、歴史が元通りに動き出したと

 

したら・・・!三国同盟なんてなかったことになるってのか・・・!)

 

 

 

つきつけられた最悪の現実に、北郷はめまいを覚えると共に事態をなんとか飲み込もうと頭の中で受け止めにかかる。

 

 

 

(けど、もしそうだとすると、桃香たちがみんな死んでいて、今朱里が死んだということは、まさかここは・・・!)

 

 

 

そして、必死に自身の三国志の知識をめくり、今の状況からここがどこでいつの時代なのかの分析にかかり、

 

そこで一つの答えが導き出された。

 

 

 

「美以、ここはどこだ?」

 

「にゃー、たしかごじょーげんってところだじょ」

 

 

 

そして、孟獲の答えを聞くことで北郷の予想は確信へと変わる。

 

 

 

「五丈原、やっぱりそうか・・・それじゃ、今は蜀の五回目の北伐の時期・・・三国時代末期一歩手前じゃないか・・・!」

 

 

 

実際、西暦184年に勃発した黄巾の乱を三国時代の幕開けととらえれば、以後約100年続く三国時代の中で、

 

諸葛亮率いる蜀軍が司馬懿率いる魏軍と五丈原にて対峙した第五次北伐が起きたのが西暦234年。

 

三国時代の中期にあたるのだが、小説の三国演義などのではどうしても諸葛亮の死までが盛り上がりの絶頂となってしまうため、

 

北郷が考えたように五丈原あたりの話を末期と勘違いしてしまうことがあるのだが、

 

実際、三国最後の生き残りとなる呉が滅亡する西暦280年まで三国時代は続くのである。

 

 

 

「ごめん、美以・・・ごめん、みんな・・・!急にいなくなっちゃって・・・せっかく掴みかけた太平の世を取りこぼしちゃって・・・!」

 

「兄・・・」

「あにしゃま・・・」

「にぃにぃ・・・」

「にぃ様・・・」

 

 

 

そして、それらの状況を把握した北郷は、自然と孟獲たちを抱きしめ返し、謝罪の言葉を述べた。

 

もちろん、北郷がこの外史の世界からいなくなってしまったことは、北郷自身どうすることもできないことであり、

 

北郷が謝罪するべきところではないのだが、それでも、北郷は謝罪せずにはいられなかった。

 

少なくとも、目の前の少女たちは、北郷が消えたせいで仲間たちが殺されるという運命をたどる結果となっているのである。

 

 

 

「にゃーにゃー!にゃーにゃにゃ、にゃっにゃにゃにゃにゃっにゃにゃ!」

 

「パオォォォォォォォン!!!」

 

 

 

すると、そのように北郷が孟獲たちに謝り、孟獲たちも涙を流しながら抱き付いていると、

 

トラと瓜二つの南蛮族が象に跨り何かしらを伝えにやって来た。

 

 

 

「うぉ!?象でけぇ!トラの猛獣部隊か!トラ、この子なんて言ってるんだ?」

 

「『たいちょー!よーぎが、てったいしろってにゃ!』ていってるにゃ!」

 

 

 

動物園などで見る象など目ではないほどの巨大な象を目の当たりにして北郷がビビりながら、

 

言葉の話せない南蛮族の通訳を直属の上司であるトラに求め、

 

北郷の右腕辺りに抱き付いていたトラは、未だ涙顔のまま南蛮兵の言葉をそのまま伝えた。

 

 

 

「(よーぎ・・・楊儀か・・・ってことは・・・まずいな・・・)」

 

 

 

北郷はトラの翻訳から一人の人物に思い立ったようだが、しかしその時、北郷の表情に焦りが見られた。

 

 

 

「よし、みぃたちも仲間たちと合流しながら撤退するにゃ!みぃと兄、ミケ、シャムはその象に乗せてもらうにゃ!トラは虎に乗るにゃ!」

 

「おーにょー!」

「おーにゃん」

「おーにゃ!」

「グルゥゥゥゥゥ」

 

 

 

しかし、そのような北郷の様子には気づかず、孟獲はさっそく伝令に従い撤退の命をくだし、

 

