No.766784

艦これ 天空の蒼刃

凱刀さん

艦娘と共に提督である主人公がパイロットとして戦う物語です

2015-03-25 08:25:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4775   閲覧ユーザー数:4721

序章

 

 まだ朝日が顔出す前の薄暗い空、一日が始まりを告げるのは早いだろう。

 基地飛行所では飛行服を着た少年や青年たちが整列していた。

 彼らの瞳は決して穏やかなものではなく、覚悟と決意が配合された瞳。

 マフラーを巻いているのは上空と地上とでは温度差があり、上空は寒いからでありマフラーを巻いている。

「我ら大日本帝国は今劣勢な状況に立たされている。アメリカは汚く待ち伏せや奇襲攻撃を行い真っ向勝負してこない」。

 若者たちの前に立っていた中年の上官が怒気を全目に出し敵国であるアメリカを罵声している。

「海軍はそんな卑怯な手で次々と打ち崩されてきた。何たる屈辱たる負けが続いたか」。

 拳を強く握り怒りを露わにしている。

(いや、それは違う。戦いに卑怯も何も無い。その策略に引っかかったほうが負けなのだ)

 一人の青年が上官の言葉を否定し心の中で呟いた。

 彼の名は有村大助。年齢は二十二歳。

 大助は数々の戦いを経験した優秀なパイロットであり、その腕前は他のパイロットたちより群を抜いている。

 優秀なだけに多くの敗北も経験し仲間や部下を失った。

 彼はミッドウェー海戦で上官にたて突き殴られたこともあった。

 また、ガタルカナルの戦いではラバウルからガタルカナルに向う作戦でも、「無謀です。片道だけで燃料は底をつき、たとえ戦えたとしても数十分ほどです。ここは待機して次の戦いに備えるべき方が最善です」

 このような反対意見を具申すれば弱虫、臆病者、もっと酷ければ反逆者と罵られ殴られる。

 彼は何度殴られても上官の命令に反対した。

(もう、日本は負けだ。この作戦も無駄死にほかに何も無い)

「この攻撃で諸君の大和魂をアメリカに見せつけてやれ!」

「はい!」

 上官の言葉に若者たちは返事し両手で小さな盃を出した。

「では、盃に今から御神水を注ぐ」

 一升瓶を持った兵士が御神水を注いでいく。

 この儀式は別れの盃といい二度と生きては帰って来れないことを意味する。

 彼らは特別攻撃部隊またの名を特攻隊という。

 特攻は一死一撃で敵艦に体当たりし自分の命を引き換えに敵艦を屠る。

 無謀な作戦かつ大きな戦果を上げられない作戦。

(これで俺も終わりだ。早く戦争が終わって平和になってほしい)

 注がれた水に薄っすらと小さく映る自分の顔を見つめる大助。

(もっと俺が敵を撃ち落せたら、もっと粘り強く上官に反対していたら)

 自分一人の力で変えられることは出来ないと分かっていても、自分の後悔と自責の念に駆られる大助はこの特攻に志願したのだ。

「大日本国帝国に栄光あれ!」

 この言葉と共に若者たちは御神水を一気に飲み干し盃を叩き割った。

「出撃を始めよ!」

 駆け足を始めそれぞれの機体の許へ走っていく、大助も自分が乗る機体の許へ走る。

(狙うは敵空母だ。それを撃沈させれば救われる命はある)

 大助の目標は敵空母。空母が今後の戦いで本土襲撃をすれば多くの命が奪われる。

 制空権が無い領土ほど格好な的になりやすい。

 大助の機体は零戦の五二型。他には二一型の零戦も特攻機として乗るパイロットもいる。

「アメリカに眼に物見せてやってください!」

 整備士の少年が大助を激励した。

「ああ。君は生きてくれ」

「えっ? あっ、はい」

 その言葉に戸惑った少年は窓を閉めた大助を見つめていた。

(ふぅー、いくぞ!)

 大きく深呼吸し気持ちを落ち着かせ操縦桿を握り発進準備にかかる。

 次々と飛び立つ零戦はもう二度と眼にすることはない。

 それでも見送る者たちは帽子を高々と上げ回して見送る。

(零五二型、有村大助出る!)

 大きく回転し始めたプロペラに機体も前進し離陸準備に入る。

 徐々に加速し大助も大空へ飛び立つ。

 特攻隊を見送るように空から太陽が顔を出し始めていた。

 

 重音のエンジンが鳴り響き飛行している数十機の零戦。

 胴体の下には爆弾を積んである。

 これで突撃されたら敵艦も撃沈する。

(多くの敵機を撃ち落して空の清正とか言われたけど、仲間も助けられず多くの仲間や部下を殺してしまった俺にはそんな異名は相応しくない)

 清正とは戦国武将の加藤清正のこと。

 数々の思い出が甦り頭の中を駆け巡る。

 その中で一つの思い出が彼の頭の中で止まった。

「岩本隊長は特攻に志願していないでほしい。あの人ほど優れた人はいない」

 大助の上官の一人で共に空で戦った岩本徹三。

 撃墜王といわれ彼がいればアメリカのパイロットも恐れるほど。

彼は日本最強のパイロットである。

その岩本の下にいた大助は多くを学び彼の技術も吸収して言った。

「大助。お前は優秀なパイロットだ。俺が見てきた部下の中でも一番である。お前なら俺と同じように多くの敵機を撃ち落せる。まずは敵を見つけることが大切だ。そのコツを教える。敵を見つけるときは見るのではない。感じるのだ」。

 岩本との時間が大助にとって幸せな時間だった。

「見るのではなく感じるんだ!」

その岩本の言葉を呟いて眼を閉じる大助。

未だ上空では零戦のパイロットたちが獲物を見つける野獣の如く敵を捜している。

 五感を研ぎ澄まし大助は敵艦の居場所を感じ取っていた。

(いる! あの下に空母がいる!)