すでに泣き顔から回復しているミケトラシャムが元気よく返事し、

 

北郷降臨の衝撃で意識を取り戻した虎も鳴き声で自身の健在ぶりをアピールした。

 

 

 

「みんな、撤退はいいけど、その前に向かってほしいところがあるんだ」

 

「にゃ?」

 

 

 

そして、撤退を開始しようと象に跨ろうとしたその時、北郷が真剣な声色で告げた。

 

当然その真意をくみ取れない孟獲たちは頭に⁇を浮かべる。

 

 

 

(焔耶、早まるなよ・・・ここで蒲公英のここにいるぞーは洒落にならないんだからな・・・!)

 

 

 

北郷の焦りの正体、それはつまり、この後史実通り事が進むなら必ず起きるであろうこと。

 

魏延の裏切りによる撤退妨害、そして馬岱による粛清。

 

 

 

(これ以上みんなを死なせてなるもんか・・・!)

 

 

 

北郷の残りわずかとなってしまった仲間たちを救う戦いが、今始まった。

 

 

 

 

 

 

【司隷、扶風郡、五丈原・蜀軍本陣】

 

 

「どけ楊儀!なぜ撤退などしなけれればいけないんだ!ここで踏ん張れば魏を押し返し長安までたどり着ける!このまま北伐を続行する

 

べきだ!」

 

 

 

孟獲たちの目の前に流星が降ってきたときより少し前の頃、蜀軍の幕下では、とある女性の怒声がこだましていた。

 

白のブラウスはこぼれんばかりの胸をきつそうに包み込み、黒のショートパンツ、

 

襟のたった黒の外套を羽織り、両手には緋色の小手をはめている。

 

男らしい端整な顔立ちに短めの髪に白のメッシュの入ったその女性の名前は魏延。

 

蜀軍を支える猛将である。

 

魏延は握り拳をミシリときしませながら怒りを爆発させていた。

 

現在、蜀軍は諸葛亮を中心に魏領に侵攻。

 

長安を目指して北伐を行い、ここ五丈原で魏軍と対峙していたが、蜀軍を率いていた諸葛亮が病死。

 

諸葛亮の遺言に従い撤退を開始しようとした蜀軍であったが、

 

そこで魏延がこのまま押し切れば魏軍を退けられると、北伐の続行を主張したのであった。

 

 

 

「ダメダメダメー!朱里ちゃんが撤退って言ったんだ!焔耶ちゃんがなんと言おうとも私には全軍を撤退させる義務がある!」

 

 

 

対して、両サイドに少しだけくくった短めの栗色の髪をピョコピョコさせ、

 

両腰に手を当て薄い胸を張りながら反論している小柄な少女は、

 

白のセーラー服のようなものに、エメラルドと白を基調にしたミニスカートをはいている。

 

あどけなさの残った顔立ちのその少女の名前は楊儀。

 

蜀軍の文官の中でも随一の才能を持った、丞相府幕僚筆頭であり、諸葛亮が遺言を託した三人のうちの一人である。

 

 

 

「黙れ!朱里がそのようなことを言った証拠でもあるのか!?少なくともワタシは朱里の口からそのようなことは聞いた覚えはないぞ!

 

それに、朱里が死んだ途端急に仕切りだして腹正しい!貴様の命令など聞く必要はない!ワタシは貴様の配下ではないからな!」

 

 

 

しかし、魏延がこのように主張するのも無理はなく、魏延は諸葛亮の遺言は聞いておらず、

 

また、楊儀が急に仕切りだしたのも諸葛亮に軍を託されたのだから当然なのである。

 

 

 

「・・・はぁ、あのさぁ、ぐちぐち言ってないでアンタは言われた通り魏軍の追撃を防いでたらいいじゃん。何でそんな自分勝手なこと

 

言ってるの?アンタの我が儘が空気を乱してるってわからないの?やっぱり脳筋だから馬鹿なの?」

 

 

 

そのように魏延が怒りをあらわにする中、つまらなさそうに冷視しながら挑発したのは、

 

橙色を基調にした服に白のショートパンツ、茶色の髪ポニーテイルに結った小柄な少女。

 

凛々しい太眉が特徴的なその少女の名前は馬岱。

 

魏延同様、蜀軍を支える猛将である。

 

馬岱は魏延同様諸葛亮の遺言を聞いていないはずなのだが、

 

魏延とは違い諸葛亮の考えをくみ、楊儀の命に従っていた。

 

 

 

「なんだと!?」

 

「何なの?やろーっての?」

 

 

 

馬岱の挑発にのった魏延は馬岱の胸ぐらを掴み掛り、そのことによりスイッチが入ったのか、

 

馬岱も眉間にしわを寄せながら対抗する意思を見せた。

 

 

 

「焔耶さんも蒲公英さんもケンカよくないかも!」

 

 

 

そのように今にも殴り合いでもはじめそうな勢いの魏延と馬岱の間に入り、慣れた手際で引き離したのは、

 

紺色のボブヘアのつむじから立派なアホ毛が直立し、薄水色を基調にしたアオザイに身を包んだ少女である。

 

気弱そうな表情とは裏腹に二人の主力武将を強引に引きはがすその少女の名前は費禕(ヒイ)

 

諸葛亮に匹敵する才を有する蜀の政治の中心人物であり、諸葛亮の遺言を託されたうちの一人である。

 

 

 

「は、はわはわ、落ち着いてください焔耶さん。楊儀さんが言っていることは本当です。私も朱里さんから直接聞きましたし、費禕さん

 

も聞いています。それに、呉の孫権も合肥の満寵(マンチョウ)を攻略できず撤退したという報告が先ほどありました。なのでこれ以上は二正面作戦を

 

続けることはできません。ですので、ちゃんと魏軍を倒すならここは一度撤退するべきです。そして、最前線の南蛮族含め、我が軍が皆

 

撤退するには焔耶さんの力が必要なんです」

 

 

 

さらに、はわはわと諸葛亮のような口癖を噛みながら魏延を説得にかかったのは、

 

黄緑色を基調にした服に小柄な体型とは相反する豊満な胸、足元まで伸びる白のロングスカート、

 

深緑の外套を羽織り、腰辺りまで伸びる薄いブロンドの髪の上からモコモコのロシア帽をかぶり、

 

首にはしっかりとマフラーを巻いている女性である。

 

この場で最も背丈の小さい、防寒対策万全な格好をした彼女の名前は姜維(キョウイ)

 

元魏の将であり、第一次北伐の際にその才能を諸葛亮に見いだされ蜀に招き入れられた、

 

かつては天水の麒麟児と謳われた、蜀の中枢を担う文武両道の人物である。

 

姜維が言うように、今回の北伐は、呉が合肥を、蜀が長安をそれぞれ同時に攻めるという二正面作戦だからこそのものであり、

 

呉が撤退したとなるとこれ以上戦闘を続けるのは意味がないのである。

 

 

 

「・・・チッ」

 

 

 

それら一連の仲間たちの説得を聞き、怒りの向けどころを失った魏延は、

 

やりきれなく一度舌打ちすると、ズカズカと幕下から出ていってしまった。

 

 

 

「朱里・・・・・・桔梗様・・・・・・桃香様・・・・・・お館・・・・・・ワタシは、どうすれば・・・・・・」

 

 

 

大股で目的地もなく歩きながらやり場のない怒りに悶々とし、自身の進むべき道に迷う魏延の頭の中では、

 

もはや会うこと叶わぬ人物たちが次々よぎっていくのであった。

 

 

 

【真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side蜀軍-南蛮族-)~ 第零回 プロローグ 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

side蜀軍-南蛮族-第零回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、始まりが五丈原とかなり特殊な部類なんじゃないかなとも思うわけですが、

 

初め南蛮族をヒロインに据えたいと思った時に(この時点でなぜと思うべきなのですが)、

 

南蛮サクセスもいいけど、それじゃありきたりだし、蜀の南中侵攻あたりが一番現実的だったのですが、

 

成都から南中への侵攻はside呂布軍でいつか通る道だろうなと思いボツ。

 