 敵の気配を感じ取った大助は機体を左に傾け急降下した。

 雲の中を潜り抜け見えたのは海上を進んでいる空母。

 残念なことに正規空母ではなく、正規空母の半分の大きさで船団を護衛する護衛空母だった。

 その護衛空母はカサブランカ級航空母艦九番艦『セント・ロー』。

「正規空母のサラトガとかではないか」

 アメリカの正規空母ではないことに悔しがるが突撃態勢に入る。

 大助はサラトガにはミッドウェーとラバウルで二度も辛酸をなめらられ、サラトガを轟沈させたいと思っていた。

 セント・ローも零戦の存在に気づき対空砲を撃ち始めた。

 もう、アメリカの対空砲の射程は開戦当初よりも飛躍的に上がっているため、なかなか突撃が成功しないようになっていた。

 弾丸に直撃しなくとも近接信菅というものが弾頭に組み込まれている砲弾のため、それが爆発し被害を受け沈んでしまう機体も多くある。

 海面スレスレで接近しレーダーに引っかからないようにすれば近づけるが、このような技を出来るのは熟練のパイロットしか出来ない。

 大助はそれが出来るほどの腕前を持っている。

(もういい。お前たちは逃げろ!)

 上空や海面からの突撃を敢行しようと試みる零戦は次々と撃ち落され、炎に包まれながら黒煙を出し、そのまま海に落ちていった。

 非常に呆気ない最期であり無念であったが若者たちは口々に叫んだ。自分の大切な人の名を。

 決して届くわけがないと知りつつも、その名を叫ぶことでその人が幸せになってほしいと。

 それが自分にとって最高で最期の願いであったのかもしれない。

(俺が必ずあれを沈める!)

 海面スレスレを全速する大助の零戦。

 砲弾は止むことなく放たれるも零戦には当たらない。

(当たるか、眼にもの見せてやるぜアメリカよ!)

 大助の眼は鋭くなりまるで獲物を狙う鷹のようになっていた。

 

 

 アメリカのセントロー乗組員たちは大助の零戦に驚いていた。

「おい! 何で当たらない! 早く撃ち落せよ! この役立たず共が!」

 口汚い言葉を放つ上官が対空砲を操縦している部下に浴びせた。

「当たらないです。手前で爆発してるように思えます」

「何だよ! あのゼロはただ者ではない奴が操縦してます」

「いいから! ぶっぱなせバカが! そうすれば当たる!」

 激しく耳に残響が残る砲弾が放たれる音と、その後から来る薬きょうが落ちる鉄音が鳴り響く。

 百以上の対空砲を撃ちつづけているものの大助の零戦には当たらない。

 レーダーが光の反射等で誤作動を起こし手前で爆発しているため当たらないのだ。

「墜ちろ! 墜ちろ! 墜ちろよ!」

 機銃を放つ兵士に焦りが募ってきた。このままでは突撃され自分たちの命が危うくなると。

「おいおいおい! どんどん近づいてるぞ! 早く墜とせよ! クソ野郎共が!」

 上官も焦りからか声を荒げ部下に罵詈雑言を浴びせる。

「ダメです! 当たりません。 どうしましょう隊長?」

「どうしましょうじゃねぇよ! バカが。その足りない脳みそで考えるひまあるんなら撃ち続けろ!」

「敵機との距離五百メートルです!」

「やばい。やばい。このままだとオレたちも死ぬぞ! 何をしている! 撃ち落せよ!」

 こくこくと零戦は全速で近づいてきている。

「俺はまだ死にたくないねぇんだよ! お前たちもそうだろ。 なら、死に物狂いであれを撃ち墜せよ!」

 アメリカは日本に勝っている。それなのに特攻の餌食となって死ぬのは恥になる。

 日本にとって充分な戦果で栄光ではある。

「敵機がもう来ます!」

「このままだと俺たち確実に死ぬぞ!」

 誰にも大助を止めることは出来ない。彼はもう零と一体となっていた。

 

 

 アメリカが慌てふためく中で大助はもう敵空母に近づけさせていた。

 大きく左旋回し操縦桿を巧みに操る。

(ここだ!)

 何かを定めたのか一気に急上昇した。

 その後、減速させず真っ直ぐ急降下した。

(日本よ。もうこれで特攻という無謀で馬鹿げた作戦を辞めて降伏してくれ、そして、ずっと平和な国日本であり続けてくれ!)

 操縦桿を両手で握り自分の思いを空に訴えた。

 仲間や部下の所にいける喜びから眼を閉じて涙を流した。

 零戦が空母に激突する数十メートル、眼を開けていられないほどの眩い閃光が零戦を包んだ。

 大助と零戦は忽然と消えた。

 それは何だったのかは誰にも知る由は無かった。

 

 

「うわぁぁぁぁぁー!」

 大助は眼を覚ました。

「夢か……。これで何回目だよ」

 夢を見ていた大助だったがそれは過去に起こった出来事であり、たしかにそれがあった。

「そうだった。昨日遅くまで仕事してたんだったな」

 机に散らばっている書類で昨日の出来事を思い出した。

 ここは大助の部屋で提督室である。

 彼はこの鎮守府の提督。

 そう、激突した瞬間、彼は正史の世界からこの外史の世界に飛んでしまったのである。

 提督になったのは後々話していきましょう。

「もう朝か。ふぁぁぁ~」

 大きく両手を挙げ欠伸をした。

「んっ?」

 駆けに近い足音が耳に入ってくる。

「なんだ?」

 


 
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