結果あーでもないこーでもないと考えた末五丈原、なぜこうなったのか 笑

 

実際この外史で生き残っている正規の恋姫は美以、ミケ、トラ、シャム、焔耶、蒲公英、蓮華、穏、季衣(?)くらいでして、

 

ある意味一刀君の餌食になる娘の範囲が狭まっていいかなぁと思い、

 

また思いのほか筆が進んだのでそのままゴーとなりました。

 

 

ちなみに五丈原スタートなので今回は短編での構成を考えています。たぶん1章か、もしかしたら2章くらいです。

 

あと投稿ペースなのですが、side呂布軍との並行投稿になりますので、一か月くらいかなと思っております。

 

まぁ全体量も少ないので呂布軍ほどだらだらはしないと思いますので、

 

呂布軍ともども、今後ともよろしくお願いします。

 

 

それでは、例によってオリキャラの恋姫、楊儀(ヨウギ)、費禕(ヒイ)、姜維(キョウイ)の紹介は、

 

ネタバレ防止のため本章の終わりにまとめてしますのでしばしお待ちを!

 

 

では、また次回お会いしましょう!

 

 

 

次回、魏延の裏切りを止めようとする北郷たちの前に郭淮の魔の手が、、、!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北郷「猫耳ロリっ子がいっぱいだとぉおおおおお!!??」

 

 

 

春の陽気に誘われて頭がパーになったのか、北郷は意味不明な言葉を叫びながら布団の中から跳び起きた。

 

 

 

北郷「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ゅ、夢か・・・」

 

 

 

ここは成都城内にある北郷の寝室。

 

日もだいぶ登っており、本日が非番でなかったら間違いなく寝過している時刻である。

 

というのも、昨日は陳宮や鳳統たちと夜遅くまで南蛮族対策について議論を交わしていたので無理はない。

 

もちろん、陳宮や鳳統は本日非番ではないので、普通に起床して既に仕事についているのだが。

 

 

 

北郷「・・・ったく、またかよ・・・2年連続とか・・・またあとがきまであるし・・・普通忘れたころにするだろ・・・暇人なのか・・・?」

 

 

 

しかし、非番である北郷は堂々寝坊できるわけで、首をゴキゴキならしながら未だ布団の上で訳の分からない悪態をついている。

 

 

 

北郷「油断したぜ・・・今日はエイプリルフールか・・・くそぉ・・・こうなったらやけだ、今年は華佗に口裏でも合わせてもらって、

 

ねねにできちゃった的な展開にでも持ち込むか!」

 

 

 

さらに、北郷は自ら無意識のうちに他人をも巻き込み死亡フラグを立ち上げる決意をする。

 

 

 

北郷「・・・・・・そういえば、グラマラスなアマゾネスじゃなくてロリっ子だったな・・・南蛮族・・・」

 

 

 

そして、最終的に行き着いたのが、自らの性癖に対する不安という、残念な益州牧兼成都領主の天の御遣いなのであった。

 

 

 

【真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 特別編 えいぷりるふ~る2 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

はい、というわけでここからが本当のあとがきでございます。

 

所謂エイプリルフール企画。正直昨年もやっていたのでお気づきの方多かったかと思いますがいかがだったでしょうか?

 

本当は去年やってるし今年はパスでと思ってたのですが、

 

こういう気分転換も必要かなと思ったのと急に新作書きたくなったのが合わさり、

 

急遽この前の土曜から突貫で製作、そして投稿と相成りました(なので色々粗とか多いかもです・・・汗)

 

けど南蛮がヒロインなのもいつかはちゃんと書いてみたいとは思いますけどね!(ネコミミロリっ子とか素敵じゃないですか!)

 

 

それでは、次回は通常通りside呂布軍をお届けです。

 

一応一週飛んで4月12日0時投稿を予定していますので本年度もどうぞよろしくお願いします!

 

 

では、また次回お会いしましょう!

 

 

 

孟獲はグラマラスなアマゾネスだと思っていただけに初見の衝撃は貂蝉卑弥呼董卓に次ぐものでした。

 


 
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